甲殻大怪獣ザリラ   作:佐藤特佐

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第3話 天空より迫る影

 

 

 空中で旋回する「それ」の眼下に、宝石が輝いていた。

 くびれたような海岸線、星型の城跡、タワー、そして光を発する無数の建物たち…。

 人間が見れば美しいと思うだろうが、「それ」はそのような感情を持ち合わせていない。

 

 では、なぜ「それ」がここに現れたのか。単純な理由…たまたま通りかかっただけだった。

 

 「それ」は翅を休めるために、近くにあった小高い山の頂上に降り立つ。感情がなくても「それ」は満天の星空を見上げる。その複眼に、星の光が反射した。

 どのくらいそうしていたであろうか。

 ふと首をもたげる。デルタ翼を備えた鉄の鳥が複数、向こうから接近してきた。

 

 

 

 

 

 

「やったぁぁぁーーー!!」

 私は小声で……小声だったか?……で喜んだ。小さくガッツポーズしつつニヤニヤが止まらない。

 

 なぜかって?

 

 目の前で職場が潰れていたから。物理的にね。

 

 

 

 私はザリラとデヴォラの戦いを見届けたあと、仕方なく仕事に向かった。

 

 非常事態があっても日本の会社は滅多に休みにならない。たとえ怪獣が襲来したとしても。日本人は真面目だなぁとつくづく思う。

 私みたいに不真面目な人間もいるのにね。

 

 でも、職場に着いた時、私は二度見した。

 

 縁起が悪いことに、「フューチャーダイナミクス株式会社」の看板が傾いていた。それどころか、会社が入るビルに穴が空き、煙がモクモクと上がっているではないか。

 

 

 近くの社員を適当に捕まえ、話を聞くと、「赤い怪獣が海に帰る時に、ついでにぶっ壊して行った」とのこと。

 

 よくやったぞザリラ!

 

 いつもは威張り散らかしてくる部長や先輩もあたふたするばかり。部長の頭が日光を反射して眩しい。

 

 やがてビルには倒壊の恐れから、国防軍により規制線が張られ、立ち入り禁止となった。

 お、これはまさか……!

 

 

 お休みだぁ!!!

 

 最高の展開じゃないか。

 というわけで私は喜んでいたのだ。

 

 過労、嫌がらせの横行する社内、そして休みも少ない。普段の分、今日休ませていただくぜ。

 

 私は足早に家へ歩みを進めた。

 

 

 

 

 

「っくぅぅぅーーーー!」

 シュワっとした感覚が口の中を満たす。平日の真っ昼間から飲めるなんて最高だ。わざわざ1時間近く徒歩で帰ってきた苦労が報われた気がする。

 私はもう一杯、グラスにサイダーを注いだ。

 ……誰だ?ビール飲んでると思ったのは。私はお酒は飲まないんです。

 

 テレビではさっきからずっと『未確認巨大生物出現』『怪獣は2体存在?』といった臨時ニュースを繰り返していた。

 私は「あぁ〜、あいつデヴォラって名前だったんだ」くらいで眺めていた。

 

 どっと疲れが出てきたのだろう。眠くなってきて…私の意識は途絶えた。

 

 

 

 

 真っ黒で何もない空間。

 

 私の目の前に、赤黒い怪獣がいる。ザリラだ。

 私にとっては見慣れた光景。でも、今回の夢はちょっと違った。

 

 ザリラが近づいてきた。私はそのまま動かない。

 

 と、ザリラが右手を差し出してくる。その手(ハサミか)に握られていたのは、あの腕輪だった。半透明の球たちが光を発している。

「……これを着けろって?」

 ザリラの手から腕輪が浮かび上がり、そしてそれは私の方に接近し…私の右手に装着された。

 

 腕輪の冷たい感覚がしたが、すぐ体温で温まる。ザリラは満足したように頷くと、踵を返し、暗闇に姿を消した。

 

 

 

 

 

 目を覚ますと、もう昼下がりだった。数時間寝落ちしていたらしい。

「あれ…腕輪……。」

 外していたはずの腕輪が、手元にある。

 私はあまり気にしなかった。

 

