ちなみに見える子ちゃんは終盤で2.5条悟になった善ちゃんせんせーを縫合した後に乙骨先輩がメロンパンしてそこから色々あって連載終了(大嘘)。
見円洋太の通っている高校は、ご存知の通り男子校である。
男子校……つまり女子高生が一人もいない事を指している。ついでに女性教師もいない。いるのはむさ苦しい脳筋とピッチピチのバカとクソカス脳味噌と変態と可哀想なマトモ人とおばあちゃんくらいである。
花の青春を送りたい思春期の男子共にとって、美女も女子も居ない学校は『ドブ』同然の環境。そんな環境では当然女子との出会いもある筈もなく、ましてや恋愛などできるはずも無く。彼らに残された『女子との出会い』は、ただひとつしか残されていなかった。
そのひとつというのが……
「えー、我が校恒例の文化祭まで約一ヶ月切りました。というわけで今日のロングホームルームではお前らに、当日どんな出し物をするかを話し合って貰います」
『イェエエエエエエエ!!』
教壇に立つ半目の三十代男性教師・
文化祭とは、学校行事の中で学生達が楽しみに待ち望んでいる一大イベントのひとつだ。
この学校でも毎年11月中頃、土曜日・日曜日の2日間かけて文化祭が行われ、近辺で暮らす他校の学生や近所の住人達などが気軽に来場できる……つまり、年の近い女子が訪れる可能性が最も高いイベントなのだ。
そう言った理由から、このイベントでやって来た女子と出会い、その人とお付き合いして将来的にはアレコレしたいと考えている男子達は、当然やる気に満ちていた。
「おほー!見てよ徹、すげーやる気に満ちてるよみんな」
「まぁ文化祭は学校生活における大きな行事のひとつだからな。まぁコイツらの場合、やる気の発生源は違うところにあるみてーだけど」
後ろの席で机の上で腕を組んでいた洋太はクラスメイト達のやる気に満ちた表情を見てワクワクし、隣の席に座る徹は血走った目で興奮するクラスメイト達を呆れた様子で肩を竦めていた。
「よーし。じゃあ俺は溜まってたシナリオ消費するから、水野と蒼氷、あとは頼んだ」
「銅八先生、LHRとはいえ今授業中ですよ。何ソシャゲ始めてるんですか」
「しゃーねーだろ。FGOガチャ渋いし育成も面倒いのに、仕事の合間にイベントクエストもクリアしなきゃいけねぇから、メインストーリー全然進まねぇんだよ。この間の夏休みにやっと第1部の中盤だぜ?こういう時間の合間にやっとかないと……」
「仕事しろよ阿呆教師」
クラスメイトの一人が教室の端で椅子に座ってる教師に文句を垂れるが、スマホをいじり始めた蜂丸に聞き入れられる様子はなかった。
「………えっと、それでは皆さん。これより我がクラスの出し物について、話し合いを始めたいと思います」
「では意見のある方から挙手お願いします」
生徒から呆れた目で見られる蜂丸をよそに、学級委員長と学級副委員長を務める生徒・
委員長の水野巻衣は、青みがかった黒いマッシュヘアの男子で、真面目な性格故にクラスを纏め上げようと奮闘するも、童顔と低身長のせいかクラスメイトからマスコットみたいな扱いを受けている。
副委員長の蒼氷錦吾は190cm超えの高身長で、色素の薄い水色のベリーショートを携えた、目付きこそ悪いが同じクラスメイトである志々島玲音に並ぶ程に眉目秀麗な、スポーツ万能で頭脳明晰というハイスペック男である。
「ハイッ!まずは俺からいいですか!」
「はい早乙女くん、どうぞ」
まず最初に早乙女と呼ばれる生徒が挙手し、巻衣が指名したのを見た錦吾がチョークを手に取って黒板に書く準備をする。
