性転換して魔法少女になったけど、いつの間にか淫魔と戦うドスケベ魔法少女の仲間にされていた   作:名護十字郎

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前回まで致命的なミスに気づきませんでした
半斗浦東部を西部に編集で差し替えます


7話 沈黙の巨像(前編)

「……はい、大時計を探してるんです。

……ありませんか、はい。

ありがとうございました、失礼します」

 

また外れだ、そう思いながら通話を切る。

今私がやっているのはラフィーの先輩の捜索、その一環だ。

ラフィーが探しているエリィ先輩は今から半年前に半斗浦を訪れて、大きな時計が見える場所で活動していたという。

それならと半斗浦中の自治体に連絡して大時計があるか聞いてみたりネットで検索したりしてみたが……結果は全て外れ。

 

「ただいまー……あれ?ラフィーも来てたんですか」

 

何度目かも分からない落胆にため息を吐いていると玄関からマキナの声が聞こえてきた。

昼食を食べてから直帰した私達は半斗浦の地図を印刷し、まずネットで調べて電話しても駄目だった所には✕印を付けていき……そして半斗浦中が✕で埋まった頃にはマキナの学校の下校時刻もとうに過ぎていたらしい。

 

「あっマキナ、お帰りなさい!

ごめんね散らかしてて」

 

「すみませんマキナ、お邪魔してます」

 

マキナは玄関から部屋に戻ってくると、私が机に置いた地図を覗き込む。

それに無数に書き込まれた×印を見て、私たちのやっていた事はすぐに伝わったみたいだ。

 

「半斗浦の地図……大時計探しですか?」

 

「うん……ラフィーの先輩さんに合流できれば、って。

それでネットで探したり電話して聞いてみたりしたけど……」

 

「駄目だった……と」

 

マキナにそう言われると改めて気が滅入ってきた。

元から半斗浦に大時計があるなんて話聞いたことは無かった、それでも万が一と思ってちゃんと調べ直したのだけど……。

 

「時間の無駄、だったなぁ……」

 

「いやいや、1%が0%になったのは地味に大きいですよ。

ほらご褒美に撫で撫でしてあげます」

 

「んー……」

 

マキナの手が私の頭に乗せられて、そのままわしゃわしゃされる。

マキナの撫で撫でで心労を癒やしていると、ラフィーがこんなことを切り出してきた。

 

「……あの、二人とも?

 ここは、確認しないんですか?」

 

そう言ってラフィーが指差すのは地図の西端。

確かに地図のほぼ全域が✕で埋め尽くされてるのに対して西端は何も書き加えられていないままだ。

けど、そこは……確認のしようがない。

 

「……ラフィー、今日の研修で言ってでしょ。

半斗浦の西部は……」

 

「え……あっ!

 ご、ごめんなさい私すっかり……」

 

今日の研修、という一言でラフィーは察したようだ。

何も書き加えられてない半斗浦西部……そこにあるのは未開発の山と森、それから瓦礫だけ。

半斗浦西部は怪人が出現した場所であり、すなわち最も戦闘が激化した場所だ。

……既に自治体など壊滅している。

5年経った現在でも半斗浦西部は行政の手がほぼ及んでいないゴーストタウンだ。

 

「いやでも仕方ないですよ、普通5年もあればある程度は復興すると思うはずですから」

 

マキナの言う通り、5年と言う歳月は長くはないが短くもない。

それでも一向に復興が進まないのは……ひとえに住人が戻ろうとしないからだ。

何しろ怪人は突然半斗浦西部に現れ突然消えていった。

……また突如として再侵攻して来てもおかしくない。

そんな危険な場所に戻りたいと思う者など居るはずもなく、だから半斗浦西武はほとんど放棄されたと言っていい状態のまま5年間放ったらかしのままだ。

 

「でも……もうここしか候補残ってないんですよね」

 

ラフィーは西部から目を逸らし×まみれの地域を見て気まずそうに言う。

実際その指摘は正しい、何しろここ以外の何処にも大時計がない事を確認したのは私自身なのだから嫌でも分かる。

もちろん西部に必ず大時計がある確証もない、ただ0%と確認できていないだけだ。

ただ、ここ以外の候補は全て潰れてしまったのも事実。

✕だらけの地図を眺めながら、マキナは顔を渋らせる。

 

