見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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神ノ掟


山ノ神ニ祈リヲ捧ゲレバ、

願イハ必ズ叶ウ。


但シ ゴ利用ハ 計画的ニ。



もしかしたら、かなりスゴい所に来てしまったのかもしれない

 おはこんばんにちは、見円洋太です。

 今日は徹とみこちゃんとハナちゃんの三人でミブリ映画を見に行く予定、だったのですが……

 

「……えーっと。さん……?……たに、じん…じゃ……真ん中かすんで見ずらいな」

 

「………たぶんアレ、『狐』って書かれてるんじゃない?」

 

「あ、アレって“きつね”って書いてあるんだ」

 

 映画館が休みだったとの事で、急遽パワースポット巡りをする事になった僕らは石段を登り終え、目の前に建てられたデカイ鳥居の前に立っていた。

 此処は街から離れた所にある山の中に建てられた神社で、鳥居の上辺りにある……なんだっけ、あの看板みたいな奴? まぁいいか……アソコに書かれた文字曰く、『三狐谷(みぎつねだに)神社』というらしい。読み方は適当だけど。

 

「わー、おごそか〜」

 

「……うん、そだね」

 

 境内を散策する事にした僕らは鳥居をくぐり、境内に足を踏み入れる。

 んん〜まぁ、こう言っちゃあなんだけど、ぱっと見だと人の気配が無さすぎるし。手入れもされてないからか、“変な臭い”が溜まっていてどんよりしてる気がしないでもないが……パワースポットというだけあって凄い力を感じる…気がするし、普段と比べると空気が違う感じはするな〜。

 うん、なんて言うんだろ……こう……お母さんの実家では感じられない雰囲気?知る人ぞ知る…稲荷寿司のお店?の匂いみたいな物があるんだなぁと感心する僕の隣で、ハナちゃんもキョロキョロと見渡しながらそう呟いていた。

 

「…………ぁア」

 

 ……ふぅ。さて、そろそろ今背負っている、死んだ目で意気消沈している親友をどうすべきか考えるとしますか。

 ハナちゃん曰く、なんか呪いのビルに入って二人でワンコの救出を行ったらしいが、そん時に何があったのか喧嘩したっぽいんだよなぁ。……いや、マジで何があったの徹。もしかして妖怪のせいなのねそうなのよね?

 

「ねぇハナちゃん……さっき、徹と何かあった?」

 

 とは言え、二人の間にどんな事があったのかは知らないが……少なくとも、このままで良いはずがない。だからハナちゃんに直接、徹と喧嘩した原因を恐る恐る聞いてみる事にした。

 すると彼女は素面から、赤らめた頬を膨らませてプルプルと目頭に涙を浮かべて徹を睨みつける顔へと変化した。

 

「……………しらないっ!」

 

「ゴハッ!?」

 

「ウワー!徹が吐血したァーーー!?」

 

 プイッと徹から視線を逸らしたハナちゃん。直後、後ろで吐血した親友の姿が視界に写り込み、僕は思わず声を上げて叫んだ。

 くそっ、やっぱりもう少し間空けてから聞いた方が良かったか⁉︎ そんな後悔を後回しにし、急いでポケットティッシュを取り出すと、徹の口周りを拭いながら狐の石像の横で安静にさせる。

 

「おい徹!大丈夫か!!」

 

「大丈夫、問題ない……なにも問題ない……ダグバの超自然発火能力並みにね……」

 

「徹ゥ!それ大丈夫じゃない奴!大問題しか無い奴や!あれを大丈夫と言っていいのはアルティメットクウガだけだから!?」

 

 案の定、問題しかねぇ状況に思わず突っ込みを入れる僕。

 いや、なんかもう……顔が真っ白になってるし、見るからに大丈夫じゃねぇのは分かってたけどさぁ!

 

「いいかい洋太ぁ……この世には二種類の男がいる。女の敵と女の味方、イッセーみてーな変態おっぱいドラゴンとヒンメルみてーなイケメンナルシスト勇者、この二つだ……劇中ではどちらも色んなキャラの脳をこんがりウェルダンしているが、読者は違う。

 ヒンメルはそのスパダリ言動でフリーレンを始めとした様々な読者を虜にして来たが、イッセーはハーレムを目指す癖に女子更衣室を除いたり一般論でいえば割とヤベーことをしたせいで一部の読者からアンチ作品を作られるくらいには賛否両論な評価を受けている。どちらも大きな功績を残して来た、にも関わらずだ。

 これらの話から分かる通り、女の敵か味方かであるかだけで、人の評価は大きく左右される……それは現実の世界でも、同じなんだ……」

 

