3月上旬。
ニュクスさんの件が一気に解決したので、急遽初めての海外にやってきた。
自動車の助手席から見えるのは、世界的に有名なこの街のシンボル。
《おー、
『や、ノートルダム大聖堂はパリのど真ん中にある方で。ここのはノートルダム・ド・ラ・ガルド寺院と言います』
現在地はフランス南部、地中海に面するマルセイユである。山の上に寺院が建ち、その塔の天辺には赤ん坊を抱いた金色の女性像。とても目立つ。
《ラ・
『? あぁ……流石にアラガミからは護ってくれないかと……』
アナさんの世紀末な哀愁はさておき、ロンシャン芝の体験旅行だ。形式的には短期留学ってことになっている──とはいえこの時期のマルセイユは冬休み*らしく、トレセンに通う予定は無いんだけど。
「フランスの3月ってもっと寒いと思ってました。海沿いだからか暖かいですね」
「今年の10月、凱旋門ウィークのパリはこの位の気温になる見通しです。湿度はずっと低いですけどね」
「ありがとうございます。日本にいると中々分からないので」
凱旋門賞は半年先。パリの気温は5度くらい上がってしまうので、今ロンシャンレース場に行ってもちょっと感じが違うらしい。
その辺を教えてくれたのはハンドルを握るトーヴェさん。トリィさんのトレーナーだ。空港まで迎えに来てくれた。
合流した時は「本当にひとりで来たんですね」と驚いていたけれど(サキさんは日本にいる)、それ以上に彼女を驚かせたのが言葉である。
ふふふ、勉強したのですよスウェーデン語。脳内に発音バッチリな先生がいることですし。お陰でもう通訳待ちの時間は発生しない。
「ますますお上手になりましたね。ひょっとしてフランス語も?」
「J'ai encore du chemin à faire.(まだまだです)」
「素晴らしい、トリィに見習わせなきゃ。良ければたまにフランス語で
「構いませんけど、怒られそうですね」
「いつまでもサボってるトリィが悪いんですよ」
そんな話をしながら練習場につくと──トリィさん、いきなり不機嫌だった。
「よく来たわねグラ! でもたった4日ってどういうことよ?」
どうと言われても。
『戦いたい』オーラがびしびし来るからイヤではないんですけどね? 私にも都合ってやつがあるんですよ?
「…… Ça fait un bail. (おひさしぶり)」
「!? なんでグラがフランス語なの!?」
「冗談ですよ。お久しぶりですトリィさん」
空気は多少和んだけれど、滞在4日は変わらない。公式戦への出走予定も無い。
ていうか人と競える段階じゃないのですよ。ちょっと歩いてみただけでも芝の感触はかなり違う。
「何よ、大口叩いたジャポンスカに実力差を教えてやれると思ったのに」
「これまでの出走数とかで勝負します?」
「っく、それは私の負け!
相変わらずイイ性格してるわね、それでこそ競い甲斐があるってもんだわ」
私の戦績くらいは把握してくれてるようだ。
こちらが部分的に優っていることで、トリィさんはむしろ楽しそう。
ただ、彼女を不機嫌にさせそうなことはもう1つあるんだよなぁ……。
フランス滞在、早くも3日目。
トリィさんにとって次の大きなレースは5月のプール・デッセと6月のジョッケクルブだという。だから3月上旬の今はハードなトレーニングを積んでも良いっちゃ良いんだけど──、
『え、ウマ娘ってこんなに走れるものなんだ……?』
《それ日本のウマ娘が常日頃グラに思ってることだぞ》
『何かの“領域”とか……ではなさそうですよね』
《見る限りでは使っていなさそうだ》
──それにしたって負荷が高い。このレベルのメニュー、1日ならともかく3日連続だとサキさんは許可しないような。
現時点でも相当な強敵なのに、半年後にはどうなってることやら。
「お疲れ様。クールダウンとストレッチしてから休憩ね」
「はっ、はっ、はっ……」
トーヴェさんからタオルとドリンクを受け取ると、トリィさんは荒い息を吐きながらフェンスを越えて私の横に腰を降ろす。