「正直、私としてはあまり行きたくない場所です。

西部までの車道は完全に寸断されてるからかなり歩くし、管理局と仲の悪い魔法少女グループも屯してるとか。

まぁ……他に選択肢がない以上は行くしかないか」

 

そう言ってため息を吐きながらもマキナは地図に移動ルートを書き加えていく。

自分のスマホ片手に交通機関の運行や五年より前のサイトの情報などから通れそうな道をピックアップして、移動経路の優先順位をつけているみたいだ。

 

「……マキナが無理に行く必要はないんじゃないですか?

リオンちゃんと私……いえ、私一人でも」

 

それに待ったをかけるのはラフィー。

唯一可能性がある場所が危険地帯であることを知ってからのラフィーの表情は曇り気味だ。

エリィ先輩と合流できたら確かに心強いけど必ず会える確証もない、そんな分の悪い賭けで私たちを危険に晒すのは気が引けるのかもしれない。

しかしマキナはラフィーの制止に対して更に言葉を重ねる。

 

「さっき言った魔法少女グループに会ったときを考えると、多少は口の回る交渉役がいるべきです。

リオンはそんなに口が回るタイプじゃないし、ラフィーはまだ半斗浦に疎いでしょう」

 

「それは……そうですけど」

 

マキナに制止をあっさり流されたラフィーはそう呟くと、伏し目がちに俯いてしまう。

マキナの主張は正しいと思うし反論もできないけど納得はしたくない、そう言いたげな視線。

けど、ラフィーの心配を知ってか知らずかマキナは一歩も引く気はないらしく更に得意げに続ける。

 

「心配してくれるのは分かりますけど、こちとら賠償金がかかってるんです。

自分の身に降りかかった火の粉払うのを他人任せにするのは好きじゃないもので、ね?」

 

そう言って勝ち気に笑うマキナを見て、ラフィーも根負けしたみたいだ。

ゆっくりと顔を上げて、マキナをじっと見つめる。

 

「……分かりました。

マキナも、一緒に来てくれますか?」

 

そうしてラフィーが差し出した手を、まるで引っ叩くように力強く握りながらマキナは笑った。

 

「仕方ないですね、手伝ってあげましょう」

 

――――――――

 

「……酷いものですね、空爆でも受けたみたい」

 

昨日の地図埋めから日を改めて、一日に10本も通らないような過疎バスを降りそこからは徒歩で一時間近く。

その先にある陸の孤島のような半斗浦西部、未だ怪人との戦いの爪痕が残る場所は廃墟のまま放棄されていた。

5年前は喧騒が響いていたであろう場所は今では風の音すらろくに聞こえない。

まるで都市そのものの息の根が止められたようだ。

 

「リオンちゃん、ここから先は何が起こるか分かりません、変身してから行きましょう。

『スタイン・ホーリーシアン、ブライト』」

 

「わ、分かった。

……『スーサレッド・アトラナクター、リザレクション』」

 

誰もいない廃墟に踏み入る前に手のひらにキューブを生み出して砕き、アトラナクターに変身する。

魔法少女の力を身に纏っても尚、この廃墟に対する恐怖は私から出て行ってはくれなかった。

右手に持った愛剣のヴァルーシアも、この廃墟を進むには頼りなく感じてしまう。

本当はマキナの背中にくっ付きたい、それくらいにここは怖い。

けどマキナは魔法少女じゃない一般人で、私は戦える魔法少女。

マキナは自衛用だと言って警棒のような物を一本持ち込んでいるけど、それだけでデザイアと戦えるものではない。

ここでは私がマキナを守らなきゃいけないんだ、しっかりしないと。

 

「ここから先に開通予定だった駅があるはずです。

大時計の類があるとしたらそこくらいしかない」

 