「……?お、おう……?」

 

 ごめん徹、話が難し過ぎて途中から情報が入って来なかった。解るだけでも、ハイスクールD×Dのファンに怒られないかという不安しか浮かばなかったよ。

 ……えっと、つまり。どういう事だってばよ。

 

「つまりなにが言いたいかというと、俺が悪いんだ。全部俺が悪い、全部俺のせいだ。もういっそ殺してくれ、フリーレンに自害命令出して貰いたい……ハハハ、見ろ。俺がゴミの様だ!」

 

「生きる事を諦めるなァ!誇れ、そなたは美しい!」

 

 最早自暴自棄となり、己の命すら投げ出しそうになった徹を必死に慰める。

 だが徹は小さく笑い声を溢すと、力なく僕の手を掴みながら口を開いた。

 

「お前のそういうところに、俺はずっと救われてきた……だからよ……止まるんじゃねぇぞ……」

 

 それだけ言い残し、徹は掴んでいた手を放し……希望の華を領域展開しながら静かに息を引き取った。

 

「死ぬな徹ゥ!徹ゥゥゥゥ!!ウワァァァァァッッ!!」

 

「……いや、まだ死んでないです……ギリギリで……ギリギリチャンバラで……」

 

 普通に起き上がった徹を見て、一応何ともなかった姿に安堵した。

 ……いや本当に良かったわ、マジで死んだかと思ったからな?例えギャグでも死ネタはホント辞めて?心臓に悪いからさ。というか、さっきからみこちゃんがどこか呆れた目でこっちを見ている様な気がするんだが……気のせいかな。

 そう思いながら僕は小さく咳払いをして気を取り直し、お参りする為に立ち上がらせる。

 

「ほら、早くお参りしちゃお?僕も徹が仲直り出来るように祈るからさ……」

 

「あぁ……すまねぇ親友……」

 

「どうってことないさ親友」

 

「……みこ、お賽銭て5円でいいんだっけ?」

 

「……いいんじゃないかな」

 

 グータッチしてそんな話をしながらみこちゃんとハナちゃんの隣に立って、お賽銭に五円玉を入れて手を三度叩き、四人揃ってお祈りをした。

 

(徹がハナちゃんと仲直り出来ますように………)

(百合川さんと仲直り出来ますように百合川さんと仲直り出来ますように百合川さんと仲直り出来ますように百合川さんと仲直り出来ますように百合川さんと仲直り出来ますようにあとついでに彼女らともっと仲良くなれます様に……)

 

 とりあえず、今の状況から二人が仲直り出来ますようにと神様にお願いする。

 徹とみこちゃんがめちゃくちゃ気合を入れてお祈りをしてたのを横目で見ていたが、徹はともかくみこちゃんにそこまでさせるお願いって何だろうか……え、健康?みこちゃんってそこまで健康志向だっけ。もしよかったら一緒にトレーニングする?筋肉にお願いしちゃう?

 

「……百合川さん」

 

 するとお参りで気合を入れた徹が改まった様にハナちゃんの名前を呼んだ。

 その辺りを興味深そうに彷徨いていた彼女は呼ばれたのに気付くと、鼻唄をやめて胸を押さえながら徹の方をジロリと見る。

 

「………みこちゃん、こっち来て貰って良い?」

 

「……………あ、うん……」

 

 そんな二人を見て、お祈りを終えたらしいみこちゃんの手を握って少しだけ離れた所で見守る事にした。邪魔しちゃ悪いし。

 ……なんかみこちゃんチョット震えてね?寒いんかな?確かに涼しめの風が吹いてるけど。

 

「……どうしたの?」

 

「ッ……さっきは本当に、すみませんでしたァァァ!!」

 

 ハナちゃんはジト目で見ながらそう問いかける。対する徹はその目線にビクッと肩を震わせつつも、勢い良く、尚且つ深く頭を下げて、全身全霊の土下座をした。“黄金比率”って奴を完全再現したパーペキな土下座やね、ジャイロもあの世で喜んでるよ多分。

 その様子を見ていた彼女は驚いた様に目を見開いていたが……小さく笑みを溢すと、膝をついて土下座して謝る徹の頬に手を添えて顔を上げさせる。

 

「……あたしこそごめん。少しムキになっちゃって……徹くんが悪い訳じゃなかったのに……」

 

「あ、いや……でも百合川さんを傷付けたのは、事実ですし……」

 

「でもワザとじゃないんでしょ?」

 

「は、ハイ!100%……いや1000%ワザとではありません!それは断言出来まぁす!!」

 

 謝る彼女に徹は目を見開いてそう答えたが、次に放たれた言葉に対しては凄い勢いで縦に首をシェイクさせて肯定する。てかめちゃくちゃ必死だな。マジでどんだけの事をしでかしたのよ徹。

 そんな事を内心呟いていると、ハナちゃんは徹の頬を軽く摘まんで口を開いた。

 

「じゃあこの話はコレで終わり!せっかくみんなで遊びに来たんだから、楽しくいこう!ね?」

 

 その言葉に徹はキョトンとした表情になったが、すぐさま心底安心した顔で返事を返した。いやー、二人が仲直り出来て僕も嬉しいよ。みこちゃんもそう思うよね?

