「ヤッホーみこちゃん!元気してる?」
「……うん、まぁね」
ベンチに座ってぼーっとしていると、いつも見るのほほんとした笑顔を浮かべた洋太がこちらへ手を振りながらやって来て、私の隣に座り込んだ。
「いやー、まさかあんな事になるとは……しくじったなぁ」
「ハァ……洋太っていつもそうだよね。いっつも迷惑ばかりかけて、本当に馬鹿」
ジト目を向けられた洋太は、眉を八の字にして「あはは……」とヘラヘラと笑いながら頭を掻いた。それを私は眉を八の字にして、少しばかり笑みを浮かべる。
昔から考えが足りなくて、明後日の方向に思考が飛んだりするから、いつも周りに迷惑をかけていた。それでも友達の為に一生懸命で、誰かを笑顔にしようと頑張っていた。だから呆れる事はあっても、嫌いにはなれなかった。
「……ねぇみこちゃん。ちょっと匂い嗅いでも良い?」
「………はいはい、どうぞ」
それはそれとして、こういう変態チックな一面を見せてくるのはハッキリ言ってキツイから、普通に勘弁して欲しいところである。
「じゃあ失礼して……スゥー、ハァ……うん、やっぱり良い匂いだなぁ。髪もサラサラしてて綺麗だし」
「洋太、それ外では言ってないよね? 前も話したと思うけど、それ普通に気持ち悪いから絶対にやめてね?」
「わーってるって。こういうのは僕がイケメンだから許されてるトコあるし、みんなに嫌われるのは流石に嫌だしね」
確かに整った顔立ちはしてるし、黙っていればそれなりにモテそうではある。けどコイツの事を色々と知ってる身としては素直に頷けないし、認めるのも癪なので絶対に言わないけど。
そんな事を思いながら横から抱き付かれ、スンスンと髪の匂いを嗅がれていると、「ねぇみこちゃん」と話しかけられる。
「この間、僕の中にあるっていう“能力”がどうのこうの……って話をしたの、覚えてる?」
「え? うん、覚えてるけど……」
確かについ先日、自分の『見える』体質について思い悩んでいた時に洋太とそんな話をした覚えはある。でもそれが一体どうしたのだろうか? そう思って洋太の方を見つめると、彼は私の手を握りしめて、こちらの目を真っ直ぐ見つめて口を開いた。
「あの時は、漫画やアニメのヒーローみたいに『誰かの為』にチカラを使いたいって言ったけど……ホントは、そう大層な事なんて考えてなくてさ……ただ“自分が後悔したくない”っていう『自分の為』に使おうと、思ってました。ハイ」
意を決した表情となった洋太が、一息にそう告白した。それはまるで、懺悔室で罪を告白する罪人の様にも見える。
……うん、だからなんだって話なんだけど。
「ふーん……で、それがどうしたの」
「…………いや、あの。僕いま、結構衝撃的な告白をしたよね? なんか反応薄くない?」
「いや、逆に聞くけど。なんでそんな事気にするの?」
何を言いたいのかイマイチ理解出来なくて、ただ頭に疑問符を浮かべる。すると彼は、呆気に取られた様子で口を開いた。
「だ、だって……僕、ちょっとカッコつける為に、ホントの事を捻じ曲げて言ったんだぜ? こう言うのって大体『そ、そんな事考えてたの……?』みたいな感じで失望したりすると思うんだけど、なのに何その反応? 僕の話聞いてた??」
「まぁ、確かにあの時は『洋太も意外と考えてたんだなー』って思ったけど、別に自分の為に使おうと誰かの為に使おうと、洋太の勝手じゃない? そもそも、そんなくだらない事で失望してたら、とっくの昔にしてるし」
「……………あ、そうなの……」
何故か肩を落とした様子の洋太が、気の抜けた声を漏らしながら項垂れる。
変な所で真面目な幼馴染の姿に呆れた笑みを向けながら頬を引っ張りつつ、どうして急にそんな事を言い出したのかと疑問に思っていると、遠くから汽笛の音が響いて聞こえて来た。
『間も無く、電車が参ります……白線の内側に下がって、お待ちください……』
今いる此処……伸び放題となった雑草や蜘蛛の巣が張った、『平坂駅』という駅名看板が立ててある寂れた駅のホームには、人の姿は一つも見えない。
けれどそんな駅へ、到るところに赤錆がこびり付いている蒸気機関車が、煙突から黒煙を撒き散らしながらやって来る。
「おほー!コレがSL機関車かぁ!スッゲー、動いてるトコ初めて見た!ちょっと錆びてるケド」
「………そう、だね」
