見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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なんてこったこれが毒親……
子供の豊かな心の成長を妨げる悲しい存在、
二度と「全部あの子のため」だなんて思い上がるんじゃねえ。


もしかしたら、それでも夜は明けるのかもしれない

「ふぅ〜、いっぱい買ったね!とりあえずチョコバナナプリン以外に、お菓子2キロくらい用意したけど、足りるかな?」

 

「差し入れの量、なんか多くない……?」

 

「まぁアイツならそれくらい平らげそうだけど、その量は流石に場所取るのでは?」

 

 とある病院へ三人の男女が訪れようとしているのを、ひとりの男子の頭に憑いている守護霊である蚕蛾・オカイコ様が観察していた。

 

(まさかあの馬鹿猿が、車に轢かれて入院する事になるとは……別に心配してるわけでは無いが、アイツが死んだら徹が悲しむからなぁ……)

 

 いつもは無駄に眩しい光を放つ見円洋太が、まるで普通の男子高校生の如くベッドに横になって寝ていた姿を思い浮かべるオカイコ様。最初に彼の姿を見た時に感じた徹達のお通夜の様な雰囲気は、守護霊ながらも少し居心地が悪かった。

 

(まぁ、アイツなら直ぐに復活するだろ。仮に死んでも、その時はその時だし)

 

 だが特に心配した様子を見せず、そう心の中で呟いたオカイコ様。

 やがて目的地の病院が見えて来て。ふと昨日、病院の廊下で見かけた、優男擬きに取り憑かれていた蜘蛛女の事を思い出し、身震いする。

 

(それにしても、あのヤバそうな奴を連れた優男が、小娘共の教師だったとはな……)

 

 徹達が子猫の里親を探してる時に会った際も、殺意をビンビンに滾らせたクソヤバ蜘蛛女の眼光にたじろいだ……というか、少しでも目が合ったら即滅して来そうな雰囲気にちょっと漏らした。

 

(可能なら、二度と会いたくないな……)

 

 守護霊となって以来、既に数多の魂を喰らい、時には身を隠して来たオカイコ様だが、あの蜘蛛女の殺意は別格であり、出来ればもう会いたくないと思っていた。

 取り敢えず今日は優男が病院に来ていない事を祈りつつ、お見舞いにやって来た三人と病院内へ入ろうとし……横から凄まじい落下音が響いて来た。

 はっ?とそちらを見たオカイコ様。するとそこには、落下して地面に叩き付けられながらも血溜まりの上でゆっくりと立ち上がった、優男に取り憑いてる筈の蜘蛛女の姿があった。

 

『ビギェエエエエエエッッ!!??』

 

「うぉっ⁉︎」

 

 驚きと恐怖心に囚われ、滝の様に涙を噴き出して奇声を上げる。その絶叫に驚いた二暮堂ユリアが、徹の頭部に乗っかるオカイコ様の方へ声を漏らしながら振り向いた。

 

「? どうしたのユリアちゃん、徹くんのほう見て」

 

「……もしや、何か変なのついてるとかじゃ無いよな?」

 

「あ、いや……なんでもないわ」

 

 流石に“この世ならざる者”が見えていない彼らの前で、徹の守護霊の叫びに驚きましたとは言えず、誤魔化す二暮堂ユリア。ハナと徹は小首を傾げつつも、直ぐに病院へ視線を向け直した。

 一方オカイコ様は、徹の陰に隠れながら血に濡れた蜘蛛女の様子を窺っていると、何やら上の方へと視線を向けていた。その視線を追うと、四階の窓から白い毛を生やした狼が蜘蛛女に向けて鋭い爪を振り下ろしながら落下して来ていた。

 

『……■■■■ ■■■■?』

 

 実体を得ていたら地面が砕け散ってであろう。それほど凄まじい轟音が鳴り響くも、蜘蛛女は咄嗟に飛び退き、その攻撃を躱す。オカイコ様はかの神社でも出て来た白狼の登場に、安堵と畏怖を両立させながら漏らした。

 

「徹くんの方は、バナナと……サラダチキンだっけ?」

 

「おう、もしアイツが起きてたら食わせようと思ってな。タンパク質摂取した方が、怪我の治りも早くなるだろうし……」

 

ビギィ!ギィ!!(なんでも良いから!早よ行ってくれ!!)ビギィーーッ!!(ハリィーアッーープッ!!)

