フシノゲイム/死にゲーで死にすぎた男の冴えた死に方   作:あるなし

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46 新たな軍と聖騎士

 小都市総督府における騒乱は二十七名の負傷者を出して終わった。

 

 ピウマイネン城伯は捕縛した暴徒へ禁固刑を下し、暴徒へ協力した疑いのある者についても厳しく取り締まった。また、警備拡充のため自領砦より兵員を移動させもし、その結果として小都市は帝都に次ぐ兵力を駐屯させることとなったのである。

 

 軍事色を強めるそんな城館の医務室で、アレンヌは戦友の見舞いを受けた。

 

「まだですよ。生きてる限り、まだまだ終わっちゃいないもんです」

 

 ニヤリと笑って言うのはウラタである。此度、開拓村から呼び戻された。

 

「嬢ちゃんを誘拐したってことは、つまり生かしておく理由があるんでしょう。ねらい目だ。奪い返せばいい。アレンヌ殿を殺さなかったってのもいいな。あちらさんには何か目的がありそうだ。ただしっちゃかめっちゃかに暴れたいわけじゃないってのは、要するに、つけいる隙があるってことですよ」

 

 うんうんとしきりに頷く、その大げさな振る舞い。励まそうとしてくれている。そういう男だ。

 

「ポイ殿は、東へ連れ去られた」

「追手は出してあるんでしょう? 城伯閣下はその辺りの抜け目がない御人です」

「私も追う」

「数はどうします?」

「戦力はともかく、手分けする選択肢を持ちたいが」

「なら軽装の騎兵を二十騎でどうです? 本隊十五騎に斥候五騎という塩梅で」

「……借り受けるのは五騎で十分だ」

「なるほど。では七騎での追跡行ですね。諸々用意してきます」

 

 余計な言葉を交わす必要はなかった。どちらも公爵を慕いポイを慈しんでいるから、かかる状況に際し最善を尽くすことに迷いもない。

 

 城伯の手立ても手厚かった。

 

 すぐにも精鋭軽騎兵五騎による特騎隊を編成された。隊長はアレンヌ、副長はウラタだ。計七騎からなるこの隊の任務は誘拐されたポイの奪還であり、すでに放たれている追跡隊への命令権すらも付与された。それは総勢五十七騎がアレンヌの率いるところのものとなったことを意味する。

 

「枢秘長がなにがしか尋常ならざる存在の言葉を受け取っているのは、どうも確からしい」

 

 捕縛者の尋問結果を受けて、城伯は言ったものである。

 

「目撃者は複数いる。誰もいないはずの場所……閉じこもった部屋、尖塔の上、供と離れた丘……そこで彼女は誰ぞと会話をしていたようだ。声を聞いた者もいる。女性の声だったようだね」

 

 なお一層の忙しさにげっそりとしながらも、城伯はアレンヌたちの出立を見送ってくれた。

 

「連絡は密に頼むよ。物資であれ兵力であれ、卿の要請は最優先かつ最大限に応じるからね。何としてもあの子を助けておくれ。我々が、偉そうに大人の顔をし続けるためにも」

 

 七騎は東へ駆けた。

 

 誘拐犯たちの足取りについては追跡隊からの報告が入る。聖騎士を中心とすることの当然として、誘拐犯たちは祭殿からの支援を受けて東進しているらしかったが。

 

「どうか、アレンヌ卿の指揮下に加えてください」

 

 聖騎士が数騎、また数騎と同行を申し出てくるのだ。

 

「私たちは召騎術を習得していません。秘術ではあるのでしょうが、あれはどう考えても神聖なものではない……しかも灰騎への援軍を謳っておきながら、特別な灰騎と絆を結んだ皇女殿下やポイ殿、そしてアレンヌ卿と敵対するなど言行不一致もはなはだしい。お疑いはごもっとも。どうぞ荷物を検めてみてください。あの怪しげな短杖があったのなら首を刎ねていただいても構いません」

 

 誓約した彼女たちを、アレンヌは隊に迎え入れた。

 

「荷に短杖とやらはありませんでしたが……その気になればどこにだって隠し持てるものです。それでも信用するんですね?」

 

 そっと確認してくるウラタへ、アレンヌはうなずいて見せた。

 