甲高いブレーキ音を鳴らし、目の前で泊まった眼を輝かせてテンションを上げる洋太とは反対に、私は息苦しさを覚えて彼の腕にしがみ付いていた。
すると機関室の扉が開いて、そこから帽子を深々と被った車掌らしき人が出て来た。
けどその車掌の顔は包帯でぐるぐる巻きにされていて、手はまるで獣の様に毛深く、爪が異様に鋭い。格好も何処かボロボロになっていて、所々穴が開いていた。
「……この列車、“三途川駅”行き。お乗りのお客様は、お早めに……」
「あ、すみません。僕、まだ乗る予定ないんですけど……」
呼びかけられた洋太が申し訳なさそうに返すと、耳をピクッとさせた車掌は帽子のつばを指で少し上げて、私達をジッと見つめてきた。
包帯の間から見えるその眼はまるでガラス玉の様に無機質に光っていて、思わず背筋がゾッとしてしまう。
すると車掌は深い溜息を投げ掛けて、まるで機械の様な淡々とした声で告げた。
「困りますねぇお客様。そうやって“此処”に留まろうとすると、こちらの仕事が増えちゃうんですよ」
「そう言われても……まだみこちゃん達と一緒にいたいし、そもそも切符持ってないし……」
洋太がボソボソと喋っているのを見て、車掌はめんどくさそうに頭を掻いた。
それからこちらの方に近付いて来る車掌を見て、思わずギュッと腕に抱きつく力を強くする。車掌の正気にない目に見つめられる度に、心臓はバクバクと早鐘を打つし、全身から冷や汗が溢れ出す。
──でも何よりも怖いのは、もし此処で洋太から離れたら、二度と会えなくなりそうだって……そう思えてしまうから。
「……ハァ、やむ終えませんね」
再び吐き出した溜息と共に、車掌は懐から燻んだホイッスルを取り出す。
洋太が首をかしげる中、車掌が吹き口を咥えて思い切り吹き鳴らした──瞬間。彼の背後で待機していた客室の扉が勢い良く開くと、そこから無数の青白い手が、まるで私達を引き込もうとするかの様に蠢き、溢れ出て来た。
それを目の当たりにした私は、全身の毛が逆立つ様な感覚に襲われた。
もし“アレ”に洋太が捕まったら、彼とはもう二度と会えなくなるような気がして……気付けば腕を強く掴んで、その場から逃げ出そうとしていた。
「うわっ危な⁉︎」
「……えっ」
でも、咄嗟に決めた“逃げる”という選択肢は、一緒に逃げようとした本人によって……腕を振り払われる感覚を受けた私の目の前で、無数の腕に掴まれた洋太が客室の中に引き摺り込まれてしまった事で、容易く打ち砕かれてしまう。
「よ、洋太ッ!?」
すぐ様あの馬鹿に手を伸ばしたが、それよりも早く閉まった客室の扉に阻まれ、洋太と私は扉の濁ったガラス越しに顔と手を合わせる事となった。
「……ごめんみこちゃん、思わず突き飛ばしちゃって」
「ッ……謝るくらいなら、最初から突き飛ばさないでよ……っ!」
向こう側で申し訳なさそうな表情になっている洋太に、思わず怒鳴り付けてしまう。
だがそんな事をした所で扉は開かないし、ドンドンと叩いてもビクともしない。すぐに冷静になって、何も出来ない自分の唇を強く噛んだ。
『出発いたします……』
そこで無情にも、先頭車両に乗り込んだ車掌の出発宣言が無慈悲に響き渡る。不気味な程に低音で力強い汽笛が鳴り響いて、ゆっくりと動き出す蒸気機関車。
ガラス越しに繋がっていた私達の手は引き離され、徐々に速度を上げていく機関車を追い駆けながら、必死に洋太に向かって叫び続ける。
「待って、行かないで……! お願い洋太っ、置いて行かないでッッ!」
視界が歪んで、喉が熱くなって。そんな私を嘲笑う様に洋太との距離は開いていく。
もしかしたら、もう二度と彼と話をする事も、笑顔を見る事も、温かい手に触れる事すら出来なくなるかもしれない。そんな恐怖が、心を激しく揺さぶる。
「──ごめんね。猫ちゃん、連れてこれなくて……
約束、守れなくて……本当に、ごめん」
ただ、彼と一緒にいたい。そんな願いすら届く事なく、洋太の謝罪を遮る汽笛の音が夕暮れ時の空に響き渡っていき。遠い所まで行ってしまった機関車の後ろ姿を、すっかり姿が見えなくなった幼馴染の名前を──
「──ようたっ!!」
手を伸ばしたまま叫ぶと、そこはさっきまで居た寂れた駅のホームではなく、自分の部屋でベッド上にいる事に気付いた。ついでに部屋のドアを開いて此方を、少しバツの悪い顔で見ている弟が立っていた。
