見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

21 / 50
御成「自己犠牲は尊い行いかもしれませんが、必ずしも正しい行いとは限りません」


もしかしたら、今は朧月夜の刻なのかもしれない・黄昏編

 ──久し振りに全力疾走したせいで、喉がカラカラしてきて痛い、脚に鉛がくっついて来てるみたいに重く感じる。

 太陽が地平線の向こう側へと沈んでしまった逢魔時、友達から連絡を受けた影杉徹はとある病院に直行していた。

 開き始めた自動ドアの間を潜って中に入ると、受付所の前には百合川ハナと二暮堂ユリアの二人が立っており、駆け足で彼女達の前へ駆け寄る。

 

「と、徹くん……」

 

「ハナさん!あのバカ、今どこにいんだよ!アイツは大丈夫なんだよな!なぁ!!」

 

「お、落ち着きなさい!貴方の気持ちも分かるけど、ここは病院よ。だから……」

 

「ッ……あ、あぁ。悪い二暮堂さん……ハナさんも、ごめん……」

 

「……ううん。洋太くん、四階にいるって……」

 

 ハナの肩を掴んで問い詰める徹に、ユリアが横から制止する。

 冷静さを欠いていた徹はハッと我に返り、彼女から手を離して謝罪。ハナが不安そうな表情で階段を指差し、共に階段を登って上階へ向かう。

 三人が早歩きで“とある病室”を目指す道中、ソファベンチにひとりの男性が座っているのを視認した。

 

「あ、先生……」

 

「……キミは、田中……みき、みか……」

 

「百合川ハナだよ先生」

 

「あ、ハナさん達の担任ってそういうキャラなのね」

 

 その男性は、ハナ達のクラス担任でもある遠野善だった。

 膝に両肘を置いて俯いていた彼は顔を上げ、生徒であるハナに気付くと彼女の名前を思い出そうとして、代わりに本人から訂正される。

 徹が怪訝そうな顔でその男性に目を向けていると、「もしかして、彼の……確か、こうたって子のお見舞い?」という言葉を聞いてハッとする。

 

「……アンタのいう『こうた』って、『洋太』の事ですか」

 

「……洋太、ようた……うん、彼の病室はあっちだよ」

 

「………どうも。ハナさん、二暮堂さん、行こう」

 

 徹から尋ねられた遠野善は、廊下の向こう側へ指を差してから病室の場所を伝えた。

 礼を述べて示された方向に三人で向かい、やがてある病室の前に辿り着く。

 

「……開けるぞ」

 

 閉ざされた扉を前にした徹は、一声かけてから取っ手に手を掛け、一瞬躊躇しながらもゆっくりと開いた。

 開いた扉の先には、椅子に座ってある者の傍で手を握り続ける四谷みこがおり、こちらに背を向けたままな為に表情を伺う事が出来ない。

 彼女の視線の先には、身体のほとんどが包帯で巻かれ、点滴や酸素マクスなどをつけた状態で水色の病衣を纏った見円洋太が、まるで死人の様な姿でベッドの上に横たわっていた。

 

「………洋太」

 

「……みこ、大丈夫……?」

 

 二人の姿を確認した徹とハナが戸惑いながら声を掛け、ユリアは心配そうに彼の顔を見つめながら肩にかけた鞄の持ち手を握り締める。

 だが洋太もみこも、互いの親友に声を掛けられても反応せず。いまだに硬く瞼を閉ざし、ただただ無言のまま洋太の手を握り締めていた。

 その様子を静かに見ていた三人だが、数十秒してみこの重い口が開く。

 

「………命に、別状は無いって」

 

 そう告げられた三人は、僅かながら安堵し……「でも」の後に放たれた発言により、細やかな安堵すら容易く吹き飛ぶ事となる。

 

「車に轢かれた反動で縁石に頭をぶつけて、それで脳に強いダメージが残ってるらしくて……いつ目を覚ますか、分からない状況みたい」

 

「……明日には、目を覚ますんだよな?」

 

「わからない」

 

