「みこちゃんおはよー!」
「……うん、おはよう洋太」
とある朝。玄関から外へ出ると、同じく家から出てきたみこちゃんに挨拶をする。彼女は笑顔で挨拶を返してくれて、それだけで僕は嬉しくて思わず笑ってしまった。
そのまま二人で学校に向かうため、僕等は並んで歩き出す。
「それでこの間見つけた、みこちゃんみたいな猫ちゃんなんだけどね、みこちゃんにそっくりだったんだ〜」
「アホみたいな事を言ってるのはこの際置いといて、私そっくりな猫って何?」
「うん、町を歩いてたら見つけてね? 黒い毛と黄色い瞳がみこちゃんみたいだなーって思って!でも僕が近づいたら直ぐに逃げてっちゃってさ。追いかけたんだけど、中々見つからなくて……」
この間発見したみこちゃんに似ている猫ちゃんの事を語りながら、幼馴染の顔をチラリと見ると、其処には何処か思い詰めたような表情が滲み出ていた。
うーん……この間からずっと気になる表情を浮かべていたけど、昨日からはもっと気になる表情に変わってる。仮面ライダーで例えるならレッドフレアからブルーフレアになったーみたいな、ドラゴンボールだと超サイヤ人から超サイヤ人2になったーみたいな感じ?うまく説明できんけど。
まぁそれは置いといて。何か悩み事でもあるのかな……? 気になるけど、みこちゃんは話したくなさそうだったからなぁ。それに、下手に詮索されるのも嫌だろうし……どうすればみこちゃんの悩みを、なんとかしてあげられるのかな?そんな事を考えるけど、僕の頭では遺憾ながら、その方法もやり方も思い付く事は出来なかった。
学校に向かっていた僕達は、道中バスに乗ったりしながら、ある交差点の赤信号を前にして立ち止まる。
「んー……あ、そだ。よかったらその猫ちゃん連れて来よか?」
そこで僕の頭に繋がっている電球がピカッと光る。
こういう何かに悩んでる場合は猫セラピーってのが一番だって聞いたし、前にみこちゃん達が小さい猫ちゃんを拾った時も癒されてそうな表情になってた筈だからきっと、みこちゃんの悩みを解決!とまではいかなくとも、少しは和らげることが出来る筈だ!
「え? いや良いよ、別に」
「でもみこちゃん、最近元気無いし……猫ちゃんと遊べば、少しは元気が出るかなって思って!」
僕の提案にみこちゃんは首を横に振るが、みこちゃんって割とツンデレ?いやクーデレ?ともかく素直じゃない一面あるし、口ではああ言っても本当は猫ちゃんに癒されたいんじゃないかな。
それに、今のみこちゃんの悩みはたぶん僕じゃ解決してあげられそうに無いから、せめて何かしてあげたい。そんな思いを込めて彼女を見つめる。
「………はぁ……じゃあ良いけど、無茶しないでね?」
「うん! 頑張って見つけるよみこちゃん!」
ため息混じりに了承してくれたみこちゃんに、笑顔で答える。
よし、そうと決まれば早速放課後の猫ちゃん探し、どうすればいいか考えとかないと!そう決意した僕はみこちゃんと横断歩道を渡り、そこで別々の学校へ向けて歩き出した。
「じゃあ行って来るね!それと、みこちゃんも頑張って!」
「うん、また後でね」
卍 卍 卍
「そういえば今日、白沼くん来てなかったね」
「まぁあのドブカス眼鏡のことだから、どうせまたサボりだろ」
「出席日数とか大丈夫なんかな?」
放課後、昇降口に着いた徹は洋太と一緒に上履きを脱いで、そんな会話をしながらスニーカーを履いていた。
「ところでさ徹、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」
「あ?良いけど、何だよ聞きたいことって?」
「……猫を探す時って、どうやって探せばいいかな?」
「え、なんで猫?もしかして探偵事務所で猫探しのアルバイトしてる?」
靴を履き終わった洋太から神妙な顔でそう聞かれ、何言ってんだコイツ?と言いたげに眉をひそめながらも、とりあえず理由を言うように促す。
曰く、今朝幼馴染に黒猫を連れて来ると話したこと、それからずっとどうやって探して確保すればいいのか考えたが一向に思い付かなかった……との事だった。
「お前……今日はやけに真剣な顔で授業聞いてるなと思ってたら、そんな事考えてたのかよ……」
「そんな事ってゆーなよ!猫ちゃんを捕獲する方法を考えるのに、何時間も授業ロクに聞かず頑張ったと思ってんだ⁉︎」
「それでも思い付かなかった時点で無益極まれりだろうが!?」
「そういう訳なので、何かいいアイデアいただけますと幸いでございまする」