そうしてスマホに道筋を書き込んだ地図を映すマキナの指示を受けて、まず私が先導して真ん中に戦えないマキナ、後ろにはラフィーが付いて進む。

商店街を通れば落ちたままの看板、公園を横切ればチェーンが千切られて錆び付いたブランコ、住宅地の方向は片方だけ脱ぎ捨てられた靴や踏み潰されて元の姿も分からなくなったぬいぐるみの残骸……単に無人なだけではなく、人々の営みが破壊された痕跡があちこちにあった。

 

「アトラ、止まってください。

……このスマホ結構新しい機種ですよ。少なくとも5年前には無かった」

 

廃墟を進んでしばらく、マキナがそう言って落ちていたスマホを拾い上げた。

怪人事変が起きたのは5年前、マキナの見立てが正しければこのスマホが落とされたのは怪人事変より後になる。

 

「リオンちゃん、この木……つい最近焼かれたばかりです」

 

周囲を見回していたラフィーもマキナと同じく、5年前ではない痕跡を見つける。

二人に続くように改めて辺りを見回すと、例えば割れたアスファルトにまばらに生えていた雑草が一部の区画だけ真っ黒に燃え尽きていたり、落書きされていた廃墟の壁が絵の途中で崩れ落ちていたり……。

破壊の上に更に刻まれた破壊の跡が見てとれた。

この場所は明らかに、5年前の怪人事変の後でもう一度破壊されている。

 

「昨日も言いましたがこの辺りは管理局を嫌う魔法少女たちの根城です。

だから縄張り争いみたいな形でここの住人に絡まれる事を覚悟していましたが……不気味なほどに誰もいない」

 

マキナの言葉に私は返事できず、黙り込んでしまう。

まるでこの廃墟全体に音を奪い去る魔法がかけられたかのように沈黙に包まれていると……。

 

「……誰もいない、ね。悔しいが合ってるよ」

 

そう言って廃墟の窓から一人の影が姿を現す。

フードを深く被るそのコスチュームは元々は大人しくも気品ある橙色だったのだろうけど今やこの廃墟のように擦り切れて、手に持った武器……小柄なナイフが無ければ魔法少女とも分からないほどだ。

 

「貴方は?」

 

「なに、ここで屯してたしがない不良魔法少女の一人ってだけさ。

ま、今じゃアタシが多分最後の生き残りだけどよ。

……サビー・バルチャー。この街の表にも裏にも奪い尽くされた、無様な魔法少女だ」

 

そう言って目の前の魔法少女……サビーはククク、と自嘲気味に笑う。

手にしたナイフを構える様子もなく、ただ無気力に切っ先を地に向けて。

 

「サビーさん、貴方達のコミュニティに押し入るような真似をして申し訳ありません。

私たちは半斗浦の大時計を探していまして」

 

「は?大時計だ?

……ははっ、悪いがこの一帯で見たことはないな」

 

マキナがこの街に大時計はないかサビーに聞くと、相変わらず乾いた笑い声を含ませながら教えてくれた。

当初危惧していたような、外部から来た私達を排斥するような気はないらしい。

ただそれは親切心などではなく、きっと諦念からだろう。

 

「……ここで何が?」

 

マキナに続けて質問を浴びせたのはラフィーだ。

、当初の目的だった大時計が無い以上、この半斗浦西部にこれ以上用はない。

そのはずなのだが、ラフィーはこの惨劇について見て見ぬふりはできなかったみたいだ。

 

「焼けた法典」

 

「……ッ!」

 

ラフィーの質問に対して、サビーの返答はたった一言だ。

しかしその一言は十分すぎる内容だったようで、それを聞いたマキナは一瞬で血相を変える。

驚愕と恐怖は、マキナの表情を氷のように固めてしまっていた。

ラフィーはその言葉の意味を知らなかったみたいだが、マキナの反応でそれが恐ろしい何かである事までは察したらしい。

 

「ま、マキナ?その『焼けた法典』って何?」

 

一方で事態を飲み込めない私がそう聞くと、まだ驚愕で口が動かせないマキナに変わってサビーが口を開く。

 

「あ?なんだお前知らないのかよ。

クククッ賢明だ、どうしようもない災厄なんて目を逸らすに限る。

……焼けた法典ってのはこの街最悪のテロリストどもだよ。

全魔法少女の抹殺を掲げるイカレ女ども、今の半斗浦最大の敵だ」

 

「ま、魔法少女の抹殺……?