 明日かもしれないし、明後日かもしれない。一週間後か一ヶ月後か、最悪一年後かもしれない。あらゆる可能性を含んでいるであろう言葉に、彼らは思わず息を呑む。

 それほどまでに、洋太に告げられた現状は深刻なものだった。

 しかし、その現実を一番受け入れられていないのは、他でもないみこ本人である事は、この場にいる全員が察している事だろう。

 

「───大丈夫だよ。洋太って意外とタフだから、すぐに目を覚ますと思うよ?」

 

 故に、目元が赤くなった顔へ無理矢理貼り付けた笑顔を見せて、こちらに心配かけまいとする彼女の姿を……それでも尚隠し切れぬ程に哀しそうな姿を見て、余りの痛ましさに息を呑んだ。

 

「洋太ってば、昔からよく転んだり頭をぶつけたりしてたけど……直ぐ立ち直ってピンピンになるから、今回もすぐ元気になるんじゃないかな」

 

 病室の中、洋太の手を強く握り締めるみこの声だけが虚しく響く。

 そんな彼女を前に、何時もの天真爛漫な笑顔が鳴りを潜んだハナは、慰めの言葉を喉に詰まらせて行き場の無い手を出していた。

 

 ハナにとって四谷みこという人物は、一言でいえば『面倒見の良い、優しい子』である。

 何時もはクールな顔でいる事が多い彼女だが、その素顔は年相応に笑ったり、よく世話を焼いてくれたり、それでいてドジな一面を持った、面倒見の良い姉の様な友人。時々突拍子も無い事をやり始めたり、幼馴染の距離感がバグってる気がするけど、それも彼女の魅力である。

 だが今目の前にいるみこは、普段とは似ても似つかない弱々しい姿であり。理由は考えるまでも無く明白で、洋太の現状を聞いた彼女はそれ程までにショックを受けたのだろう。

 

「だから、大丈夫だよ。きっと……」

 

 それでも彼女は、そんな弱みを見せんと必死に取り繕い、笑顔を保とうとしていた。

 それはかつて父親が亡くなった時、ここ最近ずっとナニカに悩まされている時、心配をかけまいと「大丈夫」って、悲しみも悩みも全て押し殺して、気丈に振る舞っている姿と似ている。

 だが今みこが浮かべる笑顔は、それらよりもずっと痛々しく、見ているだけでこちらの心まで抉られる様な痛みを与え。同時に、洋太の事をどれだけ想っているかという事も、痛い程に伝えて来ていた。

 

 だからだろうか。

 もしかしたら今の自分では、悩める彼女に「自分も大丈夫」でいる事しか出来なかった自分では、みこの力になれないのではと、ハナはそう考えてしまった。

 

「───洋太。お前って、ホント馬鹿だよな」

 

「……徹君?」

 

 そこでふと、それまで黙っていた徹が唐突に言葉を発した。

 その場にいる全員が彼の方に顔を向けたのを確認した上で、真剣な眼差しで洋太が眠りについているベッドのフッドボードに手を置いて語り始める。

 こっちの気も知らないで、スヤスヤと眠る姿を見て、思わず苦笑いを溢しながら。

 

「テスト前は何時も必死こいて勉強させてんのに毎回赤点ギリギリだし、運動神経バツグンのくせにサッカーやバスケでよくオウンゴールするし、女子に優しくされたら好意があるって勘違いするし、調子に乗ってる時はめちゃくちゃ調子乗りだし、割と余計なこと言うし、忘れっぽいし、負けず嫌いだし、普通に俗っぽいし、精神年齢が小学生の頃から成長してねぇし……いっつも迷惑ばかり、かけやがって」

 

 今迄築いてきた想い出を語りながら、片手をポケットに突っ込んで呆れた様な困った様な顔をし、溜息を一つ吐き出して一拍置く。

 

「そのくせ、誰かを否定する様な事は言わないし、いざって時は自分を後回しにするし、他人の為には本気で怒ってくるし……」

 

