ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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 午後一時に近い時間。

 俺は、試験会場へと向かっていた。

 三階にある蛇部屋。具体的にどこにあるかは分からないが、人の流れに乗ってクラゲのようにふわふわとついていく。

 

「ここのはずだが……」

 

 そうして蛇部屋の前に着いたわけだが、だれも知っている顔がなかった。

 人はたくさんいるので蛇グループの人間が一人ぐらいはいそうだが、顔が分かってるのは三人。長谷部と沖谷と椎名だけなので、それ以外の人間は誰もわからない。

 長谷部と沖谷の到着を待とうかと思ったが、もしかしたら先に入っているかもしれないと思い、一応周囲をもう一度確認してから部屋へと入る。

 

 室内には11人が円のように並べられた椅子に座っていた。

 知らない顔だらけで、居心地が悪いが一人だけ俺の知っている人物がいた。

 

「椎名ひより……」

 

 誰にも聞こえないぐらいの声量で、口から彼女の名前がこぼれ出る。

 無意識のうちに彼女の名前を呼んでいた。

 原作を読んでいるだけならかわいく読者人気の高い女子キャラクターだが、今回においては違う。俺が最も警戒すべき相手であり、蛇グループの『優待者』である。

 今回の試験、俺はどうにかして彼女からプライベートポイントを奪い取る必要がある。あの、Cクラスの隠れた知略家に。

 

 モチベーションの下がる事実だこと。

 この学校にいる以上、原作キャラと敵対することもあると理解はしていたが想像より早い。もう少し後を想定していたんだけどな。

 さすがに、そう都合よくいかないか。

 

 俺が一方的に認知している椎名ひより以外顔を知っている人間はおらず、長谷部や沖谷はまだ来ていないようなのでさっさと開いている椅子に座る。

 いつまで立ってると、変に怪しまれるかもしれない。

 

 俺が椅子に座ると同時に、扉が開いた。

 入ってきたのは長谷部だ。きょろきょろとして、俺の顔を見てからそそくさとこちらに歩いてくる。

 そして、隣に座った。周囲に様子を見るに各クラスで固まっているようだし、妥当だ。

 

「みんな早いね」

 

「そうだな。最後はうちの沖谷だ」

 

 隣に座って早々、話しかけてきた。

 周囲の状況を見るに黙ってる方がいいと思うけど、話しかけられた以上無視はできない。

 

 室内の空気は重々しく、だれも話していない。

 試験は始まっていないので問題はないが、居心地は最悪だ。この中にムードメーカーとなれる存在がいることを祈ろう。

 

 その後すぐに沖谷がやってきた。

 息が上がっているところを見るに走ってきたのだろう。扉も勢い良く開けていたし、かなり急いできたようだ。変に疑われたら困るのでやめてほしいが、沖谷は優待者じゃないので良しとしよう。

 

 長谷部の隣に座った沖谷が、息を整えようと大きく空気を吸うと同時に、放送が入る。

 

『ではこれより1回目のグループディスカッションを開始します』

 

 とだけ言って、放送は終わった。

 雑だな。もうちょっと話すことないのかよ。健闘でも祈ってくれよ。

 

 あまりに乱雑な試験の開始に、みな周囲の様子をうかがうことしかできない。

 視線を右へ左へと走らせて、他クラスの動向を見る。誰が動き出しそうか。誰が不審か。

 まだ一言も交わしていないというのに、なんかいやな感じ。

 

「誰も先陣を切る気はなさそうだし、俺が話を進めさせてもらおう」

 

 一人の男子生徒がそういって立ち上がった。

 他クラスの生徒で、あいにく誰か分からない。

 だが、わざわざこんなことをしようとする生徒の所属するクラスは、なんとなく予想ができる。

 

「学校から指示があった通り、とりあえずは自己紹介ぐらいはしたいんだが、いいか?」

 

 彼の問いかけに、だれも反抗する雰囲気はない。何人かは、うなずいていて彼の考えに賛成の態度を示している。

 沈黙作戦をとるAクラスは、これに対して特に反抗はしないらしい。ま、学校からの指示だしこれぐらいはやるか。

 これが、あの男子生徒独自の提案だったらひと悶着ありそうだったな。

 

 というわけで、彼──神林峰孝をトップバッターに自己紹介が始まった。

 Bクラスと記載のあった生徒だな。グループで仲よくするというスタンスは、一之瀬からの指示なのか。それとも、一之瀬のクラスの所属する生徒だからやった行動なのか不明だが、おそらく蛇グループでは彼が中心となって議論の進むことだろう。

 

 なら、3。もしくは4といった結果にはならなさそうだな。

 優待者を引き釣りだし、クラスポイントを奪い合うようなことにはならないはずだ。

 

 自己紹介は順調に進んでいき、彼女の番がやってくる。

 

「初めまして、Cクラスに所属しています。椎名ひよりです」

 