 

(なんか叫んでるけど、何でだろ……?)

 

 ゆったりとした歩みで病院内へと入っていく徹に、オカイコ様が必死の形相で頭をベシベシ叩きながら急かしていたのであった。

 その頃、病院入り口附近では白い狼と蜘蛛女が睨み合っていた。互いに敵意を向け合い、バチバチと火花を散らす。

 だがその眼に浮かぶのは、心底呆れた嫌悪感と、血走った鬱憤を迸らせたモノ、それぞれ異なる色を反射させていた。

 

『みるな……ミルナァァァァァァ!!』

 

『■■■■』

 

 一足先に動き出した蜘蛛女……否、絡新婦は長い腕を鞭の様にしならせ、鋭い爪で白い狼の胴体に襲い掛かった。だが白い狼はそれを前脚で防ぐと、ついでに腕を抑えながら絡新婦の体を尻尾で叩き飛ばした。地面に取り残された腕は、枯れ枝を退ける様に通り道の傍へ退けられた。

 ドゴン!と大きな音を立てて壁に激突する絡新婦は、腕の千切れた部分からドス黒い血を噴き出しながらも残った腕を振るって、自身の“しつけ”の邪魔をする害獣を片付けようとする。

 白い狼は気怠そうに吐息を漏らすと姿を消し、気付いた時には次々と脚や身体を喰らわれた絡新婦の姿があった。

 

『アアアアアアァァァァァァァァ!』

 

『■■■■……』

 

 絡新婦の視界には、大きな口から数本程ある脚の残骸や身体の一部を不味そうに咀嚼する狼の姿。苦悶の声を上げながら抵抗しようとするが、狼は冷たい目で彼女を見下ろして腕を軽く振るった。次の瞬間には、彼女の上半身と下半身が離れ離れとなってしまう。

 それでも絡新婦は生きていた。彼女の『愛する息子』への凄まじい執念が、消滅をギリギリのところで抑えていたのだ。

 

『ミルナ……ミルナァァ……!』

 

『■■■■ ■■■■……いや。最期くらいは、貴様にでも分かる言葉を贈ってやろうか?』

 

 先まで不可思議な言語で呟いていた白い狼が語りかけた直後、絡新婦は残された腕を頼りに這い蹲りながら、口から生えた侠角を広げて狼の首元へ喰らい付こうと飛び上がった。

 

『ミルナァァァァァァァァァァァァ!!!!』

 

『五月蝿いぞ毒虫。さっさと子離れしろ』

 

 そう言い放たれた直後、抵抗する暇も反応する暇も無く身体をバラバラにされた絡新婦は、無残にもコンクリートの地面に崩れ落ちた。

 

『ミ………るな………みル ナ……』

 

『………フン』

 

 白狼はぶつくさと嘆く絡新婦の残骸を一瞥すると、そのまま先程自身が出た窓の方へと跳躍し、戻って行った。

 溢れたインクみたいな血溜まりに伏しながら、身体が綻び消滅し始めた絡新婦。白い狼が居なくなったのを確認すると、在ろう事か顔の首元から細長い腕を無理やり生やし。我が息子がいるあの病室へと、腕を伸ばした。

 

『……ゼ ん……』

 

 何故自分がこんな目に合うのか。

 あの子の為に、ずっと“しつけ”を続けて来たというのに。

 大事に育てて来た我が息子を見守り、それに群がろうとする害虫を駆除しようとしただけなのに。

 その訳が理解出来ない絡新婦は、遺された(のろ)いだけで息子の元へと急ぎ、その崩れ掛かった鍵爪で病室の窓に触れる。

 

「……あれ?」

 

 そんな想いへ答える様に、窓際に立っていたひとりの男性が……遠野善が、誰よりも自分を大切にしてくれる存在が、こちらの方へ視界を向けていた。

 そのコトに気付いた絡新婦は歓喜した。息子が昔の様にまた此方を見てくれた、死んでからずっと孤独を感じていた自分を認識してくれた。

 恐らくこれから、自分は消えてなくなるだろう。だけど最期に息子の姿を見て逝けるならば、一番大切な我が子に看取られながら逝くならば、それでも良い。

 絡新婦はニヤッと笑顔を浮かべたまま……最期に愛する息子の名を呟いた。

 