清々しいほどに開き直って頭を下げた洋太の姿に、しゃーねーな……と溜息を漏らし。馬鹿な親友に変わって猫を捕獲する方法について少し考え込んだ。
「うーん………仮面ライダーWや風都探偵だと、確か翔太郎が動物の気持ちになったり、鳴き真似で意思疏通をして猫を探してたな確か……あぁ、あと鰹節とか猫じゃらしで注意を惹き付けたりする、って方法もあるかもな」
「ふむふむ……なるほど」
顎に手を当てて考え込むようにしながら、親友の言葉に耳を傾けている洋太。何時ものにへらと笑うアホ面とは対照的な真面目な顔で思慮する姿を見ていると、コイツも黙ってれば多分モテるんだろうなぁ……と徹は心のどこかで思う。
だが同時に、もしこの馬鹿がモテ始めたらバチクソ調子に乗るだろうというのは想像に難しくない。なのでもしそうなったらちょっとムカつくな〜という本音が漏れ出そうになってしまい、直ぐにその考えを振り払うように頭を振った。
「……まぁ、この辺りは俺のにわか知識でしか無いから、やるならせめてググって調べた方が『ありがとう徹!じゃあ早速やってみるね!!』おいコラ、また話してる最中だろうがもういねぇ!?」
スマホを持って調べ始めた徹が顔を上げた頃には、既に洋太は彼の隣から忽然と姿を消し、ただ凄まじいスピードで校門を駆け抜けて行った。
……まぁ流石のアイツも、あんな真面目そうな顔しといて変な事はしないだろ……本当に大丈夫だよな?なんて心配を寄せながら、猫を探しに向かった親友の後ろ姿を見送った。
「…………なにしてるの洋太くん……?」
「んにゃ〜……?」
放課後の寄り道中、屋台で買ったシュラスコを食べていたハナが目にした光景。
それは鈴のついた赤い首輪と上に鰹節を括り付けたネコ耳カチューシャを身に付け、顔面にはマジックで猫のヒゲを描き、そこそこ大きめな招き猫を背負った洋太が道の端で四つん這いになって、「ニャーニャー」と鳴きながら猫じゃらしを二刀流で構えていた光景だった。
「あ、ハナちゃん!何してるかって、見ての通り猫ちゃんを探してる所だにゃー」
「……そ、そうなんだ……あ、洋太くんもシュラスコ食べる?」
「食べるニャー!」
猫じゃらしや鳴き真似を見れば何となく察せるけど、それはそれとして頭の鰹節と背中の招き猫はなに……?というツッコミと、その格好でにゃーにゃー言ってて人目は気にしないのかなぁ?という純粋な疑問が、汗を一筋垂らすハナの脳裏に浮かんだ。
というかそもそもなんで猫を探してるんだろう?いや確かに猫は探したくなるくらい可愛いけど……と思っていた所に、シュラスコを一口分食べていた洋太から「そういえばみこちゃんは一緒じゃないのかにゃー?」と両手で猫ポーズしながら問われる。
「みこは今日予定があるって言ってたんだけど……洋太くんこそ、みことデートするんじゃなかったの?」
「──え待って、デートってなに?僕聞いてないんだけど。それどこ情報?」
『デート』という単語を聞いた瞬間、鳴き真似を早々に取っ払って聞き返す洋太の顔は、いつにもなく必死に見えた。ハナは後にそう語っていたそうな。
「どこって……みこと別れる時に『もしかしてデート?』って聞いたら、『デートデート』って答えてたよ?」
「……んんっ?それでなんでデートの相手が僕になるの?」
話を聞く限り、誰と行くか〜?までは言ってないっぽいのに、なんでハナちゃんはデートの相手が僕だと思ったのだろうか。別にみこちゃんとはただの幼馴染であって、彼氏って訳じゃないのに。まぁしたいかしたくないかで聞かれたら、勿論したいとは思っているケド。それはそうと、まさかみこちゃんがどっかの誰かとデートをする予定だったなんて……いや、彼氏或いは彼氏候補がいた事を教えて貰えなかった事はショックだけど、それ以上にそんな相手が居た事にすら気付かなかった自分の鈍感さに一番のショックを覚えている今日この頃。肝心のお相手が一体誰なのか……等と宙を見ながら思考を駆け巡らせていた洋太の姿に、ただならぬ雰囲気を感じて何か察したハナは少し慌てた様子を見せる。
「……あー、みこってたまにテキトーな返事することあるから、多分デートはしないと思うし、なにか別の用事じゃないかな?だから安心して?」
「……え?あ、うん……?」
確かにみこちゃんって、ちょいちょい対応が雑になる事あるけど……何故そこで「安心して」が出てくるの……? まぁ、デートしてるしてない云々は後で聞けば良いかな?
