見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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もうさァッ、(定期更新)無理だよ!仕事普通に忙しくて書く暇ないし、暇が有っても良いネタと納得出来る文章出て来ないんだからさァッ!


もしかしたら、ソコはすごく変な家なのかもしれない

 ──プロフェッショナル。それは、飽くなき探求者たちの物語。

 今回の話は、とある民家へ向かう所から始まる。

 時刻は昼ちょっと過ぎ。一台の赤いワゴン車にて、車窓から街並みを眺めていた一人の女性が、タバコを蒸す様に棒付きの飴を舐めて居た。

 

 霊能力者界における、現最強の女。

 

 彼女の名は──紅乃茜(36)。本名、見円茜。異名は──“紅蓮の鬼神”。

 裏界隈ではそこそこ名を馳せる退魔の一族である『紅乃一族』の 次期当主。

 

 今回は、彼女の仕事に密着して行く……

 

 

プロフェッショナル

仕事のry
「あの梨子さん、ボイスレコーダーに向かって何話してるでありますか?」

 

 

 ……私は片手でボイスレコーダーの停止ボタンを押し、茜さんの隣に座る巫女服を身に纏ったローツインテールの女性へ視線を移す。

 彼女は根本鈴華(ねもと すずか)、26歳。現役の女性霊能力者で、私の先輩である。

 

「……先輩。収録中に此方へ話しかけて来るなんて、一体どういう了見ですか?」

 

 私は軽く溜め息を吐くと、静かに先輩を嗜める。

 

「ど、どういう了見と申しましても……ワタクシの口からは、何故に堂々とボイスレコーダーを回し続けてるのか?とお聞きしたのでありますが……」

 

 少し困惑した様子でそう告げる先輩の視線の先には、私が握っているボイスレコーダーがある。しかし、何故ボイスレコーダーを回しているのか、と来ましたか……

 

「良いですか先輩。今我々の目の前に居るのは、一体誰だとお思いですか?」

 

「梨子さん」

「梨子ちゃん」

 

「私じゃありません。隣の席にいる茜さんの方です。あと茜さんも急に話に入って来ないでください、ややこしくなりますので」

 

 キッと表情を引き締め、茜さんへ手の平を見せ付けてそう告げる私。それはそうと、何故私が茜さんへボイスレコーダーを向けていたのか?についての質問の答えですが、これについては少々詳しく話をする必要がありますね。

 

「良いですか?私の仕事は茜さんを指定された目的地へと送り届ける一運転手。つまり専属ドライバーです。しかし茜さんの活動やそれによって得られた結果を纏め、それを報告書として作成し、常に記録しておくのも私の仕事です。その報告書作成にあたり、ボイスレコーダーはかかせぬアイテム。それ故に、私は常にボイスレコーダーを回し続けて居た訳です」

 

「では、仕事とは関係ない音声を録音していたのは?」

 

「私の趣味ですが?」

 

「趣味……と来たでありますか……」

 

「あはは、スゴい堂々と応えるね梨子ちゃん……」

 

 趣味と言う単語を耳にした瞬間、先輩と茜さんは苦笑を浮かべた。

 しかし、これは重要な事なのですよ。今の世の中、些細な仕草やちょっとした違和感が何かしらの大きな影響を与える事がある以上、あらゆるものを記録しておく必要があるのです。

 特にこういった物騒な仕事をしているならば、尚更事細かに記録として残しておくべきだと考えられます。えぇ、ですので完全に趣味として扱うだけでなく、本家の方々に送る報告書作成にも大いに役立てている……という訳なので、私は趣味と仕事の両立をしているだけなのです。

 

「それはそうとお二人共、もうじき目的地に着きます。御準備を」

 

「なんか話逸らされた気がするけど、まぁいいわ。鈴華ちゃん、目的地に着くわよ」

 

「了解であります」

 

 茜さんと先輩にそう告げた5分後、私の運転する車は目的地である一軒家の前に停車した。

 

「ではいってらっしゃいませ」

 

「そっちも、報告書の作成お願いね」

 

