見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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ロボコ「『花』ってありますよね?花はただそこに咲いているだけで価値があります」


もしかしたら、ヤバいのができてしまったのかもしれない

 ブゥンブゥン!ハローエブリワン、ワタシハぁ、不滅ダァ!ヴェハハハハハハ!

 はい、巫山戯はここまでにして。皆さんこんにちは、見円洋太です。

 今日僕は、とある山にあるトンネルの前まで来ております。

 

 なんでそんな所に居るかと言いますとね。あの日以降、中々音沙汰なかったユリア師匠から「今度の土曜日、此処でまた会いましょう」という連絡が集合場所と一緒に来た所から始まるワケですよ。

 最初に会った際、折角だからって彼女と連絡先交換したのに全然連絡くれなくてわりと寂しかったので、来た時はめちゃくちゃ嬉しかったなぁ〜!

 まぁ話を戻してと。折角のお誘いなので、親友と集合場所へ行ってユリア師匠に会ってみると……

 

『来たわね二人とも……!』

『あっ、洋太くん!徹くん!』

『え、なんで二人が居るの』

 

 何故かみこちゃんとハナちゃんも居たんですねぇコレが。僕もそうだけど、みこちゃん達二人もビックリしてました。

 ……そう言えばこの間。我が幼馴染から、ハナちゃんと隣のクラスの子と出掛けるから一緒に来てと誘われた時、ユリア師匠の件もあったから「ゴメンね、その日は用事あって行けないんだ〜ハナちゃん達と楽しんでね〜!」って一回断ったんだけど、まさか彼女の言ってた『隣のクラスの子』がユリア師匠だったとは……

 確かにユリア師匠がみこちゃん達と同じ学校に通っているのは本人から聞いてたが、あれから一緒に出掛けるくらいに仲良くなってたなんて知らなかったな。

 

「ええぇ……これ通るの……⁉︎」

 

「この先の景色がすっごい映えスポットなの!」

 

 そんなこんなでバスに乗って『呼鈴山』という停留所へ降りた僕ら五人は山道を歩き、現在に至る……という訳でアール。

 まぁ、怖いのが苦手なハナちゃんが渋ってる事からお察しの通り。そのトンネルは電気が通っていないのか、内部は奥の方が全く見えない程に真っ暗。オマケに周囲の森から香る生命溢れる自然豊かな匂いとは正反対の、鉄臭さや錆臭さに加えて…言葉では表せない程にやな臭いが漂って来ていた。

 

「…………」

 

「うわ徹ってば、凄い顔になってる」

 

 僕ですら思わず顔をしかめてしまうのだから、我が親友に至っては、白ひげや光月おでんが劇中で見せた様な、見るからにすっごいイヤそうな顔になってる。

 

「…………二暮堂さん、洋太。ちょっとコッチに」

 

 僕とユリア師匠はみこちゃん達二人から少し離れた所に集まって、三人で囲む様に蹲み込んで話を始めた。

 

「──さて、二暮堂さん。あのトンネル、明らかにヤバそうな雰囲気が漂ってきてる訳ですけど……絶対“知ってて”来たよね?多分映えスポット撮影だけじゃないよね目的?俺もう既に帰りたいんですケド」

 

「まぁ待ちなさい……確かにあのトンネルは、界隈じゃ有名な“溜まり場”で、見える人なら出来るだけ通りたくない所よ」

 

「ねぇ二暮堂さん、もしかしてこの間の事めちゃくちゃ根に持ってる?別に俺は幽霊を信じてる訳じゃないんだけれど、そうでなくたって虫とか湧いてきそうだし、余程の悪意持ってないと連れて来ないでしょ。人の心とかないんか?」

 

 この間の事……あぁ、徹がユリア師匠に色んな詠唱を言わせた件についてか。

 しかしユリア師匠。確かにあの事については徹にも多少非はあったかもだけど、そんな危険そうな所にみこちゃん達を連れて来たって事は、『それなりの理由』があるんだよね??

 

「だから待ちなさい。……良い洋太くん?今回の件については、ハナちゃんの写真撮影を兼ねた、『()()()()の実力を測るため』の場でもあるの」

 

 ……『あなた達』?それって“僕と徹のチカラを測る”って意味であってる?なーんかちょっと引っかかるな……

 

「実力ぅ? それならこの間、洋太が見せてたんじゃねぇの?二暮堂さんの反応から察するに」

 

「………確かにあの時、洋太くんの実力は見せて貰ったわ。でもアレだけじゃ『真のチカラ』までは把握できなかったから、それを把握する為にもこの場へ来て貰うことにしたの。

 ──貴方達の言う通り、ハナちゃん……達を巻き込んだのは悪かったわ。それに関してはごめんなさい。だけど彼女に素晴らしい写真を撮って貰いたいのはホントだし、他にも色々と“深い訳”があるの」

 

「……深い訳ってなんだよ」

 

「それは………まだ言えないわ。だけどコレだけは言える……万が一の時はワタシが何とかするし、最悪囮になってあなた達を逃がすぐらいはするつもりだって事を。

 コレでもワタシは、洋太くんの師匠なんだから!」

 

「……っ!」

 

 ゆ、ユリア師匠……そこまでの覚悟を持って、僕の“チカラ”について調べようと……!