洋太がそう結論付けた所で、猫探しを再開しようと猫じゃらしを振り始める。
「ところでさハナちゃん、ここいらで黒い猫ちゃん見なかった?なんかみこちゃんに似てる!って感じの子なんだけど……」
「うーん。ゴメンね洋太くん、ちょっと見てないかなー?」
「みこに似てるって、どんな猫なんだろう」と思いながらも、申し訳なさそうに眉を下げて手を合わせるハナに、そっか〜……と残念そうに項垂れる洋太。
「あ、でも猫って狭いところが好きだから、そこを探してみるのはどうかな?」
「OKナルホド、ありがとうハナちゃん!はいコレシュラスコのお礼ね。待っててねみこちゃん、今みねこちゃんを見せてあげるから!」
彼女のアドバイスを聞いた洋太はお礼にバナナを渡し、興奮気味に目を輝かせながら首の鈴を鳴らして去っていく。
ハナはその姿を見送りつつ、彼が立ち去り際に放った言葉から猫を探していた理由を察して。「みこってホント、洋太くんに愛されてるな〜!」なんて、何処か羨ましそうに頰を赤らめながら微笑ましそうにバナナの皮を剥き始める。
ついでに「みねこちゃんって呼び方、なんか峰不二子を思い浮かべるなー」と、割とくだらない事も思っていたが、それは記憶の側に置いておく事にした。
「……………洋太くん、そこでなにしてるの……?」
古い書店で霊能力関連の本を探すも殆ど出鱈目な内容ばっかの奴しか見つけられず気落ちしていたユリアが道を歩いていると、ゴミ捨て場にあるビニールゴミ袋の山に頭を突っ込んでお尻を突き出した変人の姿があった。彼女はその変人の光具合から、そいつが洋太だと確信した。正直確信したくなかったけど。
「あ、ユリア師匠!今ね、猫ちゃんを探してた所なんだー」
「うん、それは分かったけど……なんでゴミ袋の山に頭を突っ込んでるの?」
「だって猫って、狭いところが好きでしょ?それでもしかしたら、こういう所の中に潜ったりしてるのかなーって思って!」
「だとしても洋太まで潜らなくても良くない?」
本当になんでこの男は突拍子もない事をするのだろうか。呆れ半分でユリアは溜息を漏らしつつ、ゴミ袋の山から洋太を引きずり出す。
猫みたいな変な格好をした洋太が出てきてギョッとしたが、それと同じくらいに「あー、臭かったー」と鼻をこする彼を見て、だったら尚更なんで頭突っ込んでたの……?と更に呆れを深めた。
「はぁ……それで、猫はいたの?」
「うんにゃ、全然。この通り鰹節の香りを漂わせつつ、招き猫で猫をおびき寄せ、更には「仲間ダヨー」アピールの為に猫の格好をした僕が猫じゃらしを動かして、猫じゃらしに興味を示している隙に捕まえようとしてるんだけど……全く見つからないし出てこないんだ」
洋太はそう言いながら、背中に括り付けた招き猫を取り外して彼女に見せてくる。
ユリアはそれを聞きながら、なんでそれでイケると思ったのかを先に教えて欲しいと思っている。
「やっぱりこれじゃあ駄目だよなぁ……ホントは猫の着ぐるみとかにしたかったんだけど、ドンキにサイズが合う奴がなかったからってコレで妥協したのがいけなかったのかな?」
「違うそうじゃない」
何故そこまで猫の格好をする事に拘るのだろうか。…え?猫の気持ちになる為と、仲間だと誤認して貰う為?猫はそこまで馬鹿じゃないと思うのだが、それを今のやる気満々な彼に指摘するべきかどうか判断が難しかった。
そんな風にユリアが悩んでいると、洋太は何か思いついたように手を叩いた。
「そういえばユリア師匠って、なんか式神的な奴とか居ない?いたらニャンコ先生なりニャンコさんなり呼べたり出来ない?」
「知ってたらとっくに教えてるし呼んでるわよ」
「そっか、ごめんなさい!この話はやめよう!!」
「そうね、素直すぎて逆に心が痛いわ」
「それはそれとしてユリア師匠、この辺でみこちゃん似の黒猫見てない?なんかみこちゃんに似てる!って感じの子なんだけど」
「急に話が変わるのもアレだけど、みこちゃんに似てる事を強調するのはもっとアレね」
キレッキレのツッコミで会話をするユリアに、洋太は頰を赤らめながら恥ずかしそうに頭を掻く。間違っても褒めてないからね?