 言葉を区切ると、一度目を閉じて瞼の裏に親友の瞳を描いた。

 アイツが持つ橙色の瞳は、ぼーっと気の抜けた様な目でヘラヘラしているかと思えば、一度その奥に宿る光が見えた瞬間には、一切の躊躇いもなく己が信念の為に走り続けられる。どこか優しく、それでいて強い意志が籠った眼差しだった。

 次に洋太の寝顔を思い返すと、脳裏に別の瞳を……さっきのとは全く真逆の瞳を描いた。

 

「ガチでやらかしたらずっと引き摺っているし、凹んでる時はトコトン情けないし……プライドもクソもねぇ、みっともない姿を見せながら俺らに頼ってくる……多少の迷惑くらいなら、大目に見ても良いかなって思える様な、そんな奴」

 

 終わらなかった宿題を手伝って欲しいだとか、女子にフラれたから一緒に傷心を癒してくれだとか、こんな役立たずが幼馴染と会って良いのかだとか、そんな情けない姿を何度も見せられてきた。

 一度深呼吸した後、今の今まで固く閉じていた目をゆっくり開いて彼の事を見つめた。

 

「本当に、大馬鹿野郎だよ……」

 

 それ故に、とでもいうのか。そんな彼に自分は何度も救われて来たのだ。

 心のどこかで鬱屈とした感情を抱えている時は慰めてくれて、力を貸してくれて、屈託のない笑顔で、嘘偽りない言葉をくれる。頼りない面がある癖して、いざって時は絶対に守ってくれる様な強い意志を持つ彼がいたからこそ、今の俺がここにいるのだと思った。

 

「………ワタシは、洋太くんとは付き合い浅いけど、それでも彼の事は……その、初めての一番弟子で……大切な……と、友達のひとり、だと、思ってる」

 

 後に続く形で辿々しく言葉を繋いで来たのは、持っていたスマホをバッグに仕舞い込んで、みこの側へ来て手を重ねたユリアだった。

 洋太の手を握るみこの手を優しく重ねて、俯き気味にユリアへ視線を向けた彼女を横目に語り始める。

 

「だから彼とは、これからも色んな事を教えてあげたり、一緒に色々と学んだり……それに、他にも沢山の事をやっていきたいって、思ってる」

 

 脳裏に浮かぶのは、洋太が自分を師匠と呼んでくれた時の事。

 彼の持つ暁色の瞳に見つめられ、純粋な敬意を伝えられた日の事だ。

 今まで自身の持つチカラについて聞いて、“見えていない”にも関わらず、ここまで興味と関心を抱かれた事は無かった。だからこそ彼女は、そんな彼の期待に応えてあげたいと、そして誰よりも自身のチカラを見せてあげたいと思う様になった。

 

「それなのに……それなのに何で……っ!何で貴方が、そんな姿になってるのよ……ッ!」

 

 普段の凄まじい力を放つ姿からは想像もつかない程、弱々しげな弟子の姿を見てしまったユリアは息を呑み、静かに目を逸らして僅かに顔を俯かせてしまう。だが意を決した様に唇をキュッと結んでから再び顔を上げて、言葉の続きを述べた。

 

「ワタシは……まだ貴方に何も見せてない……師匠らしい事も出来てない……だから、早く目醒ましてよ……この、馬鹿弟子っ!」

 

「……ユリアちゃん」

 

 嗚咽混じりに本音を吐き出したユリアは、溢れ出る涙を拭う事もせずひたすらに彼の右手を両手で握り締めて声を掛け続ける。

 激情にかられて涙を流す友達の姿を、みこは光を失いかけた目でただ茫然と眺めていた。

 

「……みこっ」

 

 そんな時、背後から声を掛けられたみこが声のした方へと振り向くと、ハナの両手がこちらへ伸びて来る。全身にぽかぽかとした温もりが伝わり、どうして自分が抱き締められているのかと、理解が及ばなかった。

 

「あたしだって辛いよ?洋太くんって、確かに困ったところもいっぱいあるかもしれないけど、それと同じくらい何時も元気で、いつも笑顔で一緒にいてくれる、スゴく大切な友達だから……」

