アラガミ喰べてたウマソウル   作:土屋 四方

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聖蹄祭(2/2)〜UMA◯◯◯ーズ〜

 

 突然のお願いにも関わらず、バスちゃんとベアちゃんは買い出しを引き受けてくれた。

 代わりに2人だと難しそうなことを担当する。夏合宿を通して喰核(コア)の扱いがずいぶん上達した私が一番適任だ──例の焼きそばを買うのは。

 

 

 喰核再現(プレデイテッド・コア):カバラ・カバラ

 

 

《なんかもうサラッと出来てるな……》

『寮母さんは日常的におかしいですし。あとは今日ここがお祭りだからですかね?』

 

 異国の祈祷師のような、羽根飾りのついた面を被る。グボロ・グボロ神属の感応種……なんだけどそういう性質に頼るつもりはなくて、この子は鼻が長いのだ。〈コンゴウ〉で聴覚があがるように、嗅覚をあげるならこれだと思った。

 学園のどこかを徘徊するゴールドシップさんとテセさんの動きは予測なんてまず出来ないし、運任せの遭遇を期待してランダムにうろつくのは時間がかかりすぎる。的確にそれぞれの焼きそばを購入するには、まず居場所を突き止めないと話にならないから。

 

 この後、買おうとしてるだけなのに何故か逃げ回る焼きそば売りを捕まえるためにやたらとハイレベルなパルクール鬼ごっこが展開されたとかされなかったとか。

 

「はい、お釣り無しのぴったりです。

 ──なんで逃げたんですかテセさん」

「いやその仮面フツーに怖いだろ」

「え、割と可愛くないですか?」

「えっ」

「えっ」

 

 可愛い……よね? 他のアラガミと比べたら。少なくともハンニバルやカリギュラよりは。

 

「そもそもレース外の“領域”……もうなんでもアリだなお前」

「あぁ、それは確かに怖いかもです」

 

 

 

 ともかく焼きそば2種を買って案内所に行くと、バスちゃんベアちゃんは何故かカチンコチンに固まっていた。

 

「ふたりともありがとう、そんなとこでどうし──わぁお」

 

 中を覗き込んで納得。あの白毛ちゃん、お嬢様どころかお姫様か何かだろうか。目が合って申し訳なさそうに顔を伏せてきた彼女は、想像してたよりかなり規模の大きい集団に囲まれている。お付きの人っていうか護衛っぽい黒服さんまで居るんですが。むしろよく逃げ出せたね……?

 机には2人が届けた食べ物が積み上がっていて、でもまだ手を付けられた様子はない。保留中ってことかな。

 

 すぐに、いかにも気難しそうなウマ娘のお婆さんが声をかけてくる。

 

「……貴女が?」

「失礼しました、アナグラワンワンです」

 

 帽子を脱いでご挨拶(もちろん〈カバラ・カバラ〉は解除済み)。意識してレース前みたいな表情と空気をまとえば疑いも消える。

 

「こちらこそ大変な失礼を。お手数をおかけしたとか?」

「とんでもない……あぁいえ、差し出口を許して頂けるなら──」

 

 別に手間だなんて思っていないけど、軽く頭を下げてきたからには乗っかっていこう。

 せっかくのお祭りだし、こういうのを食べてこそって面はあるでしょ。どうか楽しんで欲しい。

 

「──アスリート向けとはいきませんが、脂質も糖質も計算された食事なんですよ。アレルギー成分とかもきちんと表示しているので、いわゆるジャンクフードと比べれば身体への悪影響は少ないかと思います。

 ……まぁ、見た目とかの品格が見合ってないのは確かですが」

「おい。ワタシの味方じゃなかったのか」

「あ、ごめんなさい失言でした」

 

 余計な感想を白毛ちゃんからツッコまれてしまった。いや白毛様? そういえば名前も訊いてないや。

 

「食べること、許してもらえそうですか。えーと」

「ラウラだ。家名は訊かないで欲しい」

「わかりました」

「お言葉に甘えて名前を使わせてもらった。アナタがわざわざ届けたものであるなら、ワタシは口にしても良いらしい」

「それは何より」

 

 喜ばしいこと、なんだろうけど。周りの皆さんからは渋々といった気配を感じる。むしろ速いというだけのことがそんなに大事なんだろうか。

 対してラウラちゃん様は『いい気味だ』と言わんばかりの悪い笑みを浮かべて──と、年下だよね……?

 

 

 

 とにもかくにも彼女のプチ脱走はここまで。無事に保護者と合流し、可愛らしいワガママも叶えてあげられた。ミッション成功って言えるんじゃないかな。

 

「ふたりとも本当にありがとうね。すぐにでもお礼……したいところだけど、余裕を持ってメインステージに行っとこうか」

「「はいっ!」」

 

 お次は私たちのミッション。ウイニングライブ以外のこういうステージは初めてだから、張り切って行こう!

