甲殻大怪獣ザリラ   作:佐藤特佐

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 私、桂木 悠は平凡な生活を送っていた。……数日前までは。
 突如出現した怪獣デヴォラに食われそうになったその時、しょっちゅう夢に出てきてた甲殻怪獣ザリラが現実に現れ、デヴォラを撃退した!
 夢と現実、怪獣と私。その繋がりを探っている中、新たな怪獣〈スカイスレイヤー〉が出現したとの情報が…!

 今回は珍しく平和(?)な話。次回からしばらく戦闘シーンや大きな展開が続くので、まぁ今回だけでもほのぼのと楽しんで頂くということで。



第4話 出会い

 

 

 

 気がつくと、見慣れない光景が広がっていた。その不思議な感覚から、私は「これは夢だ」と悟った。

 

 

 

 数人の人が跪き首を垂れている。祈りを捧げているのだろうか。

 

 中世のヨーロッパのような服装の人々、そして周囲は石の構造物で円形に囲まれている。どこかの文明の祭壇のようだなと思った。

 周囲では松明が焚かれ、薄明るくなっている。

 

 過去の出来事を見せられているだけであって、彼らには私の存在は見えていないようだ。

 

 年若い男が立ち上がり、祈る人々の前に出る。その手首に何かが輝く。

 

「あれは…私の腕輪……?」

 思わず声を上げてしまったが、やはり彼らに私の声は聞こえない。

 

 構造物の間を抜けた先は、崖に突き出た岩場になっていた。向こう側は海になっていて、波の音が聞こえる。

 男は怖がる素振りも見せず、その先端まで行くと、そのままそこに正座する。 

 

 男は腕輪を外すと両手を器のようにし、その上にそれを置いた。すると、腕輪が怪しく光を発し始める。これは…あの時と同じ!

 

 男が口を開く。

「混沌の世界に終焉を。人々の魂に自由を。」

 

 地響きが鳴り響き、石碑が揺れ始める。

 しかし、男は言葉を止めないし人々も祈りの姿勢を崩さない。

 

「この世界に変革をもたらすため、目覚めよ……」

 

 彼らの目前に巨大な影が立ち上がった。赤黒い身体、両手のハサミ。その目が光る。

 

 あれはっ……‼︎

 

 

 

 

 

「ザリラっ‼︎」

 

 

 

 自分の叫び声で目を覚ました。呼吸を整える。

「夢…か……。」

 しょっちゅう見る……真っ黒な空間でザリラと向かい合う……夢とは違かった。これは確実に「どこかの風景」を見せられていた。

 

「古代文明……ザリラを崇めていた文明…?」

 

 ただの夢だと言われたらそれまでだ。でも、どうしてもただの夢だとは思えない。ザリラが現実に出てきたこともあったし…。

 

 

 右手に感覚を覚え、見ると、例の腕輪を握りしめていた。昨日腕輪を取って寝たはずなのに。

 

 

 

 ピピッ

 

 

 スマホに着信があった。

『東北地方太平洋側に飛翔怪獣接近か。避難準備。』

 

 

 またスカイスレイヤーだ。

 

 

 

 数日前、函館上空で国防空軍と交戦したスカイスレイヤーは姿を眩ました。太平洋上空に度々捉えられたがすぐに消失の連続だった。

 私は専門家じゃないけど、スカイスレイヤーはエネルギーを蓄えて再襲来に備えていたんじゃないかなと思う。

 

 

 眠い目を擦りながら起き上がる。小鳥の声がうるさく感じられた。

 朝ごはんの用意をしてなかったことを思い出し、ガックリする。

 

 

 ……また来てくれるのかな、ザリラ。アイツならまた私たちのために戦ってくれるはずだ。

 とは言え私にはただ「来て」と祈ることしかできないんだけど。

 

 …ん。「祈り」……??

 

 私は顔を上げる。先ほどの夢が再び頭に浮かんだ。彼らが祈ることで、ザリラが動き出していた…気がする。

 

 そういえば、私がデヴォラに襲われた時も。あの時のことを思い出してみる。

 

 

「私…もっと生きたいよ…。助けて、ザリラ‼︎」

 

 

 たしかこう言った。…これも「祈り」になるんじゃないか……?

 

 

 

 とは言え、ただ祈るだけでザリラが来てくれるほど簡単なもんじゃないんだろう。デヴォラの時は「たまたま」来ただけかもしれんし。

 もっと具体的に方法が分からなければ…。

 今のところ手がかりはさっきの夢しかない。夢で見た光景をよく思い出してみる。

 

 

 

「そういえばあの風景……!」

 

 似ている場所を知っている。隣町の海岸にある、ちょっとした東尋坊みたいな場所……海原海岸!

