【完結】マンハッタンカフェのそっくりさんをスカウトした転生トレーナー   作:クスクス

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いよいよサンデーの育成2年目がスタートです。



新しき時/楽園の先に

澄み渡る青空。

一年の始まりを祝福するかのような空の青さに目を細める。

サンデーサイレンスの悲願、米国3冠に挑戦する特別な年。

それを噛み締めながらトレーナー寮を出て、彼女との待ち合わせ場所に向かう。

 

日々多くのウマ娘がトレーニングに励むトレセン学園も、元日の今日ばかりは休日の弛緩した空気を漂わせている。

無論、私達もそれは例外ではなく、サンデーと近所の神社に初詣に行く事にしている。

本来なら私が彼女を寮まで迎えにいくはずだったのだが、彼女の強い希望で学園の外で待ち合わせる事になったのだ。

 

待ち合わせ場所につき、腕時計を眺める。

少しだけ早いが、彼女を待たせるよりはずっといい。

 

彼女を待ちながら、周囲に目を向ける。

トレセン学園のそばだけあって晴れ着姿のウマ娘達が行きかい、街に華やいだ雰囲気をもたらしている。

彼女達を微笑ましく見ていると…我が愛バ、サンデーサイレンスがやってくるのが見えた。

 

しかし…その服装がいつもと違っている。

美しい黒の着物に身をつつみ、その烏の濡れ羽色の髪を結いあげた彼女は。

その白皙の美貌とあいまってどこかの深窓の令嬢かと思ってしまうほどだ。

彼女の金の瞳が私をとらえて喜びにきらめき、私に向けて駆けだそうとするが…

慣れぬ草履に脚を取られて体勢を崩した。

 

私は慌てて彼女に向けて駆け寄るが、彼女は危ういところで何とか体勢を立て直す。

 

「大丈夫か!?」

 

「大丈夫です…お待たせしてしまってすみません…トレーナーさん」

 

彼女が沈んだ声で答える。

余計な気を使わせてしまったか。

 

「君が無事でよかった。私も今来たところだから」

 

微笑んで努めて優しい声を出す。

そして、うなだれたままの彼女を見て、本来は控えておこうかと思った事を言ってしまう。

 

「その着物…とてもよく似合っているよ」

 

きっと褒めてほしくて、私のために着てくれたのだろうから。

彼女の沈んでいた瞳が輝きだし、彼女の尻尾が大きく振られる。

そんな様子を見て嬉しく思うとともに先ほどの事を思い出し、彼女に提案する。

 

「良ければ…手をつなごうか。草履は慣れないと歩きづらいから」

 

彼女がおずおずと頷くので優しく彼女の手を取ってゆっくりと歩きだす。

彼女の頬がさっと朱に染まるのを見て、改めて思う。

この娘は私に好意を抱いているな…と。

 

今も彼女は私に寄り添って歩いているし、尻尾が私の身体を撫でている。

あの日以来、彼女はこうして直球で好意を示してくるようになった。

 

そのまま私達は神社に向かって歩く。

彼女はもともとおしゃべりな方ではないが…。

今日はいつになく言葉少なだった。

 

ただ、時折視線を合わせると彼女の瞳から深い満足が伝わってくる。

…神社までの道のりがもっと長ければいいのに。

彼女と歩く時間は、そう思ってしまうような不思議な時間だった。

 

小さな神社だが、境内は賑わっていていくつか屋台も出ている。

米国育ちで神社に馴染みのない彼女に神社の解説をしたり、屋台をのぞく。

甘酒の強烈な甘さと独特のにおいに目を白黒させる彼女は年相応の子供らしさがあって、可愛らしかった。

 

そのあと、参拝の列に並ぶ。

 

「あの箱にお金を投げて願い事をすると神様…いや、アメリカでいうと精霊かな。それが願いを叶えてくれるんだよ」

 

サンデーに参拝のやり方を教える。

 

「願いごと…ですか。…トレーナーさんは何をお願いするんですか?」

 

「君の無事、君の勝利、そして何より…君が望む場所にたどり着ける事を。…あとはトレーナーとしての給料が上がる事でもお祈りしようかな?」

 

うっかり素で答えてしまい…押し付けがましかったかと冗談を交えてみたのだが…。

彼女の金の瞳を見る限り効果はなかったらしい。

 

どうも今日は悪手ばかり選んでいるような気がする。

彼女の好意を自覚してからというもの、彼女の扱いを図りかねている。

本来は距離を置くべきなのだが、それが上手くできない。

 

反省しているうちに私達の番が来る。

奮発して1万円を投げ入れると先ほど言った通りの事を願う。

 

傍らの彼女を横目で見ると驚くほど真摯な顔で願い事をしている。

 