「俺がやりたいのは、女装喫茶です!」
「………………えー。他に何かアイデアがある方は、挙手お願いします」
早乙女の案を聞いた巻衣は目を手で覆い、今聞いた台詞の記憶の削除を行って別の生徒へ意見を聞こうとする。今度は、早乙女の隣に座る會澤という男が手を挙げた。
「はい會澤くん、お願いします」
「ハイっ!俺がやりたいのは、AV鑑賞です!」
「………………アニマルビデオ鑑賞、っと」
発案されたアイデアに頭を抱える巻衣と、淡々と黒板にそう書き込んだ錦吾。會澤は自身が提示したアイデアが歪んだ形で記述された事に異論を申し立てようとするが、クラス委員二人はガンスルーして他の生徒から意見を求める。
その後も、様々なアイデアが教室中に飛び交う。しかしクラスメイト達の意見は、明後日の方向へとヒートアップしていた。
「ハイッ!女装喫茶!」
「自分はホストクラブを立ち上げて、女子とシャンパンを開けたいです!」
「坂蔵君、お酒は成人迎えてからですよ」
「じゃあいいです〜」
「挙げたならせめてもうちょい粘れよ」
「ハイハイッ!女装喫茶!!」
「チンチロリン振りたい……!賭け麻雀キメたいっ……!血沸き肉躍るっ!悪魔的狂宴ッ!どうする委員長ッッ!!」
「学校内で金銭的ギャンブルは辞めてください。此処は百花王学園じゃないですよ」
「ハイッ!女装喫茶!!ハイハイッッ!!」
「ボクのボクによるボクの為のミュージカルショー☆」
「やる場合は他の方にも出番をあげてくださいね」
「もしもーし!聞こえてますかぁーーッ!女装喫茶よろしくお願いします!!」
「はーい、ウチはお化け屋敷を立候補したるでー。そんでもって、ノコノコやってきた糞リア充どもを恐怖のドン底に失禁脱糞させたるわ」
「お化け屋敷に関しては良い案だと思いますが、排出物処理する人の身にもなってください」
「ハイハイ!女装喫茶!ハイハイ!!女装喫茶!!ハイハイハイハイハイハイハイハイ!!!」
「…………水野。早乙女が五月蝿いから立候補に挙げてやれ」
「…………………はい」
「いいんちょー、バナナ食べたいです」
「黙って勝手に食ってろ馬鹿。あ、俺は紅生姜祭りをやりたいです」
「ごめん紅生姜祭って何?」
数名の生徒が案を出すも、どれもこれもふざけたモノばかりであり、まともなアイデアを出す生徒は殆ど居なかった。
洋太が通っている此処1年G組は、馬鹿とイカれ狂人と悪ふざけと諦めの境地のバーゲンセールな奴らばかりがいる、そんな教室であった。
そんな様々な立候補を一通り聞いた上で、巻衣と錦吾は挙手している生徒達の腕を一旦下ろさせ、黒板に書かれているアイデアを見返してみる。
・アニマルビデオ鑑賞
・カジノ場
・ミュージカルショー
・お化け屋敷
・女装喫茶
・ライブハウス『Only ONE STAR』
・一条みちるファンカフェ
・シャケざんまい
・天下一武闘会
・鹿の子の戯れ場 etc…
「……いくつか絞るか」
「そだね」
「すみませーん、俺が挙げたのはアニマルビデオじゃなくてA『では皆さん、これらからどれにするか決めたいので、それぞれ挙手をお願いいたします。では先ずは……』無視かよコノヤロー」
文化祭の出し物を決める為の話し合いが進んでいる中、洋太は神妙な面持ちで黒板の方を見つめていた。
「おいどうしたんだよ洋太、なんか難しい顔してっけど」
隣に座る徹が声をかけて来たことで我に返った洋太は、今自分が 考えていた事を口にした。
「文化祭ってさ、後ろに『祭』って付いてるじゃん」
