ようこそ理想主義者のいる教室へ   作:サラダボウル

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四バカ

 その後、これと言って俺が何かに介入することはなかった。

 基本的に原作の流れを壊すことを避けている俺は、テスト範囲の変更や過去問といったある程度重要なものを保持してるが、それを使ってDクラスを支援するようなことはしなかった。俺の知っている歴史を歩んでもらい、須藤には赤点をとってほしいためだ。

 

 なので、テスト範囲の変更に気づく図書館でのCクラスとの激突や綾小路らの過去問確保の一件に俺はこれといった対応をすることはなかった。

 対応するべきほどのことでもないから、『しない』というより『できない』の方が正しいかもしれない。わざわざ俺が介入するほどのことじゃない。それだけ。

 

 なので俺は、赤点組の一員としてただ黙々と勉強をする毎日を過ごしていた。

 池たちと共に、赤点をとらないために。退学しないために、毎日必死に堀北たちに教えられていた。

 

「なんとなくだけど、問題が分かるようになってきた気がする」

 

 と、ノートの上を走る手を止め、池がつぶやいた。

 テストは目前、赤点組も基礎が終わり総仕上げをしているタイミングだ。

 

「ああ、もう無理ってぐらい勉強したおかげか、今までにないぐらい問題が解けるぜ」

 

 なんて、軽口を飛ばす山内だが、別に急に頭がよくなったわけじゃない。

 今までの正答率が5%程度ならば、今の彼の正答率は30%。昔に比べれば大きく成長したが、まだ他の人間と比べるには足りないぐらいだし、油断できるような状況ではない。

 だから、こんなところで調子に乗ってもらっては困るのだ。

 

「そんなこと言って、本番で足元をすくわれるぞ」

 

「なんだなんだ、もしかして櫛田ちゃんのデートとられるんじゃないかって、ビビってるのか斑鳩」

 

「お前ごときに取られるかよ。俺の方が頭いいからな」

 

 シャーペンを走らせながら、山内と櫛田の取り合いをするわけだが。なんと、むなしいことだろうか。

 向こうは全く気がないというのに、俺のだなんだと喧嘩を始める。

 マジのやつではないにしろ、哀れだ。

 

 だが、これがこいつらの動力源である以上、途切れてもらっては困る。

 常に目の前にちらつかせながら、時にグッと離すことでやる気を回復させる。

 

 須藤に関しては、別に櫛田とデートをしたがる人間というわけでもないのでたまに息抜きとして一緒にバスケをすることでモチベーションを回復させている。

 それが一番手っ取り早いし、ずっと椅子に座っているのも健康に悪いからちょうどいい。夏休みに向けて、体力を作っておいた方がいいしね。

 一石三鳥というわけだ。

 

「確かに、小テストではお前の方が上だったかもしれないが、本番どうなるか分からないぞ。俺の頭脳明晰な部分が出てきて満点を取っちまうかもしれないぜ」

 

 そんな夢物語を得意げに語る山内は、心のどこかで本当にそんなことを思っていそうで怖い。

 しっかり勉強したし、一夜漬けしちゃえば他の奴らは出し抜けるとか思ってそう。そういうことを考えるやつなのだ。

 それだけなら、面白いことを言う奴めと嘲笑するだけで終わるが、そうならなかったときは大問題。

 ここで、こいつらがどんな立場にいるのか認識させるべきか。

 

 そう考えた俺は、堀北からもらったあるプリントを取り出し、全員の前に置く。

 プリントには、一問五点で百点満点分の問題がずらっと並んでいる。国語や数学、英語といった今回の中間試験で出る範囲のことが書かれているプリントだ。

 

「なんだこれ」

 

「何が狙いだ、斑鳩」

 

 急に出された問題を不思議そうに眺める須藤。

 そして、俺に意図を問う池。

 

「何って、簡単だよ。堀北にプリントを用意してもらったんだ。俺とお前らの格の違いを見せるためにね」

 

 今回の意図は単純、こいつらが調子に乗りすぎないように、そして櫛田桔梗を手に入れるにはもっと頑張る必要があると認識させるために用意した小テスト。

 点数という目に見える形で差が分かる形式を用意させてもらった。

 

「なるほどね……、櫛田ちゃんとデートできるか確認したいってわけか斑鳩」

 

「そういうことかなのか!ここで、だれが一番可能性があるかわかる……」

 

 俺の意図を読み違える山内に、それに乗っかる池。

 櫛田とのデートなんか俺的にはどうでもいいので、最悪その権利を譲渡してもいいのだが、なんかそういうことになったのでそのままにしておく。

 俺が一番になっても、櫛田に口裏を合わせてもらえばいい。彼女も裏の顔を見られていない相手に対して、NOとつきつけるタイプじゃない。これぐらいのことなら同意してくれるはずだ。