 車を降りたお二人の内、茜さんは身体を伸ばして関節からポキポキッと音を鳴らし、先輩はバッグを持って彼女の後ろに立ってついて行く。

 かくいう私は、早速報告書作成の為に鞄から取り出したノートパソコンを回し……

 

『は、初めまして……蔵元不動産の加藤です』

 

『初めまして。この度ご依頼承りました、紅乃茜です』

 

『根本鈴華であります!それで此方が、例の物件でありますか?』

 

『え、えぇ……』

 

 民家の玄関前に立っていた痩せ型の幸薄そうな男性……今回の依頼元である蔵元不動産屋の職員、加藤氏である。彼と挨拶を交わす二人の姿を『観ながら』、会話の『聴き取り』を行い。一度停止したボイスレコーダーの再生ボタンを押して、今の状況を実況者の様に事細かく呟くのと同時進行でキーボードを打ちつつ、車の中から民家の全体図を見渡す。

 かつては立派な一軒家だったであろうその民家は、まるでホラー映画にでも出てきそうな感じに荒れ果て、外壁にはそこかしこに枯れた蔦がびっしりと引っ付いており、庭の雑草も生え放題になっている。

 元はごく普通の一軒家がこうも荒れ果てた姿となるには、それ相応の理由というものが存在する。その理由が何かと聞かれれば──

 

『この家は、前に住んでいた一家が首を吊って無理心中した事故物件として取り扱っていたのですが……案の定、入居したお客様から怪奇現象が起きると苦情があり……取り壊そうにも、その度に業者の方々が体調不良を訴えた事で先延ばしになっている状態で……』

 

 ──といった具合に、死んだ一家の怨念が地縛霊と成って一件の民家に宿った『“呪怨”タイプ』の案件が起こっていたからであり。話によれば、安さにつられてこの事故物件を購入した入居者数名に加え、解体業者からも被害を訴えられた模様。

 ()()()()体調不良に陥る程度で済んでいるらしいが、不動産屋の話と実際に現場を見た調査部隊によって『放っておけばかなりヤバイ事になりそうだ』と判断された模様。そこから茜さんが派遣される事となって、今に至るわけです。

 

『さーってと、じゃあサクッと終わらせますか。鈴華ちゃん、準備はいい?』

 

『ハイっ!準備万端であります!』

 

 加藤氏から家の鍵を受け取った茜さんの号令が聞こえ、車の外で先輩が敬礼しながら共に家の中へと入って行く姿が見えた。

 私も車内で報告書を作成しながら、先輩の肩に乗った“私の式神”と一緒に彼女達と入って行くと……

 

『……ふむ、結構()()が溜まってきているわね』

 

『ですね。では根本鈴華、参ります!』

 

 案の定、悪霊が住み着いた家の中は邪気に誘われた或いは生まれた低級怪異で溢れかえっており、茜さんの合図を聞いた先輩が持っていたキャリーバッグを開けてボトルスプレーを取り出した。

 これは本部が精製した聖水と清めの岩塩を混ぜて作られた特製塩水を入れた邪気払いスプレーであり。こういう低級の怪異を簡単に追い祓ったり、場合によっては中級怪異を一時的に弱体化させる効果がある。

 現に先輩からスプレーを吹き掛けられ痛みを覚えたのか、怪異達が逃げ出し始めたり浄化されたりしているのが確認できる。

 さて、此処からは大体怪異を追い祓うか退けるだけの作業となるので、改めて我々が所属する『紅乃一族』について軽く解説しましょう。

 

 そもそも紅乃一族とは、平安時代に存在していたとされる、妖を祓う事に特化した陰陽師集団がルーツとなっている退魔の一族だと云われています。

 そして一族の始祖である『紅乃玉杜』が、とある森に住む土地神と契約を結んだ事が切っ掛けで、その土地神が住む森を護る事を対価として特別な力を授かった。

 その力を駆使して現在まで、紅乃玉杜とその子孫達は日夜この國を護り続けてきたらしいですね。

 

『此処かしら、汚れが一番溜まっているのは?』

 

