ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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思い出

 伊吹も無事合流し、俺たちの無人島生活はそれなりに軌道に乗り始めた。

 高円寺のリタイアでポイントは大きく減ったが、そこからの生活は思いのほか順調だった。おかげでCクラスには劣るが快適な生活ができている。

 クラスの内の対立も少なく、もしかしたらうまくこの試験を乗り越えられるんじゃないか。そんな甘い考えが皆に浮かび始めたぐらい。

 

 無人島試験五日目の早朝。

 もう終わりが見え、Dクラスの人間により一層の結束力と見えないほどにかすかにあるほころびが露呈し始める日だ。

 

 眠りから一足先に目覚めた俺は、テントから出て川で顔を洗っていた。

 きれいで、そして冷たい水がまだ少し夢にとらわれている俺の意識を現実へと引き戻す。

 川の近くをベースキャンプにしたのは大正解だったな。朝の目覚めがいい。

 

 快適な気分になった俺は、寝心地の悪いテントによって痛んだ体を伸ばしながらテントの方へと戻る。

 そして、見えてきたベースキャンプはなにやらがやがやと騒がしい。

 

 女子が集まって、平田に何かを話している。

 後ろには大勢の男子がおり、みな眠そうな顔をしている。

 どうやら、伊吹が自分の仕事をしたようだ。

 

 あくまで事情を知らない立場である俺は、何があったんだろうみたいな顔をしながらその騒動へと近づいていく。

 かなり荒れているな。女子が今までに見たことないような顔をしながら、男子の集団をにらんでいる。陰口も弾んでいるようだ。

 こちらに一部聞こえてくるほどの盛り上がりを見せている。

 

 一応誰かに聞いて、状況を知っている人間になりたいなと思い周囲を見渡すを、ちょど良いところに孤立した佐倉がいた。

 彼女なら少しぐらい話せるだろうと判断し、近づく。

 

「何があったんだ」

 

「え!あっと、軽井沢さんの、その……下着が盗まれちゃったみたいで……」

 

「なるほど、それでここまで空気が悪いのか」

 

「……うん」

 

「ありがとう、助かった」

 

 佐倉に感謝の言葉を告げ、俺も集められている男子へと合流する。

 万が一に備えてテントの中から出てきたように装いながら、集団の後ろの方に立つ。川にいたことせいで変に注目を浴びるのは避けたい。

 

 俺が到着してすぐに男子の女子の言い合いは収まり、荷物検査をする流れになる。

 伊吹が池のカバンに下着を入れていたはずなので、ささっとテントからカバンを出してしまおう。

 あとの方になると、池に下着を押し付けられるかもしれない。

 

「一応中を見ておくか……」

 

 まさかな。

 原作通りに進むなら、ないはずと思いつつ、念には念を入れて確認する。

 力強く、そして恐れながら開けてカバンの中には───

 

 

「んな、ばかな」

 

 

 ────きれいな白いパンツが入っていた。

 

 

 うそだろお前。

 おいおい伊吹。

 実はお前への評価は高かったんだぞ。

 はたから見る分にはかわいい女の子だななんて。

 読者だったときは思ってたんだぞ。

 おいおい。

 

 

「うそだろ」

 

「どうしたんだ、斑鳩?」

 

 カバンを見て絶望している、俺を不審に思った池が声をかけてきた。

 後ろには山内と綾小路もおり、どうやら俺は最後の方になってしまったようだ。

 

「いや、ちょっと、手違いが……」

 

 そう言って、カバンを閉じると山内が不審そうな顔をしながら近づいてきた。

 

「なんだよ、そんな顔して。まさかお前がパンツもってんじゃ──って!!」

 

 俺の手からカバンを奪った山内は、すぐさま開けて絶対的な証拠を目撃する。

 その数秒後、そんな山内の様子を不思議に思った池と綾小路が俺のカバンの中を覗き込む。

 あーあ、終わったよ。どうやって切り抜けるか。

 

「嘘だろ、斑鳩! お前は櫛田ちゃんだって!」

 

「そうじゃない!どちらもそうじゃない!」

 

 俺は盗んでないし、櫛田狙いでもない。

 てか、櫛田狙いなのと軽井沢の下着を盗んだのは関係ないだろ!

