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ICUそばの廊下にいる三名それぞれの思惑。
里見賢治は煉獄で消耗した田島彬を投げつけ目を突こうとし、
山本空はこのまま田島彬が失神するまで煉獄を続けようとし、
そして田島彬は里見賢治との一対一の状況にもちこむため、確実に山本空を排除するための手を打つことを決心した。
「田島、教えてやろう。その連打の名は進道塾のれ--」
里見がそう口を開いた瞬間であった。
『左中段猿臂』『右下段熊手』そして、
両手両足頭型の第五手『上段頭突き』
攻め手、受け手の頭部が接近したその瞬間、
田島の口から大量の血液が放出され空の両目にふりかかる。
(目潰し!)
驚く里見。
いくらなんでも口内の血の量が多すぎる。
(なぜ?)
理解できないでいる空。
空の頭突きを顔面で受け歯を折られた田島。だがこれで、
煉獄は止まった。これが田島の煉獄破り。
里見は気づく。
(みずから舌を噛んで血を。煉獄が始まった直後から口内に血を溜め始めていた!)
視界をさえぎられれば正確に打撃をいれられない。
(--なら煉獄は成立しない)
里見との対戦でそのことを熟知していた空は相手を突き放す打撃を選択。
空は田島からの報復を恐れてしまった。
即座に離れ血を拭えば師のサポートに回ることもできたのだ。
(里見の前で本気を出すことになるが)
田島は思考を捨て反射で身体を動かす。
空が選んだ技は右拳による中段突き、田島の胴体を狙い押し返そうとする。
視界が不鮮明なまま放たれたその突きは、負傷した田島に半身で捌かれ、
(突きの衝撃を受け流した?)
(合気?)
玉拳の師弟が驚くなか、田島は最適な『崩し』を見せる。
右腕の肘を押さえ、空の右側面へ回る。
膝裏を足刀で蹴り、空を前のめりの姿勢にさせた。
(まるで流麗な舞、なんて洗練された動き)
背後に回りこんだ田島。煉獄の後遺症は重い。それでも体勢の優位は田島にある。
田島は後ろをむいた状態でを空の首に巻きつけ、姿勢を逸らさせた。
『両手逆極め』
打撃主体の攻撃を捌き極める。この技法は、
(いや唐手か!?)
極め投げさえあるのが琉球唐手。田島彬のバックボーンはこれか。
田島は狭い壁際に回り、空を盾にするように移動。里見との距離をとっていた。
一連の動きの中で里見が田島に攻撃をはさむ余地はなかった。
(空君が反撃しなければ技を差し込む隙間はあった。連携ミスが現実のものとなってしまったか)
首を極められた空は両腕を動かし身体を揺さぶり田島の拘束を解こうともがく。
後ろをむいた状態の田島は、空に対し有効な急所をさらしていない。
「……人質をとったつもりか? 今のおまえに首の骨を折るような力は残っていないだろう?」
里見はそうささやく。
(仮に工藤のような怪力があろうと、金隆山のような筋肉の量があろうと、煉獄で疲弊したおまえには)
空を抱えたまま里見相手にこの場から脱出することなど不可能だ。
田島はわかっていた。今の反撃が精一杯。
ターゲットとなった男は汗と血を垂れ流し、今にも空に自由をあたえそうになっていた。
(もう立っているのでやっとだ。空一人が相手でも厳しい体力差)
田島はそう思う。
(俺の目的は勝つことではない。ましてや山本空でもない……。おまえだよ里見)
ただ言葉を操り弟子の煉獄を見守っているだけだったこの男。
(唐手なら極めで終わる型だが……)
これはスポーツではなく喧嘩。
突然空が叫び声を上げる。
獣のような奇声。ただの痛みによるものではない。
「なっ」
田島が手の位置を首から顔にむかってずらし、目を突いたのだ。
両目に指が入っている。
空は顔を抑えその場に崩れ落ちる。
里見は当初の目的を果たす。田島の目を獲る。
(私も出し惜しみはしない)
ほとんど体力が残っていない田島に反撃の余地はない。
(だからこそ全力で山本空を潰す必要があった。里見との一騎打ちという局面を経る。俺の野望を叶えるために……)
逃げようとせず里見にむかって振り返る田島。
『殴る』のではなく『押す』攻撃、それとはすなわち、
門。
発勁により壁に叩きつけられた田島が里見のもとに勢いよく弾き飛ばされる。
うめき声をあげながら田島が殴りかかってくるが、
秘投必殺。
里見は相手の拳をかわし、開いた右腕一本で顔面を覆い、そのまま地面にむかって叩きつける。
玉拳における最強の投げ技は、
奇しくも富田流の最強の投げ技『高山』に相似していた。
富田流の高山は投げに入る直前に相手の急所を潰すことで、受け身不能の必殺の投げを実現させる。
玉拳のそれは投げることによって相手が頭を守るため受け身をとろうとする防御本能を利用し必殺に繋げる。
里見は既にボロボロになった田島の放った突きにカウンターをとり、
投げで床に叩きつけ、
それでも田島は首をひねり、肩を犠牲にすることで重傷を避けた。しかし、
(投げたそのとき既にこちらは急所を突く準備ができている)
田島が起き上がる、這いずる、首を動かすなどといった回避行動をとる前に、
投げ終えた里見が先手をとる。すでに顔の上部に添えていた指を動かし、
田島の目を刺した。田島彬右目失明。
(目的は達した)
これ以上の戦闘は無意味。空の様子も気になる。
里見が手を離そうとしたその瞬間、その右手がつかまれる。
「片手仕事になったな」
たった今片目を失った男が嗤う。
里見は右手を離すことができない。
(罠)
里見の頬を伝う汗がうわずる。
(そう、的がわかっていれば罠にはめることも容易い)
里見の右手、正確には人差し指と中指が田島の両手に捕まれていた。
この条件で逃れることは叶わない。
「き、貴様!!」
「……これで今日おまえが勝つなどありえないことになった」
田島は躊躇なく指を折った。里見賢治人差し指中指基節骨骨折。