 

 


 

 私も世間から自分への扱いが分かってきたし、常識外れに速いところを気に入って選んだ曲なんだから、歌い終わった後にドン引きされるような反応は想定してたんですよ。

 

 だけど歌うより前、ソロ曲の初披露ですよって発表した段階で歓声じゃなくどよめきが大きかったこと、歌い終わったらすぐ『期待通り!』みたいに喜んでくれたこと、なんか思ってたのと違う。

 アリー先輩風にいうと訓練され過ぎじゃないですか皆さん?

 


 

 

 2回のステージそれぞれで細かなミスは幾つかあったものの、全体としては成功裡に終わった。ボゥ先輩が褒めてくれたんだから大成功と言っても良い。

 

 

「あー…………終わっちゃった」

「あら。思ったより楽しめたのねグラ?」

「え、私そんなにつまんなそうだった?」

 

 ムンちゃんの言葉に問い返す。隣で『私はやっと終わったって感じです……』とぐんにょりしているニュクスさんはもちろん、私だって楽しんでたつもりだけど。

 

「前向きではあったんでしょう。でも楽しいって意識はそれほど持ててなかったんじゃない? 『楽しい』って感覚を知らなそうなフシがあるものね」

「…………ムンちゃん、それはちょっと当たり過ぎてて怖い」

「ほぼ貴女が話したんでしょうが。ソロナンバーを決めた時の件で」

「あー、好きな曲も嫌いな曲も無かったとか言ったっけ」

 

 そんな話もしたかも。みっちり1ヶ月も一緒にいたからね。

 今日もこうしてステージをこなして、けだるさや楽しさを共有して。仲良くなったのは間違いない。

 

 だけど。

 ではなく、故に。

 

「ニュクスさんも菊花でるんですよね?」

「ふぁい。秋華と悩みましたけどそちらにします──ムーンさんもいますし」

「ニュクスとやるのは初めてか。ドゥームも出るんだったかしら?」

 

 真剣勝負でぶつかることも、愉しみで愉しみで。

 

「ドゥは秋華にするってさ。ナーと一緒に」

「ナーサリーが2000m? それ何か企んでるでしょ」

「うん。『凱旋門の翌週で2人がかりならギリ勝ち目がある』とか言ってた」

 

 私、連闘でもほとんど疲れとか残らないんだけどね。それでも凱旋門の後なら他より厳しいのは確かだ。あのトリィさんやフランス連合みたいなチームとの戦いはノーダメージとはいかないだろう。

 

 もっとも、ナーたちの計算や作戦は既に狂っている。だって──、

 

「…………それ、いつのこと?」

「夏休み明けてすぐ」

「「うわぁ」」

「いや、私が騙したわけじゃ……」

 

──2人が挑戦状を叩きつけてきたのは9月の頭。これはムーラン・ド・ロンシャンで〈カリギュラ・ゼノ〉を初めて披露するより何日か前のこと。ムーランとヴェルメイユでの勝ち方はかなり衝撃的だったと思う。

 ま、それでも諦めとか回避とかを選ばないんだから本当に得難い友人だ。だからこそ手は抜かない。

 

「菊花の後は?」

「もちろん私は──」

「あ、ムンちゃんが有に出るのは分かりきってるから平気」

「……分かってるなら言わせなさいよ」

「う、ごめん……?」

 

 菊花と有はマンハッタンカフェさんが勝ってるからね。ムンちゃんが出たがるのは当然。

 

「ん〜そういうこだわりは薄いんですよねぇ。トリウムフォーゲンさんのことは気になるのでジャパンカップでしょうか」

「ニュクスがグラみたいなこと言いだした……」

「ムンちゃんは? トリィさんとの再戦」*

「興味が無いわけじゃないけど、今年はもういいかな。ジャパンカップでトリィとやったら有に障るもの」

「確かに」

 

 トリィさんを相手取ればただでは済まない。ジャパンカップから有記念は中3週だからダメージが抜けるかは際どいところだ。凱旋門賞も2週後に菊花賞があるから出ないんだろうし。

 私とムンちゃんは頷き合う。それはトリィさんの脅威を共有しているから。ニュクスさんはそこが欠けているので首を傾げる。

 

「? ムーンさん()中3週くらいどうってことないんじゃあ」

「そういう相手じゃないのよトリィは。ニュクスもジャパンカップで当たるなら覚悟はしておくことね」

「それほどですか」

「それほどよ」

 

 …………あれ?

