【完結】マンハッタンカフェのそっくりさんをスカウトした転生トレーナー   作:クスクス

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※原作のウマ娘の家族関係に改変があります。
それでも良いという方のみご覧いただければ…と思います。


ラストランの後に/騒がしい日曜日

輝かしい栄光の日々にも終わりは来る。

年度代表バを勝ち取ったサンデーサイレンス。惜しくも敗れはしたもののG1の勝利数ではサンデーを上回るイージーゴア。この二人のレース生活も終わりを迎えようとしていた。

最後の決戦の舞台となったのはアーリントン・チャレンジ・カップ。

 

穏やかな午後の光の中で行われたそのレースは…まさに伝説になるレースだった。

 

ゴールタイムは1000分の1秒まで同じ。

同着。

サンデーサイレンスとイージーゴア。

この二人は最後まで互角である事を示したのだ。

 

一方、レースの後の引退式での二人は全く正反対だった。

 

サンデーは「私はずっと走ってきました。だから勝てた。愛もレースも…勝つためには…まず何よりも走らなければなりません」の一言でスピーチを終えてしまった。

 

彼女の信念はその一言で表されるという事なのだろう。

 

イージーゴアのスピーチの方は時間ぴったりのきっちりしたものだった。

 

「…最後に感謝を申し上げます。レースを支えてくれる職員の皆様に。これまで私と共に走ってくださったウマ娘の皆様に。観客の皆様に。私のライバル。サンデーサイレンスに。…そして何より私を支えてくださったトレーナーに。私の心からの愛を」

 

彼女はそう言って締めくくった。

そう、そこまではよかったのだ。

 

問題は…我々のスピーチの時に起こった。

イージーゴアのトレーナーが迂闊にもあんな事を言わなければ。

その後の悲劇は起こらなかったのかもしれない。

まあ、引退式の前にサンデーとイージーゴアが二人で話し込んでいた時点で何かが起こると思ってはいたが。

 

「イージーゴアは素晴らしいウマ娘でした。彼女とはこれでお別れになりますが、この経験を糧にして彼女のような偉大なウマ娘を育」

「いいえ…そのような事は許しませんわ」

 

イージーゴアのトレーナーが熱く語っているのをニコニコと微笑んで見守っていたイージーゴアが遮る。

目が完全にすわっている。

イージーゴアが最終直線で見せるあの凄まじい気迫に誰もが言葉を失っていた。

彼女は静かに立ち上がると壇上のトレーナーに向かい合った。

 

「…トレーナー。私は貴方の事をお慕いしています。これでお別れなんて嫌です!」

「しかし…僕と君とはトレーナーとウマ娘で…」

「たった今そうではなくなりましたわ!どうか…これからも私と一緒に歩んでください。私の伴侶になってください!」

 

突然のイージーゴアの行動を固唾をのんで見守っていた観客席から一斉に拍手と歓声が巻き起こる。

会場中のイージーゴアを応援する声に圧倒されながらも、イージーゴアのトレーナーは何とか言葉を絞り出した。

彼自身にとどめをさす一言を。

 

「僕も…。いや、こんな事は許されない。君の家だって…」

 

その瞬間、イージーゴアの顔が輝いた。

この顔はサンデーもするのを見た事がある。

恋が成就した時のウマ娘の顔だ。

 

「大丈夫です!私の愛する相手は私が決めます!お母さまにも口は出させません!」

「待ってくれ!急すぎる!僕にも心の準備が」

「善は急げですわ。さあ、お母さまに会いにいきましょう!」

 

そのまま呆然とするトレーナーの腕を取ると、会場の出口に向かって歩き出した。

会場中から応援されながら、颯爽と歩く姿は女王のように威厳に満ちていた。

イージーゴアのトレーナーは…慌てた顔のままおろおろと視線をさまよわせていたが、縋るような目で私を見た。

 

「サンデーのトレーナー。何とか言ってくれ!君も同じトレーナーならわかるはずだ!」

 

