ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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始まり

 5月1日。

 4月も終わり、俺たちは約1か月この学校で過ごしたことになる。入学当日に10万も支給された学生たちは各々好きなことにそのポイントを使ったことだろう。

 特に俺の所属するDクラスの生徒は。

 

 朝、起きてすぐに端末のポイントを確認する。

 昨日の夜確認したとき俺のポイントは6万5千ほど。そして、今日の朝確認したときのポイントも約6万5千。

 どうやらDクラスの皆々様はきちんとクラスポイントを吐き出したらしい。改めて考えてもすごい奴らだ。

 クラスポイントとしてみると1000という数字に過ぎないが、プライベートポイントに直すと10万。10万円分を使い切った。

 今月は節約しないとなあ、なんて思いながら朝の準備をして俺はクラスへと向かうのだった。

 

 すべては予定通りである。

 

 

 

 

 

 いつもより遅れてクラスに到着する俺、一部の生徒たちがざわざわしている。

 それもそのはず。まだプライベートポイントが入ってこないんだ。手持ちがない生徒ほど焦っていることだろう。

 こんな彼らを無視して、椅子に座る。綾小路の所にでも行こうと思ったが変にボロを出すわけにはいかないので、茶柱先生の到着までおとなしく時間をつぶした。

 

 始業のチャイム。

 それと同時に茶柱先生がポスターの筒をもって教室に入ってきた。

 この前見た時よりも険しい顔だ。理由が何かは俺にとってはすぐにわかる。

 

「せんせー、もしかして生理が止まりましたかー?」

 

 なんて、人のコロロを売りさばいたらしい池の発言を皮切りに茶柱先生は動き出した。

 実際に聞いたうえで思うが、どうしてそんな発言ができるのだろうか。こんな発言をして女子にモテるわけがない。

 ホームルームを始めると話した次に、何か質問はあるかと先生が聞いてきた。

 まだこちらからは何も言ってない。あたかも、質問があることを理解してるかのようだ。多分、堀北や平田あたりは違和感を覚えたことだろう。

 

「あの、今月の分のポイントが振り込まれてないんですけど。毎月1日にもらえるんですよね」

 

 と、本堂が聞く。

 今朝の騒ぎの理由であり、先生が質問を受け付けた理由。

 そして、俺が今朝確認した事実。

 

「本堂、前に説明したはずだ。以前に言った通り、ポイントは毎月1日に振り込まれる。そして今月も問題なく振り込まれている」

 

 本堂の質問に対する先生の回答で、クラスが一斉に騒がしくなる。

 周囲の生徒と確認を取り、ポイントが振り込まれていないことを確認しあっていた。

 

「はあ」

 

 その行動をみて、先生が大きなため息をする。

 俺たちに聞かせるように、大きなため息を。

 

「お前らは本当に愚かだな」

 

「愚か?っすか?」

 

 その発言を聞き返す本堂。

 そんな彼に向ける先生の視線は鋭い。見られただけで、身がすくむ。

 

「このクラスに振り込まれるべきポイントはもう既に振り込まれた。このクラスだけ忘れられているなんてことはない。まったくもってそのような可能性はない」

 

「え、でも……」

 

 と、本堂はその発言を不満げな様子を見せた。

 Dクラスに広がっていた不安が姿をよりはっきりと見せ始める。

 

「ははは、そういうことかいティーチャー。理解できたよ、この謎解きがね」

 

 そんな不穏な空気が広がる中で、高円寺は一切の遠慮を見せることなく笑う。

 そして、本堂を指さした。机に足を乗せて。

 

「簡単なことさ、このDクラスには一ポイントも支給されなかった。そういうことだよ」

 

「は?なんだそれ。毎月10万ポイント支給されるって……」

 

 本堂の愚かな発言に、高円寺はにやにやとしながらその指先を先生へと向ける。

 机に足を乗せるわ、人を指さすわとひどい奴である。

 

「そんなこと聞いた覚えはないね。そうだろう?」

 

