甲殻大怪獣ザリラ   作:佐藤特佐

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第13話 本当の幸せって、なに?

 

 

 ゼウスは煙を上げて倒れるザリラを一瞥し、岩崎のいる国防軍本部跡地に背を向けた。暗くなり、星が輝き始めた空を見上げ、小さく吠える。

 感情を持たないゼウス自身も、喜びに近いものを感じていた。遂に、長い間待ち望んでいた念願の瞬間が訪れた。

 

 肉眼では見えないが、ゼウスはその全身から『不可視の触手』を展開。不可視の触手は宙にうねり、四方八方へ広がってゆく。もし宇宙から特殊なカメラでこれを見たら、地球全体に蜘蛛の巣が覆い被さっていくかのような光景が見られただろう。

 

 不可視の触手の一本一本の先には、1人ずつ人間が繋がっている。接続した人間の魂に侵入し、その人の意識全てをコントロールすることができる。

 

 不可視の触手に侵入された人は即座に思考回路が変化する。どんな人柄だったかなんて関係ない。他の何物でもなく、自分が今すべきことを淡々とし始める。

 その様子に疑問を投げかける者は居ない。周囲の人間もほぼ同時に触手に接続されたのだから。

 ただ淡々と、合理的に、無駄なく、完璧に。ゼウスの…そして人間たちが無意識に信じていた「幸せ」な世界が始まった。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 私、桂木 悠は自宅のベッドで目を覚ました。

 ベッドから降りて、脱ぎ捨てられた服を拾い上げる。服を着替え、フラァっとリビングに歩いた。

 

 今日は何曜日だっけ…?でもたしか平日だ、仕事に行かなきゃ…。

 

 私は重い瞼を必死に開けつつ惣菜パンを食べた。いつも通り、適当な服の上に黒いコートを羽織り、外に出る。まだ少し寒い。

 

 碧海市…私が住んでいる街。

 毎朝出勤で乗る電車、行きつけのスーパー、路地裏の近道。どこもいつも見る光景だけど……おかしいところがある。いや、本当は目を覚ました時から気づいてて、寝ぼけてるからだと思ってたけど、違うようだ。

 

 世界に色がない。

 

 街は白黒だった。人も、ビルも、一軒家も。犬も、街路樹も、太陽も。遥か昔…昭和と呼ばれていた頃のテレビや映画は白黒だったらしいが、その中に入れられたような感覚だった。

 自分の手を見てみると、私も白黒だということに気づいた。

 私の目がおかしくなったのだろうか。

 

「なんで白黒なの…?」

 

 何気なく呟き、空を見上げる私。その目に飛び込んできたのは。

 

「ーーーー⁉︎⁉︎」

 街を見下ろすように佇む巨大な異形。岩のような巨体、鋭い鉤爪、鋭利な背中の棘。体高70メートルはあるそれがスラっと佇んでいた。

 

 これはアレだ、怪獣ってやつ。

 

 あまりの光景に尻もちをつき、そのまま後退りする。

 

 なぜか怪獣は身動き一つとらない。でもそもそも、なぜこんなところに怪獣が立っているのか意味が分からない。

 そして何より、なぜ皆んな気づかないの⁉︎

 

 

 道を行く人々は特に気にする訳でもなく、まるで怪獣が見えないかのように平然とまっすぐ前だけを見て歩いていく。

 

 そう、”まっすぐ前だけを見て”…。

 

 

 私は気づいてしまった。街の人々は少しも「無駄な動き」をしていない。立ち話なんてしてる人は居ないし、皆んな道の右側を一列で歩いている。子猫が鳴いても立ち止まる人は居らず、散っていく桜を眺めようとする人も居ない。

 

 雲の切れ目から光が差し込むと、何か……蜘蛛の糸のようなもの……が反射した。

 空中に目を凝らした私は戦慄する。

 

 街の上空に糸のようなものが無数に張り巡らせれていた。そして人の背中にその糸がくっついている。

 小学生の女の子の背中にも。自転車に乗る高校生の背中にも。スーツを着た女性の背中にも、お爺さんの背中にも。糸は誰にでも付いているようだ。

 

 無限に伸縮するらしいその糸の元を目で追っていくと。いずれも佇む漆黒の大怪獣の方に繋がっていた…。

 

「何……これ…。」

 

呆然と立ち尽くす私。無駄のない動きの人々の中で、私の行動は相当異質に映ったことだろう。

 

 

 

『あんた、「接続」されてないのかい?』

 

