見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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お気に入り数や評価数が中々増えなくてモチベーションとかなんとか落ち込んでいる時、自身よりも評価の低い二次創作を眺めるというドブカスな方法でメンタル回復を謀っているが、最終的に自身よりも高い評価値や1000人越えのお気に入り登録を見て精神的返り討ちにあうのがテンプレとなっている。それが私です。

あと今回の話は、前回の後日談的な奴です。


もしかしたら、私達の日常は少しずつ変わっているのかもしれない

「ただいまー」

 

「お帰りみこ。ちょうど良かった、あとで洋太くん家に行って梨届けてくれる?」

 

「わかったー」

 

 いつもより日が高いうちに帰宅した私はお母さんに頼まれて、親戚から貰ったという梨のお裾分けを持って洋太の家へ行くことになった。

 

(そういえば、洋太の家に行くの久しぶりだな……)

 

 洋太とは小学校に入る前からの付き合いだ。基本的には私の家にアイツがお邪魔する事の方が多いけど、私の方から洋太の家にお邪魔することも少なくはなかった。

 だけど、それも小学校を卒業する頃までの話。ここ最近はまた洋太がウチにお邪魔する頻度は増えたとはいえ、中学生になってから久しぶりに会うまではアイツが来ることは勿論、私が遊びに行くこともめっきり無くなっていた。(用事がある時は大体あっちから来てくれるから、わざわざ洋太の家に行く理由もなかった、というのが正しいのかもしれないけど。)

 というわけで、洋太の家に行くのは本当に久しぶりだった私は、少し緊張しながらインターホンを押そうとして……

 

『あらあら〜久しぶりねみこちゃん!いま洋ちゃん居るから入って頂戴!』

 

「……………」

 

 白髪混じりでありながらも活気の強そうなお婆ちゃんが、華やかな声と共に出迎えながら扉から()()()()()。それもにゅっと。

 このお婆ちゃんが何なのかすぐに察した私は、一瞬硬直しながらも何時もの様にシカトし、改めてインターホンを押した。

 

『あれま、やっぱダメだったわね。今回はなんかいける気がしたのだけど、残念』

 

「……アイツ出て来ないな。入るか」

 

 “今回は”って事は、何度か試した事があるの? 腕を組んでボヤくお婆ちゃんの霊にそんな疑問を抱きつつ、洋太の家にお邪魔した。

 久々に来た洋太の家だけど、あまり雰囲気が変わっていないように見えた。あえて昔と変わっている所を挙げるとすれば、靴置き場の上にこの間あげたマリーゴールドが花瓶に活けられていたのが目立っていたくらい。

 

『それにしてもみこちゃん、ホントに大っきくなったわねぇ〜!昔のあたしと同じくらいべっぴんさんになったコトさね!まぁ実はコッソリ窓から見てたんだけれどねぇ、だっはっはっはっは!!』

 

 あと隣ですごい喋りまくるお婆ちゃんが、なんかもうすごい笑いながら語り掛けてくるコト。洋太も昔からよく喋る奴だったけど、恐らく此処にいるお婆ちゃんはそれ以上だ。

 とりあえずお婆ちゃんのマシンガントークをスルーしながら洋太を探そうとすると、「フッ、フッ!」と踏ん張った息遣いが右手側にあるリビングの方から聞こえて来た。声の感じから洋太の居場所を察知した私は、リビングに繋がるドアを開けて中に入ろうとする。

 

「87…!88…!8……あ、みこちゃんヤッホー。久しいねウチに来るの」

 

「うん、お母さんから梨持っていって言われたから」

 

「あんがとね〜とりまそこに置いといて〜……えーっと、あー…………1!2!3!」

 

「……洋太。多分、今ので91回目」

 

『正確には852回目だけどね?この子、途中で数え間違えたりどこまで数えたか忘れたりしてるから。その前も指立て伏せ右1026左1019、アームカール2037、その他にも色々やってたわさ』

 

 キッチンの方に梨が入った袋を置きながらツイストクランチを行う洋太にツッコむと、何故か横から霊のお婆ちゃんがそんな補足をして来た。

 ……通りで汗臭いと思った。といつものバカっぷりに呆れながら、ダイニングテーブルの席で一息つき、筋トレに勤しんでいる洋太を眺める。

 