その悲鳴のような声に心動かされはしたが…ゆっくりと首を振る。

 

「私の国にはことわざがある。”ウマ娘の恋路を邪魔するやつは蹴られて死ぬ”」

「サンデーのトレーナー。君もか!」

 

そのままがっくりとうなだれて連行される彼を見送る。

…担当ウマ娘との距離感を見誤ったトレーナーの、妥当な末路だ。

そんな感慨に浸っていると、イージーゴアも振り向いて叫んだ。

 

「サンデー。貴方の言うように私も愛のために走ってみようと思います。…貴方もどうか良い狩りを」

「ええ…イージーゴア。頑張ってください」

 

麗しい友情のやり取りがあった後、私の腕がサンデーにがっしりと掴まれる。

…あっ。

 

きらきらと金色の瞳を輝かせたサンデーが私を見つめている。

そのまま壇上へとサンデーに連行される。

 

次に何が起きるのかを察した観客達が今度はサンデーを応援し始める。

特にサンデーの旧友達とホワイトアイビーからの圧が凄い。

”サンデーちゃんに恥をかかせたら覚悟してくださいね”

そんな言外のメッセージを感じる。

 

じっと私を待っているサンデーの姿を見つめる。

私の愛するウマ娘を。

本当はもっと後で渡そうと思っていたんだが…。

まあ、プランBという事にしよう。

スーツのポケットを探る。

 

ポケットから小箱を取り出し、開く。

箱の中には指輪が入っている。

 

それを見たサンデーの目が大きく見開かれ、幸福そうな笑顔を浮かべる。

 

「サンデー。私とずっと一緒にいてほしい」

「はい。幸せな家族をつくりましょう」

 

そして、観客の祝福の中で私は彼女の指に指輪を嵌め…それからキスをした。

 

────────────

 

──────────

 

────────

 

※サンデーサイレンス視点。

 

穏やかな日差しを浴びて私は目を覚ましました。

私の身体には丁寧に布団がかけられていて。

夫の気づかいを嬉しく思いますが…同時にちょっと不満を感じます。

起こしてくださったらよかったのに。

目覚めた時にあなたの腕の中にいるのは何にも代えがたい幸福なんです。

次は絶対にそうするように頼んでおきましょう。

 

ベッドから起き上がりゆっくりと伸びをする。

…全身に前夜の甘い感覚と甘美な気だるさが残っています。

でも、もう起きないと。

今日はフジの大事な日ですから。

 

現役の時と同じように丁寧に一つ一つの筋肉を伸ばしていく。

前夜の快い疲れが消えていくのを惜しく思いながらも、鏡を見ながら入念に柔軟をします。

もう…若いとはいえませんね。

現役の頃とは違って筋肉も落ちていますし、身体に薄く脂肪がついています。

あの子達を産んでからは走る機会も運動する時間も減ってしまいましたし。

 

でも…。

私はそっと微笑む。

今の私の身体は夫と娘達と幸福な日々を過ごした結果ですから恥じる事などありません。

それに…夫の愛は変わらないみたいです。

昨日も私に夢中になってくまなく褒めてくれましたから。

私の身体は丁寧にあつかえばまだまだ楽しめるでしょう。

何と言ってもこの身体で2冠を取って年度代表バにもなったのですから。

 

柔軟と朝の身支度を終えてスマホを見るとメッセージが二つ。

”フジちゃんの初レース応援してるよ~。後でレースの動画おくってね”

”あなたの娘ですから絶対に大丈夫ですわ。応援しております”

 

アイビーとイージーゴアからのメッセージに感謝を返して、廊下に出ると。

ふらふらと廊下を歩くダイワメジャーがいました。

私に気づくと彼女はふにゃりと笑って。

 

「おはよ~ママ。そしてお休みぃ…」

 

…廊下の真ん中で丸くなって寝息をたて始めました。

本当に…もう。

でも私も慣れてしまいました。

彼女をひょいと小脇に抱えます。

 

