アラガミ喰べてたウマソウル   作:土屋 四方

76 / 166
※2話同時に投稿していて、こちらは後編です。
 アイビスサマーダッシュ(1/2)からお楽しみください。


アイビスサマーダッシュ(2/2)

 

 サキさんからの求めもあって、自分が走るレースでも観るだけのレースでも“領域”には注意を払ってきた。アナさんの意見も聞きながらなるべく言語化して、記録して分類して……みたいなことも。

 

 で、断言できるのは『ワケ分からん』ということ。分類なんてする意味があるのかさえ疑った。

 一応大半は装備型か範囲型かに分けられそうだけど、なんか微妙な例外もあるし。

 

 ボゥ先輩の〈3色柱(トリコポール)〉なんか身近な謎だ。どっちとも違う気がするんだよね。

 アリー先輩の〈平定の花(アソカツリー)〉と干渉してたから範囲型に仮分類してたけど、その後のレースを見るとどうも違う。

 

 主な効果は『塞がれた進路をこじ開ける』こと。

 ドンナさんの〈開闢雷霆(インドラ)〉とちょっと似てる。でも〈雷霆〉は前にいるウマ娘を左右へ弾き飛ばすのに対して、観察できた〈3色柱〉にはそれが無い。抜かれたウマ娘はいつも『こんな狭い隙間を抜けた!?』って驚いてた。

 つまり進路を空けた自覚が無い。ぴったりブロックして、その状態を維持して、何をされたかも分からないまま抜かれてしまうらしい。

 

 例えば、例えばね。

 ボゥ先輩以外の誰にも認識できない亜空間(?)みたいなものを作り出してそこを駆け抜ける、だとか。

 

 まぁその、まさにあんな感じで。

 

 

「シャキッとしなさい大バ鹿ワン子!!」

「ひぇいごめんなさいぃ!!?」

 

 

《このままだと負けるぞ? グラの実力未満しか見せずに》

「冗っ談じゃない! 残りは!?」

《ははは、残り600を切ったところだよ》

 

 わらっ、今笑いましたねアナさん!?

 今朝から何度も落ち着けとか言ってくれたのは覚えてますけど! 私が半ば無視しちゃってたのも確かですけど!!

 

 

『先頭アナグラワンワン、逃すかとばかり背後に迫ります2番手アルヘイボゥ!』

『やや早い仕掛けですね。まだここから緩やかな登りと下りがあります』

 

 っ……私が、腑抜けてたから。先輩に早いタイミングで仕掛けさせてしまった──違う違う、自惚れるな、判断したのは先輩だ。

 考えるべきはそんなことじゃないし、考える間も脚を緩めてなんかいられない!!

 

 

 喰核再現(プレデイテッド・コア):アバドン

 

 

「ちょっとは調子でてきた? 余計なこと考えてたらぶち抜いてあげるって言ったわよね」

「っ、近い……!」

 

 ついさっきまで最後尾にいたはずの先輩がすぐ後ろにいる。ただし先頭位置での逃げ〈アバドン〉で一応時間を稼げている。あの〈3色柱〉は亜空間的な場所をワープしたみたいに見えたけど、どうやら距離は現実と同じだけあるらしい。

 先輩はそこを自らの脚で駆けている。ウマソウルからの恩恵は道を拓くことだけ──ちょっとムンちゃんと似てるかも。

 

 そして/つまり、ボゥ先輩は身体能力のみで安田記念を連覇したのだ。得意距離ですらないマイルで。

 だから当然、瞬きの間に2番手まで上がってきた加速もまだ最高速ではない。

 

 

『残り500mでアルヘイボゥが進出、捉えた! 仲良く並んで粘っていますがアナグラワンワン苦しそうです!』

 

『コース状態にかなり差があります。外側のアルヘイボゥ有利──じわじわと前に出ているか?』

 

 ダメだ、このまま前に行かせたら不味い。理屈も分からない直感を信じる。

 ボゥ先輩の歩調(ピッチ)なんか身体に染み込んでる。『遅い瞬間』に踏み込みを合わせるのなんて簡た──、

 

「え、あれ。ズレた……!?」

「あんたは精確でバ鹿正直すぎ」

 

──ズレたんじゃない、ズラされたのか! 私が『知ってること』を知ってるから!

