ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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干支試験

 20時前。

 俺は一人で呼び出された部屋へと向かう。

 アニメでは惑星を用いて表していたが、原作では干支を用いた干支試験。正式名称は『夏季グループ別特別試験』らしいが、これは別に重要じゃない。

 各クラスから3~4人が選ばれて14人1組のグループが12組。そして、それぞれのグループ内で人狼ゲームなようなものを行うのがこの試験の内容。

 

 と、つらつらと試験について思い出していると視界の端から見覚えのある姿が現れた。

 

「長谷部さんも20時から?」

 

「ん?そうだよ。えっと……」

 

「斑鳩春だ」

 

「あっそうだ。ごめんね、まだ全員の名前覚えきれてなくて」

 

「かまわないよ。同じクラスって言っても関わりないしね」

 

 どうやら、同じチームに長谷部がいるらしい。

 原作の船上試験で長谷部が何かした描写はなかったことを考えると、このグループは特に言及されてないグループのどれか。

 

「それにしても、急だよね。いきなり試験を始めるなんて一方的にメール送ってきてさ」

 

「確かにな。でも、これ以上休みが続いてもみんな気が抜けるからちょうどいいタイミングではあったんじゃないか?」

 

「まじめー。こんな船の上でくらいゆっくりしたいじゃん」

 

 確かにな、と長谷部の意見に同意すると廊下の先の扉が開いた。

 中からできたのは星之宮先生。視線を左から右へ移動させて、俺たちへと止まる。

 

「あっ、いたいた!入っていよ~!」

 

 大きく手を振りながら、入室を促される。

 部屋番を見ると俺が指定されていた部屋だ。わざわざ外に出て探してくれたらしい。なんだか、申し訳ない。

 

「いくか」

 

「そうだね」

 

 星乃宮先生の案内に従って、俺と長谷部は部屋に入る。

 部屋は少し薄暗く、小さなテーブルの上には紙がある。また、一人の男子生徒が座っていた。

 

 こっちこっちと手招きする先生に従い、席に着く。

 

「ん、沖谷か」

 

「あれ、斑鳩くん」

 

「お前はこの時間か」

 

「う、うん。一人だったから心細かったけど斑鳩くんがいるならちょっと安心できるよ」

 

「そんな、安心させられるほどの存在じゃないんだけどな」

 

「二人は仲いいの?」

 

 沖谷との会話に長谷部が参加する。

 星乃宮先生はそれを特に止めることはない。まだ時間じゃないからいいのか?

 

「ああ、中間試験のときから時々遊ぶんだよ」

 

「へー、案外交友関係広いね」

 

「ほとんど男子だけどな」

 

 異性の友人は、Aクラスの坂柳と神室ぐらいか。

 B、Cクラスの生徒とは今まで関わりをもったことがないので同性異性、どちらも友達はいない。

 今後も関わりを持つことはなさそうだけど、情報収集するときを考えると誰か連絡の取れる相手ぐらいほしいな。

 

 Aクラスも坂柳と神室と知り合いなのは大いに価値があるが、情報を集める上では一番教えてくれなそうな存在なので、情報源としてあまり価値がない。他の生徒だとしても、坂柳の独裁体制が築かれる以上、教えてくれる奴は少ないだろうけどまだ可能性がある。

 葛城を慕ってる弥彦とか狙い目か?それか、いっそのこと葛城と友好を深めていくのも悪くないかもしれない。いや、葛城だと仮にもAクラスの人間であることにこだわり情報を渡さないか。そこまで落ちぶれる人間じゃないだろう。

 

 どうしたもんかと、時計を一瞥すると時刻はちょうど20時。

 それと同時に、星乃宮先生がパンッと手をたたいた。

 

「お話してるところ、ごめんねー。試験の説明をしなきゃいけないから、聞いてくださーい」

 

「で、できれば簡単な奴がいいな」

 

「質問は後で聞くから、1回ばーっと話しちゃうね」

 

 そういって、机の上にあった紙に書いてあることを読み上げ始めた。

 今回の試験がどのような形で行われるのか。どのような目的をもっているのか。かなり細かく、丁寧な説明が与えられた。

 突然無人島に放り込まれた前回とは打って変わって、今回は親切だ。

 