……そういえば黒猫で思い出したけど。黒猫って確か『幸運の象徴』って云われていて(少なくとも日本やニュージーランド等ではそうらしい)、でもヨーロッパの魔女狩り由来でとばっちりを受けたり、黒猫が横切って「幸運が逃げていく」って言われた事から、『黒猫が横切ると不吉』って迷信が広まった……ってネットに書いてあったわね確か。なんて事を話の中で思い出すユリア。
「それでどう?何か知ってる?」
「残念だけど、ワタシも知らないわ……でも猫って高い所が好きみたいだから、そこを探してみたら?この間も、高い所で猫が日向ぼっこしてるのを見た事あるから、もしかしたらそこに……」
ユリアの言葉に、洋太はなるほど!と納得して頷き。じゃあ早速高い所を探しに行こうと、「ユリア師匠もどう?」といった風に猫の捜索を催促した。
「あー……悪いけど、他にも寄る所あるから遠慮しとくわ。でも、また時間が合えば付き合ってあげるから」
その言葉に一瞬残念そうな顔を浮かべていた洋太は嬉しそうに目を輝かせて、じゃあまたね!と言って駆け足で立ち去っていった。
彼の後ろ姿を見送りながら、式神に関する情報を調べようとスマホを起動しつつ、図書館へ向かって行った。別に、式神を持っていないのが悔しかったからじゃないんだからねっ!
「今日はお疲れみちる。いつもより撮影長引いちゃったけど、大変じゃなかった?」
「大丈夫。心配しないで葉ちゃん」
とある道路を走る黒い車の中。そこには運転手と二人の姉妹が乗っていた。
後部座席に座る二人の内、ひとりは銀のインナーカラーが入った黒髪をハーフアップにした眼鏡でスーツの女性。もうひとりは完全な銀髪を透かし鬼灯風の髪飾りで三つ編みハーフアップにした、黒い手袋を身に付けている秀でた容姿の少女だった。
「辛かったらすぐに言ってね?例え仕事でも、みちるの気持ちが一番だから」
「えぇ、分かったわ」
眼鏡の女性から心配そうに声をかけられた少女…みちると呼ばれた彼女は微笑んで応える……が、その笑顔の裏からは複雑な感情が混じっているのか、そうではないのかは定かではないが、少なくともあまり良い感情を持っていない事だけは確かだった。
眼鏡の女性…みちるのマネージャー兼姉である葉はスケジュール確認の為に視線を下ろすと、妹の方は微笑みの仮面を一旦外して無表情になりながら、車窓から見える外の景色をぼんやりと眺める。
その時、親友らしき二人組の女子高生がタピオカミルクティーを飲みながら、仲睦まじく駄弁っている姿が目に映った。
普通の人からすればなんて事のない、日常のひとコマに過ぎないその光景……
しかし、彼女にとってはそのありふれた景色が、思わず息を呑む程に魅力的に映る。
(わたしも、ああいうトクベツを……)
そんな願望を脳裏に過ぎらせる彼女の視界が、車の走る音が響く度に次々と移り変わる。雑貨屋に、ゲームセンターに、お洒落なカフェに、洋服店に、街灯の上の方に脚だけで掴まって腕を組みながら周囲を見渡す変人の男……
「……?……??……???」
突如目に入った理解の範疇を超えた光景に、みちるは困惑の色を浮かべながら目を白黒させる。我に返った頃には、さっきまでの訳の分からない光景は何処にも映っておらず、またありふれた光景が目まぐるしく移り変わるだけだった。
窓越しに後ろの方へ視線を向けていたみちるの姿に気付いた葉は、首を傾げながらも「どうしたのみちる?」と問い掛ける。
「……ねぇ葉ちゃん、さっきあそこで猫みたいな姿をした人が旗になっていたわ」
「………へぇ、そうなの……(少し仕事を減らすべきかしら……?)」
再び仮面を付けてそう答えたみちるは「あれは何だったのかしら……」と、自分が目撃した変人の姿を思い出し。葉は妹の返答に少し間を置いて相槌を打ちながら、今後の仕事の見直しを頭の片隅で考えていた。
「うーむ……街灯に登って探したりしたけど、中々見つからないなぁ……」
ユリアのアドバイス通りに高い所から猫を探していた洋太だったが、その努力も虚しく成果は出なかった。
公園にある木の上から飛び降り、目の前を黒い猫を横切るのを見ながら、どうしたものかと思考を張り巡らせる。
「ここまで見つからないってなると、何か別の所に原因がある気がしてきたなぁ……でも、他に猫ちゃんが行きそうな所って何処だろう?君は何か知ってる?」
「にゃあ」
「そっかぁ、知らないかぁ………んんっ?」
再び顔を上げて二度見すると、目の前には黒い毛並みと黄色い目が特徴的な野良猫がこちらをジッと見つめており。洋太がその存在を認識した瞬間、野良猫は背中を向けて並んだ低木の間を通って行った。
