カミサマ「ほいだら彼奴はワシを愉しませてくれるんかあーーーん?」
月光の下、ぶわりと空気が揺れる。
何本ものイバラの蔓が牙を研ぎ澄まして襲い掛かり、それを黒刀の鋭い刃が迎え撃ち、瞬きのうちに蔓がバラバラに刻まれて風に散る。
しかし間髪入れず、イバラの残骸を斬り裂きながら新たな蔓が間断なく襲いかかった。
『キレイト イイナサァァァァイ!』
鋭い棘の生えた太い蔓が横殴りに叩きつけられ、刃で受けるも衝撃を殺しきれず、天匙は体を浮かせて後退する。黒刀を握る手に痺れが走るも、二撃目を受けると同時に高く振り上げて蔓を斬り払った。
だがそこで生まれた隙は大きく、女の怨霊の斬られた腕の断面から生えた太いイバラの蔓を枝分かれさせて何十本もの蔓へと増やし、鞭のようにしならせて一斉に襲い掛かる。
「ぐっ…!ふぅ……キッツいわぁ、やっぱ……」
汗と一緒に頬の一文字から滴れる血を舐め取って、咄嗟に黒刀を思い切り振るって返したが、徐々に刃こぼれを起こしていく。それでも蔓を斬り払い続けるも、やがて捌ききれずに腕や足を掠める一撃が増え始め。蔓の勢いに押されるまま弾き飛ばされて、口から血反吐を吐きながら地面に叩きつけられた。
その隙を逃さず、イバラの蔓は倒れた天匙へと殺到し、四肢に巻きついて自由を奪う。
もがくことすらできないほど強く縛り上げられ、少しでも動けば四肢に巻き付いたイバラの棘が皮膚に食い込まされた天匙は、しかしそれでもなお黒刀を手放そうとしない。
『……アハッ』
そんな彼を見下ろしながら、悪霊はゆっくりとした動作で自分の体からイバラの蔓を一本引き抜くと、それを硬化させて杭の様にして、天匙の心臓へと向けて狙いを定める。
「ほんでウチの胸に花咲かせて終了〜……ってか?舐めんなよ糞アマ」
天匙が小さく呟いた次の瞬間、「バチッ!」という音と共に“血が付いた”刀が稲光のような輝きを放ち、気を取られた悪霊の心臓に一本の光り輝く雷の槍が突き刺さった。これには悪霊も驚愕したのか、憎らしい笑みを浮かべていたその表情が歪んで動きを止める。
「ぐっ……ゲホッ……ケヒッ、ザマァみやがれ」
体を縛っていた蔓の束縛から解かれた天匙は悪霊の腹部を蹴り上げ、そのまま跳ねる様にして飛び起きて悪霊と距離を取った。
雷のような輝きを放っていた天匙の黒刀は、吐血の際に付着させていた血が蒸発すると同時に輝きが弱まって元の黒い刀身へ戻り、悪霊の胸に突き刺さっていた雷の槍も光の粒子となって霧散する。
「せやけど……やるしか、あらへんなぁ……『風神様、雷神様、風雷坊様──』」
そう呟くと、白いメッシュの横に生えている黒い髪の毛を一本掴み、刀の切っ先を毛の先っちょに当てて……すぱん、と切断した。
「『我が命の灯火を対価とし』」
すると斬られた一本の髪が白く脱色し始め、それに連動して黒刀が再び淡く輝きを放つと、刀身に雷が宿ってバチバチと火花を散らして音を立てる。
「『悪鬼悪霊を滅する刃に、力を授け給え』」
天匙は詠唱を続けながら黒刀を居合い斬りの要領で腰に納め、体勢を低くして構え始める。
対する悪霊は、敵の黒刀に宿った雷を見て、それが自分の心臓を貫いた雷の槍と同じものだとすぐに理解した。
そして同時に確信する。あの刀は“神器”であると。
『……キャハハハハハハハ!!』
「『神速の雷鳴は牙を研ぎ、いざ魑魅魍魎へと喰らい付かん──』」
