ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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試験開始

 神室とのちょっとした雑談を終え、舞台は無人島へと移る。

 仰々しい言い方をしてみたが、俺が口を出すほどの案件は起きないので身の回りで起きたことを話すことぐらいしかできない。

 無人島試験で最初に発生するのがトイレ問題。

 

 しっかりとしたトイレが欲しい篠原たちと、一ポイントも使いたくない幸村たちの喧嘩だ。

 お互いに譲れない部分ということもあり、太陽の下でヒートアップするもんだから余計に暑さを感じる。

 この二人のやり取りを見ているとき、仲裁にでも入ろうかなと一瞬思ったが別にこの問題は最終的には解決するわけだしノータッチで行くことにした。女子から評価を稼ぐなら介入も視野に入れてもよかったが、稼げたとしても篠原とほんの少しの女子の好感度だ。

 軽井沢などの女子を動かせるほど影響力のある人間からの評価が得られるわけではないという点から、申し訳ないが見送らせてもらった。

 それに、あそこに俺が介入したところでさらにヒートアップするだけだろうしね。余計なことはするもんじゃない。

 

 なのでその後の流れは原作に任せる形になった。

 リーダーの平田の指示に従ってせっせと働く下っ端の一人だ。

 

 無人島試験では俺は原作知識があるというだけで、それ以外の有用な能力がない。

 運動能力が高いわけでもないし、池のようにキャンプ経験があるわけじゃないのでサバイバルにおいて無類の強さを誇れない。一応、テレビを見てかじった程度の知識こそあれど、一週間この島で暮らすに足る知識は持っていない。

 池のサブぐらいの立ち位置でうまいことやっていこう。

 

 その後、トイレ問題が解決し、ベースキャンプにするのによさそうな川辺に移るDクラス。

 テントの設営を手伝い、そのテントが女子によって占領されていく様子を眺めた。俺は虫が無理なたちなので、普通に野宿は困る。

 人を死に至らしめるほどの猛毒を持った存在はいないだろうけど、だからといって虫が体を這うことを許すつもりはない。Cクラスに行って虫よけスプレーでも奪ってくるか迷うレベル。男子用のテントはもらえたはずだから、おそらく大丈夫だとおもうけど。

 

 すると、困り顔という表現が似合わない顔をした綾小路が俺のそばにやってくる。

 

「斑鳩、焚き火用の枝を拾いに行くんだが、ついてきてくれないか?」

 

 そういえば、こんな感じの仕事を任されてたな。

 伊吹が見つかるのがこのイベントだっけ。

 あまりCクラスの人間とかかわる気はないが、暇だしついていくか。綾小路との交友関係を深められるこの辺りで終わりだし。

 

「かまわないよ。だけど、もう少し人が欲しいな。誰かよさそうなヤツいるか?」

 

「そうだな……」

 

 綾小路が視線を右へ左へと動かすが、その視線が誰かのところで止まることはない。

 最終的に、俺へと帰ってきて首を振る。

 圧倒的な強さを感じさせる綾小路でも、友達という問題に置いては弱いな。体育祭の時も借りもの競争のお題で困っていた記憶がある。

 

「あ、あの!私もついていっていいかな?」

 

 すると、そんな俺たちを見かねたのか一人の少女が話しかけてきた。

 

「えっと……佐倉さんだっけ?」

 

「は、はい!」

 

 もちろん誰かわかっているが、話したことはないので初めまして感を出しておく。

 彼女について知っていることは多いし、一方的に多くの情報を知っているがそれがばれては怪しまれる。

 第二のストーカー認定されかねない。

 

「手伝ってくれるのならうれしいけど」

 

 視線を佐倉から綾小路へと移し、どうする?と、視線で彼に問いかける。

 

「オレもありがたいが。いいのか?休んでていいんだぞ」

 

「私なら大丈夫、それにここにいても、あんまり居心地が……」

 

 そう言って、ちらっと軽井沢たちの方を見た。

 佐倉みたいなタイプの性格だと、彼女たちは一緒にいるだけで気を使わないといけないだろうし、大変か。もし、気分を害そうものならいじめられるかもしれないしな。

 軽井沢の過去を考えるとそういうことしないと思いたいが、自分の立場を守るためならやるかもしれない。積極的にこそやりたがらないだろうけど、必要ならば彼女もするだろう。

 ただでさえ狭いこの世界で生き残るには、それぐらいの覚悟がいる。

 