『加藤さんの話ですと、確か此処で一家が首を吊ったとの事であります』

 

 ……おっと、どうやら振り返ってる間に、茜さん達が二階の一番奥にある一室の前に着いたようです。

 部屋の中は邪気で溢れかえっていて、足を踏み入れたお二人は周辺を警戒しながら辺り一面を見渡す。かくいう私も先輩の頭頂部へ登った式神の視界を共有して、同じく現場を見渡している訳ですが……

 

『……ねぇ、なにしにきたの……? わたしたちのいえに……』

 

 と、その時。突然背後から何かの視線を感じましたので振り返ってみると、綿が裂けた首から飛び出てるくまのテディベアを抱えて此方を見つめる少女の姿が。

 その子はロクに食べさせて貰っていないのか痩せ細っており、目は虚ろで首に巻かれた荒縄と長い髪を引き摺りながらゆっくりと足を擦り、同じく彼女に気付いた茜さんの方へと歩み寄って来る。

 

『ねぇ、みえてる……?きこえてる、よね?』

 

 目の前で足を止めた少女──貰った資料から察するに、彼女は心中した三人家族の長女であるカナエちゃん──は、視線だけを彼女に向けてそう尋ねる。

 対する茜さんは先輩に目配せをし、カナエちゃんの目線に合わせてしゃがみ込み、優しく微笑みながら語りかけました。

 

『ごめんなさいね、勝手にお邪魔しちゃって。実はワタシ達、貴女のお母さん達に用があって来たの。お母さん達、何処にいるか知らない?』

 

 その言葉にカナエちゃんは「えっと…」と呟いて少し黙り込んでしまったが、やがて顔を上げて口を開いた。

 

『おかあさんなら、そこのおねえちゃんのうしろにいるよ』

 

 ……さて、此処からが正念場の様ですね。カナエちゃんが先輩の背後を指差した瞬間、キャリーバッグを横に振りかぶって、同時にスプレーを噴射。カッターナイフで首の頸動脈を切り掛かって来た、カナエちゃんと同様に縄を首に巻いた女性……中級怪異であろう“カナコ”に牽制を掛けるも、一瞬ひるんだその怪異は怨念渦巻く眼光を此方へ向けて“呪怨の圧”を飛ばして来る。

 先輩は直ぐに生命オーラを纏って防御を張り、私はその間先輩の頭の上にいた式神を遠隔操作してキャリーバッグのファスナーを少し開けて中に入ると、中の得物を引っ張り出して外へ弾き出した。

 

『ありがとうございます先輩ッ!』

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……ッ!!』

 

 そう言って得物……特殊改造を施した水鉄砲を掴み取った先輩は、奇声を発しながら襲い掛かるカナコの顔面に銃口を向けて引き金を引く。

 特殊水鉄砲から発射されたのは聖水と清めの岩塩混じりの塩水であり、それをまともに浴びたカナコは顔を覆って苦悶の唸り声を漏らし。隙を見せた彼女の懐へ飛び込んだ先輩は、生命オーラを纏った右脚で腹部に渾身の一撃を叩き込む。

 蹴りをくらったカナコが後方に吹き飛ぶのを見計らい、先輩は畳みかけようと右腕の数珠に手を重ね──

 

『…ッ!? 先輩ッ、距離取って!!』

 

『っ!』

 

 ──ようとした所で凄まじい殺気を感じ、咄嗟に先輩へ警告を叫ぶ私。その声を受けた先輩は、バックステップで後方へ飛び退く。

 次の瞬間、先程まで先輩がいた場所に黒い影が出来たかと思うと、其処から細長い針の様なのが無数に飛び出した!咄嗟にその場から離れたお陰で難を逃れたが、もし先輩が飛び退いていなかったら……

 先輩の無事を確認しつつ、蠢きながら短くなっていく無数の針が影と繋がっている細い影に気付いた私は、まるでマリオネットの操り糸みたいな影を辿って、その先にある終着地点へ歩みを進めた。

 

『──いじめるな』

 