 

 

 

 衝撃的なことに、その直後、会社から電話があった。「自宅勤務しろ」だとさ…。そこまでしなきゃならないのかい。そういうわけで、夢で見たザリラのことも、腕輪のこともすっかり忘れてしまった。

 

 家にいながら仕事をする毎日。結局何にも変わらないじゃん…。かえって憂鬱な気持ちになってきてしまった。

 

 

 

 でも、数日後の夜。

 

 

 春にしては暖かい夜だった。私はなかなか深い眠りにつけず、寝たり起きたりを繰り返していた。

 眠れなかったのは、気温のせいだけじゃなくて普段のストレスのせいでもあるんだろうけど。

 

 それはさておき。

 

 ふと目を開けると、体が動かせなかった。あれだ、金縛りってやつ。そして、動けない私の枕元にはザリラがいた。

 

 私は冷静に考える。以前にテレビで見た。金縛りってのは夢の一種なんだと。

 筋肉の活動が抑制されている「レム睡眠」の途中に覚醒し、起きている状態と起きていない状態の半分くらいになってしまうと、金縛りが発生する。 

 そう考えれば怖いことはない。

 

 しかし。ザリラは私を見つけている。

 

 と、突然ザリラが眩い光を発し……!

 

 

 気がつくと、薄暗い海の中にいた。水の感覚はないけど、おそらくかなり冷たい海域だと察した。そして目の前には赤黒い甲殻。ザリラだ。

 いつもの…枕元にいたザリラ…と違って、こっちのザリラは巨大だった。日中見かけた、現実に現れたザリラと同じくらい。

 

 ザリラはエビのように尻尾を上下に動かして推進している。私は何もしていないのにザリラに付いて行けているし、水の中でも苦しくない。だから、これも夢なのだろうと悟った。

「どこかに向かってるの…?」

 私はザリラに向かって言ってみるが、返事があるはずがない。

 

 でも、その目は何かを目指真っ直ぐな眼差しに思えた。

 

 

 

 いつのまにか布団に戻っていた。

 

 枕元にはやはりザリラ…小さいから小ザリラと呼ぼう…がいた。小ザリラは顔を突き出し、北の方の天井を仰ぐ。

(天井…いや、空?向こうに何かあるの……?)

 

 小ザリラは手(ハサミ)を差し出してきた。その手が私の顔に触れて…。

 

 

 

 

 

「っ!!」

 目を覚ました。上半身を起こし、部屋を見回す。もちろん枕元に小ザリラはいなかった。

「夢……。」

 私はため息を吐く。時計を確認すると、深夜2時だった。もう寝る気にもならない。

 

 仕方なく、スマホを取り出す。するとそこには速報が。

 

『函館上空に新たな怪獣が出現か』

 

 

 

 

 

 

 

 桂木 悠がこの情報を得る5時間前…すなわち前日の21時頃。函館上空に何者かが侵入した。

 

 国防軍は、「敵」が市街地上空に出現するまで動けなかった。なんせ、「敵」はレーダーに映らなかったからだ。市民からの情報提供で初めて事態が発覚した。

 巨大な翅を持った何かが函館上空を数回旋回。その後、函館山に降り立ったとのことだった。

 

 

 出撃命令。

 

 国防軍の戦闘機が発進する。アフターバーナー全開で三沢の空軍基地から飛び立つ9機の戦闘機。

 

 雲の上は満天の星空だった。

「綺麗…。」

 3番機を操る西川 杏奈(少尉)はそう呟いた。もちろん何度も夜間飛行の経験はあるが、彼女の目には、今日の星空がいつもより美しく感じられた。

 続いて彼女は機体を傾け、雲の切れ目から地上を見下ろす。マスクの隙間から少し笑顔が見えた。

「あいつ、あの辺りにいるのかな…。」

 

 

 

 現場に到着した時、戦闘機のパイロットたちは驚愕した。

 

 函館山の山頂に「それ」がいた。白っぽい灰色の身体、巨大な翅、6本の脚、長い尾。頭部と見られる部分には赤い複眼と鋭い牙が並ぶ。

「怪獣…!」

 