「99……100……っと! ハァ、ふぅ……とりあえずこれくらいにしとくか……そんにしても、みこちゃんがウチに来るのっていつぶりだっけ」

 

 筋トレを終えて、横のテーブルに置いてあったシェーカーボトルを手にとって水分補給する洋太の問い掛けに「小6の2月あたりが最後だったと思う」と答えた。

 ちなみに待っている間ずっとお婆ちゃんが話し掛け続けてたけど、洋太がテレビのリモコン操作したらソファに座りながらテレビを見始めていた。光に向かって飛ぶ夏の虫を思い浮かべたのは秘密だ。

 

「てか洋太、家で安静にしてろって言われてたのに、筋トレしてて大丈夫なの?あといつからやってた?」

 

「ゆうてもね?病院にいた時はずっとベッドで寝てたから体が訛ってんのよ。だから今朝からサボってた分、遅れを取り戻すために今ちょっとハードに筋トレしてたとこ……あ、お昼はちゃんと食べてたよ?バナナ5本くらい」

 

「そっか、早くシャワー浴びておいで。汗臭いから」

 

「りょ」

 

 なんでコイツはこう、もう少しジッとしてる事は出来ないのだろうか。

 着ていたアンダーシャツの臭いを嗅ぎながらお風呂場の方へと向かった洋太の姿を見送った私は、溜息を吐かざるを得なかった。ついでに床に滴る汗に顔をしかめ、キッチン方面にあったフローリングワイパーで床を拭き始める。

 

『あら〜この子ったらスゴいハンサム。若い頃のキムタク思い出すさね』

 

 ふと、ソファでテレビを見ていたお婆ちゃんに視線を向ける。

 その人とは初対面であるはずなのに、何処かで見覚えのある顔だなと思った。何処で見たのかと記憶を辿っていると、和室へ繋がる開いた襖から仏壇が視界に入り。其処に飾られた1枚の写真に写るお婆ちゃんと目が合い、やっとその正体を思い出す。

 

(……あ、そうだ。やっぱりこの人、洋太のお婆ちゃんだ)

 

 かつて洋太の家にお邪魔した時、仏壇で笑う洋太のお婆ちゃんだという人の写真を見て悲しそうな顔をしていたのが、アイツが楽しそうにお婆ちゃんの事を語っていたのが深く印象に残る、そんな幼い頃の記憶。

 その中で見た写真のお婆ちゃんと、ソファに座るお婆ちゃんの霊が重なる。

 

(この人も、私のお父さんみたいな存在なのかな……)

 

 洋太の話だと、お婆ちゃんが亡くなったのを切っ掛けに此処へ引っ越して来たらしい。そうだとしたら、この人は家族を見守る為に霊となってワザワザ付いて来た……のかもしれない。実際の所はどうかは知る由もないが。

 そんな風に思いながら仏壇の方に視線を向けている内に、シャワーを浴びて着替えた洋太が戻ってきたのか、下手くそな鼻歌と足音が聞こえて来た。

 

「はぁーーっ、サッパリした〜!みこちゃん喉かわいて──い゛った!?」

 

「洋太ッ!?」

 

 緩めのシャツに着替えてご機嫌な声でリビングに入ってきた洋太に話し掛けられた直後、鈍い音とそれを搔き消す程の呻き声を放って、倒れる様に蹲った洋太の姿が目に映った。

 あまりに急な出来事に『あの時の事』が脳裏に浮かんで、慌てて洋太の元に駆け寄る。

 

「大丈夫洋太! 何処が痛むの!?もしかして、傷が開いて……っ⁉︎」

 

「……あ、いや。小指をぶつけただけだから、そこまで慌てなくても……」

 

「………あっ。そっか……良かった……」

 