 ムンちゃんが言いそうなことを言わなかったな。代わりに言ってみようか。

 

“中3週くらいどうってことない”にはツッコまないんだ?」

「──う゛っ!?」

「あ、本気で気付いてなかったのね」

 

 変な悲鳴が上がった。私のローテ感覚に染まってることを自覚したらしい。失礼な。

 

 ちなみにニュクスさんは戦績に基づいて真っ当な疑問を述べただけだ。だってムンちゃんは9月の頭にリュテス賞(ロンシャン3000m・GⅢ)を走り、そこから1()でアイリッシュチャンピオンステークス(レパーズタウン2000m・GⅠ)にも出ている。

 そんなことをやらかしてるので、“中3週くらい”と思われるのも道理じゃないかな。受け入れて欲しい。

 

「……ローテは私よりニュクスの方がヤバいし」

「否定はしないけどねぇ」

 

 思い切り話を逸らすなぁ。諦めが悪いことだ。

 言ってる内容は間違ってない。ニュクスさんは9月頭に不来方(こずかた)賞(盛岡2000m・GⅡ)でドンナさんへのリベンジを図り、その4()には紫苑ステークス(中山2000m・GⅡ)でホウカンボクと戦った。

 それでいて故障とも疲労とも縁遠い頑丈さだ──結果が惜敗であっても。

 

「1着とほぼ横並びとはいえ、2戦ともニュクスさんが2着に終わった*のは少し驚きました」

「中3日に驚きなさいよ」

「あー、その。不甲斐なくて申し訳ないのですが、ワンワンさんが居ないとデジタルさんのソウル因子がいまいちグッと来なくてですね」

「ソウル因子とかやめて不思議要素を増やさないで」

「それ本当に寮母さんです? 本物はそんな選り好みしませんよ」

「迷わず断言するのが栗東寮の怖いところよね」

 

 ムンちゃん(美浦寮*)が必死に常識寄りなツッコミを入れてくるけど、もう手遅れだと思うよ。

 イギリスならK&Qみたいな位置づけのビッグタイトルである愛チャンピオンSに前走(リュテス)から中1週で挑んでおいて──しかもかなり集中的なマークを浴びてたのに──カメラ判定が入るくらい1着に迫って2着を獲ってるんだから。リュテスは大差勝ちだったし。

 

 もうみんな仲良くUMA娘って呼ばれよう? んふふ。

 

 

 

 ──なんて含み笑いは9割冗談だったんだけど、後日ボゥ先輩からお叱りを頂戴した。

 聖蹄祭でのライブはファンの皆さんから大いに好評を博したものの、私たち3人は“UMAシスターズ”みたいに括られていて(もちろんそんなユニット名は名乗ってない)、先輩はその保護者と見做されたらしい。

 

「まさか本当にそんな扱いとは……まぁ先輩は実際色々と面倒見てくれてましぇ()たたた!」

「開き直ってんじゃないの。もう私は実行委員でもなんでもないんだから」

 

 じゃあ私の凱旋門賞にまで世話焼いてくれたのは先輩自身の善性じゃないですか。言いませんけど。

 

 


 

 

 さて、楽しかったお祭りはおしまい。

 ここからは愉しい愉しいレースの時間。

 

 聖蹄祭の7日後はスプリンターズステークス。アイビスで競ったシニアの方々から再戦を申し込まれている。

 スプリンターズSの7日後は凱旋門賞。相手はトリィさん&フランスチーム。

 凱旋門賞の7日後は秋華賞。ナーとドゥが何かを仕掛けてくる。

 秋華賞の7日後は菊花賞。公式レースでは久々のvs.ムンちゃん、そこにニュクスさんも参戦。どちらも因縁深い。

 菊花賞の7日後は秋の天皇賞。少なくともテセさんは来るはず。

 

 GⅠばかりの5連闘、はじまりはじまり。

 

 

《とか言って天皇賞の後にも何か入れる気じゃないか?》

『いや流石に休みますよ。次はジャパンカップでしょうね』

《……ジャパンカップまでの期間は?》

中3週。たっぷり休めますね!』

 

《身体にだけは気を付けてな──と言うつもりだったが、ソウルの調子にも気を配って欲しい。最近のグラは支部長*並みにハードルが高い……》

『なら痩せ我慢は無しですよ?』

《分かった分かった》

 

*
6月半ばにディアヌ賞で戦い敗れた。

*
ティーガードンナには8月頭のレパードSに続き2度目の敗北。ホウカンボクとの公式戦は紫苑Sが初。

*
ボゥ・アリー・バス・ベアを除く名有りキャラは大部分が美浦寮所属。

*
ここではヨハネス・フォン・シックザールのこと。仕事のできる無茶振り上司。

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