「うん、そうだな」
「祭りって事はさ、太鼓の演奏をバックに盆踊りとかするんかな?」
「……文化祭やるの11月だから盆踊りはやんないと思うけど、フォークダンスなら後夜祭とかでやるかもな。それがどうしたんだよ」
「どうしよう徹……僕、スゴい音痴なんだけど……!」
「……あ、うん」
「いや反応薄くない?」
真剣な眼差しでそう訴える洋太に対し、徹は割とどうでも良さそうな顔で「そういやコイツ、音楽の成績もずっとオール1だったな」と心の中で呟いていた。
「てかフォークダンスって踊りがメインなんだから、歌う必要良くないか?」
「でもさ徹、祭りなんだから歌いながら躍る事になるかもしれないでしょ?もしそうなったら歌えないよりは歌える方が良くない?」
「だとしてもよ、無理して苦手分野に挑戦するよりかは、得意分野の方で補った方が良い気がするんだよな。俗に言う『適材適所』って奴だよ」
「徹………『てきざいてきしょ』って何?」
「おい、人が折角まあまあ良い事言ってんだから話の腰を折るなよ。
あと『適材適所』ってのは、“人の能力・特性などを正しく評価して、ふさわしい地位・仕事につけること”って意味で。仮面ライダーで例えると、その場の状況に合ったフォームに形態を変えて戦う感じだ。
クウガだと空飛ぶグロンギ相手にペガサスフォームへ変身して狙撃する場面が、ディケイドだとワーム相手にカブトかファイズ・アクセルフォームにカメンライドする場面が挙げられるな」
「ほーん。成る程、だいたいわかった」
「……ホントにわかってる?」
ぽけっとした顔でvサインする洋太を見た徹はジト目で一抹の不安を覚えたが、一々気にしてたらキリが無いのでもうこの辺で適度に会話をしつつ、今出し物の話がどうなってるのかと周囲を見渡してみる。
「だーかーらー!普通にするよりも、女装した方が女子との距離が縮まる筈なんだよ!」
「そうだそうだ!そして女装する事で、より女子の気持ちに寄り添う事ができる!だからウチの出し物は女装喫茶で決まりだ!」
「ちなみに立候補者の俺は趣味でーす!」
「何を言うか!お化け屋敷の方が女子とお近付きになりやすいじゃろうがい!」
「その通り!僕の計算によれば、女子と一緒にお化け屋敷内を探索する事で、お化けに怖がった女子が抱き着いてきて『わたし、とても怖いの……お願い、一緒にいて……っ!』といった感じで、女子と急接近できるチャンスを得られるんです!」
「そしてウチはそんなやっちゃの雰囲気をブチ壊すレベルの恐怖と絶望を与えてやるんや」
「いんや、そいつらも良いと思うけどさぁ。やっぱライブが一番っしょ!」
「そうそう!茶楽がDJをして、俺らがダンスって女子達にアピる。ある意味“最強”だぜ〜♪」
「ちゅーわけだからね?此処はオレちゃん達の顔を免じて、ライブハウスをやる形で進めてこうぜ〜?」
どうやらどの出し物が良いかで意見が割れているらしく、男子生徒数名が黒板の前で三組に分かれて混沌を極めており。黒板にはお化け屋敷と女装喫茶とライブハウスの三つに10票ずつ投票され、その他の出し物候補には一人から二人ほど投票が行われていた。
委員長である巻衣は頭を抱えつつも、その成り行きを見守っていた。
「へー、蜂丸先生って“ジャンヌオルタ”が推しなんですね
「そういうお前は、“ポール・バニヤン”推しか?」
そして副委員長の錦吾は、まるで現実逃避をするかの様な雰囲気を醸しながら、担任の蜂丸と互いの好きなサーヴァントについて語り合っていた。逃げるなァ!責任から逃げるなァ!!
