アラガミ喰べてたウマソウル   作:土屋 四方

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※主人公のルームメイトとしてオリジナルウマ娘が登場します。
※今後も同年代はみんなオリウマ娘の予定です。


年長者たちの気遣い

 

「すみません、それについては……その、上手く説明できなくて。嘘はつきたくないので、考えさせてもらえないでしょうか……」

 

 アナグラワンワンが心底済まなそうに絞り出すものだから、やよいの判断で面談は一旦お開きとなった。

 丁度この日は土曜日である。授業の無い日曜にじっくり考えてもらい、月曜の放課後にまた話を聞くこととする。

 

「それまではひとまずスパイクを使わないこと。約束は守れるな?」

「はい、それは必ず」

 

 問題児かと思われた新入生だが、シンボリルドルフから課された制約にも素直に頷いた。

 

「失礼しましたー……」

 

 

 

 溜め息を漏らしそうな様子で扉を閉めたアナグラワンワンを見送って。

 秋川やよい、シンボリルドルフ、駿川たづなの3人は顔を見合わせる。

 

「奇妙! 不可思議な新入生もいたものだな!」

「……彼女、入試は補欠合格と聞きましたが」

「間違いありません。座学は優秀ですが、実技がかなり──あら?」

 

 タブレット端末から入試時や入学後の動画を確認して……たづなは首を傾げた。

 記憶は間違っていない。実技が大きく足を引っ張って補欠合格。ただしここではタイムよりも走り方が問題だった。

 

「今日と全く違いますね。直線もカーブも同じように走れていて、コーナリングはむしろ巧みな部類と言えます。……直線は加速も最高速も見劣りしますが」

「む。入学後はどうなんです?」

「ええと──はい、入試時と同じような評価です。となると」

「真実ッ! 『ウマソウルが突然パワーアップ』は嘘ではないわけだ!」

「そう考えても筋は通ります」

 

 ウマソウルは未知と神秘の塊である。『そんなことは起こり得ない』などと断言できる者は誰もいない──急成長にせよ、蹄鉄の瞬間的な変形にせよ。後者は有り得ないと言いたくもなったが。

 

 では、その未知をどう使いこなしたのか。どうしてそんなことが出来るのか。

 それが問題ということになる……とも、言い切れない。

 

「……方法や手段の聴取は必須でしょうか」

「必要ではない気もしますね。会ちょ──シンボリルドルフさんとしても、一番は安全性でしょう?」

「はい」

 

 安全であると確認できればそれで良い。これはそういう話だと2人は頷き合う。

 そもそも蹄鉄は地を抉るもの。そこに深い穴を穿ってはならないなどというルールは無いし、これについては道義も無い。“領域”展開中の踏み込みが現実のターフにまで地割れじみた足跡を刻むウマ娘は実際にいて、彼女はなんの処分も制限も受けなかったのだから。

 

 そんな2人に、やよいは更なる再考を促す。

 

「……提案! 我々は原点に立ち戻るべきではないか?」

「原点?」

「彼女の走りは危ない、()()知れない。これは彼女を縛る理由として充分なりや?」

「っ……」

 

 逆に、危険だと判断しうる根拠はあるのかと。

 

 先ほどアナグラが刺剣(ペイジ)の出し入れを実演した際、それなりにしつこい検証が行われたのである。

 例えば正確さ。狙い通りの長さにできるかどうか、1cmとか2cmとか言ってみれば、アナグラは即座にそれをやってみせた。たづなの計測では誤差はゼロ。あるとしても一般的なメジャーなどでは測れないほどに小さい。

 例えば速さ。シンボリルドルフは検証の最中、予告もなくいきなり平手打ちを放った──2cmのスパイクが突き出ている蹄鉄に対して。

 

『あっぶな!?』

『──中々やる』

 

 あえてやや大振りにしたものの、悲鳴をあげたアナグラが気付いてから平手が当たるまでは1秒も無かったはずだ。

 しかしシンボリルドルフの手は傷ついていない。蹄鉄に触れずに手を止めたわけではなく、触れるより前に刃が消されたから。冷たく平らな面に触れただけである。

 

 アナグラワンワンに安全意識が無かった、とは考えにくい。先日までは短距離適性が最も(他よりはまだ)高かったのだから、揉み合いの危険性を軽視していれば短距離のレースを選んだだろう。