 

 それでも、彼女の優しさは十二分に伝わっており、その温かさは彼女の心に染み渡っていた。

 

「だから洋太くんが車に轢かれたって聞いて、凄く心配になった。何かあったらって考えただけでも、心が痛くなって、辛くて、すごく怖いって思った……でもっ!」

 

 一度言葉を区切り、みこの身体をより強く抱き締めた。

 

「みこはそれ以上に、あたしよりもずっと痛くて、スゴく辛くて、いっぱい怖いんでしょ……?」

 

 ハナから伝わる温もりが、身体に宿った寒気を温めていく。

 しかしそれ以上に、言葉にし難い程の強い想いが伝わって来る、そんな震えが互いの全身を駆け巡っていた。

 

「だからみこ、お願い……()()()()()、我慢しないで……っ!」

 

 涙ぐんだハナの声が、心の奥底まで響いてくる。

 頑張って抑え込んでいたと思っていた『出してはいけない感情』が漏れ出ていた事に気付かされ、その所為で親友に余計な心配をかけてしまったという罪悪感が、みこの心に暗い影を落とした。

 だが同時に、彼女の心を蝕んでいた不安と絶望が不思議と、まるで魔法の様にゆっくりと和らいで、少しずつ癒していく。

 

「ハナ……」

 

「……なぁ、みこさん」

 

 徹から静かに名を呼ばれ、みこはそちらへ顔を向けた。

 彼は病床のフッドボードから手を離し、真剣な眼差しで彼女を見つめた。

 

「君にとって俺たちは、『迷惑を掛けてもいい』って思えないくらい、頼りない存在なのか?」

 

 こちらを真っ直ぐ見つめながら語り掛ける彼の瞳には、優しげでいて強い意志を感じさせる様に真っ直ぐ見据えており、どこか寂しさを孕んでいるモノに見えた。

 

「私は……わたし、は……」

 

 投げ掛けられた言葉にみこは戸惑い、何故か急に思考がまとまらなく成り、上手く言葉が紡げなくなってしまう。

 ──否、本当は自分でも気付いている筈だ。

 自分のせいで大切な人が傷付いて、だからコレ以上誰かに迷惑を掛けたくないという思いが強過ぎて、心の奥底にその感情を封じ込めようとしているという事を。

 自分の事を心配してくれた大切な友人達がここまで声を上げてくれているというのに、その想いを無下にする様な真似は出来ないという感情と、それでも迷惑なんて掛けられないという理性がせめぎ合い、葛藤が生まれた。

 やがて彼女の心中で行われた骨肉の争いは、堰き止めていた感情の洪水を引き起こし。ぐちゃぐちゃになった感情は雫となって瞳から零れ落ち、頬を伝い、顎を伝ってハナのYシャツの上に落ちた。

 

「………怖いよ、ハナ……」

 

 一度崩壊した心のダムは、止めどなく涙を流して行き場を失った感情が溢れ出す。

 ハナはみこの背中を優しく擦りながら抱き締めている力を僅かに強めて、弱々しく伸ばされた手で握り縋られながら。胸の内に燻る感情の全てを吐き出す様に発する親友の言葉を、ただひたすら受け止め続けた。

 

「もし洋太が、目を覚まさなかったら、どうしよう……

 もしずっと寝たきりになったら、どうしよう……

 もしこのまま死んじゃったら、どうしよう……ッ!

 私が、あの時余計な事、しなかったら……!!

 ……やだよ、ハナ……洋太まで、喪いたくないよぉ……」

 

 己が感じた罪悪感に加えて、今迄ずっと我慢していた分も込めて泣き続けた。まるで幼い子供が泣きじゃくって親に甘える様に、ただひたすらに感情を吐露していく。

 心の内を打ち明ける親友の身体を包み込みながら、ハナも静かに瞳を閉じた。

 

「…………今日は、もう帰ろうか」

 