「お母さん、おはようございます。…ダイワメジャーは相変わらずね」

「おはようスズカ。ええ…まったく困ったものです」

私に抱えられてもむにゃむにゃと幸せそうな寝息をたてているダイワメジャーの栗色の髪を撫でる。

そして、振り返ると顔を上気させたサイレンススズカが立っていました。

青色の瞳が喜びに輝いています。

 

「…スズカ。走ってきたのですね。クールダウンはちゃんとしましたか?」

 

こくりと頷くスズカ。

そこに…

 

「お母さん大変!お父さんが七色に光ってるの!!」

 

息を切らしたディープインパクトが飛び込んでくる。

黒髪を振り乱して慌てている事が伝わってきます。

どうせ…タキオンの仕業でしょう。

ディープの言葉に反応してダイワメジャーがもぞもぞと動き出す。

 

「え~!パパ光ってるの~!?見たい!見たい!」

「笑いごとじゃないよ!メジャーお姉ちゃん!」

…メジャーを降ろし、3人に黙ってついてくるよう合図をします。

 

「素晴らしい!見たまえ!カフェ。ステイゴールド。ウマ娘の力を再現する薬を人間に投与すると…光る!いやはや、神秘を感じるねぇ」

「…お母さんに怒られますよ」

「おお~すげえ。ゲーミング発光ってやつ?」

 

ダイニングに入ると食卓についたカフェとステゴ。

そして、愛しい私の夫が料理をしているのが見えます。

毎朝、彼の顔を見る度に、愛が輝くのを感じるのです。

もっとも…今日は物理的に七色に生体発光していますが。

元凶のタキオンは…夫を見ながら熱心にメモをとっていました。

カフェとステゴにも黙るように合図をして、タキオンの背後に忍び寄り、ぽんと彼女の肩に手を置きます。

 

「なんだいカフェ。後にしてくれたまえ。私は今忙し…」

「私に向かってそんな態度を取れるようになるとは…ずいぶん偉くなりましたね、タキオン。母として成長を喜ぶべきでしょうか?」

 

ゆっくりと振り返るタキオン。

私も笑顔で彼女と視線を合わせます。

 

「お母様…今日もご機嫌麗しく…絶好のレース日和だねぇ」

「ええ。タキオンあなたも元気そうで何よりです。ところで…」

 

そっと夫の方を指す。

 

「説明していただけますか。どうして私の夫が七色に光っているのか」

「愛の神秘…」

「私がお父さんのためにいれたコーヒーにタキオンが薬を盛ったんです…自信作だったのに」

 

横からカフェが口を挟みます。

あわあわと慌てるタキオンに有罪判決を下すことにしました。

 

「今月のお小遣いは5割カットです。妹たちにもたかるんじゃありませんよ」

「そんなぁ!?今月の実験分はもう注文してしまったよぉ。カフェ~」

「今の流れで私にたかるとかどういう神経しているんですか…そもそも前月貸した分もまだ返してもらっていませんし…」

 

そのやり取りを見て爆笑しているメジャーとステゴ。

ちょっと困った顔をして見ているスズカとディープ。

 

「まあまあ、カフェ。珈琲は美味しかったよ。タキオンは…悪気はあったかもしれないけど一応光る以外は無害みたいだし、許してあげたらどうかなサンデー」

 

 

料理を終えた夫がフォローに入ります。

ぶんぶんと首を縦に振るタキオンと珈琲を褒められて嬉しそうなカフェ。

私は溜息をつきました。

 

「もう…あなたは甘すぎます。怒るべき時は怒らないと。…タキオン?反省しているなら2割カットで許してあげます。でも後でお説教は受けてもらいますからね」

 

そこにクスクスと笑う声。

 

『貴方のご家庭は愛に溢れていて楽しいですわね。サンデー。お邪魔しておりますわ』

 

見ると、半透明に光るウマ娘…イージーゴアの生霊?が珈琲カップを片手にちゃっかりと椅子に座っていました。

 

「お友達のお友達さん…お母さんにも見えるんですね。…お友達はお母さんがいると出てきてくれないのが残念です。きっとお母さんとも仲良くなれると思うのに」

「まあ…幽霊さんとも相性があるんでしょう。きっと」

 