「お疲れ様です」
「はっ、ふっ……ふぅーっ……」
息を整えながら睨んで来るなぁ。やっぱりまだ怒ってるかな、併走を全面的に断ったこと。
──そう、私はずっと観ていた。コースの外から。公式戦で競わないだけではなく、練習でも併せていない。
気分が良くないのは分かる。
「あの、まだ疑ってますか? 嘘はついてないんですけど」
「……信じがたいけど、トレーナーのデータは否定しなかった。あなたは『一緒に走る相手を強くしてしまう』。きっと本当なんでしょう」
「はい。だからトリィさんとは本番以外で走りません」
一緒に走らないのはもちろん【喚起】が理由だ。
いや、先輩やナーやドゥを見下してるとかじゃないけど。練習としても日常としても誰かと走るのは必須。ただそこに入れる相手は選びたいという話。
ムンちゃんとだってレース外で併走したことは無い。そしてムンちゃんの上位互換みたいなスペックをしてるのがトリィさんだ。“領域”は不明だから別として。
この人をもっと強くするとかお断りである。
「ええ、ええ。それはいいのよ。敵に塩はプレゼントしない、だったかしら?」
「はい、そんな感じです」
前提さえ信じてもらえれば、トリィさんはこの選別をそこまで嫌がらない気がした。予想通り、ライバル視の証と捉えてくれるようだ。
もっとも、それはそれとして。
気候的に適した練習場所を教えてもらったりトーヴェさんに車を出させたりした私が『そっちのトレーニングには一切手を貸しません』というのはとても感じが悪い。普通に恩知らずだ。
だから怒られるだろうなぁと覚悟はしていた──んだけど。
どうも、ちょっと予想と違う理由らしい。
「で、あなたはいつまで泥んこ遊びをしてるわけ?」
冷たい視線。……冗談とか皮肉とかじゃなさそうだ。
こっちとしても割とカチンと来たけど。
「初日に説明しましたよね。遊んでるわけじゃありません」
5月に寮の裏庭でやったような、体感覚との摺り合わせだ。色んな角度で力をかけては反発を受けてそれを覚える。全身でそうしたいから地面に寝そべるような形になって、歩いたり走ったりって動作はほとんどしていない。
傍目に異様なのは確かだけど、遊びだなんてとんでもない。私にとっては欠かせない基礎の基礎だ。
「“芝の硬さを体感する”、それは分かるわよ。でもせめて走りなさいな」
「実力を見せたくない、とかは言いませんよ、沢山見せてもらってるのでお互い様です。でも実力
トリィさんは言葉でも態度でも強く硬くぶつかってくるタイプ。
対する私もここは譲れないライン。だって半端なものを見せて過小評価させるなんてのは私が大嫌いなタイプの嘘だ。競う相手に見せるなら自分なりに納得の行くレベルになってからじゃないと。
自然と空気が良くない熱を帯びていく。視界の隅でトーヴェさんが口を挟もうか悩み始めた。
「もう3日よ? いつまで時間を無駄にするの」
「無駄じゃないと言っています」
「なら得たものを見せて」
……全くトリィさんは譲ることを知らない──だから強い。
口論になっても仕方ないし、止められる前に少し緩めようか。
「昨夜は雨でしたから、覚え直してるんですよ。
……あと、かなり遠慮して練習をしています。芝をめちゃくちゃにしてしまうのは心苦しいので……」
本心だ。遠慮してるせいで時間がかかってるのも本当のこと。
でも私の周りはとっくに無残な有り様だ。こればかりは『お前が言うな』と責められても仕方なく、これが私の
「ふん……明日には見せてもらえるわけ?」
「はい、約束します」
「分かったわよ。すぅ……ふぅー……」
雑談の空気になる前に、深呼吸で怒気を吐き出している。どこか動物的というか、身体と心が一体な感じだ。
「──和芝とはそんなに違う?」
うーん、芝の違い。
これライバル陣営に教えちゃマズいよね。キモの部分は伏せて、雑談レベルだけにしとこうかな。
「違います。え、トリィさん日本に来た時──」
「そりゃ走ったわよ。こっちの芝とは確かに違った」
