地球防衛軍ストライク 作:ケロニスト
1939年。人類はネウロイと呼ばれる怪異による脅威に晒されていた。
ネウロイの攻撃能力は圧倒的であり、人類は生存圏の一部を奪われ、更にネウロイは勢力圏を拡めようとしてきた。
人類は諦めなかった。魔法力を持つ人間の力を増幅させる装置、ストライカーユニットを開発。ネウロイとの戦力差を互角になるまでに押し上げる事ができた。
しかし、人類は思い知ることになる。ネウロイという怪異、その強大さの一端がまだ見えていなかったことに。
〜○〜
国連軍基地228。戦争の最前線よりは二歩ほど離れた場所にある補給基地。多くの物資、食料、兵器が保管されており前線の勇士たちを支える重要拠点だ。
基地は広大な地下施設があり、その中にある第三倉庫に積まれたコンテナの前に二人の男がいた。その格好はスーツの上に防弾チョッキを被せ、頭の上に安全ヘルメットを乗せただけという簡素な服装だ。
「新人っていうのは君のことかな? 僕は君に仕事の指導をするように言われているんだ。気軽に先輩って呼んでいいよ。よろしく!」
「よろしくお願いします!」
ヘルメットにクレーン、フォークリフト、銃器管理者、リフト操縦者の資格シールを貼り付けた先輩がにこやかに言う。
「元気がいいね。ここの仕事は体力勝負。日々色々な物資が目まぐるしく出たり入ったりするからね。君みたいな人は頼もしいよ。じゃあ着いてきて。まず最初の仕事を教えるから」
先輩はそう言いながら倉庫の出口へ向かう。その時だった。
『ネウロイだ! ネウロイが出た!』
基地内に設置されたスピーカーから緊迫した声が鳴り響く。新人はピタリと動きを止めた。
「ん? ああ、気にしないで。軍人っていうのはこの手のイタズラが大好きなんだ」
だが先輩は気にした風でもなく歩き続ける。
「さあ。行こう」
先輩がドアを開けた途端、耳を揺らすような轟音が鳴り響く。大型トラックが六台は並走できるほどの広い通路を、何台ものシャーマン戦車とティーガー戦車が列をなして走っていた。車両の周りには歩兵が随伴しているが、その表情は焦っているようにも見えた。
『各員! 先頭配置につけ!』
『食われた! ジョージが食われた!』
「気にしない気にしない。きっと抜き打ちの訓練か何かだよ。こんな後方にネウロイが出るもんか」
尚も先輩は呑気に戦車部隊の進行方向とは逆の方へ歩いていく。新人も不安げに部隊を見送りながら先輩の後に続く。
そうこうしている内に二人は第五倉庫の前に着いた。
「ここだ。この扉の奥にあるのが…………え!?」
だが扉を開けた瞬間、その奥から赤い二つの光が先輩に迫り彼の身体を高く持ち上げた。
「ギャアアアアアアアッ!?!?!?」
鉄骨を容易く切断できそうな程に巨大な顎が先輩の胴体に食らいつく。
「助けてくれエエエエエエ!!!」
更に空中で左右に大きく振り回され、先輩の胴体は二つに切断された。
「!?」
突然の事態に新人は硬直して動けなかった。しかし顔にかかった血飛沫で状況を飲み込み始める。
目の前にいるのは漆黒の巨大。表面には蜂の巣のような模様が走っており、所々が赤く発光している。その姿は巨大な頭、六本の足が生えた胸、そして先端が一際赤く輝く腹から構成されている。
ネウロイ。人類を危機に晒す恐るべき怪物だ。
「!」
先輩を惨殺した怪物は次の獲物を欲っさんと新人の方へ頭を向ける。二刀流死神の鎌めいた顎がギチギチと音を立てて開く。新人は己の死を覚悟した。先輩のように上半身と下半身を泣き別れさせられるのだと。
「いたぞ! 撃て!」
だが次の瞬間、叫び声と共に轟音の嵐がネウロイを吹き飛ばした。見ると通路の奥から四人の兵士が銃を構えているのが見えた。
「軍曹! 民間人がいます!」
「倉庫整理のスタッフか?」
「保護するぞ!」
「頭下げてこっち来な!」
矢継ぎ早に飛び込んでくる声。そしてギチギチという音。倉庫の中には先程吹き飛ばされたネウロイと同種の個体がひしめいていた。新人は転がるように倉庫の出入り口から兵士達の方へと走っていく。それを追うようにネウロイの群れが溢れ出てきた。
「撃て!」