『ぜ──』

 

「何だろあの猫。なんかこっち見てるけど……」

 

「え、猫?何処ですか! あ、ホントだ黒い猫ちゃん!!」

 

 ──絡新婦は、猫を見るために窓へ駆け寄って来た包帯まみれの馬鹿猿に叩き潰され。

 誰にも看取られる事なく、たった一匹の女の子(害虫)に憐れみを向けられながら、強制的に浄化された。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「あ、ホントだ黒い猫ちゃん!!ほらみこちゃん、あそこに昨日言ってた猫ちゃんが……あ、逃げちゃった」

 

 うぅむ、折角善さんせんせーが教えてくれたのに、みこちゃんに見せられなかったな……あれ? そういえば、さっきから漂っていたテッセンの花の臭いが急に無くなったな。僕としては助かるんだけど、何で急に?

 

「あーーーっ!洋太くん起きてる!! あと先生もいる!」

 

「は、ハナちゃん!病院では静かにっ……」

 

「………よう洋太。元気してるか?」

 

「お〜ハナちゃん!ユリア師匠と徹も来たんだ。うん、元気してるよー」

 

 ちょっと気になったから窓辺でスンスンと鼻を動かしていると、廊下の方から扉が開かれる音が聞こえ、そこからビニール袋を持ったハナちゃん達が入って来る。

 僕が起き上がっているのに気付いたハナちゃんがこちらへ手を振っていたので、左腕に繋がっている点滴のスタンドを担ぎながら駆け寄る。

 

「ホレ、お見舞いのバナナとサラダチキン。これ喰ってさっさと元気になれよな。あと点滴スタンドは置いとけ」

 

「おほー、ありがと徹!ハナちゃんは……バナナプリンと大量のお菓子かぁ!」

 

「サラダチキン持って来た事については聞かないんだ……あ、こっちはドライバナナね」

 

 丁度お腹が減ってた所だったので、お礼を言いつつユリア師匠からはドライバナナを貰い、徹が持って来てくれたサラダチキンの袋を開けてモグモグ。うん、美味しい。ちぃっと飲み物が欲しくなるトコだけど、足りない分のタンパク質が補充されてゆく〜!

 

「ていうかみんな、思ったより早く来たね……あとお見舞いのバナナ率高くない?」

 

「まぁ買う物はだいたい決まってたし……って、涙の跡ついてる!てことは洋太くん、またみこ泣かせたでしょ!?」

 

 ハナちゃんがみこちゃんの目元に涙の跡があるのを目敏く見付け、チキンを食べてた僕に向けて迫りながらプリプリと怒り始めた。

 いやまぁ確かに心配かけてしまった事に関しては、100%僕に非はあるわけなんだけど……いや待って?またってことは、もしや僕が寝てた間もみこちゃん泣いてたん?あ、なんか先からみこちゃんの情緒が不安定だなーと思ってたけど、それも僕のせいだった……ってコト?

 

「結果的に助かったから良かったけど、もしかしたら死んでたかもしれないんだよ!? たとえ猫と先生を助けるためでも、それで洋太くんがいなくなったら本末転倒じゃん!」

 

「ご、ごめんなさい……で、でも、言い訳させて貰いますと、僕だって死にたくて飛び出た訳じゃないですし、こうしてピンピンはしてるので……」

 

「そーゆー問題じゃないよっ!洋太くんが寝てる間、みこすごく辛そうな顔してたんだよ……?もし洋太くんが死んじゃって、みこのトラウマになったらどうするの!?

 あたしやユリアちゃんだって……徹くんだって、凄く怖かったんだから!!それに……」

 

「は、ハナ……お見舞いに来たんだから、別にそこまで言わなくても……」

 

「みこさんの言う通りだぜハナさん……もう、それくらいにしてあげてくださったら?流石の洋太も、今にも死にそうな目で俯いていらっしゃるから……」

 

「もうっ、甘いよ二人とも!ミセドのドーナツより甘いっ! だって洋太くん、こうでも言わないとまたやらかしそうじゃん!」

 

「……それは、そうだけど……」

 

「………ごもっともです」

 

「みこちゃん?徹?そこは嘘でも言い返して欲しかったなー」

 

「はい、そこうるさい。とにかくお前は反省してさっさとベッドに戻りなさい」

 

「そうそう!一応怪我人なんだから、安静に……それと先生も!ネコを助ける為に無茶して……」

 

 あ、先生にも飛び火して、生徒に怒られる先生の図が生まれてしまった。なんかゴメン善さんせんせー……だからそんな顔しないで……?

