アラガミ喰べてたウマソウル   作:土屋 四方

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アフター☆ラストスパー(゚∀゚)ート!

 

 レースに勝ったウマ娘は、まずお客さんに愛想を振りまく。ウイニングランというやつだ。昔の私はすごく適当に済ませてたけど、流石に今はちゃんとやる。

 特に今日はお礼を言いたい相手が多い。中でも寮母さんだ。〈尊み〉は狙い通りにムンちゃんを刺し貫いてくれた。

 

 えーっと……あ、カフェさんやタキオンさんの近くで真っ白に燃え尽きていらっしゃる。楽しんで頂けたらしい(?)。お礼は後で改めてしておこう。

 

 ご挨拶が済んで一旦地下バ道に降りると複数のスタッフさんに囲まれる。服やら汗やら髪やらを大急ぎで整えてもらって、優勝レイ*を纏って勝利者インタビューに出ていくためだ。

 

(稀に──私とドゥは2度も体験してるけど──1着や2着が2人以上いる場合はこのタイミングでバタつくことになる。今回はそんなことになってないので普段通り)

 

 この時、1着以外の選手がどうしているかというと……短い自由時間みたいな感じで人それぞれだ。例えばニュクスさんは負けた直後でもこのタイミングで祝福してくれるタイプ。

 

 普段のムンちゃんはすぐ控え室に引っ込んで顔を見せないタイプだ。だけど今日は、なんか居た。

 怒りとも悔しさとも、なーんとも言えない表情でじっとりとこちらを眺めている。素直な称賛じゃないのは明らかだ。

 

 そりゃ言いたいことはあるだろう、ああいう手を打ったことについて。けれど恥じるところはない。アレが最善だったんだもの。戦うことで伝わる全力の本音。

 なので笑い返しておいた。愉しかったね、またやろうね。

 

 …………なぜか不機嫌そうに控え室に行ってしまった。

 まぁムンちゃんだし、笑顔で応えてくれるとは思ってなかったけど。

 

 


 

 

 勝利者インタビューって割と定型文が多い。『今回の勝利の決め手は?』とか毎回訊かれる。でも“領域”のことは話せないから、ちょっとボカして答えることになってしまう。

 嘘は吐きたくないから困ることも多くて……今回はマシな方かな。

 

「変な話ですけど、ムンちゃんの──ムーンカフェさんのおかげです。

 彼女に勝つために合同の特訓をお願いしました。あちらにもメリットがある内容だったので受けてもらえて、沢山の方々にも手伝って頂いて……この3週間で私たち(﹅﹅)はぐっと強くなった。

 その特訓をしていなかったら、勝てていたかは怪しい気がします」

 

 ムンちゃんが勝っていても同じように答えた気がする。

 テセさんのやり方は地味かも知れないけど堅実だ。〈極点〉だけだったら差されてた可能性もあると思うんだよね。実際には領域具現と転象を同時にやる離れ業でねじ伏せた。例の特訓がなきゃあんな特大の無茶は不可能だっただろう。

 

 どのくらい無茶かって、アナさんが目を回すレベル。《洗濯機に放り込まれたようだ》とか言って、今もへろへろのグロッキー状態。負担を押し付けられたわけではないらしいけど、どんな勢いでソウルをぶん回してたのやら。

 実は最後の瞬間は【ブラッドアーツ】を使えていな(﹅﹅)()。クビ差に終わったのはそのためだ、あぶないあぶない。

 

 アナさんと話せない状態。そのせいかインタビューはぽんぽんと進んだ。

 普段はつい相談しちゃうんだよなぁ……アナさんは易々答えをくれる人じゃないからその度に言葉に詰まってたの、改めて(かえり)みたらかなりの甘えだ。私もシニアになるんだし、1人でもちゃんとできなきゃね。

 

 とか考えながら話していたら、シニア級での出走予定の話題に。

 

 やだなぁインタビュアーさん、そんな決死の表情で身構えないでくださいよ。その質問への受け答えはサキさんとも相談してあるから、そんなにぶっ飛んだ内容ではないはずだ。

 たぶん。

 

「1月は休養と特訓にあてます」

 

 ………………。

 

 いえ、あの、中山レース場全体にシーンとされると怖いんですが……!?