 突然、男に話しかけられた。彼はごく普通の会社員のようだが…その目に生気は感じられないほど不気味だった。

 思わず私は後退りするが……後ろにいた八百屋のおばさんにぶつかってしまう。

 

『あらホントに糸がない…「接続」されてないわねぇ。』

 

 そう言って私の背中を凝視するおばさんの表情にも生気は無い。

 ……この人たち、絶対におかしい。私は逃げ出そうとしたが、前に2人の女子高生が立ち塞がる。彼女らの後ろには魚屋のおじさんや小学生まで…。

 私を取り囲む人々の表情はどこかぎこちなく、操り人形のような不気味さを孕んでいた。

 

「なっ……なんなのさっきから⁉︎」

 

 私は混乱しながら喚く。すると……。

 

『あなたも望んだんでしょ。「接続」されることを。』

 

 女子高生の口から発せられた言葉に恐怖を感じた。「望んだ」って……⁉︎「接続」って……⁉︎

 

『これはあなたの望み。』

『人類究極の望み。』

『幸福な世界のため。』

 

 私を囲んで口々にそう言う人々。そして上空からゆっくりと、一本の糸が降りて来た。

 

ーーーこの糸に繋がってしまったらお終いだーーー

 

 私はそう直感し、必死に逃げようとした。しかし、周囲を取り囲まれている中で逃げられるわけもない。抵抗虚しく、糸は私の背中に触れ、そして……!

 

 

 

 糸が落下してきた。風に吹かれてたなびく糸は、音もなく地面に接地する。私に接続しようとしていた糸が切れたのだ。

 

 

ズゥゥン‼︎‼︎

 

 

 凄まじい振動。まるで地震のような揺れに、私を取り囲んでいた人たちが騒めき始める。

 

 そして、巨体な影が光を遮った。

 身体を覆う甲殻、両手の巨大なハサミ。ザリガニを連想させるフォルムの怪獣が現れたのだ。あの怪獣のハサミが糸をちょん切ったらしい。

 

 ザリガニのような怪獣は、立ち尽くす怪獣の反対側から出現。あらゆるものを踏み潰し、破壊しながらこちらに迫ってくる。

 

 街の人々は蜘蛛の子を散らすように逃げ去っていく。

 私も恐怖に慄き、後退りした。だって、あんな怪獣なんて見るの初めてだもん。

 

 ……初めて…だよね?

 

 

 

 私はどこかであの怪獣に出会ったことがあるような気がした。それだけじゃなく、もっと深く関わり合っていたかのような、大切な何かだったような…。

 でも、思い出せない。

 思い出すよりも恐怖が勝ってしまう。思わずうずくまる私。

 

 

 あれ?そもそも………私って、誰?どんな人生を歩んできたんだっけ。過去の記憶が思い出せない……過去が無い⁉︎

 

 

 怪獣は私を踏み潰す一歩手前で歩みを止めた。怪獣からの視線を感じる。

 

 私……どうなるの?

 依然うずくまったまま考えてみるけど、うまく脳が働かないみたいだ。

 

 

ザクッ ザクッ

 

 

 複数の足音が近づいてきた。彼らは物怖じせず怪獣の前を通り、うずくまる私の前に集まる。リーダーらしき青年が私に歩み寄って来た。

 シワになった白衣を着ている彼らを、いつか、どこかで見たことがあるように感じる。

 

『なぁ、この腕輪…覚えてる?』

 

 青年に話しかけられ、少し顔を上げてみる。彼は優しい笑顔で、真珠のような玉が数珠繋ぎになった腕輪を差し出してきた。

 

『着けてみてよ。』

 

 言われるがまま、腕輪を右手に通してみる。なんか……よくわからないけど、懐かしいような気がする。

 

 彼は少しかがみ込んで、私の顔を覗き込む。

『似合ってる。やっぱり君じゃなきゃ……桂木 悠さん。』

 

「ーーーー‼︎」

 

 思い出した。私自身のことを。私は……そう、私だ!

