ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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終わりの見える日常

 あの後、部活動紹介に顔を出して池たちとアドレスの交換、それと男子のグループチャットに入れてもらったのだが綾小路に会うことはできなかった。

 早めに彼と会っておかないと、あいつの友達を作るという意思がなくなってしまう。それは困るのだ。あまり後の方に彼と関係を構築すると、彼の暗躍の片棒を担がされてしまう。

 今関係を持とうがきっと将来担がされるだろうが、夏休み後になると綾小路グループとかが出来上がって接触しづらいし早めに交流しておきたい。

 

 なんて思いながら、こう日々を過ごしているわけだがちゃんと水着回がやってくる。

 入学して早々水泳の授業が行われ、そこで男子たちが胸の一番でかい女子を予想するという大炎上待ったなしの出来事だ。普通の学校でこんなものを実行し、ばれでもしたらクラス会議である。

 ちなみに俺は一番人気の長谷部に入れておいた。

 

 が、この賭けは女子の大勢が水泳の授業を見学したことにより成立しなかったので男子がクソであるという事実を歴史に刻むだけだった。

 それと俺の水泳の成績は悪くない程度で、30秒でゴールし5位という成績を修めた。斑鳩春はそれなりに運動はできるようで安心した。あと、学力もずば抜けてはいないが教科書の問題はすらすらと解ける程度の力はあり、テストも赤点になることはなさそうだ。意図的にでも点数を落とさない限り。

 

 そんな感じでその日の水泳の授業は終わりを迎えた。

 そこからしばらくは俺のかかわることができる原作の出来事は起こらない。

 櫛田が堀北の仲よくしようとする一件があるが、あれは綾小路の仕事だ。あいにく俺はまだ堀北とは話したことがないので、平田に堀北のことを頼まれることも、櫛田に堀北をカフェに誘うようお願いされることもない。自分はあくまで本編から離れた存在であり、Dクラスの一生徒でしかないのは悲しいが、変に物語を壊さないためには必要なことだ。

 それに三バカとそれっぽく関係を築くことに成功していて、時折一緒に遊んでる。原作の綾小路のような立ち位置になっていて俺的にはもう少し踏み込んでおきたい。じゃなきゃ、友達がいない。

 

 綾小路が堀北と交流し物語を進めるのをしり目に、俺は三バカたちと遊んで日々過ごす。

 ゆっくりと1つ目の一大行事に歩みを進めていた。

 

 入学してから大体三週間。

 そろそろ学校が動き出すころである。

 クラスの状況はしっかりと終わっており、池と山内が大声で談笑し、女子たちも授業中だというのに放課後の予定を話している。いくら注意されないとはいえ、ここまでクラスが崩壊するものだろうか、と疑問に思うほどだ。仮にも義務教育を終えてきた奴らだというのに、小学生のクラスでももう少し静かだ。

 

 文字や映像として見る立場だったのであまり考えてはいなかったが、自分がその中に入ると心の中に生まれてくる不快感は表現しきれない。

 360度すべての方向から声がする。教師が話しているというのに。

 

 それと平田はちゃんと軽井沢と付き合ったらしい。

 本堂から手をつないでいるところを見たと聞いた。あちらも問題なく進んでいるようで満足だ。

 付き合いませんでしたとか言われたら、何が起こったんだとあちらこちらで情報を集める作業が始まるからな。そんなイレギュラーは起こらないでくれると嬉しい。それはも大変うれしい。俺の心の余裕である情報のアドバンテージが崩壊するのは避けたいのだ。

 

 

 

 

 

 3時間目。茶柱先生の社会の授業。

 だとするのなら、あれがあるはず。

 

 「ちょっと静かにしろー」

 

 と、いつもなら何も言わない先生が生徒たちの会話を止めた。

 珍しいこともあるもんだと思っている生徒が多いことだろうが、俺はこれが何を意味するか理解している。

 一人の生徒が茶柱先生に何があったのか聞く。佐枝ちゃんセンセーなんて友達のような呼び方をしながら。

 

「月末だから。小テストを行うことになった」

 