カフェが残念そうな顔をするのを適当に誤魔化します。

…母親の生霊がお友達というのは思春期の娘には酷な真実でしょうから。

といっても私が制御できるわけではありませんし、何をしているのかもぼんやりとしか知覚できないのですが。

 

「さて。ご飯にしましょう。今日はフジキセキの初レースの日ですから。みんなで応援に行きますよ」

『それではお暇させていただきましょう。カフェさん。珈琲をご馳走様でした。とっても上達していますよ』

 

カフェに優しく語り掛けるイージーゴア。

 

『サンデー。たまにはこちらにもいらしてくださいね。私の娘達にもあっていただきたいのです』

 

それからイージーゴアが微笑んでカーテシーをして消えていく。

そして楽しい朝食の時間。

 

「俺達の家族って幽霊が見えるやつとマッドサイエンティストの双子がいるし、母さんは年度代表ウマ娘だし、結構変わってるよな…?」

「そうね。私とディープ以外みんな変わっているけれど。でも…私は大好きよ」

「おい待て。何自分を常識人枠にしているんだ。スズカも十分変人だよ!この先頭民族が!」

 

ステゴとスズカがこそこそと会話していたり。

 

「レースかあ。いいよね。私もいつかみんなを感動させるようなレースをしたいなあ…」

「ディープお姉ちゃんならきっとできるよ!僕は…レースもいいんだけどお日様に当たってると眠くなっちゃうんだよねぇ」

「あはは…体育の時間にお昼寝しちゃったって聞いたよ。駄目だよ?ちゃんと授業を受けないと」

 

ディープとダイワメジャーがほのぼのする会話をしていたり。

…後で小学校の先生に謝っておいた方がいいでしょうか。

 

何気ない日常ですが私の宝物です。

朝食を終えて、娘達に出かける仕度をするように言います。

ハチの巣をつついたような騒ぎになるのを眺めながら、そっと夫に寄り添います。

 

「フジも帰ってきたらよかったんですけどね…トレーナーと一緒が良いって帰ってこないなんて。いったい誰に似たのでしょう…」

「…信頼できる良いトレーナーを見つけられたという事だから良いんじゃないかな。きっと大丈夫だよ。私達の娘なんだから」

「だといいんですけど。それに…あの娘達も良いトレーナーを見つけられるか心配です。みんな頑固でちょっと変わっているところがありますから。…どうして私みたいに素直で聞き分けが良くないんでしょう」

「……ソウダネ」

 

何かいいたげな夫をぺしぺしと尻尾で軽く叩きます。

夫は優しい顔になって娘達を見つめて口を開きました。

 

「心配いらないよ。きっとぴったり合うトレーナーが見つかる。なんと言っても私と君の子供なんだから」

「そうですね。きっと…愛を捧げてくれるトレーナーが見つかるはずですよね。あなたのように」

 

それから、私達はキスをしました。

何も心配する事はありませんね。

彼の言う通り、私達の愛で育まれた娘達なのですから。

きっと自分の心からの走りを認めてくれる人に巡り合えるでしょう。

そんな娘達の未来を祈りつつ、私達も準備を始めました。

 

静かな日曜日が騒がしい日曜日になってしまいましたが…私は幸せです。

 




ここまでお読みいただきありがとうございました。

史実ではアーリントンチャレンジカップで対決するはずでしたが、イージーゴアは一週間前に怪我で引退、サンデーもまさかの当日に怪我で引退と実現しなかった対決ですが、ウマ娘世界では実現したという事で…。

また、サンデーちゃんの娘について史実のG1馬に絞っても多すぎるので…私の独断と偏見でえらばせていただきました。
ご了承いただければと思います。

完結までお付き合いいただき本当にありがとうございました。
読者の皆様に巡り合えた事がこの小説を書く上で一番の支えでした。

最後になりますがぜひ感想と評価をいただければ幸いです。
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