管理局は取り締まったり、しないの?」

 

曲がりなりにもこの街の魔法事件を管轄する魔法管理局が、そんな奴らを野放しにするはずがない。

そんな私の考えを否定するのは、ようやく恐怖と硬直から解放されたマキナだ。

 

「……勝てないんですよ。

メンバーの誰もがあまりにも強大な魔法少女で、管理局の精鋭をいくら送り込んでも勝ち目はありません。

奴らに対抗できるのはこの街でただ一人……麻央・トライハートだけです」

 

「そんな化け物が、しがない不良魔法少女の履き溜めを本気で襲うんだから面白ぇ話だろ?

最近流れ着いた変わり者がアタシらを逃すために戦ってくれたが……結果はご覧の通りだ」

 

「そんな……あんまりだよ……」

 

「……あ?なんでテメェが泣くんだよ」

 

ここでの惨劇を想像し、いつの間にか視界が滲んでいく私を見たサビーは怪訝そうに疑念を向ける。

さっきから掃き溜めだのなんだのと散々に自分たちを卑下しているけど、彼女の両手を見ればそれがどれだけ本心か分かる。

コスチュームのグローブは泥と砂利にまみれて所々擦り切れている。

そして今立っている場所をよく見渡すと、ここだけ不自然にモノが多い。

 

「だって……友達の私物、集めてたんでしょ?

仲良しだった友達をいきなり殺されちゃうなんて、そんな……」

 

「……目敏いじゃねえか」

 

私の指摘に対してサビーはそう一言だけ言うと、バツが悪そうに顔を逸らした。

新しい機種のスマホ、ペンでグチャグチャに塗り潰しながらも捨てられなかった管理局の魔法少女認定カードを納めたホルダー、何度も解れては不器用な修繕がされた小さなぬいぐるみ、回し読みしているうちに擦り切れた漫画……それらを瓦礫の中からかき集めていたのだろう。

せめて手を合わせる対象として。

 

「分かった分かった降参だ、そんな泣くなよ。

もう終わったことなんだからさ。

……そうだな、着いてきな。

大時計は知らねえけど、代わりに面白いモン見せてやるよ」

 

そう言ってサビーはくるりと背を向けて歩き出す。

こういう僻地で独自のコミュニティを築いていた人間は初対面の相手に背中を晒すなんて普通はしない。

……サビーに信頼、されたのかな?

 

「サビー・バルチャー、先に私と貴方でジョーク感覚のチューニングをしませんか?

あんまり悪趣味なもの見せられても困るんですが」

 

「あ?ネタバレ厳禁だよバーカ。

大丈夫だって、そんなグロかったり下衆いもんじゃねえから。

テメェらもいつまでもメソメソ泣いてねぇで来いよ」

 

そう言ってマキナと軽口を叩き合うサビーの笑い方は、さっきよりは明るい。

少なくとも何かを楽しんでいる、そんな笑い方。

 

「ほらアトラ、サビーとマキナについて行きましょう」

 

そうラフィーに言われて私は視界を滲ませるものを拭い取って、少しずつ小さくなっていく二人の背中を慌てて追うのだった。

 

――――――――

 

「着いたぜ、ここからならよく見える」

 

サビーの背中について行ってしばらく。

廃ビルに入り、扉も開かなくなったエレベーターの代わりに階段で何階も上った先でサビーはそう言って窓を指差した。

 

「あ、あれは……仮面?」

 

「ということは……アレもしかしてデザイアですか?」

 

サビーに指差された方を見た先には……管理局の地下で戦った擬似デザイアと似たような、それでいてより巨大な仮面があった。

マキナの言葉が無ければ、その巨大な仮面がくっ付いているモノがビルや住宅みたいな建物とは違い、窓がなかったりコンクリートとは似ても似つかない色をしている事には気付かなかっただろう。

 

「な?面白ぇだろ?不動のデザイアだ。

アタシ達がここを根城にした時から、焼けた法典に皆殺しにされる最期までピクリとも動かなかったんだよこいつ。

しかしいつ見てもでけぇなーヨロズは確実だろ、もしかしたらデシミリオンあるか?」

 