 

 飛来した戦闘機部隊に気が付いたのだろう、「怪獣」が頭部をもたげた。

 その姿は恐ろしい悪魔のように感じられ、パイロットはゴクリと唾を飲み込んだ。

 

 

『目標への攻撃を許可する。攻撃開始。繰り返す、攻撃開始。』

「了解、こちら第1部隊。誘導弾による攻撃を開始する。」

 

 

 

 西川の乗機を含めた先頭の3機が旋回、函館山へのコースをとる。

「ターゲットロックオン。発射!」

 

 

ババババババ!

 

 

 各機2発ずつミサイルを発射した。合計6発のミサイルは、流れ星の如く夜空を駆け……「怪獣」に突入した。

 

 

ボォォーン!!!

 

 

 命中!巨大な火柱が立ち昇る。

 

 

 突如現れた戦闘機、そして函館山で爆発。そして炎に照らされて「怪獣」の姿が露わになった。何も知らない函館市民たちは「怪獣」を見てパニックに陥った。

 

 「怪獣」は翅を広げ、振るわす。すると「怪獣」が宙に浮かび上がった。

 

 

 逃げ惑う市民の上を「怪獣」が、そしてそれを追う戦闘機隊が通過する。

 ソニックブームで地上のガラスは振動し、人々は耳を押さえしゃがみ込んだ。

 

 

「目標は函館上空を旋回後、海上を南下中。」

『上層部より報告があった。以後この飛翔怪獣を「スカイスレイヤー」と呼称する。』

「了解了解。スカイスレイヤーを撃墜するまで波状攻撃を続行する。」

 

 

 隊長の指令の元、戦闘機部隊は空対空ミサイルを次々に発射。熱探知型の追尾装置の働きで全弾命中する。しかし、スカイスレイヤーは傷ついているようには見えない。

 

 ミサイルの爆発を潜り抜けたスカイスレイヤー。それでも付きまとう戦闘機を鬱陶しく感じたのだろうか、スカイスレイヤーが180度旋回し、戦闘機部隊の方へ向かってきた。

 

「回避ーーーーーー!」

 戦闘機は各機散開することで衝突を回避しようとした。しかし、うち一機がスカイスレイヤーの前脚に捉えられ、空中で粉砕される。

 粉々になった戦闘機は発火し、やがてその炎も夜の闇に消えていく。

 

 

「4番機がやられた!」

「各機、敵から距離を取れ!」

 

 パイロットたちは一旦「逃げる」ことにした。相手が叩き落とそうとしてくるなら離れるのが先決だ。それは妥当な判断に感じられたが…スカイスレイヤーに対しては悪手だった。

 熊のような猛獣は「逃げる相手を追いかける」性質がある。背を向けて逃げることは、相手が自分より弱いことの証明だからだと言われている。

 スカイスレイヤーも熊のようにその性質を持ち合わせていた。しかし、熊と違って追いかけてくるわけではなく…。

 

 

ピィーーー ピィーー ピィーー

 

 

 コックピットに鳴り響く警告音。

「何だこれは!電子機器がイカれたぞ!」

 

 次の瞬間、スカイスレイヤーの右前脚から「稲妻」が迸った。稲妻は縦横無尽に空を駆け、戦闘機の一機を直撃する。

 稲妻は光だ。つまりパイロットが攻撃を認識した時にはすでに着弾している。

 

 強烈な電流が走り機体は発火。次いで燃料タンクに引火して爆発した。パイロットはその前に感電死しているだろうが。

 

「クソっ、2番機がっ…!」

「敵は雷を発生させられるのか⁉︎」

 

 動揺する残存機に向かって、スカイスレイヤーは容赦なく電撃を喰らわせる。

 

 夜の津軽海峡上空に花火が散った。

 




 つづく。

 この話のように「主人公(桂木 悠)の視点」と「怪獣に直面する脇役キャラの視点」を織り交ぜて(明確に区分はします)書いていこうかなと思います。
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