ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

3 / 19
天才

 無事(?)俺は坂柳有栖に捕捉された。

 一瞬Aクラスを見て、ちょっと坂柳という少女のことを考えただけなのに。ほんの出来心である。本当に。

 だから許してほしいといったところで、残念ながら犯罪を犯したわけでもない俺は許しを請うこともできないわけである。

 

「なんでもないよ。坂柳さん」

 

「ふふ、ここまで追い込まれても白状しないとは強情な方ですね」

 

 もしかして、俺が神室ポジか。いや、でも他クラスだし。さすがに違うだろ。

 それに何か犯罪を犯したわけでもない。他クラスを見る。至っておかしな行動ではないはずだ。このあと櫛田が他クラスと交友関係を広めていく以上、一切問題のない行為。だから、追い込まれているわけではない。

 

「いや、正直言うとさ、ほら杖ついてるだろ」

 

 と、今の一瞬で必死に考えた言い訳をつらつらと並べる。

 今ならラヌマジャンよりたくさんの公式を思いつける気がする。すごいね。

 唯一の活路。それを生かさないわけがない。

 

「だから、まだ友達のできにくいここ数日は大変なんだろうなって」

 

 完璧な言い訳。

 もうこれ以上ないほど完璧だ。

 コンスタンティノープルのお城もびっくり。

 

 彼女が口を開くまでのほんの少しの時間。数秒なんて表現もおおげさすぎるわずかな時間。

 俺は神に祈ることしかできない。これで坂柳有栖という天才が納得してくれることを。また、俺のを解放してくれることを。

 

「ええ、そうですね」

 

 安堵した。はずなのに、彼女から感じる恐怖は消えなかった。

 なんなら増大した、気がする。

 何かやらかした。何をやらかした。視線が泳ぐ。何か、だれか助けてくれる人はと。だが、残念。俺は友達作りには失敗しているのだった。

 誰も助けてくれないのである。

 

「先天性の障害で杖がないと大変で」

 

「そ、そうなんだ。やっぱりそうだよね」

 

 なんて、なぜか真っ白になっている頭から出てきた言葉を適当につなげる。

 もちろん、適切という意味ではなく、無茶苦茶という意味だ。

 

「なので──

 

 そこで俺は、話題選びを間違えたことを確信した。

 苦し紛れの言い訳はどうやら大失敗したらしい。

 

 

───少し付き合ってくれませんか?」

 

 

 この時、俺はふと思い出した。

 そういえばコンスタンティノープルの城は、鍵のかけ忘れで陥落してた。

 

 

 

 

 

 

 

 そんな坂柳有栖との舌戦の数分後。

 俺は、彼女を連れてコンビニへと向かっていた。俺と同じように彼女も日用品を買うつもりらしく。運よく目的地が一致したため向かうことになったのだ。

 超運命的な出会いをしたからね。

 坂柳という美少女を連れて俺も悪い気はしない。もちろん、良い気もしない。大変気分は悪い。

 が、こうなった以上もう取り返しはつかないので腹をくくろう。

 

「しかし、斑鳩くんは初日から他クラスを見て回るなんて随分行動力がありますね」

 

 軽い自己紹介とアドレスの交換を終え、坂柳は会話を再開する。

 まだ俺の行動について話すつもりらしい。心の底からやめてほしい。

 

「そう? でも坂柳さんだって他クラスの人は気になるでしょ? どんな人がいるんだろうなって」

 

「ですが、まだクラスで自己紹介が行われていたのでは?」

 

 ああ、確かに。おかしいわ。

 自分のクラスの自己紹介をほっぽりだして、他クラスの偵察なんて。どれだけ気になるんだよって感じか。

 それに、坂柳有栖は体育祭まで綾小路の存在に気づいていなかったし、他クラスの生徒への興味関心はそれほどないんだと思う。もちろん、リーダー格は知っていくだろうけど。

 

「自分のクラスの奴らは毎日会えるから。でも他クラスの生徒が全員いる姿はそう見られるもんでもないだろ? それこそ授業中に見て周りでもしないかぎりさ」

 

 そんな感じで、今回ばかりはそれっぽい言い訳が出てきた。

 

「まあ、斑鳩くんほどの方なら自己紹介を聞いていなくてもお友達も簡単にできることでしょう」

 

 一体どういう観点からの評価を得ているのだろうか、俺は。

 俺ほどの方はお友達は簡単にできるらしい。今はいないんだが。

 

「Dクラスはかなり険悪なんだが、Aはどうだ? みんな仲良くできそうな感じか?」

 

 と、良い感じに会話が途切れたタイミングで俺からも話題を振る。自己紹介中に必死に話せる話題の整理をした俺からボロは出ないはずだ。ふりではない。

 Dクラスの結束力が弱い程度なら開示しても問題ないだろう。攻撃的な性格の坂柳でも、クラス内の支配が完成するまで他クラスに手は出さないだろう。

 