しかし悪霊は臆することなく、身体に出来たヒビ割れの隙間や切断された腕の断面からイバラの蔓を大量に生やして、天匙へ向かって襲い掛かる。
「──疾風迅雷・一閃」
その速さはまさに疾風の如きもので、瞬きの間に間合いを詰めるが、すでに天匙は黒刀を鞘から抜き放ち、その刃が横一閃に振り抜かれていた。
「………げふっ」
少しの静寂が辺りを支配して、やがて黒刀に宿った雷が霧散して消えると、天匙はその場に膝から崩れ落ちる。
『アハハ……ッ!?』
自身の勝利を確信した悪霊は小さく笑みを零した…数秒後、彼女の身体を守るように覆っていたイバラの蔓が木っ端微塵に斬り刻まれ。同時に彼女自身も少し遅れて無数の細切れになって地面に落ち、何が起こったのか理解出来ぬまま、その体ひとつひとつが黒い霧へと変わっていった。
「……また一本ぶん、消費してもうたなぁ……」
それを見届けると、悪霊の放った棘の攻撃で傷つき、出血している箇所を手で押さえることなくその場を後にした。
その後を追いかけて来る者の姿はなく、ただ静寂が夜の闇を満たしていた。
卍 卍 卍
「皆さんに今一度問います。我々男にとって、何が一番大切だと思いますか?」
あの雑草女との戦いで負った怪我の処置を行なって、泥のように眠った翌日。取り敢えず嫌々学校に通ったウチを含むクラスの奴らは、太陽がガンガン照らす学校のグランドで三角座りをさせられ、腕を組んで立っているゴリラ顔の筋肉ダルマである体育教師……
するとウチの隣に座っていた生徒……名前は知らんけど、そいつが手を上げた。
「はい岩崎君、お答え下さい」
「●ン●ン」
「その理由は?」
「男の役割は女と交わって子孫を残す事だからです」
「その答え、残念ながら15点です。男たるもの、女性に対しては紳士であるべきです。なので間違っても決して、一番大事な事に対して下ネタ関係で答えないように、分かりましたね」
ゴリラが放った正論寄りの返しに、岩崎っちゅー奴が不満そうに舌打ちする。
ほんで次に手を上げたのは、後ろの方に座ってたなんかいつも巻き舌で無駄に声のデケェで喋る奴やった。
「人るウゥわぁ……心ドゥエしょうぐわぁ!」
おーおー。相変わらず巻き舌すぎて、何ゆうとるか分からんわ。日本人なら日本語話さんかいドアホ。
「素晴らしい解答です若林君。日本の武道における『心技体』という教えにもある通り、最大限まで引き出す為には、優れた技や肉体に加えて強靭な心も必要となっています。そういう意味でも、人の一番大事な事として『心』を答えるのはかなり“良い”ですね。
しかし後一つ足りませんね。よって95点です」
「チックショーーーーーーーーーーッッッッッ!!!!!!」
「うるせぇぞ若林ィ!もう少し声のボリューム抑えろ!!」
サンキュー若林の隣にいた奴、代わりに引っ叩いてくれてよ。さてと、次挙手してくるやっちゃは……なーんて思っとると、洋太の奴が手を上げてゴリラに応答しようとしてはった。はてさて、どんな珍解答するのか楽しみやなぁ。
「では洋太くん。君が思う『男にとって一番大切な事』はなんだと思いますか?」
「筋肉です」
「その理由は?」
「力こそパワーだからです」
「──100点です洋太くん、君は男の中の漢になれる素質があります」
「やった始めて100点取った!」
案の定巫山戯た答えかましたなぁ。と油断したトコで……うぉおいッ!?なんで筋肉が百点満点回答で正解やねん!ウチが言うのもアレやけど、其処は筋肉より心を正解にするトコやろがい!おいゴリラ、一体全体何を思って正解にしとんのじゃ。