 もしかしたらみこちゃん達を此処に連れて来て、何か良からぬことするんじゃないかって彼女を疑った自分が恥ずかしい余……

 

「僕こそごめん……正直、ユリア師匠のこと信じ切れてなかった……!」

 

「………あー、うん。謝らないで、貴方は悪くないから」

 

「そうだぞ洋太。何でかは言わんが二暮堂さん、めちゃくちゃ後ろめたい顔になってるから。あとこの“溜まり場”ってトコにみこさん達を連れて来た事は本当なんだし」

 

 でもこの状況もある意味、ユリア師匠から提示された弟子としての試験的要素でもあるんだと思えば、まぁ良いのかな?いや、全然良くないが……

 まぁそこは置いといて、チカラを測りたいってユリア師匠が言い出すくらいだ。みこちゃん達を連れて来たのも、ハナちゃんに写真映えする景色を紹介する為でもあるらしいけど。それとは別に、一定の緊張感を出させて僕の“真のチカラ”を発揮させる為の『布石』ってヤツなんだろう。

 流石に鬼滅で出てくる“藤襲山の選別試験”ほど危険じゃないとは思うけど……こういうヤバそうな所に二人を連れてくる位だから、ある程度の防衛方法は想定してる筈とはいえ……みこちゃん達を守りながらの方が“真のチカラ”が引き出しやすいと考えたであろうユリア師匠の鬼みてーな考えには軽い戦慄を覚えるが……どの道ここまで来た以上は、やるしかないか。

 

「まぁとりませっかく来たんだから、ちゃっちゃとトンネル抜けて、映えスポット撮りに行こか。それとユリア師匠……」

 

「ど、どうしたの……?」

 

 僕も密かに覚悟を決めるとユリア師匠に呼びかけ、何故か肩を震わせた彼女に小首を傾けつつも、続けて告げた。

 

「さっき僕らに何かあったら囮になるって言ったけど……もしそうゆう時には、僕もユリア師匠を助けて一緒に逃げれるよう頑張るよ。全然自覚は無いけど、特別なチカラを持っている事だしね」

 

「…………………そう」

 

 うーむ。弟子の癖に生意気な事を言ってしまい、やっぱ出しゃばり過ぎたかなぁと思い始めてきた。現にそっぽを向いて短く返すユリア師匠の声は僅かに震えて聞こえたし、怒ってんのかなぁ。

 

「まぁええか。みこちゃん達も待ってるし、そろそろ戻る?」

 

「……そうだな天然タラシあ間違えた洋太」

 

「なに今の間違い!?」

 

 ちょっと言葉間違えただけで天然タラシって酷くない!?僕そんなにチャラい?ねぇ!

 ……まぁそれは置いといて、今はトンネルに入る方が先かと考え、徹ユリア師匠とみこちゃん達の方へ戻った。

 

「……ね、ねぇ洋太くん?さっきから気になってたけど、なんでユリアちゃんのこと『師匠』って呼んでるの?」

 

「……んん〜。実はユリア師匠と始めて会った時、オカルト関係の話で盛り上がってね?それで彼女から色んなことを教えて貰ったから『師匠』って呼ぶ様にしたんだ〜!今日もホラ、色んな話が書かれたノートを……」

 

(──半分くらい二人を騙したのは申し訳ないけど、みこの能力についてはまだ教えるわけにはいかないの……彼女にワタシの実力を認めて貰うまではね……!

 だから……別にこの間の様に、脅されるのが怖いからって訳じゃないけど……まだ洋太には黙っててあげるわ……

 さぁみこ、お手並み拝見といくわよ……)

 

(オイ今中で虫飛んでなかった⁉︎ クソやっぱ此処ヤダ帰りてぇ!)

 

『ギィ……』

 

(あっ……クツに小石はいった……)

 

 始めてユリア師匠と会って色々と話を聞いた時に『“この世ならざる者”について、他の人には秘密ね』と釘を刺された事を思い出しながら、目の前のトンネルに冷や汗をかきながらこっちへ来てそう語りかけて来たハナちゃんに、さっきバスの中でユリア師匠から貸して貰ったルーズリーフのノートを取り出しながら話を展開しつつ──僕らはトンネル内部へ足を踏み入れた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 虫などを警戒している徹は周辺を、万が一に備えて持って来ていた小型の懐中電灯で照らしながら見渡しているのだが……その明かりも心許ない程にトンネルは昼関わらず暗く、そこから湿気によってかぬめりとした空気が漂っている。

 そんな中で、無自覚とはいえ同じ能力者である洋太にすら、そのチカラをひた隠しにしているみこへライバル心を抱いているユリアは……

 

(うへ〜、やな感じの臭いが強くなった……)

 

「洋太、大丈夫?なんか変な顔になってるけど……」

 

「……あぁ、うん。僕は問題ないです。(みこちゃんの匂いで少し落ち着いたし)

 それよりみこちゃんこそ大丈夫?なんかさっきコケたっぽいけど」

 

「うん、大丈夫。(……最初洋太が来れないってなった時は軽く絶望したけど、ユリアちゃんが連れて来てて良かった……多分“アイツら”関係だよね、連れて来たの……)」

 

(………なんか距離近くない?)

 

 軽いしかめっ面を浮かべながらまるで抱きつく様に腕を肩においてだらんとさせる洋太と、なんて事なさそうな顔で横にある幼馴染の顔を見ながら後ろから伸びる手を握り締めてるみこの姿を見て、戸惑いの表情を浮かべていた。

 確かにバス移動中も、二人が幼馴染だとは聞いてたけど。だとしても背中から抱き着かれてるみこはほぼノーリアクションだし、その割にはあんなに手をニギニギしてるし、アレで付き合ってないっていうし、どう考えても可笑しくない?と思っているユリアの脳裏に、とある仮説がビビッと浮かび上がった。

 

(ま、まさか………洋太からチカラを分けて貰ってるっ!?)

 

 今日も元気に、ユリアの勘違いが脳内で領域展開されていた。

 

(確かに幼馴染だって言うなら、洋太のチカラもそれなりに熟知してる筈……!

 そういえば、いつも腕につけてる赤い数珠からも、洋太の光と似た感じのオーラが漂って来てるし……さっきの結界もそうだけど、やっぱりみこはかなりの能力者と見て間違いないわね……っ!)

