平凡な主人公・桂木 悠は怪獣デヴォラに捕食されそうになるが、突如現れたもう一体の怪獣が彼女を守るように戦い始める。
その姿は、悠がしばしば見る夢に出てきた「甲殻大怪獣ザリラ」に酷似していた…。
今回はあとがき欄の特別企画に”初代”甲殻大怪獣が出没しています。
「デヴォラ、侵攻を停止!」
「どうした⁉︎」
「怪獣です。新たな怪獣がデヴォラの前に…!」
私は「奇跡」なんてものは信じない。そんなもの起きるはずがない、期待するだけ無駄だ。
実際、今まで期待して裏切られてきたことの方が遥かに多かった。ましてや「怪獣に喰われそうだ、助けて」なんてことを祈っても無駄だろう。
…普通なら。
だから、今のこの状況は「奇跡」としか言いようがないと思う。
夢に度々出て来てた怪獣が現実に現れた。そして、人間を捕食する別の怪獣と戦っている。
現実なのか怪しいけど、合計数万トンの巨体がぶつかり合う振動を感じるから、多分現実なんだろう。
ギャァアォォォォォォォ
激突する2大怪獣。
ヨタヨタしながらも、サンショウウオ型の怪獣……後に知ったが、国防軍により「デヴォラ」と呼称されていたらしい……が二本足で立ち上がる。そのままザリラの肩にかぶりつくデヴォラ。
ワニのような鋭い牙がザリラに突き立てられる。
「あ…。」
私はザリラを心配した。守ってくれた(?)とは言え、怪獣を心配するなんて変人だと思われるだろうけど。
カリッ……カリカリカリ……
しかし、私の心配は杞憂に終わった。ザリラの頑丈な甲殻はその牙を全く通さなかったのだ。甲殻の表層を傷つけるにも至らない。
キィィイィーー!!
反撃とばかりにザリラが右手で殴りかかる。至近距離からの打撃をかわせるはずもなく、デヴォラは殴り飛ばされた。弾かれたデヴォラはひっくり返り、オフィスビルに頭から突っ込む。ビルは倒壊し、砂煙が上がった。バチバチ…と電線がショートしている。
遅れて、折れたデヴォラの牙が落下してきて地面に突き刺さった。
戦局は完全にザリラ優勢。敵怪獣の攻撃はザリラの甲殻に阻まれて通用せず、ザリラの攻撃が一方的に敵を捉えていた。
理屈はわからないけど、ザリラは夢の中から突然現れ、私たちを守ってくれている。なんか自分だけ逃げるのも違うような気がするから、ここで戦闘の行方を見守っていることにしたんだ。
自分に意外と情があることに今気づいた。
それはさておき。
目の前……100メートルほどの距離か…で、ザリラがデヴォラを投げ飛ばした。デヴォラは乗り捨てられた車列の上に落下!乗用車は空き缶の如く潰れ、ガスボンベ運送車は破裂した。
飛来する破片から身を守るために路地裏に隠れる私。
さっきまでいたところに粉砕された車のドアが飛んできた。ふぅ、危ない危ない。
デヴォラはジタバタ踠いているが、そこそこのダメージを負ったようだ。
グルルルルルルル……
恨めしそうに唸るデヴォラ。対するザリラは構えの姿勢を見せる。
私は無意識のうちに、左手で右手首を…正確には右手首にはめた腕輪を…祈るように握りしめていた。
ふと、握る手に熱さを感じ、見てみると。
「……ふぇ?」
変な声が出てしまった。
この腕輪は、真珠のような半透明の球がいくつも数珠繋ぎになっているのだが、その全ての球が白い光を発していた。同時に熱も放出しているようだ。
……何…これ?
私はしばらく不可思議な光景に唖然としていた。
……光の反射?静電気?発光生物?色々考えてみるが、どれも当てはまらないだろう。まさに超常現象ってやつだ。
「いやその前に怪獣プロレスこそ超常現象か…。」
私は半分呆れたように呟いた。そして考えるのをやめた。理解するのは無理だと悟ったから。
もう何が起きても驚かない自信がある。
ズドォオォォン!!!
強い振動を感じ我に帰った。
今度はデヴォラがザリラを押し出したのだ。体格はデヴォラの方が大きい、体重で優っているのだろう。
ザリラはズズズズ…とコンクリートの上を滑り、高層ビルに激突して停止した。
ゴォォォォォオオオ!!!
咆哮するデヴォラ。
それに対してザリラは動かない。まさか、激突の衝撃でダメージを受けた…?
