喧嘩稼業 原作続き   作:稼業民

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③未開の花

 

 

 

 ICUそばの廊下にいる三名それぞれの思惑。

 

 里見賢治は煉獄で消耗した田島彬を投げつけ目を突こうとし、

 

 山本空はこのまま田島彬が失神するまで煉獄を続けようとし、

 

 そして田島彬は里見賢治との一対一の状況にもちこむため、確実に山本空を排除するための手を打つことを決心した。

 

 

「田島、教えてやろう。その連打の名は進道塾のれ--」

 里見がそう口を開いた瞬間であった。

『左中段猿臂』『右下段熊手』そして、

 両手両足頭型の第五手『上段頭突き』

 攻め手、受け手の頭部が接近したその瞬間、

 田島の口から大量の血液が放出され空の両目にふりかかる。

 

(目潰し!)

 驚く里見。

 いくらなんでも口内の血の量が多すぎる。

(なぜ?)

 理解できないでいる空。

 空の頭突きを顔面で受け歯を折られた田島。だがこれで、

 煉獄は止まった。これが田島の煉獄破り。

 里見は気づく。

(みずから舌を噛んで血を。煉獄が始まった直後から口内に血を溜め始めていた!)

 

 視界をさえぎられれば正確に打撃をいれられない。

(--なら煉獄は成立しない)

 里見との対戦でそのことを熟知していた空は相手を突き放す打撃を選択。

 空は田島からの報復を恐れてしまった。

 即座に離れ血を拭えば師のサポートに回ることもできたのだ。

(里見の前で本気を出すことになるが)

 田島は思考を捨て反射で身体を動かす。

 

 空が選んだ技は右拳による中段突き、田島の胴体を狙い押し返そうとする。

 

 視界が不鮮明なまま放たれたその突きは、負傷した田島に半身で捌かれ、

 

(突きの衝撃を受け流した?)

(合気?)

 

 玉拳の師弟が驚くなか、田島は最適な『崩し』を見せる。

 右腕の肘を押さえ、空の右側面へ回る。

 膝裏を足刀で蹴り、空を前のめりの姿勢にさせた。

(まるで流麗な舞、なんて洗練された動き)

 背後に回りこんだ田島。煉獄の後遺症は重い。それでも体勢の優位は田島にある。

 田島は後ろをむいた状態でを空の首に巻きつけ、姿勢を逸らさせた。

『両手逆極め』

 打撃主体の攻撃を捌き極める。この技法は、

 

(いや唐手か!?)

 極め投げさえあるのが琉球唐手。田島彬のバックボーンはこれか。

 田島は狭い壁際に回り、空を盾にするように移動。里見との距離をとっていた。

 一連の動きの中で里見が田島に攻撃をはさむ余地はなかった。

(空君が反撃しなければ技を差し込む隙間はあった。連携ミスが現実のものとなってしまったか)

 首を極められた空は両腕を動かし身体を揺さぶり田島の拘束を解こうともがく。

 後ろをむいた状態の田島は、空に対し有効な急所をさらしていない。

「……人質をとったつもりか? 今のおまえに首の骨を折るような力は残っていないだろう?」

 里見はそうささやく。

(仮に工藤のような怪力があろうと、金隆山のような筋肉の量があろうと、煉獄で疲弊したおまえには)

 空を抱えたまま里見相手にこの場から脱出することなど不可能だ。

 田島はわかっていた。今の反撃が精一杯。

 ターゲットとなった男は汗と血を垂れ流し、今にも空に自由をあたえそうになっていた。

(もう立っているのでやっとだ。空一人が相手でも厳しい体力差)

 田島はそう思う。

(俺の目的は勝つことではない。ましてや山本空でもない……。おまえだよ里見)

 ただ言葉を操り弟子の煉獄を見守っているだけだったこの男。

 

(唐手なら極めで終わる型だが……)

 

 これはスポーツではなく喧嘩。

 突然空が叫び声を上げる。

 獣のような奇声。ただの痛みによるものではない。

 