「なんで筋肉が正解なんだーと思った方もいるでしょう?しかし侮ってはいけません。貧困や障害を始め、ジェンダー、宗教、社会的地位といった不平等が未だに曲がり通ってしまうこのご時世、力が無ければ世間という名の波に流され、いずれは淘汰されてしまいます。
私が日頃鍛えているのも、波に逆らって自身の進むべき道を歩ける様になるためです。そして筋肉は一日にして成らず。日々欠かさずトレーニングに励み、その成果として今の肉体があるわけです」
なんか急に力説し始めたなこのセンコー……あと半分近く色々社会がどうのこうの語っとるけど、最終的に筋肉の話に集結しとったな。
他の奴らはセンコーの言う事だからと納得して頷いてたり、感心してるみたいやけど……ウチはそないな事どうでもええから、さっさと終わればエェねんけどなぁ。
そんな事を思っとったら、ゴリラが話をまとめにかかっとるな。
「ですのでこれから皆さんには、自分が進みたいと思える道を歩けるよう、私をも超える筋肉を身に付けてもらいたいと思っています。
具体的には水の上を走れるくらいに足腰を鍛え、石炭を片手で握ってダイヤモンドを錬金出来る程に握力を鍛え、ショットガンで狙撃されても耐え切れるくらいに強靭な腹筋や胸筋を手に入れて欲しい所ですね」
「先生、それが出来るのは刃牙の世界に住む、普通じゃないホモ・サピエンス或いはゴリ・サピエンスだけだと思います。俺たちは殺し合いとは無縁の平和な国に生まれた普通のホモ・サピエンスです」
「えぇ、確かに普通は無理だと思うでしょう。ですがそれでも良いんです。ここで大切なのは『結果』ではなく『過程』です。人間、結果だけを追い求めては、その道中を疎かにしてしまいがちです。なので皆さんには『身体を鍛え抜く』という結果だけでなく、『身体をどの様に鍛えるか』の部分に重点をおいてください。
そして最後に、これだけは覚えておきましょう。外見の魅力や学校の成績は所詮、肉や骨でしかなく。その身体と豊かな心こそ骨と髄であるんです。『筋肉と共にあらん事を』、リピートアフタミー」
「「「『筋肉と共にあらん事を』!」」」
この脳筋学校め。
数分後、『心技体』の技と体を鍛えるという事で、ウチらはゴリラ先生の指示で二人ペアになってサッカーのパス練習を行う事になりはった。
……さて、今ウチのクラスは一人が体調不良でこの間から休みになっとるから、此処には39人おる事になっとった筈で……必然的にウチがボッチとなる、と言う訳やな。
ウチは別にはみごされとる事に対して、クソ雑魚メンタル陰キャみてーに精神的苦痛を感じる事はないんやけど、此処で一番の問題はセンコーとサッカーボールキャッチャーを行う事にある。
それなりに体力やパワーに自信があると自負しとるウチでも、あの筋肉ゴリラとのパス練習はハッキリ言うてメチャクチャ面倒くさい。前の授業でゴリラとキャッチボールをする事になった時も、必死こいて食らいついているウチにゴムゴムのピストル並みの豪速球(おおよそマッハ3.2近くあった)をボンボンぶん投げてきよって、しかもあれで「少しだけ手加減してる」言うてたんやから話にならへんわ。
「ヤッホー白沼くん、一緒にやらないか?」
どうするかと悩んでいると、洋太がこっちに向かってボールを蹴ってきよった。ウチはそれを胸トラップしてそのまま、アイツと一緒におった徹にパスする。