 終着地点の先には、茜さんの隣でボソッと呟くカナエちゃんの姿。だが先程の弱々しい雰囲気とは打って変わり、壁に叩きつけられたカナコと同じ、或いはそれ以上の邪気を撒き散らすその姿に少し驚きを覚えた。

 やはり、この子も中級の部類かーー! その事に気付いた瞬間…

 

『おかあさんを、いじめるなぁぁぁぁぁぁぁ!!』

 

 彼女の長髪が蠢いて無数の鋭い針状に姿を変えると、そのまま此方へ矛先を向け、一斉に襲い掛かって来たのだ。というか先の影だと思ってたの、まさか髪の毛だったの⁉︎

 しかし、その針が私達に届く事は無かった。何故なら……

 

『おっとぉ。させないわよ』

 

 襲い掛かろうとしていた髪の毛で作られた針が全て、茜さんによって掴み取られてたからだ。カナエちゃんは小さな顔を驚愕の色に染め上げ、茜さんを見つめながら髪を元に戻そうと試みるも、茜さんの握力がそれを許さない。

 引き寄せようとするカナエちゃんの髪とそれを掴んでる茜さんの手からギリギリ…!という音が聞こえて来るのは、きっと気のせいではないでしょう。

 

『──樹界ノ帝主、我に力をお貸し給え。窮鼠召喚、急急如律令』

 

 その隙に先輩は、右手に装着した数珠ブレスレッドに生命オーラを込め、手印を結んで唱える。それによって数珠に込められた霊力とオーラが混ざり合い、赤いの粒子となって飛び出して来ると、それは小さな存在へと姿を変えていく。

 やがて現れたのは、赤いオーラを纏った白い鼠。彼女の式神である子鼠は、先輩を護ろうと毛を逆立てて動き出し、復帰したカナコが先輩へ向かって飛び掛かって来たのと同時に、小さな牙をむき出しにした式神が駆けて腕に喰らい付いた。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛……!?』

 

 思わず呻き声を上げたカナコは直ぐ様手を引っ込め、持ってたカッターナイフで子鼠を切り捨て、先輩の方へと殺意を向き直す。だがカナコの手元からガリガリという金属の削れる音が響いて来たかと思えば、カランと床に落ちるカッターナイフの刃。

 困惑して手元へ視線向けたカナコは驚きのあまり、空虚となった筈の眼窩を大きく見開いてしまう。

 彼女が持ってたカッターには噛み千切ったような痕が残っていて、手には先程切り捨てた筈の子鼠が二匹引っ付いており。気付けば足元にも、同じ様な子鼠が三匹よじ登っていた。

 

『ねずみ算……は、知っているでありますか?ある期間の間に、どのくらい鼠が増えるかーというのを計算する問題であります。

 ワタクシの式神である『窮鼠』は、その計算に則り術者が活動する時間だけ数を増やして行けるのであります。

 故に一匹潰した程度では、ワタクシの式神は倒せないでありますよ!』

 

 先輩が構えながらそう説明すると、いつのまにか何匹にも増殖していた子鼠がカナコの身体に纏わりついていた。

 カナコは子鼠を振り払うべく暴れ回ろうとするも、子鼠達が熱殺蜂球の様に取り囲んだ事で上手く動けないようですね。

 

『やめてやめてヤメテヤメテヤメテ!オカアサンヲイジメルナァァァァ!!』

 

 だがカナエちゃんは、カナコが拘束されているのを見るやいなや大声で叫びながら先輩を睨み付け……彼女の叫びに呼応してか、更に邪気が濃くなり始める。次の瞬間には、茜さんの手から髪の毛が引き抜かれて、針状となった髪が凄まじい速さで伸びて先輩を襲った。

 驚いた先輩は咄嗟に距離を取って避けようとしたが、その前に茜さんが割り込む形で立ち塞がると、彼女を中心に生命オーラが放出され、針の攻撃を弾いてしまった。

 カナエちゃんは再び攻撃を仕掛けようとするも、茜さんは髪の毛を全て素早く掴み取るとオーラで燃やし尽くし、唖然としたカナエちゃんの元へと近付いて──

 

『──大丈夫。ワタシ達、お母さん達を助けに来たの』

 

 彼女に優しく抱き締めて優しく語りかける。勿論茜さんの身体にはオーラが薄く展開されているので、何かあっても直ぐにやられるという事はないとは思うけど、此方としてはそれでもヒヤヒヤする。

 しかし、茜さんに抱き締められたカナエちゃんはキョトンとしたまま動かないが……もしや、生前抱き締められる経験が少ないのだろうか?