 記憶が蘇っていく。子供の頃の思い出、辛かった日常、そしてそれが崩壊したあの日のこと。アイツに助けられ、一緒に世界に抗い……そしてゼウスの支配に屈してしまったんだった。

 でも、まだ完全に負けちゃいないことも。

 

 白黒だった世界に色がついてゆく。黒ずんだビルの壁も、横断歩道の白線も、散っていく桃色の花も。世界が鮮やかになってゆく。

 

 

 そしてこの腕輪。これは私とアイツの繋がりの証。赤い甲殻とハサミを持ってて、ザリガニっぽくて、夢に勝手に出てきて、私を何度も助けてくれて……そして今回も助けに来てくれたアイツ。

 

「甲殻大怪獣…ザリラっ!」

 

 そう。いつの間にか、私にとって特別な存在になっていたザリラ。ザリラは私をただ怪獣から守ってくれただけでなく、この窮屈な世界から救い出してくれていた。

 

 顔を上げると、こちらを見下ろすザリラと目が合った。その目には優しさと、慈悲と、仲間への想いと……いろんな感情が渦巻いていたように思う。

 

 私はザリラに駆け寄ると、思いっきり足の指に飛びつき、ぎゅっと抱きしめる。もう二度と離れないように。

 

 青年を含めた周囲の人たちからの温かい視線を感じた。見なくてもわかる、きっと彼ら彼女らは微笑んでくれている。

 

 

 ザリラと抱擁を交わす私の肩に、青年が手を置いた。

『あなたはあなただよ。他の何者でもない、君は世界でたった一つの存在なんだ。だから…自分を捨てないで。』

 

 温かい言葉をかけられ、目に涙が滲む。

 

『自分の存在意義なんて気にすることない。あなたの……あなた自身の選んだ人生を歩んでね。』

 

 気がつくと私はザリラに抱きつきながら泣いていた。私は、たしかに自分を嫌いになってた。自分を疎かにしてしまっていたんだ。

 だから、ゼウスなんかの思想に飲み込まれてしまったんだろう。そして……またザリラに助けられちゃったんだ。

 

 ザリラだけじゃない。冒険の中で出会った仲間たちに、そして目の前の青年……たしか、夢の中で見た、古代文明でザリラを創造した人だった……にも。

 記憶が戻ってくる。そう、皆のおかげで、本当の自分に気づくことができた記憶が。

 

 私は、ただのダメ人間なんかじゃなかった。

 

 激動の世界の中で、自分が自分でなくなることに抗い続けていた。

 

 固定概念的な「幸せ」の形、同調圧力、「生きる為」「生活の為」という大義名分…。この世界で自分を保つことは難しい。

 そんな中で私は自分が自分であることにこだわり続け、ずっと戦えていたじゃないか。そして遂に負けそうになった自分を救ってくれたのはザリラだった。逃れられない「運命」であるかのような怪獣を撃退し、私の幸せを否定しようとする世界を踏み潰してくれた。

 

 私にとっての「幸せ」って何だろう。

 

 それは人生を通して考えてかなきゃならない問いなのかもしれない。

 でも。それを考えることすらできないのは違う。人間性を否定し、効率や利便性だけを重視する世界。今の世界もそうだけど…ゼウスが完全体になった暁には、それが究極を極めるだろう。

 そんな世界が「幸せ」なはずがない。

 

 私にとっての幸せ……それは、「自分の人生を生きれる」ということかもしれない。人生をかけた幸せを探すために。

 

 私の本当の「願い」。ザリラと私を繋いだ「願い」。それに気づくことができた。

 

 止まらない涙を拭いながら、私は彼に感謝を伝えようとするが……。

 

 

『誰もが自分の人生を生きれる……それは僕の願いでもある。あとは頼んだよ、桂木 悠さん。』

 

 そう言い残し、青年が消えていく。風に飛ばされる砂の如く、彼は空気に消えていった。同時に、青年と共に現れた人たちも消えていく。

 

 

 私は泣くのをやめた。残った涙を拭うと、深く息を吐き、ザリラを見上げる。そしてその後ろで立ったまま動かない、糸の根源の怪獣……ゼウスに視線を移した。

 

 何をしたいのかはもう決めている。

 

 

 私は人々の人生を守りたい。与えられた幸せを謳歌するのではなく、自分の幸せを見つけられるように。

 

 いや……人々のためとか世界のためとかじゃない。自分の信じるもののために。そして自分を信じてくれた人のために。

 

 私は最後までゼウスに抗ってみせる。

 

 

「行こう、ザリラ。」

 

 

ギィィィィイイ………

 

 

 ザリラは小さく吠えて、頭を少し下げた。

 

 

 

 

 

 

 

ギィィィイィィィン‼︎‼︎

 

 

 私は必死にザリラの肩に掴まる。ものすごい向かい風がコートをたなびかせ、髪を乱す。

 それもそのはず、私は今、ザリラの肩に掴まって空を飛んでいるのだから。

 

 ザリラに飛行能力無いだろって?それが有ったんだなぁ。精神世界……つまり夢の中の話だけど。

 

