【カミノケ】
──髪は神に通ずる。
古くから“神の化”や“女性の命”だと云われている髪の毛は、人体にとって天から一番近くて太陽の光を一番に受けたり、絶え間無く伸びる上に生えるのも早い事から生命力のシンボルとされ、霊力や神秘的なパワーが秘められていると考えられている。
神社の巫女やシャーマンが髪を伸ばしている事が多いのも、神と繋がりやすくする為だと云われており。そういった理由から、御呪いに願掛け、丑の刻参りといった呪術などにも髪の毛が用いられる事がある。
そして髪の毛には様々な思念や想いが宿りやすく。それによって『
お坊さんが坊主なのも、髪に悪い気として宿った煩悩を剃髪によって断ち切り、悟りを開く為だとか。
その他にも、髪を美しく保つ事は自分自身を清めるという事にも繫がり、これらが現代でも洗髪やヘアケアが重要視される要因のひとつにもなっているのかもしれない。
「──ふぅ。まぁこんな感じかしら……」
金髪を下ろした部屋着姿の二暮堂ユリアはそう呟いてシャーペンを置くと、ルーズリーフに書いた内容に目を通していく。
(……とりあえず本を読んだりネットで調べて、なんか役に立ちそうな奴を片っ端から書いてはいるけど……ホントにこんなのでいいのかしら……?)
──つい先日。ゴッドマザーの一番弟子(その様な事実は御座いません)であるユリアは、見円洋太という無自覚系能力者の師匠(これは事実である)となった。
しかし能力者としてはまだまだ未熟である事を自覚していた彼女は、原石の時点で既に圧倒的な才能を誇る彼を前にして、能力者としても師匠としても自信を喪失する結果に表情を曇らせていた。
(……っ。いえ、自信を持ちなさいワタシ!貴女はゴッドマザーの一番弟子として、洋太の師匠として頑張るんでしょ⁉︎ )
それでも洋太の師匠である事を諦める事はしなかった。
彼が“この世ならざる者”が見えないタイプの能力者である事実が、彼女の唯一残された師匠としてのプライドを刺激したからだ。
しかし霊能力者としての専門知識などについては特別詳しいわけでもない為、まず童心に帰って一からスピリチュアルや霊能力に対する理解を深める為の情報整理・収集を始めた。
(そしてみこ……彼女がどれ程の能力者かは知らないけど、絶対にワタシの力を認めさせてやるんだから……!)
今までの経験で培った“この世ならざる者”のおおよそな生態を始め、ネットや書店で調べた霊能力や陰陽道についての知識、果てには風水や宗教的な話など。自分よりもそういった知識に疎いであろう洋太にも分かりやすく説明出来る様に、様々な観点から情報をノートに書いて整理していた彼女は、学校で自身に屈辱を与えた四谷みこに対して強いライバル心を滾らせていた。
『それにしても、能力者か〜……もしかして、この間から見始めた夢と関係あるんかな?』
(…………そういえば彼。みこみたいに“アイツら”が見えてない筈なのに、結構すんなり信じてくれてたなぁ……)
そんな中、ベッドの上に転がりながらノートを見直していたユリアは、ふと洋太の言動を振り返る。
『ユーレイ見えるとか、構ってちゃんかよ』
『キモっ』
『まぁ、俺としてはぶっちゃけなんでもいいんだけどさ……』
……たとえ彼が疑う事を知らない馬鹿であったとしても、“この世ならざる者”の姿は常人の目に映る事はまず無い。
故に、通常は奇怪な目で見られるか、どうでも良さそうに話を聞き流すか。或いは只の空想話として受け取られるか、悪い意味で揶揄われるのが関の山。
同じ能力を持っている者同士でもない限り、霊などが居ることを心から信じてくれる人間は極稀だろう。
──これからはユリアちゃんの事、師匠って呼ばせていただきます!よろしくおねがいしますユリア師匠!!