 なめ腐った自分への呼びかけに顔色1つ変えることなく話を進める先生。

 あれこれと文句が出るが、一切耳を貸すことなく一番前の席の生徒たちにプリントを配っていく。ここまでひどいクラスだと小言の1つも言いたくなりそうなものだけど、ここの教師は我慢強いな。もしくは、来月のポイントの支給が少なくて絶望する生徒の顔を思い浮かべでもして耐えているのだろうか。だとしたら、性格が悪い人たちだ。

 配られたプリントに目を通す。1科目4問、全20問で配点は各5点だ。100点満点の一般的なテスト。問題も簡単なものが多いから、斑鳩くんの学力なら80点も狙えるぐらい。

 強気に100点をとれると言いたいところだが、最後の3問は全く手が付けられないほど難しいので無理である。難しいとは聞いていたが、何を聞かれているのかもよくわからない。なんだこれ。

 

 と、言うわけなので、俺はうまいこと点数を調整する。

 今回の小テストが成績に関係しないからではなく、あるラインを下回ることで俺にイベントのフラグが立つからだ。

 たまにゲームでもあるあれだ、最低レベルが明記されていてそこまで上げないと受けられないクエストみたいな。だから俺は、意図して問題をスルーする。

 たくさんの分かる問題たちを切り捨てて、残念な無能な称号を目指すのだった。

 

 

 

 お昼も終え、午後の授業中。

 携帯にメールが届いた。

 

『今日櫛田ちゃんたちと遊びに行くことになった。お前も来い、斑鳩!』

 

 という、池からの呼び出し。

 こんなイベント原作にあったけなぁ、と記憶の中を探してみる。小テストの後で、中間試験への勉強会の前。

 あ、そういえば。綾小路が誘われて行く一件があったはずだ。平田たちが合流して、池たちがいやそうな顔をしていた気がする。

 じゃあ、綾小路も来るのか。それなら好都合、ぜひ行かせてもらおう。

 

 まあ、文面から察するに強制っぽいけど。

 

『わかった』

 

 と返事をしてちらっと池の方を見ると池と山内がグッと親指を立っていた。

 こいつらも楽しそうだな。高校生活を謳歌しているようだ。

 その数秒後に、櫛田ちゃんには手を出すんじゃないぞ!と追加の命令を受け取って俺は携帯を机の中にしまった。

 櫛田なんか狙えるわけないだろ。俺は退学したくない。

 

 授業後、池たちの所に行くと予想通り綾小路もやってきた。

 ここでいなかったら、ちょっと焦る。

 

「お前も誘われたのか、綾小路?」

 

「ああ、池にな。櫛田には手を出すなって指示も受け取っている」

 

「はは、俺も言われたわ」

 

 四月、五月の綾小路は実力云々にとらわれてはいないので、ただの学生として接してくれる。

 また俺も接することができる。物語が進めば進むほど堀北の傍に立ち、クラスの主要なメンツになってしまうので友達を目指すなら今しかない。

 

「櫛田ちゃんはちょっと用があるみたいだから先に行くぞ!」

 

「お前ら約束守れよ!」

 

 と、荷物をまとめた池と山内にくぎを刺されながら、俺たちは教室を後にした。

 そんなに何度も言う必要ないだろ。どうせ、お前らに振り向くこともない。

 前を歩く二人を綾小路と一緒に追う。なんか話そうかな。

 

「綾小路は今日の小テストどうだった?」

 

「あまり解けなかったが、問題ない。悪くないって感じだな」

 

「ほんとか?俺全然わからなくてさ、ほとんど真っ白。やばい」

 

 なんて、思ってもない感想を述べる。

 今のところ俺の計画通りに物事は進んでいるので問題ないはずだ。この調子でいけば一週間後ぐらいに綾小路の方から俺へある集まりへの招待が届くはず。そのための布石として、俺の頭が悪いイメージを与えておく。

 

「それにしてもあの二人は本当に櫛田を狙っているのか?」

 

「そうなんじゃない?二人は真面目にねらってるっぽいぜ。ああやって何度も釘を刺してくるところ見るに」

 

