性転換して魔法少女になったけど、いつの間にか淫魔と戦うドスケベ魔法少女の仲間にされていた 作:名護十字郎
本編で描写されなかった部分と敗北ifをメインに考えています
次の話は6/7投稿予定です
「……着いた、ここなら救急車も来れるだろ」
半斗浦西部でのデザイアやサビーを狙った魔法少女との戦いを終え、西部を出たあたりでようやく安堵の息を吐く。
私たちは三人交代でマキナを担ぎながら帰路に着き、ようやく道路が寸断される前まで辿り着いたところだ。
救急への連絡はあらかじめ済ませているため、後は到着を待つだけ。
「ありがとうサビー、運ぶの手伝ってくれて」
「ククク、あそこに置いてアタシだけ帰るわけにも行かねだろ?」
サビーはそう不敵に笑う。
最初に会った時と同じような笑い方だけど……その笑いには最初会った時よりも温かさが滲んでいた。
結局ラフィーの先輩探しは振り出しどころか後退したけれど、サビーの心が軽くなったのなら私たちの一日は無駄じゃなかったと思いたい。
横倒しのまま放置されたバス停のすぐ側のベンチにマキナを寝かせて、サビーは自由になった両手を上に大きく伸ばす。
「さて、アタシの出番はここまでかね」
その次に体を軽く左右に捻るとそう言って、そのまま歩き出して私たちに背を向けた。
「ほら、取っとけよ」
サビーは私たちに振り返りもしないまま後ろ手に何かを投げつける。
ちょうど二つ、私とラフィーでキャッチしたものは……デザイアの仮面だ。
元々は大時計に見紛うほどのサイズだった仮面は8等分まで砕けてようやく人が持ち歩けるサイズになっていた。
ひょっとしたらマキナを背負ったまま持ち帰るためにサビーがこっそり割ったのかもしれない。
「あんだけデカいデザイアの討伐報酬ならいい金になんだろ、アタシは管理局に出向くのも嫌だしお前らにやるよ」
「な、何を言ってるんですか!?そういうのはちゃんと三人で……!」
「あのなお前ら、連む相手はしっかり選べよ。
脱走犯のアタシと一緒にいたら、お前らまで犯罪者扱いされるぜ?
……分かったら、ここでさよならだ」
報酬を全額私たちに押し付けるような物言いにラフィーが反発するも、サビーの態度は崩れない。
デザイアの報酬も、手切れ金とでも言いたいのだろう。
さっきのサビーの笑い声を聞いて、私たちを認めてくれたと思っていたけどむしろ逆だった。
サビーの方が、私達に釣り合わないと自らを諦めようとしている。
そんな自らを諦め切ったサビーの別れの挨拶にラフィーが上手く返事できないまま固まっている間にも、サビーの背中はどんどん小さくなっていく。
「……待って!」
私の必死の呼びかけにサビーが振り向いてくれることはない。
けど、足は止めてくれた。
「これで私たちだけが報酬貰ったら立派な泥棒だよ。
……私、まだ『点字』やりたくない。
だから、また受け取りに来て?」
私がそう言い終わり、サビーは最初何も返事してくれなかった。
ラフィーも口を閉じたまま、しばし沈黙の時間が流れる。
しかし、背を向けたままのサビーは……少しずつ肩を震わせ出した。
「く、クク……ハハハハ。
そう来たか、それじゃアタシも断れねえな。
グッ……クク、ハハハ、ス……いやあ参った参った、全くお前には、勝てねえわ……」
その小さな震えはやがて笑い声に変わっていく。
その中に何度か涙をすするような音、顔を拭うような手付きをしているけど、私がサビーの顔を見ていない限りあれは笑っているだけ。
そういうことにする。
ひとしきり『笑った』サビーは顔を見せないまま、また後ろ手に何かを投げつけてくる。
今度はデザイアの画面よりずっと小さくて軽い。
手に取ると、それはお店の名前が書かれた名刺のようなカード。
「アタシの行きつけの店だ。
暇が出来たら顔出しな、金はその時にもらう。
……あぁそうだ、なぁホーリーシアン。
お前の先輩のことだが……ルルが生きてたんだ、アッシュの奴も分からねぇぜ」
「……はい!」
ラフィーの返答を聞き入れて満足したのか、今度こそサビーは歩き出した。
「……またね!」
と言って大きく手を振ると、サビーも後ろ手に返してくれる。
遠くから聞こえる救急車のサイレンの音が少しずつ大きくなるのに反比例するように、私たちに向けたサビーの背中は少しずつ小さくなっていった。
――――――――
「……見知らぬ、天井ですね」
「嘘おっしゃい。
しょっちゅう入院してたでしょうが」
第一声でそう言うと、側に座っていた看護師さんに即座に小突かれた。
周囲を見渡すと瓦礫まみれの半斗浦西部ではなくカーテンに区切られたベッド。
きっとリオンとラフィー、それからサビー・バルチャーと名乗った魔法少女の3人であそこから運び込まれたのだろう。