 彼の手を掴んで怪我の有無や状態を確認しようとした私は、既にケロっとしながら呆気にとられる洋太の返事を受けて、肩に溜まっていた力が抜けていくのを感じた。

 ……おかしいなぁ。前まではこの程度いつもの事だから、なんとも思わなかったのに。

 気付いたらコイツの体温を確かめずにはいられなくなって、心配と不安でただ握り締めるしか出来ず、なんとも無いことが分かるまで心臓が締め付けられる感覚に陥っていた。

 どうしてそうなったのか。その原因がわからず困惑していた私の顔に、何やら優しい温もりを感じた。一瞬それがなんなのか分からなかったが、さっきまで握っていた幼馴染の手が片っぽのみになっていたのを見て、すぐに彼の手が頬に触れている事を知った。

 

「えっと、その………お茶とココアとバナナジュース、どれ飲む?」

 

「……ココアで、お願い」

 

「うん、了解。先にソファ座ってて」

 

 突然の行為にキョトンとしていると、洋太は熱い目頭を親指で撫でながら、気まずそうに笑みを浮かべて飲み物をリクエストしてきた。

 先程のを誤魔化す様に返事すると、キッチンへ向かった洋太は棚から取り出したココアの素を小鍋に入れて火にかけ始めた。

 対する私は、彼に言われるがままソファに座ろうとそちらへ眼を向ける。洋太のお婆ちゃんも此方へ視線を向け、ニコニコしながら席を立っているのが見えた。

 ……もしかして、今の一連の流れ全部見られてた?いや、絶対に見られてた。そう思うと途端に、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じ始めた。

 目線を逸らして茶色いレザーのソファに座り、とりあえず気持ちを落ち着かせる為に深呼吸して……うん、少しは落ち着いてきたかも。

 

「ハイおまたー。ココア一丁上がり~」

 

「……ありがとう洋太」

 

 テレビで何らかのコーナーを承っている男性タレントをぼーっと見ていると、ココアを入れ終えた洋太が二つ分のマグカップを持って隣に座る。

 私はお礼を言いながら苺の絵柄が描かれたマグカップを受け取り、手からじんわりと伝わる熱を感じ取る。そして中から漂う湯気と一緒に漂う甘い香りを嗜み、少し啜る。率直な感想としては、不味いといった味では全然無いが、特別美味い味でもない。可もなく不可もなくな風味が、口の中で広がった。要するに、ごく普通のココアの味がした。でも不思議と、心が安らいだ。

 チラリと幼馴染を見てみると、バナナの絵柄がプリントされたマグカップを傾け、(恐らくアホな事を考えているんだろうけど)不思議とアンニュイな雰囲気を感じられる顔で、ゆっくりとココアを啜っていた。先程ぶつけた小指を見てみると、若干赤くなってはいたがそれだけで、特に問題無い事が確認出来たので内心胸を撫で下ろした。

 

(──なんで私は。どうして、こんな気持ちになっているの……?)

 

 どうしてこんなに不安になって、彼の無事を確かめようとしたのだろう。

 どうして、怪我をしていないと分かったのに、こんなにも心が締め付けられたのだろう。

 どうして幼馴染が側にいるだけで、安心してしまえるのだろう。

 理由を考えるが一向にその答えが出ずにいた、そんな最中、ふとマグカップを机に置いた洋太が口を開いた。

 

「あ〜…………………その、さっき〜……気付いたん、だけど」

 

 気付いたって、何を?もしかして、さっきのコトを言っているのだろうか。

 そんな疑問が浮かんだが、なんか凄く言いずらそうな事を言おうとしている雰囲気を出しているので、大人しく聞き手に徹する事にした。

 ……暫くの間、洋太は視線をこっちから違うところへ向けたり、何回も開いた口をその度に結び直したり、落ち着きのない様子で百面相を見せていたが、やがて意を決したのか私の瞳を真っ直ぐに見つめてこう言ってきた。

 

「もしかしてみこちゃん……ちょっとお腹出てる?」

 

 お腹を指で突きながら放たれた言葉を聞いた瞬間、私もマグカップを置いて目の前にいる馬鹿にアームロックを仕掛ける。

 関節技を食らったこの馬鹿は、ギリギリ捻り上げられた腕と一緒に悲鳴を上げているが、構わずに技を強める。

 