だがそれでも洋太は、彼女が語った空想の様な話を信じてくれた。
同情や面白半分で話に乗ってきた蔑みを含んだ目とは違う、純粋無垢で真っ直ぐな目を向け、師匠と慕ってくれた。
少なくとも。見えていない者に“この世ならざる者”の話を信じて貰えたのは、ユリアにとって始めての経験であった。
「……もう少し、書いてから寝よ」
そう呟いた彼女は再びペンを持って、スマホを起動しながらノートに視線を落とす。
彼の純粋な信頼と眼差しを思い出し、いつの間にか柄にもなく口元を緩めて、顔を赤く染めながら続きを書き進めていった。
卍 卍 卍
【アホのカミ】
「見てよ徹!いま“
──ピョコ、ピョコ。
「……え、マジで⁉︎ ライダーとラムラビが!?」
「大マジ!しかも数量限定で、ビルド・ラビットラビットフォームコスチュームのラムラビストラップが販売してるみたい!」
──ピョコ、ピョコ。
「マジかよ、ハナさん絶対に買いに行く奴やんけ。これを機に、彼女にも仮面ライダーの沼にハマって貰おうかしら……」
「ナイスですねェ!このままじゃんじゃかとライダーの魅力を知らしめていこうぜ!!」
──ピョコ、ピョコ。
「…………なぁ、洋太。前から気になってた事があるんだけどよ……」
「ん?なに徹?」
──ピョコ、ピョコ。
「……お前の、その頭の奴……『アホ毛』って言うのかなぁ。それどうなってんの?」
お昼休み。エナドリの缶を机に置いてそう問い掛ける徹の目の前でスマホを持った洋太の頭には、ぴょこぴょことアホ毛が靡いていた。
初めて会った時から薄々その頭の毛に違和感を感じてはいたが、今日その疑問が遂にファーストインパクトした為、こうして直接問い掛けているというワケである。
「アホ毛?……あぁ、この頭の奴のこと?」
「そうそう。その頭の……何だろう……メガシンカのマークみたいな形をした奴が、炎が揺れるみてぇに動いてんのよ」
「メガシンカ……あのS字みたいな奴だよね。そういえばソレで思い出したけど、アレってオメガルビーアルファサファイア以降新しいの出てないよね?やっぱ描くのめんどいのかな」
「うんそれも気になるけど、そっちはぶっちゃけ後回しでも良いのよ。先に切り出した俺に非はあるんだけど、話脱線するからまた今度語ろうな?」
幼少期から鏡などで見慣れているであろう頭の毛に触りながらそう話す洋太に冷静に突っ込むと、徹は一呼吸置いてから話を戻す。
「それで頭の奴についてだけど……ホントどうなってんのよソレ。漫画やアニメとかでしか見ないレベルでピコピコ揺れてんだけど」
「うーん……そう言われても。昔からこんな感じだから、別に『変だ』とは思ったこと無いなぁ……そういえば。みこちゃんにも昔よく、頭の髪を触られたっけなぁ……『洋太の髪ってフワフワしてて触り心地良いよね。私これ結構好きだよ』って言われたの、アレ結構嬉しかったりするんだよね」
「サラッと語られるノロケ話。それを聞いた俺は一体どんな反応するのが正しいのかしら」
まさか寄生獣とかラブデラックスみてーなのが植え付けられてるとかねぇよな?なんてくだらない事を考えつつ、嬉しそうな顔で昔の思い出を洩らしながらアホ毛を揺らす親友をジト目で眺めていた。
「おーおー。キミら、何の話しとんのや」
「あ、白沼改めドブカス眼鏡」
そんな彼らの元へ、クラスメイトのひとりである白沼天匙が何時もの様に関西弁で話し掛けて来た。
「やっほー白沼くん。実は徹と、僕の頭の奴について話してたんだよね」
「頭の奴……?あ、そのアホ毛かいな」
天匙は洋太の頭で揺れるアホ毛をまじまじと見詰め。そして何かを思い付いた様な表情を浮かべた後、唐突にアホ毛を摑んだ。
それに洋太は一体何なのかと疑問に思っていると……
──ブチィ!