 沈黙に耐えきれなくて、次の質問を待たずに続ける。

 

「これまで出走計画は、固まった段階でネットに書いちゃってましたけど。シニアの年間計画はもうちょっと、ちゃんとした場でお披露目できるかも……できそう? なので今は内緒です」

 

 わたわたと口にしたら「ちゃんとした場というと?」と応えてくれた。うん、キャッチボールがある方が喋りやすいです。

 ひと呼吸挟んで頭を落ち着ける。言って良いこととダメなことがあるから。

 

「えっと、まだどう発表するかは決まってないんですが。1月末辺りにお知らせできるかなぁ、できたらいいなぁ、と」

 

 ここまでならセーフ。憶測としてなら言って良い。

 実際、URAから『年明けに表彰するね』みたいな予告をされた事実は無いのだ(年度代表とかは年が明けてから決めるものなので、あったら不味いしあったと誤解されるのも困る)。

 でも状況的に何らかの賞をもらえると期待するのは妥当。有も勝ったことだし、確定的な予測と言っても良い。

 

 私の答えでURAとかに迷惑をかけたりはしないはず。

 だけど中山レース場には大きなどよめきがうねった。驚いて耳を澄ましてみると……ふむふむ、『わざわざもったいぶって発表するんだからよっぽどヤバいローテに違いない』とか囁かれてるっぽい。

 

 珍生物扱いがすっかり定着してるなぁ。まぁ自業自得というか、やったことの結果だと納得はしてる。そして私に期待されるのが『度肝を抜くこと』だとしたら喜ぶべきだろう。

 

 だって、その期待にはきっと応えられるから。

 

「お楽しみに!」

 

 


 

 

 翌日の放課後。

 

「私、ダメなこと口走ってませんよね……?」

「大丈夫なはずよ。もし言ってたら私のチェック漏れだから怯えないで」

 

 サキさん共々学園長に呼び出されました。何度目だろうね?

 もっとも、用件はお叱りとかではなくて。

 

「確認! 差し支えなければシニアの予定を聞かせてもらえないだろうか!」

「「???」」

 

 2人して首を傾げてしまう。教えろと言われれば教えても構わないけれど、学園が(またはURAが)わざわざ知りたがることではないはずだ──普通なら。

 私は普通ではない。この場合は戦績とか体力とかではなく、“最初の3年間”にも関わらず大人からの要請を何度か受けてきた点で。ぶっちゃけて言えば大人たちに貸しがあるってこと。

 それを返そうというのが今回の主旨らしい。

 

「現在建設中──というかほぼ完成している、新しい練習施設がある。ワンワン君には軽く話したが、覚えているだろうか」

「施設……あぁ、あの時は『まだ使えない』と仰っていた」

 

 特訓のために私有地を使わせて欲しいと頼んだ時、ちらっとだけ聞いた話。どこかにすごく充実した練習場所を作ってるそうで、それが完成目前なのだと。残念そうに『あと2週間もあれば部分的には使えるのだが……』と呟いていた。

 その話を持ち出すってことは。

 

「使わせてもらえるんですか?」

「肯定! 君の予定次第だが、使うメリットは大きいと考えている」

 

 昨日のインタビューで1月は特訓と答えたことを受けて、こうして声をかけてくれたらしい。

 ありがたい話である。サキさんと頷き合い、シニアの予定を明かすことにした。明かすと言っても口頭で挙げてくわけじゃなく──、

 

「えっと、サキさんの端末から送ってもらえばいいですかね。説明が必要ならプロジェクターとか」

 

