【完結】マンハッタンカフェのそっくりさんをスカウトした転生トレーナー   作:クスクス

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勝負服/誓約の証

突然だが、私は試練のただ中にいる。

周囲を見渡せば洗練された内装に高級そうなデザインの衣類が並び、店員の皆さんもプロとしての静かな誇りを感じさせる顔をしている。

そう、サンデーサイレンスがG1への出走権を得た事で、勝負服を仕立てる権利を得た。

だから先輩方に良い店を聞きまわり、伝手を頼って一流の勝負服デザイナーの店にやってきたのだが…

 

場違いがすぎる!

残念ながら前世と今世を通じて、こんな場所に縁があった事はない。

ちらりと傍らのサンデーを見やると穏やかな金の瞳と目があう。

彼女は私と違って全く緊張していないらしい。

尻尾も穏やかにゆらゆらと揺れている。

もっとも彼女は、私とお出かけするといつもこんな感じではあるが…

 

意を決して勝負服を仕立てに来た事を伝えると別室へと案内される。

担当してくれる事になったのは繊細さと知性を感じさせる穏やかなウマ娘だった。

 

「担当させていただくPound Foolishと申します。パウンドとお呼びください。私もかつてはレースに出たウマ娘でした。残念ながら私には才能がなく、勝負服は着られませんでしたが…その代わりにこうして皆さまの勝負服を作るお手伝いをさせていただいております」

 

「お手伝い…ですか」

 

その台詞にサンデーが反応する。

あまり他人に反応する事のない彼女にしては珍しい反応だ。

そんなサンデーを見てパウンドさんがにこやかに微笑む。

 

「はい。勝負服というのはそのウマ娘の存在を象徴するものですから。私はあなたが自分の在り方を表現するのをお手伝いさせていただくだけです」

 

その言葉を受けて、サンデーは何かを考えこんでいる様子だったがやがて頷くと口を開いた。

 

「トレーナーさん…この方にお任せしたいと思います」

 

ここまできて断る可能性もあったのか…

先輩方に無理を言って紹介してもらっただけに顔をつぶさなくて済んだことにほっとする。

 

そこからはプロの冷静な顔つきになったパウンドさんがサンデーから勝負服のイメージを聞き出して、それを元にデザイン案を仕上げていく。

サンデーは最初こそぎこちなかったものの次第に素直に要望をあげていった。

 

闇よりも黒い漆黒。

 

私がここで生きていると証明する衣装を。

 

その要望を受けてパウンドさんが次々と案を出し、サンデーが容赦なく没にしていく。

そして最終的にできあがったデザインは…マンハッタンカフェの勝負服にそっくりだった。

そのデザインを示しながら、パウンドさんが少し言いよどむ。

 

「これは…少し激しいデザインですね」

 

確かに、ウマ娘の勝負服は華麗で女性的なデザインのものが多い。

黒で統一された勝負服は奇抜に見えるかもしれない。

 

「…これで良いです。…トレーナーさんはどう思いますか?」

 

わずかに微笑んで彼女が私に問う。

普段表情を表に出さない彼女がここまで喜びをあらわにするのは珍しい。

ならば私が反対する理由は何もない。

 

「これが君の魂の形か。決して他の色に塗りつぶされる事のない唯一の色。君に相応しいと思う」

 

微笑んで彼女の瞳を見つめる。

彼女の金色の瞳が深く輝いたような気がした。

 

そこでパウンドさんが咳払いをしたので私は我に返る。

 

「コホン、それではこちらで制作させていただきます。…お二人を見ていると私の娘を思い出します」

 

溜息をつきながら話すパウンドさん。

 

「娘さんがいらっしゃるのですか?」

 

「ええ…私と違って才能があってG1も勝っていたのですが…。トレーナーさんと二人で新しいブランドを作るんだって家を飛び出してしまいました。それぐらいあの子とトレーナーさんの絆は本物でしたから。あなた方の絆も同じぐらい深いように見えます」

 

私とサンデーの絆が深いように見えたのならそれは光栄な事だと思う。

もちろん、私は彼女に手を出すような真似はしないが。

そう思って傍らの彼女を見ると真剣に私を見据える金の瞳が見えた。

安心させるために頷いてみせる。

彼女の金の瞳が先ほどより深く輝いたように見えた。

 