 

 

 夢で見たものと、自分の経験と、考えと、そして現実の存在が一本の線で結ばれたように思えた。

 奇跡みたいな話だけど、これでザリラを呼べるとしたら。これを為せるのは私だけだ。やるしかない。

 

 私はすぐに部屋着を脱ぎ、適当な服を着ると部屋を飛び出した。もちろん腕輪を握りしめて。

 朝ごはん、食べてなかったなぁなんて思ったが、そんなことはどうでもよかった。

 

 

 

 

 

 

 真っ青な空。

 太平洋上空を飛ぶ空軍機。そしてその少し先を行く巨大な飛行生物…スカイスレイヤー!

 スカイスレイヤーは偵察機を気にする素振りも見せず、一直線に飛んでゆく。

 

『こちら偵察飛行隊。目標を視認した。位置は……。』

 

 国防軍本部にその情報が提供され、軍人たちは慌ただしくなる。

「このままでは1時間後に奴が…!」

「すぐに太平洋沿岸に部隊を展開!住民の避難を急げ!」

 

 

 

 

 

 

ポーーン

 

 

 電車のドアが開くと、潮の匂いが流れ込んで来た。

 

 ここは碧海市から電車で数十分ほどの距離にある海原市。碧海市に次いで規模の大きい都市だが、海原海岸や展望台など、自然と融和した街が魅力的だ。

 私は目指す海原海岸へ向けて歩く。ザリラを呼ぶために。

 目的地までは2キロくらいだろうか。潮風が心地よかった。

 

 

 

 

 突然、防災アラームが鳴り響いた。

 

『こちらは、防災、海原市。ただいま、巨大生物襲撃警報が発令されました。』

 

 

 嘘だろ、来たのか。スカイスレイヤーが。

 

 

『皆様は、軍や警察の指示に従って避難してください。』

 

 

 えーー、これから海原海岸に行かなきゃならないのに。困るよ。

 

 

 

 そうこうしているうちに、軍の歩兵部隊がやってきた。自動小銃を肩から下げている姿はものものしかった。

「皆さん、車を路肩に停めて降車して下さい!」

「こちらです!」

 彼らは避難誘導をし始める。日頃の訓練の賜物なんだろう、迅速な動きだ。

 

 国防軍を誉めている場合ではない。アイツら絶対私を避難させようとする。それは何としても避けなければ!

 

 とりあえず、走るか!

 

 

 私は避難する人の流れに逆らって走った。途中で何人かとぶつかったし、「そっち行っちゃダメだよ」なんて言われたけど気にしなかった。しかし、進む私に試練が訪れる。

 避難誘導をする国防軍の隊員。海の方に行くには、どうしても隊員の前を通らないといけない。

 

 ……もう強行突破だ!

 

 隊員のいる道の反対側を、人混みを掻き分けながら進む私。周囲の人にぶつかり、転びそうになるけどなんとか耐えた。

 

「ちょっと、そこの貴方!そっちは作戦区域です!危険です!」

 国防軍隊員の声。

 

 ちっ、気づかれたか。隊員は私を捕まえようと追いかけてくる。しかし、人の流れに押されて、なかなかこちらに来られないようだ。

 今の隙に進もう…!

 

 

 

 

 人混みだった道を逸れ、脇道に入る。先ほどまでの混乱が嘘みたいに静かだ。…当たり前か。ここは作戦区域、もう誰もいないんだから。

 無人の住宅街を1人歩いて行く。風で飛ばされたレジ袋の擦れる音が不気味さを際立たせる。でも、ここで引き返すわけには行かない。

 目的地の海岸まではあと1キロくらいか。深く息を吸った、その時。

 

 

ギギギギギギギギギギギギギギ

 

 

 耳障りな金属音。……これはキャタピラの音⁉︎

 私の直感は正しかった。道の向こうからやって来たのは鉄の箱。その上部には筒…戦車砲が乗っている。国防軍の戦車だ。

 戦車は徐々にこちらに向かってくる。

 

 このままだと戦車兵たちに見つかってしまう。隠れ場所を探す私の目に入ったのはコンビニエンスストアだった。自動ドアのランプが点いている…まだ開いている!

 私はコンビニに入り、店内で隠れ場所を見つけようとした。その間にも近づくキャタピラ音。

 

 

 ……ここに隠れるか‼︎

 

 私はコンビニのレジ台の裏に転がり込んだ。こんなとこ初めて入ったよ。

 

 直後、窓の外を通り過ぎる戦車。そして戦車兵たちの声が聞こえる。

 

「おい、あそこのコンビニのドア開いてるぞ。不用心だなぁ。」

「一応人居るか声かけるか。」

 

 1人の隊員がドアの前に立つ。すすっーっと開くドア。

「すいませーーん。誰か居ますか?」

 

 

 見つかったら捕まるのかな…。

 

 恐怖心から、私はしゃがんだままそっと隅の方に移動する。

「?」

 何かにぶつかり、その方を見ると。

 

「ーーーーー⁉︎⁉︎」

 

