【完結】マンハッタンカフェのそっくりさんをスカウトした転生トレーナー 作:クスクス
大変励みになっています!
このお話はサンデーとトレーナーの喧嘩なのですが…あまり重くはないというかお互いを想いすぎた結果というか…いちゃいちゃ痴話げんかみたいな変な概念を書きたくて書きました。お楽しみいただけると幸いです。
※トレーナー視点です。
漆黒のウマ娘サンデーサイレンス。
彼女はまったく足音を立てずに私の側まで歩いてくると前置きもなく突然問いかけてきた。
「どういうことですか」
彼女の視線は私を射貫くように鋭い。
一切の嘘やごまかしを許さないという断固たる態度。
私達の間の沈黙が物理的な力を持つもののようにのしかかってきた。
「聞いていたのか…」
私が絞り出すように答えるとサンデーがこくりとうなずき、さらに問いかけてきた。
「はい。最初から最後まで全部。どうして…あなたはジェニュインを見捨てたのですか?」
「な…見捨てるつもりなんて…!」
私の抗議を無視して彼女は私の肩に手をおく。
あくまで優しくおかれているだけだが、肉食獣に爪をたてられているような…そんな感覚がある。
「彼女に…ジェニュインに何か問題があるのですか?」
「いや…彼女は良いウマ娘だよ。素質があり、望むものがある。問題は…私のほうなんだ」
そこで言葉を切り、彼女の反応をうかがう。
しかし、彼女が続きを促すように黙ったままなので、私はあきらめて話を続けた。
「ジェニュインには素質がある…G1をとれるかもしれないぐらいに。だけど私は君を指導した経験しかない。私の指導が日本の芝のコースでも通用するかは未知数だ。だから…」
「嘘ですね」
サンデーの白くか細い手が私の肩を鋼鉄の万力のように締め上げる。
思わず呻きをもらしそうになるのを必死でかみ殺す。
「私をスカウトしてくれた時の事をおぼえていますか?」
私は無言でうなずく。
彼女の声は静かだが切なさをたたえていた
「あの日、私は全くの無名なウマ娘で…あなたは新人でした。だけどあなたは一瞬たりとも迷いませんでした…嬉しかった」
彼女の金の瞳が揺れている。
それに魅せられて私は一時、肩の痛みも忘れた。
「私の事を見てくれる人がいる。それだけで世界は変わりました。…トレーナーとしての実績なんて関係ありません。私達ウマ娘は心を預けられる人のために走るのです」
彼女はそこで言葉を切ると、私の肩から手を離し、そっと私の頬に触れた。
「それを一番よく知っているのはあなたでしょう…?だから…」
”本当のことを教えてください”
彼女の意志を強く感じる。
私は静かに目を閉じた。
過大評価だと叫びたい気持ちもある。
正直、彼女をスカウトしたのだってヘイローに脅されたのと人違いが理由の半分を占めているのだから。
だが、もはやサンデーが本当の事を聞くまでは引き下がらないことはわかる。
本当の理由を告げた時に彼女が私をどんな目で見るのかが恐ろしかった。
罪人のような気持ちで私は口を開いた。
「私に問題があるというのは本当だよ…私にとって君が一番のウマ娘だから。担当ウマ娘の事を一番に考えられないトレーナーなんて失格だ」
…我ながら情けない。
自分の不甲斐なさをサンデーに責任転嫁をしている。
きっと彼女も軽蔑するのではないか。
「本当に…しかたのない人ですね」
そして彼女の手が私から離れる。
ああ…その通りだ。
私は本当にどうしようもない…
そこまで考えたところで頬にやわらかな唇の感触を感じ、驚いて目を見開く。
悪戯っぽく目を輝かせるサンデー。
「そんなに私の事が好きなのですか?」
尻尾がゆっくりと左右に振られ、目が穏やかな金色の光をたたえている。
「ああ…だから」
そこまで言いかけたところで唇に指を押し当てられて黙らされる。
「私はもうレースには出られません。あなたの担当バだった私は過去の私です。楽園を目指してもがいていた私…だから」
そこまで言って彼女は穏やかに微笑んだ。
「今の私を愛してください。あなたの隣で…楽園を歩む私を。だから…トレーナーとしては他の娘の事を考えても許します」
「サンデー…本当に良いのかい?私は…」
彼女が差し出してくれたものの重さに改めて私は言葉に詰まる。
サンデーはそんな私を見つめて愛おしそうに言葉を紡いだ。
「ええ…構いません。だって、決めたではないですか。あの夏の日に。何でもわかちあうと。あなたが戦うなら止めたりしません。私も共に戦うのです」
そして私達はキスをした。
短いついばむようなキス。
だが、そこに無限の愛をこめて。
共に楽園の先へ。
トレーナー契約書にサインをし終えて、私は呟いた。
「あとはジェニュインに契約することを伝えないといけないな…」
そう。ひどい断り方をしてしまったものだから。
彼女に謝らなくては。
はたして許してもらえるだろうか。
悩みはじめた私にサンデーは愉快そうに目を細め、扉に向かって声をかけた。
「大丈夫だと思いますよ…ジェニュイン…出てきなさい」
「ひゃっ!?ど、どうして…」
真っ赤な顔をしたジェニュインが扉の陰から出てくる。
「猟犬は鼻が利くのです」
と誇らしげな顔をするサンデー。
「りょ…猟犬?まあいいや!ありがとうございます!教官!いや、トレーナー!サンデー先輩も…。これからよろしくお願いします!!」
折り目正しく深々と90度の見事なお辞儀をする彼女に私があっけにとられていると…
「でも!でも!!…不純異性交遊はいけないと思います!!!」
お辞儀を終えたジェニュインはそう叫んで走り去ってしまった。
扉は開け放たれており…ウマ娘達は耳が良い。
新しくトレーナーとしての戦いを始める前に私の社会的生命が終わってしまうのではないだろうか。
「終わった…」
うなだれる私を見てくすくすと笑うサンデーサイレンス。
「今さらではないですか?…それに”トレーナー”は譲っても…”あなた”の事は誰にもあげません」
そして、彼女はポケットからチケットを取り出す。
温泉旅行券。
ウマ娘育成で泣かされるあれである。
確かに原作でもトレーナーと一緒に行っていたが…
「待ってほしい!このタイミングでそれは…」
「今だからこそ…です。私を愛していると証明してください」
楽しそうに私を誘惑するサンデーサイレンス。
そんな彼女を見て…私はやはり彼女には勝てないと思うのだった。