さて…その後は採寸があるという事でサンデーはパウンドさんに連れられていったので、しばらく暇潰しをかねて店内を見て回らせてもらう事にする。

どれも高価だがその分、質の高さを感じさせる。

きっと彼女の勝負服も良いものを作ってもらえるだろう。

そこでふと思いつく。

彼女の勝負服作成のお祝いに何かちょっとしたものを贈るのはどうだろう。

彼女の勝負服にはネクタイがあったからネクタイピンなんて良いかもしれない。

店員さんに声をかけるとパウンドさんの娘…グッバイヘイローさんのデザインしたネクタイピンがあるという。

見せてもらうと、洗練された中に確かな自信と愛を感じる。

それに華やかなデザインだから彼女の勝負服にも映えるかもしれない。

値段は…数万円か。

教え子に送るにはやや高価かもしれないが、一生に一度のお祝いと考えれば妥当かもしれない。

プレゼント用に包んでもらっているとサンデーがちょうど戻ってくるところだった。

やはり勝負服を作るという事はウマ娘にとって特別なのか、彼女から静かな高揚を感じる。

 

「トレーナーさん…それは?」

 

私がプレゼントを包んでもらっているのを見た彼女が問いかけてくる。

本当は学園に戻ってから渡そうと思っていたのだが…

 

「君に贈ろうと思って。今日は君が勝負服を作る特別な日だから」

 

彼女の尻尾が大きく振られ、黄金の瞳が喜びに燃える。

だが、途中である事に気づいたのか彼女が悄然とする。

 

「あ…でもレースやウィニングライブでは使えませんね…万が一にでも落としたり傷つけたくないですから…」

 

…確かにそうだ。

なんという迂闊。

私は必死に頭を巡らしある事に気づいた。これならいける!

 

「確かにそうだね。でもG1を勝ったウマ娘はインタビューを受ける。そこで使ってくれないだろうか」

 

彼女の尻尾が再び大きく振られる。

ちょうどラッピングも終わったので彼女に差し出すと、彼女は宝物でも扱うように胸に抱えた。

そして何かを思いついたのか私に近づくとそっと囁いた。

 

「レースの時はトレーナーさんがつけていてください…私が勝ったらトレーナーさんの手で私につけてください」

 

私が快諾すると彼女は年頃の少女らしいはにかんだ笑顔を浮かべた。

その笑顔の美しさに私はしばし見とれていたが…ある事に気づいた。

レースが終わった後という事は衆人環視なわけで。

そこで彼女にネクタイピンを止めるという事はものすごくイチャイチャしているように見えるのではないだろうか!?

しかし今さら幸福な笑顔を浮かべる彼女に「やっぱり無しね」と言う事はできず、内心頭を抱えるのだった。

 

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※サンデーサイレンス視点

 

寮の部屋で慎重に包装紙をほどき、丁寧にたたむ。

これもトレーナーさんにもらった大切なものだから。

 

そっとネクタイピンの箱を開けると、上品な輝きを放つネクタイピンが現れる。

ウマ娘とトレーナーの二人で作ったブランドだけあってその透明な愛のこだまが感じられるように思えた。

その輝きに見惚れていると想いが一気に溢れてくる。

私の勝負服。

私の魂の形。

私はここにいると、誰にも私の居場所を奪わせはしないという叫びだから、ひょっとしたら怖がられたり、変に思われたりするんじゃないかって、ほんの少しだけ不安だった。

なのに…どうして、あの人はあんなにも私の欲しい言葉をくれるのでしょうか。

そしてこのプレゼント。

G1に勝たないとつけられないのにこれを選んだという事は…私が勝つと信じているから。

私は…信頼されている。

 

幸福な感覚が全身を駆け巡る。

まるで熱でもあるかのようにふわふわとするけれど、全身に力がみなぎっていて。

あの人と一緒なら世界の果てまでも駆けていけそうな気がする。

 

再びネクタイピンを見る。

ネクタイピンを贈る意味は、「貴方を支えたい」「貴方を見守っています」。

…もう十分あなたに支えてもらっているのに、これ以上支えられたら…私はダメになってしまいます。

だから…レースの間はトレーナーさんにつけていてもらう事にした。

あなたに支えてもらった私が、今度はあなたの信頼に応えるから。

あの日約束したとおり、あなたに勝利を捧げます。

そのかわり頑張った猟犬をたくさん褒めてくださいね。

 

このネクタイピンは誓約の証。

二人で支えあって勝利を。

そしてその先、”楽園”に。

 

 




Pound Foolishはキングヘイローの母方の祖母です。
グッバイヘイローはキングヘイローのお母さんですね。
次はいよいよG1の予定です。
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