 

 ザリラは腰の辺りの甲殻の隙間から何かエネルギーを放射して飛んでいる。同時に両腕からもそれを放射し、姿勢制御に使っているようだった。

 まぁ夢だから原理なんて考えるだけ無駄だろうが、ともかくそうやって飛べている。

 

 

 眼下に広がるのは、果てしなく広がる白黒の街並み。そして糸に繋がれた人々。

 行先に糸が密集する空域が見えた。

 

「ザリラ、やっちゃって‼︎」

 

 言葉が通じてるのかは怪しいが、ザリラはそちらへ向かってくれる。腕の角度を変えると同時に、エネルギー放射の出力を器用に調整し方向転換。

 鋭いハサミが開いた。

 

 

スパッ‼︎

 

 

 一振りで糸の束は斬り捨てられ、繋がりを失った糸は風に流されてゆく。風に煽られて一旦上昇した糸が、力尽きたかのように落ちていった。

 

 そして糸を切った場所から、周囲の色が戻っていく。青い新緑も、散りゆく桜の桃色も。

 

 人々は無意識のうちに、空を見上げた。燻んだ桃色の花びら、青い空、そして……空を飛ぶ、人を乗せた甲殻怪獣。

 

 

 彼らは今実際にここにはいない。ここはゼウスの中の精神世界……魂が集められた仮想空間のようなもの……だから。彼らの肉体は現実世界にあるが、ゼウスに「接続」された人の魂はこの空間に集められている。

 つまり魂だけが感じられる世界なのだ。この世界の人の形をしている「彼ら」は、その魂の持ち主の姿の幻影でしか無い。

 

 しかし逆に言えば、ここは人の魂が剥き出しになっている場所。ゼウスによる魂の支配の最前線なのだ。

 

 

 ザリラによって糸……人々の魂を支配しようとしていたゼウスの「不可視の触手」……が切断され、彼らは我に返った。詳しいことはわからないが、何か肩の荷が下りたような、気が楽になったような、そんな気持ちになった。

 

 ザリラの飛行エネルギーの光は空中で散りじりになり、光の破片となって地上へ降り注いだ。まるで初雪の如く美しい光の破片を浴びる人々。

 すると彼らの脳裏に、遠い日の思い出が浮かび上がってきた。ふと思い出したそれは、ある人は海辺ではしゃぎ回った思い出、またある人は初恋の人と行ったレストラン、別の人は大好きだった実家の屋根裏部屋……。

 みんな思い出したことは違う。でも、「小さな幸せの記憶」であるという点では同じだった。

 

 ザリラは「幸せの断片」をばら撒きながら飛んでいた。断片は剥き出しの魂に触れ、それぞれの記憶を呼び覚ました。

 ザリラの飛行で発生した衝撃波は、夢の音として地上に到達した。叶えたかった夢、叶わなかった夢、そして忘れていた夢。

 

 人々は魂でそれらを感じ取った。自分の人生を思い出し、思いを馳せた。

 

 

 世界に色が戻ってゆく。同時に人々に心が、魂の自由が戻ってゆく。

 

 たった1匹の甲殻類によって。ほんの少しの幸せの記憶によって。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 ゼウスは異変を感じた。

 

 接続した人間たちの魂が制御不能になっている。なぜだ。

 

 危険を感じ、ゼウスは「不可視の触手」を通して、思考停止のコマンドを一斉送信した。魂が一時停止され、人間たちは電池切れになった機械のように動きを止める……はずだった。

 

 

グァァ…?

 

 

 ほとんどの人間がコマンドを受け付けない。いや、「拒否」されている。

 

 そんなはずがない。人間たちは幸せを求め、それを成し遂げるための最適解が「完璧」だったはずだ。なぜそれを拒絶する?

 

 そもそもこの「不可視の触手」を自力で解くなんて不可能なはず。ゼウスは初めて「不可思議」の感情を感じた。

 

 

 

バギッ……バギバギバギ……‼︎‼︎

 

 

 後方で瓦礫を踏み締める音。ゼウスはゆっくりと振り向いた。そしてその単眼が捉えたのは、自身の活動をここまで妨害してきた敵の姿だった。

 

 

 赤黒い甲殻を唸らせ、両手の凶器を掲げ、目に不滅の炎を宿した大怪獣が立ち上がった。

 

 

ギィィィイィィィィィ‼︎‼︎‼︎

 

 

 耳をつんざく咆哮。甲殻大怪獣ザリラは天を仰ぎ、自らの復活を知らしめた。

 