「OK、わかった。ならば戦争だ」
「成る程、どうやら死にたいらしいな」
「いいねぇ、ボコボコにしてやんよ」
その間にもクラスメイト達による言い争いはヒートアップしき、最終的には野蛮な議論ではなく穏便な暴力で解決しようとする馬鹿とイカれ狂人がファイティングポーズと武器(文房具)を構え、教室内は一触即発な状況に陥っていた。やはり暴力……!暴力は全てを解決する……!
このままじゃ乱闘騒ぎになると巻衣はオロオロし、錦吾は「そろそろ狩るか…」と拳の骨を鳴らしながら鎮圧化を図らんと腰を上げたその時だった。
「折角票の数同じなんだから、全部合体させれば良いのに……」
「いや、そういう問題じゃねぇだろコレ……」
ふと洋太が何気なく放った一言が、馬鹿達の耳に届いた。
その発言を聞いた彼らはピタリと動きを止めて視線を一方向へ放ち、彼らの視線に気付いた洋太は首を傾げて彼らを見つめ返す。
「……見円」
「そいつぁ、“アリ”だ」
「ディ・モールトだよ洋太っち」
「???……あ、うん。どう致しまして……?」
「……大丈夫かコレ。チェイテピラミッド姫路城みたいな事にならない?」
「いやでも争われるよりかは……」
意見の一致に肩を組み合ってサムズアップした三組に、洋太はよく分かってないながらも取りあえず笑って返した。学級委員の二人も
──こうして彼らの出し物は、“ライブ女装喫茶『怪物娘達の戯れ』”に決定した。
学級委員の二人はこの後、内容の詳細を聞いた生徒会から「マジでか?」と正気を疑われた。
卍 卍 卍
「レッツパーリィー♪エンジョイしなきゃ勿体無い♪フンフンフフン、ハッハーン♫」
放課後。今日は親友が日直で一緒に帰れない為、ひとりで帰る事になった洋太は街中を歩きながら、控え目に言っても大して上手くないうろ覚えの歌を口ずさむ。
「レインボぉーは〜♪空だぁけじゃーない♪胸にも……あっ」
『タスケテ……タスケテ……』
不意に洋太は、電柱の横に添えられた花束等のお供えに気付いく。
恐らく此処で誰かが交通事故で死んだのだろうと察すると、足を止めて手を合わせながら静かに冥福を祈る。
「どうか、成仏してください……なんてね」
『ア、アァ……マブシイ……アツイ……アリ、ガ…トウ』
そう呟くと一瞬だけ何処かから視線を感じたが、気にすることなく黙祷を行い、再び歩を進める。
「はぁ、なんか歌う気分じゃなくなっちゃったなー……なんかオモロイの無いかなぁ〜……おっ」
何か面白い話は無いかとスマホを取り出してネットニュースを漁ってみた時、自販機の前に黒い長髪の女子高生…幼馴染であるみこが立っている事に気付いた。
つまらなそうな顔でスマホをいじろうとしていた彼の顔が、みこの姿を確認した途端にパアッと明るくなり。そのまま早足で彼女の背後に駆け寄って、肩に手を置いて声を掛ける。
「みーこーちゃん!」
『アッツィッ!』
「っ……どうしたの洋太」
「どうしたも何も、今みこちゃんの後ろにいるの」
突然の声を掛けられたみこは肩を僅かにビクッと震わせながらも、ニッコニコの笑顔を浮かべて駆け寄って来た洋太の方へ振り返り、少しホッとした様な表情をする。
みこが振り返った事を確認した洋太は、まるで犬が尻尾をブンブンと振り回すかの様な勢いで詰め寄りながら、彼女と同じ様におしるこを購入して話を続ける。
「そういえばみこちゃん、近いうちにウチの学校で文化祭があるって知ってたっけ?」
「いや、知らない。いつだっけ?」
「11月の中頃何だけど、よかったらハナちゃんとユリア師匠を連れて見に来てよ!色んな屋台とかパフォーマンスとかあるし、ウチのクラスも喫茶店やる予定でさー」
自販機で買ったおしるこ缶のプルタブを開けて飲みながら自校の文化祭の魅力をアピールし、爽やかな笑みを浮かべて文化祭への来賓招待を促す。
