甲殻大怪獣ザリラ   作:佐藤特佐

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第9話 甲殻大怪獣襲来

 

 

 日ノ本島南端に巨大怪獣が迫りつつあった。

 そして島を防衛する巨大要塞が、遠隔操作でこれを迎撃する準備を進めていた。

 

 

「甲殻怪獣浮上!」

「対水上戦闘用意!」

 国防軍本部のて、遠隔操作のオペレーターたちが慌ただしくなった。

 

 日ノ本島の防衛システム「鉄城」が起動した。アイアンドームを超える首都防衛システムとして知られる「鉄城」初の実戦だ。

 「鉄城」は遠隔操作の武装システムである。2090年に国防軍首都防衛特別隊(通称「親衛隊」)に正式に配備された。約50門の大砲、15門のレーザー砲、20基以上の多連装ロケットランチャー、そして無数の機銃や爆雷投射機が太平洋を睨んでいる。

 

 

バシュッ!バシュッ!バシュッ!

 

 

ボッ!ボッ!ボッ!ボッ!

 

 

 徹甲弾、榴弾、ミサイルなど各種兵装が発射され、海上に水柱が立ち上がった。

 すると水面が盛り上がり…崩れ落ちる白波の中から、赤黒い甲殻が露わになった。

 体高68メートル、質量2万5千トンにも及ぶ甲殻怪獣ザリラが姿を現した。

 

 モニターの画面を凝視し、ゴクリと唾を飲む親衛隊隊員たち。

「目標浮上!」

「サーモバリック弾、撃ち方始め!」

 

 多連装ロケット砲が火を吹く。ロケット弾の先端には燃料気化爆弾の一種、サーモバリック弾頭が装着されている。

 

 

ボォォーーーッ‼︎‼︎

 

 

 ザリラの周囲に今度は火柱が上がった。サーモバリック弾頭の炸裂は強力な気化爆発を発生させ、甲殻怪獣の巨体は火球に飲み込まれた。通常の生物ならひとたまりもない。

 しかしザリラは平然と立っていた。砲台の方を睨みつける。その視線に射抜かれ、隊員たちは身動きが取れなかった。カメラ越しなのに物凄い目力だった。

 直後、巨体が海に消えた。

 …潜った!

 

「目標は潜航します。」

「爆雷を投下しろ!!」

 

 

 爆雷投射機から放たれる無数の爆雷。海に飛沫が上がり、爆雷は沈んでいく。

 

 狙い通り、爆雷は最適な位置に投下された。コンピュータに制御された最適な攻撃だ。

 ザリラが、周囲に爆雷が沈んでくるのに気づいた時にはもう手遅れだった。

 

 

ッッドォォーーーーーン‼︎‼︎‼︎

 

 

 海中で大爆発が起こった。空高く噴き上がる水の塊。

 

「やったか⁉︎」

 彼らは期待した。しかし。

 

 水飛沫の中から姿を現したザリラは、傷一つついていなかった。人類の武器で甲殻を破壊するのは不可能なのか。

 

 ザリラは水上に上半身を出したまま立ち尽くす。ザリラの体表でスパークが起こり、甲殻が白いオーラに包まれていく。高温で周囲の海水が煮立っている…⁉︎

 これは……閃熱光弾の前兆!

 

「電磁シールド急速展開!」

「砲塔格納、急げぇ‼︎」

 親衛隊隊員たちはなんとか対処しようとモニターに食い入るが、時すでに遅し。

 

 甲殻怪獣の口から迸る閃光。直後、「鉄城」の火器は巨大な火の玉に包まれた。

 

 

ボガァァァァァーーーーーーーン‼︎‼︎

 

 

 要塞は一撃で吹き飛び、燃え落ちた。世界一の防衛システムを一瞬で無力化した大怪獣は、炎に包まれる残骸を踏み潰しながら悠々と上陸した。

 

 真っ暗になったモニターを前に、オペレーターたちは肩を落とした。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「ザリラは文明を破綻させるって…それは一体⁉︎」

 

 私の問いかけに、神山は余裕そうだ。拘束具を点検しながら話し出した。

「ゼウスと同胞の人間たちは世界を、人類を完璧な存在にすべく行動を開始した。しかし。生体兵器開発チームの一つが裏切りを起こした。」

 

 ごくり、と自分が唾を飲む音がいつもより大きく聞こえた。

 

「彼らはゼウスだけが有していた『リンク』の情報を盗み、開発中の甲殻類型怪獣に転用した。人間と繋がりを持たせた上、ゼウスを…ゼウスを生み出した文明ごと破壊を命じたそうだ。」

 

 過去にそんなことが…?しかし、今となっては信じるほかない。怪獣が、ゼウスが、そして今まで自分が見てきた光景全てが証拠として揃っているんだから。

 でも、ザリラが文明を滅ぼしたってのだけは信じられないよ…。

 