 

『ごめんね?でもお母さんとお話するには、少し落ち着いて貰う必要があったの。だからもう、お母さんに手荒なこととするつもりは無いわ』

 

『…………ホント?モウ、オカアサンニヒドイコトシナイ?』

 

『ええ。約束するわ』

 

 そう優しく微笑む茜さんの言葉にカナエちゃんは動揺してオロオロしていたが、先輩の拘束していたカナコの抵抗がより強い物になった。

 

『あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛……っ!』

 

『で、でもおかあさん……』

 

『お前達、なんだその姿は』

 

 唸り声をあげて何か喋っているカナコにカナエちゃんがそう言った時、上の方からダミ声の様な声が聞こえた。

 その声が聞こえた天井の方へ目を向けると、男性の手が黒い液体を撒き散らしながら出現。やがて液体が滴り落ちて人の形を象り始めると、着崩したスーツを纏って、目は血走り、歯は剥き出しになった男性型の怪異が逆さまにぶら下がってる様な形で現れた。

 私達はその男性に見覚えが有った……具体的には、この家について書かれた資料の中で。それはこの一家の大黒柱で、昔倒産した企業の若き重鎮だった男性……カナエちゃんの父で、カナコの夫である。

 フローリングに黒い液体で湿った足を付けた男は、茜さん達を忌々しい物を見るかのような目で睨み付けるが、それ以上に苛立たしげに拘束された状態のカナコを睨み付け。そのカナコの身体に纏わりつく、無数の白い鼠達に気付くと──

 

『いつまで!寝てるんだよ!!お前は!!!』

 

 怒号を吐き出しながらカナコの身体に纏わりついてる子鼠達諸共、彼女の身体に脚から放たれた黒い液体の濁流を浴びせた。

 子鼠達は黒い液体に押し潰され、壁に叩きつけられたカナコは口に入った黒い液体を吐き出しながら咳き込む。

 

『……ぁ、あ゛、あ゛ぁ……!』

 

『この役立たずのクソ女!お前が鈍臭い所為で、こんな奴らにまで舐められる羽目になっただろッ!! お前みたいな役立たずのゴミの為に働いて来た、俺の身にもなってみろよ!!』

 

『……めて、やめて……お父さん……』

 

 その間も怒鳴り散らしながら、蹲るカナコを踏みつけ、何度も脚で蹴りつける。そんな男を、カナエちゃんは怯えた目で男を見つめる。

 先まで悍ましい叫喚を発していたカナコと凄まじい邪気を放っていたカナエちゃんだったが、大黒柱と思わしき男の登場ですっかり怯えて二人共別人の様になっており。この家で如何に、日常的に家庭内暴力が振るわれていたのかが伺え。此方の目を憚らずに傲慢な姿を見せつける男の姿は、なぜ彼が生前、勤めていた会社が倒産した後に無理心中を実行したのか、何となくわかる気がして来た。

 その光景を目の当たりにした先輩は見ていられなくなったのか、思わず悪霊である筈のカナコの元へ駆け寄ろうとして、しかしそれを茜さんが手で制して引き留める。

 

『本当に…!何度言ったら、理解出来るんだーー!』

 

『はーい、そこまでよ』

 

 そんな先輩を余所に、男はカナコの髪を鷲掴みにして持ち上げ、その顔を何度も殴りつけようと腕に黒い液体を纏わせて叩きつけようとした瞬間。突然横から男を蹴飛ばそうと一本の脚が飛んで来て、男はそれを咄嗟に黒い液体を纏わせていた腕で防いだ。