 そんな彼女が実戦で使うと決めた──つまり安全だと判断した──ことは、少なくとも無根拠ではなかった。突然の事態でも収納(?)は一瞬で済み、シンボリルドルフの手が無傷なのは確かな事実だ。

 

「ふむ……確かに、判断を誤ったかも知れません」

 

 すべてのウマ娘の幸福を願う"皇帝"だが、同朋が傷つく可能性を『すべて完全に』排除しようとは思わない。そんなことを言えばレース自体が不可能になる。

 では、可能性ではなく確かめられた事実に基づくなら? 今のところ、アナグラのスパイク使用を禁じる名目など無いのではないか。

 

「熟考! 我々も結論を急ぐべきではない。次の面談までにまた話し合うとしよう!」

「了解しました」

 

 引退してもなお忙しいシンボリルドルフのスケジュール調整に、たづなは軽い頭痛を覚えたが。安全に関わることである。安易には決められない。

 

 



 

 

 一方、理事長室を出たアナグラはすっかり憔悴している。

 

『卒業した"皇帝"様まで呼び出す*とか……すごい大事(おおごと)になっちゃったみたい……』

《右端の子か? 中々の名演だったが、またご大層な二つ名だな》

『二つ名に見劣りしない実績があるんですよぉ……』

 

 審議やビデオ判定が行われることは予想していた。ルールに抵触しないことは確認していた。安全上の問題と対策にも自分なりには納得していた。

 が、ここまでの大事になるとは思っていなかったのだ。アナの常識は《誰も死んでない怪我してないんだから問題ないだろ?》といったレベルなので最初からアテにならない。

 

《で、『喋るウマソウル』についてはどう話すつもりだ》

『……ご飯食べて、ぐっすり寝て、それから考えます』

《おぉ。期限を決めてスパッと切り替えられるなら先送りは悪くない》

 

 内心では切り替えられていないが。後を引いているからグチグチと考えてしまうのだが。

 ともかくグラはそんな状態で自室に戻った。

 

 ──朝、アナとの会話を口に出していたことをすっかり忘れて。

 

「あ、おかえり。その……大丈夫だった? 悩みでも聞こうか?」

 

『メチャクチャ気を遣われてるー!?』

 

「せ、先輩が優しい!? つらい……!」

「失礼な後輩ねぇ!? 私はいつも優しいでしょーが!」

「それはどうでしょう」

「急に冷静になるんじゃないわよ!」

 

 ぎゃいぎゃいと叱りつけるのはアナグラの先輩にしてルームメイト、高等部1年のアルヘイボゥ。

 実際、昨日までの彼女は『滑り込み入学の落ちこぼれ』であるアナグラに辛辣だった。だからこそ開口一番での心配が心を抉ったのだが。

 

「そうそう、先輩はそんな感じの方が落ち着きます」

「何よ、私の親切は不気味ってわけ」

「えっ、自覚されてるんですか」

「ぶっ飛ばすわよ。不気味とかいうなら今朝のアンタの方がよっぽどだったっての」

「うぐぅ……忘れて頂ければ幸いです……」

「難しいこと言うわね……。とりあえず、病気とかじゃないなら良いわ」

 

《ツンデレ?》

『ツンデレかは分かりませんが、悪い人ではないです』

 

 彼女からの評価は容赦なく事実であり、『現実を見たら?』なども他から散々言われてきたこと。理不尽なイジメなどもしてこなかった。

 非力なアナグラを見ていられず手を貸してくれたこともある、優しいルームメイトだ。

 

「ご心配なく。選抜レースはどうにかなりましたよ」

「あぁ……鬱陶しいから気を落とさないで。(ビリ)(ケツ)は分かりきってたじゃない」

「だから優しくしないで下さいよ!?」

「働き口が無いなら理容師免許とりなさい。雇ってもらえるよう(とう)(さん)に頼んであげる」

「聞いてくださいってばー!」

 

 順位を訊ねることもなく、1着と言われれば妄想を疑う。アナグラに促されて開いた学内サイトを見てさえ、その最新情報が間違っているのではと宣う。

 そんなアルヘイボゥから見て、アナグラワンワンという後輩は──、

 

『……ほんと、なんなのよコイツ』

 

──理解不能な存在だった。

 

 今朝早くの激しい独り言や選抜レースの勝利はもちろん、昨日までの時点でも。

 

*
別件で学園にいただけ。この件で呼び立てたわけではない。




 次話、アルヘイボゥ先輩から見たアナグラワンワン。
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