看護師さんに気絶していた怪我人を軽くとは言え小突くのはどうなんですかと言いかけたが、私のこれまでの行いを鑑みるとこれくらいの対応をされても仕方ないかもしれない。
現に病院のお世話になるのは2年ぶりくらいなのに、こうして看護師さんに完全に顔を覚えられている。
「真藤さん高校に入ってから大人しくなったと思ってたのに、今回はまたヤンチャしましたねー」
「うっ……。
い、いつもお世話になってます……」
ニコニコ顔を崩さないまま圧をかけてくる看護師さん。
怖い。
本気で怒ったママには敵わないかなと冷静に評価しかけたけど、よく考えたら私が入院するたびにママも看護師さんに頭を下げてたから多分ママより強い。
ママが私のせいで看護師さんに頭を下げてた説……これは考えなくていいか。
「全く、やれ引っかかったボールを取りに行って落ちただの台風の時に学校で飼ってる小鳥でしたっけ?のケージにビニールシート掛けに行って転んだだの……本当に無茶するんですから」
「どれもすぐ治ったからセーフだったりしません?」
「……どれも普通の子なら1ヶ月コースのはずでしたけどね?
真藤さんあんまりにも頑丈で治りも早いから先生いつも『あの子どうなってんの』って頭抱えてたんですけどね?」
「ひょっとして私、異能生存体だったりしませんかね」
「何ですかそれ?」
「あっはい何でもないです……」
エンタメコンテンツといえば魔法少女一択と言われる半斗浦でロボットアニメ発の用語なんて通じるわけもなく、私渾身の話題逸らしは全くの空振りに終わる。
……看護師さんの言う通りで、昔は後先考えずに行動して大怪我をしてもすぐに治ってを繰り返していた。
運が良いのか体質なのか、そのおかげで今回も大事はないみたいだ。
あちこちが少し痛むけど、特に動かせないような部位もない。
「今回は全身打撲ですけど例によってどこも折れてないですし、二泊三日の検査入院になります。
それからお友達が右手にガラスが刺さったかもと言ってたのでCT撮りましたけど、特に異常はありませんでしたよ」
看護師さんから渡されたCT写真を眺めても確かにそれらしいものは写ってないし、私自身右手に特別何か刺さったような記憶もない。
何しろリオン達がデザイアと戦っていた頃は全身が満遍なく痛んで特定のどこかを気にかける余裕もなかった。
……でも、最後にリオンのサポートをした時に少しだけ右手が熱かったような……?
「それからお友達が来ていますよ。
呼んでくるので少し待っててくださいね」
看護師さんがそう言ってベッドから立ち去り病室のドアが開かれた直後。
「マキナ!!」
そう言って私のベッドに飛び込んでくる子。
言うまでもなくリオンだ。
「ちょっとリオンちゃん!
……んもう」
それに呆れながらもラフィーが続いて部屋に入る。
看護師さんは特にリオンを咎めるでもなく笑って病室を去っていった。
「マキナ、どこか痛いところない?熱はある?息苦しいとかない?ご飯ちゃんと食べられる?私のこと分かる?自分の名前言える?何か欲しいものある?」
「お、大袈裟ですよリオン……」
看護師さんの退室を待つ事もせずにリオンは私の文字通り目と鼻の先に来て捲し立てる。
後半というか最初以外全部病気の心配をしてるあたり、今のリオンはかなり冷静さを欠いているらしい。
……欲しいものなら待望の新作『ルミナークディフューズⅥ』だけど、今口にしたら発売してもないゲーム探してリオンが半斗浦を駆け回る事になる気がするので黙っておく。
「リオン!マキナはまだ怪我人なんだからもう少し離れてください!」
「やだ!マキナぁ!!」
とうとうラフィーが首根っこを掴んでリオンを引き剥がした。
普段はラフィーが近付くだけで(暴力的な胸に威圧されて)小動物みたいに縮こまるリオンも今回はそんなのお構いなしに抵抗しながら泣き喚く。
……私がどれだけリオンに心配をかけたか、想像すると少し胸が痛む。
「ラフィー、離してあげて下さい。
ほらリオン、おいで」
そう言って両手を広げると、ラフィーを瞬く間に引き剥がしたリオンは磁力に引き寄せられるように私の胸の中に収まった。
私に顔を埋めるリオンの両肩は……僅かに震えている。
「マキナ……ごめんなさい、ごめんなさい。
私、魔法少女なのに、マキナをちゃんと守らなきゃいけなかったのに」
そうして、涙を流しながら私への謝罪を始めた。
正直、今回の怪我に対してリオンやラフィーが悪いとは微塵も思ってはいない。
そもそもヨロズ級相手に皆生きて帰れただけでも奇跡だし、戦う力もないのに西部に同行すると言ったのは私だ。
「マキナ……お願い、居なくならないで。
マキナにも捨てられたら私、生きていけない」
……「にも」?