レース界では常識のように語られる芝の違い。
曰く、“日本のターフは高速芝、ロンシャンはそれに比べて重い”のだと。
データはその評を否定しない。
日本のウマ娘がフランスに来ると大抵タイムを落とすらしいし、逆にフランスのウマ娘は向上するケースが珍しくない──、
「でも私、日本でもほとんどタイム変わらなかったのよ」
──全員ではないけど。
まぁ彼女ならそうなるかなぁという印象だ。
「トリィさん、こちらのウマ娘の中では小柄ですもんね」
「は? 私のことチビって言った?」
「言ってませんよ! 体重が重い方が摩擦との兼ね合いで有利っていう、物理的な話です!」
怒ることないでしょうに。私よりは身長あるんだし。
これは純粋にレースの話──なんだけど、ここで一旦脇道へ。
「摩擦……摩擦、ええと」
トリィさんはもごもごと言葉を探し始めた。なんだ、勉強する気はあるんじゃないか。
「
「そう、それ。……なんでジャポンスカからフランス語教わってんのかしら……」
「ライバル意識で覚えるんじゃないかってトーヴェさんが頼んできたからで、つまりトリィさんが勉強をサボるせいですね」
「おだまりなさい」
「
「わざわざフランス語を混ぜないで! それで、摩擦が?」
トリィさんは『脇道』で流すべきじゃない気もするけど……まぁ話を戻そうか。
「大まかに言うと、洋芝は細い根が絡んでるおかげで柔らかくてクッション性が高い──つまり摩擦力が大きい。なのでフランスのウマ娘は平均的に、ターフを
「押して?」
「後ろへ押すことで前向きの力を得るわけです」
座った姿勢から上半身を後ろに傾けて、背中側のターフに手をつく。その腕を伸ばせば当然上半身は前というか上に跳ね返される。
「当たり前じゃないの」
「そうでもないんですよ。日本のウマ娘はターフを
今度は上体を前を倒して、ターフを手で掴むようにして引き寄せる。これでも身体は前向きの力を得る。
「……足も身体の前寄りに接地する?」
「違いを大袈裟に誇張すれば、ですけどね」
「トレーナーでもないのに細かいところ気がつくわね……」
褒められていない気がする。そりゃ細かいこと気にしてるって自覚はあるけど。
「そもそもフォームってそんなに違う?」
「えっ、同じに見えるんですか? 日本とフランスのウマ娘が?」
「同じっていうか、フォームなんて全員違うじゃない。逆に『フランスのウマ娘』なんて括りで似てると思ったことが無いわよ」
「あ〜……まぁそうですけど。傾向を抽出して比べれば」
「それトレーナーの視点でしょ」
それはそう。普通なら。
こういう視点でフォームを作らなきゃトレセンに入学もできなかっただろう私が少数派なのだ。
「日本の芝は、ただ後ろに押すだけだと滑るんです──私たちの脚力に充分な摩擦を返してくれないので、力をロスします」
アイススケートを想像してくれればいい。いくら強く足を蹴り出したところで、氷を撫でるだけじゃ前には進まない。エッジを立てて氷を削らないと。
和芝でそういう反作用を100%得るには、やや遠め(前め)で地面を捉えて下向きの力をかけることで摩擦力を高める──つまり
真面目に聞き始めたトリィさん。だからこそ、おかしいと思った点はすぐに切り返してくる。
「待って。それなら日本で私のタイムはもっと落ちたはずでしょう」
「同じように走ったなら加速は得づらかったはずですよ。同時に減速も小さかった」
「減速?」
「地面を蹴る時、摩擦力が大きいほど前向きの速度は減殺されます──ブレーキとしても働くわけですね。和芝はそれも小さい」
「
そう、日本に来てタイムが向上するウマ娘はそこが違う。体重が重い方が恩恵を得やすいはずだ。
それを一般化すると──、
「摩擦力が大きくなるので加速しやすくなって、速度の2乗で増える運動量と比べれば体重の1次関数である
──なんて説明になるんだけど、何やらポカーンとされてしまった。
「……今の、フランス語?」