 

「…………………えっ、あ、うん。ソウダネ……」

 

 ……終わったら四人でラーメン屋に行こうか。みこちゃんなんか寒そうな感じ出しとるし。なんて事を考えていると、「それと……」というハナちゃんの呟きが耳に入った。

 

「あたしのこと、名前で呼んで良いよ?徹くん達と会って、結構親睦深めたと思うから、そろそろ“ハナ”って呼んで欲しいな〜って思ったんだけど……ダメかな?」

 

 そう恥ずかしそうに頬を赤く染めて、コテンと頭を傾けるハナちゃん。

 

「──は?天使か?(あ、ありがとう……じ、じゃあ。お言葉に甘えて……)」

 

「徹、たぶんいま本音と建前が不義遊戯してる。誰か手叩いた?」

 

 ほら見てよ。超どストレートに褒められた所為で、ハナちゃんがさっきより顔真っ赤になって言葉を失ってるから。

 あ、でもハナちゃんの言う通り、僕達ってかなり仲良くなってると思うし、そろそろ名前呼びしても問題ないかも。徹ってば、僕や徹のお母さん以外には基本名字呼びだし、コレで他の人とも距離が縮まって交友関係が広がると良いなぁ。

 

「っ……あ、あれ見て!あの鳥居の逆光のかんじ!超おごそか!」

 

 するとハナちゃんが突然誤魔化す様な大きな声を出して、ある方向を指差した。

 なんだ?と思いながらも視線を向けると……そこには太陽が鳥居に重なって、なんか映画のワンシーンみたいな光景が広がっていた。

 確かに、コレは凄く神秘的だな。なんて感心していると、彼女は「記念に撮ろうよ!」とバックから取り出した自撮り棒にスマホを取り付けながら、こっちに来てと手招いた。

 そんな彼女の提案に僕も賛成し、みこちゃんの手を繋いだまま四人で並んで鳥居の方に背を向ける。

 

「ふふふっ、こんな時の為に買っといてよかった、自撮り棒!」

 

「……あの、えっと……ゆり……は、ハナさん。距離近くないですか?」

 

「え?でもこうしないと徹くん写らないでしょ?ほら二人も、もっとこっち寄って!」

 

「そうだゾ〜徹くん?だから観念して……んん?」

 

「? おいどうしたんだ洋太」

 

「いや、なんか獣臭い匂いが──」

 

「あ、この角度いい感じ!三人とも撮るよ〜♪」

 

 お祈りした後あたりから漂ってた獣臭がさっきよりも強くなって、思わず周囲を見渡しながら顔をしかめる僕。だが写真の角度に集中していたハナちゃんには聞こえていなかったのか、彼女はスマホのカメラを僕らの方に向けてシャッターを切った。

 ……慌てて笑顔になった所為で変な顔になってない?大丈夫?そんな事を思いながら、撮られた写真を確認してみる。

 あー……うん、よかった。ちゃんとした笑顔になってた。何故かみこちゃんが少し涙目なのが気になるけど、あまりの神々しさで感動したんかな?そして横には、ちょっと引き攣った照れ笑みを浮かべた徹と、そんな徹の腕を組んで引き寄せながらピースするハナちゃんが写り込んでいた。

 

「見てよみんな、こんなにスゴイの撮れちゃった!後で共有しとくね!」

 

「お、おう……ありがとう、ございます」

 

「わー!ありがとハナちゃん!」

 

 ハナちゃんが嬉しそうに写真の写り具合を僕らに見せながら微笑む。そんな彼女につられてか、徹も嬉しそうに写真を眺めていた……ん?なんかさっきからみこちゃんの様子がおかしいな。どうしたの?と声をかけようとして、彼女の視線にあるモノを見て合点がいった。

 

「……もしかしてみこちゃん、あそこにいるカナブン見てた?」

 

「…………へ、え?な、何?か、カナブン?」

 

「何って、あの木に止まってるの見てたんでしょ?なんか凄い緑に輝いているの」

 

 そう言って僕は、木に止まっているカナブンを指差す。

 

 いや〜、気持ちは分からんでもないよ?あそこまで綺麗な光沢を放つカナブンは、こっちじゃあ中々見ないからねぇ。けど、見るならもう少し近付いてもいいんじゃない?距離近いと逃げるかもしれないとはいえ、身体を震わせるくらいに目を凝らしても疲れるだけだよ?