 

 

『僅かですが確実に! 先頭交代、アナグラワンワンが先頭を譲りました!』

 

『しかしまだチャンスはありますよ、アルヘイボゥが最高速のスパートをできるのは精々400mでしょうから』

 

 そんなのは安心材料にならない──たぶん。嫌な予感がびんびんする。

 理由はすぐ明らかになった。少なくともターフ上の私たちには。

 

 

 継承因子:(サクセサー・オブ・)憂い無き平定の花(アソカツリー)

 

 

 緋紅色の群生花が咲き乱れ、抜き返そうとする私の前進を理不尽に阻害する。

 効果は『発動時の順位の固定』……アリー先輩の“領域”じゃないか。

 

『!?…………安田記念の最後!?』

《そう、あの時アソカツリーは“渡した”んだ。意識的にか無意識的にかは知らんが》

『こ、んな──』

 

──大事なことをよくも隠して、とか。そんなことは今はいい。どうでもいい。

 残りは400m。

 アイオブエンヴィさんの〈遠近法〉とかヒトリニシナイデさんの〈ツイテイクヨ〉とか、こういうルールを強いる感じの“領域”は厄介だ。力尽くで突破することが難しい。ならばここは。

 

「先に“領域”を潰す!」

 

 

 喰核再現(プレデイテッド・コア):マルドゥーク

 

 

 ガルム神族の感応種、巨大な白狼マルドゥーク。本来の特性は周囲のアラガミ*を強制的に沈静化させることで、それを十全に発揮できればムンちゃんの〈新月〉みたいな真似もできたかも知れない。まぁそれは無いものねだりなので置いといて。

 〈マルドゥーク〉は相手の“領域”を踏み潰すことで叩き壊せる。微妙にドンナさんの〈(カー)(リー)〉のパクリっぽいのは気にしない。今はホウカンボクの花と似た色合いの〈平定〉を突破することだ──、

 

せいっ!──あれ?」

「……狙いが見え透いてんのよ」

「ウッソでしょう!?」

 

──“領域”が縮んで私の踏みつけを避けるとか思いませんよ普通!? ていうかその自分の左右にだけ小さく展開するやり方、アリー先輩よりも使いこなしてません!?

 

「こっちのが合理的でしょうが」

「……だとは思いますけど!」

 

 小さく声をかけてくれるお陰で、分かる。先輩にも余裕は無い。このままゴールまで速度と〈平定〉を保てるかは怪しいものだ。

 残り300m。

 アレ(﹅﹅)でなら強引にブチ抜ける──いやダメだ、まだまだ制御が危うい。私の力と呼べる状態にできていない。

 

 じゃあもう、押し戻されることを承知で何度も仕掛けて“領域”に負荷をかけ、MP(的なもの)切れを狙う。

 それにはまずあの速度に追いつかなきゃいけないわけで、それだって大変なんだけど……やったろうじゃないか。

 

 

 喰核再現(プレデイテッド・コア):ルフス・カリギュラ

 

 

 東京優駿で頼った〈ハンニバル〉と同属ながら、逆鱗を砕かれるまでもなくブースターで高速機動する〈カリギュラ〉。その中でもとりわけ危険な紅の竜帝が〈ルフス・カリギュラ〉だ。

 再現する特性はシンプルに速さと加速力。幾度押し返されようと狂戦士のように襲い続けるこれは、アナさんの知る限り最速(﹅﹅)()アラ(﹅﹅)()()

 緋紅色の〈平定〉に襲いかかり、突破できないまでも踏み荒らすことはできる。

 

 残り200m。

 3回並びかけて3回ともアリー先輩に妨害された。構うものか、こんな力は無限には働かない。

 それは暴れん坊の〈ルフス〉を従わせる私の精神力にも同じことが言える。とはいえ、元がどんなアラガミでも今は喰核(じょうほう)に過ぎない。ボゥ先輩の方がずぅーっと頑固で強情だ。

 それはきっと〈平定〉もそう。アリー先輩自身ならもうちょっと粘ったと思うけど、本人から切り離されたら多少は劣化もするだろう。

 

 4回目、緋い花が散る。

 5回目、何かが決定的に緩む。

 

「こ、の、脳筋!」

「勝てばいいんですよ勝てば!」

「そこは同感!!」

 

 6回目。私を2番手に押し留めていた物理法則以外の何かを──完全に食い破った。

 残り100m!