 

(多分、私が『見えている』事までは聞いてないと思うけど……やっぱスゴい不安……あと流石に擽ったい……)

 

 みこは自身のうなじ辺りに顔を埋め始めた幼馴染の手を握り締めながら、見当違いな思考回路を展開させるユリアのこちらをジッと見てる姿を不安そうに視界へ入れていた。

 

「ねぇ……やっぱ暗くてジメッとしてやな感じだよ……も、戻ろっかな………」

 

「うんやっぱそれがいいよな。てな訳でハイお疲れ〜解散解散」

 

「そ、そうだね!戻ろっかハナ!」

 

ギィギィッ!(我もそれが良いと思うにゃワン)

 

 ハナに袖を掴まれながらオカイコ様と一緒に手を叩いてUターンした徹へ続いて、ズズッと湧き出て来た“ヤバい奴ら”の姿を確認したみこも引き返そうとする。後ろで「えぇ〜?もう帰るの〜?せっかく来たのに〜」とほざく馬鹿は勿論無視しながら。

 

「待ってハナちゃん!」

 

 だがそんな彼らを引き止めんと、ユリアが声を上げた。

 急に声をあげてどうしたのかと揃って疑問符を浮かべる二人と、まさかの展開を危惧するもう二人(と一匹)を他所に、彼女はそのまま話を続けた。

 

「それで良いの?せっかくの才能を……一時の恐怖心で無駄にするなんて……

 ハナちゃんのレンズの向こうには“無限の世界”が待ってるんだよ」

 

(地獄絵図だよ……!)

 

(マジかよこのロリッ娘!是が非でも続行するつもりか!?)

 

「「無限の世界……⁉︎」」

 

 ユリアの語りにみこと徹が内心ツッコミを入れる中、ハナと洋太は彼女の言葉に何か感じる所があったのか、背後からビビーン!と雷が落ちたのを感じ取っていた。

 

「世界があたしを待ってる……!もう逃げない!!」

 

「ハナさん⁉︎ 嫌な時はな、逃げたって良いんだよ!?逃げるは恥だが役には立つから!!これ霊幻先生の超ありがたいお言葉ッ!!」

 

 バッグから取り出したインスタントカメラを構えてその気になったハナに驚きながら、徹は彼女の肩を引っ張り考えを改めようとする。

 

「……ということはつまり!勉強を頑張れば、僕でも東大に行ける世界も無限にあるということですかユリア師匠!」

 

「確かに桜木先生も『バカとブスこそ東大へ行け』と言ったけど、お前にあるのは無念の世界だよ」

 

「ふふっ、知らないのかい徹ゥ?『あきらめたらそこで試合終了ですよ』と言う名言を!」

 

「知ってるけど今此処で安西先生の名言出すなや!!」

 

「まぁまぁ。二人がその気になったのだから、それに付き合うのが筋ってモノじゃない?」

 

 一方の洋太は自信に満ち溢れた言葉を放ち、それを受けた徹がツッコミを入れるも、そこへユリアが満面の笑みを浮かべたまま彼の腕を掴んで割り入った。

 突然の行動と笑みを見て思わずたじろぐ徹を他所に、彼女は「だから…」と言いながら、ジャケットの袖に大きなシワを作るくらい腕を強く握り締める。

 

「ぜっったいに、逃がさないわよぉ……!」

 

「テメェやっぱ根に持ってんだろォッ!?」

 

 悪魔的な笑みで圧をかけるユリアとギャーギャー騒ぐ徹を見て、「ふたりとも仲良いなー」と呑気に思う洋太とハナ。

 その後、せっかくだからとトンネルの中でも写真を撮ってみる事になり、『暗がりを照らす光』というテーマで話を進めていき……

 

「いっくよーっ!」

 

「な……なんで私だけ……?」

 

「アート感するし!」

 

「そうそう、アートアート(洋太のチカラを貰うついでに、陰に隠れて凌ごうだなんて、そうはいかないわよ!さぁ、いつまでシカトで凌ぐつもり……?マザーを退けた霊能力を見せてごらんなさい!)」

 

「(ユリア師匠に周りを観てて言われたから、一旦みこちゃんから離れたけど……変なのに憑かれないよね?)……ん?どしたの徹」

 

 洋太から引き離した事でみこの周囲へと集って行く霊達に、ユリアはどうやって対処するのかと、隣でシャッター音を聞きながら動向を観察していた。

 しかしある程度近付いて来ていた霊達の何体かは、焚かれるフラッシュを浴びたみこの右腕に着いている赤い数珠に気付いた途端、彼女から距離を取り始めていた。

 

(……なんか増えて来てるのが気になるけど……洋太にチカラを分けて貰っているからなのか、低級な奴は離れていくかそもそも集まって来ない。居るのは精々そこそこ大きいやつが何体か、それと黒いモヤみたいなのが三つあるくらいね……)

 

「スゴいアーティスティック!みこの表情もいい感じだし、ポスターにも出来そう!」

 

 先程の光景に加えて、カメラから出て来た写真と周囲に複数体居る霊達を見ながらそう分析するユリア。

 ちなみに此処からみこ視点へ移ると……

 

『アカルイ……ヒカリ アカルイ……!』

『ちょーだい そのひかってるの ちょーだいな?』

『アンコクウ アンコク……』

 

(ヤバいヤバいヤバい!洋太の数珠が効かないやつがいる!? てか今ひとり駄洒落言ってる奴いなかった⁉︎)

 

 数体かの霊に加えて、全身が鈍器のようなもので潰された様な姿をした女性の怨霊や、頭に薄汚れてヒビ割れた三角コーンの様なモノを被った半裸の化け物、ミノムシの如くゴミを身体中に纏わせたヤバそうな奴が、怯える彼女の背後で取り囲む様に佇んでいた。

 みこは腕の数珠を握り締めつつ、このヤバい奴らをなんとか出来そうな幼馴染は何をしているのかと周囲を見渡す。

 

「鬼は外ォォォ!福は内ィィィィ!!よし洋太、ドンドン塩撒け塩!」

 

「あい分かった。オラッ!ソルトスプラッシュ!!」

 

(((なんか塩撒き始めた⁉︎)))

 

 みこ、ハナ、ユリア。女子三人の考えが完全一致した瞬間である。

 徹は懐中電灯と一緒に握られた塩入りのスタンドパックに右手を突っ込んでそれを周囲に撒くが、撒かれた塩は霊の身体を通り抜けて地面や壁へと散っていき、塩を浴びた筈の霊は何事も無くケロッとしていた。

 

『『ぎゃあぁぁぁぁ……!』』

『『『ア" ア" ア" ア" ァ"ァァァァァッ!?』』』

 

((しかもめっちゃ効いてる!))

