アラガミ喰べてたウマソウル   作:土屋 四方

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※(夢の中で、アナの方に)流血表現あり


英雄(アナ)から見た異端(グラ)

 

「長さ、こだわりある? 思い切り短くしちゃっていいかしら」

「ありません、お任せで〜」

 

 どうも先輩の想像より頑固な髪だったようで、カット開始から5分ほどで再度念押しをされた。それに頷いたら一気にショートになって、さっぱりスポーティな感じに。

 先輩によるとメジロライアンさんリスペクト、らしい。そのお名前はもちろん知ってるけど、私は(主にウマソウルについての)発言を探しただけでビジュアルは興味薄かったからなぁ。ふーんという感じ。

 張り合いが無いと叱られたけど、先輩的には満足いく出来みたいだし私も大満足だ。

 

 お礼を言ってお掃除とかをして……さて、と。

 

 

『アナさん、また夢の中で話せますか?』

《精神にも休息は必要だ》

『ちょっとだけ! 確かめたいことがあるんです!』

《…………そうか、私も訊きたいことがあるから丁度いい》

 

 


 

 

 ベッドに入ってしばらくすると、私はアナさんと向かい合って立っていた。今朝初めて話した時と同じ、見渡す限りの花畑だ。

 

「確かめたいことというのは?」

「ひとつはこの場所にまた来れるかどうかです。やっぱり顔を見てお話ししたいので」

「……そうか。他にもあるんだろ」

「そちらは時間がかかるかも知れないので、今度はアナさんからどうぞ」

 

 訊きたいことがあると言っていた。今も何やらシリアスな雰囲気だ。

 想像はつく。あまり明るい話にはならない。でもアナさんが知りたいのなら素直に答えよう。

 そんな私の予想は──、

 

お前の、その割り切りについてだ。私のような異物に突然取り憑かれて、何故そうも前だけを向ける?」

 

──バッチリ的中していた。

 

 いやぁ、自覚はしてるんだよ。普通もっと混乱したり戸惑ったりするもんでしょって。

 良く言えば前向きで目標から目を逸らさず、悪く言えば破滅的な視野狭窄で、走るための最適を追求している。

 

 アナさんの(ブレード)をスパイクとして使ったのだってそうだ。こういうことが出来ると言い出したのはアナさんだけど、『じゃあそれで』と練習を始めた私はちょっとばかり頭がおかしい。

 理事長たちの怖々とした反応や視線を思い出せば明らか。ペイジは『地面に食い込んで摩擦と反作用を得るための道具』って形をしていない。刺し貫いた傷を拡げ抉る、そういう害意に最適化された武器──凶器だ。

 

 恐怖と嫌悪に腰が引ける方が真っ当な反応なのに、私はそれを示さなかった。

 

「きっとウマソウル(わたし)の影響なのだろうとは思う。話したくないかも知れない。だができれば知っておきたい」

「話すのは全然構いませんけど──」

 

 私がこんな風なのはどうしてか、アナさんの予想もきっと当たっている。別に意外性は無いだろうし。

 

「──アナさんを責めるつもりは、無いですからね」

「分かった。聞かせてくれ」

 

 

 

 

 小学校に入ってしばらくした頃、お母さんは私をちびっこレースから遠ざけた。

 いつも大差の最下位でゴールする私を哀れんだのかも知れないし、ゴール後の私が零す安堵の笑みを恐れたのかも知れない──理由は聞きたくもなかった。

 最初は特に反発しなかったんだ。走ることがすごく好きってわけでもなかったし。でもずっとそうしては居られなかった。

 

 

戦え。

 

戦わなければ死ぬぞ。

 

 

 何もせずにいるのが、ワケも分からずつらい。落ち着かない。

 ──こんなレベルの言語化さえ、その頃はできなかった気がする。本人に分かんないんだもん、家族はもっと意味不明だよね。

 お母さんは安全の為にやめさせようとして、私はそれを拒んだ。意図も理由も説明できないまま、ただ反発して暴れた。

 