──リストにしたファイルを共有する形。だって口で言うにも手で書くにも数が多すぎて面倒だもの。「だと思いました」と先読みしていた駿川さんが用意してくれていたので、大きなスクリーンにぱっと予定が映し出される。

 

「まだ全部は確定してなくて、多少は変わるかもですが。春と秋の天皇賞、安田記念、凱旋門賞。このあたりは確実に出るつもりで──あれ?」

「「………………」」

 

 ……お2人とも絶句してしまわれた。無理もない。

 

「違うんです、これは検討中も含めた候補リストで。全部走ろうとは思っていません」

 

 表示されたのは、クラシック中の出走数23戦を超える30弱。流石にこれ全部とは考えてないのでそんなに驚かないで下さい。

 

 まぁ実際に20ぐらいは走るつもりなので常識外れな自覚はある。

 でもですね、今度は学園側から『新しい練習施設』について教えてもらったところ、そっちだって大概ケタ外れじゃないですか!

 

「「………………」」

 

 今度は私とサキさんが言葉を失いましたよ。お金持ち怖い。や、流石に秋川理事長のポケットマネーとかではなくURAのものらしいけど。やることのスケールがおかしい。

 

《URAの金はウマ娘たちが稼いだものだし、グラは稼ぎ頭の1人じゃないか》

『それは、そう言われたらそうですけどね……』

 

 お互いがお互いに『何考えてんだ』的な印象を抱きつつ、だけど実利はばっちり合致している。その施設、こちらからお願いしてでも使わせてもらいたい。

 

「是非お願いします。大きな懸念点がひとつ消えました」

「了承! 最初にここを使うのは君という前提で、必要なところから仕上げを済ませていくとしよう!」

 

 

 

 ……私は恵まれている。

 運にも、人の縁にも。

 

 ほんの数回だけど、確かにこれまで学園側の頼みに応えてきた。でもそのことに見返りなんか求めたことは無い。ここに理事長は『タダ働きはいけない』と報酬を提示してきたわけだ。

 お礼をしたくても言葉以外は受け取ってくれないんだよね。『大人として当然』とかなんとか、アナさんやサキさんみたいなこと言ってくれちゃってさ。

 

 流石にいい加減、見守ってくれてる人たちのメッセージは解るつもりだ。

 上へ返すのではなく下に与えよと言いたいのだろう。難しいなぁ。

 

『下の世代のため、か……ドンナさんは立派だなぁ』

《グラがそれを考えるのは再来年からでもいいんだろ》

『いやー、考えとかないとずっと先伸ばしになっちゃいます。レースは愉しいので』

 

 シニア1年目を全力で駆け抜けるって方針を変えるつもりは無い。その先どうするかも現時点では決まっていない。

 ただ、これまでみたく自分のことだけ考えて走るには……沢山のものを貰いすぎた。もとい、ずっとずっと貰っていたことをようやく実感した。

 

『アナさんからも貰いっぱなしですしね』

《感謝なんぞ要らん》

『それは分かってます。何したらいいですかねぇ』

 

 未来を考えよう。そうしなきゃいけないし、そうしたいと思う。

 それに私のソウルは──アナさんではない厄介ファンの方は──そういうスタンスをお好みみたいなので。後輩やら業界やらの利益を考えた方が、きっと私は強くなれる

 ならそうするよ。その方が愉しいもん。

 

 



 

 

 上の世代からもらったもの、で思い出した。

 とりわけお世話になった寮母さんにはちゃんとお礼を言っておかなきゃ。

 

(カフェさんやネオユニさんたちは……感謝はしてるけど、あちらも存分に楽しんでたようだし)

 

《そういえば昨日帰ってからは見かけていない気がするな?》

『まぁそれ自体は珍しくないのですが』

 