 わざわざこんな前置きをするほどの人物とは椎名ひよりしかいない。

 個人的に綾小路が早々に『ひより』と呼ぶせいで、椎名よりもひよりの印象が強いが、どこかでポロっと出たら気持ち悪いので椎名という単語を脳に刻み込む。

 

「趣味は読書です。よろしくお願いします」

 

 端的な自己紹介を終え、次の人物が立ち上がり自己紹介は進んでいく。

 どうやって彼女からポイントを奪うか。

 狙うのが結果1、もしくは結果2なのでそれぞれで労力が変わってくる。てか、結果1は狙ってはいない。そんな面倒すぎる根回しはやりたくない。

 ので、俺が狙うのは結果2。最後に俺が回答を間違えれば終わりなので簡単にたどり着くことはできる。だが、この結果にした場合、プライベートポイントは椎名へと送られる。

 

 だから、俺は何かしら根回しして彼女からそのプライベートポイントを譲ってもらわなくてはいけないわけなのだ。

 あの椎名ひより相手に交渉する必要がある。なんとも胃を痛くしてくれる相手だ。

 

 幸い彼女はCクラスの龍園とは距離を置いていて、また攻撃的な性格じゃないのが救いかな。

 今回の交渉でめちゃくちゃ嫌われるなんてことにはならないはずだ。これが各クラスの切れ者の誰かだったら、俺はもう諦めて弱者の皮をかぶってこの試験を続けるつもりだったが、彼女ならワンチャンある。

 

「それじゃあ───」

 

 と、滞りなく進んだ自己紹介が終わり、話題は次へと移る。

 神林を進行役として、自己紹介の次は試験についての話が始まった。

 

「今回の試験。どの結果になる上でも話し合いが重要だということは皆分かっていると思う。無理矢理優待者を引きずり出すような真似はする気はない。不信感から裏切者が出るのは俺としても望まない。だからと言って平和的に優待者が出せるわけでもないんだが、だれかそのあたりについて案があるものはいるか?」

 

 平和的に、穏便に優待者の正体を明らかにする。

 また、口ぶりからするに彼として結果1が良いという考えなのだろう。裏切者を出さず、優待者を明らかにしたいという考えからそんな雰囲気が感じられる。

 

「なら、少しお前の望むこととずれるがいい案があるぜ」

 

「それは何かな。六派くん」

 

 Aクラスの一人、これまた俺の知らない六派宗太と名乗っていた少年が手を上げた。

 原作メンバーが少ない以上、このグループは俺の知らない人間が進めていく感じになりそうだな。

 

 だが、Aクラスからの提案だというのなら何を言い出すのかは容易に想像できる。

 

「何も話し合わないってことだよ」

 

「それは……どういうことだ?」

 

 「この試験、優待者が名乗りを上げるメリットがなさすぎる。どれだけ話し合いなんてしたところで、優待者が自ら名乗りを上げるなんてことはないだろうよ」

 

 他の私情でも挟まない限りな、なんてべらべらと語り始める彼。

 綾小路のグループにもこんな感じの奴いたな。名前なんだったっけ。

 

 その後も、彼の語りと時折入る神林からの質問の返答を繰り返しAクラス、というよりも葛城の案が蛇グループの面々に明かされる。

 超保守的案が、いつの間にか蛇グループ全体の総意かのように感じられるほどに彼は語った。葛城の案を。

 

 無人島試験で負った傷をこれ以上拡大させないために、葛城はこの案でいくことを決めたのだろうか。

 坂柳とは違い、攻撃的な性格ではない葛城だからこそ出す案だな。

 

 もし、坂柳だったらどんな方針でこの試験を乗り切るんだろうなと、ちょっと思ったが多分ろくでもない作戦が出ていることだろうから考えないことにする。

 もしかしたら、AとCで優待者を奪い合うなんて展開になってたりするかもな。

 

 Cクラスも無人島試験のせいでマイナスこそなかったが、プラスがなかった。

 龍園的にもあの展開は想定外、あそこで多くのクラスポイントを稼ぎたいだろうし。

 

 てか坂柳と龍園が暴れる船上試験ってのも見たかったな。

 面白そう。

 

「……クラスポイント?」

 

「どうしたの?」

 

 勝手に口から出て行った独り言に長谷部が反応する。

 

「いや、なんでもない。気にしないでくれ」

 

 なんでもないことはないが、長谷部には関係ない。

 Cクラスはクラスポイントが欲しい。それは、クラスポイントを失いたくないともいえる。

 

 この試験、もし自分が優待者であることを当てられるとクラスポイントが50も減ってしまう。それは『Cクラス』にとって痛手だ。

 また、当てたクラスは50ポイントを得る。それは『俺』にとって望むものではない。

 

 なるほどな。

 蛇グループの今後を決める議論が白熱するのを裏腹に、俺は今後の方針が決まったことにほくそ笑むのだった。




ワールドトリガーの二次もちょっと書きたい
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