 

 ゼウスは自身の不調のわけを理解した。

 ハメられた。

 ザリラは現実世界で倒されたものの、精神世界で『リンク』を辿り桂木 悠に接触、彼女とゼウスの接続を解除したのだ。彼女自身に本当の気持ちを理解させる事によって。

 そしてザリラは、解放した桂木と共に、ゼウスのネットワークシステム(不可視の触手)内で好き勝手暴れ回って人々の魂への接続を破壊した。同時に彼らに自身の夢や願いを思い出させる事でゼウスによる一律支配を妨害し……。

 

 

 

グォォォォォオオオオオォオォォォォ‼︎‼︎‼︎‼︎

 

 

 ゼウスは咆哮した。半径10キロメートルに響き渡った轟音は、この世のものとは思えないほどの恐ろしい声だった。

 

 ゼウスは思った。妨害などもはやどうでも良い。とにかく今は目の前のアイツを殲滅し、もう二度と妨害されないようにすれば良いのだ。そのあとでゆっくりと人間の魂に再侵入すればいい。

 

 されば一撃で終わらせてやる。

 

 

 ゼウスの発光器官が光を発した。青き光は徐々に色味を増し、やがて禍々しい紫色へと染まる。エネルギー充填が十分な値になる頃には、牙が迫り出し、発射口が準備できている。

 

 

ボシュッッッッッッッッッ‼︎‼︎‼︎

 

 

 過去最大出力で発射された破壊光線「雷霆」は、大気を絶望の一色に染めながら直進した。空気は燃え上がり、ビルは蒸発し、大地は沸騰する。あたり一帯を一瞬で地獄に変える必殺の一撃だった。

 その威力は20メガトン近くに達し、着弾地点付近はあらゆるものが破砕された。

 

 ゼウス自身も猛烈な爆風を浴びる。ゼウスにとってこの程度の衝撃波はなんて事ない。立ち昇る粉塵と煙を眺めながらザリラの消滅を確信した。

 

 しかし。

 

 全てが破壊され、浅型の巨大クレーターができたその真ん中に、立っている影が2つある。一つはゼウス、もう一つは……。

 ゼウスは驚愕した。敵が顔を上げる。黒焦げになっていない。

 

 ザリラは閃熱光弾で雷霆を迎撃し、威力を相殺していた。破壊光線の本流さえあらかた防げてしまえば、衝撃波程度なら甲殻で防御可能だ。

 

 

 クレーターの中に立つ両雄はさながら、死闘のリングに立たされたプロレスラーのようであった。

 

 

 2体は同時に駆け出す。1500メートルはあった距離を一瞬で詰め、両者激しく殴り合う。連射性と威力を兼ね備えたザリラパンチと、圧倒的な一撃を繰り出すゼウスの鉄拳が激突。空気が振動し地面にも揺れが伝わってくる。

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 爆発の衝撃波で、国防軍本部は崩壊した。その瓦礫の中から、一機のロボットが這い出してきた。

 ハッチが開くと、パイロットの男が降りてきた。ふらふらした足取りだった。

 

 男……岩崎は、2キロほど先で激しく格闘する2大怪獣を眺める。彼は記憶……先ほど見た「夢」を回顧していた。

 

「桂木さんよぉ……夢やら希望やらに賭けてみるのもアリかもしれんな。」

 

 

 俺はヒーローになりたかった。だから、ヒーローに一番近いであろう「パワードスーツのパイロット」を職業に選んだ。仕事への熱意は人一倍で、だからこそ隊長にまで上り詰められた。

 でも、どうだっただろうか。1人の軍人として、与えられた命令をこなしてきただけだった。軍人にとってはそれが最善であるが、ここまでの道のりは本当に「俺の夢」だったんだろうか。

 

 ヒーローなど現実には居ない。成れない。この社会構造では尚更だ。

 

 でも。もう一度ちょっとだけ「夢」を追ってみたくなった。子供の頃の感情を思い出したから。

 

「この世界を救う、ねぇ…。いっちょやってみようか。」

 

 無線機を手に取り、呼びかける。

 普段は絶対に相手にされないだろう。でも、今なら。皆がザリラのおかげで「夢」を思い出したであろう今なら。誰もが自分の心に魂に正直になってくれるはずだ。

 

「こちらパワードスーツ第一部隊隊長の岩崎だ。……俺と一緒に、世界、救ってみないか?」

 

 




次回は遂に最終回。エピローグも同時公開します。お楽しみに。
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