「なんや洋太、生憎ウチはノンケやで」
「そっちの“やらないか”のつもりで言った訳じゃないんだけど……」
「まぁええわ。よろしゅうな?」
冗談はさておき、ゴリラと殺り合いたくないウチはその場でコイツらの輪に入って、軽く準備運動をしながら蹴り合いを始めた。
「そういえばこの間みこちゃんとアナコンダ穴熊の握手&サイン会に行ったんだけど、そん時にアナコンダ穴熊にマッスルスパークをかけて貰おうとお願いしたら断られちゃったんだよねー。折角だから記念にって思ったんだけど……」
「そりゃ断られるだろ。キン肉族三大奥義のひとつだぞ?プロレスラーとはいえ超人でもない穴熊が取得できる程そんな簡単な技じゃねェだろ。ていうかお前なに技かけて貰おうとしてんの?ドMなの?ターボメンみてーにパワーを増幅しようとしたの?」
「いや、究極の峰打ちなら大丈夫かなーと思って」
『そもそも技食らうにしてもオリジナルにしとけよ、なんで他の奴の技かけて貰おうとしてんだこの馬鹿猿は?』
くだらん会話を片耳に入れてボールを蹴りながら、改めてコイツらの姿を──相変わらずメチャクチャ光っとる馬鹿と変な蛾に憑かれとるオタクのコンビを視界に捉える。
それにしても、オタクの頭に乗っかっとるあの虫……最初に見た時はまぁぶっちゃけ雑魚やからほっといてもエェやろと放置しとったけど……あの馬鹿の光を浴びて、よく今まで消滅せずに要られたなァ。しかも浴びたら浴びたで、苦しそうに悶えても最終的には真っ白になるし、しばらくしたら元の灰色っぽいオーラを纏った姿に戻るとか、どない体質しとんねん。まぁ、悪霊と守護霊のハイブリット霊的な奴やと思うけど。
「それで帰りに……んえ?どしたの白沼くん、こっちをジッと見て」
「……あぁ、その事なんやけど……ちょいとこっちにボールくれへんか?」
ふと、ウチの視線に気付いた洋太が無駄に輝いた首を傾げながらウチを見てくる。対するウチはボールを要求すると、徹からキャッチしたアイツがボールをこちらへ転がす。
「ほらよ〜、ほんでこっち見てた事についてなンガっ!?」
「洋太!?」
んで、ボールを受け取ったウチは……洋太の顔面に向けて全力で蹴り飛ばした。ボールは洋太の鼻に直撃すると、そのまま勢いよく跳ね返ってウチの方へと戻ってくる。
「だっはっはっはっは!引っかかってやんの!その顔マジウケるわ」
「……えっ?は?なんで今ボールぶつけられたん?」
そうゆうて洋太は赤なった鼻を抑えながら問い掛ける。
……鼻血は、出てへんな。出すつもりで蹴ったんやけどなぁ。
「じゃあ逆に聞いたるけど、お前はそこにサッカーゴールがあって、足下にボールがあったらどないする?」
「………んん〜、取り敢えず蹴ってゴールに入れるケド?」
「そうやろ?つまり……そういう事や」
「どういう事や。まるで訳がわからないよ」
「取り敢えず言いたい事は沢山あるし、無意味だと思うけど一応言わせてもらうよ。オメェはさっさと洋太に謝れ」
「確かにウチは洋太の顔面目掛けてボールを蹴り上げた。せやけどウチは謝らない。何故ならどんな困難にぶつかっても、必ず立ち上がって乗り越えると信じとるからや」
「良いこと言ってる風な感じ出して誤魔化そうとすな」
『相変わらず非道いなぁ、人の心とか無いんか?』
ケヒッ、ホンマ洋太はいい反応してくれるわぁ。他の奴らみてぇに怒ったりせぇへんのがアレやけど、まぁその辺はご愛嬌やぐべらっ!?
