【完結】マンハッタンカフェのそっくりさんをスカウトした転生トレーナー   作:クスクス

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そっくりさんをスカウトしてしまった件

夕焼けに燃える空の下に立つ漆黒のウマ娘。

その黄金の瞳を見た時、私は歓喜した。

ついに…原作キャラに出会えたぞ!

 

そう、何の因果かウマ娘の世界に転生し、死ぬほど努力して何とかトレーナー資格をゲットして中央にやってきたはいいもののダイワスカーレットやメジロマックイーンといったお馴染みのキャラクターには出会えていなかったのだ。(メジロティターンとかいう娘はいた。多分メジロの親戚)

 

それがマンハッタンカフェにこんなところで出会えるとは。

夕暮れ時の選抜レース…というのはそれまでのレースでトレーナーがついていない、あまり期待されていないウマ娘が走るレースなので少々意外ではある。

だが、彼女を引けていないからトレーナーとどういう出会いをしたかはわからないし、元より彼女をスカウトする気はない。

原作トレーナーとの尊い出会いを邪魔しないようお邪魔虫はクールに去るぜ…と踵を返そうとした瞬間…

 

「アなたはドのウま娘が勝ツと思いマすか?」

 

恐ろしい声が背後からかけられる。

そういえば…マンハッタンカフェのシナリオでは幽霊が出るって話題だったような…

ぎこちなく振り返ると、深い闇を宿した瞳と目が合う。

長身のウマ娘がそこに立っていた。

30代~40代というところだろうか。

身体つきは均整がとれていて魅力的ではあるのだが、茶色のマスクをしており、そして…大型の肉食獣のようなプレッシャーを放っている。

例えるならそう、羊たちの沈黙のハンニバル・レクター博士が印象に一番近い!

 

「アなたはドのウま娘が勝ツと思いマすか?」

 

そのウマ娘は再び問いかけてくる。

間違いない。絶対に怨霊だ。

震える手でマンハッタンカフェを指さす。

幽霊の専門家らしい彼女ならきっと何とかしてくれるはずだ。

そんな私を見て、そのウマ娘は興味深そうに表情を変えた。

 

『どうしてそう思うのかしら?失礼。私はアメリカURAのヘイローよ』

 

英語に切り替えて話しかけてくるヘイローさん。

どうも日本語が苦手なだけで幽霊ではなかったらしい。

さて、どうしたものか。

彼女のシナリオに変な影響を与えてもいけない。

適当に誤魔化そうとしたところ…

 

万力のような力で肩を掴まれる。

彼女の顔が目前に迫っていた。

 

『私は無礼で嘘つきな人間が大嫌いなの。正直に答えなさい?でないと…』

 

そのままマスクの奥でガチガチと歯が嚙み合わされる音がする。

かみ砕かれる自分の姿を幻視する。

 

『あの子の脚を見なさい。歪んでいるでしょう?』

 

彼女がマンハッタンカフェを指さす。

つられて視線を向けると確かに少し脚が歪んでいるかもしれない。

なお、マンハッタンカフェがこちらにウマ耳を向けているような気がするが、おそらく偶然だろう。

かなり距離が離れているし、あそこまで声は届かないはずだ。

 

『それに、体格も決して恵まれているとはいえない。だからアメリカでもトレーナーがつかずにこんなところまで来て、それでもトレーナーがつかないのよ?なのにあなたは彼女が勝つといえるの?』

 

「言えます」

 

確信を持って答える。

転生してズルをしているとはいえ、トレーナーの端くれとしてウマ娘を侮辱されて黙っている事はできない。それに、マンハッタンカフェは原作キャラだから絶対に勝つはず。

ここが転生知識の生かしどころだ!

 

 

「脚が歪んでいる。体格に恵まれていない。それがどうした!大事なのは走ろうとする意志だ!彼女にはそれがある!断言する。彼女はこのレースに勝つだけじゃない!きっと偉大な名バになる!」

 

そう…期待されていない夕暮れの選抜レースに出走するウマ娘は皆、諦観や失望を抱えている。

だが、彼女は、彼女だけは己の運命にあらがうかのように誇り高く、独り前を向いて立っていた。

その黄金の瞳の力強さに一目ぼれしたと言ってもいい。

つくづく自分が彼女を担当する事ができないのが残念ではある。

私の答えを聞いたヘイローは冷ややかに口を開いた。

 

『でも彼女を担当しようとするトレーナーはいない…残念ね』

 

「彼女を支えるトレーナーならここ(URA)にいますよ」

 

ヘイローが沈黙する。

完璧だ。

あとは原作トレーナーさえ現れれば…

この無礼なウマ娘を言い負かした事を内心愉快に思っていると、突然ヘイローに手を取られる。

 

『あの子を連れてきて本当に良かった…あの子をよろしくお願いします』

 

そのまま深々と頭を下げられる。

何故!?マンハッタンカフェをスカウトする事になってしまっている!!

原作を破壊する前に断らなければ…!と焦っていると私の手を離したヘイローはマンハッタンカフェの方を向いてこう告げた。

 

『聞いていたわね?サンデーサイレンス。貴女のトレーナーにあなたの価値を、走る意志を証明しなさい』

 

マンハッタンカフェじゃない!?

お…落ち着け。

とりあえず原作をブレイクしてしまうという問題は解決された。

でもマンハッタンカフェじゃないならこの娘が負けるという事はあり得る。

そうしたらヘイローに物理的な意味で食べられてしまうのでは…?

混乱する私を前にマンハッタンカフェ…ならぬサンデーサイレンスが私の目を見てこくりと頷く。

もしかして、今までのも全部聞こえていたのか?

あの勘違いで放った台詞も全部…?

恥ずかしさに悶えそうになるがその黄金の瞳を見て覚悟が決まる。

 

勘違いであったとしても、彼女の姿に、瞳に惚れこんだのは嘘ではない。

彼女を信じて見届けよう。

そのまま彼女だけを見つめる。

 

やがて、運命のレースが始まる。

はじめから勝負になっていなかった。

サンデーサイレンスの加速に他のウマ娘が追随できていない。

彼女はそのままに加速し続ける。

やがて私は、不思議な感覚を感じた。

周囲から音が消え、彼女と私しかいないような感覚。

幽玄さすら感じさせる彼女の美しさに圧倒されるのを感じながら、彼女がゴールするのを見守る。

彼女が走り終えた瞬間、周囲の音が戻ってくる。

 

知らず、私は彼女に向かって駆け出していた。

改めて彼女の前に立つ。

彼女はその金の瞳で静かに私を見つめている。

陶磁器のような彼女の肌に血色がのぼっていて艶めかしい。

 

「サンデーサイレンス…君と契約させてほしい」

 

手を差し出す。

 

「お任せを…血に飢えた猟犬のようにレースを制して見せましょう」

 

私の手を取る彼女はそういって静かに微笑んだ。

周囲を燃えるような夕焼けが照らす中で彼女の漆黒の髪が最後の陽光を帯びてきらめく。

彼女の金の瞳が私達の未来を祝福しているように輝いた。

 




ヘイローというウマ娘の元ネタはサンデーサイレンスのお父さんで、気性難で有名な馬です。
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