 

 しかし洋太がみこの背後へ向けて投げられた塩を喰らった霊数体は断末魔をあげながらじゅうじゅうと溶けていき。特にヤバい三体も浴びた部分を押さえて苦しそうに声を上げながら、その場を立ち去っていった。

 

(あっ、洋太が投げた塩で離れてく……よかった……)

 

(くっ……洋太の実力をもっと見ようと連れてきたけど、完全に裏目に出たわ……これじゃあ洋太のチカラは見れても、みこのチカラを見ることが出来ない……!

 ワタシとした事が、ちょっと欲張りすぎたわね……)

 

「徹くん、その塩どうしたの?」

 

「こんな事もあろうかと、スーパーで買った奴を持って来てました」

 

「ずいぶん用意周到だね!?」

 

「うわー、手が塩臭くなった……」

 

 残った霊達は地面に撒き散らかされた塩を警戒して近づいて来ないのを確認し、みこはホッと一息。このままだとみこの実力を見極められない事を危惧するユリアの横では、塩が入った袋を見せながらハナと話をする徹、自身の手を嗅いで塩の臭いに顔をしかめている洋太がいた。

 しかし先程よりも霊が増えている事には変わりない為、みこはこれ以上増えないうちに此処を出ようと模索。一方の徹はハナが撮った写真を見て、心霊写真でなかった事に安堵しながらも、念の為追加で撒いておこうかなと塩の入った袋を開ける。

 

「………あ?」

「………え?」

 

 ──この時。袋の中身を見た徹とみこは、あまりに奇怪な光景を前に呆然と立ち尽くしながら。それを……潮の香り漂う白輝く塩の代わりに、謎の異臭を放っている黒く染まった塊が入った袋に見入っていた。

 

「……ん?どうしたの徹くん?」

 

「ッ!!………い、イヤ、なんでもない!(オイオイオイ!塩があんな黒くなるなんて非常識だろ!?ぜってぇなんかヤベーのが居るだろコレ!!)」

 

 異変を起こした塩をすぐにバッグへ押し込んで隠し、写真に目を向けていたハナにそう言って誤魔化す徹は、突然起きた謎の怪奇現象に身震いしていた。

 

『──ギィ!ギィ⁉︎』

 

 だが彼に憑いている守護霊であるオカイコ様の複眼に映った其処に、トンネルの入口から差し込む僅かな光に照らされる様にして、“それ”はいた。

 

 ──ジャラ、ジャラ……

 

(……鉄臭いのと錆臭いのが強くなった。なんで急に?)

 

(や、ヤバいのきた……!)

 

 ドラム缶から数本の鎖を伸ばし、更にはヤドカリの様に顔や何本もの手を生やした異形の“ヤバい奴”が、彼らが居るトンネル内へと降り立っていた。

 この中でその存在を臭いで察知した洋太は、この臭いの原因が何なのかと考えて辺りを見渡し始め。その存在の姿をハッキリと確認してしまったみこは、そのおどろおどろしい見た目と邪気で呼吸が乱れていた。

 

(……? 霊達がまたこっちに近づいて来てる?さっき投げた塩の効果が切れたのかしら。

 いくら洋太のチカラが籠っていても、所詮は市販の塩。あの程度って事ね……)

 

 そして異形の化け物が出現したことによって、洋太の撒いた塩が黒く侵されて浄化作用を失い。それよって霊達が鬱憤を晴らさんとばかりに、彼らの元へ集い始めた。

 

「……みこちゃん、大丈夫?」

 

「っ!……だ、だいじょう、ぶ……」

 

「もっといい写真撮れる気がする!早くトンネル抜けちゃお!」

 

 幼馴染に手を握られた事で少し落ち着きを取り戻したみこが、なんとか平常心を保つ為と心を落ち着ける為に深呼吸をしようとするも、その前に奥の方へ行こうとするハナに気付き。慌てて呼び止めようと声を……

 

 ──ジャラ、ジャララララッ!!

 

 ……掛けんとしたみこの背後から伸びてきた鎖が、ハナの行く先に居た霊を巻き付けた。

 そのまま霊は引っ張られる様にして引き摺られていき、やがて異形の化け物によって不快な咀嚼音を奏でられながら捕食された。

 

(て、手をかざしただけで除霊を⁉︎ その上、洋太でも光に触れさせたりビームを放ったりして払ってるのに、みこのはそれすら見えなかった……!な、なんて凄まじいチカラなの……!?)

 

「は、ハナさん!ななななんか肌寒くなって来たし、そろそろ引き返して貰って良いかなぁ!!だ、ダメかなァ!?」

 

「で、でも映えスポットがまだ……」

 

「次までに俺も別の映えスポット探しておくから!ついでに今度ご飯奢るから!此処は一旦引いてくださいお願いします!!ついでにちょっとお腹も痛くなって来たから!!

 そして二暮堂さん!何やってんだアンタはッ!?バーニングアタックか!バーニングアタックを繰り出そうとしてんのか!?だとしたらもっと手を動かしなさい!」

 

『……ギ、ギィ…』

 

 勘違いに勘違いを重ねたユリアがみこに対抗して、小さい霊に手をかざして除霊しようと身体をプルプルと震わせるのを横目にツッコミつつ。黒く変色した塩からヤバそうな雰囲気を察知した徹が、ハナの手を掴んで引き返さんとする。

 迫真な説得と腹痛の訴えを聞いたハナは徹を心配して奥へ進むのをやめたが、それでもすぐ様引き返すまでにはいかず。それまでにどうにかして異形の化け物をどうにか対処しなければと、みこは洋太の手を強く握りながら考えを巡らせる。

 

「(そ、そうだ……洋太をあっちに誘導すれば……!)よ、洋太!そっちに10円玉が落ちてる!」

 

「え?マジで?」

 

 そこでふと前に、隣の幼馴染を誘導して霊を浄化させた事があった事を思い出した。

 早速彼女は咀嚼音が止みつつある異形の化け物がいるところを指差しながら小銭があると誘導し、浄化して貰おうとする。

 

『……──!』

 

 だが異形の化け物は洋太の接近を察知すると、まるで飛び跳ねるかの勢いで移動し。軌道上に居た霊を取り込みながらハナと徹の近くへ迫った。

 

(や、やっぱダメだったぁーー!?なんか滅茶苦茶早く移動してたし、これ絶対誘導じゃあなんとかできない奴だ!)