 当然、家の中は良くない感じになる。

 それが……面倒になっちゃってさ。キャパオーバーというかオーバーフローというか。

 家族のことと戦うこと、両立させる余裕が無くて……家族の悩みを、()()捨て(﹅﹅)()。悩むのを止めたんだ。

 

 そしたら後は歯止めが利かない。走ることに関係なくて、どちらかと言えば足を引っ張りそうな要因は、なんでも棚に上げちゃえるようになった。なってしまった。

 家族関係も友達付き合いも、私自身の時間や感情さえも。

 

 そこから5年分くらいは一気にカットするけど、まぁ要するに……うん。

 私はトレセン学園に通うことを、ちゃんと認めてもらってないんだ。合格したよ、寮に入るから家を出るよ、みたいな感じ。決まったことを叩きつけただけでろくに話もしちゃいない。

 

 

 

「──とまぁ、そんなわけでして」

「……済まない……」

 

 謝ってどうなることでもない──けどそれとは関係なく、私はいきなり余裕を失う。

 

 

向き合え。

 

 

 過去のことを話し聞かせて、それで久々に家族の顔を思い浮かべたからか。それとも『今の家族との関係は歪だ』と認めたせいなのか。

 目の前のアナさんではなく、私の胸の内のウマソウルが、震え(つんざ)くように絶叫する。

 

 

逃げるな!!

 

 

 引き絞られるように痛む胸。貧血のように揺れる頭。立っていられず、花に膝をついてしまう。

 

「そん、な……どうし、て……!?」

 

 初めてだ。このソウルが『戦え』以外を強いてくるのは。

 今さらのはずだ。家族と向き合ってないのは今に始まったことじゃない。

 

「グラ! 深呼吸できるか、それだけ考えろ!」

「アナさ──アナさん──っ!!」

 

 抱き締めてくれて宥めてくれて、それでも暴れる鼓動が落ち着かない。

 何をおいても今すぐにお母さんたちと向き合わなきゃ──そういう強迫観念が、胃も肺も溢れさせる勢いで迫り上がってくる。

 止まらない。止まれない。牙を剥く。

 

「くそ──グラ、そうだそれでいい!」

 

 無意識に大きく開けた口の前に、

 アナさんがその腕を掲げると、

 私は躊躇も嫌悪もなく全力で──

 

「痛、ヅぅ……」

「…………」

 

──噛んだ。思い切り力を籠めた。皮膚が裂け血が溢れる。噛んだというより喰らったのだ。

 

()……(わらひ)……?」

「少しは正気に戻ったか? 私の話を聞けそうか?」

「はい、(ふぁ)ぶん……?」

 

 意識はあやふやで、ひどいことをしたと分かっていても罪悪感がついて来ない。

 追いつくより先に、アナさんは救けをくれる。

 

「君の衝動を出来るだけ引き取ろう。遠慮せず噛みつけ。

 ようやく分かった。落ち着いたら、これが何なのかも説明する」

 

 

 

 

 どれだけの時間、そうしていたのだろう。

 

「戦いを求める衝動と聞いて、最初は(プレデター)……()()の機能に由来するものかと思った。

 だけどグラの言った通り、恐らく違う。アレは元々全てを喰らおうとする荒御魂だ。攻撃性が自分だけに向くなんて殊勝さは無い」

 

 ゆるゆると頷く。選抜レースの前、寮の裏庭で試行錯誤してた時の話だ。

 確かアナさんは、消去法で自分が原因かもと言っていた。

 

「神機じゃないならその衝動はどこから来たのか。普通に考えたら使い手(わたし)だ。でもそれも腑に落ちない。私はそんなストイックな人間じゃない」

「……世界を救った英雄なのに?」

「アラガミ退治とは全然関係ないことだって沢山やった。その間にも世界の何処かでアラガミの被害者が出てると知りながら、非番の日は泥酔して半日寝てたこともある」

「えぇ……」

 

 その開き直りにはどこか確信があって、おどけるような口ぶりながら目は笑っていない──あぁそうか、休まずに戦い続けた真面目すぎる人は生き残れなかったとか、そういう感じの。

 

「だからその『戦え』とかは──責任逃れのつもりはないが──私自身じゃない。私の、アナグラワンワンという物語(﹅﹅)のキャラ付けだ」

「もの、がたり?」

「英雄譚と言えば分かるか? 現実の人間じゃありえないような、理想的な正しさを備えた人物像。

 語られる英雄に人間臭さは邪魔だったんだろう……教科書の出来が過ぎたんだ」

 

 ……なるほど?