 

 世界がぬるむ。時間がとろける。

 極集中(ゾーン)ってやつだろうか。真横にいる先輩の呼吸も、魂の奥底から沸騰する〈ルフス〉の猛りも、見るともなしに見えるターフの凹凸も、全部がすっと頭に入ってきては思考さえ挟まず筋肉へ伝わっていく。

 前へ、前へ。先輩の脚が芝と擦れる瞬間に稼ぐ。蹄鉄が地を引く瞬間は維持する。あ、次の1歩は路面が悪いので無理せずキープ。

 ほんの僅かな距離を重ねて。瞬間的に遅れることもあって。横並びのようでそうではない、私と先輩にしか分からないほどミクロな一進一退。

 

 残り75m。1/8バ身ほど私が前にいる。

 先輩も気力体力はカツカツのはずだ。それでも/だからこそ脚音が力を増した。

 前になんて行かせない。行かせるものか──っ!?

 

 残り50m。差が3/4バ身まで一気に開いた。

 どうして急にと振り返りかけた。その前に音と匂いで気付く。

 

「ッ、ァ──ハ、カ──」

 

 ぬち、と水音。詰まった喘鳴。血の香り。

 ……鼻出血(びしゅっけつ)だ。

 こうなるとウマ娘の身体はろくに酸素を取り込めなくなる。命に関わるようなことは少ないけど速く走れるわけがない。レースとしては終わったも同然……なのだけど。

 

 残り25m。差は1バ身。

 

「先輩ッ!?」

「──(余計な、こと考えて、たら)──」

 

 先輩は諦めてくれない。脚音は(かそけ)るどころかますます奮う。

 振り向いた、振り向いてしまった。キツく睨まれるのが分かっていても。

 

「──(ブチ抜い、てあ、げ)──」

「無理です、お願いですから!」

 

 先輩の鼻からは赤黒い血が垂れ、顔色はチアノーゼで紫に染まっている。

 ……鼻出血が大事に至りにくいっていうのは、すぐ脚を緩めて適切な処置を受けた場合の話で。こんな速度域で、無酸素のまま50m弱を駆けて平気なの? 血が変なところに入ったりしない?

 最悪が、最悪の最悪な想像が、極度の集中を千々に乱れさせてしまう。〈ルフス〉も解くしかなかった。

 

 すぐに、今すぐになんとかしなきゃ。

 走るのを止めさせる? 無理。

 

 

 じゃあもう、走りながら(﹅﹅﹅﹅﹅)血を取り除くしか。

 それ以上に大切なことなんて無い──だからって全部は諦めないけれど。

 

 



 

 

キ、キ……

『先頭での入線はアナグラワンワンだったように見えました、しかし接触がありまして審議ランプが点灯しています!』

 

キ…………

『リプレイのスロー映像流れますでしょうか。アナグラワンワンから意図的に接触したようにも見えましたが?』

 

キマシタワーッ!!

 

 ブツン、とマイクが片方切られる。

 

『音声乱れまして失礼いたしました、映像確認してみましょう』

 

 

 接触はゴール直前。

 アナグラワンワンは並走するアルヘイボゥの顔面に噛み付いた。もとい、鼻に吸い付いた。

 血液を一気に吸い出すために。医療的処置である。

 

 無理な体勢と呼吸のせいでアナグラワンワンは一旦失速した。同時にアルヘイボゥも集中を乱した。流石にこんな接触をされることは想定外である。

 直後にはどちらも競走を再開したが。

 

『先着()貰っていきますっ!!』

『──大バ鹿反則ワン助ェ!!』

 

 カメラで確認したところ、ゴールに最初に入線したの()間違いなくアナグラワンワンだった。

 が、もう誰が見ても反則である。意図的な危険走行だ。その意図が救急にあることは理解されたものの、これをノーペナルティで流すことは絶対にできない。

 

 結果、このレースの勝者はアルヘイボゥとなった。アナグラワンワンが掲示板にも載らないのは初めてのことである。

 

 本人は『勝負に勝って試合に負ける』ことを承知でやったので、審判団の決定に落ち込むどころかどこ吹く風。

 ……もとい、落ち込んではいないが恐れてはいる。後悔は無いが怖いものは怖い。

 

 アルヘイボゥ(とアソカツリー)がこの上なく不機嫌なことは、流石に察しがついているので。

 

*
神機も含まれる。





 2024年7月28日はリアル・アイビスサマーダッシュです!
 予定ではフルゲート18頭立てとなっております!
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。