 それにしても、なんか僕が思ってた以上に心配かけてたんだなコレ。みんな心配してくれるかなーとは考えてたけど、流石にここまで来るとは思ってもみなかった。

 まぁ今回ばかりは完全に僕が悪いし、ここは素直に怒られながらベッドに戻っておくか……んんっ?

 

「……んあ?どうしたんだ洋太」

 

「……ねぇ徹。いま猫ちゃんいなかった?」

 

「え、いねぇけど……何々?まさか幻覚見え始めた?」

 

「いや、そういう訳じゃなくて……なんか一瞬猫ちゃんの匂いがしたから、もしかしてと思ったけど……善さんせんせーはどう思う?」

 

「…………え? あ、うん。どうだろ……」

 

「洋太、此処は病院は病院でも動物病院じゃないぞ?それなのに猫がいる訳ねぇだろ。あと善さんせんせーってなんだよ」

 

 うーむ。徹の言う通り、やっぱり病院の中に猫なんているわけないよね?というか僕が感じ取った匂いも幻覚だったのだろうか……いや、正確には幻嗅か?なんかよく分かんないけど、まぁいいか!

 取り敢えずは無事退院するまでに、なるべくみこちゃんの機嫌を直しとくか。うん、それが良い!! そう思いながらサラダチキンを食べ終えると、バナナプリンにも手をつけるのだった……あ、徹?スプーン持ってない?

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「ありがとうございました」

「お世話になりましたー!」

 

 アレから数日後の日曜日。なんやかんやあって無事退院いたしました。

 え?病院での様子?そんなのキングクリムゾンしてやりましたよ。可愛い女子の入院生活ならまだ需要あるかもだけど、野郎の入院生活なんて需要無いでしょ?

 語る事なんて、強いて言えばあの後恭介と透子さんもお見舞いに来てくれた事と、お医者さんから「……君、ホントに人間?」って言われた事くらいだし、話す必要なんて皆無皆無ゥ。

 

「おーい、洋太。生きてるかー?」

 

 この後なに食べるか等、たわいもない話をお父さんとしながら歩いていると、不意に見覚えのある三人がこちらへ歩み寄って来るのが見えた。

 

「おっ、恭介!みこちゃんと透子さんも!何しに来たんですか?」

 

「何しに来たも何も……状況的に見て分からない?」

 

「……家族と買い物ついでに僕らを見かけた、から?」

 

「……あー、うん。もうそれでいいよ」

 

 僕の側に来たみこちゃんがジト目で僕を見た後に、溜め息を吐きながら顔を逸らした。なんか変なコト言ったかしら……恭介も何とも言えぬ様な顔でこっち見てるけど、なんでよ?

 横ではお父さんと透子さんが挨拶し合い、互いにニコニコと嬉しそうに会話を始めていた。みこちゃんがどうのとか、僕がうんぬんかんぬんといった話っぽいけど、まぁその辺は子供には関係ないと思うので聞き流すとしよう。

 

「ところで恭介?僕がいなくて寂しくなかった?大丈夫?」

 

「大丈夫に決まってんだろ。むしろいなかったお陰で、オレも姉ちゃんもゆっくりできたくらいだし」

 

「ふふっ。そんなこと言って、昨日も仏壇で『洋太が無事に帰って来るように〜』ってお願いしてたでしょ?」

 

「ハァッ⁉︎ なんでそんな事知って───ッ!」

 

「………へぇ〜〜!」

 

 透子さんの暴露に恭介は慌てて否定をしたが、その返しだと肯定している様なモノで。それに気づいて直ぐに口を抑えるけど……もう遅いんだよねぇ〜フフっ。

 それにしても……そっかぁ。そっかぁ〜〜〜!最初は恭介にそこまで心配されてないっぽいから寂しいと思ってたけど、ちゃんと心配してくれてたんですなぁ〜お兄ちゃん嬉しいよ。

 もし普通の人だったらこんな時、此処で下手なこと口に出したら殴られるから云々〜って判断すると思うけど、僕は違う!(ギュッ)何故ならこの高まる溢れる湧き上がる想いを、抑えることなど出来ぬゥのだからァ!