「その態度は気になるが、その通りだ高円寺。ここまでヒントをやったというのにこれほど気づかないとは。嘆かわしいことだ」

 

 すべての種が明かされ。

 あくまで不安だったからそれなりに落ち着いていた皆の感情が、激しく揺さぶられる。ほとんどの生徒の心が大荒れだろう。

 なんせ手持ちのない生徒が多いからな。

 

「……先生、質問してもいいですか。腑に落ちないことがあります」

 

 こんな時でもリーダーとして働こうとする平田。

 彼の勇気ある行動には拍手を送りたいぐらいだ。今後もDクラスのリーダーとしてみんなをひっぱってほしい。

 

「どうして振り込まれなかったのか、理由を教えてください。そうでないと、僕たちは納得できません」

 

 当然だな。突然、今月のお小遣いはなしだよなんて言われたら理由が気になるものだ。

 ましてや、あの10万がどういったルールに則って支給されていたのか知らない彼らからしたら。

 

「欠席と遅刻が合わせて98回。他にも授業中の問題行動はもっと数が多い。よくもまあ、ひと月でここまでやったものだ。この学校では、クラスの成績がポイントに反映される。その結果、お前たちはその行動で支給されるはずの10万ポイントを使い切った。それだけだ」

 

 このクラスにいる人間のほとんどが身に覚えのある事実。

 きっと心の中でその時の自分を悔いている奴らが多いことだろう。それと同時に、そのことを教えてくれなかった茶柱先生を恨んでいる奴らもそれなりにいそうだ。

 実際、俺の視界の中だけでも苦しそうにうつむいている奴や、自分の残っているポイントを見てぶつぶつと何かつぶやいている奴とすでに精神に異常をきたしていそうなやつらが多い。

 

「そんな説明、僕らは受けた覚えはありません。茶柱先生」

 

「ああそうだな。だが、その程度のことを説明しなければわからないのか」

 

 平田が、不利な状況だと分かっていながらもクラスのために一矢報いようとする。

 彼も馬鹿じゃない。ポイントが欲しいなんてしょうもない思いで先生と舌戦を繰り広げているわけじゃないのだろう。クラスのみんなが少しでも良い生活をできるように、ほんの少しでも譲歩させることができれば、なんて甘い考えで一人戦っている。

 すごい奴だと思うよ、まったく。あいつほど善人にはなれないな。だからと言って、助けてやることはできないが。さすがに原作知識を持つ俺でも、ルールに反することはできない。

 

 説明してくれれば、みんなちゃんとやったと反論する平田に対して、先生は容赦なくそれぐらいできて当然だろうと返す。

 義務教育で言われてきたはずだ。お前らはあの九年間何を学んできたんだと。

 そこまで言われると平田を反論できない。いや、最初から反論できる状況ではなかった。それを、彼が必死にあがいていただけで、穴の開いた泥舟を必死に漕いでいた滑稽な人間に過ぎないのだ。

 

「ただの学生が、毎月10万も使わせてもらえることに何の疑問を抱かなかったのか。それほどの価値がある人間だと、本気で思っていたのか。少しは考えてみろ。なぜ、その疑問をそのまま放置した」

 

 完敗。

 いくら平田とはいえ、ここまで言われてはどうもできない。悔しそうな姿を見せる。が、すぐに先生を目を見た。

 

「せめて、ポイントの増減を詳細を教えてください。今後、それを参考に対策を立てます」

 

「悪いができない。そういったものは一切開示しない方針だ。だが、私も鬼じゃない。1つだけいいことを教えてやろう」

 

 ここまで俺たちをぼろくそに言ってきた人間から、いいことを1つ教えてやるなんて言われて一体だれが期待するのだろうか。

 もし期待してる人間がいるとしたら、本当に愚かである。今、彼女の信頼は地に落ちているはずだ。

 

「幸運なことにこれ以上ポイントが下がることはない。お前たちが今後どれだけ遅刻や欠席をしても問題ないというわけだ。覚えておいて損はないとおもうぞ」

 