「痛゛ってぇ!? え⁉︎ なんで今引き千切られた!?」
どういうわけかいきなりアホ毛をちぎり取られ。涙目になりながら頭を押さえ、訳がわからないといった様子で天匙を睨む。
「イヤ、なんかムカついたから」
「ドブカスの様な理不尽が僕を襲う!……ねぇ徹、髪の毛引きちぎられるのって、暴力にカテゴライズされる?」
「安心しろ、それも立派なバイオレンスだ。裁判なら傷害罪で起訴できるぞ」
それに対し彼はへらりと下衆な笑みを浮かべてそう宣い、洋太は引き千切られたアホ毛の根元を摩りながら徹とそんなやり取りをする。
「……あぁ、そういや今日は用事があったヤンケ。ほなウチはここいらで帰らせていただくで〜!センコーにゃあ『体調不良で早退』って伝えといてやー」
「マジかよアイツ帰りやがった。てか何しに来たんだよ」
唐突に思い出したかの様な口調でそう言うと、鼻歌を歌いながら手を振って教室を出て行った天匙の後ろ姿を、徹は呆れた顔で見送っていた。
「……んぁ、いったぁ……ちょっと徹、頭禿げて無いよね?」
「あー……禿げてはないけど、ぱっと見の違和感が凄いな。ジオウの額にあるライダーズクレストが無くなった感じと同じくらいの違和感」
「かなりの違和感やね。アレがないと我が魔王は『カメンライダー』じゃなくて、ただの『ライダー』になっちゃうからね。
おーい、玲音くん。髪整えてる所悪いんだけど、ちょっと鏡貸してくれるー?」
「……ん?あぁ、構わないよマイフレンド洋太☆ただし指紋は付けないように気を付けてくれよ?」
「ありがとう。えーっと、どれどれ……」
一方の洋太は頭頂部を親友に見てもらいながら、自分でも頭がどうなっているのか確認する為に2つ前の席で髪をいじっていた西園寺玲音から鏡を借り、鏡面を自分に向けて頭部を映し出してみると……
《ピョコ!》
「あ、生えてきた」
「マジで!?髪の毛ってこんな早く生えるもんだっけ!?」
抜かれる前と同じ長さ大きさのアホ毛が、頭から生えてきていた。
その光景を目の当たりにした洋太は驚きながらサラッと感想を述べ、それを隣で見ていた徹は驚愕の声を上げながらツッコミを入れた。
「……………あー、ダメや。完全に燃え尽きとる。やっぱ無理やり引きちぎったのがアカンかったんかなぁ?」
その頃。ガッカリとした表情を浮かべながらそう呟き、手についた真っ白な灰を払った天匙は、窓の外で宙を飛んでいる烏を見上げて気怠そうに廊下を歩いていた。
卍 卍 卍
【カミをみつあみ】
「──限定コスチュームのラムダラビット、ゲットだぜ〜〜!」
「おめでとう百合川ハナ。君は仮面ライダーファンとしての、記念すべき第一歩を踏み出した」
BBトルズ。街中にあるサブカルチャービルのひとつで、アニメグッズやゲームなどの専門ショップに加えてファッション関係のお店も充実しており、『この街イチバンのサブカルショップ』を自称している。
そこのビル内部にあるコラボショップでグッズ購入を終えて、ビルド・ラビラビフォームコスのラムラビストラップを掲げるハナちゃんと、いくつかの戦利品が入ったビニールショップ袋を腕に通していた徹が彼女へと拍手を送るのを横目に、みこちゃん達と一緒に一階へ降りていた。
「それにしてもこのラムラビ、なんてライダー?のコスチュームを着てるのかな……徹くんなら詳しいよね?」
「よくぞ聞いてくれましたァ!このコスチュームの元ネタは、仮面ライダービルドの強化フォームのひとつである『ラビットラビットフォーム』で、フルフルラビットタンクボトルっていうアイテムをハザードトリガーを装着したドライバーにセットして変身するんだけれど。これの前強化フォームであるハザードフォームは強力な戦闘能力を発揮する代わりに強化剤の影響で自我を失い暴走する危険性があって、実際にこれのせいで青羽っていう敵キャラを殺してしまったもんだから主人公の戦兎は罪悪感で戦意喪失してまったのよ。そこから色々あって取り敢えず立ち直った後、ハザードフォームの変身に使うハザードトリガーを使わざる終えない状況に苦悩するんだけど、そんな中でハザードトリガーから供給される強化剤の効果を抑制できる、生物と生物の同成分による干渉を引き起こす事で生成される調整剤を搭載した『フルフルラビットタンクボトル』の開発に成功!お陰で暴走して誰かを傷つけるリスクもなくなり、尚且つ最大限に戦闘能力を発揮できるようになって一安心!といった感じで、危険な力を正しい意志のもとで叡智の結晶である科学で制する、そんな戦兎の意思を象徴する様なパワーアップフォームです。それで変身する際には、ハザードフォームになったビルドの上にウサギ型の赤い強化アーマーを装着するんだけど、そん時にめちゃくちゃ飛び回って回収する様に装着するシーンがスタイリッシュでかなりオススメなんだよな〜!そうそう肝心の外見についてだけど、真っ赤な装甲に兎耳みたいなマフラーが高速挙動によって靡く姿がマジカッコよくて……」
「うわ急にすごい語るじゃん」
「待ってくれたまえ徹。仮面ライダー知識をワッと一気に浴びせにかかるのは」
「…………うん、とりあえず凄くカッコいい奴って事だよね!