 

「おいおい、どうするんだよこれ。やばいって」

 

 池がそうつぶやき、テント内の空気は一気に冷え込む。

 目の前にあるこのブツをどうするべきなのか、四人全員が脳内で恐ろしいほどの計算をしていることだろう。

 

「隠すしかないだろうな」

 

 と、綾小路が言った。

 このどうしようもない沈黙を破って。

 

「ど、どこに隠すんだよ」

 

「そ、そうだよ。山内に食わせでもするのか?」

 

「食えるかよ、こんな大きい布!」

 

「テントはきっとこの後確認される、カバンは今から。できるとしたらポケットに入れるしかない」

 

「そ、そうだな」

 

 俺は決意して、軽井沢の下着を手に取り。

 

「任せたぞ、綾小路!」

 

 そう言って、彼のポケットに入れた。

 

「……は?」

 

 あまりの突拍子もない行動にあっけにとられる綾小路。

 また、その様子を見て、自分たちも危機に瀕していることを理解した池と山内の行動は素早く、俺がキャンプを出てから一瞬でカバンを手にもって出てきた。

 中に残されたのは軽井沢の下着を持った綾小路。

 苦肉の策ではあったが、なんとか原作通りの流れに戻した。無理がある動きだったことは重々承知してるが、こうでもしないと綾小路が犯人にならない。

 いや、犯人ではないけど。一応、俺が疑われるより俺が知っている通り綾小路が持ってくれていた方がいい。

 

 と、つらつらと言い訳を述べながら俺は荷物検査を終える。

 テントから出てきて、ちらっと俺の方を見た綾小路もカバンを差し出し、検査を終えた。

 

「ねえ、平田くん。もしかしたらポケットの中にも隠しているかもしれないよね。一応、確認してもらってもいい?」

 

 当たり前の推理。

 ではあるが、なんと余計なことを言うのだろうか。

 どうせなら運よくその考えが頭から抜けていればいいものを。

 

 そこから男子の身体検査が始まり、俺と池、山内は難なく切り抜ける。

 そして問題の綾小路。

 平田の身体検査が始まり、ポケットへと手が入る。そこから何かを握るような動きがあり、平田の視線がポケットから綾小路の顔へと移ってすぐ。

 

「綾小路くんも持ってないね」

 

 そう。

 平田は嘘をついた。

 クラスを守るために、もう二度と誰かが傷つく姿を見ないために。

 

 

 そこからは何を言うことはあるまい。綾小路は俺の下着を押し付けられたことをそこまで怒っているわけではなかったようで安心しつつ、時の流れに身を任せた。

 クラス内の男女の壁は見たことないほどに分厚く高いものが出来上がっており、五日目のテントの中はかなり重苦しい空気だった。 

 

 

 

 

 そして、翌日。

 一気に物語が動く日だが、俺が何かをするわけじゃないので驚くほどに何も分からなかった。

 あくまでこの日のメインは綾小路、堀北、伊吹たちであり、それ以外の人間の出番はない。見られてよかったのは泥北の誕生と、マニュアルが燃えているシーンだろうか。

 あれを実際の自分の目で見られたのは感動的だった。

 

 が、所詮その程度。

 読者が特徴的なシーンを目撃して盛り上がっただけである。

 そんなシーン流しても俺が恥ずかしいので割愛だ割愛。

 

 

 

 今回の特別試験の総括。なんて言い方をしたら、堅苦しいしすごいことでも言い出しそうだが端的に。

 無人島試験。

 やってる分には貴重な体験ができたし、林間学校をより一層野生に近づけたみたいな感じがして楽しかった。

 初めての特別試験で、綾小路のおかげでクラスポイントも大きく稼げた。

 今後の生活が少しは楽になるだろう。

 だからこそ俺は、より一層ポイントの存在をどこまでも意識し続けていることに自分がこの世界に染まり始めていることを感じていた。

 

 ポイントがポイントがなんて、難しく考えて考え込んで。

 退学を恐れていたわけだが、それを少しだけ忘れられたこの試験は有意義なものだった。

 

 が、それも終わり。

 また日記も終わりだ。こんな回想どうでもいいんだよ。

 特別試験で数少ない大幅な暗躍が許される試験。

 完全に匿名であり、クラスの人間にさえ誰が何をしたのか露呈することのない最高の無双ポイント。

 

 船上試験がやってきた。

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