 

(……10円見当たらないな。もしかしてみこちゃんの見間違い?まぁ暗くて見えづらいし、間違っても仕方ないか……)

 

 異形の化け物の意外な素早さにビビる中、洋太はみこの誘導した場所を見て10円玉が落ちてなかった事に首を傾げる。

 

(ど、どうしよう……⁉︎早く此処から引き返さないと……)

 

 異形の化け物が他の霊を取り込んでいる間になんとかしなければ、今度はこちらへ牙を剥くかもしれないと最悪の事態を想像したみこは、何か手立てはないかと辺りを見渡しながら考えを巡らす。

 だが一向に良いアイデアが浮かばず、それによる更なる焦りで考えがドンドンまとまらなくなっていく彼女の視界に、フードが付いた青と黒の薄手ジャケットが飛び込んで来た。

 

「みこちゃん、コレ着る?」

 

「……へっ?」

 

 それは洋太が手渡してきた、先ほどまで彼が着ていた上着だった。

 どうして急に?と呆気にとられていたみこの顔に、上が『檀黎斗』という文字が達筆に描かれた白と紫の長袖シャツだけになった洋太は「あれ?違った?」と不安そうな顔で見つめながら首を傾げる。

 

「いや、なんか寒そーだな〜って思ったから。ホラ、ここ暗いからちょっと肌寒いでしょ?だからこれ着れば少しはマシになると思ったんだけど……もしかして要らなかった?」

 

「………う、ううん。いる」

 

「そう?じゃあハイ」

 

 その顔にハッとなり慌てて首を横に振ると、洋太から上着を羽織らせ貰った彼女は、自分よりも大きいそれから伝わってくる温かさにホッと一息。

 

「……ありがとう、洋太」

 

「うん、どういたしまして」

 

 ふと顔が熱くなったのを感じたみこは感謝の言葉を伝えながら、笑顔を浮かべる幼馴染に顔を見られない様にと、上着の襟を寄せて視線を逸らし──

 

『アカルイ……ヒカリ アカルイィィィ……!』

『ちょだい ちょうだい ちょぉぉぉぉだあぁぁぁい!』

『タイヨウハ イタイヨウゥゥ……!』

 

 ──ギャリリリ……パァン!

 

(なんか凄い事になってるぅーーー!?)

 

 周囲にいた霊達を次々と取り込み、先ほど逃げた筈の三体の“ヤバい奴”までもが鎖に捕らわれ、捕食された事により。蕾が綻ぶかの如くドラム缶を開裂させ、内部には子房から飛び出てる雄しべの様に、鎖で固定された無数の頭部や腕を生やした異形の化け物。

 それを目撃したみこの顔が、恐怖で急激に冷めていった。

 

(ま、周りの霊が一気に……!まさか、洋太の上着を媒体にした広域除霊術……⁉︎

 確かに洋太のチカラならこれくらいは可能かもしれないけど、それにしたって無詠唱で、一瞬で払い退けるだなんて……っ!なのに、ワタシはたった一体すら……)

 

 ついでに勘違いが加速して行くユリアは、自身とみこの間にある格の違いを思い知られてシュンとしていた……が、異形の化け物が取りこぼしを捕食した事で、彼女の目の前で手を向けていた小さい霊が消え去った。

 

「……ッ! 今の見た⁉︎ワタシの能力!洋太、遂にワタシやったわ!」

 

「?……あっ!もしかしてユリア師匠、遂に除霊が出来るように……!?」

 

『……っ みえてる?』

 

(ッ!? あ、まずい……っ!)

 

「ど、どうしたの二人とも?能力って何?除霊って何⁉︎ 何かいるの!?」

 

「ハナさん!多分コイツら、中学二年生が発病する不治の病がぶり返しただけだと思うから!気にしない方が良いよ!!」

 

『ピキィ……』

 

 “除霊”と聞いたハナが涙目で徹の腕にしがみ付き、徹は怯えるオカイコ様にフェイスハガーされながら彼女を宥める。

 一方、ユリアと洋太の言葉に反応した異形の化け物が、凄い勢いで睨み付けながら二人に向かって肉薄しようとして、洋太が放つ光に阻まれて後退った。

 

『みえてるみえてるみえてるみえみいぇみえるみえてる……』

 

「これでやっと……⁉︎ ちょ、なにっ!?」

 

「い、いいから!徹君も体調悪そうだし、そろそろ引き返そ!」

 

 その一瞬の隙にみこはユリアの腕を掴むと、そう言いながら全速力でその場から撤退しようとするが……

 

「ユリア師匠はチカラを見せ付けた……ならば此方も払わねば……無作法というもの……」

 

((何やってるの、このバカぁぁぁーーーー!?))

 

 ユリアが霊を払ったと聞いて、俄然対抗心を燃やした洋太が見えない筈の異形の化け物に立ち塞がり、それを見たみこと徹が心内でシャウトする。

 

(さて、どうする………僕はユリア師匠みたいに見えるわけじゃないから、確実に除霊するには広範囲に……光?って奴を放つべきか。いや、それだと威力が分散されて、何体か残るかもしれない……だったら、チカラを一点に集中させる……?だけどそもそも光を見れてないから、チカラの集中もクソもないな……)

 

 異形の化け物が、目の前にいる光る男を試すかの様に距離を取って様子見する中。洋太はユリアに指摘された自身の能力を、どうやって使うべきなのか考察する。

 

 

 ──“無限の世界”が待ってるんだよ。

 

 

(いや、諦めるな!失敗を恐れるな僕ッ!ユリア師匠も一時の恐怖心で才能を無駄にするなと言ってたじゃんか!ならば僕だって、やれば出来るはずだ。出来る筈だ……!)