「結局、ザリラは文明を破壊し尽くしたらしい。だが、ゼウスは破壊を免れて、姿を隠していた。そしてそれを見つけ、蘇らせたのが我々ってわけだ。」

 

「ドヤっとした顔すんなよ。それ相当ヤバいやつじゃん。」

 いやだってさ、人間を完全なものにしようなんておかしいよ。完璧になった世界に何があるってのさ。

 

 しかし神山は私の言葉に耳もくれない。

「人間は…文明は、常に完璧を求めるために発展してきた。そうじゃないかね?教えることだけが増えていく教育、年々難しくなる入試、会社にも恋人にも選ばれるのは高スペック。人間には完璧への憧れ…いや、信仰のようなものがあるのだよ。」

 

「……。」

 私は何も言い返せなかった。だって、それで苦しんでいたから。実体験をしているから。

 

「ゼウスはすべての人間、すべての文明を完璧にすることができる。全員が同じく完璧になれば、格差も意見の相違による対立も存在しなくなる。つまり、最高に幸福な世界が出来上がるってわけだ。」

 

 違う。この男が言っていることは絶対間違っている。でも、何がどう違うのか説明できない…。

 もどかしくて歯軋りする私を尻目に、彼は話を続けた。

 

「ゼウスは全知全能だが、一つだけ分からないことがある。「人間」だよ。ゼウスは『リンク』を持つ人間としか繋がれない、そして君は世界で唯一『リンク』を持っている。君がゼウスと繋がればゼウスは真の全知全能に…」

 

「断るっ‼︎」

 私は断言した。そして睨みつける。

「流れからして…怪獣を差し向けたのはあんたらなんだな…?」

 

 神山はすました顔を崩さない。

「ああ。デヴォラで君を襲撃させたが、ザリラに妨害された。だから今度はスカイスレイヤーでザリラを倒そうとした。何も知らない国防軍の下っ端も巻き込んじまったが。」

 なるほど、ゼウスや怪獣の事実を知る者は一部の上層部のみなのか。政府や軍の中も一枚岩じゃないんだな。

 岩崎隊長たちは国民のために必死に戦っていたのに…。これは彼らの思いを無に帰すようなものではないか。

 

「でも、ザリラを制圧はできなかった。あれだけの戦闘力を秘めた生体兵器だ、君の『リンク』はとても強力なのだろう。素晴らしい。」

 そう言ってわざとらしく手を叩く神山がうざったい。

 

「ザリラなどただの怪獣に過ぎないものに惑わされるな。君がゼウス最後のかけたピースなのだよ。君がやれば、皆幸せになれるじゃないか。」

 

「でも……。」

 私は黙り込んでしまった。返す言葉が見つからない。

 何か、違うのに。

 

「……ザリラはどうなるの?」

 

 言いくるめられなかったと悟った神山は、依然拘束されている私に顔を近づけた。

「さぁね。」

 そう言ってタブレット端末を見せてきた。そこに映っていた情報に戦慄する。

 

「これってさっきの怪獣……サーベルヘッド…⁉︎」

 そのサーベルヘッドが目を覚まし、目を爛々と光らせていた。今にも暴れ出しそうなその姿を見て、私は理解した。

「今度はコイツをザリラと戦わす気ね…!」

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 日ノ本島の南端から上陸を果たしたザリラは、真っ直ぐに北上する。向かう先は島の中心部…政府中枢が密集するエリア。もちろん、桂木 悠たちがいる国防軍本部もここにある。

 やはりザリラは彼女を助ける(?)ためにやってきたのか。

 

 

 大手企業の本部が並ぶ区画を進撃するザリラ。自分より高い高層ビルに物怖じせず、両手のハサミを振るう。怪獣の凶器が人間の構造物を破壊するのは容易かった。

 

 

ゴッ……ゴゴゴゴ………

 

 

 真っ二つに斬られたビルは倒壊し、隣のビルに倒れ込む。ドミノ倒しになって、1区画が一瞬で崩壊した。跡地には砂煙が立ち昇るだけだ。

 その区画の会社は本日休業で、ほとんど人が居らず犠牲者が出なかったのが不幸中の幸いだった。

 

 

 大企業「フューチャーダイナミクス株式会社」の社長・古川は、轟音を耳にして目を覚ました。せっかくのお昼寝を邪魔したやつを一目見ようと、カーテンを開けると。

 そこには怪獣の巨大な顔があった。

「ここは22階だぞ…。」

 目が彼を睨みつける。古川は真っ青になった。

 

 恐怖で股を濡らしながら、彼は情けない声をあげてエレベーターに乗った。ビルの中にいたら危険だと判断したのだ。同じく逃げ惑う社員たちにもみくちゃにされ、自慢の高級スーツが汚れた。

 

