甲殻大怪獣ザリラ   作:佐藤特佐

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エピローグ 〜甲殻〜

 

 

『大怪獣、日ノ本島もろとも消滅!』

 

『甲殻怪獣最期の抵抗⁉︎宇宙船撃墜か、各国代表の生存絶望的。』

 

 

 空がやっと薄明るくなった時間だというのに、ネットは大混乱だった。

 

 日本の首都・日ノ本島は、国連による宇宙からの攻撃によって甲殻怪獣ザリラもろとも消滅した。そして同時に、ザリラは最期の抵抗で宇宙船を地上から狙撃。国連虎の子の施設は爆散し、お偉いさんたちは宇宙に投げ出されてしまったらしい。

 

 

 私の目の前で、日本の首都だったものが沈んでゆく。高い建物だけ海面から突き出す様は、まるで捨てられた廃墟都市のように、美しさもあった。

 島全体が傾き、あちこち煙を上げながら海に没していった。

 

 

 私は海辺の柵に両腕を上げ、その上に顎を乗せて海を眺めている。徐々に空が橙色に染まってきた。

 

 海風に吹かれ、髪とコートが靡いた。けれどあまり寒さは感じなかった。むしろ少し暖かい。コートのボタンを開放すると、風が入ってきて心地よかった。

 

 腕輪に目を遣ると、数珠繋ぎの一つ一つの球が霞んでいた。まるで役目を果たしたと言わんばかりに。

 

 

 私は悟った。ザリラは自分から去っていったんだ、と。

 私とザリラの関係が、やがてザリラを新たなゼウスに変えてしまわないように。私を縛り付ける最後の存在は、この腕輪で繋がっているザリラだったのだ。

 

 

 私はそっと腕輪を外した。腕輪のフックを外し、自由になった球を手のひらに乗せる。全部で20個の真珠のような球。私はそれを一つ摘んでポケットに突っ込むと、残りを思いっきりぶん投げた。

 

 

ポチャン

 

 

 球は水面に落下し、沈んでいった。

 

「ザリラ。あんたも自由になりなよ。」

 私はそう言って笑顔を作った。笑顔なのに、少し涙が滲んだのはどうしてだろう。

 

 

 

 太陽が水平線から出現した。日の出だ。最後まで残っていた星が消え、空はどんどん青く染まってゆく。

 

 太陽の光が私の涙を拭き取った。

 

 

 

 私たちは皆、甲殻を持っている。ザリラみたいに、敵の攻撃を悉く防いだりはできないけど……でも、「自分が自分であること」を守ることはできる。自分を守るって意味では、ザリラの甲殻と何ら変わりない。

 

 最近、自他の境界が曖昧になっている。自分を社会という全体の中の一部として捉えなければならないから。その中で問題なのは、自分と全体をイコールで結んでしまうことだ。

 

 自分と他の大多数では考え方が違うことは多々ある。それが当たり前。

 でも、社会の風潮に飲まれて、「自分が間違っている」「自分が変わらないと」となってしまうのは?そしてそれに風潮が「そうだよね」と言ってしまうのは?これらは如何なものか。

 

 それは違うよね。

 

 多様性というのは口だけで、個人の心が無視されていることになってしまう。

 とは言え、不完全な人間のすることだ、程度の差はあれ結局完全に個人の心を尊重することはできないのだ。

 

 でも、私たちには甲殻がある。

 深海の圧力の如く、全方位から襲い来る同調圧力に対抗するための。敵の攻撃のように浴びせられる、自分を否定しようとする声から身を守るための。

 

 風潮に同化されないように。自分が自分であることを失ってしまわないように。甲殻は硬すぎても脆くなってしまうし、柔らかすぎては意味がない。適度な硬さの甲殻を大切にしたいと私は思う。

 自分の人生を生きたいから。生きることを通して、本当の幸せを感じたいから。

 

 

 

 

 太陽が水面から完全に浮かび上がった。朝日を浴びながら、私は崩壊した日ノ本島に背を向けた。

 

 小さく踏み出す一歩。

 

 自分の足で、私は新しい日々への一歩を踏み出した。

 

 

 

 

 

 海中に光が差す。桂木 悠が海に放り投げた球たちは、海流に流されながらゆっくり沈んでいった。やがてそれが海底に到達する。

 着底。

 

 海底がぐらりと動いた。

 

 ……海底ではなかった。巨大な生物の背中だった。

 

 泥を振り払い、赤黒い甲殻に身を包んだ「それ」の姿が露わになった。「それ」は小さな球を凝視し、目を細めた。球に別れを告げるかのように視線を逸らすと、ゆっくりと動き出した。

 

 向かう先は東京湾の出口。狭い湾内を抜け、果てしない太平洋に出るために、大怪獣は泳いだ。

 

 

 

【完】

 





 オリジナル怪獣小説「甲殻大怪獣ザリラ」これにて完結です。本作を最後まで読んでいただいた方々、ありがとうございました。
 あなたの元にも、ザリラが小さな幸せや夢を届けてくれることを願っています。
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