あ、見て見て!カレーナンタコスだってさ!食べに行こっ!」
徹のマシンガントークにみこちゃんもビックリし、ハナちゃんは苦笑いしながら入り口近くにあったカレーナンタコスを販売するキッチンカーに気付いて、そっちへと駆け寄っていった。
よほど人気なのかスゴイ並んでるけど、僕もちょっと小腹が空いたのでバナナを食べながら並ぶ事にしますか。ついでに語り過ぎでちょっと凹んでる徹の分も買ってあげるとするか。みこちゃんも食べ……え?お腹空いてないから大丈夫?あ、そうですか……
「ねぇ〜!さっきの『タルタルエッグ卵綴じサンド』の屋台ヤバくなかった〜?」
「マジそれな〜〜!しかも結構行列が出来てたよね〜!」
そんなこんなで並び始めるとふと女性二人の話し声が聞こえ、思わず彼女達の方へと視線を向けると、ハナちゃんも口から涎を垂らしながら同じタイミングでそちらへと顔を向けていた。
「ハナさんや、今の聞きましたか……?」
「うん……!タルタルエッグ卵綴じサンド、凄く美味しそうな気がする……っ!」
「なにそのサンドイッチ卵オンリーじゃん」
「コレステロール値が天元突破しそうな料理だな」
僕とハナちゃんによる軽く会釈しながらのやり取りを耳に入れていたみこちゃんと徹はそう呟きながら、少々引き気味な顔をしていた。
だが待ってくれ。タルタルエッグってタルタルソースにマッシュした卵をレッツラまぜまぜした奴だったよね?それを更に卵で綴じたとなれば、どんな味になるか気になるよね?僕は気になります!
「そういう訳だからみこっ、代わりに洋太くんと並んでて!行くよ徹くんっ!タルタルエッグ卵綴じサンドがあたしを待ってる!!」
「え、ちょ、なんで俺も!?もしかして荷物持ち要員ですか⁉︎」
ハナちゃんはスマホをいじりながらちょっと離れた所で待機しようとしてたみこちゃんを僕の方へ寄せると、徹の手を握ってタルタルエッグ卵綴じサンドが売ってると思われる所へと走って行った。
「……そういえば。僕はオーズと電王コスの奴買ったけど、みこちゃんはなに買ったん?」
「ゴーストってやつのコス……」
「あぁ、仮面ライダーゴーストか!もしかしてこの間ユルセンの話したから?」
そして残された僕らは今、前方にみこちゃん、後方に僕が立っている形で行列に並ぶ事となっています。
みこちゃんの取り出した仮面ライダーゴーストコスのラムラビストラップを見て、この間語ったユルセンの話に影響されたのかなぁと考えながら話を進めていた僕だったけれど、ふと幼馴染の後ろ髪が目に入った。
そういえば、ここ最近はみこちゃんと手を繋いでばっかりだったから、髪を弄る機会なかったな。なんて事を思い出し、彼女の黒く長い髪を撫でるように、その毛先を軽く指で絡める。
みこちゃんの髪は、僕のクセが強い髪と違ってとても綺麗で真っ直ぐ伸びていて、サラサラした感触は触っていて気持ちが良いものだ。
「もし仮面ライダーに興味持ってくれたならさぁ〜?今度ウチに来て見てみる?
平成ライダーの奴はだいたいダビングしてあるから、気になる奴から見ていっても良し、みこちゃん家に持っていっても良いよ?」
「……洋太。ダビングした奴を人に貸すのは違法みたいだから、それ辞めた方がいいよ」
「そーなの!?あっ、前に徹の家でダビングされた奴貸してって頼んだら拒否されたことあったけど、アレってそういう事だったんだ!」
後で調べたら、著作権法で「私的利用の複製は合法だが、有償無償問わず他者へ配布する事は違法とされている」とのことでした。
そんなこんなで衝撃の真実に驚きつつ会話を繰り広げながら、みこちゃんの髪で三つ編みに挑戦していた。なんか似合いそうな気がしたので。
……それにしても難しいな。直感で編んでみてはいるけど、心なしか変な感じになってる気がするし、みこちゃんに負担を与えないようにふわっとした感じで編んでるからすぐ解けるし、コレ大丈夫? 最初はもうちょっとアレンジ加えたいなとか思ってたんだけど、なんかちょっとめんどくさくなってきたな。
「じゃあライダー視聴はウチで行うとして、みこちゃんはどんな奴が見たいとかある?