だがしかし、何故かみこの顔は曇ったままだった。
「……みこちゃん、何かあった?」
「えっ……あ、ごめん。ちょっと考え事してて」
「……そっか。なんかあったらすぐに言ってね?僕にできる事なら、大体何でもやるつもりだし」
何か不味い事でも言ったのかと不安になりつつ彼女の顔色を窺おうと、眉をハの字にして不安げな顔を浮かべる洋太に気付いたみこは、バツが悪そうな笑みをしてそう返した。
彼女の態度を見て何かあったのだと察したものの、何となく本人が言いたく無さそうな素振りをしているので深く追求しない事にし、話を戻そうと何処まで話したか思い出しながら口を開こうとして……
「──あのさ!洋太は……えっと……」
それと同時にみこも口を開き、何かを尋ねようとした。しかし直ぐに不安そうな表情を浮かべ、さっき言いかけた言葉を呑み込んだ。
その顔は、必死に言葉を選びながら咀嚼しながら“どう説明しようか”と悩み抜いている、或いは“本当に言って良いのか?”という迷いと不安が混じった、そんな表情に見えていた。
「ん?どしたのみこちゃん」
「……洋太はさ。ユリアちゃんに、その……“特別なチカラがある”って言われた時、どう思ったの?」
小首を傾げてそう問いた直後に数秒程沈黙が訪れると、みこはやっと決心が付いたのか深呼吸をひとつしてから再び口を開いた。
彼女の質問に対して、ユリアと始めて会ったその夜に、その日あった出来事をみこに相談していた事を思い出し。うーんと唸りながら腕を組んで、質問の答えを捻り出そうと首を傾げて考え込んだ。
「んー……ユリア師匠の言ってる事は、顔を見れば“あコレマジなんだ”って信じられるんだけど。それでも僕が持っているっていう『能力』に関しては、正直言ってまだよく分かってないんだ」
そう言って自身の手を見つめ、その掌をグッパグッパと閉じたり開いたりして、改めて自分の“能力”に関しての想いを口にした。
かつてユリアに教えて貰った通り、自身にそう言った能力が秘められているのは何となく分かったし、感覚的にそれっぽいのを感じた事はあった。しかしそれがどういうモノなのかというコトに関しては、懐疑と不安が拭い切れていないのもまた事実であった。
当然だ。例え唯一無二の異能を持っていたとしても、能力を視覚化出来てないのならば、使い様も鍛えようも無いし、そもそも自覚のしようも無い。せいぜいが「自分って実は凄い力を秘めてるのかも〜?」という厨二病的な自意識過剰に浸るぐらいでしかないのだ。
「でもね」と口元を僅かに綻ばせて、洋太はみこの方を見つめて力強く笑う。
その笑顔はまるで、今歩んでいる道に対して一片の迷いも無い様だと感じさせるモノだった。
「もし本当にそういう能力があって、霊みたいなのが居たとしたらさ……そういうので困ってる人達を助けられるなら、出来ればこの能力で助けられる様になりたいなって……そう思った」
そう言った時の彼の眼差しは、とても真剣なモノだった。
「ユリア師匠も言ってたんだけど、こういう特別な力を持っている人には何か、その能力を活かすべき『特別な意味』があるみたいなんだよね。
だから、なんだろ……“適材適所”って奴かな?僕にそういう力があるって事は、何かしらの『出番』があるなら、それを使って誰かの役に立つ事が『役割』だと思うんだ〜……なーんて。みこちゃんからしたら、何言ってるか分かんないよね?メンゴメンゴ!」
真面目な顔から申し訳なさそうな顔になり、ヘヘッと笑ってみこの顔を改めて伺うが、彼女はただジッと洋太の顔を見て口を噤んでいた。
その様子に流石の彼も不安になったのか、同じ様に黙りこくって彼女の様子を窺った。すると、みこはフッと微笑みながら静かに口を開いた。