 その脚は茜さんの物であり、彼女の力強い蹴りを鷲掴みにした男の片腕はより肥大化して行き、男の目がカナコから茜さんの方へと移り変わる。

 

『……貴様、なに俺の邪魔してるんだ?コレはウチの問題だ。後で殺してやるから、後にしろ』

 

『悪いけど、そうはいかないわ。最初は出来れば穏便に済ませたかったけど、気が変わったの。ちゃっちゃとあの世に逝って貰うわよ?』

 

 片足のみであるにも関わらず悠々とした佇まいで啖呵を切った状態で、脚に一層力を入れた茜さん。その脚力によって、肥大化していた黒い腕が徐々に茜さんの脚に押され始めて行き……ドパァン!という弾ける様な音と同時に、肥大化していた黒い腕を吹き飛ばした。

 異様な光景を目にしたカナコとカナエちゃんは唖然とし、衝撃で後ずさった男も呆然とした顔で自分の腕を見つめ、少ししてから茜さんを睨み付ける。

 ソイツの表情は先ほどの醜悪な物とは少し違う。より凶悪な顔付きとなり、歯軋りしながら茜さんを睨みつけるその目は血走っており、まるで獲物を狩ろうとする獣の様にも見えた。

 

『図に……乗るなよォォォォオオオ!!』

 

 次の瞬間──身体が黒い液体と化して弾け飛ぶと、飛沫の一つ一つから大量の黒い触手が飛び出して来て、その触手が私達を襲い始めた。

 先輩や茜さんは咄嗟に避けたが、カナコとカナエちゃんは反応に遅れてしまい、触手が彼女達の身体に纏わりついた瞬間。2人の身体が黒い靄へと変わり、その靄は他のと比べるとサッカーボール程の大きさはある、黒い液体で作られた歪な球体の元へと向かって吸い込まれていった。

 

『……っ!茜さん、邪気が急激に増大してます!恐らくあの人達を取り込んだのだと思われます!』

 

『……仮にも家族を糧にするなんて。やっぱ一家心中する様な奴の悪霊は、直ぐに処すべきだったかしら』

 

 先輩の言葉を聞いた茜さんは、少し険しい表情でカナコ達を取り込んだであろう怪異へと視線を向けると、右腕の数珠にオーラを込めて手印を結び始める。

 

『──樹界ノ帝主、我に力をお貸し給え。急急如律令』

 

 詠唱を唱えると同時に数珠が輝き、茜さんの周囲に漂っていた黒靄が一気に浄化されて、同時に赤く燃え盛る羽根がいくつも現れる。

 

『……そんなモノで、オレに歯向かうつもりかァーー!』

 

 羽根が浄化の炎を纏いながら周囲を舞う様子は、まるで茜さんを護っているかの様であり。重力に逆らってふわふわと飛び続けるそれを、野球ボールくらいの大きさで宙に浮かぶ黒い液体の群集から飛び出た触手が喰らい尽くさんと襲い掛かった。

 しかし羽根に近づいたその瞬間、羽根がひとつ残らず姿を消した。黒い液体の群集の動きがピタリと止まり、まるでどこに行ったのかと探す様に黒い液体が空中を彷徨い始める。

 

『はい終了〜。あの世へごあんなーい』

 

 直後、指揮者の様に軽く指を振るう茜さんの声と共に、触手を伸ばしていた黒い液体が蒸発し始める。

 何が起こっているのか理解していない怪異の本体から感じ取れる戸惑いは、辺りに散布されていた液体の塊が次々と霧散して行くにつれて大きくなり。やがて全ての黒い液体が蒸発した瞬間、本体の怪異が縦に真っ二つにされて眩い炎の輝きに包まれる。

 

『な、なに、が……』

 

『なんて事はないわ。ただ凄い高速で羽根を動かして、全部焼き斬ってあげただけ』

 

 それがどれくらい難しくて繊細な技術なのか、まだこの業界に浸かって日の浅い私は知らない。だが茜さんにとっては造作も無い事であり、それは彼女の技量の高さを物語っているのであった。