ゴーストから興味を持ってくれたからそっち先に見るのも良いけど、個人としてはまず電王かダブルから見るのがオススメかな〜って思うんだけど……どうかな?」
「………特撮とかそういうのよく分からないし、その辺は洋太に任せるよ」
「りょーかい、洋太くんに任せなさい!」
お、なんか良い感じに編めてきたな!……でもここで手を離したらすぐ解けそうだし、なんかで固定を……あ、そういえばバッグに輪ゴムが入ってた筈。何で手に入れたかは忘れたけど、確かこの辺りに入れてた気が……あったあった。
それでコレをこうして……っと、三つ編み出来上がり!
なんか毛が所々飛び出てるし、少し右に寄ってる気がするけど、なんか前に見た三つ編みも大体こんな感じだった気がするから大丈夫でしょ、多分。
「……洋太。そろそろ行列終わるよ」
「あ、やっと注文出来る感じ?」
「うん、だからすぐ元に戻して。跡が残る」
「…………はい」
どうやらお気に召さなかったようだ。全然大丈夫じゃなかったよ……
まぁまぁ苦労してつくった三つ編みを解いて元に戻しつつ、キッチンカーに飾られたメニュー表を見直した僕は、スパイシーチーズカレーナンとトマトカレーナンのどっちを買うか選び始めた。
「……ん?徹達かな?」
するとスマホの通知音が鳴ったので、タルタルエッグ卵綴じサンド買えたのかなーと思いながら開くが、届いていたのは彼らからでは無く……
「………ふへっ」
「? どうしたの洋太、嬉しそうな顔して」
「ふふっ。いや、帰りが楽しみだなって思っただけ」
後ろを振り向いたみこちゃんにそう返し、すぐに返事のメッセージを書き始めた。
卍 卍 卍
【カミ飾り】
あの後、私は皆と買い物に向かって、道中徹君──彼がハナを名前呼びする様になった際、流れで私も互いに名前で呼びあう事になった──がハナに何買うのか聞いて、彼女から「徹くんのえっち……」とちょっと頬を赤らめながら言われるという一幕があった。
そして現在、時刻は7時過ぎ。洋太と帰路についていた私は……
「ごめんなさいね、迷惑かけちゃって……」
「あ……いえ」
「だいじょーぶっスよ!困った時はお互い様ですから!」
「ごはんはたべたかしら……」
徘徊していたおばあちゃんを二人で家まで送って、無事に目的地でおばあちゃんの娘さんである女性から謝罪の言葉を受け取ってた所である。
何故こうなったかと言えば、私と洋太が歩道橋を歩いてた時、階段下でおばちゃんに腕を掴まれた(最初は“ヤバい奴”だと思ったので、洋太が「お婆ちゃん、みこちゃんの腕掴んでどないしたの?」と声を掛けるまで生身の人間だと気付かなかったのは内緒だ)のがキッカケで、幼馴染に背負って貰いながらおばあちゃんの家前まで運ぶ事となったのだ。
ちなみに「先に帰って良いよ!」と言われたが、この馬鹿は初っ端から違う所へ行きかけたので結局付き添う事にした。
「ほら母さん、いつまでその子におぶって貰ってるの?早く降りて……」
「ありがたや、ありがたや……」
女性は背負われたおばあちゃんに降りるよう促すが、おばあちゃんはお祈りするみたいに呟きながら洋太の髪をわしゃわしゃと撫でて、中々離れようとしなかった。撫でられた洋太の顔は、ちょっとくすぐったそうに見えた。
「どうしたのかしら……こんなこと、今まで無かったのに……本当にごめんなさいね」
「あ、お構いなく!僕、お婆ちゃんっ子なんで!」
女性の申し訳なさそうな様子に、洋太はそう語ってフォローを入れていた。
「あらそう……?そう言って貰えると助かるわ。
二人ともホントにありがとうね。お礼しなくちゃ!」
「え?あっ、私は彼と付き添ってただけなので……あの……」
運んでくれた洋太は兎も角、私は特に何もしてないしお礼もいらないのだが、断り切れずに女性は家の中へ入っていってしまった。
仕方ないので彼女を待ちながら、お母さんに遅くなる事を伝えようとスマホを取り出すと……
『ヨン……ロク……サン……』
(──あ、今度はマジの奴だ……)
いつの間にか、スーツ姿の男性みたいな“ヤバい奴”に目を付けられてしまっていた。
もしこの場にいるのが私だけならすぐに帰ろうと考えたのだが、隣にはおばあちゃんを背負った洋太も居るため、その選択肢は自動的に消える。
(……だっ、大丈夫……!洋太の隣にいれば、たぶん何かされる訳じゃないから……あ近付いて来てる!ダメやっぱ怖い!!)