 それから暫くの間、病室には嗚咽と鼻を啜る音だけが響き渡っていたが……やがて泣き止み始めた彼女の様子を察して、徹が声を掛ける。

 みこは小さく頷いてから、涙の跡を残したままハナとユリアと一緒に病室を出て行こうとした。そんな彼女の背中を見送りながら、徹は洋太の寝顔を一瞥した。

 彼は一向に、目を覚ます気配が無い。

 

 

 

「……太郎さんの話によれば、確かこの辺だったわよね?」

 

「あ、茜様!此処で扉を開けたら危ないですよ!?直ぐに病院周辺に着地するのでそれまで……」

 

「ここまでありがとね。それとごめんね無理言って。じゃあ行ってくるわ」

 

「え、あの、ここ上空500mなんですけど……ちょっと待って下さうわぁあああああ!?」

 

 

 

 日が沈んで藍色となった空の下。病院を出た四人は、ひとまず帰路に着くことにした。

 しかし彼らの周りの空気はお通夜の様に暗いモノとなっており、誰一人として声を発さない。そんな状況に耐えられなくなった徹が気まずそうに、ゆっくりと歩きながら声を上げる。

 

「あ、あのさ!えっと……明日、どうする?」

 

 しかし具体的になにを話すかまでは考えてなかったので、結果として中途半端な問いかけになってしまい、徹は科白を発した後に「イヤ他にいいのなかったのかよ⁉︎」とセルフツッコミしていた。

 

「……アイツ、花の匂いが好きだから、花でも買って行こうかなって、思ってる」

 

 その時、今まで目の周りを赤くして黙っていたみこがボソッと呟く。

 流石に今の状況で彼女から話し始めるとは思ってなかった徹は、少し驚きながらも彼女の意思を尊重して「おぉ、アイツも喜びそうだな」と相槌を打ち。ちょっとだけでも元気になった様子のみこに顔を綻ばせたハナの口からも、矢継ぎ早に言葉が重ねられていく。

 

「じゃああたしは、チョコバナナプリンかなー。今コンビニで期間限定の奴。ユリアちゃんは?」

 

「えっ、あ、えっと……ワタシは──待って、なんか聞こえない?」

 

 話を振られたユリアが慌てて何か言おうとする前に、足を止めて耳を澄ませる。皆の鼓膜に奇妙な衝撃音の様なモノが、上の方から届いてきた。

 その衝突音はドンドンと大きくなっていき、音の正体を確認する為に上へと視線を移すと、何故か人型の物体が落ちて来ていた。

 アレは一体なんだ⁉︎と四人が思うより先に、落下してきた人型の物体が地面に衝突する寸前で宙を蹴り飛ばしたかと思えば、約1秒ほど遅れて大きな衝撃音が空気を震わせ、辺りに土埃を舞わせた。

 

「ふぅ……よし、到着!」

 

 やがて土埃が晴れていくと、その中心には紫袴の巫女装束を纏ったベリーショートの女性が、ふわりと降り立っていた。

 

(((……え、なに今の?)))

 

 その一連の流れを間近で見ていた徹とハナ、ユリアの三人は揃って同じ感想を抱いた。

 なにせ今見たのが事実であれば、その女性は上空から降ってきた上で、地面にクレーターも作らずに着地したという、メルヘンやファンタジーでしか言い表せぬ光景を目の前で見せられたのだから、三人共理解が追いつかなかった。

 ……しかしそれ以上に、女性の何処かで見覚えがある顔を見て気になる事があった。

 

 巫女装束は勿論の事。透き通った様な白い素肌とそこに映える赤茶髪のベリーショートがかなり印象的だが、何より目を引いたのは彼女の紅い瞳である。まるで宝石の様に澄んだ赤色をした双眸はまるで吸い込まれてしまいそうで、思わず見とれてしまう程の美しさがあった。

 その反面、首元からチラッと見えた赤く爛れた瘢痕……いわゆる火傷痕の様なモノが、美しさとは別の印象を彼らに与えていた。

 何処に見覚えがあるのかと記憶を呼び起こしていた徹達だったが、そんな三人を差し置いて、驚いた様な表情を浮かべたみこが真っ先に声を上げる。

 

「あ、茜さん……」

 

「あら、久しぶりねみこちゃん。大っきくなったわねー元気してた?」

 

(((しかも知り合いだった!?)))

