ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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凹凸

「え」

 

「いや、少し言い過ぎたな。アテがあるっていう方が適切だ」

 

 インパクトをつけるため少し真実を話したが、すぐに撤回する。優待者が分かる、とはっきり言ってもよかったがさすがにそれは怪しい。というか、おかしい。

 まだ、優待者が発表されて10分もたっていない。それなのに、優待者が分かるなんて言うのはあまりにも奇妙だ。不気味ともいえるが、そのどれも当てはまらない不可思議な事実が残る。

 

 だから、1つ1つ都合よくひらめき、答えへとたどり着くことにした。

 正答が分かっているからこそ作れる、途中式。インチキ甚だしい。だが、それでいい。

 答えを知っているからこそ、論理的な解説に説得力ができる。すべてが、正解なのだから。

 

「お前は、さっき来たメール何か気づいたことはないか?」

 

「優待者のヤツ?」

 

 携帯を開きながら、神室は聞き返してくる。

 慣れた手つきで携帯を操作して、メールを開いてこちらに見せてきた。

 

「これがなに?」

 

「おまえ、俺に見せていいのかよ」

 

「別に私優待者じゃないし。それに、私が優待者じゃないって情報をアンタが持ってたら怪しまれるから言いふらさないでしょ」

 

 まあ、その通りではある。

 Aクラスの人間の情報を俺が持っているのはおかしい。ましてや、優待者に関する情報になればなおさら、なぜ知っているのかと疑問に思われる。

 一応、盗み聞きしたと言えばなんとかなるだろうが、俺の評価は著しく低下するだろう。この言い訳を使ったら最後、女子の会話を盗み聞きするクソ野郎という不名誉な称号が与えられるに違いない。

 

「それで、どっか気になるところがあるわけ」

 

「最初の部分だよ。一番最初」

 

「最初?えっと、『厳正なる調せ……」

 

 と、そこまで読んで神室は読むのをやめてしまった。

 どうやら、彼女も気づいたようだ。

 

「調整?」

 

「ああ。よくある抽選じゃない。調整だ」

 

 ま、これに関してはどうして調整されるのかはわかるけどね。

 よくよく考えてみれば、抽選じゃ困るわけだ。

 

「調整についてはなんとなく予想がつく」

 

「入手、もしくは失うポイントに格差がつかないようにってこと?」

 

「その通り」

 

 もし、優待者が抽選の結果Aクラスに偏ったら?

 Aクラスに大量のクラスポイントを与えてしまうかもしれない。もしくは、大量喪失。

 そんな方よりは学校側は望んでいない。平等に利益と不利益を振り分けたいはずだ。

 だから、『調整』する。これは至って、不自然じゃない。

 

 じゃあ、この試験で唯一不自然なことは?

 

「だが、調整ってのはそれだけじゃない」

 

「他にもあると?」

 

「この試験で、意味をなしていない事実がある」

 

「もったいぶらないで」

 

 つまらない奴め。

 探偵気分を味わたっていいじゃないか。

 

「干支だ。この試験では干支が使われているが、この学校が無意味に干支を用いると思うか?」

 

 別にグループに割り当てるものなんて数字でもアルファベットでも、あいうえおでもいいわけだ。

 なのに、どうしてわざわざ干支を用いたのか。

 何かを分ける時に、干支を用いる人間などそうそういない。正月のイベントならまだしも、今は真夏。どちらかと言えば、夏にゆかりのあるものを用いた方が自然ではある。

 スイカグループとか、浮き輪グループとかね。幼稚園の教室名みたいだけど。

 

「各グループの干支に意味があるってこと?」

 

「と、俺は思っているだけだ」

 

「意味って?」

 

「優待者の場所」

 

 間髪入れず、端的に。

 事実を叩き込む。

 

「え」

 

「優待者の順番と言った方がいいだろうか」

 

「え、ちょ、アンタ何言ってるか分かってる?」

 

「ああ、俺が言った優待者を当てるアテ。それがこれだ」

 

 もう弱者ではいられない。

 第二の綾小路のように、派手に暗躍していくしかない。

 そういう決意と共に、神室に打ち明ける。

 

 うすうす思っていたことだが、持っているものを使わなければ最後には何もなせずに死ぬだけだ。

 その辺のミミズのようにね。

 

「具体的にどうやってそこから優待者にたどり着くつもりなの?」

 

「それが分からない。いくつか予想はあるが、可能性を上げるには実際に各グループの優待者とメンバーを確認したい」

 

「それが、これから私とアンタでやらなきゃいけないことってことね」

 

「そうだな。だが、具体的に優待者が誰なのかについては俺がDクラスの優待者の情報を用いて見つけるつもりだ」

 

「じゃあ、私の仕事は?」

 

「しばらくはないが、優待者の可能性が一番高い人物に追跡し、惑わすのが仕事だ。Aクラスに狙われているように見せかけ、一番いいタイミングで俺が首元にナイフを突きつける」

 

 俺の存在はぎりぎりまで隠しておく。

 それほどまでに警戒しなきゃいけない相手が、優待者だからね。俺が裏にいることは本当に終わらせる瞬間までちらつかせたくない。一瞬たりとも。

 

「陽動ってことね」

 

「そういうこと。時期が来たら俺から連絡する。それまでは、できるだけ蛇グループの人間にまんべんなく接触してみてくれ」

 

「まんべんなく?」

 

「早いうちから警戒心を植え付けるためだ。Aクラスを警戒していたあまり、Dクラスへの警戒がおろそかになっていたという事実がある方が、俺の接触の一撃の効果が変わってくる」

 

「了解」

 

 思いのほかあっさりと、そして静かに作戦の概要を聞いてくれた神室。

 切り替えは良い方のようだ。ありがたい。

 

「私の存在を見せつけていけばいいわけね」

 

「ああ、頼んだ」

 

「なんか、色々指示されて癪だけど、今回は従ってあげる」

 

 まだ気にしていたらしい。切り替えは別によくなかったかもしれない。

 だが、坂柳の言葉のおかげで激しい抵抗には合わなかった。もともと、神室を間に挟むつもりはなかったので、そのせいで余計な小芝居を打つ羽目になったが、まあよしとしよう。

 本来想定していた作戦よりも、揺さぶりやすさが上がったはずだ。思いもお寄らぬ存在からの奇襲は、いつだって効果的だ。

 歴史的にも、それは証明されている。

 

「なんか、坂柳とかかわったせいでほんと面倒ごとに巻き込まれてる」

 

「そういう体質なんだろ、あきらめとけ」

 

「元凶の1つでもあるアンタに言われたくない」

 

 神室からの言葉を適当に流しつつ、ここにAクラスとDクラスのクラスを超えた協力関係が構築された。

 今回限りで、坂柳の思惑通りに事が進んだ結果生まれたものだが、100%の善意によるものだと思っておこう。

 

 その方が、余計なことを考えなくて済む。

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