 

 ……そういえば。そもそもカナブンって、何で『カナブン』って呼ばれてるんだ?

 片仮名のカナ?神奈川のカナ?「無限の彼方へさぁ行くぞ!」のカナ?

 文化祭のブン?分捕るのブン?文豪ストレイドッグズのブン?

 答えは一体どれなんだァーーーー「わふっ」

 

 ……え?なにいまの? カナブンの名前の由来について考察してたら、突然大きめの風が顔面に吹き付けたんだけど。

 

「おおう……?なんで急に風がーーおふっ!」

 

 ちょ、さっきよりも強い奴が吹いて来たんですけど!しかも獣臭い!ナニコレ!?

 風はすぐに収まったけど、マジでなんなんだアレ。徹とハナちゃんの方を見るに、コレといったリアクション取ってないから、多分僕にだけ吹いて来たよね? 何故に?

 

「…………よ、洋太……大丈夫?」

 

 なんて事考えてると、みこちゃんが心配そうに話しかけてきた。

 あ、よかった。多分反応的に、みこちゃんも変な風に当たってたみたいだ。キミもナカーマ。あとコレといった影響は無さそうで安心しました。

 

「大丈夫大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから。

 ……それにしても、ホントに変な風だったなぁ。みこちゃんは大丈夫?髪乱れてーはないけど、葉っぱとか変なのついてないよね?」

 

「………大丈夫、たぶん燃えたから」

 

「燃えた!?何がなんの要因で!?」

 

 そう言いながら彼女の髪をまじまじと見てみるが、コレといった変化は見当たらない。少なくとも、風に煽られてボサボサになった様子も、灰みたいな奴が髪についてないのを確認してホッと胸を撫で下ろす……しかしその直後、生暖かい風が頭頂部から伝わり、同時に強烈な激痛が頭中に走り回った。

 

「──いででででででででででで!?ナニコレ痛い痛い痛い痛い痛い!?」

 

 頭に着けられた金の輪っかを締め付けられた孫悟空も、こんな気分だったのかな。なんて呑気なことを考える暇も無く、僕はたまらずみこちゃんの手を離してその場を転げ回り悶える。

 なんかみこちゃん達の心配する声が聞こえてきたが、それに答えるくらいの余裕は今の僕には無かった。

 訳のわからない痛みに困惑しながら石畳の上をゴロゴロとしていると……急に痛みが嘘みたいに消えた。

 

「だ、大丈夫洋太くん!?」

 

「ちょ、どうしたんだよ洋太⁉︎ 急に叫び出して、転げ回って……」

 

 いきなり痛みが収まったのを確認して、頭を抑えながらゆっくりと身を起こすと、ハナちゃんと徹が心配そうにこちらを覗き込んできた。

 

「いや、なんか急に頭を齧り付かれた様な頭痛が襲って来て……え、なに今の?痛風?」

 

「なんかスゲー具体的な説明!あとその症状、絶対痛風じゃねぇと思うぞ。

 ……一応大丈夫だよな?帰ったら安静にしてろよな?」

 

「うん、ありがとう……みこちゃんもごめんね、心配かけて」

 

「……洋太、本当に大丈夫、だよね?」

 

 とりま、突然襲った頭痛が治った事に安堵しつつ、なんだか顔色を悪くしたみこちゃんが僕の事を心配そうに見つめてきた。

 ……うむ、僕のせいで余計な心配をさせてしまったな。そんな反省をしつつ、神妙な面持ちの彼女に微笑んで安心させようとする。

 

「もう大丈夫!この通り元気ビンビンだ《ぐぅ〜〜〜!》…お腹すいた」

 

「……んふっ」

 

 そう言ってダブルバイセップスをしてみせるが、その瞬間お腹から腹の虫が大音量で鳴き始めた。もうちょい空気読んで欲しかったよマイお腹よ。

 だけどそれを聞いて、心配そうな顔を浮かべていた幼馴染の堪えきれなかった笑みを見て、僕はホッとしながら彼女の手を握って立ち上がる。

 ……そうだ、お昼はラーメン食べに行こうと思ってたんだ。そう考えて歩き出そうと、みこちゃんの腕をグイッと引っ張る。

 

「ほら、そろそろ降りよ?早くラーメン食べたいしさ」

 

