性転換して魔法少女になったけど、いつの間にか淫魔と戦うドスケベ魔法少女の仲間にされていた   作:名護十字郎

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8話 沈黙の巨像(後編)

文字通り見上げるほどのデザイアの巨塔のような腕が動く。

余りのサイズに遠近感覚が狂いそうになるけど、あの巨大なデザイアが思い切り腕を伸ばしても私たちのあるビルにはまだ距離がある。

たから近寄ってくるまでは攻撃まで猶予がある……。

そんな浅はかな思いは瞬く間に踏み躙られた。

 

「瓦礫を飛ばすつもりだ!下がれ!」

 

サビーは怒号を上げると、大きく跳躍して窓から離れるように後退した。

ひび割れた窓から見るデザイアは、振り上げた腕を深く地面に突き刺している。

後はあの状態から腕を大きく引き抜くだけで、砕かれた瓦礫やアスファルトが私たちの立つビルに放たれるだろう。

後ろに一瞬目をやれば、サビーだけではなくラフィーも苦渋を滲ませた顔で続く。

無理もない。

サビーは私たちを助ける義理なんてないしラフィーはカノンタイプ、咄嗟に一人を救助して安全圏に避難するほどの機動力は無い。

だから、私がやらなきゃいけない。

 

「マキナ!掴まって!!」

 

マキナに向けてヴァルーシアを向けて意識を集中、マキナの体重でもすぐに引き寄せられるように何本も引力糸を射出してその身体を捉える。

後はこれを引いて私も後退……。

 

「……ッ!?」

 

糸がマキナに触れた瞬間、視界が大きく揺らいだ。

そのまま均衡感覚さえ失い、自分が立っているかどうかも分からなくなる。

ヴァルーシアを床に刺してそれにしがみつき、なんとか足を崩さないでいられるような状況。

 

『……!』

『……!!』

『……!……!!』

 

近くで三人が何か叫んでいるような気がするが、何も聞こえない。

代わりに脳裏に響くのは、何かが軋むようなギシギシという不吉な音だけ。

今にも立っている床の感覚が無くなり、その代わりにまるで浮遊しているような感覚に襲われた。

その不吉な錯覚から私を救い出したのは、鋭い痛みと出血だった。

 

「何ボサッとしてんだ!目ェ覚ませ!」

 

一瞬遅れて、投げられたナイフがビルの窓に突き刺さるのを見た。

サビーのナイフが私の頬を斬り、その痛みでようやく均衡感覚を取り戻す。

だけど……感覚を取り戻すのが遅すぎた。

私が五感を喪失している間にデザイアは既に腕を振り上げて瓦礫がこちらに投げ出されている。

咄嗟に引力糸で飛んでくる瓦礫同士をぶつけて数を減らすが着弾まで間に合わない。

巨大な瓦礫が私たちの立っているすぐ隣を直撃する。

幸いにも直撃こそしなかったものの衝撃は廃ビルを突き抜け……。

 

「……マキナ!!」

 

マキナが衝撃波に吹き飛ばされ宙を舞う。

そして床に思い切り身体を打ち、その勢いで壁まで叩きつけられられた。

 

「かっ、は……ッ」

 

マキナの苦悶の声は幻聴かと疑うほどにか細い。

それはデザイアの巨大による轟音ばかり聞いたせいか、そうでない場合は……考えたくはない。

さっきは上手くいかなかったけど、今度こそ糸でマキナを……!

 

「……駄目、ですよ。

あなたの糸は、人は掴めないんです……」

 

ヴァルーシアを向けて意識を集中させようとしたところで、マキナのうわ言のような警告が耳に入った。

マキナはこの糸について私よりも知ってる……?

けど、マキナがそう言う以上はきっと正しいのだろう、私はヴァルーシアを宙に投げ出して糸で固定してからマキナに駆け寄り両手で抱き上げた。

 

「マキナ、マキナ!!