 そんな事を考えながら恭介の肩に手を回し、そのまま自分でも鬱陶しいのが分かる程に良い笑顔を浮かべる。

 

「ねぇねぇ?どんな気持ち?無事を祈るくらいに大事なお兄ちゃんが帰ってきてどんな気持ち?どのくらい嬉しかったの?ねぇねぇ──」

 

「オラァ!!」

 

「ゔがァ⁉︎ 弁慶の泣き所ォ!」

 

「いつも思うけど、ホント何やってんのアンタ……」

 

 腕を払い除けると同時に回し蹴りを喰らわせて来た恭介。脛になかなか良い蹴りを喰らって蹲る僕。溜め息を出して呆れた様に零すみこちゃん。苦笑いしながら此方を見守るお父さんと透子さん……うん、今日も平和だ。

 

「……と、所で、お二人はお昼これからですか?」

 

「あ、いえ。先まで息子とハンバーガー食べようかって話はしてましたが」

 

「そうですか……折角ですし、ご一緒してもよろしいですか?」

 

「ぼ、僕は良いと思う……あ待って、もう少しで痛みひくから……」

 

「はいはい、分かったから。恭介は?」

 

「……まぁオレは別にどっちでも良いけど」

 

「よーし!じゃあ行こうか!!もちろんダブルチーズバーガーでね!」

 

「うわぁ急に立ち直るなよビックリすんだろ!」

 

 茶番も程々にしまして。お昼に何食べるかの話題へと移行しつつ、某ハンバーガーチェーン店へと足を運ぶのだった。

 

「それにしても、思ったより早く退院出来たね」

 

「まぁね。お医者さんからは、あと数日は家で安静にしとけって言われたけど」

 

 でも仕方ないよね。事故った時は頭や肋の骨にヒビが入ってたらしいし、人より怪我の治りが早いタイプの僕でも、今回ばかりは少し深めのダメージを負ったし。いつもは転んだりぶつけたりして怪我しても、一日もあればすぐに治るんだけどね?

 みこちゃんとそんな会話を繰り広げていると、ふと何か大切なことを忘れている気がして、思わずみこちゃんの方を見つめた。

 

「……どうしたの洋太、こっちジッと見て」

 

「うーん、何かみこちゃんに言う事があった気がしたんだけど……待ってて、今思い出すから……あ、そだそだ。夢の中で真守さんと会ったよ、事故って最初に起きた時」

 

 少し頭を捻らせて、ようやく思い出した事をそのまま口にする。

 それを聞いたみこちゃんはちょっと驚いた様な顔でこちらを向き、それに釣られてなのか透子さんと恭介の視線を僅かながらに感じる。

 

「……へぇ、どんな話したの」

 

「ん〜、確か『先いってごめん』って伝言を頼まれた気がする。正直うろ覚えだけど……ゴメンね?ホントはもっと早く言うべきだったんだケド」

 

「別にいいよ、どっちみち夢の話だし……(もしかして、お父さんが洋太を……)」

 

 何やらみこちゃんがボソッと呟いているが、周りの音にかき消されてあまり聞き取れなかった。何だろうか……なんとなくだけど、真守さん関係の独り言な気がするんだよな。

 それはさておき、今の事を話している間も気になっていたのは、一応言うべき事は言ったはずなのにまだ何か僕の中で心残り?洗い残し?みたいなのが残ってる気がした事だった。

 うむ、もう喉まで出かかってる気がするんだけど……といった感じで頭をウンウンと捻らせていると、ふと猫ちゃんの間が延びた欠伸の様な声が聞こえた。

 

「んえ?……あ、猫ちゃんだ」

 

「え? あ、ホントだ。しかも黒猫」

 

 声の聞こえた方向を見ると、そこにはあの時ずっと探していた黒猫が近くのベンチの上に乗っかって欠伸をしていた。それを見たみこちゃんも、少し驚いた様子で僕の方へ振り返る。

 すると黒猫は僕らの視線に気付いたが、特にリアクションする事なく黄色い瞳を一文字に閉じ、また欠伸をしてぐだっと寝転がった。

 その様子に「この間の苦労はなんだったのかしら……」という徒労感が滲み出て、同時にラッキーと思いながらお眠な猫ちゃんを優しく抱きかかえて、その子の湯たんぽみたいな温もりを腕の中に感じながらみこちゃんへ向き直す。