参拝を終えて境内を歩きながら、先ほど何をお願いしていたのか聞いてみる。

米国3冠だろうか。それともやはり”楽園”に至る事だろうか。

 

彼女は静かに頷き、私から手を離して立ち止まる。

不思議に思い、彼女へと向き直り視線を合わせる。

 

「はい…それも願いました。だけどもう一つ。…トレーナーさんに愛してほしいです」

 

彼女の瞳が愛と恋慕の情に輝いている。

 

「もちろん…私は君のトレーナーとして」

 

咄嗟にトレーナーとしての”私”に話をすり替えようとする。

それにトレーナーとしても彼女を愛している事に嘘はない。

だが、彼女が首を振る。

 

「違います…トレーナーとしてだけではなく。”あなた”に愛してほしいです…」

 

…流石にこれを誤魔化す事はできない。

これは愛の告白だ。

だが果たしてどうするべきか。

 

今、この場で受け入れるというのが論外な事はいうまでもない。

トレーナーとウマ娘という関係がそれを許さない。

 

ではきっぱりと断るか。

本来ならば、大人としてそうするべきだろう。

だが、それで彼女を動揺させて競技生活に影響がでてしまったら。

そんな狡い打算が顔を出す。

 

何より、今日ついつい彼女に恋人のように接してしまったように。

彼女の瞳の中にある純粋な愛を踏みにじる事はどうしてもできないのだった。

 

結局、私は半端者らしく卑怯な時間稼ぎをすることにした。

 

「…サンデー。私は君のトレーナーをしながら君の恋人をできるほど、器用な人間じゃない。今は…君の現役期間中は、ただのトレーナーとして君を支えさせてほしい。だから、君が走るのをやめた時。その時は君に答えを言うよ」

 

そう、幼い愛はその純粋さゆえに儚く、うつろいやすい。

これから彼女の未来は祝福されてどこまでも広がっていく。

そのうちに、私への愛も薄れるのではないか。

 

だが、もし現役期間の終わりまで、彼女の愛が生き延びていたら。

困ったことに…その時に私が彼女に返す言葉は、一つしか見つからないのだった。

 

彼女の手を引いてトレセン学園に戻る途中、そっと空を見上げる。

願わくば、この青く澄み渡る空のように彼女の一年が祝福に満ちていますように。

 

 

────────────

 

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────────

 

幸せでした。

 

寮の私室で今日の思い出を反芻する。

 

私の手を引いてくれたトレーナーさんの手。

その感覚を忘れないようにそっと手を胸にあてる。

まだ私の手のひらにのこる彼のぬくもりが…私にしみこむように。

 

私を暗闇から連れ出した手。あのG1の祝福の場所で私を抱き締めた手。

そして今日、あなたに手をひかれて…改めて思いました。

あなたとなら、楽園へ至る道のどんな試練も越えられる。

あなたとなら。きっと楽園に行ける…!

 

…だからでしょうか。トレーナーさんにあんな事を言ってしまったのは。

本当はもう少し待つつもりだったのに…掛かってしまった。

 

私が現役期間を終えたら、答えをくれるとトレーナーさんは言っていた。

現役期間の終わり。

楽園に至った後。

 

もう二度と見捨てられたくない。私を見てほしい。

友人達の無念を。慟哭を無為にはしない。

そんな私の飢えはきっと、レースを走るウマ娘の夢を喰いつくさなければ埋められない。…レースに勝たなければ楽園には至れない。

 

走れるうちはいい。

私の勝利はトレーナーさんの勝利でもあり、楽園への道標なのだから。

でも楽園に至った後、走れなくなったら。

後に残されるのは…他のウマ娘の夢を貪った醜い怪物の私。

そんな私をあなたは愛してくれるでしょうか。

 

胸が切なくなり、私の宝物を取り出す。

ネクタイピン。

私とトレーナーさんの愛の証。

その穏やかな輝きが私を励ましてくれるかのように思える。

 

”私は君のトレーナーをしながら君の恋人をできるほど器用な人間じゃない。”

 

その輝きにつられてふと今日のトレーナーさんの言葉を思い出す。

よく考えたらそれってつまり。

私の中を歓喜と興奮が満たす。

 

ええ…待てますよ。

私は待てができる猟犬ですから。

 

でも…約束のご褒美を下さらなかったら。

私は悪い子になってしまうかもしれませんね。

あなたを襲う悪い怪物に。

 

ネクタイピンに静かに笑いかける。

 

楽園へ。そして楽園のその先へ。

私が走れなくなっても、私の手をとってくれますか?

 




この話には教訓がある…一度生まれたものはそう簡単には死なない。

次回はサンタアニタダービーです。

なんとこの小説が日間ランキングに載っていました…!
多くの方に読んでいただけて感想や評価をいただけるのは本当に嬉しいです。
ありがとうございます。
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