 彼がビルを飛び出した直後、ザリラの尻尾がビルに直撃した。社長の目の前で脆くも崩れ落ちるビル。同時に古川も膝から崩れ落ちた。

 オマケとばかりに彼の愛車を踏み潰し、ザリラは歩き去った。

 

 

 

 

 

 ザリラはただただ歩いていた。律儀に道の真ん中を歩いてはいるが、それだけで地面は陥没し車は空き缶のごとくペチャンコにする。

 

 ザリラは歩きながら少し思いを巡らせた。

 目的はあったけど、覚えていない。でもただ「人」を守るために行かなければならない。

 腕輪を通して、想いを伝えてくれた人。この世界に迫る危機を教えてくれた彼女のために。

 

 

 

 

 

 島の中心部に差し掛かった頃。ザリラの目の前で小高い丘が崩壊した。

 砂煙が上がる中から不気味な咆哮が轟いた。

 

 何だ?

 

 崩れた丘の中から這い上がってくるモノ。それは四足歩行の怪獣だった。黒い身体に巡らされた血管のような赤いライン。そして頭の先、鼻のあたりが二つに分かれ、鋭いサーベルのような構造になっていた。さらに頭の中央にツノが一つ。切れ味の良さそうなサーベルが日光を反射して輝いた。

 

 恐竜トリケラトプスを彷彿とさせる武装を備えた大怪獣…サーベルヘッド。

 

 ザリラは悟った。コイツを倒さなければ先に進めない、と。

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

「なんかヤバいっすよ隊長…!」

 パワードスーツ部隊隊長の岩崎は、部下に肩を揺らされる。彼らは国防軍本部の屋上にて、ヘリコプターを待っていた。その最中、鳴り響く警報音。

 

「今度は何だぁ〜?」

 岩崎は舌打ちする。国防軍本部に桂木を護送してから丸2日、なぜか自分たちまで尋問を受けるハメになった。怪獣をめっちゃ近くで見てたからか?刑務所の飯は不味いとよく言うが、国防軍の飯も負けてないと思う。

 そんでやっと帰れると思ったら、今度はよくわからん警報が鳴り出した。

 

「おぉい何なんだよもう‼︎なんかあるんだったらかかってこいよオラァ!」

 屋上から外の風景に向かって威嚇する。

 

 すると。

 

 向こうに見えていたビルが崩壊し、巨大な怪獣が現れた。あれは甲殻類型怪獣……⁉︎

「……やっぱかかってこないでください…はい。」

 

 やはり桂木 悠があの怪獣を引き寄せる原因なのだろうか。

 ここもいよいよ危ない。逃げる手立てを……。

 

 

 すると今度は、ほど近い丘が崩れ落ちる。砂を防ごうと袖で口を覆う2人。

 砂煙を吹き飛ばして現れたのは巨大な刃物だった。正確には、頭が2本のサーベルになった怪獣……!

「なんだ……あれは……⁉︎」

 もちろん彼らは刃物の怪獣が国防軍上層部の放った生体兵器であるなど知る由もない。

 

 怪獣たちはビル街で相対した。ここまで2体の怪獣を切り裂いてきたザリガニの怪獣か、はたまた新参者の刃物の怪獣か。両者とも一歩も引く気配はない。

 

「おい、ヘリの荷物室にパワードスーツ入ってたよな?」

「ええ。……まさかっ!」

 動揺する部下を放置し、岩崎はヘリの中に入っていった。

「俺があの刃物の化け物を止める…!」

 

 

 

 

 

◇◇◇◇◇

 

 

 さらにその頃 神奈川県某所の病院

 

 

 坂井 明はベットの上でため息を吐いた。

「あぁ〜〜、桂木さん大丈夫かなぁ…。」

 

 彼は桂木 悠と共にザリラvsスカイスレイヤーの戦いを目撃した。その結果大怪我を負い…国防軍に発見され病院送りとなったのだ。坂井が救助されたあと桂木も発見されたようだが、どうやら自分たちの行動はバレていたようだった。

 

 自分は手製のテルミットを取り上げられただけで退院までは見逃してもらえるみたいだけど…。桂木に至っては「怪獣を支援した」という大罪がある。しかも政府が「敵」と認識した方…ザリラにチカラを与えた。結果、ザリラはスカイスレイヤーを粉砕したそうだ。

 

 桂木さん、死刑とかにならないといいんだけど。その時は、彼自身も罪を一緒に背負うつもりでいた。だって……。

 

 そんなことを考えながら廊下を歩いていると、慣れない松葉杖なのもあって転んでしまった。考えることに集中しすぎていた。恥ずかしい。

 すると、立ちあがろうとする彼に手を差し伸べる人が。心優しい人もいるもんだ。

「ありがとうございま……」

 相手の顔を見て、坂井は固まった。

 

 彼に手を差し伸べた人物は…。

 




 怪獣が防衛線を易々と破って上陸する展開が好きです。

 次回に続く。
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