「…………………いたァァァァッッ!!」
漸くみこ似の黒猫を見つけた洋太は喜びのあまり奇声を上げながら、低木に頭を突っ込んで追跡を開始。向こう側には黒猫がビクッと飛び跳ねており、地面に着地した猫は一目散に逃げ出してしまった。
「あ、ちょっとまっ………アレ?抜けない…? いや、あの、まっ……ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ア゙ア゙~っ!!!」
追い駆けようとする洋太だったが、低木の枝が招き猫を背負う為に括っていた紐に引っ掛かって、それ以上進めなくなっていた。
慌ててもがく洋太を置いて猫はどんどんと距離を離して行き、装備品の思わぬ反抗によって身動きが取れなくなっている彼は、最早届かぬ所まで行った猫に手を伸ばすことしか出来なかった。
「……君、大丈夫?」
「え、あっ。すみません、大丈夫で……あの、やっぱり手伝って貰えませんか?」
呆然と猫が走り去った方向を成す術なく見ていた洋太は、その後ろから声を掛けられて我に返る。すぐに低木から体を抜こうとするが、やはり枝が引っかかって抜けずにいたので、その人に引っ張って貰う事にした。見円洋太、本日2回目の引っこ抜かれ経験である。
「じゃあ少し我慢してねー……フンッ!」
「ゔぉッ、っとと。おー、やっと抜けた……すみませんありがと……あ、豪塚さん」
「うん、久しぶりだね」
身体についた葉や枝を払って手助けしてくれた人物の顔を見てみると、そこに居たのはかつてみこ達が拾った子猫の里親となってくれた、スキンヘッドとタトゥーが特徴の強面な男性、豪塚であった。
あの後、みこ経由で彼のSNSを教えて貰い、そこから彼の投稿したあの子猫(にゃんすけという名前らしい)写真などを見せていただいたりしてるが、まさかこんな所で形で再開するとは思ってもいなかったのか、洋太はそこそこの驚きに目を見開いた。あと余談だが、洋太はSNS見る専である。
「わはー、まさかこんな所で会うなんて……にゃんすけくんは元気ですか?」
「うん、今日もいっぱい食べてたよ」
そんなほんわかした会話を繰り広げる、変な格好をした青年とヤの付く職業に就いてそうな男性。豪塚は洋太の今の格好について、ノーコメントを貫いていた。
「そういえばさっき、黒い猫が走ってるの見えてたけど……もしかして、あの子探してた?」
「黒い猫……?……あっ、多分僕が探してた子です!何処行ったか分かります?」
「あー……多分あっちの方に行ったと思うけど、なんで探してるの?」
「ん〜。実は幼馴染が元気無いっぽくて、猫セラピーさせれば少しでも元気出してくれるかなぁって思って……」
「………その幼馴染って、あの時君と一緒にいた?」
「そうそう、黒い長髪の子です」
「………仲良い?」
豪塚はその質問に対して黒猫が走り去って行った方を指差しながら答えるが、今度はこっちが質問する番だとばかりにそう返した。
洋太に問い掛ける彼の眼差しは、さっきまでの優しげなモノに加えて、何かを試す様なモノが見え隠れしていた。
「まぁ普通に良い方だとは思ってますけど……なんでですか?」
「…………そっか。その子、大切にね?」
「? ハイっ!ありがとうございました!」
急にどうしたのかと思いながらも、それよりも猫ちゃんを見つけるのが先だと考えを改め、洋太は豪塚に手を振ってその場を走り去っていった。
「見つからぬゥ!!」
某伝説の超野菜人もといブロリーみたいな事を叫ぶ見円洋太。
あれから暫く探してはいるものの、黒猫らしき動物を全く見掛けなかった。一体何処にいるのだろうか……
さて。こういう時、猫探しの名手(洋太の偏見)である探偵だったらどうする?コナン君や金田一少年だったらどうする?右京さんやタカ&ユージだったらどう対処してる?……今出てきた5人中3人が警察の人なのは置いといて、彼らの共通点は大体最初に聞き込みを行なっていた、という共通である!そう!事件のカギを握るのはいつだって脚を使っての地道な聞き込みなのだ!
てな訳で、その辺を歩いてる人に話を聞こうと周囲をキョロキョロと見回すと、外回りだろうか、スーツを着た白髪のおじさんが目に付いたので、早速声をかけた。
「すみません、ちょっと良いですか!」
「……ん?なんだい坊や」
「この辺で黒い猫ちゃん見ませんでしたか?大体このくらいの大きさで、目が黄色い……」
ジェスチャーを織り交ぜた質問に対して、おじさんは顎に手を当てて少し考え込んだ後。何かを思い出したかの様に口を開いた。
「それだったら、さっきそこを曲がっていったよ」
「あぁ、ナルホド。あっちの方角に行ったのか……ありがとうございます!