「えっと………早くしないと、学校遅れるぞ」
「……うん」
それだけ言い残して部屋を退出した恭介に生返事で返し、ひとりになった私はただ呆然と手を眺め。ふとテーブルの上に置いておいた赤い数珠ブレスレットを取って、ひんやりとした感触を掌全体で感じながら強く握り込む。
「……洋太の、バカ」
──洋太が入院して、1日目。
今までの中で一番、最悪の目覚めだった。
卍 卍 卍
「………おはよ」
目を覚ました私はいつもの制服に着替えてリビングのドアを開けると、朝食の準備をしていたお母さんの姿が目に映る。恭介の姿はなかった。
「おはようみこ、ご飯出来てるわよ」
「うん……」
お母さんの言う通りに席に着くと、フォークを手に取って食事を始める。
あまり食欲はなかったが、それでも食べなきゃと自分に言い聞かせて、ゆっくりと咀嚼する。しかしそんな私を見たお母さんは、心配そうな表情を浮かべていた。
「……やっぱり、洋太くんのこと心配?」
「………まぁ、洋太のことだから大丈夫とは思うけど……」
口ではそう言うが、やはり心配なのは事実なので、食事のペースが落ちる。
……本当に、なんであんなことになっちゃったんだろう。私はただ、ハナが元気でいて欲しいと思っていただけなのに、なんで洋太があんな……
そういえば恭介の姿が見当たらない事に気付いて、もう学校へ行ったのかと思ってお母さんに尋ねる。
「恭介なら和室に居るわよ?」そう口にしたお母さんの言葉に、思わずキョトンとしてして。どういう事だろう? と首をかしげていると、笑みを零しながら教えてくれた。
「実は昨日の夜も、ずっと和室でお父さんにお祈りしてたの。アイツが無事でいますようにーって」
「…………そう、だったんだ」
お母さんからそんな話を聞いて、昨日の事を聞いても素っ気ない態度を取っていた恭介も、アイツの事すごく心配してくれてたんだと分かり。自分の事じゃないにも関わらず少し嬉しくなって、同時に素直じゃない弟に対して笑み込み上げてきた。
「姉ちゃん、もうゴハン食べ……何話してんの?」
「学校についての話」
リビングに戻ってきた恭介へそう答えると、取り敢えず朝ごはんを食べ終えた私は冷蔵庫からバナナを一本取り出して、仏壇がある和室に足を運んだ。
『ばなな ようた』
『……』
中に入ると、そこには人の顔をした馬みたいな“ヤバい奴”が此方を見つめており、お父さんはこちらに背を向けたまま部屋の端で新聞を読んでいた。
コフッと鳴き声を発して顔を近づけるヤバい奴をシカトしながら、仏壇へと歩み寄ってバナナをお供え。座って手を合わせ、先程の夢で見た光景を思い出しながら、さっきまでここにいた恭介と同じ様に祈りを捧げた。
(お父さん……お願い……洋太を助けて……)
『………』
口には決して出さず、それでいて心の中で強く願いを込める。どうか、洋太が目を覚まします様に。と──
数十秒程両手を握りしめて、目を強く閉ざしていた私はゆっくりと顔を上げる。お父さんはただ黙って新聞を読み続けており、ヤバい奴は舌をチロチロ出しながら未だに此方をジーッと見つめていた。
ヤバい奴から目を逸らし、足早に和室を出て学校へ行く準備を行う。そのまま靴に足を通したところで、ふと後ろを振り返って仏壇の方へ視線を移す。流石に此方の興味を失った……のかは定かではないが、おそらく今も和室に居るのだろう。
さて、そろそろ行こうか。といった所でお母さんがリビングから顔を出した。
「いってらっしゃいみこ。私も夕方くらいに、恭介と病院に行くからね」
「うん、いってきます」
うまく出来たかはわからないけど、笑顔を浮かべて、玄関のドアを開ける。
『あ、みこちゃんおはよー!今日も良い天気だねー!』
外に出て、ふと隣の家の玄関を見てみる。やっぱりそこから洋太が出てくる事はなかった為、いつもより早足で学校に向かった。
「善先生、今日休んでたね……」
「うん、なんか『とある事情が〜』とか言ってたけど……」
放課後の校門前。私はハナとユリアちゃんと一緒に足並みを揃えて歩いていた。
今日は善先生が休みだったので、別の教師がHRを代行していたのだが、もしかしたらあの事を気に病んだりしてるのだろうか。色々あって有耶無耶になったけど、あの時猫を助けたのもあるし……私はあの人を、誤解してたのかな……?