「それは、いんたーねっと?あかるいのねぇ」
「そうだよお婆ちゃん〜。コレを使って色々と調べる事が出来るんだよ〜、あと暗い時はライトがわりに使えるからめっちゃ便利なんよ〜」
すぐそばに居る存在に震える私の持ってるスマホを見ながら、横で呑気な会話を繰り広げる幼馴染とおばあちゃん。
男性の霊はナニカを呟きながら、御構い無しに此方へ近付いて来ていた。
『ヨン……ロク……サン……イチ……』
(ヤバいヤバいヤバい!めっちゃ来てる!ていうかなんでどんどん近付いてるの⁉︎ 滅茶苦茶ヤバい奴ですら洋太の近くには寄ろうとしないのに!?)
もしかして、思っている以上に“ヤバい奴”なのでは⁉︎ という不安と恐怖で思考が染まり始めていた私は、ずっと何かぶつぶつと呟きながら近寄ってくる男性の霊に涙が出そうになって……そのまま前を素通りし、洋太の前へと立ったその霊に対して疑問が生まれた。
(こ、この人……洋太に近付いて、何してるの?なんか表面が焦げ始めてるけど……)
光の影響で身体からプスプスと煙を出す男性の霊を横目に、そんな事を考えていた私だったが……その霊が洋太の頭を撫でるおばあちゃんの手を重ねる様に手を置き始め、同時に洋太の力によるものなのか、霊の全身が炎に包まれた。
(……も、燃え始めたぁーー!?え、なんで⁉︎ 大体の奴は洋太に触れると途端に消滅するのに、なんで今回は燃えているの!?)
『ヨン……ロク……サン……イチ……』
今まで見たことの無い現象に、私の思考は混乱へと陥る。だが男性の霊が発する言葉から苦しそうな声は出ておらず、寧ろ先程よりもちゃんとしている様な声に聞こえた。
「(………4、6、3、1……? もしかして……)
……おばあちゃん。このスマホを使えば、電話とかメールとかもできるんだよ」
スマホの方へ目を向けながら呟く霊を見て
「どなたか存じませんが、ご親切にどうも………」
「……ん?どないしたのお婆ちゃ……あっ」
「ごめんね!これおまんじゅう……母さん?」
スマホ画面を見た途端に黙り込んだおばあちゃんに洋太がどうしたのかと声を掛けようとしたその時、おばあちゃんが彼の背中を降りて真っ直ぐ引き違い窓の方へ向かい、袋を持った女性と入れ違う様に窓を開けて家の中へ入っていった。
洋太と中を覗き込むと、おばあちゃんは部屋にあった金庫のダイヤルを回しており、開かれた金庫の中には数枚の手紙と、大切そうに鎮座された櫛かんざしがあった。
「あっ……それ、お父さんからの……」
「──今日は豚汁にしようかね。春子」
かんざしを髪に挿したおばあちゃんは、さっきまでの耄碌とした目ではなく、生気の宿った強い眼差しと声で、娘である女性へそう言った。
「……ねぇみこちゃん。あのお婆ちゃん、さっきの数字を見て金庫開けたけど……もしかして、何か知ってた?」
「………いや、テキトーに打った奴を見せただけ」
「ほへー、そうなんだ。不思議な偶然もあるもんだね〜」
洋太の疑問にそう適当に答えつつ、私は隣で燃え続ける男性の霊を視界の端に捉えていた。
『……ありがとう』
その霊の顔は、空が曇った様に黒く染まってたのが嘘みたいに晴れ渡り、部屋の壁に掛けられた遺影にある一人の男性と全く同じ顔を笑顔にしながら私達を見ると、やがて炎が燃え尽きたかの様に消えていった。
「ホラ、あんた達も食べていきなさい、豚汁」
「えっ。あっ、私は……」
「あ、申し訳ないんですけど。今回は遠慮しときます」
私が遠慮しようとすると、何故か洋太が代わりに断っていた。
コイツの事だから、もう少し渋ると思ったんだけど……と考えていたが、次に発せられた言葉で、洋太が直ぐに遠慮した理由が分かった。
「今日はお父さんが、ポトフ作って待ってるんで」