「なっ」

 田島が手の位置を首から顔にむかってずらし、目を突いたのだ。

 両目に指が入っている。

 空は顔を抑えその場に崩れ落ちる。

 里見は当初の目的を果たす。田島の目を獲る。

(私も出し惜しみはしない)

 

 ほとんど体力が残っていない田島に反撃の余地はない。

(だからこそ全力で山本空を潰す必要があった。里見との一騎打ちという局面を経る。俺の野望を叶えるために……)

 逃げようとせず里見にむかって振り返る田島。

『殴る』のではなく『押す』攻撃、それとはすなわち、

 門。

 発勁により壁に叩きつけられた田島が里見のもとに勢いよく弾き飛ばされる。

 うめき声をあげながら田島が殴りかかってくるが、

 

 秘投必殺。

 

 里見は相手の拳をかわし、開いた右腕一本で顔面を覆い、そのまま地面にむかって叩きつける。

 玉拳における最強の投げ技は、

 奇しくも富田流の最強の投げ技『高山』に相似していた。

 

 富田流の高山は投げに入る直前に相手の急所を潰すことで、受け身不能の必殺の投げを実現させる。

 

 玉拳のそれは投げることによって相手が頭を守るため受け身をとろうとする防御本能を利用し必殺に繋げる。

 

 里見は既にボロボロになった田島の放った突きにカウンターをとり、

 投げで床に叩きつけ、

 それでも田島は首をひねり、肩を犠牲にすることで重傷を避けた。しかし、

(投げたそのとき既にこちらは急所を突く準備ができている)

 田島が起き上がる、這いずる、首を動かすなどといった回避行動をとる前に、

 投げ終えた里見が先手をとる。すでに顔の上部に添えていた指を動かし、

 田島の目を刺した。田島彬右目失明。

 

(目的は達した)

 これ以上の戦闘は無意味。空の様子も気になる。

 里見が手を離そうとしたその瞬間、その右手がつかまれる。

「片手仕事になったな」

 たった今片目を失った男が嗤う。

 里見は右手を離すことができない。

(罠)

 里見の頬を伝う汗がうわずる。

(そう、的がわかっていれば罠にはめることも容易い)

 里見の右手、正確には人差し指と中指が田島の両手に捕まれていた。

 この条件で逃れることは叶わない。

「き、貴様!!」

「……これで今日おまえが勝つなどありえないことになった」

 田島は躊躇なく指を折った。里見賢治人差し指中指基節骨骨折。

 

 

     □ □ □ □ □

 

 山本空は回顧する。

 

 両目に光輝があった時代。田島彬に目を潰されず、まだ空手--玉拳を学び強くなることができる時代を。

 両目を失った今となっては、誰かに戦いを挑むことができたあのころの自分が野蛮にすら感じられる。

 残された視界は右目の直径わずか数ミリのみ。

 山本空は今、世間に視覚障害をもつ空手家として認知されている。

 大会には出場できる。研ぎ澄まされた型を披露し、その完成度の高さから日本代表の筆頭として認められている。

 しかし戦うことはできない。

「柔道なら目が見えなくとも相手と戦うことはできます。ですが空手の場合、組み手を行うことは非常に困難です」

 インタビュアーに答える山本空。

「……一人で自由に外に出歩くこともできない。杖に頼る生活。いえ、妻には毎日助けてもらっています。感謝もしていますが、でも……」

 言葉を詰まらせる空。

「若かったあのころは人並みの幸せになんて興味はなかった。己の強さこそが幸福そのものだった。いつか、きっかけがあれば……。自分には才能がある。山本陸の息子だ、里見賢治に認められた一番弟子だ。そう理由をつけてやり続けた。結局他者に依存して、希望をもたされてしまった。俺に才能なんてなかったのに。……格闘技に費やした時間が無駄だとは思っていませんよ」

 閉じられた目元に手をやる空。

「でも馬鹿だった。あのときもそうだ。里見さんに必要なことだとけしかけられ、田島彬に襲撃。その結果が両目の失明。……望む結果は得られました。あいつの右目を奪った。だからなんだ……」