「もう……なんて顔してるの洋太?アンタはバカみたいに笑っているのが一番の役割なんだから、そんな顔をしないの」
「お、おう……なんかゴメン」
そう言って、彼女は洋太の頬を優しく抓る。
彼女の言葉に一瞬ポカンとした表情を浮かべたが、直ぐに彼は満面の笑みを浮かべてみこの手を握りしめた。その手は、とても温かかった。
「………意外と考えてるんだね、洋太も」ボソッ
「……んぇ?なんか言ったみこちゃん」
「相変わらず何も考えてなさそうな顔だなーって言った」
「え、なにそれ酷い。僕ちょっと傷付いたんだけど?」
みこの言葉の真意を測り損ねた洋太は文句ありげに聞き返したが、すぐにいつもの様に茶化す様な笑みを浮かべ。それを見たみこもまた、クスクスと笑いながらも彼の腕を軽く小突いた。
その顔が、僅かに曇っている事を悟られぬ様に……
卍 卍 卍
翌日。みこの通う女子校、一年三組にて。
「昨日自販機でジュースを買おうとしたら……こんなでっかい蛾がとまってたの‼︎しかもボタンのとこにだよ‼︎さいあくっ!」
「……そのまま押したの?」
「押すわけないじゃん!ちょっかい出すと顔に飛んできたりするでしょ?触らぬ蛾に祟りなしだよ!」
(徹君にはずっとついてるけどね……)
ジュースはコンビニで買ったと語るハナの話を聞きながら、影杉徹に憑いている蚕蛾の事を思い出すみこ。
「……そうだよね、無視するのが一番だよね……洋太じゃあるまいし……」
「? 何でそこで洋太くんが出てくるの?」
「……アイツ、この間も素手で虫触って窓に投げ捨ててたから」
メロンパンの袋を開けながら「あー洋太くんらしいなー」と苦笑いで呟くハナに、みこはどこか遠い目をして窓の外を見やる。
そこへ呼鈴と共に戸が開く音が教室内へと響き渡り、新しい教師だと呟くクラスメイトの声を聞きながら視線を送り──みこの顔が青白い驚愕に染まる。
「荒井先生が産休に入られたため、今日から皆さんのクラスの担当になります。
遠野善です。みんなよろしくね」
そこにいた人物は、かつてみこ達が捨てられた子猫を引き取ってくれる人をSNSで募集していた際に、子猫の受け取りに来ていた青年だった。
爽やか且つ優しそうな雰囲気を感じさせる新担任にクラスメイトは好印象を抱くも、みこは背後に何匹もの猫の怨霊に憑かれている彼に対する、筆舌に尽くし難い恐怖とおぞましさで顔を引き攣らせ、目が離せなくなる。
これまで幼馴染の持つ特別な力によって、恐ろしい目に遭わずに済んでいた四谷みこ。
しかしその幼馴染が居ない今、見るからにハッキリと“ヤバい”と分かる存在にただならぬ恐怖を抱き、全身の震えが止められない彼女は、右腕に付けた赤い数珠のブレスレットを左手でギュッと握りしめた。
(ど、どうしよう……もしかして、毎日アレが……?ただでさえ学校内にもヤバいのが潜んでるのに……洋太から貰った数珠、効果あると──)
『みるな』
その時、目の前に立っていた新任教師の背後から、ドス黒い靄と一緒に“メチャクチャヤバい奴”が這い出てきた。
『みるな』
“それ”は上半身が髪の長い女性であるものの、その濡れた髪はボサボサに傷んでおり、口からは3対の侠角が生え、真っ赤に充血した目は常人が見たら正気を失いかねない程に狂気的。
『ミるな』
そして下半身は最早人間のそれでは無く。まるで蜘蛛の様な胴体からは4対8本の手脚が生えており、蜘蛛の脚の先には黒くて鋭い爪が伸びていた。
『みルナ』
そんな存在を視認した直後、みこは手首の数珠を握りしめたまま固唾を呑んで視線を下へ逸らした。
(………どうしよう)
『ミルナ……バカがウツル……!』
(もしかしたら、メチャクチャヤバいのが来たのかもしれない……っ!)