ごめん、私……!」

 

「……もう、駄目ですよアトラ。

魔法少女は、武器を持たなくちゃ……」

 

マキナは苦痛に顔を歪ませてはいるものの無事だ。

それどころか、私の心配までしてくれる。

私よりもずっと怖くて痛いはずなのに。

 

「……ほら、掠っただけでどこも折れてないし立てます。

貴方の、貴方だけの武器……ヴァルーシアを持って、ね?」

 

そう言ってマキナは私の両腕から降りると壁を支えにしながらも立ち上がる。

その時、表情が一瞬だけ崩れた。

これは覚悟だ、マキナは痛みを噛み殺してでも私に武器を握るように覚悟を見せている。

……だったらそれに応じない訳にはいかない。

宙に固定していたヴァルーシアに糸を伸ばし、私の右手に舞い戻らせる。

 

「おい、アトラナクター!

今すぐこのビルから逃げろ!」

 

再び届くサビーの怒号。

窓があった場所を見やると、デザイアは今度は腕を大きく横に構えていた。

……横凪ぎにしてこのビルを丸ごと潰す気だ。

 

「そいつはもう諦めろ!

アタシらじゃ一般人守りながら戦うなんて無理だ!」

 

「……アトラちゃん!逃げて!」

 

ラフィーまでもがマキナを見捨てて逃げろと言う。

確かに私だけの力じゃマキナを抱えたまま別の建物に飛び移るほどのジャンプはできない。

けど、マキナを絶対に見捨てたりはしない!

周囲を見渡す必要もなく、私が必要としているものはすぐに見つかった。

先程デザイアが飛ばしてきた巨大な瓦礫。

マキナを傷付けた忌々しいゴミクズ、今度はマキナを助けるために使い潰してやる。

 

「マキナ、私にしっかり掴まってて!」

 

糸で引き寄せた瓦礫にヴァルーシアを深く突き刺し、それをしっかりと掴む私の体にマキナをしがみつかせる。

そして上空から糸を伸ばして瓦礫を掴み、そのまま私たちごと宙まで持ち上げた。

瓦礫を飛ばしてビルから離れた直後に、デザイアの巨大な腕がビルを薙ぎ払って突き崩す。

抉り取られたビルの上部が地に落ち、地鳴りの轟音が鳴り響いた。

このまま瓦礫を糸で浮かせ続けてデザイアをやり過ごせればと思ったけど、それも難しいみたいだ。

一瞬の判断で一番大きなサイズの瓦礫を選んだけど、形状が悪かった。

平坦な足の踏み場なんてものは無く、ヴァルーシアを突き立てることでなんとかバランスを保てているぐらいに足場が悪い。

私はともかく、私にしがみついてなんとか落ちずにいるマキナは長くは持たないだろう。

糸を手繰り寄せて破壊されたビルから瓦礫を離し、別の建物の上まで動かしたところでヴァルーシアを引き抜きマキナを抱えながら着地。

 

「さっきの、お返し!」

 

そして用済みになった瓦礫をデザイアの仮面に向けて放り投げる。

最低でも数百kgはある質量の砲弾、それを浴びせても……デザイアが傷ついた様子はない。

 

『zzzzzgggggggg!!!』

 

むしろ怒りに火がついたと言わんばかりに、裏に何も隠していない仮面でこちらを凝視する。

負けじとデザイアを睨み返しながら次の策を練っていると、先にビルから飛び移っていた二人が合流する。

 

「このバカ無茶しやがって!」

 

「アトラちゃん!マキナ!無事ですか!?」

 

「な、なんとか……うぐっ!」

 

そう言った直後にマキナが膝をついた。

痛みで意識がぼやけ、力も入らなくなってきている。

早いところ安全なところに避難させないと……!

 

「サビー!私とシアンがあいつの気を引く!

そのうちにマキナだけでも避難させられない!?」

 

「……無理だな。

こいつの体力も限界だ、もう何かにしがみつくのも出来ねぇ。

アタシがデザイアから逃げ出せるくらいのスピードを出すとこいつを振り落としちまう」

 

絶望的な回答を叩き付けてきたサビーに食ってかかろうと睨もうとしたが、そこに諦観の顔はない。

むしろサビーは不敵な笑みを浮かべながら、立っている屋上から粉砕されたビルを見つめていた。

 

「だが、お前たちがアレの気を引くところまでは名案だ。

あのビルの残骸から電線でもケーブルでも引き抜いてこいつをアタシに括り付ければ何とかなる」

 

「……そんなに長く気は引けません。

すぐに見つけられますか?」

 

ラフィーが杖を構えながら神妙な面持ちでサビーに問いかける。

対してサビーは口角を釣り上げて笑った。

 

「生憎『残骸漁り』はアタシの領分でね。

こればっかりは誰にも負ける気がしねえ」

 

そう言って、屋上からから身を投げて打ち砕かれたビルの残骸へと飛び出した。

サビーの姿が影に消えていくのを待つ事なく、ラフィーは杖を握りしめながら駆け出す。

 

「アトラちゃんも早く攻撃の準備を!