「がああッ! 凄まじい努っ気……!ちゃんと牛乳飲んで……あっ、ゴッメーン☆飲んでたらもっと()()()大きくなってたヨネ?」

 

 四谷みこは激怒した。必ず、この無礼千万な馬鹿を〆ねばならぬと決意した。

 私には政治がわからぬ。四谷みこは、花の女子高生である。学校に通い、友達と遊んで暮して来た。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 それ故にアームロックから移行し、前に借りた漫画を参考に『キャメルクラッチ』という技をコイツに掛ける。

 

「ん゛な゛あ゛あ゛あ゛ッ!ギブギブギブギブギブ!!ごめんなさい嘘ですホントはそんな事思ってません!!だからキャメルクラッチやめてェ!!」

 

 何が言いながら腕をペチペチと叩いているが、そんなんで許す譽れはない。

 さっきみたいに真剣な顔をする時、コイツは大抵何かしらの考えを持ってる事は、それなりに長い付き合いで知っている。だからといって、このデリカシー皆無な大阿保男に対して許す気は微塵もない。先程まで感じていた『洋太を傷付けたくない』という想いも不安も何処かに吹き飛び、今はただこの馬鹿をどうシバこうか考えていた。

 ……まぁ、流石にコレは流石にやり過ぎかなと反省して、技を解いてあげようかと考えていると、リビングのドアが開く音が背後から聞こえた。

 

「よう洋太、お邪魔すー……オイ、何があった」

 

「やっほー洋太くん!お邪魔しまー……もしかして、そういうプレイ中だった?」

 

「イヤ、多分違うと思う……あ、お邪魔します」

 

『ビギィ』

 

 フライドチキンが入ったバーレル容器とたこ焼き入り容器を3つ程入れた袋をそれぞれ持った徹君、『パティスリーグリズリー』のケーキ箱を片手に手を振っていたハナ、そしてブドウ味のファンタを所持しながら頭を下げるユリアちゃん。

 その三人(+1匹)がリビングに入って来たの目にし、洋太の顎から手を離して「え?なんでハナ達が来てるの?」と疑問をぶつけた。

 

「イヤさ。実はそこで寝転がってるコイツと『退院祝いしよーぜ?』『じゃあウチ集合でどう〜?』っていう連絡したから。突撃!早めの晩御飯〜って事で、ハナさん達と食いもん買って、ここさ来たんだけど……」

 

「ごめん。初耳なんだけど」

 

「えっ? そうなの?? あたし達てっきり、洋太くんがもうみこに伝えるって思っていたから……」

 

「……ちなみにその話、いつしたの?」

 

「退院した日の夜、みたいだけど……」

 

「…………って言ってるけど、どう思う洋太?」

 

「……あ〜……ゴメンみこちゃん、普通に忘れていみゃした。でゃきゃらひゃっぱらにゃいで」

 

 この報連相をすっぽかした阿保の背中に乗ったまま、今度は両頬をぐにゅっと引っ張り始める。さっきの少し強めな抵抗とは打って変わって、無抵抗でされるがままである。

 その情けない姿を見ていると、なんだかどうでも良くなってきたので、これ以上は後回しにしてあげようかなと溜息を溢し。再び手を離して退けながら、私達のやり取りを見て含み笑いを溢すハナ達の方へ視線を戻した。

 

「取り敢えずお皿とコップ用意するけど、他にいるものある?」

 

「特にはねぇけど、あともう少しプラスしておきたいトコだな。今日は一応晩飯も兼ねてるし」

 

「うんっ!だから気合い入れてデザートのケーキも買ってきたよ!」

 

「これ以上何食べるのって気もするけど……ねぇ洋太、なんかある?」

 

「あー、一応朝作ったコンソメスープがたくさん残ってるから、それ温め直して食べる?ついでにシャケの子醤油味のポテチがあったから、それも食べる?」

 

「コンソメスープはいいけど、シャケの子醤油って何?普通にいくら醤油で良くない?」

 

 徹君の最もなツッコミをバッグに、立ち上がった洋太とキッチンの冷蔵庫へ足を運ぶ。

 そして中から作り置きのコンソメスープが入った鍋を取り出し、五人分のコップとケーキのお皿を用意しながら、温め直す為にIHのスイッチを押し入れた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