低い足音と一緒に徐々に大きくなっていき、遂には頭上から聞こえるようになった呪言により、みこの目から恐怖の涙が溢れ出そうになった、その瞬間だった。
『失せろ…!』
ドスの効いた声が耳元に響いたその直後、何かが切り裂かれる音と、化け物の口から苦痛の叫びが放たれた。
それと同時に掛かっていたプレッシャーから少しばかり解放されたみこが目線を上げると、新任教師の足元に蜘蛛の様な化け物が倒れ込み、顔を抑えた手の隙間から黒い液体を垂らしながら悶え苦しんでいた。
『み ミルナ……』
『二度も同じ事を言わせるな……虫ケラめ……』
困惑の混じった呪言を呟いていた化け物に対し、背後から聴こえる怒りを含んだ感情を剥き出しにした“ナニカ”が静かにそう告げると、化け物は恨み辛みを込められた眼光を此方へ光らせ、彼の中へと戻って行った。
(い、今のは……なに……?)
目の前で起こった一連の光景に理解が追いつかず、呆然としていたみこが右手首と左手から伝わるじんわりとした刺激に気付き、ふと視線を落とす。
握り締めていた数珠ブレスレットからは、僅かながら熱が籠められていた。
●見円洋太
新しく音痴設定が付与された馬鹿猿。
祭りに参加した時は必ずチョコバナナを食べる様にしており、バナナとチョコの甘みが口いっぱいに広がるたびに「あ〜これぞ祭りや〜!」とテンションが上がるらしい。
ちなみに朝のHR中、急に腹の虫が鳴り出してみんなの笑いのネタにされたとかされなかったとか……
●四谷みこ
相変わらずヤバい奴らが見えてしまっている可哀想な子。
蜘蛛型のヤバい奴を追い返した“ナニカ”の声を聞いた際、何処かで聞いた事のある声だなーと思ってたら、神社の時に出て来た白い狼の件と同じく数珠のブレスレットが熱くなったのを感じて、まさか…?と思い始めている。
小学生時代に幼馴染と祭りへ参加した際は、ずっとバカの袖を掴んでどっか行かないようにしていたらしい。
●影杉徹
前回の話では、うっかり男の
●百合川ハナ
今回は出番少なめな娘ェ。こんな天然な性格で勉強は普通に出来るの詐欺でしょ?
●銅蜂丸
洋太のクラスの担任。通称『銅八先生』。
髪の毛は赤褐色に近い黒髪、『Fate/Grand Order』のヘビーユーザーである。
元ネタは銀八先生なのだが、服装は白衣では無くクタクタのスーツジャケットを身に付けている30代後半のおっちゃん。
●水野巻衣、蒼氷錦吾
洋太のクラスを統べる、学級委員長と学級副委員長。
今回の話、本当は文化祭実行委員が進行するはずだったが、当日は体調不良で休みにしてたので急遽代わりにやる事となった…という裏設定がある。
名前の元ネタは『天装戦隊ゴセイジャー』の幽魔獣“ブロブの膜イン”と“ビックフットの筋グゴン”である。え?なんでよりによってそれを元ネタにしたのかって?何故ですかねぇ、腐☆腐。
●遠野善
第3話でも登場した、メチャクチャヤバいのに憑かれている青年。
中の人は五条先生だが、無下限呪術も六眼も持ち合わせていない。しかし乙骨先輩と同じく過呪怨霊には憑かれている。ちなみに制御不能である。