「ねぇマキナ、ヨロズ……って何?」

 

「ヨロズはテンサウザンド級……願い1万人分のデザイアの通称ですね。

デシミリオンは10万人分、テンサウザンドとかハンドレッドサウザンドじゃ長いですからね」

 

サビーの笑い声とマキナの解説を聞きながら、改めて全体を見る。

巨大な仮面が付いた山のような巨体の左右前方には、仮面がついたものより一回り小さな……勿論、「本体に比べたら」という前提で……塔が並んで、頂点同士を黒い身体が結んでいる。

両手で塔を上から握りしめた巨人、というのが最も分かりやすいだろうか。

 

「時々管理局の犬どもが来ては喧嘩売って、どんな攻撃してもビクともしないから皆諦めて帰っていきやがる。

あいつらの間抜けっぷりはドン・キホーテみたいでここの皆で大笑いだった、お前らにも見せてやりたかったぜ」

 

管理局の魔法少女がどれほどの実力だったのかは分からないがこれだけの巨体、ちょっとやそっとの攻撃は通用しないのは嫌でも想像がつく。

それにデザイアの仮面は見上げるほど高い位置にある、並みの魔法少女ではそもそも攻撃を届かせることすらできなかったかもしれない。

 

「それから……さっき言った、焼けた法典とやり合った流れの変わり者なんかもっとバカだった。

ここに顔を出してから3ヶ月近くあれがデザイアだと分かりもしなかった、あの仮面もずっと時計だと思ってたらしいぜ。

……ふ、プフッ、やっぱあいつバカだぜ……」

 

その人がよほどおかしかったのか、サビーは言い終わるや否や思い出し笑いでプルプル震え出す。

とうとう立てなくなってお腹を抱えて蹲って笑い出した。

先程までの諦観の笑いではなく心から楽しいと思っている笑い方だ。

きっとここにはそういう思い出が詰まっているのだろう。

 

「……待ってください」

 

そんな楽しげなサビーの笑い声を打ち消すような、真剣な声を上げたのはラフィーだ。

その雰囲気に押されたのか、サビーも笑顔を引っ込める。

 

「今、時計と言いましたか?

あの……大きな仮面のことを」

 

「……あぁ、あいつはそう呼んでたぜ」

 

そう答えるサビーに対してラフィーは大きく身を乗り出した。

昨日今日にかけて半斗浦中で大時計を探して、全て空振りに終わった。

けど件の先輩が何かを大時計と思い違いをしていたのなら……!

 

「その人の事、教えてくれませんか!?」

 

「そうだな……まず、アッシュと名乗っていた」

 

そうして質問攻めするラフィーに対してサビーの口から出てきた名前は私たちが探す「先輩」の名前と合致する。

 

「使ってる武器は分かりますか?」

 

「……悪ィ、覚えてねぇ。

槍を使ったり斧を使ったりしてたような気はするが……」

 

「……先輩だ!

マキナ!リオンちゃん!間違いありません、エリィ先輩はここに来てたんです!」

 

加えて、使う武器が分からないときた。

ラフィーの話では、エスタイン・アッシュはあらゆる武器を使いこなしたとか。

一つの武器を自分の半身として使い続ける半斗浦の魔法少女ではまずあり得ない特徴……もう間違いないだろう。

ラフィーの探していたエリィ先輩はこの西部に潜伏していた、それを確信したラフィーは飛び跳ねながら叫ぶ。

半斗浦をさまよい続けてようやく見つけた先輩の足跡、まさに今のラフィーが一番欲しかったものに違いない。

しかし狂喜乱舞するようなラフィーとは違い、サビーの顔色はどんどん険しくなっていく。

 

「そうか……そいつは御愁傷様にな」

 

その表情に一切の嘲りはない、ただ同情を滲ませるだけだ。

その対応に今度はラフィーが笑顔を失う中で、更にサビーは続ける。

 