 

「見て見てみこちゃん!この子がこの間言ってたみこちゃん似の猫ちゃん! 是非撫でてみてくださいな!!」

 

「……洋太、そんな大声出したら起きるでしょ?」

 

 みこちゃんから注意されたので、慌てて口を塞ぐ。でも黒猫は起きる様子はなく、むしろさっきより心地良さそうに眠りについている。

 その様子に思わず笑みがこぼれてしまい。みこちゃんもそんな僕の様子を見て「もう……」とまた呆れた様に溜め息を漏らしながら、何処か嬉しそうな顔で肩を軽く竦めていた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 ──念々頃理世 御孤露理世

 

 とある薄暗い空間の中。その中央に置かれた石台の上には、円型の罅割れたガラスが宙に浮かんでおり。猫を抱える少年と猫を撫でる少女が、仲睦まじく微笑み合っている姿が映っていた。

 

 ──子供も女も 男も老人も ねんねしな

 

『……あの小童を葬るには、先ず全ての力を地に堕とす必要がありますね』

 

 傍には狩衣装束を纏い、『夢』の一文字が書かれた面紗で顔面が覆われた、二つの馬頭蓋骨が合わさった頭部を持つ異形の影が佇んでいる。

 

 ──起きて泣く子は とって喰おうか

 

『彼奴さえ始末できれば、私がこの国を統合するのも、遠くない未来と成る……ククク、楽しみだ。紅乃一族よ、楽しみにしてなさい……ククク、ハハハハ……!』

 

 ──過去の思い出も いつかは忘却の彼方




●見円洋太
知らないうちに周りの問題解決の一端を担っていた馬鹿猿。お返し申す。
あの後、バナナプリンとドライバナナ、善が持って来たバナナと透子達が持ってきた追いバナナを食べた結果、当初予定していた退院期間が短縮。医者をドン引きさせた。
あとなんかヤバい奴に目をつけられるが、そんな事もつゆ知らずダブルチーズバーガーを頬張っている模様。

●四谷みこ
つい最近、実写でも霊に怯える事が決定した可哀想な子。お返しします。
実は、最初の時点では彼女の腕につけた紅い数珠にいる筈の白い狼は、馬鹿猿の体力回復をするべく元の所へ戻ってた為。あのまま善ママに話しかけていたら、あそこで最初の『いっかい』を消費する事になってた。でも「元気を分けて」と再契約した事で、再度白い狼が戻ってきた。
では改めまして、実写化おめでットォォォォォォ!!

●四谷真守
真守です……娘と息子にお願いされたので気合い入れて迎えに行ったら、彼を抱えた包帯まみれの車掌さんがやって来て「マジで切符持ってなかったので、あとはよろしくお願いします」と押し付けもとい引き渡されました……
真守です……彼に家族への謝罪の言葉を伝言する様に言ったは良いものの、娘のプリンを食べたことに関する謝罪の伝言をうっかり伝え忘れてしまいました……いや、コレは自分の口で言ったほうがいいのか……?いやしかし……
真守です……みこ達と洋太くん達が仲良くハンバーガー食べてるのを微笑ましく見てたのですが、羨ましさにあまりに「太郎さんそこ代わってください」と思ってしまいました……
真守です……真守です……真守です…………

●遠野善
長年縛っていた呪いから解放されたお兄さん。
馬鹿猿入院零日目、自分のせいで車に轢かれた少年の親を待っていた(途中で巫女服の女性が横切ったが、会釈だけされてスルーされた)所に父親がやって来たのでその人へ謝罪をしたが、「貴方が無事でよかった(意訳)」と言われて戸惑ったりした……らしい。
その後無事にサトルくんから猫を引き取って、ペット可のマンションに引っ越す準備を始めた模様。ついでに肉じゃがおばさんのお裾分けにも物申す事も出来た。動物虐待犯?奴なら荼毘に付したよ。

●過呪怨霊『絡新婦』
どうして、こうなってしまったの。
なんであの人は、わたしを裏切っていなくなってしまったの。
なんであの子は、わたしを見てくれないの。
なんでだれも、わたしのおもいどおりに、なってくれないの。
わたしはただ、しあわせになりたかった、だけなのに……
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