二方向からデザイアを攻撃してマキナからデザイアを遠ざけます!」

 

ラフィーの指示に無言で頷いて応答し、破壊され尽くした足元を見下ろした。

ビルの外壁、アスファルト、潰れた車……飛ばす弾ならいくらでもある。

 

「私も別の建物から攻撃して気を引きます!

……『プシュケー・ゼスト!』」

 

ラフィーはサビーを真似るように屋上から大きく跳躍すると杖から熱風を放ち、その反動で別の建物へと飛び移った。

炎を操る魔法少女なだけに元から熱に耐性があるのか自らを防護する魔法を使ったのかは分からないが、とにかくラフィーは陽動の準備ができたようだ。

私もすぐ隣の建物に飛び移り、デザイアの背後にあった巨大な瓦礫……さっきあいつ自身が粉砕したビルの上部丸ごとに百本以上の糸を繋げて釣り上げて備える。

背後には私の瓦礫、側面にはラフィーがスタンバイしているのを気付かないのか気に留める必要もないと思っているのか、こちらに向かってデザイアが両腕で地を踏み締めて近づいてくる。

……今だ!

 

「『フレイ・マージュ!』」

「残骸諸共砕け散れ!」

 

ラフィーの高熱の火炎弾……フレイ・マージュがデザイアの仮面を焼き、その上から私の飛ばした瓦礫が仮面に直撃する。

火炎弾の爆発と瓦礫が粉砕される轟音がデザイアの仮面を包み込んだ。

これで倒せてるのが一番だが、最低でもこれでラフィーか私が残骸を飛ばした方向……マキナから真逆の方向に誘導できればいい。

……だが。

 

『zgggggghhhhhhhhh!!!』

 

爆炎の煙を掻き消すようにデザイアが巨大な腕を振り上げてマキナに突っ込んでくる。

アレだけの攻撃を浴びせても、気を逸らす事すらできないなんて……!

 

「……マキナ!!」

 

万一瓦礫の方向じゃなくて私を狙った場合を想定してマキナのいる建物の隣に移ってから攻撃していた、それが災いした。

デザイアが勢いよく振り下ろした腕が建物を叩き潰す前にマキナのいるところまで戻るのが、間に合わない……!

 

「チッ、使えねぇなお前ら!

残骸漁りのアタシに、まだ生きてる奴を漁らせんじゃねぇ!」

 

デザイアがマキナを潰す直前に屋上に滑り込んだのは、宣言通りに電線を数本引き千切ってきたサビーだ。

着地の勢いのまま電線でマキナを捕まえて即座に離脱してデザイアの視線を遮るように、建物の塔屋に身を隠す。

それを見た私もそれに続きラフィーも再度熱風の立体機動で私達に合流し、あとは四人でここから逃げるだけ。

 

「……逃げるのは無理、みたいですね」

 

……そう思っていた矢先、か細い声が聞こえてくる。

切断された電線でサビーに背負われているマキナの声だ。

 

「あのデザイア……何故だか執拗に私を狙っています。

半斗浦西部を離れただけで……追跡を止めるとは思えない」

 

サビーの背の上で力無く四肢を揺らしながらも唯一動く口でマキナは続ける。

 

「それってつまり、私たちの陽動が効かなかったんじゃなくて……」

 

「……最初から眼中になかった、と?」

 

「……だろうな。

あれだけの攻撃ガン無視するくらい執着してるんだ、ここで逃げても例え半斗浦の端から端まで横断してでも追い続けるだろうよ」

 

『zgggg!zgggggggg!!』

 