「忘れたのかよ、ここの連中は焼けた法典に皆殺しにされたんだ。

アタシもすぐ逃げたからアイツが……アッシュが殺される瞬間までは見てねぇさ。

けど、あの『ライオット・カラミティ』が相手じゃあな……」

 

そう言いながら俯くサビーの拳は小さく震えている。

仲間を殺された屈辱からか、あるいは焼けた法典の一員に対する恐怖からか、きっと本人も区別はついていない。

ただ、焼けた法典の一員『ライオット・カラミティ』と相対した相手は生きて帰れない……そんな絶対的な認識は揺るがない。

 

「そん、な……」

 

絞り出すような声の後にカラン、と杖が落ちる音が無人のビルに響き、更にラフィーが膝をつく音が続く。

その瞳からは光が……希望が失われている。

ただ一人の同郷の仲間を探して行き着いた場所で、戦死を知らされた。

その絶望の深さは、私にはほんの淵しか覗き込めていないに違いない。

 

「……まぁでも、アタシみたいなのでも生き残ったんだ。

何があるか分からねえさ」

 

絶望のあまり地を這うようなシアンを見かねたのか、サビーはシアンの肩をゆっくりと掴んで諭すように言う。

何の根拠もない単なる希望的観測、願望なのはこの場の誰もがよく分かっていた。

けど、その奥底にあるサビーのぶっきらぼうな優しさ、それがシアンの砕けかけた心を繋ぎ止めた。

 

「そう……ですよね。

先輩は、誰にも負けないんです絶対。

そう……先輩は決して」

 

きっと、心の中は不安と恐怖で一杯なのだろう。

それでもシアンは願いの象徴である武器を掴み、再び立ち上がる。

自分のことを思ってくれる仲間のために。

そして、自分が強く信じる先輩のために。

そう、ラフィーが信じるエスタイン・アッシュは、エリィ・バサトゥーラは死になどしないと。

どんな相手にも決して屈しないと。

そう、先輩は絶対に……!

 

「先輩は誰にも負けません……エッチな事をされない限り!」

 

「台無しだよ!」

「台無しですよ!」

「台無しだろ!」

 

――――――――

 

「……よし、お前ら気分転換にゲームでもしねえか?

前みたいにちょっと遊びたくなってよ」

 

ラフィーがショックから立ち直ってからしばらく。

サビーはそう言うとコスチュームの中に手を伸ばし、そこから三つのモノを取り出した。

最初会ったときに持っていた物より一回り小さい、小型のナイフだ。

 

「ナイフ投げて一番仮面の真ん中に当てられたやつが勝ち、報酬はこれだ。

まぁ多分まだ食えるだろ」

 

そう言って懐から今度は包装されたままの袋を取り出す。

中には割れたり砕けたりしたビスケットが何枚か入っていた。

きっと誰かのおやつとして買われたまま5年間、忘れられたままだったのだろう。

私はマキナと一緒に、言われるがままにサビーからナイフを受け取る。

そしてマキナも同じくナイフを受け取ると、突如不敵に笑い出した。

 

「ふっ……貴方誰に喧嘩売ったか分かってるんですか?

『輝光戦機ルミナークディフューズⅤ ジ・エンド・オブ・ルミナゲドン』のランクマ最高峰のSランク!

そこで高機動狙撃手として恐れられるこの私に狙撃で勝負するとは!

青二才に、私の戦場を教えてやろうではありませんか!」

 

最後は何かのアニメのカットシーンみたいな変なポーズ(マキナの中ではたぶんかっこいい)をしながらドヤ顔でマキナが言い放つ。

……すごい自信があるからダーツ投げの経験とかあるのかなと思ったらゲームの話だった。

タイトルからしてロボットゲームなんだけど、コントローラーで操作するのと自分で投げるのじゃ全然違うと思うんだけど……。

 

「マキナ、そもそもそれかなり前のゲームだよ……」

 

「しょうがないじゃないですか新作出ないんだから!」

 

「何年同じゲーム擦ってんだよお前……」

 

私のツッコミに対してマキナは声を荒げて……というか八つ当たりみたいに叫ぶ。

私がマキナと遊んでた2年前の時点でかなり古いゲームだった気がするんだけど、あれから尚も新作出てないんだ……。

 

 

「あっ、私知ってますよマキナ!

