「うん。でさ、あなたは誰なの?」
アビドス高等学校、廃校対策委員会、教室。
【先生】と呼ばれる人物の
久しぶりに活気づく委員会。
大きなイベントがあったその夕方に小鳥遊ホシノは、
その【先生】の
「どうしたのかな? ホシノちゃん?」
「アタシはただの__」
「ヒト、じゃないよねぇ?」
何か言おうとした先生の言葉を遮るホシノ。
その手の銃をさらに先生の頭に押し付けながら続ける。
「みんなをダマせて安心してたのかもしれないけどさぁ。おじさん、そういうの見逃せないんだよね~」
そこでホシノは、夕焼けに染まる教室の
そこには、おそらく彼女には見えているであろう【目】があった。
【先生】と同じ紫色の瞳。先生の【目】だけが、教室の物陰からじっとホシノを見ていた。
「みんなと話してる間、物陰からジロジロ見ちゃってさぁ。何を探ってたの? 何をみてたの?」
「…………」
その問いに【先生】は沈黙する。
ただ、その姿は先生というにはあまりにも小さい。
年上に見積もっても中学2年生くらい。
ホシノと背丈がほぼ変わらない黒髪ショートボブの女の子。
「なんの……ことかな?」
そんな【先生】は、見た目通りの幼い声で沈黙を破った。
ホシノの顔がこわばる。
「あはは。……やっぱり、大人は私達を
「こんな【偽物】を送り込んで来るなんて」
怒り、そしてほんの少しの恐怖。手元のショットガンが震えないように、肩を全く震わせずに顔だけで笑うホシノは、すぐにその笑みを消して、同じ身長の何者かに告げる。
「目的は何? 今なら何も言わずに出て行ってもらうだけで済ますからさ」
「言って。センセイ?」
言葉とは裏腹に、ホシノは目の前の【モノ】を打ち倒す覚悟を決めていた。
このキヴォトスで、【
ごめんなさいと言って諦めてくれる奴は、そもそもこんなことをしない。
ホシノがもう一度、体制を整えようとした時、目の前の【先生】が口を開いた。
「……この展開は予想外。正直、後悔してる」
「そ? じゃ言ってよ。私達の学校に何しに」
「あぁ。いや、そういう意味じゃないよ、ホシノちゃん。そうじゃないんだよ」
さっきまでのちょっと舌足らずな口調は消え失せ、目の前の【大人】が語り出す。
「私は別に先生に化けてここに来たわけでも、ましてや何かの作戦で潜入したわけでもない」
「私が後悔してるのは、ホシノちゃん。君の目に気が付かなかったこと」
ニヤリと微笑んだのが、背後からでも分かった。ホシノは反射的に数歩、後ずさって距離をとる。
「なにを」「まさかここまで見えるとは思わなかった、全く持って平和ボケしてたよ。キミ達を完全に騙せる気でいたんだ。ただの先生でいられると確信してたんだ。それが今になってやっと、ただの思い上がりだと気付いたよ」
淡々と語りながら、【ソレ】はホシノの方へと振り返る。
「ホシノちゃん。いい目してるね」
なんだ、これは。何だこの人は。
「あ。ごめんね。煙に巻く言い方はやめようか。そんな言い方はホシノちゃんもイヤだよね。正直に、
困惑で固まったホシノのアタマに、ロリ先生の語りだけが垂れ流される。
「私はこの前シャーレに
先生の語りが終わって、
「ぁはは。神?」
ホシノが口を開いたのは20秒もしてからだった。
「へ。へぇーそうなんだ。そんなお偉い方が、このアビドスに何の用?」
「お昼に話した通りだよ、アビドスが大変なことになってるって聞いて」
「顔に銃口を向けられて、よくそんなポロポロ嘘が口から出るねぇ……」
もう一度、銃口を、今度はロリ先生の顔面に向けて構えるホシノ。
頭の中の困惑をぶちまけたくて、引き金に置いた指が震える。
それでも先生は悲しそうな顔をする。
「大人は……嫌いなの?」
「……あなたが大人かどうか知らないけど、そうだね。嘘つきは嫌い」
「そうやって、大人からこの学校を守って来たの? 何のために? どうして?」
「あなたには関係ない」「ユメさんのため?」
「……!!?」
その瞬間、引き金を引かなかったことを後悔するホシノ。
数年は感じたことがない【動揺】がホシノのカラダを走った。