 

「は、はい……」

 

「それは良かったわ!それで、その子達は……んん?」

 

 二人が顔見知りであった事実に驚く三人を他所に、茜と呼ばれた女性はみこへ挨拶を交わすと、今度は徹達へと視線を移し。彼らをじっと見つめたかと思えば、顎に手を当てて興味深そうな声を漏らし、徹とハナに顔を近づけてを交互に見つめる。

 まるで品定めする様に凝視する彼女の視線を一身に浴びた徹とハナは、一体何なのかと困惑の表情を浮かべ。ユリアはそんな彼らの姿を間近で見ながら、みこに近付いて耳打ちする様に話し掛けた。

 

「えっと、みこちゃん……この人、知ってるの?」

 

「え? あぁ……この人、洋太のお母さん」

 

「「「洋太(くん)のお母さん!?」」」

 

 みこの口から語られた事実に思わず声を上げたユリアと観察されていた二人は、改めて茜の方に向き直り、目の前に立つ彼女の容姿をまじまじと観察する。

 言われてみれば確かに顔の輪郭や髪色に洋太の面影はあるが、それ以上に彼らの脳裏には先程見た人外着地によってもたらされた疑問が渦巻いていた。

 するとそんな事を考えていると知ってか知らずか、茜は苦笑い気味に頬を掻く。

 

「あれま、やっぱり先ので驚かせちゃったかしら?御免なさいね、ウチの息子が……此処にいるって聞いたら、いても立ってもいられなくて、知り合いに軍事用ヘリを動かしてもらったの。でもヘリポートに降りる時間も惜しくなっちゃったから、空気を蹴って減速しながら降りて来たの。普通に着地しちゃったら、アスファルトにクレーターが出来ちゃうからね♡」

 

 軍事用ヘリを動かせるコネ is 何処で?とか、空気を蹴って減速ってなに?等といった、その口から紡がれた想像の斜め上を行く数々の言葉によって新たに生まれた疑問を余所に、茜は思い出したかの様子で両手を合わせて声を掛ける。

 

「そうそう、まだ言ってなかったわね。では改めまして……

 不束者ながら、洋太の母親をやらせていただいています『見円茜』と申します。息子がいつもお世話になっています」

 

「あ、ど、どうもご丁寧に……えっと、洋太の親友をやらせて貰ってます。影杉徹です(この人がアイツの母親……初めて会った……てかさっきの何だったんだアレ……⁉︎ 空気を蹴るって月歩かよオイ!此処はワンピースの世界じゃねぇぞ!?)」

 

「は、はじめまして。洋太くんの友達の百合川ハナです(何で巫女みたいな格好してるんだろう……)」

 

「に、二暮堂ユリア……です(洋太があれほど凄まじいチカラを持ってるなら、家族もそれ相応の力があってもおかしくはない。って思ってたけど……なんか思ってた方向性と全然違う! 生命オーラはあるにはあるけど、ハナと比べるとひとまわり少なく感じるわね……イヤ、それでも十分多い方だし、別の意味で凄まじい能力者である事は変わらないケド)」

 

「はいヨロシクね。あ、飴ちゃん食べる?」

 

 懐からいちごみるく味の飴を取り出しながら、屈託の無い笑顔と共に差し出してくる。

 対する三人は茜の行動とバナナを差し出す洋太の姿を重ね合わせ、二人の血縁関係の濃さを感じ取りながら、ありがたく飴を受け取った。

 

「ふふっ……それにしてもあの子、こんなに友達がいて……幸せそうで、本当によかった」

 

 茜は手の中に余った飴の包み紙を取って口の中に放り込み、病院が建ってる方角へチラリと視線を向けながら、心の底から安心した様な声を漏らす。

 その表情はとても穏やかで、慈愛に満ちており、それでいて酷く申し訳なさそうな眼差しで息子がいると思われる所を見つめている。

 四人は互いに顔を見合わせていると、笑顔へ戻った茜が言葉を続けた。

 