ルミナークって確か魔法少女のアニメですよね!

昨日テレビでやってました!」

 

「あっおいバカ!やめろ!」

「シアンそれはダメ!やめて!」

 

ラフィーの質問がマキナの地雷を起爆する前に、なんとか遮るように私とサビーで叫ぶ。

けど手遅れだった。

 

「……はぁー、良いですか?シアン。

シアンが言ってるのは「輝光閃姫ルミナーク」の事ですよね?あれは本家ルミナークを美少女化して更に魔法少女化したモノです本家ルミナークとは別物です確かに大元の光とそれを崇める大国の戦争を扱ってる意味では同じストーリーラインですけどまるで別物なんですよ閃姫ルミナークには武装や質量のロマンもなければ熱いぶつかり合いもありません本来であればパイロット同士の思いの丈をぶつけ合う戦機同士の戦いの最中の論争が光の大国側を怪物に改変したせいで全部なくなってて各々がどんな思いを胸に戦場に立っているのかが薄いんですよそれに国家毎に異なる技術体系が発展した事による組織毎の特徴的な兵装も全く再現されてませんみんな杖振って光の武器が出るだけですそれに国家間の戦争のはずがお行儀良すぎるんですよ確かに魔法少女ならキラキラミラクルで済ませりゃいいんでしょうが国と国の戦争がそんな綺麗事で終わるはずがありません必ず市民への暴虐や横領腐敗は起きますそれは避けられないのにそういうところを全カットしたおかげで融通の効かない超意識存在の光に対して俗物で過ちを犯すこともあるけど前に進み続ける人間との対比が完全に崩壊してるんですよもう有り得ません本来であればあんな低俗な萌え美少女化は数多のルミナーククソゲーのように闇に葬られるべきだったはずなのにアニメーターが無駄に有能だったせいでやたらアニメの出来が良くて魔法少女ルミナークばっかり有名になって魔法少女ルミナークは今でもグッズ出まくってるのに輝光戦機ルミナークディフューズシリーズはいつまで経ってもⅥが出ないんですよ大体なんですかミラールミナークって本家にはそんなのいないし独自に発展させるならルミナークじゃなくて良いじゃないですかこれでもしⅥにミラールミナーク出てきたら泣きますよいやⅥ出るだけで嬉しいんですけどミラールミナーク出てくるとなんか魔法少女のお下がり感あって嫌ですそれにしてもシアンの無教養さには呆れました家に帰ったらアトラと一緒に最低でもシーズン2と劇場版まで付き合って貰いますよそれから……」

 

ラフィーが特大地雷を踏み抜いた事に対してマキナのブチギレ解説が始まった。

マキナが怒ってることは分かるけど正直何を言ってるのか全然分からないしそもそも聞き取れない。

 

「あぁもう分かった!わーったから黙ってろ!

ほら始めんぞ!まずアトラナクターって言ったか、お前からな!」

 

「ううううん、ななな投げるね!

ほらマキナマキナ、私頑張るからね!見てて!」

 

サビーが無理やりストップを掛けて、私が思いっきり話題を逸らしてどうにかその場を収める。

そして受け取ったナイフを大きく振りかぶり、思い切り仮面向かって投げつけた。

 

「おっと残念、大外れだな」

 

アトラナクターになってからは視力や空間把握能力には自信がある。

だからどうやって飛ばせば命中するかは分かったけど、肝心の投げる方の技量は全く追いついていなかった。

私の投げたナイフは予想より遥か下に飛び、微かな音と共に地に落ちる。

 

「ククク、アタシが手本見せてやるよ……そら!」

 

そう言って今度はサビーがナイフを投げる。

魔法少女の武器なだけあって普段から扱い慣れてるのだろう。

だけど少しだけ狙いがズレている、あれでは仮面の端を掠るだけで終わる。

 

「おっと危ねえ……『残骸漁りの目』」

 

サビーが小さくそう唱える。

すると飛んでいたナイフがいきなり姿を消した。

それと同時に軽い音を立てて隣に立っていたサビーが何かを掴む。

横を見ると、さっき投げてナイフを握り締めている。

 