「それで、勘の良い人なら分かったかもしれないけど、みんなは同じグループってことね。あと、他の部屋で君たちと同じグループのメンバーが説明を受けてるから」

 

 ここにいるのが三人。

 だとするならば、あと十一人いるわけだ。

 長谷部と沖谷のグループについて言及は原作ではなかったから、どんなメンバーなのかは全く分からない。

 だからこそ、龍園だとか葛城、一之瀬といった各クラスの主要な奴らはいない。その分、気持ちは楽だ。強敵らしい強敵はいないはずだからね。

 

「同じグループのメンバーって言うのは?」

 

「君たちとは別のクラスの子たちだよ。今回の試験ではAからDの全員で一つのグループを作ってもらうからねー」

 

「他クラスの生徒と一緒にやるってこと?」

 

「そーゆーこと!」

 

 長谷部の質問に、先生は慣れた雰囲気で返答する。

 おそらく他グループの説明の時にも同じような質問があったのだろう。ある程度予想されていた問いというわけだ。

 そして、明かされる敵だったはずの他クラスと共に試験に挑むという事実は、沖谷の脳をパンクさせるには十分だったようで目を何度かぱちぱちさせてからうつむいてしまった。

 

 他クラスと一緒と言っても、グループ作ってその中の各クラスでバチバチ牽制しあうだけだ。

 クラス間の抗争を分割して、小規模にして、強制的に発生させるわけだ。なんとも嫌な学校である。

 

「それでみんなは『蛇』グループに配属されるから。これ、他の子たちの名前ね。」

 

 回収するから覚えるなら今だけだよ、と付け加えながら渡されたはがきサイズの紙。

 そこにはグループ名と合計14人の名前が載っている。

 AからCクラスの生徒の名前ももちろん書かれていた。

 

 

 Aクラス──伊藤勝(いとうまさる) 夏川由愛(なつかわゆめ) 八重沢由美(やえざわゆみ) 六派宗太(ろくはそうた)

 Bクラス──阿良々木敦(あららぎあつし) 神林峰孝(かんばやしみねたか) 藤崎義信(ふじさきよしのぶ)

 Cクラス──椎名(しいな)ひより 南健(みなみけん) 立川良助(たちかわりょうすけ) 松本愛華(まつもとまなか)

 Dクラス──斑鳩春(いかるがしゅん) 沖谷京介(おきたにきょうすけ) 長谷部波瑠加(はせべはるか)

 

「なっ」

 

「ん? なんかあった斑鳩くん」

 

「いや、なんでもない」

 

 想定外。

 まさかここに椎名ひよりがいるのは完全に想定外だ。

 

 まず一年生編での出番が少なく、初登場も確か龍園が綾小路を探し始めたあたり。

 船上試験ではいない存在として扱われていた。だから、知らなくて当然なのだが、かといって無視できる存在ではない。俺がこのグループで大胆に暴れようとした場合間違いなく邪魔になりかねない存在だ。

 一応、好戦的な人間ではないので向こうからがつがつと来ることはないと思うが、注意する必要があるな。

 

 

 それに────

 

 

「それじゃあ、この試験についての話の続きだけど。今回の特別試験での結末は4通り。絶対に4つのいずれかになるようになってるの。それがこのプリントにまとめてあるから」

 

 三人に配られるプリント。少しくしゃくしゃになっているところを見るに、使いまわしか。

 書いてある内容は試験のルールと、その決着方法。

 さすがにルールをかみ砕いて理解するのは、どこからズレが生まれる可能性があるので一言一句頭に叩き込む。知っている試験ではあるが、ルールを事細かく覚えてはいない。

 

 試験の開始についてや、一日に2回話し合いの場が設けられること。また、優待者を当てる際の注意点などつらつらと書かれている。

 さらに細かいルールの説明や注意事項もあり、見てるだけで目が痛くなってくる。辞書のようにびっしりと文字が並んでいた。

 

 そして、その後ろに書いてあるのが最も大切な4つの結果について。

 