サビーの言葉が現実になった時の半斗浦の光景が一瞬脳裏を掠め、すぐに瓦礫の中に消えていった。

私たちを一時的に見失ったからか、デザイアは周囲の建物を一軒一軒順番に叩き潰し、その度に苛立った咆哮を上げている。

あのデザイアは狙った獲物を……マキナを、どんな方法かは分からないけどある程度感知できているみたいだ。

麻央ちゃんが出て来たら流石に倒されるだろうけど、それまでにマキナを追って何軒の家があのデザイアに踏み潰されるか想像もつかない。

西部から現れた災厄が半斗浦を蹂躙する……怪人事変の再来だ。

 

「……アタシにあいつを倒すほど火力のある魔法は使えねぇ。

お前らどちらかがあの仮面を叩き割るか、大昔の祟り神みたいにコイツを生贄にして鎮まるのを祈るか……二つに一つだ」

 

二つ目の選択肢を挙げるサビーの表情に一切の笑みはない。

皮肉でも何でもなく、ここで倒せなければ半斗浦のためにマキナを見殺しにするしかない、と言外に語っていた。

 

「私は……ごめん、あれ以上は難しい」

 

「アトラちゃんができないなら……私がやります」

 

「お前のご自慢の炎の魔法はあいつに効かなかった。

あれより威力を出せるんだろうな?」

 

私の代わりに名乗り出たラフィーはサビーの問いに深く頷く。

しかし、その表情に自信はない。

 

「……ただし、私一人じゃ当てられません。

さっき撃った『フレイ・マージュ』より威力のある技は、近距離用なんです。

強すぎる魔力を一点に集めてから飛ばしても飛翔中に減衰したり精度が落ちる。

だから、巨大な剣の形で形成して私自身の手で叩き付けるしかない」

 

「お前自身が……って、遠距離戦専門のカノンタイプのお前がか?」

 

「はい……けど、それしかない。

アトラちゃん、またさっきの瓦礫を浮かせる技できますか?」

 

ラフィーは期待するように私に視線を向け、サビーもそれに続く。

さっき私がマキナを連れて逃げ出した時の芸当を攻撃に応用する……確かに遠くから見ていただけの二人には簡単に思えるかもしれない。

 

「……無理、ですね。

さっきの瓦礫、私もアトラも突き刺した剣にしがみついて……なんとか落ちない程度のものです。

それに、呑気に瓦礫で近付いても……デザイアに粉砕されて終わりですよ」

 

「……クソッ!」

 

苦痛に呻きながらのマキナの無情な宣告に、サビーは怒りを露わに吐き捨てた。

デザイアだってバカじゃない、いくら狙いのマキナではないとは言えど目の前に瓦礫で浮きながらのんびり必殺技を溜めている相手を放置するはずがない。

そして、私にもサビーにも有効打はない以上ラフィーでも無理なら最早あのデザイアに対し打つ手はない、完全にチェックメイトだ。

 

……待った。

ラフィーはなんであのデザイアに近付かなきゃいけないんだろう。

『強すぎる魔力を一点に集めてから飛ばしても飛翔中に減衰したり精度が落ちる』、さっきラフィーはそう言っていた。

……私なら最低でもその片方、あるいは両方を解決できる!

 

「シアン!さっき言ってた近距離用の技ってどういうの!?」

 

「私の炎を収束させて巨大な炎の剣を形成する魔法です!

それがどうしたんですか!?」

 

「……私がその剣を糸で飛ばす!」

 

そう、ラフィーがわざわざ剣を振り回しに行かなくても私の糸で炎の剣をデザイアの仮面まで飛ばせば、精度の問題はなくなる。

残る課題は、後一つ。

 

「減衰はどうするんだ!?

こいつの手から離れた途端に炎が霧散していくなら、デザイアに届く前に火力不足になって意味がねぇ!」

 

「……シアンと剣を、私の糸で繋ぐ!」

 

ラフィーの手から離れた途端に炎の剣が崩れていくなら、撃ち出した炎の剣とラフィーの手を糸で繋いで魔力を注ぎ込み続ければ火力も減衰はしない……これで課題は突破できる!