「……そうだね。はやく行こう」

 

「ラーメンって……女子いるんだから、他になんかあったろ……」

 

「だいじょうぶだよー!あたしもラーメン食べたい気分だったし、ちょっと肌寒くなったからちょうど良かったな〜!」

 

 そんな話を交えながら階段を降りる僕らだったが、麓へ着くまであの獣臭さが僕の鼻から離れることは無く。まるで“ナニカ”に監視されている様な気配を感じつつも、そんな事を一々考えてもキリがないんで、次の瞬間には醤油か味噌か塩か豚骨か、なんのラーメンを食べるかについて意識を向けるのだった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 ──なんかデカイのいる。

 それが私の抱いた、まるで狐の様な化け物……否、神サマに対する最初の印象だった。

 

 

 

 遡ること今から少し前。私はアプリのナビを頼りに、バス経由で離れた場所にある山の古ぼけた神社へと訪れていた。

 そもそも、どうしてこんな所に来ているのかというと……

 

『■■■■ ■■■■……』

 

 少し離れた場所からハナに憑いてやって来ている“ヤバい奴”を、神頼みでどうにかするためである。

 もちろん最初は洋太になんとかして貰おうと考えたが、“ヤバい奴”は洋太を警戒しているのかずっと一定に距離を保っている為に、偶々ぶつかって浄化して貰う、この間みたいにくしゃみで吹き飛ばして貰う…といった方法を取るのが難しくなってしまった。

 

 それでも一瞬、この際だから正直に「ハナにヤバいのが憑いてるから祓って」と言ってしまおうかと思ったが、そんなことしたら私が『見えている』事がバレてしまう危険がある。

 そもそも洋太は『見えていない』んだからちゃんと祓い切れるかわからないし、色々と変な心配をかけてしまうかもしれないし、下手に教えたら「ハナちゃんに憑いてるヤバい奴どこですか〜!」なんて馬鹿正直に聞いて“ヤバい奴”を刺激してしまうだろう事が容易く予想出来てしまうのですぐに却下した。

 

「……………しらないっ!」

 

「ゴハッ!?」

 

「ウワー!徹が吐血したァーーー!?」

 

『ピキィ……』

 

 ……あと、ハナと喧嘩したらしい影杉くんの対応で忙しそうなので、これ以上はあまり迷惑かけたくなかったし。

 そういえばあの蚕蛾、あの“ヤバい奴”が怖いのか、ずっと震えながら影杉くんの顔に引っ付いているな……ちょっと『エイリアン』のフェイスハガーみたいだなと不謹慎な事を考えつつ、影杉くんは大丈夫なのかと少し心配になる。

 

「ハハハ、見ろ。俺がゴミの様だ!」

 

「生きる事を諦めるなァ!誇れ、そなたは美しい!」

 

 ……ミブリ映画のセリフを言う位には余裕あるみたいで安心したが、今はそんな事よりも“ヤバい奴”をどうにかしないと。

 “チリーン”という四つの金属音をお賽銭から響かせ、麻縄を振って鈴を鳴らすと、私は願い事を叶える為に祈りを捧げた。

 

(お願いしますどうかハナを憑いているヤバいのを何とかしてくださいお願いしますお願いします何でもしますどうかハナを呪いから救ってください……ついでに私も……)

 

 強く手を握り締めながら必死に神頼みをして、ハナとついでに私の事も守って貰おうとして……

 

 ──アハハハハ!メッチャ濡れたッ!!

 ──ア"ァァァァァァァーーーーッ!?目が、目がぁぁぁぁぁぁッッ!!

 ──ごめんね、みこちゃん……僕がもっと頭が良かったら、あんな思いさせなかったのに……

 

(……いや、やっぱり洋太の事も守って下さい)

 

 馬鹿だからいつもそそっかしくて、意外と貧乏くじを引きがちで、変なところで真面目な、そんな放っておけない幼馴染の顔を思い浮かべながら、私は心中で神様にそう願った。

 

(………こ、コレだけ祈れば、少しはご利益で──なんか増えてる⁉︎)

 

 ゆっくりと背後の方へ視線を向けると、おかっぱから狐の耳みたいなのが生えた着物姿の“ナニカ”が二人、帯から垂らした鈴を鳴らしながら“ヤバい奴”の左右に立っていた。

 

「………みこちゃん、こっち来て貰って良い?」

 

「……………あ、うん……」

 

 私は洋太に引っ張られながら少し離れた所に立つと、影杉くんがハナに土下座しているのを横目に“ヤバい奴”の両腕を捥ぎ取った二人の“ナニカ”が、腕を前に出して“ヤバい奴”を圧殺させようとする。

 

(アレは……何?ヤバいのが苦しんでるけど……もしかして、神さま的な奴で……あのヤバいのを祓って貰おうと……が、がんばっああああああああっ!?)