泣きながら私に謝り続けるリオンの言葉の中に、不穏な一文が紛れ込む。
きっと、これは私がいずれ向き合わなければいけないリオンの過去と内面の重要なピースだ。
けど今の不安定なリオンからそれを聞き出す勇気は私には……ない。
だから、さっきみたいに話題を逸らして誤魔化すしかできなかった。
「もう、無理についてくって言い出したのは私なんだからリオンのせいじゃないですよ。
強いて誰かのせいにするなら、あんな所に行こうって言い出したラフィーのせいですね」
「……えっ!?
わ、私止めましたよね!?」
「そうでしたっけ?じゃ全員悪いって事で」
「んもぅ……でも、そうですね。
私も、リオンちゃんにマキナを見捨てて逃げてって言っちゃいましたしおあいこです。
……だからほら、泣かないでリオンちゃん」
「うっ、う……ぐずっ、マキナぁ……!」
そうして核心から目を背けながらもラフィーと二人がかりで泣きじゃくるリオンを宥め、その嗚咽が徐々に安らかになっていくまで彼女の頭と背中を撫で続けた。
――――――――
それからしばらくの後、病室には先程までの泣き声とは真逆の静かな声が微かに聞こえるのみになった。
リオンの、安らかな寝息だ。
「……寝ちゃいましたね」
「泣き疲れたんでしょうね」
そう言いながらラフィーと私の二人でリオンの頭を撫でると、眠りについているリオンの両腕に少しだけ力が入り、私にまた抱きつく。
おかげで、元より安静を言い渡されていたとは言え私はずっとリオンの両手に拘束されていた。
「そんなにリオンちゃんに愛されて、マキナも幸せ者ですね」
ラフィーはそんな私を見て笑いながらそう言う。
「そうでしょう?この子は私のものなんだからあげませんよ?」
そう返してリオンの背中を抱きしめるとリオンがふにゅ、と変な寝言を口走った。
最初にラフィーが吹き出し、私もそれに釣られて笑う。
ラフィーが言う通り、私は本当に幸せ者だ。
……それが不当な立場でさえ無ければ、の話だが。
「……本当は、ここに居るべきなのは私じゃないはずなんです」
卑しくもリオンを強く抱きしめながら、不意に私の口からその言葉は漏れ出した。
ずっと胸の内に秘めていた、小さな引け目が。
「リオンには、お姉ちゃんが居たんですよ。
ユクモって言って、私の親友でもありました」
本当は、こうしてリオンに抱きつかれて、泣きながら心配されるのにはもっと相応しい人物がいたはずだ。
失踪中のリオンの……武網の本当の姉、矢口ユクモ。
今の私は、彼女のポジションを乗っ取っているようなもの。
「リオンはちっちゃい頃からお姉ちゃんっ子で、知らない人が来るとすぐユクモの後ろに隠れてましたね」
そう言いながら、初めてリオンに会った頃……まだ武網だった頃を思い出す。
紆余曲折あって親交を深めたユクモの家に遊び行って、姉の言いつけで自己紹介だけ済ませた武網はすぐにユクモの背後に身を隠していた。
そこから目を見て話してくれるまで、打ち解けるまで長い時間を費やしたのを思い出す。
「昔はお姉ちゃんお姉ちゃんだったのが、今はマキナマキナ。
この子は魔法少女になる前の事をあんまり覚えてないみたいで、時折私をユクモと勘違いしてるんじゃないか、って思う時もあります」
今のリオンには明らかに記憶か人格の欠落がある。
2年前、私と矢口姉弟の縁が切れた時の一件も覚えていないみたいだし、性転換したばかりなのにもう男性的な振る舞いを見せる事はない。
それに……「私がデザイアに襲われた時に変身した」なんてのも簡単に信じ込んだ。
「……でも、それでも良いかなって思っちゃうんです。
もしリオンが昔を思い出して、それで傷付くくらいなら偽物の記憶の中で私が守ってあげたいんです」
残酷な真実と優しい虚構の中なら、後者で幸せになっていてほしいと考えてしまう。
きっとリオンが一部の記憶を忘れているのは、それが悲しい記憶だから。
それを無理に取り戻せば、きっとリオンは深く傷ついてしまう。
それにユクモが失踪した今、リオンの過去を断片的にでも知っている私が記憶を封印してしまえばもう真実は誰の手にもない。
この世の誰も知らない事は、無かった事にならないだろうか。
そう、リオンが魔法少女になる前にやった「あんな事」も……!