「フランス語で言い直しましょうか」
「やめて」
数学か物理かが苦手らしい。競走ウマ娘にとって理屈はさほど大事じゃないけど。
フランス式の(ロンシャン芝に最適化された)フォームで和芝を走る場合、体重が多い方が有利に働く──この肝心要は直感で掴んでおられる。
「トリィさんは感覚派ですねぇ」
「否定はしないけどグラを基準にするのはおかしい」
確かに。私の言ってるフォーム・踏み込み位置・摩擦や抵抗の違いなんて、体感的には気の所為レベルだったりする──走りながらだと厳密に分からないから寝転がるのだ。数値で表したら5%にも満たないんじゃないかな。押すだの引くだのはあくまで誇張表現である。
そんな差異のためにフォームをいじる方がコストもリスクも大きい。だから『100の力が95になっちゃう? なら、110の力を出して104伝えよう』といった脳筋な方針が最適解になりがちだ──ほとんどのウマ娘にとっては。
私にはあてはまらない。110の力を出せる身体を持っていない。
そんな弱点までわざわざ言わないけど。
──あれ? そもそも芝の違いもここまで詳しく話すつもりは無かったような。
「っ!? ゆ、誘導尋問!」
「なんにも誘導してないけど」
くっ! 私が勝手に喋ったとでも!?
おかしい、気をつけてたのに途中で警戒が緩んだ。
「なんで──あ! フランス語のお勉強の話が挟まったからだ、てことはトーヴェさんの作戦……!?」
「あー、やりかねないわね」
まさか移動中の『たまにフランス語で煽ってやって』が口を滑らせるための策略だったなんて──って、私は照れ隠しと冗談で言ったのにトリィさんは真顔の肯定。
「うちのトレーナー、性格最悪だから。人の嫌がることとか弱点を見つけるのがやたらと上手いの」
凄いことを言う。これも信頼だろうか。
ところでトリィさんの背後ではトーヴェさんが腕を組んでおります。
「…………それと、地獄耳?」
「あら、知ってたの? ヒトミミなのにすごいのよ、特に私が陰口言ってる時……と、か……」
「楽しそうねトリィ?」
違うんだよトリィさん、トーヴェさんが怒ってるのは陰口どうこうじゃなく、お喋りに夢中でストレッチをしてなかったからだ。
「ハメたわねグラァ!」
「なんにもハメてませんけど」
私は喋りながらでも地面と対話してたもんね。トリィさんはちょっと
やっぱり前に言ったやつ有効なんじゃない? ジャパンカップの最中に耳元で『これは日本一のレースじゃないよ』って囁く作戦。
……というか。
他に弱点が見当たらない。
フランス滞在最終日──の、夕刻。
トーヴェは空港でアナグラワンワンを送り出し、この4日間を振り返っている。
『…………サキから聞いていた通り、掴めないウマ娘でしたね……』
不可解な謎の存在。日本で未確認生物扱いされるのもよく分かる。
今朝。
ロンシャン芝に合わせたというフォームを初めて披露してくれた。
トーヴェは非常に驚いた。頭の中だけで組み上げたとは思えない完成度だったからだ。
『脚力は並、だけど“ペイジ”とやらを使って本来ありえない角度で力を伝えてる──そうやって速度が乗れば坂道でもカーブでもまるで減速しないボディバランス──!』
運動エネルギーを無駄にしない技術という点ではトリウムフォーゲンさえ素直に『今は負けてる』と認めたほど。それはコーナリングや加減速の緻密さにも繋がってくるし、ペース走なども秒単位できっちり設定タイムに合わせてきた。
走りだけを見るなら、非常にクレバーで頭脳的なウマ娘である。
走りだけを見るなら。
昼の休憩時。
ある提案をぶつけてみた。あれだけ理知的な走りをするなら受け入れるかもと考えたのだ。
『──共闘、ですか?』
『凱旋門でのフランス勢はチームと考えた方が良いのです』
地元フランスのウマ娘たちは、国際レースになるとチームとして走る傾向がある──中でも凱旋門賞は特に。これだけは他国に譲るまいと必死なのだ。実際にここ10年はずっとフランス籍のウマ娘が勝っている。