「あ、ドブカス眼鏡の顔面にボールが突き刺さった」
「ちょ、大丈夫!?」
……視界が晴れたかと思うと、ボールと一緒にヒビ割れた眼鏡が落下し、地面に衝突すると同時に破れたレンズを砂の上に散らばせた。そのレンズの破片に混じって、鼻血で塗れたサッカーボールが足下に転がっていておった。
ほんで顔を上げると、
「わり〜!ボールが変なとこに飛んじまって、怪我は……うん、大丈夫か?」
そこへ髪をオールバックにした生徒が掌を合わせて謝りしながら此方へ駆け寄って来た。
ウチは鼻血が付着したボールを拾い上げると、改めて謝罪してきたそいつに視線を向けた。
そして思い切りボールをストレートでブン投げると、頬で受け止めて「グハッ⁉︎」と悲鳴を上げながら倒れ込んだソイツは、地面から起き上がらんままウチに顔を向けた。
「いやー、すまへんなぁ!ボールが変なとこに飛んでもうて、怪我は……うん、大丈夫やな!」
対するウチは鼻血を拭って、一ミリも心のこめられてへん謝罪しながら満面の笑みでサムズアップすると、ソイツは赤く腫れた頬を摩りながら立ち上がり、怒りの眼差しを向けながらウチに迫ってきよった。
「───し・ら・ぬ・まァァァァァァァァ!!」
「“さん”を付けろやデコ助野郎!」
「死ねぇェェェェェェッ!!」
刹那、始まる取っ組み合い。ウチはコイツの服を鷲掴みにすると、流れるように地面に叩きつけようとする。しかし向こうも負けじとウチの頭を掴んで引き剥がそうとし、そのままヘッドロックされながら地面を転がり回る。
「ヘイ洋太!天匙クンがボクの相手と殺り合う事になったから、是非混ぜてくれないかい☆」
「良いよ〜」
「両方とも判断が早いな、鱗滝さんもニッコリだろ」
『みんな仲良いなぁ〜。シロちゃんもそう思うよね!』
『仲が良いと言うには隣が殺伐しすぎなんだけど?』
その間、洋太の奴らがクソイケメン野郎とボールを蹴り合い始めたんを、ウチは視界の端で捉えとった。
ほんでデコ野郎の喧嘩については、数分後にゴリラの鉄拳が飛んでくるまで続いた。
卍 卍 卍
「ハァー、まさかあんな形で眼鏡ダメにするなんて思いもせぇへんかったわ……」
『カッカッカ……ご愁傷様って奴やなァ』
放課後、スペアとして持っていた眼鏡を拭きながら、ウチはとある公園の柵に寄りかかり。隣で愉快そうに笑うカミサマが柵の上に乗って、慰める気の無い慰めの言葉を頂いておった。
……チッ、家に奴らに新しい眼鏡作るよう頼まんとなぁ。そんな事を考えながらため息を吐くと、綺麗になった眼鏡をかけて周囲の公園を見渡す。
眼鏡越しに見える光景には、霊と思わしき黒いモヤがあちこちに点在しており。噴水の中や電話かけとる女の両端にあるモヤも、晴天に照らされてよく見えておった。……あ、あのオッチャン入られそうやな。
「………ハァ、やっぱこの眼鏡やと精度低いなぁ」
『とは言え、神童ロムの血を媒体に精製しはったあのクラスの眼鏡は、そうそう出来へんで?前に貰ったやつも、あの眼鏡作るのにつこうてもうたし、また貰いに行くか?』
「そうは言うても、アイツにまた会うのもアレやし、面倒やし、何より前の眼鏡はどうしたのかって聞かれんのも癪やしなぁ」
そんなウチの隣でカミサマは一頻り笑うと、何かに気付いた様に顔を上げ、噴水の向こう側にあるベンチさ座るJK二人へ視線を向ける。
「どないしたんやカミサマ、色気付いたんか?」
『いや、そうでなくてなぁ……あの黒髪の小娘、餓鬼の“奴”に手を振って――』
それを聞いて、スマホをいじってはった女性の傍に居た黒いモヤが、ベンチに座るJKのひとりに向けて駆け寄った……次の瞬間、彼女達の方から凄まじい威圧感が放たれた。