──そういえば、そのスズメっておじさんの…家族ですか?可愛いですね!」
「…………まぁね」
結構有益の情報が出て来たのを聞いて、この調子で他にも聞き込みをしようと洋太はおじさんに礼を言うと、ふと彼の肩に泊まっている一匹のスズメがチュンチュン鳴いているのが目に入り。そのスズメを可愛いと思った洋太は、思わずそう口に出した。
おじさんは嬉しそうに笑いながら、肩に乗っているスズメを優しく撫でて答えた。スズメは彼の指を咥えていた。
「じゃあ僕はこれで……あ、コレお礼にどうぞ!」
洋太はおじさんに貰った有益な情報のお礼として懐から取り出したバナナを渡し、彼へ手を振ってから教えられた目撃情報を元に、黒猫が向かったという方向へと走って行った。
「………うーん。思ってたよりヤバいな、あの子」
その後ろ姿を見送りながら、スズメのおじさん……人からは『セトさん』と呼ばれている人物は先程までの笑みを消して、彼から受け取ったバナナを眺めながらポツリと呟いた。
とある歩道にて、横で車が走るのを傍目に洋太はひたすら黒猫を探していた。
「さーてと、そろそろ出てきても良いんだぞ〜?」
あれから何人か話を聞いてはみたが、此処まで黒猫を見かけた人はゼロ。
一応まだ時間はあるので、ダメ元でもう一度聞き込みをしようと思いながら辺りを見渡して……あの黒い猫が柵の上を歩いているのを発見した。
「いたぁ!今度こそッ!」
すぐに捕獲しようと駆け出し、それを目にした黒猫は柵を飛び降りて向こう側へと走って行った。洋太もそれに続いて柵を飛び越えようとするが、そんな彼の横から人影が飛び出て来た。
「きゃっ…!」
「うわ危なっ」
段差につまづいた人影を咄嗟に抱き支える洋太。その人影は僅かに震える子猫を腕の中に収めた、長い黒髪を下ろした女性……というか、洋太の幼馴染である四谷みこその人だった。
「どしたのみこちゃん?猫ちゃん抱えて」
「よ、洋太……っ! え、なにその格好」
外敵から護るかのように猫を抱きかかえていたみこが洋太の姿を認識すると、彼の格好に目を見開いて戸惑っており。逆に洋太は、そんな幼馴染の驚いた顔の裏に強い安堵を垣間見、何かあったのかと首を傾げた……丁度その時、みこがやって来た方角から別の足音が響いてきた。
「まだ、質問に一つも……あれ。君、何処かで会った?」
みこに声を掛けて来たその人は、かつてコンビニの前で連れていた子猫と休んでだ際に出会ったお兄さんで、今も尚テッセンの匂いを身に纏っており。
何処かで見た顔を思い出そうとしているお兄さん……遠野善に対して強い“怯え“の表情を浮かべるみこを見た洋太は、自身の顔が強張っていくのを感じ取った。
卍 卍 卍
やってしまった。
その時、私は担任教師である遠野善に憑いている“ヤバい奴”からハナを遠ざけるべく、彼が学校に居られなくなる『証拠』を探そうとしていた。
勿論、洋太の光や彼から貰った数珠に宿っている白い狼の力を借りれば、あの蜘蛛みたいな“ヤバい奴”などを祓うことは出来るかもしれない。でも毎日猫のような怨霊が増え続けている事から、例え今倒したとしても根本的な解決にはならないかもしれない。
それに、これ以上幼馴染に負担を掛けたくないというのも、『見える』だけで何の力も無い私が、自分に出来る範囲内で対処しようと思った理由であった。
そういった経緯であの先生を尾行し、人気のない所に残った霊の跡を辿りながら歩いていると、遂に人気のない所で震える子猫の前に立っているのを目撃。
このまま子猫に何かヤバい事をしようとした所で通報なりすれば、その事を追及された彼は学校からいなくなるだろう。そう考えて隠れたままスマホを構えて……子猫に遠野善の手が伸びた瞬間、気付いたら物陰から飛び出していた。
『その猫……渡してくれる?』
結果、何かされそうな所だった子猫を救出できたが、その代わり彼に目を付けられて、こうして逃げる羽目になってしまった。
不安そうに震えている子猫を安心させる為に抱き直し、冷や汗を噴き出して顔を青くさせ、頭の中でこれからどうすれば良いか考えを巡らす。
だが焦りで足元の注意が疎かになってしまい、不運にも段差に躓いてしまった。
迫り来るコンクリートの地面を前に、咄嗟に子猫を庇いながら、訪れるであろう痛みに備えて目を瞑る。
しかし一向に痛みがやって来る事は無く……代わりに誰かによって支えられている事を感じ、恐る恐る目を開く。
「どしたのみこちゃん?猫ちゃん抱えて」
「よ、洋太……っ! え、なにその格好」
目の前には幼馴染である洋太が、不思議そうにこちらを見下ろしていた。
……鰹節を括り付けた猫耳カチューシャとか背中の招き猫など、4〜5ヶ所程ツッコミたい格好であった事に怪訝な面持ちになったけど。
だが今は幼馴染の格好よりも、彼が此処へ現れた事に対して安堵の気持ちの方が強かった。