「じゃあワタシは行くけど……これからも、洋太のことよろしくね」

 

 手をフリフリと振りながら別れの言葉を残して、息子の眠る病院の方へ歩いて行った──かと思いきや、「あ、そうだ」と呟いた彼女は踵を返してみこの方へと歩み寄ってきた。

 

「洋太のことなら大丈夫……なんて、綺麗事よね? それでも、信じてあげて。

 あの子がやる時はやる子だってことは、ワタシよりもずっと一緒にいてくれた、貴女の方がよく知ってる筈よ」

 

 花に触れる様な手付きで頭を撫でながら、みこに優しく語りかける。

 その言葉は、強い不安を感じていたみこの心を見透かしているかの様な口振りであり、その口調にはどこか確信めいたモノを感じられた。

 それだけ言い残した茜は「じゃあねー」と今度こそ別れを告げて、再び病院の方へと向かって行った。

 

「……なんつーか、インパクトのデケェ人だったな」

 

「……確かに」

 

 先程まで感じていた重い空気がぶっ飛ばされ、変な気分になりながら思わず徹とユリアが素の感想を漏らし、ハナは貰った飴を口の中で転がす。

 そしてみこは茜が去って行った方向を見つめながら、彼女の言葉を思い返す様に撫でられた部分に触れていた。




●見円洋太
幼馴染と親友にとって、彼は正に『太陽』のような存在。
太陽が放つ強過ぎる光は、時に生命の身を焦がし、大地を温暖・干魃させる、大変迷惑な一面もある。それでも“そのもの”が放つ恵みの光は、人々の行先を指し示し、溢れる程に生命力と活力を与え、常に照らし温めてくれる。
もし太陽が無くなってしまえば、その時はきっと……この世の全てが冷たい闇に覆われるだろう。

●四谷みこ
とある幼馴染にとって、彼女はまるで『月』のような存在。
月は太陽では照らせない世界へ優しい光を与え、闇夜で迷う存在に歩むべき道を授けてくれる。時には居なくなってしまう事もあるけれど、少しすれば……ホラ、綺麗な三日月が顔を見せてくれる。
しかし月は、たったひとりでは輝くことが出来ない。故に月は誰かに照らして貰うことで、誰かの希望たる存在となれる。

●影杉徹
とある親友にとって、彼はまるで『影』のような存在。
それはどんな時でも共に居てくれて、どれ程光が強かろうと決して離れる事の出来ぬモノ。闇の世界では極端に目立たぬ存在となってしまうが、逆に光の世界ではその存在を強く知らしめすモノになり得る……かもしれない。
何故なら影は光が濃ければ濃い程、より強くその存在感を表し。反対に影が濃ければ濃い程、光がより際立って見える証明になるからだ。

●百合川ハナ
「事故って眠ったままの友達+その隣で心配かけまいと痛々しい笑顔を浮かべる親友+悩みや悲しみを共有出来ずに『あたしも大丈夫』としか言えなかった自分」というジェットストリームアタックでいつもの天真爛漫メンタルがガタガタになったが、オタクが突如開催した本音暴露大会によってなんとか持ち直すことができた。

●二暮堂ユリア
実は、徹が独自を暴露してる最中に彼からLINEの連絡が来ていた。その内容というのが、「先陣切るから、そっちも何か言え」といったものだった。
彼女は「いやこの空気で無茶言わないでよ!?」と内心ツッコミをしていたが、それでもこの地獄の様な空気を打破するため、必死に言葉を捻り出して本音を語った。

●本音暴露大会
徹「此処にいる全員、この馬鹿に多少なりとも色々溜め込んでるもんあるだろ?だから今から大会を開く」
ハナ「大会?何言ってるの徹くん?」
徹「互いにコイツの不満とか何とか吐き出して、一番心スッキリさせた奴の勝ちだ」
ユリア「……勝ったら、何をくれるの?」
徹「そりゃあもちろん、コイツをイッパツ引っ叩く権利よ」
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。