「もとより隠密行動などできるわけがないし、対立を呑む気もない。堂々と行こう。ポイ殿を……最近ようやく肉のついてきた、誰よりも幸せになるべき少女を迎えにいくんだ。誰のそしりを受けることもない道行きさ。もういっそのこと戦友へ呼びかけようか」

「大手を振って、というわけですか。いいですね。義勇軍の旗、持ってくりゃよかったかな」

 

 ウラタのつぶやきを聞いたものか、誰かがどこからか旗を調達してきた。噂も撒かれた。救国の英雄少女であるポイを助けにいくという噂だ。

 

 東へ駆けるにつれて同行者が増えていく。

 

 騎数はいつの間にやら五十を超えた。馬のない者たちも後に続いているようで、その数はすでに百を超え二百を超えて、三百にも迫るという。兵站については随時城伯が手配してくれる。周辺村落からの援助も少なくない。

 

 知る者は知るのだ。帝都奪還に命を懸けた戦いの内実を。

 

 わかる者にはわかるのだ。何を置いても護らなければならない者がいると。

 

 いつしか一百騎五百卒を数えていたアレンヌ一行は、帝都において更なる増強を受けることとなった。志願者を中心とした五百騎三千卒が加わり、合計すると六百騎三千五百卒となったそれは、もはや新義勇軍とでもいうべき一軍であった。

 

「ハハハ、大したものではないか。ひと手繰りでこうも意気軒高な者どもを揃えるとは、お前の英雄性も馬鹿にはできんぞ」

 

 閲兵式としてしつらえられた場で、皇女は楽しげに笑ったものだ。

 

「ポイのもとへ急ぎたいのですが……」

「いいや、必要なことだ。件の連中も百騎からの一隊で枢秘長のもとへ駆けている。相当の強行軍でな……おい、少し耳を貸せ……」

 

 酒の臭いを漂わせる吐息がアレンヌの耳とほおとくすぐる。

 

「血眼がな、東で再び姿を現すようになっている……馬鹿め、驚いた顔など晒すでない……まだまだ小勢であるし、断続的なものでしかないが、なるほど戦況は悪化しつつあるようだ」

「……っ! ポイが……!」

「うむ。だから連中も百騎などと物々しくしたのだろうよ。しかしそれでもなお危ういと、お前ならわかるだろう?」

「はい。血眼の中には、異常な個体も入り交じりますし」

「そうだ。だからお前に一軍を仕立てたのだ。油断するなよ。軍の総員を犠牲にしてでもあの娘を生還させよ」

「それは……」

「お前の言う通りだからさ。イモータルレギオンの炎が燃えるのはあの娘が在るからこそ。枢秘長はそれがわかっていない。私が根拠だと思っている節がある。あれはどうも私を特別視しすぎるのだ……」

 

 また吐息。そんな様子さえ威風ある姿に見えるのが皇女である。

 

 アレンヌには枢秘長の気持ちがわかる気がした。過去、自分もまた皇女を理想化していたからだ。公爵と皇女……伯父と姪のじゃれ合いを目の当たりにし、夢から醒めた。

 

「ところで、聖剣は何とする? 小都市へ置いてきたのか?」

「非力な私ですから、最も信頼できる強者へ預けました」

「おいおい、また貸しか! ハッハ! いや、それくらいで丁度いいな!」

 

 笑い、肩を叩いて、皇女は離れた。見物の群衆が沸く。さぞや劇的な激励に映ったのだろう。

 

 ふと感じ取れるものがあって、アレンヌは皇女を見つめた。灰騎が漂わせる独特の気配……焚火の元で熱を帯びたままの灰のような、儚い不滅性と熱い静謐さ……召喚術が失われた今も、その気配が彼女をそっと包んでいる気がしたのだ。

 

 ポイに「狼」がいたように、皇女には「虎」がいたとアレンヌは知っている。

 

 ―――見守ってくれているのかもしれない。

 

 そうであれば望ましいと思い、願った。召喚者と灰騎との間に絆があることも願う。

 

「皇女殿下は我らの義勇を見届けられた! 奮起すべし! 全軍、進発!!」

 

 威儀をもって挨拶し、アレンヌは四千百名の勇士たちへ号令するのであった。

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