 空は息を呑む。そこから一分弱沈黙する。

「……父の復讐をすることに夢中になっていた。なぜ戦うことから逃れられなかったのでしょう。空手を学ぶ理由は精神の鍛錬……喧嘩の強さなんて必要ない。精々護身術でも良かったはずなのに。なぜ修羅の道を……」

 握りこぶしをつくる空。やがて手の中に血がにじみ出す。

「ときどき思い出してしまうんですよ。田島に放った技の数々を。夢の中で再現し、身体が動いてしまう。こう……」

 鉤突きに始まる一連の技を虚空に放つ空。

「武道っていうのは、ライバルと競いあい高めあうもののはずなんです。憎しみからは心の強さは生まれない……みたいなね。そういう綺麗事を今は真顔で言えるようになってしまった。違う」

 空は長いため息をつく。

「違う!! 本当は俺が最強になりたかった。田島も倒して! 親父も倒して!! 里見さんも超えたかった。上さんも、あのトーナメントに出ていた奴らも!! 誰も彼も!!! なのに、いや、だからあのとき、田島の野郎の動きを読めなかった……。自分が弱者だと認められず……。俺には根性がない。たかが両目が見えないくらいのことで最強になることを諦めちまった。俺はもう四十だ……それもほぼ全盲の。今さら頂点を目指すだなんてできっこない。俺は……」

 うつむき、膝を床につき、そして顔を手で隠す。インタビュアーに顔を見られたくなかったからだ。

「本当はどう思ってるんだ? 空君」

「また……あのころみたく熱くなりたいです、上さん」

 

     □ □ □ □ □

 

 橋口はまだ自分の手足を縛る結束バンドと戦っていた。

 戦いが終局し約一分が経過している。

 ICU周辺には物々しい雰囲気が漂い続けていた。中国語で交わされる病院のスタッフのやりとり。ホテルマン、大会関係者もいる。

 室内で倒れていたB・B・Bを医者が診ている。看護師と交わしている会話のテンションからして、命に別状はないようだった。かといって意識を取り戻しそうにはない顔色だ。

 

 廊下には担架で運ばれる人の姿もあった。白い道着、あれは……

(空さん!? 田島の野郎に返り討ちにあったのか?)

 空に付き添っているのは師である里見。無言のまま空の肩に手を置き、下を向いたままスタッフについていく。

 

 もがき続ける橋口の元に上杉が立った。

「動くな、今切ってやる」

 誰かに渡されたのか、ハサミを使い橋口の拘束を解いた。

「田島はっっ、やったんですか!?」

 上杉は静かにするようにと指を口の前に立てる。

「やった。里見がやった」

(よっしゃ!!)

 握りこぶしをつくり、心の中で絶叫する橋口。

「良かった。良かったですよ本当に。俺はなにもできなくて悔しいですが……」

「そうだ、橋口、おまえにはこれから活躍してもらわないとな」

 橋口は無理矢理元気をふりしぼり、股間の痛みに耐えながら立ち上がる。

 上杉は弟子にフィルムに入った薬を手渡す。魔人薬。数分前自分に超人的な力をもたらした劇薬だ。

「どうしてこれを?」

「俺がいつ死ぬかわからないからだ。後藤さんの説明を真に受けたのはあのとき焦っていたからだ。普通に考えてあれほどのダメージを受けていながら平常状態に戻っている今は異常だ」

(そして田島のボディーガードと戦っていたときの効果も)

「な、なにを言っているんですか上さん……」

「寿命を前借りしているに等しい。いつ死ぬか……半年後、いや一ヶ月後……もしこのトーナメントでまた生死の境に至るようなダメージを負い、この薬に頼るときがきたら……俺はいつ死ぬかわからない。だから……」