 一応彼らなりに真面目なんだろう。動機は不純で、どこに可能性を感じているのか全く分からないが。

 櫛田は基本的に優しい女子って感じだから、特別自分に気があるって勘違いしているってところだろうか。でも、他の生徒にも同じような接し方しているしなんとなく違うって気づきそうなものだけど。恋は盲目ってのはこのことだろう。

 

「綾小路は堀北狙いか?あいつ美人だもんな」

 

 なんて、定期的に綾小路がいじられている話題を出す。

 彼が堀北に対して微塵も気がないことは知っているが、雑に振れるの話題はこのぐらいだ。

 

「ほんとになにもない。ただのクラスメイトだ」

 

「ほんとかぁ?まあ、そういうことにしといてやるよ」

 

 もし付き合ったら教えろよ!と付け加えて、綾小路をいじる。

 きっとこれが原作なら俺は綾小路から山内らと同じ評価をされているに違いない。

 そして、読者からバカ四天王とか言われていることだろう。それでも結構、別に俺に不利益があるわけじゃないしな。

 評価なんて目に見えないものはいくらでも変えられる。

 

「嘘じゃないんだがなあ」

 

 と、ぼやく綾小路。

 数か月はこのネタにいじられ続けるから頑張るんだな。

 前を歩く二人についていき、学校の外で櫛田を待つ。

 

 その間も池たちから櫛田を狙わないようにと念押しされた。

 俺はもとからそんな気はないと二人に言っているし、彼女とのかかわりはアドレスの交換をしたときに少し話したぐらいだ。メールも電話もしたことがない。したくもない。

 彼女に余計な情報を与えるのは怖いからな。しかし、だから言って秘密を1つも打ち明けないのは違和感があるか。普通の男子なら彼女の優しさに心を許し少しぐらい話してしまうはずだ。あまりガードが固すぎると逆に警戒されかねない。何か話せそうな秘密を作っておく必要があるな。誰かが好きとか嫌いとか用意するか。

 二月あたりに俺の噂が暴露されるかもしれないが、その時はその時だ。流れに身を任せるしかない。

 

「遅くなってごめんね。お待たせっ!」

 

 池たちの念押しを念仏のように聞き入れていると、やっと櫛田がやってきた。

 次はもう少し早く来てくれると嬉しいな。池たちがしつこくてしょうがない。

 

 やっとのことで到着した櫛田を池は笑顔で歓迎するが、後ろにいる平田を見て大げさにすっ転ぶ。

 櫛田の後ろにいるのは平田と彼女の軽井沢。そして、その軽井沢とつるんでいる松下と森だ。原作とメンツは変わってなさそう。

 俺がいる以外。

 

「途中で一緒になってね。もしよかったらって誘ってみたの。ダメだった?」

 

 その櫛田の行動に対していち早く対応しようとしたのは池だ。

 綾小路の首に腕を回し、なにやらごにょごにょと話している。

 そんな彼らを眺めていたら後ろからゆっくりと山内が近づいてきた。

 

「おいこんなの予定にないぞ!どうすればいい!!」

 

「どうもしなくていいだろ。平田が一緒にいるのは問題か?」

 

「大問題に決まってるだろ!あんなイケメンと一緒にいられるか!」

 

 平田がいてもいなくても櫛田の興味がお前らに向くことはないのだから、そんな心配はしなくていい。とは、彼らへの配慮としてぐっとこらえる。

 言い過ぎはよくない。たとえ真実であろうとも、優しい嘘というやつだよ。ワトソンくん。

 

「でも平田は軽井沢がいるだろ。大丈夫だって」

 

「どう大丈夫なんだよ!平田の優しさに櫛田ちゃんが惚れちゃったら大問題だ!」

 

 そんなことは起こらない。

 平田がいなかったら、自分たちにチャンスがあるとでも言いたげな発言に心の中で否定する。

 世の中それほど単純じゃないぞ、山内。

 

「ちっ、お前じゃ埒が明かない。池の所で作戦会議だ」

 

 そういって、山内は池と綾小路の方へと向かっていった。

 向こうでも状況は変わらないけどな。綾小路は平田を排除する気はない。

 せいぜい平田排除派が数的に有利になるぐらいだ。

 

「もしかしてお邪魔だったかな?そうなら別行動するけど」

 