 

 このまま祓ってもらえるかと安堵したが、苦しげな呻き声を上げながらジタバタと暴れる“ヤバい奴”は、反撃とばかりに舌を伸ばして二人の“ナニカ”を返り討ちにしてしまった。

 

「っ……あ、あれ見て!あの鳥居の逆光のかんじ!超おごそか!」

 

 打ち取った“ナニカ”を口に含んで咀嚼する“ヤバい奴”に絶句していると、ハナが鳥居の方を指差してそう叫んだ。しかし私の視界には“ナニカ”を取り込んで未だ健在の“ヤバい奴”が映り込んでいており、心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 

「ふふふっ、こんな時の為に買っといてよかった、自撮り棒!」

 

「……あの、えっと……ゆり……は、ハナさん。距離近くないですか?」

 

「え?でもこうしないと徹くん写らないでしょ?ほら二人も、もっとこっち寄って!」

 

「そうだゾ〜徹くん?だから観念して……んん?」

 

 鳥居を背にして写真を撮ろうとするハナに賛同した洋太に引っ張られながら、自撮り棒につけられたスマホを前に並ぶ私達。

 私は背後にいるであろう存在に対する恐怖で洋太の手を強く握り締めていると、鼻をぴくぴくと動かす洋太が“ヤバい奴”の方に振り返っていたのを目にして、私も思わずそちらへ視線を向ける。

 

 

 

 ──そして此処で冒頭の心情に戻る、という訳だ。

 

 

 

「見てよみんな、こんなにスゴイの撮れちゃった!後で共有しとくね!」

 

「お、おう……ありがとう、ございます」

 

「わー!ありがとハナちゃん!」

 

 三人がさっきの写真で盛り上がっている中、私は太陽を背にして凄まじい威圧感を放ちながら出現した存在に対して畏怖を抱いていた。

 あの後ハナに憑いていた“ヤバい奴”は、その存在に鷲掴みにされながら丸呑みにされた。ちょっとあまりの出来事で未だ混乱しているが、それ事態は良い。良いのだが……

 

『■■■■ ■■■■……』

『■■■■ ■■■■……?』

『■■■■ ■■■■……!』

 

(なんか喋ってる……⁉︎ ヤバいヤバい、怖い……!)

 

 巨大な狐の存在と、無事?に復活した二人の着物を着た存在に囲まれ、何言っているのか分からない言葉で話しかけられ、私はもう気が気じゃなかった。

 ある程度の“ヤバい奴”ならば「洋太が守ってくれている」と安心出来たが、この三体から放たれる威圧感はこれまでとは比べ物にならなくて、恐怖で足がすくんで動けなくなってしまっていた。

 

「……もしかしてみこちゃん、あそこにいるカナブン見てた?」

 

「…………へ、え?な、何?か、カナブン?」

 

「何って、あの木に止まってるの見てたんでしょ?なんか凄い緑に輝いているの」

 

 ……なんか馬鹿な勘違いをした幼馴染にそう話しかけられるが、この時ばかりはその馬鹿な勘違いが有難い蜘蛛の糸のように感じた。

 周囲に立つ存在から気をそらす様に洋太に引っ付いて、カナブンがいるという所へ視線を逸らす。だがしかし、そんなの関係ねぇとばかりに狐の神サマが私の頭上に手を伸ばすと、指を擦って何かを振り掛け……

 

 ──ボウッ

 

(……なんか燃えた音がした)

 

 頭上から小さな発火音が鳴り響く。え?もしかしてコレって、洋太の力のお陰?

 そんな事を考えていると突然足が重くなったのを感じ、慌てて視線を周囲にいる彼らへと向けると、さっきより凄まじい威圧感を放って此方を睨み付ける狐の神サマと目が合ってしまった。

 

(なんか滅茶苦茶怒ってるーー!?)

 

 さっきから胸の中で不安が渦巻いてる中、なんだか色々な事が起こりすぎて頭がパンクしそうになるが、なんとか持ち堪えて今何が起きているのかを冷静に考えようとしていると……二人の着物を着た存在がこちらへ両手を伸ばして──

 

「わふっ」

 

(ッ!? な、なんで……洋太を攻撃してるの……!?)