 

 

 ──お前にあるのは無念の世界だよ。

 

 

(………ん?待てよ。そういえば無限と無念って、なんか似てるな?もしかして“無限”と“無念”って、密接な関係にあるのでは……⁉︎)

 

 

 ──んん〜♪美味しい〜っ!……え?あんなお昼食べたのに、お腹大丈夫なのかって?ふふふ、ヤダなぁ洋太くん。お昼なんてとっくの昔じゃん!

 

 

(考えろ、考えるんだ!無限と無念……光の能力……そして、チカラを一点に集める事の出来るイメージ!)

 

 

 ──最上級の神の才能!クロトダーン!クロトダーン!

 

 

(後もう少しなんだ、あともう少しで何かが……!)

 

 

 ──何バカな事言っているの洋太? あと決まりきった答え全部間違ってるから。1+1は2だし、赤と青は混ぜると紫だから。

 

 

 その時、彼の頭の中で点と点が繋がり、一本の線と成った。

 今まで見てきた漫画やアニメ。これまで経験してきた自身の記憶からヒントを得て、ある一つの答えに辿り着く!

 その発想に至った瞬間。不敵な笑みをこぼした洋太を前に、異形の化け物は本能的に悟った……コレはヤバイ、と……!

 

「──今ので掴んだ……コレぞ無限の核心……!完璧で究極なる夢幻領域……ッ!」

 

「急にどうした洋太。もしかして無下限呪術の核心を掴んだつもり?だとしたらお前が掴んだのは無下限の外側だけだよ。自惚れんな馬鹿」

 

 徹から冷静なツッコミを入れられる。だが洋太にとってそんな事はどうでも良かった。

 自身が成すべき事を完遂する為であれば、例え相手が強大であっても怯む事は許されないからだ! それが“無限の世界”へと行く為に必要不可欠な事だから!!

 

「そうか……そうだったんだ……わかって、きたぞ……

 『無限』と『無念』の関係は、すごく簡単なことなんだ……ははは、どうしてこの世界が生命にあふれているのかも……」

 

「話聞いてねぇし、もしかしてお前ゲッター線浴びた?」

 

(……見えたッ!!)

 

 そして遂に彼は、自身の能力の使い方を見出す!

 それは無念……『無我の妄念』により己の中で熱を感じ取り、それを心臓へ向けて移動させる感覚。

 それは無限……『無数にある限界』を打ち破る事により、それらを一点に凝縮させるイメージだった!

 

(ッ!? 洋太の身体から出てる光が……チカラの濃度が、高まっていく⁉︎ コレが、洋太の中に秘められた“真のチカラ”……!!)

 

 次の瞬間。洋太の身体から膨大な光が溢れ出し、ユリアはその眩しさに思わず目を瞑って手で顔を覆ってしまった。

 その光景と暴力的力に圧倒されるユリアだったが、それはみこも同じ事であった。

 

(な、なんかよく分からないけど……洋太が今まで以上に輝いてる!洋太スゴいっ!

 ──でもそっちじゃない!滅茶苦茶ヤバい奴、いま私達の後ろにいるから!?)

 

 洋太のチカラを警戒した異形の化け物は、コレから行われるであろう攻撃に対処すべく、みこ達の後ろへと移動し、洋太の光が途切れるであろうその一瞬を待ちながら牙を研いでいた。

 背後に佇む“ヤバい奴”に背筋を凍らせながらユリアを強く抱き締め、ユリアが必死に逃れようとする中。洋太の力が今、解き放たれようとしていた!

 

「ユリア師匠、見ててください……コレが僕の最高到達点……天上天下唯我独尊……!

 超必殺──“虚式『ハーミットパープルヘイズディストーション』”ッ!!」

 

「かめはめ波のポーズで五条先生とジョセフとパンナコッタ・フーゴを悪魔合体させんな。カタカナ使えば頭良いと思ってるだろお前」

 

 徹が思わずかけたツッコミを背に、洋太の全身から止め処なく溢れ出した光がトンネルの中を照らし、僅かに残っていた小さな霊が纏めて浄化されていく。

 両手を後ろへ持って行き、限り無く凝縮された光を体内に溜め込んだ洋太は構えを取りながら、トンネルの奥の方へと手を突き出したッ!

 

「大義のための……犠牲となれーーーーッッ!!」

 

「パープル色のライダーの台詞吐くな。取集付かなくなるだろうが」

 

 刹那。一気に解き放たれた光の奔流が、極太の光線となって炸裂された。

 ──ただし、背中から。

 

『キ” ャ゛ア゛ア゛ア" ア" ァ"ァァァァァ…………ッ!』

 

((──そ、そうきたかぁーーー………!))

『ギェピィーーーー………!』

 

 光線として放たれた奔流は異形の化け物を容赦なく包み、断末魔の様な悲鳴と共に虚空の彼方へと、跡型もなく消し飛ばされる。

 巻き添えを食らったみことユリアとオカイコ様は、眼の中に入り込んでくる膨大な知覚情報を通じて、思考能力が徐々に白く塗り潰されていった。

 

「……あれ?なんか空気がカラッとして来た?」

 

「え?……あ、ホントだ。なんかさっきまで凄いジメジメしてたのに……」

 

 同時にそれまで充満していた重い空気も消え失せてゆき。異形の化け物が完全消滅した事で、周囲を覆っていた邪悪な霊気も徐々に無くなり、ハナと徹は周囲が低湿度となっている事に気付いた。

 

「……ぷはー!スッゴい出し切った感ある!どうだったユリア師匠?僕のチカラ、見てくれ──」

 

 洋太が良い汗をかきながら振り返って、ユリアに自身のチカラを評価を求めると……

 

「まそっぷ」

「もあっぷ」

『ミギー』

 

 其処には光を失った目で、宙を見ているみことユリアの姿があった。ついでにオカイコ様はキラキラとした目で宙を見ながら、またもや漂白されていた。

 

「………みこちゃん?ユリア師匠?どうしたの?」

 