「あっズルい!魔法でやり直してる!」

 

「ククク、魔法の使用は無しなんて言ってねえだろ。

まぁアタシが勝ってもお前らに一枚ずつくらいは分けてやるからそう怒んなよ、そらっ!」

 

そう言って再度投げられるナイフ。

今度は狂いなく仮面に向かって飛び、ちょうど左半分のところに突き刺さった。

 

「ちょっとズレたがまぁ及第点だな。

マキナって言ったな、次はお前の番だぜ」

 

そう言ってサビーは次のマキナに順番が回す。

さしものマキナも気に食わない方のルミナークに対する文句は言い尽くしたのか、大人しくナイフを手に馴染ませるように何度か振ったり軽く上に投げてからキャッチしたりして手触りを確かめている。

 

「なるほど、次は私ですか。

……貴公らに知らしめましょう、技量特化の投げナイフでヘッドショットを見舞う侵入暗殺者、『†Machina†』の竜の血の刃を」

 

今度はさっきとはまた違ったテンションでマキナがノッてきたみたいで、いきなり貴公とか古めかしい言い回しを始める。

……ナイフの先を舐めながら。

 

「お前刃物なんて危ないから舐めんなよ……舌切っても知らねぇぞ」

 

「というか汚いよマキナ……」

 

「『毒竜の血族』専用特技の毒エンチャ、一度やってみたかったんですよ。

さて、それじゃそろそろ行きますよ……それ!」

 

散々かっこつけて満足したのかマキナが思い切りナイフを投擲する。

正直サビーにしてやられて悔しいからナイフを糸で引っ張ってズルしようかと思ったけど……必要なかったみたいだ。

 

「お、おいおいド真ん中かよ」

 

「言ったでしょう?これが私の狙撃です」

 

マキナの投げたナイフは吸い込まれるように仮面の中心部に刺さり、深く突き刺さっていた。

……魔法少女でもないのに、何十メートルも離れた仮面に突き刺さるくらいにナイフを投げるなんて、マキナの細い腕のどこにそんな力が入ってるんだろう……?

 

「さて、これはもう私の勝ちで良いですね?」

 

「チッ……まぁ、そうだな」

 

「ふふん、そうでしょうそうでしょう!

それでは報酬のクッキーは私が頂き……」

 

厳密にはラフィーの番はまだだけど、これ以上に真ん中に刺さることもないだろうし勝負は決まったようなもの。

魔法を使った反則を実力でねじ伏せることができてマキナはさぞご満悦みたいで、サビーに手を向けてクッキーを催促。

ザビーも悔しそうにしながらも仕舞っていたクッキーを取り出そうとした時……地鳴りのような轟音が響き渡った。

 

「……なんだ、地震か?」

 

サビーはそう言って辺りを見回す。

私もそれに倣って外に目を向けて、あるモノを見た。

いや、逆だ。

あるはずのモノを見なかった。

 

「マキナ!シアン!サビー!

仮面が、無くなってる!」

 

隣のビルにあった不動のデザイアの仮面、それが消失している。

そう思ったが、私に続けて言うマキナの言葉の方が正しかった。

 

「……違いますリオン!

上、見てください!」

 

「う、嘘……!」

 

続けてラフィーの息を呑む音が聞こえる。

5年間の間、そしてこれからもずっと眠り続けるだろうと思っていたデザイアは……立ち上がっていた。

相変わらず塔を上から握りしめたような巨大な腕……塔腕に体重を預けるように起き上がったデザイアの仮面は、今までのように無感情に地面に水平を向いてはいない。

しっかりと……こちらを見下ろしていた。

 

「5年間動かなかったデザイアが、動いてやがる……!」

 

『zggggggghhhhhh!』

 

デザイアはサビーの言葉を打ち消すような咆哮を上げる。

そして、その巨大な腕を大きく振り上げた。

R-18版に需要はありますか?(本編ifの敗北シーンや舞台裏のシーンがメイン)

  • 需要はある
  • 本編ifの敗北シーンのみ需要はある
  • 舞台裏のシーンのみ需要はある
  • 需要はない
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