 

 なにやら霊的エネルギー波みたいなものが、洋太に向けて放たれた。

 いきなり攻撃された幼馴染を見て私は気が気じゃ無くなるが、それをモロに受けた洋太はびっくりした様子で周囲をキョロキョロしており、そんなに効いていない様に見える。

 だけども私の恐怖はドンドン増していく。あの狐の神サマ、さっきより凄い形相で洋太を睨んでいるし……

 

「おおう……?なんで急に風が──おふっ!」

 

 そんな私に追い打ちをかける様に、今度は神サマが私達の前に来て、大きな手を振りかぶって殴り掛かって来た。

 私は咄嗟に目をつぶって、洋太の手を強く握りしめながら衝撃の余波に身構えると目の前に暴風が吹き荒れ、同時に爆発したような轟音が周囲に響き渡る。

 恐怖で潤んだ瞼を開くとそこには、やはりびっくりしただけで何ともなさそうな洋太と、殴り掛かった片手の表面が煙を出しながら焼かれている狐の神サマの姿が目に映り込んだ。

 

「…………よ、洋太……大丈夫?」

 

「大丈夫大丈夫、ちょっとびっくりしただけだから。

 ……それにしても、ホントに変な風だったなぁ。みこちゃんは大丈夫?髪乱れてーはないけど、葉っぱとか変なのついてないよね?」

 

「………大丈夫、たぶん燃えたから」

 

「燃えた!?何がなんの要因で!?」

 

(その“何が”は分からないけど、“要因”はたぶん洋太だと思う……)

 

 さっきの光景に唖然しながら現実逃避気味に洋太と話をしていると、神サマは洋太に手を伸ばしてバキバキと不気味な音を立てながら、さっき“ヤバい奴”を飲み込んだ時みたいに体を二つに裂け始め……

 

 ──キンッ!

 

 予備動作を中断させんとばかりに、洋太から貰った紅い数珠から飛び出た“何か”によって神サマの人指し指が四つに斬り刻まれ、地面にボトボトと落ちる。

 

(こ、今度はなに……⁉︎)

 

 地面に転がる指を注視しながら、目の前で起きた光景に思わず硬直しかけていると、ふわりとした白い何かが私の身体を覆うように巻き付いた。

 慌ててその何かを確認すると、それは尻尾の様で……狐の神サマの方からグルグルと唸り声が聞こえだし、一体何なのかと思いながらそちらへ顔を向ける。

 

 ──其処には、私よりも頭ひとつ分大きくて、純白の毛を逆立てながら、宝石みたいに綺麗で真っ赤な目で睨み付ける一匹の狼が、神サマの前に立ち塞がっていた。

 

(ま、また何か出て来た……!)

 

『……■■■■ ■■■■!』

 

 パニックに陥っている私を他所に、白い狼は謎の言語で狐の神サマと会話をする。

 それを聞いた神サマは新たに現れた白い狼を睨みつけながら不機嫌そうに手を引っ込め、他の着物を着た二人と一緒に謎の言語を放ち始めた。

 

『■■■■ ■■■■……っ!』

 

『■■■■?■■■■www』

 

『■■■■!■■■■……ッ!』

 

(……なんか凄い言い争いしてる!本当に何の話をしてるの!?)

 

 両者の論争がヒートアップして行く度に、私の背中に重圧がのし掛かる様な感覚を味わう。そして言い争う声が徐々に少なくなっていき、神サマが私を指差しながら何かを言うと、白い狼は舌打ちをしながら洋太の方へと顔を向ける。

 何をするつもりなのかと視線を白い狼一点へ集中させていると、鋭い牙を揃えた大きな口を開けて、ガブッと洋太の頭に齧り付いた。

 

「──いででででででででででで!?ナニコレ痛い痛い痛い痛い痛い!?」

 

「ッ⁉︎ よ、洋太!?」

 

 明らかにヤバそうな狐の神サマの攻撃すら防ぐ洋太の光を物ともせず、まるで骨を食べる犬の様にガリゴリと齧り、洋太が石畳の上を転がって悶絶しても噛み付いて離さない白い狼。

 そのあまりに異様な光景に動揺し、洋太に駆け寄ろうと足を一歩踏み出したその時……

 

『──さんかい』

 

 神サマによって何かを頭から掛けられ。さっきまでの聞き取れなかった言語とは違い、ちゃんと理解出来る言葉でそう囁かれた。

 突然の事に硬直する私を他所に、心なしか神サマは満足そうな表情を浮かべるとその場から姿を消した。

 

『…………フンッ』

 

 それを見た白い狼は、さっきまで洋太に齧り付いていた口を離すと、憎らしげに神サマがいた所を眺めてから私の方へと跳び込んで来た。

 とっさに腕を前に出しながら衝撃に備えるが、いつまで待っても衝撃は来ず……恐る恐る腕を退けて見てみると、其処にはもう白い狼の姿は無く、代わりに腕の数珠ブレスレッドが熱を放ちながら光っていた。

 

(……もしかして今の狼、この数珠から……?)