【突然ながら、此処からはダイジェストでお送りします。ご了承下さい】

 

 

「ほんでさ、折角だし映画見ながら食べない?」

 

「お〜!いいねっ、何見る?」

 

「実はこの間の金ローでやってた『木魚マックス』録画してたから、是非みんなで……どう?」

 

「木魚……?え、なんだっけソレ」

 

「えーっ!みこ知らないの⁉︎ 木魚マックス、興行収入……が凄いアニメ映画で、日本でも大ヒットしてたんだよ!面白いから絶対見た方が良いよ!」

 

「そ、そうなんだ……」

 

「これがシャケの子醤油……おい、コレおかしくなっちゃう位うめーな」ボリボリボリ

 

「でしょ!」

 

(みんなと、映画……!)ワクワクソワソワ

 

 

 

『──我こそ、世界最強かつ最凶の美魔女にして、天下の大妖怪がひとり“タマモノマエ”である。それで汝が、我を眠りを覚ました者であっておるか?』

 

『あー……それはそうなんですけど、その前にお風呂入ってくれます?何というか、埃臭いです』

 

『……に、にゃんじゃとぉ〜〜!?貴様ァ!妾に向かって、臭いと申すかァー!』

 

『スキャン開始……完了しました。現在の彼女は、推定300年分の──』

 

『ウシャァーーーッ!!おなごのでりけーとな部分に触れるのはやめるのじゃあァァァ!!』

 

「……やっぱすげーなオイ、大物っぽい登場してたった数秒で威厳ブレイクだぞ」

 

「予告で見た時はカッコいい場面が多かったけど、アレって厳選していたからなのかな?」

 

「まぁ予告の最後あたりにこの人?が『よさぬか木魚マックス♡』って言っている時点で、ある程度は想定出来てたけどねー」

 

「えっと、そのシーンって確か……木魚マックスがお風呂に入れてあげようとしたのを、あの狐の人がそういう事だと思った……って奴だっけ?」

 

「アッチは良くOKしたよね……今だったらパリコレに目つけられるトコじゃんね?」

 

「洋太、それを言うならポリコレね?パリコレだとファッションショーの奴になるから」

 

 

 

「ふと思ったんだけどさ。フライドチキンって、美味しいのに何でこんなに手がベタベタするのかな?ちゃんとナプキンで掴んでいるにも関わらず」

 

「そりゃあ『フライドチキン』って名の通り、油で揚げて作ってるからな。多少は付くさ」

 

「そこでIQ53万の洋太くんは思い付いた!もし手で持って食べても手が汚れない方法を発見したら、きっと世紀の大発見となるのではないでしょうか⁉︎」

 

「ほーう。では?てんしゃい洋太きゅんは一体どんな方法で?手に油が付くのを防ぐというのかな?」

 

「僕の考えとしては、まずはナプキンをあぶらとり紙にして──!」

 

「洋太、ちょっと静かにして。映画の声、聞こえなくなる」

 

「はい」

 

「んん〜っ!流石『金たこ』のたこ焼き!何個でも食べれちゃう!」

 

(このコンソメスープ……何というか、可もなく不可もなく、って感じの味ね……)

 

 

 

『ビギィ、ビギビギィ』

 

『えぇ、そうよね〜。あたしも洋太にはどーしても甘くなりがちなのよ〜』

 

『ビギィビギィ。ビギ、ビギギビギッビギィ!』

 

『分かる、スッゴく分かる!ウチの孫も気付いたらバナナばっかり食べてるから、栄養が偏らないか心配なのよね〜』

 

『ビギィ?ビギビギビギィ、ビギギーギビギービギィ。ビギッビギ!』

 

『……あら、そうなの?ちなみにあたしは、ワサビ醤油と鰹節をふりかけて食べる派さね』

 

『ビギィ⁉︎ ビギビギビギィッ』

 

『ホントよホント。コレが意外と美味しくて、貧乏だった芸人時代もよく食べてたわ〜』

 

(……なに?さっきから何の話してるの?? 別の意味で怖いんだけど!)