 増えることもないがな、と付け加えた。

 本当に性格の悪い奴しかいない学校だ。こんなことを言われると、須藤たちの逃げる道ができるだけだ。

 もう下がらないなら、好きなだけすればいいだろとそういう流れにある程度の説得力がついてしまう。

 とんでもない人だと思っていると、話の途中というのにチャイムが鳴ってしまった。

 

「少し話過ぎたな。本題はこれじゃない、次に移るぞ」

 

 そう言って、先生は筒から白い厚紙を取り出し、それを黒板に張る。

 角を磁石で止められたそれを見て、生徒たちは茫然とその紙を眺める。

 そこにはAからDまでの名前、そして横には数字が書いてある。

 

 Aクラス──940

 Bクラス──650

 Cクラス──490

 Dクラス──0

 

 多分原作と違いはない。

 クラスポイントは全く同じはずだ。

 各クラス、問題なく俺の知っている通りの行動をしているらしい。

 自分のクラスが0ということに知っていたことでありながら不安を覚えるが、それ以外は問題ない。

 

 この情報に対して、様々な生徒がそれぞれの思いをぶつけるが、所詮はみじめな存在の悪あがき。先生によって容赦なく切り捨てられていく。

 どれだけ騒ごうとも、事実はそれ以上の変動を見せない。

 

 そして、彼女の口から明かされるクラス分けの理由。

 AからDへとどうやってクラスが分けられたのか。

 

「この学校では優秀な生徒はAへ、そして落ちこぼれ程下へと落ちていく。その最下層。最悪の不良品がお前たちDクラスだ」

 

 この辺りも俺は知っている。

 俺の知識と違いはない。本来、顔を引きつらせて絶望するべき情報なのだが俺からしたら答え合わせ。聞いていけばいくほどうれしくなる。

 この事実を知った平田や須藤が、絶望を口にしている。

 

「安心しろ。寮はポイントがなくても使える。また、無料のものも置いてある」

 

 それが、どう安心できるポイントになるのか。

 この1か月贅沢をしてきた彼らにとって、それは屈辱である。無料のまずい飯をむさぼり、貧相な生活をするのは。

 耐え難いことだろう。

 

「それともう一つお前たちに伝える必要の残念なお知らせがある」

 

 もうこれ以上俺たちをいじめないでくれ、なんて悲鳴は彼女には届かない。

 もくもくと新しい紙を黒板に貼る。ああ、そういえば、これをやっていた。

 

 そこには各々の名前、そして横に数字が並んでいる。

 小テストの結果だ。

 俺の点数を見ると予定通りかなり低い点数──30点を記録している。

 全力を出して30点ではない。予定通りの30点だ。

 

 もちろん、赤点である。

 今回の小テストが本番であったら赤点のラインは32、それ未満の俺なんかは無事退学だ。

 その旨を、茶柱先生は伝えるとクラスから悲鳴が上がる。俺を含めた八人だ。一応俺も悲鳴は上げておいた。

 

「ふざけんなよ佐枝ちゃん先生! 困るぜ退学なんて!」

 

「それがルールだ。腹をくくれ」

 

「ティーチャーが言うように、このクラスには愚か者が多いようだねぇ」

 

 なんて、あおりをわざわざ高円寺が入れてくる。

 どうしてこんなことをするんだか。

 

「なんだと高円寺!お前だって赤点組だろ!」

 

 と言って、池は前を向くが赤点組の中に彼の名前はない。

 そして視線はだんだんと上へと上がっていき、なんと一番上に彼の名前が載っていた。

 高円寺六助、90と。この態度の悪い男、なんと勉強もできてスポーツもできる万能なタイプなのだ。

 そのせいなのか知らないが、こんな性格である。

 