 

「バカも休み休み言いやがれ、さっきそれを失敗したばっかりだろうが!」

 

「……ッ」

 

サビーの苛立った怒号が響く。

さっき私はマキナを助けようとして糸を伸ばして、失敗した。

ラフィーになら糸を結んでも平気か?……そんな訳がない、きっとあの時みたいな錯覚と拒絶反応が起きる。

……けど、マキナを守るためにはどんな事だってしてみせる!

 

「アトラちゃん……できますか?」

 

普段とは似ても似つかない、鋭い目つきでラフィーは私を睨む。

周囲に目をやれば、デザイアの仮面を狙えそうな高さの建物はほとんど粉砕されていた。

今立っている建物が崩されたら、もうデザイアの高所にある仮面を攻撃する機会は訪れない。

たった一度きりの挑戦、最後のチャンス。

私はラフィーの問いかけに対して言葉で肯定する……ことはしなかった。

 

「……マキナ。

私のお願い、聞いてくれる?」

 

代わりに、マキナの方を向いてそう言う。

苦痛で意識を失いかけていたマキナの瞳が、ゆっくりと開かれた。

 

「私の手を握ってて。

そしたら、私どんな事だって頑張れる」

 

そう言ってマキナに左手を伸ばす。

マキナはゆっくりと私に向かって手を伸ばし……。

 

「……チッ、付き合いきれるかよ!」

 

すんでの所でサビーは電線を切断してマキナの振り落とし、私に向けて突き飛ばした。

マキナにもう立ち上がるだけの体力はない、突き飛ばされるがままに私の胸に飛び込んできたから慌てて左手を背に回す。

サビーの姿は既にない、分の悪い賭けに縋る私たちを見限ったのか姿を消していた。

責めるつもりはない、確かに私たちがこれからするのは無謀な行いだ。

けど……。

 

「リオン、私が……付いてます、から……」

 

マキナは傷だらけの顔でぎこちなく笑うと、両手を私の首に伸ばした。

あるいは首を絞めるかのように、しかし力無く優しく私の首に両手の掌を当てる。

普段はくすぐったがりで何にも触られたくない私の首筋に当てられたマキナの手の感触と温もり。

……絶対に、手放さない。

 

「……シアン、お願い!」

 

「はい!

……『ダイン・ゴーシュ!』」

 

『zggg!gggggggghhhhhhhhhh!!』

 

シアンとマキナを抱えた私が屋上の塔屋から姿を現すのとデザイアが咆哮を上げるのは同時だった。

そして、私達を叩き潰そうと腕を大きく持ち上げたところでシアンの必殺技が解放される。

……ダイン・ゴーシュ。

ラフィーの持った杖に膨大な魔力が集結して、あっという間に10mを優に超える巨大な炎の大剣が生み出された。

杖の先端から少しだけ離れて生み出された炎剣を、ラフィーは杖を持っていない左手で逆手に掴む。

剣を振るためではなく投げるための持ち方だ。

 

「……掴め!」

 

マキナを抱えながらヴァルーシアを炎剣に向け、その切先に向けて無数の糸を飛ばして絡みつかせる。

後は、シアンと炎剣を糸で結ぶだけ。

 

「……繋がれ!」

 

そして炎剣から伸ばした糸がシアンの左手に絡み付いた時……また、あの感覚に襲われた。

まるで宙に浮いているかのような、足場を自分で蹴り飛ばしたかのような不吉な浮遊感。

脳裏に響くギシギシという忌まわしい音。

そして……首を絞められているかのような、首の圧迫感。

 

「はぁ……は、はっ……!」

 

呼吸が乱れ、視界も大きく歪む。

あの剣を、デザイアに突き立てなきゃいけないのに、向き、分からな……!

 

「……リオン、リオン!

貴方、は……貴方はここにいます!」

 

視覚と平衡感覚がグチャグチャになっていく中で、マキナの声が私の耳を……いや、全身を駆け巡る。

……不思議と、さっきまでの感覚が、恐怖が揺らいでいく。

 

「貴方の首は私が握ってます、硬いものに縛られてなんかない!

貴方の脚は私を支えてます、宙に吊られてなんかない!

貴方の耳は私の声だけ聞いてください、あんな軋む音に耳を貸さないで!