その迫力に思わず息を呑み、無意識に後ずさろうとして柵に阻まれたウチが眼鏡を上げて目を凝らすと、黒いモヤを踏み付けにする白く光り輝く大きな“獣”が、黒い長髪の女の目の前へと現れておった。
『………あまりウカツな事するなよ小娘』
女はそんな獣を見上げ、驚きと喜びの混ざった顔で視線を向けておると、その獣は女の方へゆっくりと歩み寄り、ため息を漏らしながら口を開いてそう呟き。仕事を終えた獣は一飛びすると、その女が身に付けておった“何か”に飛び込んで、瞬く間に消えた。
その光景を見届けたウチは呆気に取られたまま固まったが……一体なんやったんや今のは?そんな疑問を抱いたまま、一部始終を見ていたカミサマに顔を向けた。
「なぁカミサマ、さっきのは……」
『あぁ。あの小娘、紅乃一族が行使するあの赤い数珠を所持しとる。それだけじゃあらへん、さっきの奴も……カッカッカッカ!なかなかおもろい事になっとるなぁ』
ウチの疑問に応える様に、カミサマはそう言うて愉快そうな笑い声を漏らしながら笑いよった。ウチには何がおもろいんかよう分からんかったが、それ以上にあの黒髪のJKに……さっき黒いモヤがあの女目掛けて襲い掛かろうとしとったのを思い出し、強い興味を抱き始めておった。
「……もしかしてあのJK、“見えておる”んとちゃうか?」
『カッカッカッカ……十中八九『見てとる』なぁ?しかもあの驚き様や怯え様を見る限り、あの小娘自体にぁなんの力もあらへん……つまり、あの数珠のお陰でなんとかなっとるって感じや』
「………ヘェ〜〜!ほんなら、ちょいと“遊びながら”聴いてみよか?」
『良いなぁ、ワシも聞きたい事があるんや……楽しみやなぁ、カッカッカッカ!!』
ケラケラと笑いながらそう答えよるカミサマの言葉を聞いて、ますますそのJKに興味が湧いたウチは……そいつに声をかけるべく、重い腰を上げて彼女の居るベンチへと向かって歩き出した。
●白沼天匙
今回の話における基本的な語り部であり、糸目関西弁キャラのドブカス。
霊視能力に関しては特殊な眼鏡の呪具が無ければ見えないが、霊の声はスゴくハッキリと聴こえる。どのくらいかというと、みこちゃんからは理解出来ない言語として聴こえる声が普通に理解出来る言語として聞き取れる位である。
天匙……ひとつだけ言いたいことがあるんです。あなたはクソだ。
●カミサマ
とある退魔の家門と交わした契約により、彼らへ力を貸している怪異。
その者はかつて孤児として生を受け、常に誰かの命を滅して生きて来た。何人ものつわものと戦い、その度に血肉を喰らった其奴はいつしか戦いに魅入られ、死した後も様々な強者との闘いに明け暮れた。
カッカッカッカ……お酒はアルコール、糖質、アミノ酸、そして幸せスパイラル含まれている完全食だァ。
●庭園のヤバい奴
寂れた庭園に住まう女性型の悪霊。生前その美しさで様々な男達を虜にしてきた女性が人間関係の縺れで顔面をボコボコにされながら殺された後、恨み辛みを募らせた結果生まれた。
身体がヒビ割れているのは陶器で作られたノーム人形を思い浮かべたからで、能力や外見はジャマトライダーと薔薇園の魔女“ゲルルート”をイメージしながら書いた。
アハハ……この蛆虫殺して薔薇の肥料にしたる……あっ一瞬で斬られたッ。
●天匙が訪れた洋風庭園
そこはかつて、様々な薔薇が咲き乱れる美しい庭園であった。
だが一人の女性がその庭園で殺されたという黒い噂が立ち始めて以降、様々な怪奇現象や謎の体調不良を訴える人達が何人も出たことにより、遂には誰も寄り付かない廃墟となった。
近いうちにぶち壊されてイ●ンが建つ予定である。