 

 

 

『何をする気じゃ……おい、何をしておる!?よさぬか木魚マックス!』

 

『……木魚マックス、もう大丈夫だよ。と言うまで離れられません』

 

『っ……!木魚、マックス……もう、大丈夫、だよ……!』

 

『よせ!やめるのじゃヒロシ⁉︎ 』

 

『……タマ。貴女はどうですか?』

 

『………イヤじゃ。いやじゃいやじゃいやじゃ!お主まで妾を置いてゆくつもりか!!そんな事、ぜったいに許さぬぞッ!』

 

「そうだよ木魚マックスぅ〜っ!いなくなっちゃうイヤぁ!」

 

「ぬぅおおおおお!!やめるのじゃ木魚マックスゥゥゥゥゥゥッッッ!!!!」

 

(((洋太がうるさい……)))

 

 

 

『──私は木魚マックス。あなたの健康を守ります。こんにちは、ヒロシ、タマ』

 

「ゔぅぅぅぅ……えがったねェヒロシぃ、タマァ……!」

 

「うん……っ!わかるよ洋太くん……凄く良かった!やっぱり名作は、何度見ても名作だよ〜っ!」

 

「木魚、マックス……ッ!」グスッ

 

「まぁ、それは同感だな……お、もうこんな時間か。ほんじゃあ飯も食ったし、俺らそろそろ帰るわ」

 

「えぇ〜⁉︎ もう帰っちゃうの〜〜?もう少し居なよぉ〜〜!」

 

「そうは言っても、明日も学校もあるし、泊まるつもりもないし……」

 

「せやで洋太。だからそんな不満そうな顔すんなよ。明日には学校に行けるようになるんだから、今日ぐらい我慢してろ」

 

(ていうか、製作陣はどう思って『木魚マックス』って名前にしたんだろう……)

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「……ねぇ洋太」

 

「ん?なにみこちゃん」

 

 アレから退院祝いとして、ハナ達が持って来たご飯を食べながら映画を見たり雑談をしたりと、楽しい時間を過ごした。

 そして日が沈み暗くなった頃に解散となり、ハナ達を見送った私は洋太と食器の片付けをしていたが、ふとあの事を聞いておきたいと口を開いた。

 

「ハナ達が来たから一回有耶無耶にしてたけど、なんであんなこと言ったの?」

 

「……あー、うん。ごめんなさい」

 

「別に謝ってとは言ってない。『なんであんな事を言ったのか』、それが知りたいの。わかる?」

 

 お皿を拭きながら腕を組んでその場に拘束し、洗い物をしていた洋太へジト目で問い詰める。

 だが彼はバツが悪そうに視線を逸らしながら謝るだけで、その理由を中々語ろうとしない。痺れを切らした私は隣に居る馬鹿の耳を引っ張り、早く答えるよう催促をする。

 すると観念したのか、それとも私の圧に根負けしただけか、洋太は溜息を吐いてから口を開いた。その口から出てきたのは──

 

「だ、だってみこちゃん……退院した日からヤケによそよそしいっていうか、なんか遠慮してる感があったし。もし事故った時の事を気にしてるなら、なんかちょっとアレだなーって……」

 

 ──そんな、想像の斜め上な答えが返ってきて。その回答に思わず、引っ張っていた手を止めて洋太を凝視した。

 確かにあの日から数日間、洋太に対して罪悪感やら不甲斐なさやらを感じて、少し会いづらくなっていたのは自覚がある。

 それでも退院した洋太へ会いに行った時や、ウチにやって来た時は普通の態度で接していた……つもりであったが、まさかそんなに分かりやすかったとは思わなかった。

 何時もは勘が鈍いどころか、変な解釈を混じえて頓珍漢な勘違いを起こすクセに、なんでこういう時に限ってヤケに鋭いところを突いてくるのだろうかと、複雑な感情を胸に抱いた。

 

「だから、その……僕への印象が少し悪くなれば、またいつものように接してくれると思って……ほ、本当にごみゅあ゛だっ⁉︎」

 