〇結果1・グループ内で優待者及び優待者の所属するクラスメイトを除く全員の回答

     が正解していた場合、グループ全員にプライベートポイントを支給する。

     (優待者の所属するクラス メイトもそれぞれ同様のポイントを得る)

〇結果2・優待者及び所属するクラスメイトを除く全員の答えで、一人でも未解答や

     不正解があった場合、優待者には50万プライベートポイントを支給する。

 

「5、50万ってやば」

 

「書いてある通り、結果1ではみんなが、結果にでは優待者が大きな利益が得られるわけね~。ちなみにこの場合優待者は二倍の100万ポイントももらえちゃう。ほんと、私が欲しいぐらい」

 

 結果1に関しては竜グループ以外起こらないので無視。

 この中で気にかけるべきは2の方だ。

 最終日の回答を行う時間で誰かが答えを送らなかったり、優待者ではない人物を回答した場合結果は自動的に2が採用される。優待者のみに50万プライベートポイントの支給が行われるわけだ。

 

 入学初日に支給された額よりも多く、一気に大金持ちだ。

 この学年で50万なんて大金を今持っている生徒は一人を除いていないだろう。まあ、あくまで除いた一人も可能性にすぎないが。

 

「それで、先生。残り2つの結果ってのは?」

 

「えーっと、それには今の2つをしっかりと理解してもらわないといけないのだけれど、みんな分かった?」

 

「私は問題ないです」

 

「あっ、えっと、僕も大丈夫です……」

 

 星乃宮先生の視線が俺の方に来たので、うなづいて返答しておく。

 沖谷の方は少々不安だが、とりあえず全員から大丈夫だと言質が取れたので、星乃宮先生は話を進め始めた。

 

「それじゃあ、残りの2つなんだけど、この優待者ってのがキーになっててね~」

 

 めくって、という案内に従って俺たちは手元のプリントを裏返し、結果3、4の説明を読む。

 1、2と違って3、4の結果は2倍ぐらいあり、どれだけこちらが重要なのかを視覚的に理解できた。

 

〇結果3・優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ正解していた場

     合。答えた生徒の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得ると同時

     に、正解者にプライベートポイントを50万ポイント支給する。また、優待

     者を見抜かれたクラスは逆にマイナス50クラスポイントのペナルティを受

     ける。及びこの時点でグループの試験は終了する。なお優待者と同じクラ

     スメイトが正解した場合、答えを無効として試験は続行となる。

〇結果4・優待者以外の者が、試験終了を待たず答えを学校に告げ不正解だった場

     合。答えを間違えた生徒が所属するクラスはクラスポイントを50ポイント 

     失うペナルティを受け、優待者はプライベートポイントを50万ポイント得

     ると同時に優待者の所属クラスはクラスポイントを50ポイント得る。答え

     を間違えた時点でグループの試験は終了となる。なお優待者と同じクラス

     メイトが不正解した場合、答えを無効として受け付けない。

 

 本試験が難しい理由であり、結果1が報酬が破格な理由。

 それは『裏切者』によって、結果1を達成する価値が揺らぐからだ。

 これは日本人の癖だったか、人間の癖だったかどっちか忘れたが、人は自分が得をすることではなく、他者が損をする選択を選びたがるらしい。自らがどれだけ損しようとも、自分にどれだけ得があろうとも、他者が得をするのを許せないそんな傾向があるとどこかで見たことがある。

 

 そういった事実を加味すると、結果1がどれだけ難しいかわかる。

 優待者じゃない人間からすれば、優待者が2倍もプライベートポイントを得るなんて許せないだろうし、自分以外にも50万を得るのも許せない。そう考える人間がが一人でもいたら?答えなくたっていい。答えたらクラスポイントが減る。が、この試験では無回答も立派な選択だ。可能な限り損を抑えつつ、他者に損を与えられる。

 それを選ぶかどうかは自分次第だが、こういう選択肢をとれるわけだ。

 

 だから、それぞれのクラスの思惑が顕著に表れ、クラスの性格が見えてくる。

 リーダーの性格とも言えるかもな。

 

「なーんか、すごい複雑」

 

「そうだな。だけど、優待者を当てれば得、失敗したら損するみたいなもんだ」

 