「まだ、質問に一つも……あれ。君、何処かで会った?」
そこへ遠野善が追い付いて来て、ゾクッとする様な視線でこちらを見詰めて来る(洋太と顔見知りなのか、ついでに彼へそう尋ねているのは少し気になるけど)彼に対して、私は無意識に子猫を抱く力が強くなる。
「…………お久しぶりですねお兄さん。それで、何してんですかアンタ」
それに気付いたのか、洋太がさりげなく私を背中で隠しながら、最初は優しい口調で挨拶していたけれど。次の瞬間には彼の纏う雰囲気が変わったのを感じ、今までに聞いたことの無い声量で遠野善にそう尋ねた。
この時、私の耳に入って来た声から、怒りの様なモノが伝わってきた。昨日の放課後、私に絡んで来ていた(というけど、比率的には“ヤバそうな存在”の方に色々されてた)洋太のクラスメイトだという男へ声を掛けた彼の時と似た、明確な敵意が宿った言霊だった。
「…?……まぁいいや。それより、退いてくれる?ボク、その子から色々聞かなきゃいけないんだ」
「拒否権を執行してもよろしいですか?」
青筋を立てる洋太が、敬語でも隠し切れないキツイ口調でそう言い放ち。それを聞いて遠野善は眉をピクッとさせて、険しい顔で話を続ける。
「………キミ、もしかして彼女の友達?だったら代わりに答えてくれる?何で猫をくれないのかって」
「猫が欲しいならペットショップに行けばいいでしょ。猫好きなのは理解したけど、女の子を追いかけてまでする事じゃないじゃんね?」
「……そっか、キミも答えてくれないんだ」
「答えるも何も、それはアンタも同じでしょうが。そんなに話を聞きたいなら、そっちから話すのが筋って奴じゃ無いですか?」
対する洋太も、体から有り余る光を放出しながら、先生に負けじと強気な口調で応戦。ヤバそうな奴は「見るな、見るな」と呪詛を振りまきながら、殺意に満ちた目で洋太を威嚇する。
その光景から本能的に恐怖を感じた私は、腕の中の子猫をギュッと抱きしめようとしたが、子猫も本能的な恐怖から逃げる為か私の腕をすり抜けて……今も車が走る車道側へと飛び出してしまう。
「あ、まっ……!」
「……ッ!」
「あ、やばっ」
それを見て直ぐに手を伸ばしたが、それよりも早く先生が道路へ飛び出して、車が間近まで迫って来た猫を救出しようと必死の形相で手を伸ばしていた。
私は車道に飛び出した彼に唖然し、ブレーキ音がこれから起こるであろう惨劇を知らしめ、思考が追い付かなくなる。
そして遠野善が猫に触れた瞬間、大きな衝突音が辺り一帯に響き渡り──
「──ゲホッ、かはっ⁉︎」
柵に背中をぶつけたであろう先生が、抱きかかえた猫と共に殆ど無傷の姿のまま横で咳き込むのが聞こえた。
(……えっ。先生は、無事なの……?じ、じゃあ、今の音は……)
多分背中を強打したこと以外は、彼が無事だったという事実に少し安心しつつ。さっき聞こえた衝突音の正体について考えて……嫌な予感を感じたまま、恐る恐る車道の方へ目を向ける。
「──ようた……?」
その光景には、私にとって信じたく無いモノが映っていた。
足元には、さっきまで幼馴染が所持していたバッグが投げ捨てる様に置いてあって。道路には、粉々に砕けた招き猫と鰹節が付いたカチューシャが転がっていて。少し離れた所には、角に血がべっとり付いた縁石と、頭から血を流して倒れ込んだ──
「……洋太、なんで……?」
信じたくなかった。認めたくなかった。質の悪い悪夢だと思いたかった。
それでも現実は、幻想の世界へ逃避をしたがっている私の足を掴み、頭を抑えて目をそらす事も許さなかった。
「やだ……やだぁ……!」
きっと私は、誰よりも酷い自惚れ者で、ありとあらゆるお菓子よりも甘い考えで満たされていたのだろう。
もしかしたら『コレ』は、そんな私への戒めであり、“ヤバい奴”に憑かれるよりも、死ぬ事よりも、ずっと重い罰なのかもしれない。
証拠に、私の視界は徐々に闇に閉ざされていき、温かさを失った体からは震えが止まらない。腕に付けた数珠のブレスレットからも、輝きは失われた。
「目を覚ましてよ……洋太……ようたぁ!!」
それでも愚かな私は、決して現実を認めたくなくて、必死に彼へ呼びかけ続けた。
だけど私の呼び掛けは、全て虚ろの中へと消えて行き──やがて太陽の輝きが、洋太の温かな灯火が、消えた。
●見円洋太
みこちゃん似の黒猫を探してあちこち歩き回った馬鹿猿。イメージCVは梶裕貴さん。康一くん辺りの声を思い浮かべてくれ。コーホー。
今まで散々呪霊を無自覚に祓って来た馬鹿猿だって、心臓一つの人間一人。階段から転げ落ちてもナイフで刺されても死ぬかもだし、車に轢かれて死ぬ事もあるさ。でもメタ的に言えばちゃんと生きてはいるので、安心して次回のお話をお待ちください。
あっ、このお兄さんみこちゃん怖がらせてる。マジ許さん……あっ、猫ちゃんを助けようとしてる。マジ助ける(ド ン ッ!)