そんな事を考えながら歩いていると、目的地である花屋が見えてくる。
『フラワーロード演舞』と書かれた看板を掲げたお店に立ち寄り、店員さんのいらっしゃいませという挨拶に会釈しながら、店前や中にある色とりどりな花々へと視線を移す。
「花、何が良いかな……?」
「うーん、やっぱり明るい色のやつがいいんじゃない?ユリアちゃんはどれが良いと思う?」
「うーん……私は、アレかな?」
ハナに意見を求められたユリアちゃんは、店内に並んだ花の中から一箇所を指差した。
その花は赤や黄色といった鮮やかな色彩を誇っており、まるで太陽の様に明るくて元気そうな印象を与える。確かにこれなら……と私も思った。
『おはな さいたぁ』
なんか“ヤバそうな奴”が引っ付いていなければ、だけど。
「それも良いけど、この辺りとかも……」
そう別の黄色い花を指差そうとして、小さいおじさんが何匹かぶら下がっていたので、隣の赤い花を指差してみる。
「おー、確かに可愛いかも……あ、見てみこ!この花も可愛くない?オマケに食べられるみたいだし、あたし的に凄くポイント高いよ!」
「食べれるって所に多くポイント入れてない?」
ハナが手にしたその花は、確かにとても綺麗で可愛らしい花だったが、エディブフラワーと書かれたラベルが貼られているフードパックに詰め込まれている食用の花だったので、ズバッとツッコミながら他に良いのはないかと見回す。
「お悩みのようですね。もしよろしければ、ご要望をお聞かせくだされば、オススメのものをお探し致しますが……」
「えっ? あ、じゃあよろしくお願いします……」
先程も挨拶して来た、長い黒髪を一本の三つ編みに束ねた眼鏡の女性が此方に近付いてくる。
パッと見たところ年の近さを感じ取りながらも、私達よりも花について詳しいであろうその人に色々聞いた方が効率がいいかなと思い、お見舞い用の花について聞いてみた。
「うーん……でしたら、こちらの花は如何でしょうか?」
「あっ、昔学校の花壇によく植えてあった花だ!確かマリーゴールドだっけ?」
彼女が取り出したのは、先が黄色がかったオレンジの花弁が特徴的なマリーゴールドだった。ハナも横からそれを見て、小学生の頃に花壇で植えたりしたものと同じ種類の花である事を思い出していた。
「黄色のマリーゴールドには『健康』という花言葉が、オレンジのマリーゴールドには『真心』という花言葉があります。こちらの花でしたらきっと、お友達もお喜びになると思いますよ」
「おー!確かになんか良い感じがするっ!ユリアちゃん、どう?」
「どうって……あー、彼とよく合ってる感じはするんじゃないかしら」
「……じゃあ、これでお願いします」
値段もそこまで高くないし、ヤバい奴もくっ付いてない事を確認した私は、ユリアちゃんの言う通り洋太に合った色の花を選んでくれた女性に感謝しながら、購入したマリーゴールドのブーケを受け取る。彼女はニッコリと微笑み、そのまま私達に向かって一礼した。
その笑顔はどこか見覚えがあったのだが……今はそれよりも、早く洋太のお見舞いに行かないと。そう思い直して二人と一緒に花屋を出て、他に買うお見舞いの品を買いに行こうとするが、ハナから「待ってみこ」と呼び止められる。
「後はあたし達だけでも大丈夫だから、みこは先に病院に行ってて」
「え、でも……」
「洋太くんと早く会いたいんでしょ?だからワタシ達に遠慮しないで」
「………二人共、ありがとう」
確かにユリアちゃんの言う通り、洋太が心配で早く会いたいのは事実。
だけど本当に良いの?と聞き返そうとしたが、そこには優しい目をした二人の姿があり。昨日の話を思い出しながら、ここは素直に二人の厚意に甘えさせて貰う事にして、二人と別れた私は足早に病院に向かう事にした。
「悪りぃ!遅れた……アレ?みこさんはいねぇのか?」
「ふふっ。みこなら一足早く、愛しの彼のもとに行ったよ〜♪」
「愛しの……あぁ、成る程。おk把握」
卍 卍 卍
ビニールで包まれたマリーゴールドのブーケを手に走って数分、病院に到着した私は正面の入口から中に入る。
ロビーを進んで受付で面会の手続きを済ませようと近付いたところで、ふと視界の端に見覚えのある顔が映る。