 

「うん、ありがとう……みこちゃんもごめんね、心配かけて」

 

「……洋太、本当に大丈夫、だよね?」

 

 右腕に付けた数珠を見ながら若干放心状態になりつつそんな事を考えていると、石畳の上に座り込んだ洋太がそんな事を言い始めた。

 さっきの状況もあって心配な私は、頭は大丈夫なのかと思いながら問い掛ける。

 

「もう大丈夫!この通り元気ビンビンだ《ぐぅ〜〜〜!》…お腹すいた」

 

「……んふっ」

 

 だけどお腹を鳴らしながら笑顔でそう言う洋太に、緊張がきれて力が抜けたせいか、思わず笑いが漏れてしまう。

 

(あー、もう……いつも心配ばかりかけて……本当に、無事でよかった)

 

「ほら、そろそろ降りよ?早くラーメン食べたいしさ」

 

「……そうだね。はやく行こう」

 

 ──さっきの神サマとか白い狼のこととか、気になることはいっぱいあるけど……今は取り敢えず大丈夫だと思いながら、私達は神社を去っていった。

 

 

 

『ビギィ…』

 

 …あと洋太の光を長時間浴びた影響で黒いオーラを浄化された為か、何か白くなった蚕蛾の子が影杉くんの頭に乗っかっていた事は、余談としてここに記しておく。




●見円洋太
前半の話を担当した馬鹿猿。またしても何も知らない男(16)。
しかし馬鹿猿というにはバカエピソードの質が薄い気がして、今回に至ってはツッコミの割合が増えている気がするので、ちゃんとおバカキャラを書けているか不安になっている。それが作者(ボク)です。
ミブリ映画だと、某CV.テラードーパントの悪役が出て来る奴がいっちゃん好きとのコトで、悪役の余裕たっぷりな「3分間舞ってやる!」がお気に入り台詞(誤字にあらず)。

●四谷みこ
後半の話を担当した可哀想な子。(OMO)< 3!
見える子ちゃんSSにおいて、話の都合により例の神社で『さんかい』を貰うことは最早決定事項であり、確認出来るだけでもこれを回避できたのは現状、某ぬ〜べ〜が出て来る短編SSのみである。
幼馴染と某人をゴミの様に殺す悪役が出て来るミブリ映画を見てる時は、終盤辺りでいつも一緒に滅びの呪文を唱えている。

●山の神様
狐の神様で人の願いを叶えるが、流石に世界を作り変えることは出来ないし、スター・オブ・ザ・スターズ・オブ・ザ・スターズでもない。
支配欲?ダイヤモンド?ラブ&ピース?どんな願いもあなたの思い通り。ゴーンシャラン…
おめでとうございます!厳正なる審査の結果、あなたは選ばれました!今からあなたは生贄です!

●狐の巫女
藁にすがるほど困っているなら、主人の神社までおいで。
どんな問題も、私たちが解決しよう。
叶え叶え叶えまくれば満足だろう?
──だが忘れるな、『其れ相当の見返り』。

●謎の白狼
馬鹿猿「君は一体ッ!何なんだッッ!!(音割れクソデカボイス)」
????「煩い‼︎黙れ小僧!お前にあの娘の不幸を癒せるのか?
ある日突然見えざる存在が何の前ぶり無く見える様なってからずっと毎日、見えないフリをしてやり過ごしてやり過ごして、自身の身を守って来た子娘がみこだ。
霊能力者にもなれず、普通の女子高生にもなりきれぬ、哀れで可哀想で、可愛い娘だ。
お前にみこを救えるのか!?」
馬鹿猿「……分からぬ。だが共に生きる事は出来る。それで結局ダリナンダアンタイッタイ」
????「その説明をする前に、輪廻転生やら太陽神について理解する必要がある。少し長くなるぞ」
馬鹿猿「ジャアイイデス〜」

●ミブリ映画
メタ的に言えばジブリのパロディ作品。
恭介回にて『カリオストロの城』が出て来たが、カリオストロの城はジブリ作品であると同時にルパン映画でもあるので、そのままのタイトルで出しました。というかそういう事にして下さいお願いします。
現状判明してる奴だと『ちかばのトロル(となりの●トロ)』『おぼろげ姫(も●のけ姫)』『犬の倍返し(猫の恩●し)』『千利休の鬼ころし(千と千尋の●隠し)』ていうのがあり、ちかばのトロルに至っては続編がある模様。
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