 たまによくある寮母さんの奇行だ。『眩しくて直視できない』とか『鼻血で周りを汚してしまう』とか、そんな気遣い(?)のもと逃げ隠れしてしまうことがある。

 放っておけば落ち着くので普段ならそうするところだけど、今はもうすぐ冬休みに入ってしまう。年を跨ぐのも礼を失するだろう。

 

 というわけで栗東寮に伝わる寮母さん取り扱いマニュアルの出番だ。

 こういう時に推奨されるのは『しばらく放置』。

 急ぎの用件がある時には……えっと、まずお名前を呼ぶ。寮内ならどこでも反応があるはず。

 

「デジタルさーん」

お呼びでしょうかっ

 

 どこからともなく現れた。だけど遠い。不自然に距離を取られている。もうちょっと近くで話せないものだろうか。

 ただしここで無理をすると砂になってしまい話が進まなくなるようなので、距離は詰めないまま頭を下げる。

 

「えっと、お礼が言いたくて。有に勝てたのは寮母さんのお陰です」

「……見間違いではありませんでしたか」

 

 一瞬のことだったし、目を疑いたくもなっただろう。でも事実、私は〈尊み〉を使った。ムンちゃんはそれを奪い取って体勢を崩した。

 

「はい。急坂を登りきった辺りで」

「…………」

 

 おや、言葉に詰まってしま──あ、あんな使い方されるの嫌だったかな。

 ……普通に考えたら嬉しくはない気もする? 推しへの想いを妨害に使うなんて、とか。よく考えたらとんでもなく酷いことをしてしまっただろうか。

 

 

 

 寮母さんの血をもらったのは例のスパルタ特訓の頃だ。やれることはなんでもやっておこうと思って、身近な人の“領域”で喰べ(とりこみ)やすそうなのが〈尊み〉だった。

 だってほら、寮母さんはよく鼻血を噴くので。わざわざ傷を作ったりしなくても自然現象のごとく血がもらえるので。

 それに〈風梳柱〉を捕喰した時の経験から言って、血ならなんでもいいわけじゃないんだよね。ボゥ先輩のはアイビスサマーダッシュという真剣勝負の最中のもので、魂の力が強く焼き付いていた。

 競走からは引退しているデジタルさんだけど、推し活はバリバリ現役である。鼻血に〈尊み〉因子が色濃く含まれるのは当然の道理だった。

 

(もちろんこっそり盗んだわけじゃなく、ちゃんと了承を得て血を貰った。先に〈尊み〉を伝えたニュクスさんが東京ダービーで勝ったことを気にしてたらしい。私にも伝えれば公平って……それはどうでしょうね?)

 

 ともかく、ああいう形で〈極点〉に対する切札にすることは伝えていなかったのだ。

 毒扱いすることを頭のどこかで考えてはいたけど、いけるって確信できたのは受け取った後だし。……いや、言い訳だな。だからって不義理を働いて良いわけじゃない。

 

 

 

 どう謝ったものだろう。寮母さんが推し活を心底大切にしてるのは明らかだ。私はそれを踏み躙ったのかも知れない……。

 とか。

 ぜーんぶ杞憂だった。心配して損したとさえ思う。

 

「……ワンワンさん。その、差し支えなければですが……()()、でしょうか?」

「いつ?」

「それはその、つまり……」

 

 寮母さんは怒っていたのでも悲しんでいたのでもなく、ただただ煮え滾る激情に耐えていたのだ。そして耐え切れるわけもないのである。

 

ムーンカフェさんとのご入籍はいつですか!?

 

「は? ごにゅう──しませんよ!?

 

だってあんなの求婚(プロポーズ)じゃないですか!

 

 あんなってどんなよ。私は知らない。

 本人が気にしていたように、現実とは違う何かを見ておられたらしい。

 

「前言撤回します。寮母さんだけが視た幻覚みたいですね」

 

*
“第●回 有記念”などと刺繍してある豪華なタスキ





※本作に『ガールズラブ』タグは付いていませんし、今後も付けません。
 デジたんの強め幻覚です。
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