「だからなんですか?」

「そのときはおまえが進道塾を背負え」

「俺に……」

 田島襲撃計画でなにもできなかった最弱の駒。

 橋口信の口内が緊張で乾く。

「どうした? 即答できないのか? 俺もいない、陸先生も帰ってくるかはわからない。そして……」

 橋口は恥じていた。自分の弱さに、師に頼りきりになっていた自分に。

(俺はセコンドとしてこのマカオにきている。だが、そうだ、上さんが敗れる可能性も、死んじまう可能性だってあったんだ。そのとき自分がどう身を振るか考えてもいなかった)

 数秒間考え、橋口は下を向き上杉から視線をそらしてしまう。

 彼はICUの廊下に散乱している血の痕跡を発見した。

 

「す、すいません。今言うことじゃないかもしれませんけれど、田島は!? 逃げたんですかあいつは……。そもそも上さんがここを飛びだして数秒後に銃声が何発か聞こえました。……俺が見えないところで一体なにがあったんです!?」

 廊下の人混みの中には警察官の姿が複数あった。そのなかでも現場のトップと思しき刑事と話し合いをしているのはラフな格好をしたアジア系の中年男性。

(タン・チュン・チェン!!?)

 屈強なボディーガードに挟まれているとはいえ、陰陽トーナメントの最重要人物がここに……。

「質問が多いぞ橋口。田島は右目を失ったあと一人で逃げた。銃を使ったのも田島だ。捨て台詞を吐いた。『おまえたちのことを決して許さねぇ』だとよ」

 

     □ □ □ □ □

 

 里見は田島に突きつけられた銃口を見つめていた。

「なにをしている。這いつくばれ!! 両手を挙げろ!! 俺に命乞いをしろっていってるんだよ里見!! 上杉っ、おまえもだ!!」

 そのような意味の言葉を田島が叫んでいることは辛うじて里見、上杉の両者に伝わった。舌を切り歯が折られた田島の発音は不明瞭極まりなく、発言者が自分たちにキレていることはわかる。

 

 壁に手をかけどうにか立ち上がった田島。その顔面はズタズタである。重ねられた打撃による傷、みずから噛み切った舌。潰された右目、残った左目もアザによって半ばふさがっている。率直に言って怪物のような容貌だ。

 小さなハンドガンが隠されていたのはショルダーホルスター。背広の内側に田島の切り札はしまわれていた。空の打撃では触れることのできない部位。

(スーツの下に着ていたのは防弾チョッキ。そうか、奴は格闘家ではない。銃有りの戦いに備えるのなら当然か……)

 攻撃の初手が煉獄でなければ、田島は銃取り出しを突きつけ襲撃作戦を失敗に終わらせることができたのだ。

 これが田島にとっての『なんでもあり』。里見や上杉とはそもそも見ている世界が異なる。

(今の今まで使われなかったのは、こちらに拳銃を奪われ利用されることを恐れてのことか)

 里見も上杉も手を挙げようとはしない。田島に対し距離をとろうともしない。

 二人は既にふらふらになっている田島の火器を恐れてはいなかった。単に戦力としてだけではない。

「わかっているだろう田島。ここでおまえが陰陽トーナメントの参加者--まだ敗退していない二人を殺すということは、タン・チュン・チェン氏からの制裁を免れないということだ。カメラに今も中継されている。音声も含めてな。……生涯暗殺されるリスクを負い続けるのか?」