単独で挑む限り壁は極めて高い。突き崩すためにこちらも数を集めるのは常道だろう。
もっとも、それほど現実的なプランではないが。
『条件次第……いいえ、きっと折り合えません。そもそもトリィさんが納得してないでしょ』
『正解。勝率だけ考えれば組む方が良いでしょうにね』
『それも疑問です、自分以外を勝たせる練習なんてしたことないですし──』
頷ける指摘だ。即席チームなど組まない方がマシなこともあるだろう。
しかしそれは練習を積めば済む話……と考えるのはヒトミミだからなのか。いや、ウマ娘にも頷く者はいるのだが。
理知的と思われたアナグラワンワンは、感情的にそれを拒んだ。
『──そんな練習、したくもありませんから』
『…………』
勝率でも実現性でもコストでもなく、ただ『やりたくない』。他の方法で挑み、そして勝つのだと。
それはトリウムフォーゲンと全く同じ断り方だった。
はっきりした評価としては『アナグラワンワンはストイックなウマ娘である』という点。意味の分からない行動を取っていても本人にとっては有意義なようだし、休憩中は教科書を開いていたりもする。
ただしこの点も、帰り際で怪しくなった。
『今さらですが、帰りの航空券はこれで間違いないんですよね?』
『えっと……はい大丈夫です。チケットの手配まで頼んじゃってすみません』
『それは構いませんけれど……』
アナグラワンワンはフランスを発った後、日本に帰る前に寄り道を挟んだ。
千田サキの許可は出ているから突発的な思いつきではない。トリウムフォーゲンではあるまいし。
何らかの意図はあると思われるが……それが全く思い当たらないのだ。レースとは関係の無い観光・休養? それもしっくり来ない。
立ち寄るのはイギリス。空港がヒースローなら『あぁ、アスコットレース場を見ていくのかな』と納得しただろう。しかし航空券はずっと北へのものだ。
『確認しておきますが、キング&クイーン*はアスコットですからね?』
『? それへの出走は考えてません』
では何に? と訊ねるのは踏み込みすぎだろうか。
イギリスの主要なレース場と言えばまずアスコットとエプソム、次いでヨーク、ニューマーケット、ドンカスター辺りが挙がる。アナグラワンワンの行き先はそのどれでもないのだ。
レース場こそあるものの、トーヴェは存在自体を忘れかけていた。GⅠレースなどひとつも行われないローカルなレース場だから。
『ハミルトンパークレース場……そこに何があるというの……?』
こればかりはどんなに優秀なトレーナーでも予測できまい。そもそもアナグラワンワンはレース場に寄るつもりなど無いのだ。
ただその土地に漠然とした用事がある──異世界においてフェンリルの支部があった街、グラスゴーに。
『直行便が取れて良かったですね、片道90分だそうです』
《何度も言うが、グラスゴーに行ったらどうにかなるものでもないと思うぞ?》
『分かってます。何か得るものがあればラッキーで、空振りなら休養日と思うことにしますよ』
《なら構わないが》
何処に何を探しに行くのかすらはっきりしていない(だから滞在は半日強の予定である)。駄目で元々のぶらり旅。
何らかのきっかけが得られれば、と期待している──
『だってあの子、全然言うこと聞いてくれないんですもん』
《強敵だったからな》
『めちゃくちゃ速いんですけどね──ハンニバル系』
※『Ça fait un bail. (おひさしぶり)』はフランス語の初学者には通じにくい言い回しです。勉強してれば通じるので、ちょっとした意地悪です。
(ゴッドイーター未プレイの方へ)
ハンニバル系とは人型の竜のようなアラガミです。
グラの言うとおり速度においては随一であり、レースへの応用を考えれば真っ先に候補に挙がると言えるでしょう。中でもグラスゴーで初めて確認された〈ルフス・カリギュラ〉は非常に高速です。
ただし3月時点のグラは夢の中でさえろくに制御できていないので、今のところレースには使えません。