「みなさん立派な方でしたよ。内情を知らないDクラスと比べるのは早いと思いますが、斑鳩くんの思っているDクラスよりはみなさん仲は良いと思います」

 

「まあ、だろうな。うちほど荒れてるクラスはきっとないって思ってたよ」

 

 Cクラスは除く。

 あれは荒れているし、荒れてない。龍園翔と呼ばれる大きな嵐にすべてが持っていかれている感じだし。

 

 しかし、中間テストが終わるまであの空気でいくのはつらいな。

 原作だとポンポン話が進んでいくが、俺はそうはいかない。あの荒れてるクラスで一か月は過ごす必要がある。

 

「クラスが心配なのですか?」

 

「そりゃそうだろ。クラス替えはないんだ。不安になるさ」

 

 今後の流れを知らなかったら間違いなく。

 平田なんかはどんな思いで四月を過ごしてたんだろう。あんな荒れたクラス。

 

「まあ、なんとかなると信じるさ」

 

 それぐらいしか言えない。

 俺にできることもないし。言えるとしたら、綾小路君がんばってぐらい。本当に頑張ってくれ主人公。

 そんな感じで坂柳とクラスの話題で盛り上がっているとコンビニ見えてきた。

 

「ささっと買って帰るか」

 

「ええ、そうですね」

 

 コンビニに入り、かごを二個取る。

 坂柳の分のかごを彼女に持たせたら、それで両手が塞がってしまう。この子本当に最初の一週間どうやって過ごしたんだろう。

 

 結構なんて雑な表現になってしまうが大変だろ。

 まあ、それを確認する術は俺にはない。考えて終わりだ。

 

「先に俺のほしいものだけぱぱっと取ってくるから、ちょっと待っててくれ」

 

「わかりました」

 

 坂柳を置いて、ポンポンとかごの中に元を入れていく。

 もちろん安さ重視、無料のものはとりあえず1つ入れておく。プライベートポイントと呼ばれるものをどれだけ使っていいものかわからない以上こうならざるを得ない。

 少なくとも来月は入ってこないし。それに、可能なら2000万ポイント集めておきたい。俺が退学にならない保証は誰もできないから。目下だと中間試験。俺自身の学力を俺が知らない。過去問とかもどうにかして手に入れないと。

 

 原作通り156円のカップ麺も入れておく。

 あいにく料理はできない。だって、まず記憶がない以上経験がない。家庭科で調理実習をやったことがないわけである。

 

「すまん、遅れた」

 

「大丈夫ですよ。入れていっても?」

 

 首をかしげながら聞いてくる坂柳はやはりものすごくかわいい。

 原作で時折出てくる挿絵等々で姿を見たり、他の人からの人気ぶりを考えると当然なのだが本物は違う。オーラみたいな、絵だけでは感じることのできなかった何かが強くある。

 うまく言葉にはできない。きっと俺の国語の点数は低いだろう。

 

「ああ、どんどん入れてくれ」

 

 その言葉を聞いて、どんどんと物を入れていく坂柳。

 それなりに時間がかかってしまったので気になるものはもう見たのだろう。物をとる手に迷いがない。

 

 俺が許可してから数分。

 彼女の手が止まった。

 

「これで全部か?」

 

「はい」

 

「じゃあ、会計しちゃうか」

 

 レジに並びポイントで支払う。

 画面に表示されていたポイントがガラガラと減っていき、俺の命の減りを目に見えて感じた。来月一円ももらえないことを考えるとこの景色はキツイな。

 精神衛生上よろしくない。それはもう大変よろしくない。

 

 ぱぱっと会計を済ませて、俺は二人分の袋をもってコンビニを出る。

 次どこに行こうかな。

 

「どっか、行きたいところあるか?」

 

 とりあえず、坂柳に話を振っておく。

 彼女を一人にするわけにはいかない以上、俺は彼女の行きたいところについていく必要があるわけだし。

 

「いえ、特には。斑鳩くんはどこかにご用事が?」

 

「いや、俺もないよ。じゃあ、帰るか」

 

「はい」

 

 本当ならケヤキモールを見てみたいのだが、坂柳を連れまわすのは酷だろう。

 作中でたびたび登場するが、具体的に何階に何があるのかは明らかじゃないからな。カラオケとかその辺の場所を把握しておきたい。

 

 ボロを出さないように雑談をして、坂柳を寮の部屋へと送り届ける。

 本当に心によくない会話だ。少しでもボロが出ようものなら彼女の中で俺の評価──もとい危険度が上昇する。それは許されない。

 

「じゃあ、気を付けて」

 

「はい、今日はありがとうございました」

 

 そういって、扉が閉められた。

 またそれと同時に、俺は地獄から解放された。

 

 そういえば、今頃綾小路たちがコンビニで本編を進めているのだろうか。

 あっちの様子もやっぱ気になるな。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。