「それとも彼女の意志を次いで」
「どこで……」
いや、それは動揺と言うよりも、
「どこで知ったの!?」
怒りだった。自分の中身をえぐり出されたかのような、血がたぎる本能的な怒り。
反射的な
「一体どこで! ダレが!?」
「ここで。キミが。教えてくれたんだよ、ホシノちゃん」
まるでそんなホシノを
「ユメって人の姿がはっきり見える」
ややこしい言葉。
「ホシノちゃんの心に居る。今、その意思が燃えてる」
それでもホシノには、ホシノだけには何を言っているか分かった。
こいつは、この人は……。
「言ったでしょ、夢魔だって」
幼い見た目で、大人の笑みを浮かべる先生。
「相手の好みも性癖も、過去もトラウマも、その目を覗き込めば“分かる”」
その姿は、その本性が【大人】であることを、
「ワタシは“そういう”バケモノ”なんだよ」
【バケモノ】であることを、はっきりホシノに知らしめた。
「……ッ!!」
恐怖で背筋が凍るより前に、ホシノは持っていた銃の引き金を引く。
校舎に
ジョットガンでこの近距離。ありえないことではあるけども
とりあえずワタシの銃弾は外れた……外されたみたいだ。とホシノは顔を歪ませた。
「危ないなぁ、耳が撃ち抜かれるところだったよ」
へらへらと、しかしよろよろとバケモノが立ち上がる。
まるでころんだ子どもが起き上がるみたいに……。
「…………」
言っていることは怪しい大人なのに見た目以上に【幼い】その姿に一瞬、正直な感想が浮かぶホシノ。
「え? 避け方がシロウト? 動きが年相応?」
ホシノが言葉にする前に、目の前のバケモノがそれを口にする。
「あーそうだね。だって私、戦闘経験なんてほぼゼロだもん」
たはは。とバケモノ。ロリ先生が笑う。
「キヴォトスではありえない、戦闘力ほぼゼロ。だからこうして、
こちらの心を読んで、ひとり漫才のようなことを繰り広げる大人を、
「……」
理解できない。と複雑な表情でにらむホシノ。しかし先生はまだ笑う。
「いいよ。信じてくれなくて。ホシノちゃんがイヤならアビドスへの援助方法を変えるよ。……ただ。ま、とりあえず今日のところはモモトークのIDだけ交換しない?」
そう言って、「えーっとどこから見れば……」と完全に後ろを向いて端末を操作し始めるロリ先生。
「へーいA.R.O.N.A。モモトークのIDってどこから」
「……ココです。センセ」
「…………」
自分を完全に無視しはじめた大人を見て、ホシノは黙って銃を下げる。
撃ってどうにかなる存在ではなさそうだ。そう直感が告げた。
「はい! 私の番号。言いたいことあったら、ここにメッセージ送ってよ。銃向けられたままだと、私も緊張して、お話しできないからさ」
「じゃ。またね。ホシノちゃん」
パタン。と教室の扉が閉まる。同時に、ぺたんとホシノはヒザから崩れ落ちた。
【 ホシノ さんが、メッセージを許可しました】
先生「なーに? ホシノちゃん」
ホシノ「あなたは」
ホシノ「あなたは何なの?」
先生「夢魔だよ?」
ホシノ「…………」
先生「でも先生」
先生「信じてくれなくてもいいけど、私はそのつもりでこの都市に来たの」
先生「あ。流石に離れてたら何も分からないよ? 警戒してたらごめんね」
ホシノ「…………」
先生「って。言っても信じてくれないか……」
ホシノ「……無理だよ」
先生「ホシノちゃん」
先生「こんな話で満足するか分からないけど」
「私も、あなたのことを恐れてる」
先生「私の正体に気付く目と、それを打ち倒す戦力」
「次に会ったら命はないんじゃないかって思うくらいだよ」
ホシノ「…………」
先生「だからってわけじゃないけど」
「あなたが嫌なら、アビドスにはもう直接関わらない」
ホシノ「それは。ダメかな」
先生「え?」
ホシノ「来てよ」
「あなたがどんな存在でも、ほっとけないから」
ホシノ「危ない存在でも、ホントに善意の存在でも」
「私の目の届く場所で監視しないとだから」
先生 「そう。……ありがとう」
「じゃまた明日。アビドスで」
次回:[