 

「須藤も、実力を見てみる意味で一緒にやってみようぜ」

 

「ああ、わかった」

 

 と、言うわけで。

 赤点組の上下関係が決まりそうな、小テストが突如開幕したのであった。

 

 プリントに書かれた問題は今回のテスト範囲で出てきそうな問題が書かれているので、こいつら三人でもすらすらと解けるものが多いはずだ。

 時折少しむずかしめな問題も挟まれてはいるが、所詮は高校一年生での内容、応用問題に慣れている人間なら見覚えのある問題に過ぎない。

 そういうわけなので、俺はシャーペンを止めることなく一瞬で一番下までたどり着く、回答時間は20分を設定してあるのであと10分ほど余ってしまった。

 その間に、点数を微調整して完成。他の三人が終わるのを待つ。

 

「はい、終わり」

 

 20分経ったのを確認して、俺は回答を配る。

 あいにく、堀北たちはいないので自己採点だ。

 

「しゃあ!45点!どうだ、池!」

 

「はっ、まだまだだな山内。俺は55点だ!」

 

「なっ、俺が……負けた……」

 

 一体何の自信があったのだろう。

 心の底から残念そうに崩れる山内。これまた哀れである。

 

「須藤、お前はどれぐらいなんだよ!」

 

 少しでも安心感を得たいがためか、山内は須藤に目を付けた。

 下が見つかったところで上がいたら意味なのに、何がしたいんだか。須藤がお前の下だったとしても櫛田とのデートには関係ない。

 

「40……点」

 

「しゃあああ!!!俺の勝ちだ!」

 

「うるせえぞ!山内!てめえ、点数がいいからって調子乗ってんじゃねえ!!!」

 

「うぎゃあああ」

 

 須藤をあおった山内が、ヘッドロックを決められて悲鳴を上げる。

 そりゃそうなるだろ。須藤が本気じゃないだけ感謝しておけ。

 苦しくなった山内が須藤の腕をたたき、降参する。解放された山内は、苦しそうに大きく呼吸を繰り返す。

 がっつりやられていたようだ。自業自得だから、なんも思わないけど。

 

「てか、斑鳩は…ふう、どうなんだよ。実は一番低いんじゃねえの?」

 

「俺? 俺は70」

 

 70点と書かれたプリントを三人の前に置く。

 一応60点ぐらいとる可能性に備えて70にしておいたんだが さすがに杞憂だった。

 いくら基礎が終わって、復習に入っていようとも、こいつらはこいつら。

 点数が劇的に上がるなんてことはないんだ。

 

「なななな……」

 

「は、え、は」

 

「嘘だろお前!70点って、おい!」

 

 あまりの高得点に脳が限界を迎えてしまった池と山内。

 唯一須藤だけが反応を返したが、それもただの悲鳴にしか聞こえない。

 現実を受け入れられないと、声高らかに宣言しているだけなのだ。

 

「悪いが本当だ。櫛田さんのためなら、俺はここまでできるってことだよ」

 

「お前……、そんなに櫛田のことが好きだったのか」

 

「え」

 

「悪かったな、斑鳩。お前の気持ち、今まで気づいてやれなくて」

 

「え、いや」

 

 なんだろう。

 流れが悪い気がする。

 何か、大きな誤解が生じているような。そんな感覚が、俺を襲ってくる。

 

「「でも、櫛田ちゃんは渡さない!!」」

 

 お前らのものではない。

 勘違いも甚だしい。

 

「なんだ、俺は別に興味ないから。頑張れよ、斑鳩」

 

 え、そういう感じ。

 俺は櫛田のことが本命で、めちゃくちゃ頑張ってるやつ認定されてる?

 池と山内もそんな感じだして、結託してるし。

 思ってた流れとだいぶ違うが、結果的には二人は頑張るようだし、須藤も自分の今の実力を知ってやる気になっただろうから、まあいいのか?

 その代わりに俺に大きな不利益が生じているような気がするけど。この際、必要だったと割り切ってあきらめるしかないか。

 こいつらにいくら否定したとしても、認めてもらえるとは思えない。櫛田が好きというのは、あまりにもあり得る事なので照れ隠しにしか見えないのだ。

 

 想定外というか、思ってみなかった結果となってしまったが俺の思惑通りにことは進んだからよしとしよう。

 もうそうして、あきらめるしかない。

 こうして俺は無事櫛田のことが好きな男となった。

 

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