「それじゃあ、行くか。これだけいれば大丈夫だろ」

 

 と、森へと向かおうとしたその時。

 前方から一人の男子が走ってきた。

 

「なあ!俺もついていくよ!」

 

 もちろん、原作で枝拾いをしていた一人。山内春樹だ。

 

「え……いいのか?」

 

 一度断ったのになぜ来たのか、不思議そうに綾小路が聞く。

 まあ、綾小路視点では断られた相手が自分から協力を申し出てくるなんて、さっきの出来事を忘れたのかと思う珍行動だ。

 

「困ってる友達は助けるもんだぜ。な、佐倉」

 

「えっ、あっ……はい」

 

 突然話を振られた佐倉が困惑しながら、返事をする。

 最低限の、端的な返答を。

 話を振られてすぐに綾小路の背中に隠れたところを見るに、まったく心を開いてはいなさそうだ。

 

 

 

 

 

 

 森に入った俺たちは、焚き火に使えそうな枝を集める。

 確か細くて乾燥した枝が良いとかだったはずなので、綾小路たちから少し離れたところで手際よく枝を集めていく。もう1回集めに行くのは面倒だしな。

 この1回で必要な分を集めきってしまおう。

 

 綾小路と山内は何か話しているようで、そんな二人から距離をとって佐倉も枝を集めている。 

 組み合わせ的に俺と佐倉が話せそうだが、彼女がそれを拒絶するだろうから会話はできそうにない。

 佐倉愛里と交流を持つには未来で綾小路グループに所属するか、彼女からの信用を得られるような手助けをする必要がある。何度か会話をする程度で心を開いてくれるタイプじゃないので、俺としてはきびしい。

 

 仲よくする気があるわけじゃないから、別に構わないけど。

 どうせ途中で消える存在。関わりを持っておくべき程の重要人物でもない。

 

 枝も集め終わり、ベースキャンプへと帰る途中。

 一人の少女が森の中でぽつんと座っていた。

 もちろん、そこにいたのはCクラスのスパイ。伊吹である。

 

「なんだよ」

 

 そんな彼女に近づこうとした山内を、綾小路が止めた。

 見ただけで違和感を覚えたのだろう。

 しかし、綾小路はすぐに手を放し山内を行かす。

 

「いいのか?」

 

「別に問題ないだろう」

 

 実際、問題しかなかったわけだが原作通りだしいいか。

 それに最終的に勝つのはDクラスだから綾小路の行動に文句もない。

 

「どうしたんだそれ。大丈夫か?」

 

 山内が優しく声をかける。

 そんな山内の親切心(と言っておこう)に対して返ってきたのは鋭い視線。

 

「関係ない。ほっといて」

 

「いや、でも、大丈夫には見えないよ。先生呼ぼうか?」

 

「クラスでちょっと揉めただけ。それだけだから」

 

 龍園にぶん殴られたんだったっけ。

 いやだなぁ、あいつに殴られるとか。演技のためとはいえ、結構ガチで殴ってきそうな性格してるし。

 この方がよりリアルになったんじゃねえか、伊吹。みたいなこと言ってそう。

 

 と、彼への偏見を思い浮かべていると山内が伊吹の近くで座る。

 伊吹が動き出すまでここに居座ることを決めたようだ。

 日が暮れるまでまだあるし、焚き火もすぐにつく。別に少しぐらいならここにいても問題ないだろう。

 俺はそう判断して、綾小路たちと一緒にここに残ることにした。

 

「はあ、分かったよ。ほんとバカ」

 

 それから10分ほどして、ため息を吐きながら伊吹が立ち上がった。

 やっと折れてくれたようだ。 

 山内の下心の勝利である。

 

「よし!それじゃあ、行こうか。俺は山内春樹。よろしくな!」

 

「私は……伊吹」

 

 山内の自己紹介を受け、一瞬たりともこちらを見ずに自己紹介をする伊吹。

 愛嬌の欠片もない。

 そしてすぐに黙り、頬の腫れている部分を少しなでる。しゃべると痛むのだろうか。

 

 その後、山内が何度か伊吹に話を振るが乱雑な返答が返ってくるだけで、すぐに彼女は黙ってしまった。

 彼女の話したくないという雰囲気を察した山内も会話をやめ、そそくさと歩き出す。

 こうしてDクラスは無事、Cクラスのスパイを抱えることとなった。

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