好機到来と見たのだろう、デヴォラがすかさず飛びかかる。まるでカエルのように。
全長100メートルの怪獣の動きとは思えないほど、鮮やかに跳んだデヴォラ。
口を大きく開け、ザリラの首筋へ一直線に……!
ザリラはその動きについていけず、デヴォラの攻撃に受け身をとれな…
否!
ザリラは直立したまま、右手を少し引いていた。
跳躍したデヴォラがザリラに牙を立てる、その時!
バシュッ!!!
デヴォラが吹き飛ばされた。吹き飛んだデヴォラは、そのまま数百メートル宙を舞い、駅舎…私が戦闘を見ていたすぐ近く…に激突。駅舎は跡形もなく粉砕された。
「うわっ!」
突然猛烈な突風が吹き荒れ、私の髪を乱した。飛んでくる瓦礫や石から身を守ろうと、咄嗟に顔を腕に埋める。
風はすぐおさまった。
何が起きたのか?
ザリラの方を見ると、ザリラは水平に突き出した右手をゆっくり引いているところだ。
その様子を見て、ふと私は思い出した。数年前に水族館で見た「シャコ」という甲殻類の存在を。
シャコは獲物である貝類を食べるために、捕脚で貝に強力な打撃を与える。いわゆる「シャコパンチ」ってやつだ。その速度は水中でも時速80キロに達するという。
ザリラがシャコのような能力を持っているとしたら。そう、突風を引き起こすほどの…目視できないほどの素早いパンチ。
ザリラ、強くね?
もうもうと立ち込める粉塵。そしてその先には、「ザリラパンチ」を喰らって倒れたデヴォラ。
ギィィィィィィィィ!!!!
ザリラが跳ねた。エビのような尻尾を地面に打ち付け、反動で飛び上がったのだ。
ザリラは倒れたままのデヴォラに突入し…!
グシャッ!!!!!
近くのビルのガラスに血飛沫が付着した。
見上げると、ザリラの右手がデヴォラの背中に深々と突き刺さっていた。体液が漏れ出している。
私はデヴォラの顔に目をやる。
死んだのか…?
沈黙の数秒間。私はかすかに期待していた。
しかし。
その目が魚のようにギョロリと動いた。
デヴォラは生きていたのだ。体を捻り、ザリラの足に噛み付く。なんという生命力か。
が、例の如くザリラの甲殻には歯が立たない。
ザリラは鬱陶しいものを見るようにデヴォラを一瞥する。そして大きく振りかぶると、敵の脳天に左手を振り下ろした。
ガッ!!!!
あまりの衝撃に怯み、口を開けるデヴォラ。ザリラの狙い通りだった。
大きく開かれたその口内に、ザリラは左手を突っ込んだ。直後、デヴォラが苦しげな声を上げる。ザリラは手のハサミでもって敵の体内を直接斬りつけたんだ。
グシュッ…ジャッ!!!
生々しい音がした。
そして。
ジッ…ジジジジ……………ボォォン!!!!!!
鈍い閃光と共にデヴォラが爆発四散!身体を構成していた肉片は燃えながら四方八方に吹き飛んだ。
デヴォラだった破片は周囲に飛び散り、家や街路樹に降りかかる。私の近くにも肉片が転がって来た。焦げていた。なんとも言えない気分でそれを凝視する。
ザリラに突き刺されたまま、黒い煙を上げているデヴォラだった物。それを投げ捨て、ザリラは天を仰ぐ。
ギィィィィィィィィ!!