「まー、超簡単にまとめたらそういうことだね。いろいろと細かいルールはあるから、その辺にも目を通しておいてね」

 

 優待者に選ばれた人間を保護するための事細かい禁止事項。

 人狼ゲームが参考例に挙げられるようなゲームであるから、簡単に人の友情を壊しかねないということもありいろいろと配慮がされているようだ。ほんの少しでもルール違反しようものなら最悪退学もあるらしい。厳しいな。

 

「それと、今回の試験では匿名性についても考慮しているらしくてね~。発表されるのは各クラスのポイントの増減だけ。優待者とか回答者なんかは明かされないから」

 

「その辺はこんな学校のわりにしっかりしてるんだ」

 

「こんな学校だからこそとも言えるけどな」

 

 あくまで学校の考えているフィールドでのみ戦ってほしいということだろう。

 朝から晩まで、船の上から下まで戦場になるのは学校側も望んでいないわけだ。あくまで、戦場は話し合いで使われる部屋をメインとして、他の場所では暗躍することのみを許可する。

 今後この試験が尾を引くことは学校は望んでいないから、匿名性が考慮されるわけだ。

 

「あくまでみんな仲良くしててほしいってこと?」

 

「そういうことだろうな。ギスギスしてほしいわけじゃないってこと」

 

「ふーん。優しいんだか、厳しいんだかわかんない」

 

 プリントをゆっくりとなでながら、長谷部はそんな感想をつぶやいた。

 視線は結果を見ており、何か考えながら話しているように見える。優待者になった場合と、ならなかった場合でも考えているのか?

 

「そんな感じで説明は終わりだけど、みんな大丈夫そう?」

 

「私はまあ、大体?」

 

「僕は……、あんまりだけど、大丈夫です!」

 

「俺は問題ありません」

 

「じゃあ、説明おしまい!あ、あと、明日から午後1時、午後8時に指示された部屋に言ってね。初回は絶対に自己紹介すること。これはお願いじゃなくて、ルールだからちゃんとやってね?それと、試験時間中の退室は認められないから、トイレなんかはちゃんとしてからいってね」

 

 あ、あとから説明が湯水のごとく湧いて出てくる。

 長いなほんと。

 

「それと、優待者は学校の方から公平を期して、厳正に調整してるからね。変更は受け付けられないよ。それと、学校から送られてくるメールをいじらないこと」

 

 これで全部おしまい!と嬉しそうに宣言した星乃宮先生は、ぐーっと体を伸ばす。

 長く難しい説明を終え、開放感に身を任せているようだ。

 

 長谷部たちは難解なルールを理解しようと、必死に落とし込んでいる。

 まあ、細かいわりにここでしか覚えさせてくれないから妥当な行動か。せめて、ルールブックぐらい配布してくれてもいいものを。

 

「斑鳩くん分かった?」

 

「大体は」

 

「すごいねー。あんまり頭いいイメージなかったけど、もしかしてこういうゲーム系得意?」

 

「かもしれない。まだ、説明聞いただけだから分からないけどね」

 

 頭いいイメージがないという情報は余計な気がするが、聞き流して返事をしておく。

 そう思わせるために中間と期末、どちらも赤点ぎりぎりをとっていたわけだが、こう面と向かって言われると傷つくな。次のテスト満点とってやろうかな。

 

「あ、一応Dクラスの蛇グループでグループチャット作っておこうよ。情報共有とかのためにさ」

 

「そうだな」

 

 俺にとって数少ない女子のアドレスが1つまた増えた。

 これを使うことになるかは分からないが、一男子生徒として女子の連絡先を持っているのはやはり感動的なものだ。持っているだけで価値がある。

 長谷部と今後交流を持つことになるのか、俺にはまだ分からないけど。この出会いがいいものであることを祈ろう。

 

 その後、とりあえずは解散ということで部屋を後にする。

 沖谷にルールの確認をしようと言われたが、山内達と作戦会議があるので断った。沖谷がルールについて深く理解しようとする必要はないのだが、それを彼は知らないでまた明日にでも付き合ってあげよう。

 

「んじゃ、行きますか」

 

 沖谷と長谷部と別れ、俺は約束のレストランへと足を運ぶのだった。

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