●四谷みこ
目の前で幼馴染が先生の身代わりとなって事故った可哀想な子。
何かと酷い目に合うみこちゃんを救済する為に書き始めたのに、どうあがいても彼女が可哀想な展開を迎えてしまう……これも全部みこちが曇らせ甲斐のある娘な所為だ。
CVは雨宮天さんで、アクア様ボイスである。ターンアンデット!
●影杉徹
相変わらずアホな事してるんだろうなーと呑気してたオタク。
おもちゃ屋で仮面ライダーの変身ベルトを見ていたら、ハナからLINEで洋太に起こった事を知らされて病院へ直行することに。
イメージCVは福島純さん。スティール!(ちなみにオカイコ様は野田順子さんイメージ)
●百合川ハナ
いつになったら付き合うのかな〜と思ってる腹ペコ娘。
この後、「みこは今どうしてるかな〜」と思いながら電話したら、震える声で洋太が事故ったことを知らされた彼女の心境を答えよ。
CVは本渡楓さんで、お姉ちゃんはキュアショコラである。
●二暮堂ユリア
洋太に相応しい師匠になろうと奮起しているロリっ娘。
図書館で式神などの陰陽師やお祓い関係の本を探していた所にハナの連絡を受け、病院の近くで彼女と合流した。
CVは佐倉綾音さんである。(`0言0́*)<ヴェアアアアアア!
●一条姉妹
お仕事の帰り道、馬鹿猿の奇行に簡易無量空処を喰らった妹と内心「みちる……お仕事で疲れてるのかしら……」と心配していた姉。
デジコミだとみちるちゃんのCVは早見沙織さんとなっていて、お姉さんの方は茅野愛衣さんだったら良いなぁ。
●豪塚さん
愛妻(故人)家で猫好きの強面おじさん。ヤの付く人ではない。
CVは伊丸岡篤さんでェェェ!ルドル・フォン・シュトロハイムであるウゥゥゥーーーーッ!仮面ライダーゴーストではァァァ、飛行機眼魔の声もやっているぞオォォォォーーーーッッッ!!
●スズメのおじさん
なんか雀に懐かれてるおじさん。セトさんと呼ばれている。
チェンソーマンでいえば岸辺さんポジの人……かもしれない。あと見える子ちゃんのアニメでこの人が出るとしたら、CVはツダケンだと良いなぁ。
◇この男の目的は……?
●遠野善
過去に囚われている、色々と可哀想なお兄さん。だいたいお母さんの所為である。CVは馴染み中村悠一、お疲れサマンサー!
もしかしたら原作で交通事故にあった際、あの程度の怪我で済んだのも、実はお母さんが守ってくれたからなのかもしれない……え?そもそも善ママが憑いていなければ、こんなややこしい事にならなかった、だって?それはそう。
だけど今作では馬鹿猿のお陰で轢かれずに済んだよ!良かったねお兄さん♡
●遠野善のお母さん
女郎蜘蛛みたいな姿をした悪霊。アニメ一期範囲内におけるラスボス的立ち位置で、呪霊等級は多分一級相当。CVは中原麻衣さん。
生前夫に裏切られた云々嘆いてたが、原作の息子に対するやり取りから察するに、夫が居なくなったのは多分、この人の高圧的な性格が態度に出てたのも原因だと思われる。いなくなった夫にも非はあるから自業自得とは言わんし同情もするけど、だからって箍外して子供を縛るのは擁護出来ないよ。
アナザーライダーになるとしたら、アナザーゴーストがベストマッチだと思われる。
●あとがき
誰でもいいからさ!再び赤バーにする