勝利の咆哮…。
勝ったんだ。私のザリラが。
ひとまず良かった……んだよな。
私は腰が抜けたような感覚に襲われて、その場にヘナヘナと座り込んだ。次々に起こった衝撃の出来事に振り回されて、かなり緊張していたんだな。
当たり前か。
…ん?なんでハサミで刺されたデヴォラが爆発四散したのかって?知らんよ。
ズゥゥン
ザリラが去っていく。その後ろ姿は、どこかカッコよく見えた。
そいつは一度だけ振り返った。私の方を見ていた…のかもしれない。
私はザリラの後ろ姿が見えなくなるまで、その場で呆然と眺めていた。
岩崎隊長率いるパワードスーツ部隊が到着した時、現場はすでに瓦礫の山だった。
パワードスーツ…96式多用途機甲服、通称96式パワードスーツ。体高は約5メートル、パイロット一名が直接乗り込んで操縦する人型メカニック兵器である。
銀色の装甲。頭部には赤い一つ眼。ロボットアームには対戦車ヘリに搭載するような巨大なチェーンガンが握りしめられている。
怪獣デヴォラと戦うため、重武装をして10機連なって堂々と現れたのに、もうデヴォラの姿はなかった。代わりにデヴォラの死体と思われる物が散乱していた。
なんでも、司令部からの報告では、突然現れた赤黒い怪獣が、暴れ回っていたデヴォラを殲滅したらしい。
「奇跡なんだか、悪夢の始まりなんだか…。」
岩崎はボソッと呟いた。
確かにデヴォラの猛威は去った。しかし、怪獣同士の戦闘で付近は完膚なきまで破壊された。あちこちのビルが傾き、煙を上げ、崩壊しかけている。
それはつまり、デヴォラを上回る強い奴がいたことを示しているんだから。そいつが今もどこかに居るんだから。
こんな状況で「良かった」なんて言えるわけがない。
やっと出撃命令が下って戦えることになったのに、パワードスーツ部隊の面目も丸潰れだ。
その「赤黒い怪獣」を見つけて、俺が仕留めてやる。
彼はそう誓った。
救助隊の指揮をとっている伊藤という人物が、タブレット端末を片手に話しかけてくる。
「岩崎隊長、これを…。」
彼は驚いた。そこに映っていたのは、熱探知カメラの画像…すなわち、要救助者がどこにいるのかを映した資料だった。
彼を驚かせた点、それは「要救助者の少なさ」だった。
突然想定外の怪獣襲来。さらに赤黒い奴も現れ、市街地での怪獣プロレスが勃発。しかも通勤ラッシュ時に、だ。
そこらじゅうに瀕死の人間が転がっていてもおかしくはない…はずなのだが。
そうならなかった理由、それは、デヴォラと赤黒い奴のプロレスが繰り広げられた辺りは「無人地帯」だったことであった。
怪獣デヴォラは海から出現して暴れた。そのため当然、海側から内陸に向かって進んで行く。デヴォラは決して侵攻が速かったわけでもないため、(一部逃げ遅れた人を除き)大部分は避難できていたのだ。
そしてその後現れた赤黒い奴は、幸運なことに、デヴォラを海側へ追いやるように戦ったようだった。つまり、すでにデヴォラが通過しほとんどの人間が逃げ去った場所で、2大怪獣は戦ったのだ。
不幸中の幸いか。
ハァ、とため息をついた岩崎。
足音と、人の話し声が聞こえたのでその方を見てみると。
救助隊に連れられ、救助された市民たちが歩いて来た。話を聞くに、ビルの地下室にいて無事だったんだとか。皆自力で歩けている。
彼の目が、その中の1人をロックオンした。
黒いコートを着た、黒いショートヘアの女性。直感が…司令官の警護をやっていた頃に磨き上げた勘が、あの女に疑念を抱かせている。
彼はよく目を凝らす。別におかしいところは無い。強いて言えば右手に真珠のブレスレット?のようなものを付けているくらい。
どのみち今の彼に「直感で怪しい女」を止める権利はない。しかし、どうしても気になってしまう…。
部隊に撤退命令が出た。
岩崎は黒いコートの後ろ姿を睨み…機体に乗り込んだ。
黒いコートの人物こと桂木 悠は、岩崎に見られていた事など知る由もない。
なぜなら彼女は俯いて歩いていたから。
「うえぇ〜、まだ水曜日じゃん…このあと仕事行かなきゃダメかなぁ…。」
つづく。
〈特別企画〉初代『甲殻大怪獣』現る
ザリラより先に「甲殻大怪獣」を名乗る怪獣が存在していた…!
その名は「甲殻大怪獣デボラ」。彼岸花ノ丘さん制作のオリジナル怪獣小説です。(しかも光栄なことに、彼岸花さんも「ザリラ」を読んでくださっているとのこと!)
「甲殻大怪獣デボラ」は、富士山より突如出現したデボラの猛威を描く小説です。様々な人物の視点から怪獣を描く様はさながら「GODZILLA 怪獣黙示録/プロジェクト・メカゴジラ」のよう。デボラの暴れっぷりもゴジラ・アース並みです(ホントに)。
状況描写や表現が本当に秀逸で、脳内で勝手に映像が再生されるような感覚に陥ります。
甲殻類ってこんなに迫力あるように描けるんだ!と感動しました。衝撃のクライマックスも必見です。
怪獣が、SFが大好きな皆さんはハマると思います。ぜひ一読してみてはいかがでしょうか。
「甲殻大怪獣デボラ」はハーメルン他にて絶賛公開中!
作品URL→ https://syosetu.org/novel/178767/
※小説紹介は「甲殻大怪獣デボラ」作者の彼岸花ノ丘さんの許可をいただいて掲載しました。ご協力頂きありがとうございました。
これからも一ファンとして、小説投稿を心待ちにしています。
いつか「甲殻大怪獣の決闘 デボラvsザリラ」をやりましょう(笑)