 世界を救ったアナさんの活躍は、【アナグラワンワン】の名で広く知られている。逆に、その名を知る人の大多数はアナさんの人柄を知らない。

 言ってしまえば実物とは似ても似つかない虚像を仰ぎ見ているわけだ。

 

「戦いから絶対逃げないとか、そういう風に思われてたってことですか」

「実際は何度も逃げたし、『死にそうになったら逃げろ』はアナグラの鉄則なんだが──あっ」

「? 何か心当たりが?」

 

 すでに頭を抱えて平身低頭なアナさんが更に縮こまる。どこまで小さくなるんだろう。

 そのまま、聴き取りづらいほどの小声でボソボソと語ったところによると──、

 

「そのリンドウさんという元隊長さん*が? 九死に一生の瞬間にアナさんからかけられた言葉を『アナグラワンワンの名言』として盛大に宣伝していた?」

「私が恥ずかしがるから余計に面白がって……」

 

──あるフレーズが、アナグラワンワンという武名とセットで語られていたそうだ。

 

「パワハラというやつでは」

「階級に関係なく、リンドウさんはそういう人だ」

「じゃあいじめっ子?」

「……私も散々いじり返したからお互い様かも……」

「治安悪いですねアナグラ内も」

「信頼関係はあったんだ」

 

 治安は悪かったって認めてるじゃないか。そんなことで開き直らないでもらいたい。

 

「で、なんて言ったんですかアナさん」

「あの時はアドレナリンとか出まくりで冷静じゃなかったんだよぉぉぉ……」

 

 すごい、こんなしおしおのアナさんは初めて見る。どうも本気で恥ずかしがっているらしい。若気の至りとかなんとか。

 

 それでも聞き出しておかないと、私はこの衝動の輪郭が掴めない。

 さぁキリキリ吐いてくださいな──はい?

 いや、別に恥ずかしくないでしょうソレ。

 

“生きることから、逃げるな”……それは、腑に落ちます」

「しみじみと復唱しないで欲しい」

「今後アナさんと口喧嘩になったらコレですね」

「こわ……この13歳こわぁ……!!」

 

 冗談はさておき、“生きることから、逃げるな”か。

 ……普通にカッコ良い発破じゃない? リンドウさんとやらは生きることを諦めてしまうデッドラインのギリギリ(アウト)だったというし、それこそ気合いで道理を捻じ伏せなきゃ引っ張り戻せなかったみたいだし。

 

 

 ともかく一応の納得はいった。つまり【アナグラワンワン】という偶像には沢山の憧れが向けられていて、その無数の視線は情け(﹅﹅)ない(﹅﹅)生き(﹅﹅)様を(﹅﹅)許さないのだ。

 レースで負けることは構わない。負けただけで死んでないなら兵士にとっては敗北じゃないから。

 でも戦わないのは解釈違い。腑抜ける自由は認めない。どこにでもあるような家族とのイザコザでうじうじ悩む英雄なんか見たくない。

 

 短くまとめれば──、

 

「厄介ファンの群れ、みたいなものですか」

「どういう納得の仕方だそれは」

 

──あれ、違いました?

 

*
『死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ』と新兵時代のアナに教えた人。




アナグラワンワン《Anagura One-One》
 誕生日:2月4日(ゴッドイーター発売日)
 身長 :147cm(成長中)
 体重 :筋肉の塊
 毛色 :青毛(流星なし。光を弾く金属的な黒)
 髪型 :メジロライアン風ベリーショート
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