「はい、はい、ありがとうございます。ではまた来週……
………おや? みこさんじゃないですか。洋太のお見舞いに来てくれたんですか?」
「あ、太郎さんこんにちは……これお見舞いの花です」
誰かと連絡を取っていたその人……洋太のお父さんである『見円太郎』はこちらに気付いたのか、洋太に似たほんわかとした顔でニコリと笑みを浮かべてペコリと一礼したので、私も会釈して迎えながらマリーゴールドのブーケを渡す。
「昨日はありがとうございます、私達の代わりに息子と一緒にいてくれて」
「い、いえ……そもそも、洋太がああなったのも……」
「あ、そうそう。今日もお見舞いに来てくれたんですよね?きっと喜んでくれますよ〜」
そう言って太郎さんは私の言葉を遮るかのように「ハハハ!」と笑い、受け取ったブーケを持ってその場を離れていった。
「なんかヤケにご機嫌だな…」と思いながらひとり残された私は、先程まで感じていた気不味い空気を振り払う様に首を振って気持ちを切り替え。受付で面会手続きを済ませて階段を上り、廊下を進んで洋太のいる病室へと足を運んだ。
(………洋太。大丈夫だよね? きっと)
歩みを進める中で、私の心中には不安と希望的願望が入り混じっていた。
昨日、洋太が倒れた後に見たあの夢……ただの夢というには、あまりに現実味を帯びていたあの光景が脳裏を過る。
もしあの夢がこれから起こる未来を暗示しているものなら、洋太は今頃……そう考えただけで心臓がギュッと握り潰された様な感覚に陥りそうになる。
『あの子がやる時はやる子だってことは、ワタシよりもずっと一緒にいてくれた、貴女の方がよく知ってる筈よ』
ふと、洋太のお母さんの言葉が脳裏を過る。
──洋太は昔から馬鹿で、ダメなところも沢山あったけど……やる時はやる奴だって事は、誰よりも私がよく知ってる筈なんだ。
だから大丈夫。アイツの事だから、きっともう既に目を覚まして、いつもみたいに私に笑いかけてくれる筈だから──そう自分に言い聞かせながら病室の前に辿り着き、引き戸の取手を掴んでスライドさせようとする。
「──うーん、バナナ旨し!」
……が、それよりも先に聞き覚えのある声が耳に届き。反射的に取手を離して、病室に向けて聴覚を研ぎ澄ませた。
「あ、そだ。よかったらですけど、二人もバナナ食べます?」
確かに私は、アイツを信じてはいた。それでも不安を完全に拭い去る事は出来なくて、心には“不安"というしこりが残っていた。
でもその馬鹿っぽい声を聞いた途端、さっきまでの不安や心配は消え去っていて──そのままガラガラと音を立てて、引き戸を開く。
「ホラホラ、遠慮せずに食べて……あ、みこちゃんヤッホー」
いつもと変わらない笑顔でバナナを頬張る幼馴染の姿が、そこにあった。
●紅乃茜
洋太の母親で、本名は見円茜。好物は苺で、よくイチゴ味の飴を持ち歩いている。
前から暗示してた通り『紅乃一族』のひとりであり、その業界では『紅蓮の鬼神』の異名で名を馳せている存在。“紅乃茜”は芸名みたいな扱いで使用している。
出来ればインパクトのある登場をさせたいと考えた結果、範馬勇次郎やパパ黒みたいなフィジカルギフテッドゴリラが現着した。
●見円太郎
ようやく名前が出て来ました、洋太の父親。好物は桃で、その理由は父親によく桃缶を食べさせて貰ったから。
得意料理はポトフで、母親が特別な日によく作ってくれた事から何度も作っているが、まだ母親の味には近付いていない。
余談だが、母親は桃子で、父親は一郎という名前らしい。
●今回の補足
Q.入院直後や手術前後に直接面会する場合、患者の体調次第では病院側から制限がかかる事がありますが、この辺はどう説明するつもりですか?
A.お母さん「仕事の関係で直ぐに駆け付ける事が出来ねぇ!せめてあの子の友達だけでも一緒にいて欲しい!!
ではここで一つ問おう! 交通事故った息子を一人にしない為に、入院直後でも面会可能とするには何が必要だと思うかね?そう、実家のコネだ!」
●あとがき
ランキング上位強者「フハハ!
俺氏「そうかな?やってみなきゃわかんねぇ!!」
というわけで、この二次創作を見て下さった皆様。
ぜひお気に入り登録と高評価、よろしくお願いします。