 そう諭した里見の足下に向け田島は一発の銃弾を放つ。

「俺はいつでもお前たちを殺せる」

「死に体のお前がイキるな。俺と上杉さんがその気になれば今ここでおまえを殺せる。銃をもっていようがいまいがな。お前がどの程度銃の使い手なのかにもよるが」

 田島はその言葉を聴き、怒りのためか血反吐を足下に吹きかける。

 里見、上杉共にまったくの無傷で戦闘を終えている。この死線を悠々と踏み越えた。

 歩くのもやっとな田島とは違う。

「里見……」

 口を開いたのは上杉だった。数十分前まで立ち上がることもできなかった男が健在であることに里見は驚かない。

「ここでやりましょう」

 --階下が騒がしい。田島が銃を撃ったことで異常に気づいたのだろう。まもなく病院の人間がこの廊下に殺到してくる。そうなればもう自分たちに行動の余地はない。

「空君の両目は重傷です。回復不可能。彼がもう空手ができない身体になった。たった今、田島にやられた」

 小声でそう知らせる里見。

 空は泣き顔を隠すがごとく両手を顔で覆い、床で震えることしかできない。声も上げられない。

「俺はやらない」

「……なぜです? 報復に報復を重ねるのが無為だと?」

「そうだ。もう陸先生の仇は獲った」

「ならどうするんです! 空君の恨みは」

 里見は珍しく声を荒げる。

「空君はこうなることも念頭において戦いに参加したはずだ。これもまた結果の一つ。殺される可能性だってあったさ」

「そうだ、お前らは運が良かっただけだ!! 殺されなかっただけマシだと思え!!」

 吠える田島。

 里見はスーツを血で汚したその男から目を離し、上杉にむかって問いかけている。

「あなたはかつてあの人の弟を殺したでしょう? その罪を報いるときがきたんですよ!!」

 そう言って里見は、空にむかって指をさす。

 山本陸の息子である空を。

 上杉は首を横に振る。

(薬の効果は切れた。銃をもった田島とやりあうことは不可能だ)

 ここで負傷すればトーナメントは終わる。

 二人が会話をしている間に田島は一歩一歩、非常口にむかって後ずさっていた。

「こいつとは仮借がないわけではない。だが俺たちが田島に襲いかかり、その流れのなかで偶然目をえぐる場面が発生してしまった。もし陸先生がここにいたとしても、息子を庇い田島を殺しに行くとは思えない。そして空君自身がそう思うか……」

(……私自身が思っていたことをほぼ代弁されてしまった。そう、すべては私の無力さに由来する。田島の反撃をみすみす見逃し、そしてあの目潰しを予測できなかった私のミス……)

 本願である田島の右目を奪った。それがどうした。

 田島は非常口のドアノブに手をかける。

 わざとらしいタイミングで警備員たちが警棒をもって診察室の階段から現れ、

 ほぼ同時に病院のスタッフたちがエレベーターから姿を現す。

 地上の道路からは誰かが警察を呼んだのか、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

 里見賢治は中国語で看護師に負傷者のいる場所を知らせる。

 田島は負傷箇所を看ようとする医師の手を振り払い、この場を後にしようとしていた。

「……わかりました。私もこの場では深追いしません(もう部外者が多すぎる)。アンダーグラウンドのスタッフが私たちを守ってくれるでしょう。罪に問われることはない」

「田島は」

「その交戦権はトーナメントを制した者にあたえられます。私と上杉さん、二人で争いましょう」

「その指でか?」

「勝率は下がったと認識していますが、それでも私の優位は変わりません」

(里見のこの発言は強がりではない。本気だ)

 上杉は苦笑いして里見から視線を切る。

 ろくに言葉を発することもできない田島は、非常口のドアを開け、中指を立てて退場しようとする。「てめえら全員いつか○してやる!! 覚えておけ!!」

「思ったよりつまらない男を相手にしていましたね」

(これが奴にとって生涯初の敗北……。奴にとって濃くはっきりした線になるのか。奴が変わる前に対戦し、今度は対等な条件で敗北をあたえてやる)

「田島、忘れるな!! お前は山本陸の息子に敗れたことを!! 進道塾の勝利だ!!!」

(空君の意思を聞いてからでも遅くはない。あるいは陸先生が戻ってきたときにでも……田島をどう処するかは俺が決めることではない)

 

(甘いな……)

 ドアを閉め階段を降り……踊り場で座りこんだ田島は独白する。

(奴らにとって俺を倒す最後の機会だった。俺を殺すしか勝機はなかったというのに)

 ズタズタになった顔面は常人にとって正視に耐えず、表情を判別することも難しかった。だが田島は確かにそのとき笑っていた。

 

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