「……ねぇ起きてる二人とも?ねぇってば!おーいっ!」

 

 その不可思議な光景に、洋太とハナが二人の前で手をフリフリと揺らしながら声をかける。しかしみこ達の瞳はまるで魂が抜け落ちたかの様で、反応は一向に返って来ない……

 それを見た徹は「俺にちょっと任せて」と言って、二人の前に立った。

 

「では今からみっつの質問しまーす。1+1は?」

 

「みそスープ」

「マタドール10円」

『ニギー』

 

「好きな食べ物は?」

 

「チョウチンアンコウ」

「サラリーマン」

『ムギー』

 

「無人島にひとつ持っていくとしたら?」

 

「ピアノ」

「ダイエットサプリ」

『ちくわ大明神』

 

「ハイわかりました……二人はもう手遅れです」

 

「「ああああああああああああああっっっ?!」」

 

 徹の言い放った残酷な宣告に、洋太とハナは膝をついて絶望した。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「──ねぇ洋太」

 

「……ん?なにみこちゃん」

 

「なんでさっきから私の匂いかいでるの?」

 

 ……これは、なに?なんか洋太、小さくなってる……

 いや、違う。コレは私の、小学3年の頃の記憶だ。

 この時は確か、洋太とリビングで宿題に取り組んでいて、途中で行き詰まった洋太が私の後ろに回って抱き着いて来たんだっけ。

 

「なんでって、いいにおいがするからだけど……それがどうしたの?」

 

「どうしたのって……あのね洋太。後ろから抱きついてスンスンするの、恥ずかしいからやめてって、前から言ってたよね?」

 

「うん。だから家の中だけにしてるじゃん」

 

「いや、全然わかってないよね?もう抱きつくのはいいとして、そのたびに私の匂いかぐのはやめてってことだから」

 

「えぇ〜……でも僕、みこちゃんのにおい好きなんだけど……」

 

 洋太ってば、普段はそこそこ聞き分けがいい癖に、こういう時に限って馬鹿みたいな事を言って駄々をこねるんだよね。

 ……いやまぁ、今はもう慣れたし。洋太なら別にいいけど ……って、あれ?なんで私、こんなこと考えてるんだろ?今はそんな場合じゃないのに……

 

「よーし、わかった!じゃあみこちゃん。僕のにおい、いっぱいかいでいいよ!」

 

「………は?なんでそうなるの?」

 

 なんて考えてるうちに、私から離れた洋太が前の方へと移動し、腕を広げて待機し始めた。

 

「だって僕はみこちゃんのにおいをいっぱいかいでるけど、みこちゃんは僕のにおいかげてないでしょ?だからみこちゃんが僕のにおいをいっぱいかげば『おあいこ』ってことになるでしょ?だからハイ!」

 

「……」

 

 いつもの私なら、そんな馬鹿な事を言う幼馴染を無視して、宿題を続けるところだった。

 けれどこの時の私はどうかしてたのか、何を血迷ったのか。洋太の首元に顔を近づけて、スンスンと鼻を動かしていた。

 

「………んっ」

 

 すると心が落ち着く様な感覚が、小さい頃の私の全身を駆け巡る。

 ……嗚呼、もう。きっとこの時は、ホントにどうかしてた。

 でなければ、こんな事する筈なかったのに。

 

「……で、どうだったみこちゃぶエっ」

 

「………そろそろ宿題の続きするから、早く戻って」

 

「ふぁい……」

 

 不覚にも「いい匂いがする」と思ってしまった私は洋太の頬を鷲掴みにしながら、赤くなった顔を見せたくないが為にそっぽを向き、そのまま宿題をする様に言いつけた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「…………はぁっ!?」

「…………うにゃ!?」

『…………ビギッ!?』

 

 意識を覚醒させた二人と一匹が辺りを見渡すと、そこは既にバスの中だった。

 

「あ、あれ……?なんでバスにうぎゅ⁉︎」

 

「み゛こ゛ち゛ゃ゛ぁ゛ん゛!よがっだぁぁあああ!!目ぇ覚ましたよぉォォ!!」

 

「っ……洋太、うるさい!もっと静かにして!」

 

 みこが目覚めた事に気付いた洋太が、顔面を涙でグチョグチョにしながら抱き締めてくる。自分の右頬から伝わる熱に驚きながら、みこはクソでかい声で「ごベーん!」と謝る幼馴染を引き剥がして周囲を見渡す。

 

「……え、は……え?なんでワタシ、バスの中にいるの……?」

 

「良かった〜二人とも目を覚まして〜っ!もうっ、心配したんだよ!急に馬鹿みたいな顔になって、変な返事しか出来なくなってたんだから!」

 

「馬鹿みたいな顔ってなに⁉︎ 変な返事ってどんなの!?」

 

「いやー大変だったよ。あれから二人とも30分くらい、変な感じになってたから……あ、ちなみにバス停までは洋太がみこさんを、ハナさんが二暮堂さんを運んでくれたました」

 

 左隣には一緒に目を覚ましたであろうユリアが涙目のハナに抱き着かれており、右隣にいる幼馴染の隣には徹くんがホッとした顔で安堵していた。

 

(……はぁ。今回も洋太がなんとかしてくれたけど、なんかいつもより凄い疲れた気がする……)

 

(……結局、能力の差を見せつけられただけ……洋太に至っては、ワタシの予想を遥かに超えるチカラを……やっぱりワタシなんか、洋太の師匠に……)

 

(スゴいチカラがあるって聞いて、滅茶苦茶浮かれてた……ベンおじさんも『大いなる力には、大いなる責任が伴う』って言ってたのに……)

 

 だが一安心したのも束の間、五人のうち三人が今回の件で、それぞれ疲労感と己の未熟さと罪悪感を感じていた。

 そんな彼らの暗い雰囲気を感じ取ったハナは、バックからスマホと自撮り棒を取り出すと、徹に向けてジェスチャーを始め。徹がハナの意図を察すると無言で頷き返し、落ち込む洋太の肩を掴み出した。

 

「はい!チーズっ!」

「おらよっ」

 