新人が自分達の射線より後ろに下がった事を確認し、兵士達は一斉射撃をした。落雷が何百と落ちるような轟音。吐き出される無数の弾丸。ネウロイの群れは三分と経たずに殲滅され、光の粒となり崩壊した。
「射撃停止! ……殲滅したようだな。民間人、怪我はないか?」
紫色の軍服を着た軍曹は銃口を天井に向けて新人の方へ歩み寄る。よく見ると彼らは普通の兵士と異なる装備をしている。
防弾性のある軍服の上にさらに装甲を被せており、特に左腕はストライカーユニットに似た籠手を装備している。武器も通常の歩兵火器ではない。ストライカーユニットを履き、空でネウロイと戦う女戦士たちウィッチが持つ強力な機関銃と同じだ。
「へ! ウィザードの俺たちが来れてラッキーだったな」
ウィザード。男性でありながらウィッチと同じく魔法力を用いてネウロイと戦う戦士の総称。魔法力と戦闘力はウィッチに及ばないものの、訓練を積んだウィザードは一人で戦車一両分の戦力と言われている強力な歩兵だ。
「だが彼は……」
「クッ! もっと早ければ……」
ウィザードたちは通路の端で無惨な亡骸となった先輩を悼む。しかし心苦しいことに丁重に弔うことはできない。
「基地は現在、ネウロイによる攻撃を受けている。詳しくは不明だが、既に半数以上のブロックが制圧されているようだ。ここも長くは保たないだろう」
軍曹が冷静に状況を伝える。敵はこの基地に奇襲攻撃を仕掛け見事に成功させた。後は基地が混乱している内に兵士達を迅速に処理しに来るだろう。悠長にしている時間はない。
「こうなった以上、民間人のお前も戦闘に参加して貰うほかない」
「素人に武器を持たせる気かよ!」
「今は少しでも戦力が欲しい状況だ。文句は言えまい」
「俺の背中に当てないでくれよ?」
戦う事を決定された新人は、軍曹たちに連れられて武器庫に入る。謎めいた巨大な人型の影が見下ろす武器庫。まだネウロイはいないようだ。今のうちにと軍曹たちは武器を物色し、新人に装備する。
「まさか、お前にもウィザード適正があったとはな」
その中で判明した。新人にもウィザードとしての適性があった。盾程度になればいいと装着されたウィザード専用の左腕ユニット『ウィザードストライカー』を装着したところ、彼の足元に魔法陣が出現したのだ。
「こんな状況だ。心強いぞ」
「俺は一目見た時からピーンとキていたぜ!」
「ウィザードはいいぞ。退役したウィッチとの縁談話が山のように入ってくるからな」
新人は自分の背丈ほどもある銃器がまるで重たくない事に驚きを隠せないでいた。兵士達が緊張を和らげようとした軽口も耳に入っていないだろう。
「出発する前に簡単に戦い方を教えてる。まずは、あの的を狙って引き金を引くんだ」
軍曹の指示通りに新人は機関銃を構え、引き金を引く。破裂音と跳ね上がる反動と共に何発もの弾丸が吐き出された。その内のほとんどは的を素通りし、たった二発だけが中心から逸れた箇所に着弾した。
「相手はネウロイだ。基本的に巨体だから狙いは正確でなくともいい。次はバックラーシールドを使うんだ。ウィザードストライカーに魔力を送り込めば展開される」
「おいおい。こいつはさっき自分に魔法力があるって知ったばかりなんだぜ? バックラーの展開なんかできるもんかよ」
新人の左腕に小さい魔法陣の盾が出現する。
「出来るのかよ!」
「初めてにしては筋がいいな」
「兵士に向いているのかもな」
新人はバックラーシールドを出したり消したりを繰り返して感覚に慣れようと試みる。
「俺たちウィザードのシールドはウィッチのそれには遠く及ばない。それでも使い方次第ではネウロイのレーザー攻撃を逸らすことはできる。攻撃に対しては正面から受けるのではなく、バックラーを斜めに構えて逸らすように防ぐんだ」
基本的なウィザードの技術を身につけた新人。これで一先ずは戦力として数えられるだろう。
「技術指南は終わりだ! では行くぞ!」
軍曹が先陣を切って走る。基地内にはサイレンが鳴り響いている。赤いランプが回転し、通路を血のように染めている。それは、これから彼らが辿る運命を予見しているかのような、不吉な色だった。