ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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一手

 山内達の情報共有では、特に有益な情報が得られることはなかった。

 まあ、みんな同じ説明を受けただけだし、せいぜいそれぞれのグループの構成メンバーについて知れたぐらいだ。まだ話し合いすら始まっておらず、優待者すら明かされていない現在では、こんなもんだろう。

 一応、結果3を狙っていきたいなんて話が出たが、もし不正解だったら大変だろうと俺が止め、優待者が分かってもすぐに答えないと約束だけしておいた。もし外して、クラスポイントが50も減らされたらクラスのみんなも、俺の予定的にも困るしね。

 

 

 翌日

 

 

 俺は暇をつぶすため、船の甲板で海を眺めていた。

 船内で誰かにメールを見られてしまうなんて事態を避けるために、視界を広くとれ、人も少なくなってきたであろう甲板に逃げてきたのだ。

 

「どうしようか」

 

 俺の頭を支配するのは、今回の試験での動き。

 予定では、優待者になるようなら隠しきる。優待者じゃないようなら何らかの手段でプライベートポイントを優待者から奪い取るつもりだった。もし俺が回答してしまうとクラスポイントが原作から大きく変化する可能性がある。それに、俺の存在が誰かしらに認知される可能性もある。だから、元から結果3、4は狙わず、結果2を狙っていく予定だった。

 が、今回の蛇グループでの優待者が問題だ。作中で優待者の選ばれ方が説明されていたので俺は優待者が誰なのか知っている。そのうえで、より一層問題が増えた。今回の試験、動かない方が適切である可能性が出てきたのだ。それも、かなり大きく。

 

 もし、この学校での平穏な生活を望むのなら、俺は何もすべきではない。

 一瞬たりとも隙を見せず、弱者であり続ける必要がある。

 

 が、それは保険を捨てる可能性がある。

 堀北兄という保険と、もう1つこちらでも自主的に保険を作っておきたい現状、50万をどぶに捨てるのは惜しい。拾えるのなら拾いたい。

 

 メリットと、デメリット。

 両者それなりに影響力があるので、いまだに俺はすべきことを決め切れずにいる。

 

「やるだけやってみるか?いやでも」

 

 と、海に向かって独り言を言っていると、携帯が鳴った。

 時刻は午前八時ぴったり。

 

 すぐさまメールの中身を確認し、大事な部分を探してささっと本文を読み進める。

 

『厳正なる調整の結果、あなたは優待者に選ばれませんでした。グループの一人として自覚をもって行動し試験に挑んでください。本日午後1時より試験を開始したします。本試験は本日より3日間行われます。蛇グループの方は3階蛇部屋に集合してください』

 

 俺は優待者ではないようだ。

 こうして送られてくるメールを読んでみると、やはり不自然だな。アイドルのコンサートのチケット応募なんかをしたことあるやつなら気づけそうだ。

 

 とりあえず、俺が優待者ではない確認はとれた。

 問題なく、優待者も選ばれていると思われる。

 

 しかし、ここから1時まで暇だな。

 メールを誰かに見られないように甲板に来たはいいものの、メールが送られてきてからのことは考えていなかった。

 そこのカフェで朝食でもとるか。

 

 そう思い、視線をそちらに向けると綾小路と堀北が何か話しているようだった。

 あー、そういえば話してたっけな。じゃあ、邪魔しちゃ悪いか。

 

「ねえ」

 

 生徒に人気のビュッフェとか行ってみようかなとか、思い始めた時。

 俺の右足を踏み出そうとすると同時に、声をかけられる。聞き覚えのある声だ。

 

「何の用だ」

 

「坂柳から命令を受けてるの、来てもらえる」

 

 俺の返答を待たず一方的に話を進める神室。

 坂柳が裏にいるなんて言われては、俺も無下にできない。

 

「今ここじゃ言えないのか」

 

「もし誰かに聞かれて、窮地に陥っていいっていうのならここで話すけど」

 

 少し向こうのカフェには綾小路たち。じきに龍園なんかも来るはずだ。

 そう考えると、ここでAクラスの人間と話しているのは少々まずいかもしれない。一応、友達だなんて言い訳してその場を収めることはできるだろうが、怪しさが完璧になくなるわけじゃない。かろうじて納得をさせることができるだけなのだ。

 

 ここで神室と話すのは危険か。

 

「分かった。ついていこう」

 

「納得してもらえたようで何より」

 

 機嫌の悪そうな神室の後を追い、着いたのは無人島試験前に話したカフェだった。

 確かにこの時間、このカフェは人気が少ないので密談するには最適か。本人も、俺と話しているところを友達とかに見られたくはないだろうし。

 

 店員に案内され、神室がココアを俺がアイスコーヒーを注文する。

 そこからすぐに本題に入るかに思われたが、注文した品が届くまで神室は一言もしゃべらず、俺から何か話を振っても一切口を利かなかった。俺への敵意の表れか、それともただイライラしているだけなのか分からない。女心は難しい。

 

 その後、ココアとアイスコーヒーの到着し、店員が遠くまで行ったタイミングで神室は一方的に会話を始めた。

 

「坂柳からあなた宛てに伝言」

 

 届いたココアに手を付けず、カバンをごそごそと漁りだして一枚の紙を取り出した。

 あれに伝言が書いてあるのだろうか。

 

「えっと……く──

 

 半分に折られていた紙を開き、中を読み始めようとする神室。

 しかし、最初の一文字目と思われる文字を読んですぐにやめてしまう。

 