「………ふふっ、そうかい。あんたは?」
「……いえ、お母さんが心配するから。ありがとうございます」
いつも帰りが遅いお父さんの居る家へ帰る事を待ち遠しく思う幼馴染を、ちょっと微笑ましく思いつつ。私も彼に続き、笑顔でそう断ったのだった。
卍 卍 卍
【カミのみぞ知る話】
「やっ、白沼くん。久しいですね」
「えぇロムっさん。二ヶ月ぶりやね」
──とある喫茶店にて、二人の男が対面していた。
ひとりはシルクハットの様な黒い帽子に黒いコートを身に付けた黒ずくめの男性で、背負っていたこれまた黒いバッグを置いて椅子へ腰掛けた。
ひとりは白いメッシュが入った髪を結んで短めのローポニーテール状にした眼鏡の青年で、カプチーノが入ったカップを持つ彼の横には白い肩掛け模造刀袋と大きめの紙袋が置かれていた。
「しっかし、相変わらず胡散臭そうな顔やなぁ。そんなんじゃあ、動画配信もあんま伸びんとちゃう?」
「お気になさらず、動画の方はぼちぼち伸びてますから。それでそっちの方は……前に言ってた『紅乃一族の倅』について、なにか進展ありましたか?」
「いや〜、マジキチィわ。実家の奴らにせがまれて仕方な〜く、アイツの髪の毛を取ろうと何回か試行錯誤したんやけどなぁ、最終的にゃあぜーんぶ燃えて灰になってまうんや。お陰で研究チームの老害共からの圧が鬱陶しいったらありゃせんわ」
「大変そうですね〜……あ、キリマンジャロのブラックひとつ」
他人事の様にコーヒーを注文する黒ずくめの男…神童ロムと、肩を竦めながら大袈裟にぼやく眼鏡の青年…白沼天匙は、カウンター席で近況を語り合い始める。
だが彼らは決して友人同士ではなく、“ある目的”を持ってこの喫茶店を訪れており、その目的の為に互いを利用し合っているという形だ。
「ほな本題と行こか?今回紹介すんのは〜〜コチラ!“カミサマ”パワーが込められた短刀『千年鼬丸』!」
そう言って紙袋から取り出したのは、鼬の尻尾で作られた飾りが頭辺りからぶら下っている白鞘の短刀だった。
「これなら持ち歩きも簡単、いざって時の護身にも最適!切れ味も──」
短刀を抜いて軽く振り回した天匙の背後で、テーブル席に座っていたひとりの女性──否、口が耳まで裂けた怨霊の首が零れ落ち、その頭部が黒い池を作ったテーブルの上に落下した。
「──ほな、この通り」
「…………へぇ」
背後の落下音を耳に入れたロムは、カウンターに置かれたコーヒーを口に含みながら、鞘に収まった短刀を興味深そうに見ていた。
「ほんで肝心のパワー何やけど……その力──なんと“カミサマ”の髪の毛……驚異の5本分!今回逃したら次は無いかもなぁ〜」
「ふむ………ではこのパワーがギチギチに詰まったチカラの石、これを十数個……それと私の髪の毛も一本付けて、どうですか?」
「……まぁええやろ。おおきに〜」
小石のような物が入った袋と一緒にたった今抜いた黒髪一本を手渡し、白鞘の短刀と交換して貰ったロムはそれを持ち上げて、興味深そうに一瞥する。
ちなみにこの小石、通常価格だと5万で売っているらしい。
「ところで白沼くん。君、SNS見てます?」
「あ゛?見とるわけないやろ。あんなリア充と承認欲求モンスター供の虚偽と見栄で薄汚れた掃き溜め、金積まれても見とう無いわ。発情した猿みてーにギャーギャー騒ぎ立てるリア充共はさっさと首括って死んだらええねん」
「相変わらずスゴイ偏見と殺意ですね。リア充に親でも殺されましたか?」
流石のロムも苦笑いで、この世への不満と苛立ちが込められた不機嫌なぼやきにそう返す。
「……んで?SNSがどないしたんや」
「まぁ、大したことじゃないんですけどね……ちょっと面白いモノを見つけまして」
「ほーん」