 と平田が少し困り顔で俺たちに声をかける。

 変に気を使わせてしまって申し訳ない。うちの二バカがご迷惑をおかけしている。

 

「別に気にしなくていい。なあ、池、山内」

 

「ま、まあ、別にいいんじゃね」

 

「あ、ああ。人数が多い方が楽しいもんな!綾小路もそう思うだろ?」

 

「そうだな」

 

 池と山内が苦しそうにそう返事する。まったく思っていなさそうだ。

 最後に話を振られた綾小路は特段気にしていないようで、雑に返事をしている。

 

「つーか、当たり前でしょ?なんであたしらがこの四人の顔色を窺わないといけないわけ?」

 

 俺を数に入れた上で、軽井沢が俺たちに対して冷たい視線を向ける。

 彼女からしたら俺たちは乱雑に扱ってもいい存在らしい。

 ま、軽井沢はそういうスタンスで今の立場を確立しているし、これに対して何か言うこともない。きちんと自分の仕事をこなしていてありがたい。

 そんなに彼女とかかわることはないし、ここでの評価が低くてもいいだろう。

 

 と、無事全員からの承諾が得られたということで俺たちは目的地もわからず歩き出す。

 この集まりって何を目的として集まったんだっけ。忘れたな。ってことはそこまで大きな出来事ではないはず。

 まあ、そうあってほしいという願望がうっすらと隠れてはいる。俺の覚えていない重要なイベントに入学早々出くわすのはさすがにやばい。今後の見通しが一気に立たなくなってくる。

 

 平田を両サイドから取り囲んでいる池と山内を眺めながら、綾小路に適当な話を振る。

 俺たちの前には櫛田と平田、軽井沢、池&山内。後ろに森と松下という並びで後ろの二人は会話に入りにくそうなのでたまに会話を振って、原作での櫛田の役割を少し担う形になった。最初こそぎこちなかったが、綾小路も会話のやり方を理解してきたのか時折二人の話に反応していた 。

 この世界線の綾小路は少しばかりフレンドリーになってくれるかもしれない。

 

 そんな感じで話していると前のグループが足止める。

 俺が私服を買うときに一度寄ったブティックに目を付けたようだ。もちろん、その時坂柳も一緒である。一週間ほどで俺への呼び出しがぐーーーんと減ったので神室を見つけたことだろう。逆に言えば、その時まで俺は執事のごとく連れまわされていた。

 そのおかげでこの学校の施設について詳しくなれたし、買いたいものもあらかたそろったのでそこは感謝している。

 みんなが続々と入っていくので俺も続く。が、いまだ動かない綾小路に声をかける。

 

「どうしたんだ?」

 

「いや、なんでもない」

 

 そういって、綾小路もついてきた。

 この店に来るの初めてだったっけ。そんなことを言っていたような気がする。

 ちょっとだけ気を使ってやるか。

 

 平田と軽井沢、櫛田と池と山内、松下と森に分かれたので、俺も自動的に綾小路と一緒に店を回る。

 客層のメインは高校生ということもあり、少し派手な服も並んでいるが値段はそこまで張るわけではない。一般的な服より、少しばかりマシなだけなので安いという表現は適切ではないけどな。

 

 そんな服に囲まれながら、俺は綾小路に話しかけた。

 

「こういった店は初めてか?」

 

「ああ、休みの日は外に出ないから私服はまだ用意してないんだ」

 

「もしかして一着もないとか言わないよな」

 

「おかしいか?」

 

「おかしいだろ」

 

 まだ入学して1か月も経っていないので、この時の綾小路の世間一般への知識は小学生よりひどい。

 生活に困らない程度の知識はあれど、少し俗っぽいところに入ると本当に何も知らないのが彼である。

 さすがにやばいだろということで、最低限の私服だけ見繕ってやる。せめて一日分ぐらいの私服は用意すべきだ。全部で大体1万ちょい、少し高くなってしまったので半分は俺が出す。最初こそ抵抗されたが、俺が無理矢理買わせているようなものだし出させてくれと頼んだら、しぶしぶ了承してくれた。

 

 その後、俺たちはカフェへと向かい軽く雑談をしてこの会はお開きとなるのだった。

 

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