 凄く申し訳無さそうにしながらまた謝ろうとする洋太の頰っぺたを掴み、鼻先を指先で弾いて黙らせる。

 正直、自分でも分かってはいた……洋太が事故に遭ってしまった事に対してかなりショックを受けていて、多分そんな感情を抱えながら接していたから余所余所しいように感じられたのだろうと。悟られぬようそれなりに明るく振る舞っていたつもりだったのにバレていたのかと思い知り、悔しさやら申し訳ないやらで思わず溜息を溢しながら。

 

「はい、コレとさっきのプロレス技の分を足して、全部チャラ。次は頭ひっぱたくからね?じゃあホラ、早く片付けよ?」

 

「っ……うん」

 

 再び食器拭きを始め、洋太にそう促して早く片付けるよう急かし。そんな私の行動に、洋太は目をパチクリさせながら呆然と立ち尽くし……それから少し間が空いてから、何かに気付いたようにハッとし、慌てて食器洗いに取り掛かるのを見届けた私は内心安堵すると共に、全ての食器を片付け終えた。

 

「じゃあ私は帰るけど、あとは大丈夫?」

 

「うん大丈夫。ありがとねみこちゃん」

 

 食器拭きを仕舞ってからそう言うと、洋太は頷いて見送りをしてくれる。

 いつもと変わらぬ笑顔を見て安心しつつ手を振り、玄関で靴を履き、ドアノブに手を掛けたところで……ふと視線を感じて後ろを振り返ると、洋太のお婆ちゃんが微笑み顔のまま立っていたのが見えた。

 

「………気のせいか。早く帰ろーっと」

 

『みこちゃん』

 

 いつもみたいに誤魔化しの言葉を呟き、ドアノブを捻って外の空気を浴びた直後、背後からお婆ちゃんの言霊が聞こえ──

 

『コレからも、洋太をよろしくね』

 

 何処か真剣味を帯びた優しい声で放たれたお願いが、ドアを閉めようとした私の手を止めた。

 ……そんなの、言われるまでもないのにね。

 

「……洋太ー?」

 

「なーに、みこちゃん?」

 

 お婆ちゃんに対して気付かれないよう頷きながら応え、もう一度振り返って洋太の名前を呼びかける。

 少し遅れてリビングのドアが開き、廊下へ出している洋太の無邪気な顔を見て、思わず微笑みながらたわいも無い贈り物を捧げた。

 

「また、明日ね」

 

「うんっ!また明日ね!」

 

 きっとこれが、今まで通りの私達らしいやりとりなんだろう。

 彼のにぱっとした笑顔に、胸の奥でずっと残っていた罪悪感が和らいだのを感じた私は満足気に笑い、鼻歌を奏でながら暗くなった短い夜道を歩いた。




●見円桃子
見円洋太のお婆ちゃん。50代前半という若さで癌を患い御釈迦となった故人。
若い頃はお笑い芸人をやっていたらしく、そこで出会った後の夫と『桃太郎斬』という芸名でコンビを組み。しばらくしたうちに夫婦お笑いコンビとして、地方のローカル番組ではそこそこ名を馳せていたらしい。
現在は可愛い孫とその幼馴染との仲慎ましい関係を気ぶりながら見守っている。

●オカイコ様
今日も元気に徹へ憑いている、ほぼ空気のマスコットキャラ。
洋太のお婆ちゃんと見えざる者同士でトークを始め、最終的に卵かけご飯の話で盛り上がったらしい。

●見円家
二階建ての一軒家。四谷家のお隣さん。
間取りは大体こんな感じ↓。

【挿絵表示】

……階段の幅と二階の物置、デカくねぇか?

●木魚マックス
某米国の撮影スタジオが製作したアニメーション映画。
ケアロボットの木魚マックスとその創造主であるヒロシが、実家の蔵に眠っていた鈴から飛び出て現れた色ボケのじゃロリババア狐娘『タマモノマエ』と共に、強大な力を持つ妖と戦うハートフル超大作。
ロリババア狐「これ♡やめるのじゃ♡よさぬか木魚マックス♡」
ヒロシ「タマ、馬鹿なこと言ってないで早くお風呂入りなよ」
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