 ハナがみこの肩をユリアを巻き込みながら寄せ、徹は洋太をみこの方へと押し込むと、ハナの持つ自撮り棒の先にあるスマホからシャッター音が鳴り響いた。

 

「三人とも、そんな落ち込まないで!写真ならいつでも撮れるんだから!はい、送ったよ!」

 

「おう、サンキューハナさん」

 

 自撮り棒から取り外したスマホを操作して写真を送り、突然の事に呆けていた三人と共犯者である徹のスマホから通知音が鳴った。

 

「……まぁ、その、なんだ。別に誰かが死んだわけじゃあるめぇし、お前はそんなに気にすることはねぇよ。な?」

 

「……うん。徹、もっと頑張るよ僕」

 

「まぁ、気軽にな」

 

 徹はスマホ画面を見ながら、ユリアの言ってた『光の能力』によって二人がああなったと責任を感じてるであろう親友に励ましの言葉をかけた。

 それを聞いた洋太は涙で濡れた目を拭い、決意を固めた様に拳をギュッと握ると、そのまま徹に向かって満面の笑みを浮かべた。

 

(……別にっ)

 

 ユリアは送られた写真を見て、そんな事を思いながら待ち受けに設定した。

 

「なんかお腹減っちゃったし、ミセド行こーよ」

 

「音……うん、行こっか(まぁ、とりあえず助かったし、切り替えよう……あ、洋太の上着)」

 

 ハナの大きな腹の虫に短いツッコミを入れながら、みこは幼馴染の大きな上着が自身にかけられたままだということを思い出し、袖の部分を掴み取った。

 

(……………ちょっとだけなら、良いよね)

 

 だがさっき見た昔の夢を思い出したみこはチラッと隣を見渡して、誰も見ていないのを確認して少しだけ躊躇った後、袖に鼻を近づけて匂いを嗅いでみる。

 

(……陽だまりの、ひまわりみたいな匂い)

 

 その上着には、昔からずっと変わらない、いつもの幼馴染の香りがした。

 

 

 

(………めっちゃ嗅いでる)

 

『ビギィ……』

 

(うわーっ。みこったら、凄く嬉しそ〜……)

 

(……みこは一体何を……はっ!もしや、洋太の上着からパワーを吸い取ってる⁉︎ そんなに彼のチカラを無駄にしたくないの!?)

 

(うーん、今日もバナナが美味しい。そういえば、ミセドにバナナの奴あったっけ?)

 

 尚、洋太以外のメンバーは普通に気付いており、どこか幸せそうな顔で上着の匂いを堪能しているみこを見て、一同は何とも言えない雰囲気を漂わせていた。




●見円洋太
悟空みたいな存在になりたいと思っているルフィの様な馬鹿猿。
一日一条みちる五日で五条しゃとるくん並みのクソ強能力者になれる才能を持っているが、肝心の呪霊も自身の()も見えないのでほぼ宝の持ち腐れと化している。みこちゃんの呪霊がハッキリと見える眼を譲って貰う事が出来れば良いのにね☆
花の香りが好きだが、その中でも『枝垂れ桜』の香りが一番好き。

●四谷みこ
馬鹿猿の放った脳域限界『無能空処』を喰らった可哀想な子。
某五条オリ主SSでは呪力も見えていたので、鬼みたいに鍛えて超進化すれば六眼に近い力を得られるかもしれない。しかし術式など戦う才能が無い非術師(モンキー)なので、精神的な負担を考えればぶっちゃけ見えない方が彼女の為でもある。
そういえば、いい香りがする人とは遺伝子から相性がいいって、聞いたことがあるな。

●影杉徹
馬鹿猿が五条ポジならば、コイツはサマーオイルa.k.a外道すぎるくんポジという事になる。
ユリア初登場回にて、彼女が観察して感じ取ったオカイコ様の印象としては『ぱっと見はヤバい悪霊っぽいけど、これといって彼に大きな影響は見当たらなかったし、神聖な感じのオーラも混じってたから、恐らく守護霊とかそういう類なんだろうな』といった感じである。
馬鹿猿曰く、絹糸とジンジャーの花みたいな匂いがするとの事。

●百合川ハナ
もうこの子だけで良くね?やっぱオリ主要らなくね?ってくらいに光属性の娘ェ。
みこにとって彼女は、五条先生の云う名前通り『花』の様な存在。私の苦悩は理解出来なくて良いし、そもそも知らなくて良い。それでも側に居てくれるだけで嬉しくて、守りたいと思える、そんな大切で何よりも価値のある者。
もしかしたら彼女はロボコに並ぶ、五条の夢女になれる逸材なのかもしれない(適当)。

●二暮堂ユリア
みこちの事をスゴ腕霊能力者と勘違いしてて、カアイイねぇユリアちゃんは♡
そんなピュアなユリアちゃんの心をへし折る様で悪いけど、レベル上げにもならないスライムしか見えない身の程知らずには、圧倒的な格の違いを見せてやるお◇
言っちゃあ悪いケド、二人にはキャタピーとグラードンくらい差があるからねぇ♧
雑魚の罪は強さを知らんことなんだお、今まで無駄な努力 御苦労様♤
ボク、最低だから☆

●トンネル内のヤバい奴ら
私は“全身が鈍器のようなもので潰された様な姿をした”女性の怨霊(準二級)だ。
そして俺は“頭にヒビ割れた三角コーンの様なモノを被った”半裸の化け物(二級)。
“ミノムシの如くゴミを身体中に纏わせた”ヤバそうな奴(二級)。
原作で狐の巫女に追っ払われた……この“鎖とドラム缶”の怪異(準一級→一級)が許さないよ。

●狐の巫女
呪霊の等級で例えると、多分一級位の力を持ってると思われる狐の怪異。
ウィキでは『狐の怪』と書かれてたが、個人的に立場が巫女っぽかったので、取り敢えず山の神様の巫女という事にした。
(^U^)「原作では此処で『いっかい』を消費する為に登場したようですが、今回君達の出番はございません!」
狐×2「ざけんな」
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