心底どうでも良さそうな顔で生返事をする天匙はカプチーノをグイッと飲み干し、小銭を数枚カウンターに置きながら席を立って刀袋を背負いはじめる。
「ほんじゃあウチは、ここいらで帰らせていただくでー。またのご利用、お待ちしてまっせ〜!」
「えぇ、“カミサマ”にもよろしくお伝え下さいね」
そう言い残して紙袋を手に持ち去っていく天匙に、ロムは手を振って見送る。
そして姿が見えなくなると、彼は再びソーサーの上に置かれてるコーヒーカップを口へ持っていき、静かに啜った。
「……さてと、
独言る彼の手元にあるスマホの画面には、それぞれスタンプで顔を隠した四人の男女と、背後で何かを喰らっている巨大な怪異が、大きな鳥居と共に映ってた。
「………ハハッ、ホントヤバいなこの子。どんだけ光ってるんだよ」
その中で特に存在感を表さんと光り輝いている、サルのキャラクタースタンプが押された青年を見ていたロムは、写真越しでも伝わる凄まじい力にドン引きしていた。
●見円洋太
幼馴染のサラサラな毛先を弄って遊ぶのがけっこうクセになっている馬鹿猿。第2話で語ったこの辺の話を回収する為に、今回の話を書いた節がある。
制服だと色々あってすぐ汚れてしまう上に洗濯も大変なので、大きな行事以外で学校へ通う際は基本的に、黒寄りのグレーに白ラインが入った学校指定ジャージを着ている。(ちなみに前はフルオープンで、下は半袖体操服である)
アニメの絵柄だと、毛先がオレンジになっていると思われる。
●四谷みこ
実は、幼馴染のフワッと乾いた髪を撫でるのがちょっとだけ好きな可哀想な子。
ロロルのメメちゃんがデザインされたパーカーなどを私服としているが、この話の後に幼馴染からユルセンがデザインされたシャツや仮面ライダーゴーストのライダーズクレストが入ったパーカーを貰ったりしてる。(とりあえず部屋着として着用する事になったらしい)
アニメの絵柄だと、毛先が青く染まっている。
●影杉徹
高校デビューを機に、ボサボサだった髪をナチュラルストレートにした男。
学校に通う際は紺色のブレザー制服を着ているが、放課後は深緑のネクタイを緩めている。ちなみに紺色のブレザーと深緑のネクタイは学校指定のモノである。
アニメの絵柄だと、何故か毛先が緑色になっているかもしれない。
●百合川ハナ
いつもの髪型も寝癖がすごい時の髪型もカワイイ!娘ェ。
徹からはよく顔をジッと見られるな〜と思っているが、事実はブラが若干透けて見えてるシャツだったりπ/の私服だったりと目の置き所が困るので消去法で顔を見るしかなかったとのこと。
アニメの絵柄だと、毛先が黄色くなっている。
●二暮堂ユリア
あの髪色が生まれつきだとしたら、多分親の誰かがパツキンのロリっ子。
後に出てくるみちるが黒タイツを身に付けていたとしたら(長スカートだから長い靴下なのか区別が付きにくいので)、みこちゃんズの中で一番最初の黒タイツ女子である。
アニメの絵柄だと毛先がピンクになっているので、余計に地雷系な雰囲気がでている。
●白沼天匙
再登場致しました、ドブカス眼鏡でございます。ナニやら訳ありの様ですね。
制服は基本的に着崩しているが、何故か夏でも基本長袖をまくらずに過ごしているので、熱中症にならないのかなぁ……と洋太から密かに心配されている。
アニメの絵柄だと、黒髪部分の毛先が灰色になっていると予想される。
●神童ロム
いち早く登場致しました、すごく胡散臭い霊能力者。ただし腕はモノホン。
キリト君や黒の組織並みに黒い服をよく着ているので、余計に胡散臭さが滲み出ている。
アニメの絵柄でも毛先は黒のままかもしれない。
●くだらないあとがき
おかげさまで日間ランキング最大19位になりました(6/17より)。
皆様ありがとうございます。今後ともよろしくお願いします。