 危うく声を出しそうになってしまった。

 なんせそこに、私と同じように息を潜めている人がいたから。

 

 びっくりして叫びそうになった私に向かって、彼は全力で「落ち着け」のジェスチャーをする。なんとか叫ばずに済んだ。

 

 

「誰もいねぇのか、不用心な店だな。」

 国防軍隊員はそう言って去っていった。やり過ごせた…。

 遠ざかって行くキャタピラの音。

 

 

 

 

 

 

 彼と並んで、レジの裏に腰掛ける。彼が話しかけてきた。

「なんでこんなとこに来たんすか?」

 

 私は彼の方を見る。大学生くらいだろうか、その胸には「坂井 研修中」のネームプレート。私より少しだけ背が高いくらいだから、小柄な方だろう。

 私は少し考えた。ザリラのこと喋るわけにもいかないし。

「いやぁ、ちょっとどうしても海に行きたくてですね。」

 

 …こんな下手な言い訳信じてもらえないだろうなぁ。自分で言っておいて後悔した。

 

 しかし。

「……僕もです。」

 彼……坂井はそう答えた。どんだけ純粋なんだよ。

「海、行きますか。」

 私はコクリと頷くしかなかった。

 

 

 

 

 外はやはり静まり返っていた。時折遠くから戦車のキャタピラ音がする以外は無音だ。

 

 

 2人で歩きながら会話して、相手のことが少しわかった。

 彼の名は坂井 明。地元の大学生でさっきのコンビニのバイト店員。

 まぁ呼ぶなら坂井くんかアキラくんだろう。下の名前で呼ぶのは慣れないから坂井くんと呼ぶことにした。

 

 そこからはただ何気ない世間話が続いた。

「コンビニのおにぎりどれが好きですか?」

「最近、友達が…」

「私料理下手で、この前……」

 ……久々に誰かと話して「楽しい」と思えた。一人暮らしやってると、話す相手なんて仕事関係しかないから。会話ってこんなにも楽しいものだったんだ。

 

 

 

 

 

 しばらくそうして進んでいると。

 

「おい、お前たち!ここは作戦区域だぞ‼︎」

 後ろから野太い声がした。振り返ると、軍服を着た男が2人。巡回中の国防軍兵士だ。

 兵士たちはこちらに駆けてくる。

 

「桂木さん…どうします?」

 そう私に尋ねる坂井くん。彼の目は怯えていたが……。

 

 ここまで来たからには、引き返す選択肢はない。でも、屈強な隊員から逃げ切れる算段もない。

 何かいい手段は…。

 

 私の目にとある物が映る。黒い車体の大型バイク。おそらく、持ち主は避難の途中に仕方なく置き去りにしたんだろうが、今はそんなことを考える暇はない。

 

「行くよ、坂井くん!」

 

 私は坂井くんの手を握り、走り出す。

 後ろから「待てっ!」と兵士の怒声がするが振り返らない。

 

 私と坂井くんは大型バイクの元に辿り着く。私が前に乗り、後ろに坂井くん。幸い鍵は差しっぱなしだ!

「え、ちょっと⁉︎僕バイク初めてで…!」

「しっかり掴まっといて!」

「え、こ、こう?」

 坂井くんが私の背中に掴まったのを確認すると…

 

 

BROOOOONN‼︎

 

 

 私はバイクを全速力で発進させた。

「止まれぇーーー!」

 哀れな2人の兵士さんはそう喚くが、もちろん止まらない。

 

「ご安心ください、免許は持ってますので〜!」

 私はそう言い残すと、加速し、兵士の追跡を振り切った。

「ヘルメット被れぇーーーー!」

 兵士は叫び声だけ残して視界から消えた。

 

 

 

 

 海沿いの真っ直ぐな道を、一台だけバイクが進む。

 

 潮風の中、バイクで疾走するのは気持ち良い。後ろにしがみついている坂井くんも、この気持ちよさがわかるかなぁ。

 ヘルメットを着けてないから、髪が物凄く乱れた。でも、そんなことは気にならなかった。

 私、いま久々に「自由」だな。そんなふうに高まる高揚感でいっぱいだった。

 

「桂木さん、免許持ってたんですかー?」

 坂井くんが声を上げるが、彼の声も手も震えている。まさか、ビビってる…?情け無いなぁ。

「持ってるよー。」

 それだけ答えると、私はバイクを加速させた。爽快な排気音と共に周囲の景色がみるみる後ろに流れてゆく。

 背中に掴まる坂井くんの握る手が強くなるのを感じた。

 

 道端の看板には『海原海岸 直線2キロ』と書いてあった。

 目的地はもうすぐだ。

 

 




つづく。

 主人公がバイクで疾走する!ってシーンを描きたかったんですよね。
 ちなみに悠がバイクの免許持ってるってのは事実です。皆さんはちゃんとヘルメット着けて乗りましょう。
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