 そして、この学校が保証すると言っていた就職先や進学先への保証はAクラスのみであることが明かされると、さらに大きな悲鳴が上がる。

 ほんの数分。まだ10分もたっていないというのに処理しきれないほどの情報が流れ込んでくる。ポイントや退学や就職、進学。どれも大事でうやむやにできないことだ。

 そんな大事なことをこうもすらすらと言ってくるのは、悪意だろうか方針だろうか。

 

 その事実を受け入れられない生徒が何人か反論するが、高円寺と先生によってこれまた切り捨てられる。

 どうして高円寺はそっち側なんだと思うかもしれないが、彼は高円寺コンツェルンの御曹司。最悪就職先はあるのだ。

 

「中間テストまであと三週間ほど。みな、努力して退学を回避できることを祈っている。実力にふさわしいふるまいをもって挑んでくれ」

 

 と、言い残し茶柱先生は教室を後にした。

 顔に絶望の文字を並べている赤点組。俺も赤点組だが、意図的な赤点なので特に気にしてない。

 いつも強気の須藤も、今回ばかりは舌打ちをしてうつむいてしまった。

 

 茶柱先生のいなくなった教室は阿鼻叫喚の光景が広がっている。

 来月のポイントを期待していた生徒たちからしたらこうなるのも仕方ない。

 このあと、予定では平田と幸村がぶつかるわけだが、そんなものに興味はないので俺はそそくさと教室を出る。特に重要な話がされるわけでもないし、スキップしても問題ないはずだ。

 俺がやるべきことはやったし、今のところ俺の予定通りに物事が進んでいるのであとは時が進むのを待つばかりである。あいにくと時間を早める能力はないからな。

 

 教室を出たはいいものの、特にやりたいこともないのでトイレに行って教室に戻ろうとしたその時。

 前から見覚えのある人間がやってきた。

 

「お久しぶりです、斑鳩くん」

 

 クラスポイントを見事940も残したAクラスの一人、坂柳有栖と。

 

「ああ。久しぶり、坂柳さん。それと」

 

「神室」

 

 と、後ろにいる少女は俺が名前を呼ぼうとしているのを察して、名字だけ伝えてきた。

 嫌われているのだろうか。まだ、何もしていないんだが。

 

「神室真澄さんです。あまりお友達がいらっしゃらないので、仲良くしてあげてください」

 

 と、自己紹介が雑な神室の代わりに坂柳が紹介してくれた。

 友達がいないという発言に、神室は大きく舌打ちをしたが、坂柳は特に気にしていなさそう。

 この二人がきちんと出会ってくれてよかった。出会っているはずだとは思っていたが、こうやって確認が取れて一安心だ。

 

「よろしくね、神室さん」

 

「……よろしく」

 

 相変わらず、フレンドリーではない。

 たぶん、彼女とは一生仲良くなれない気がする。相性的な話ではなく、向こうが気を許さないという意味で。

 

「朝の時間にいろいろと情報が解禁されたわけですが、大丈夫ですか?」

 

「それは俺への質問か?それともDクラスへのものか?」

 

「斑鳩くんへの質問ですよ」

 

 さすがにまだDに興味は持ってないか。

 原作の通りにするにはまだ、綾小路に気づいてもらっては困る。今気づかれると流れが大きく変わる危険があるので、できるだけ二人を会わせないようにしないと。

 

「ポイントの残りは大丈夫、節約は得意だからな。だが、テストはやばそうだ。中間テストは退学との勝負だな」

 

「そうですか。もし必要でしたら、お勉強。お手伝いしますよ」

 

「えっ」

 

 坂柳の言葉に神室が反応する。

 俺も口にこそしていないが、坂柳の発言に驚いた。何が狙いだ。どうして、わざわざ俺に勉強を教えるなんてことを言い出したんだ?

 そういうことをしたがるタイプじゃないと思っていたんだが。

 

「大丈夫だよ。なんとかなりそうだから」

 

「そうですか。ならよかったです。いろいろと連れまわしてしまったので、そのお礼でもと思ったのですが」

 

 なるほど。借りを返しておきたいわけか。

 そうだな。

 

 

 

 「なら────」

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