 こちらをちらり。

 そして、紙をちらり。

 

 その動作をもう一度繰り返して、紙をくしゃくしゃにしてしまった。

 

「おいおい、伝言が書いてあるんだろ?」

 

「そんなものはなかった。悪かったわね。急に呼び出して」

 

 いや、絶対ダメだろそれ。

 俺にも被害がでかねない。

 

「よこせ。俺が読む」

 

「いや、絶対にいや」

 

「いやって、坂柳さんに敵対する気か?Aクラスなのに敵対なんてしたらどうなっても知らないぞ」

 

「そういうつもりじゃ……ない……」

 

「無理がある」

 

 今にも怒りが爆発しそうな神室の右手に握られた紙が、さらにくしゃくしゃにされる。

 その握られたこぶしは紙をくしゃくしゃにするためなのか、それとも目の前にいる俺の怒りをぶつけるためなのか。

 

「あいつ……マジで許さない!」

 

 こ、こぶしが飛んでくる!!

 

 と、とっさに両腕で顔を防御した俺に飛んできたのはボクサーのようなストレートではなく、ポシュと坂柳からの伝言の書かれているはずの紙だった。

 くしゃくしゃになっていて、破れていないのが奇跡なぐらいにはゴミにしか見えない。

 

 机の上に落ちた紙を手に取り、破らないように丁寧に開ける。

 ほんの少し力の入れ方をミスっただけで、ビリっと破れてしまうそうだ。

 

 まるで爆発物でも扱うかのように丁寧に紙を開き、中の文字を確認する。

 紙はくしゃくしゃだが、中の字はとてもきれいで坂柳がいかに達筆であるかがうかがえる。

 そんなきれいな字で書かれていた分は短く、手紙ではなく本当に伝言。

 

『クルーズ中は真澄さんを好きにお使いください』

 

 とても手短に、かつ実現が難しそうなことが書いてあった。

 恐る恐る神室の方を見ると、俺の顔を見て大きなため息をついていた。失礼な奴だ。

 

「これ、書いてある内容は実現するのか」

 

「すると思う?」

 

「しないと思う」

 

「ならしない」

 

 いやいや。

 いやいやいや。

 

 それでいいのか。

 それではよくないだろう。

 

 そう思っている俺のことを全く気にかけず、ココアを一口飲んだ。

 だが、まだ熱かったようで、あ゛っ、と苦しそうな声が上がった。そういうば、猫舌って言ってたな。

 その様子を見ていたのが気に食わないのが神室から鋭い視線が飛んできたので、視線をそらしながら会話を再開する。

 

「それで、本当にやらないつもりか?俺は坂柳さんがどんな奴か知らないが、無視できるもんじゃないだろ」

 

「あんたが口裏を合わせればいいだけでしょ」

 

「その程度でだませる奴なのか?」

 

「チッ」

 

 返答は舌打ち。

 その程度でだませる奴ではないらしい。知ってるけど。

 

「坂柳の指示だから仕方なくだからね」

 

「分かってるよ」

 

 少しいじりたい気持ちが湧いてきたが、そんなことをしたら神室がキレて出ていきそうなので、余計なことは何も言わない。

 それに、普通に人手はほしい。

 

「調子乗らないこと。いいわね」

 

「分かってるって」

 

 だいぶ入念な確認。

 本当に嫌らしい。ここまで強烈な拒絶反応を見せられると悲しいな。

 いい関係を気づけていると思って……いや、改めて考えてみると別にそんなことないな。まず、関係を築けていると言えるほど話したこともないわ。

 

「それで、話がまとめりそうなところ悪いんだが、1つ条件を付けさせてほしい」

 

「条件?」

 

「ああ、これを守ってくれるのなら俺はお前、もとい坂柳さんからの協力を受け入れるつもりだ」

 

「条件を飲めないようなら拒否すると」

 

「ああ」

 

「なら、飲めないって言えばこの関係終わりよね」

 

 その結論には至らないでくれ。

 話が進まない。

 

「それで条件だが」

 

「話聞きなさいよ」

 

「今回の試験で俺が神室さんに話した情報。そして、神室さんが俺の指示でやった行動をすべて他人に話さないこと。それが条件」

 

「なるほどね。ま、気にしていることは分からなくないけど」

 

「それで、受けるか。受けないか」

 

 これが断れるようならあきらめるしかない。

 この試験、多分俺がやらせた行動が坂柳に漏れた場合俺が最初から優待者を知っていたのではという結論が浮かび上がる可能性がある。それをつぶすように動くのはあまりにも面倒なので、彼女の口から一切の情報を出させない代わりに、渡せる情報を可能な限り渡した方がいい。

 その方が考えが一致させやすいし、理解も早くなるだろう。また、イレギュラーな場合にも対応しやすいはずだ。

 

「分かった。今回アンタを手伝って得た情報、したことすべて他の人には話さないでおいてあげる」

 

「それならよかった」

 

 神室という手札が一枚増えてことで、俺は格段に行動しやすくなった。

 なにより、これで俺の存在が簡単には表舞台には上がらないはずだ。Aクラスの人間が、Dクラスの人間の手助けをしているなんてこの状況で考えつくやつはいないだろう。

 真っ先に疑われるのは葛城、もしくは坂柳のはずだ。

 

「それじゃあ、今後の俺の行動を端的に理解してもらうために1つ、神室さんに言っておきたいことがある」

 

 わずかな間。

 神室も何か感じたのか、口を挟まない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「俺は、優待者が分かる」

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