地球防衛軍ストライク 作:ケロニスト
装備を整え、武器庫を出た五人は地上を目指して走る。広く長い回廊、地獄のような坂道、城門の如き巨大なドアを抜け、ただ走る。
「しかし軍曹。いくら我々でもネウロイの大群相手に無事に地上に着けるでしょうか? 装備が心もとない」
「この先の格納庫に最新兵器がある。俺はそのテストパイロットも経験しているから操縦は問題ない。そいつを使えば脱出はかなり楽になるだろう」
「そいつは良い! 早いところその新兵器を取りに行こうぜ!」
「慌てるな。ウィザード適正があったとはいえ民間人もいるんだ。焦らずに行くぞ」
T字路に差し掛かったその時だった。右側の方の通路から爆音が鳴り響き、赤とオレンジの光が明滅した。
「味方が戦闘中だ! 援護するぞ!」
「「「了解!」」」
軍曹たちは走る速度を上げてものの数秒で曲がり道に飛び込んだ。
「クソー! なんだよコイツら! どっから入ってきたんだ!」
「ここは安全な後方じゃなかったのかよ!」
「死にたくない! 死にたくないー!」
「無駄口を叩いている暇があるなら撃て!」
兵士たちが床、壁、天井にひしめくネウロイの群れと戦っていた。彼らの武器は一般的なライフルに加えて火力抜群のグレネードランチャーもあるが、ウィザードではないためネウロイ群の進行を遅らせるだけで精一杯だ。
「行くぞ!」
軍曹が地面を蹴って大きく飛び上がる。三人の部下がそれに続く。そして兵士たちの頭上から機銃掃射をし、ネウロイ群の前衛を蹴散らした。
「軍曹か! 救援に感謝する!」
「礼には及ばない! 大方はこちらで引き受ける! そちらは撃ち漏らしを仕留めてほしい!」
「了解した!」
軍曹は指示をした後、再び銃口をネウロイ群へ向けて引き金を引く。吐き出される大口径の弾丸の嵐が吹き荒れる。軍曹の部下も続いて弾丸の嵐を巻き起こす。新人も見よう見まねで引き金を引く。
ネウロイの群れはまるで死を恐れていないが如く、仲間が光の残骸と化しても人間を殺さんと押し寄せる。
「撃って撃って撃ちまくれ!」
「引き金を離した奴は軍法会議にかけるぞ!」
「このクソネウロイ! 思い知れー!」
だが今回は兵士たちの気力の勝利だ。廃薬莢が地面に落ちた音が響く直前、ネウロイは通路からいなくなっていた。
「な、なんとか退けたな。被害報告を」
「負傷者五名。ですが戦闘継続は可能です」
「ウィザードの救援があったとはいえ、この人数であれだけの規模のネウロイを全滅できたんだ。全員勲章モノの大戦果たぞ」
兵士たちへ動揺や疲労を見せないように軽口を叩く隊長だが、それでも尚彼らの心の内に入り込んだ恐怖は拭えない。今回は運が良かっただけ、そして地上に出るまでにまだ戦いは続く。果たして生き残れるかどうか。
「では全員で地上を目指す! 絶対に生き延びるぞ!」
そんな中で軍曹が声を上げた。この状況でも淀みなく目的を宣言できる彼の姿に、兵士たちは一瞬だが恐怖を忘れることができた。
「まずはこの先にある新兵器を取りに行く! 全員出発!」
そして歩き出す。全員が彼の後に続き、暗闇からの脱出に前向きになった。
「しかし、新兵器ってのはどんな物なんだ? 本当に役に立つのかよ」
「人型機動兵器コンバットフレーム、ニクス型だ。耐久性、機動性は現行のあらゆる普及戦車を凌駕する。火力も凄まじいぞ。左右の腕に一門ずつ装備した57mm機関砲はティーガー戦車をものの数秒で消し飛ばす威力がある」
「それは凄い! そんな物が大量に配備されれば地上戦でネウロイを撃滅することも夢じゃない!」
「現状はコストやパイロットの数の問題で少数のみが重要拠点に配備されているのみだが、近い将来は戦場を歩兵と共に歩き回るだろう」
希望の持てる話はこの絶望的な状況にこそ相応しい。兵士たちの足取りは軽くなっていた。
「ここだ。この格納庫にコンバットフレームはある」
そうこうしている内に一行は物々しい扉の前にたどり着いた。他の倉庫よりも物々しい威圧感のある扉。重要物資を貯蔵しておくためのスペシャルだ。
「早く開けようぜ! 待ちきれねーよ!」
「そう急がせるな。まずは厳重なセキュリティを解除しないと開かない」
「この格納庫は千発の爆弾に耐える設計らしい。解除には時間がかかるたろう」
軍曹が解錠作業をしている間、部下や合流部隊が周辺を警戒する。通路の奥、暗闇と化したあの場所にネウロイがいればすぐにわかるだろう。その場合は軍曹を全力で守らなければならない。
「よし、開けるぞ」
だが幸いなことに解錠作業中にネウロイの襲撃はなかった。兵士たちはほっと胸を撫で下ろし、重々しい音を立てて開く扉を見つめた。
「うわあああああああああああ!」
その時である。扉の隙間から放たれた赤い光線によって兵士の一人が吹き飛ばされた。
「何!?」
魔物の顎と化した扉が大きく口を開ける。その奥には無数のネウロイがひしめいていた。そして格納庫内にある鉄の巨人に食らいつき、中世ガリアにおいて王を暗殺を目論んだ罪人の如く八つ裂きにした。
「コンバットフレームが!?」
「壊されちまったあああああああ!」
すぐさま臨戦態勢に入ろうとする兵士たち。しかしもうすぐ新兵器が手に入ると言う油断があった。一瞬の差でネウロイが殺人光線を発射する方が早いだろう。危うし。
「!」
しかし光線が放たれることはなかった。新人だ。彼は最初の一人が吹き飛ばされた瞬間に大きく跳躍し、ネウロイたちよりも早く引き金を引いた。ばら撒かれる銃弾は芝刈り機の如く前衛のネウロイを薙ぎ倒した。
「今だ!」
そして兵士たちが射撃を開始するタイミングを与えた。銃弾は無慈悲にネウロイを虐殺した。殉職者一名、不意を打たれたにしては被害は少なかった。
「射撃停止! ……結果は見ての通りだ。コンバットフレームは無しで地上を目指すぞ」
格納庫内にあった兵器は残らず破壊されていた。これでは何一つ戦力にできない。
「クソ! ネウロイめ!」
「あそこを見てください。奴ら、格納庫の装甲を食い破って入って来たようです」
格納庫の上側には巨大な穴が開いていた。
「山田……山田ァ……!」
殉職した仲間の、ほんの僅かばかり残った亡骸を抱えて咽び泣く兵士。一行は再び絶望感に包まれた。しかし、それでも進まねばならない。さもなくば全員がこの地下基地を墓にするハメになるからだ。
「新人。今の動きは見事だった。お前がいなければ被害はもっと大きかっただろう」
「あれは助かった。礼を言わせてくれ」
「絶対に兵士になった方がいい。お前ならもっと活躍できるだろう」
「熱烈歓迎だぜ」
軍曹が新人の背中を叩く。今の状況には少しでも希望が必要だ。例えそれが武器を持ったばかりの素人だろうと、蜘蛛の糸のようにか細い光であっても。