……貴方の鼓動は、しっかり私が聞いてます!」

 

マキナの叫びが私を貫く度に、私を戒めていた感覚が一つずつ消えていく。

マキナの体重が、私を嫌な浮遊感から引き戻す。

マキナの体温が、私の冷たい身体を満たす。

マキナが、私を生かす。

 

「……シアン!投げて!」

 

私の叫びと同時にラフィーが思い切り炎剣をデザイア向かって投げつける。

それと同時に切先に巻き付けた糸を思い切り引っ張り、仮面目掛けて炎剣が空を切る。

そして、ラフィーの左手と炎剣を結ぶ糸は燃え上がりながらも、炎剣に膨大な魔力を供給し続けた。

これで最大火力のダイン・ゴーシュを、デザイアの仮面にそのまま叩きつけられる!

……そう思った矢先。

 

「……アトラちゃん、いけない!」

 

ラフィーがそう悲鳴を上げて炎剣に目を向けると……糸の向きが、悪かった。

糸の誘導を誤った、この軌道だとデザイアの頭の上を抜けていく。

もうデザイアの腕は立っている建物のすぐ上まで迫っている、これを外したら次の攻撃どころか回避も間に合わない……!

絶望しながら剣の軌道を見ていたその時、視界の端……炎剣の真下で何かが翔けた。

 

「やっぱりこうなった!

テメェ物投げるセンスマジでねぇな!この糸は……もっと下だ!」

 

「……サビー!」

 

視界の端に映ったのは、さっき私達を見捨てて逃げたと思っていたサビー・バルチャーだ。

デザイアが振り上げていない方の腕にナイフを突き刺しながらあっという間に登り切り、炎剣に絡み付く糸の近くまでナイフを構えて跳躍する。

私が炎剣に巻き付けた無数の引力糸のうち真下に付けた一本、それを彼女の獲物のナイフで上から体重を乗せて斬りつけた。

サビーの一撃で糸の向きはある程度補正されたが、まだ足りない。

今の軌道だと仮面の上を少し掠めるだけだ。

 

「おっと危ねえ、まだ足りねえか!

……『残骸漁りの目!』」

 

サビーが魔法を宣言すると、ナイフで切り付けられた糸が大きくたわんだ。

虚空から炎剣まで直線に伸びていた糸が、サビーの魔法で彼女の手元に引き寄せられて大きく向きを変える。

そして、その糸に導かれた先は……仮面の中央!

 

「やれ!アトラナクター!ホーリーシアン!!」

 

「私の、ありったけの魔力を流し込む!」

 

「……リオン!トドメを!」

 

この瞬間には、私達四人の誰が欠けても辿り着けなかった。

このデザイアには、これ以上誰も傷付けさせはしない!

糸の引力を全開にして……フルパワーで炎剣を仮面に叩き込む!

 

「行けぇぇぇぇええええええええ!!!」

 

『zggggggghhhhhhhhhhh!?』

 

仮面を直撃した炎剣の中に凝縮された炎の魔力が、一斉に暴れ出す。

その破壊のエネルギーは一点に収束されて剣の切先……デザイアの仮面を打ち砕くために目を覆うような光を解き放った。

そして一体が光に包まれた後、轟音と熱風が吹き荒れる。

仮面を貫通した炎剣が、自身諸共敵を滅ぼすために大爆発を起こしたのだ。

 

『ggggggghhhhhh…‥!』

 

そして、その爆音の中で私達は確かに、仮面が割れる音を探し当てた。

視界が閃光から取り戻された私たちの目に入ったのは、仮面を失い崩壊を始めるデザイアの巨体と、一足先に地に落ちた真っ二つのデザイアの仮面。

……5年もの間半斗浦西部に居座り続けたデザイア、監視塔のデザイアはここに滅びたのだった。

 

ーーーーーーーー

 

「やり、ましたね……。

例え先輩が見つからなくても、私は決して、負けません……。

そう、エッチな事をされない限り……!」

 

「……」

 

「……」

 

「……あぁうん、もうそれがテメェの決め台詞でいいわ……」

R-18版に需要はありますか?(本編ifの敗北シーンや舞台裏のシーンがメイン)

  • 需要はある
  • 本編ifの敗北シーンのみ需要はある
  • 舞台裏のシーンのみ需要はある
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