「……ッ!!」
その光景を、一瞬でも想起したのが間違いだった。
……フラッシュバック。
脳裏に焼きついた光景が、鮮明に思い起こされる。
自分自身の尊厳を、存在ごと否定した「あんな事」の凄惨な光景が、瞼の裏に貼り付いて離れない。
「は、は……か、はっ……!」
「ま、マキナ……!?」
壊れた笛のような音が自分の喉から発せられているという簡単な事にさえすぐ気付けないほど、呼吸ができなくなる。
すぐ近くで発せられたはずのラフィーの声も、全く耳に入らない。
まただ。
あの時の光景を少しでも思い出してしまうと、呼吸すらままならなくなる。
自分の喉すら思い通りに動かせず、息は吐き出されるばかりで吸い込めない。
「ら、ふぃー、それ、押して……!」
「は、はい!」
なんとか指差してナースコールをラフィーに押してもらい、すぐに看護師さんが病室に駆け込んでくる。
私の荒れた息遣い以上を見ただけで過呼吸を察してくれたようで、すぐにリオンごと私をベッドから引き剥がして私の背中を叩く。
「大丈夫ですよ、落ち着いてください。
ほら、お腹押しますから大きく息を吐いて、それから息を吸ってみてください。
そこの貴方、真藤さんの手を握ってあげて」
「はい!
マキナ!わ、私が付いてます!」
……それから5分ほど、看護師さんの介助のおかげでようやく一人で息が吸えるようになり、看護師さんにお礼を言うとまたラフィーと二人きりになる。
幸いにもリオンは今の騒動で目を覚ます事はなく、私の過呼吸の発作を知られずに済んだ。
「ま、マキナ……今のは」
ラフィーの声は不安で震えている。
突然だろう、さっきまで普通に話していた相手が急に過呼吸起こして苦しみ出したのだから。
「……フラッシュバック、ってやつです。
少し前に良くないものを見ましてね……それをどうしても思い出してしまうんですよ。
これ……リオンには内緒にしてくれますか?」
私は精神科医じゃないし受診もしていないが、きっとこう言われる。
心的外傷後ストレス障害……PTSDによるフラッシュバック。
けど、私が「何を見て」こうなったのかは誰にも教えるわけにはいかない。
もし何かの誤りでそれがリオンの耳に入ったら、あの子の世界は崩壊する。
だから、私が人に言えるのはこれまでだ。
ラフィーにお願いをするだけして、以降は口を固く閉ざす。
言いたいことだけ言っておしまいの我ながら酷い我儘だと思うが……ラフィーは察してくれたみたいで、小さく頷いた。
「……ん、ぅ……」
気まずさからお互いに閉口する時間がしばらく続いた時、ずっと眠り続けていたリオンがゆっくりと瞼を開く。
「……あれ、ごめんねマキナ。
私寝ちゃってたみたい……」
まだ上手く開かない瞳を擦りながら、全くの無防備で私に身体を預けるリオン。
……この子に心配をかける訳にはいかない。
「おはようございますねぼすけリオン。
さっきからラフィーがお腹減ったお腹減ったってうるさいんですよ一人で食べに行くのも寂しいから嫌だーって駄々捏ねて」
「ちょ、私そんな事言ってないじゃないですかマキナ!」
だから私は、デザイアのように仮面を被る。
私のトラウマも、リオンの辛い過去も、全て無かった事にできると願って。
R-18版に需要はありますか?(本編ifの敗北シーンや舞台裏のシーンがメイン)
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