 

『──あぁ……やっと、自由に、なれる……!』

 

『……おかあさん。もう、だいじょうぶ、だよ』

 

 やがて碌な抵抗も言葉を発する事も出来ぬまま、男の怪異はその穢れた魂を生命オーラに焼き尽くされて、遂には消え失せた。

 途端、浄化の際に怪異から噴き出た黒い靄が二人の人影を形作り始め、カナコとカナエちゃんの姿を現した。だがその姿は、先程までの不気味なものとは打って変わり、正に憑き物が落ちた安らかな表情になっていた。

 

『お姉さん達、ありがとう──』

 

 カナエちゃんのお礼と共に二人の身体は綻び始め、まるで蛍の如く輝く粒子となって天へと昇って行き。私達を見届ける様に暫く光りながら浮かんでいたが、やがてゆっくりと姿を消して去っていく。

 先輩と茜さんは彼女達に手を合わせて御冥福をお祈りするのを眺めながら、あの世では平和に暮らせる、そんなたわいも無い事を冥福を祈った。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「お待たせー。梨子ちゃん待った〜?」

「ただ今戻りましたであります!」

 

「お二人とも、お疲れ様です」

 

 それから数分後、加藤氏にお祓い終了のご連絡をした所で茜さんと先輩が戻って来たので、車内へ乗り込んだお二人にお茶を入れたペッドボトルを差し出した。

 

「いやー、今回は思ってたより簡単だったね♪やっぱ大元をシバけば終わる系の案件は楽で良いわー」

 

「茜さん。アレを簡単と言えるのは、ワタクシが知る限り貴女だけだと思うであります……」

 

 茜さんはペッドボトルのキャップを捻り、グビグビとお茶を飲みながら上機嫌に言うが、私としてもアレを簡単と言ってしまう茜さんにツッコミをいれざるを得ない。

 なにせ今回の件は、我々が神の御力と御加護を受けている事を加味しても、一歩間違えれば先輩クラスでも呪い殺される程に成長した怪異が住まっていたのだ。そういう意味では、茜さんを派遣させた本家の判断は正しいって事になるのだけれど。

 

「まぁでも、この間対処した蝗害の怪異と比べれば……ね?」

 

「…………あぁ、アレでありますか」

 

 蝗害の怪異。その話題が出て来た途端、車内が物憂いな空気で包まれた。

 それは先月の中頃、我々が仕事の関係で北海道へ赴いていた時に発生した怪異で。突如飛来して来た飛蝗型の怪異を茜さんが急遽対処して下さったので、幸いにも被害は最小限に抑えられたのですが……それでもあの光景を思い出すだけで吐き気が込み上げて来る。

 

「いやー、アレはマジでヤバかったわ。数十匹倒しても、その辺の怪異を食らって繁殖していくし。一気に倒そうと生命オーラを放出した時なんかは、ワタシのオーラを喰らおうと滅茶苦茶群がって来て……

 ハッキリ言って、アレとはもう戦いたく無いと思ったわ」

 

 あの時は私も得物を持って先輩と対処に当たっていたのですが、あれだけの大群を目にした際は流石に死を覚悟しました。

 しかも、あの怪異は繁殖力が高いのか、倒しても倒しても増えて行く一方で。三日三晩乱闘した末、最終的に茜さんが全ての個体を叩き潰したのですが……彼女は疲労困憊で一週間寝込む事になり。もし奴等をなんとか出来なかった場合、北海道の大地は今頃、と考えた所で鳥肌が立った。

 やがて「うん!この話はやめましょう!」茜さんの一言で、車内の空気は元に戻った。

 それでもまだ若干空気が重く感じた私は、何とかこの話題から抜け出そうと予定表を開き、「この後余裕ありますけど、どうします?」と茜さんに話しかける。

 すると茜さんはチラリとスマホに表示された時刻を確認し……暫し思案する様な素振りを見せると。

 

「あ〜、だったらちょっとケーキ屋さんに寄ってくれる?お土産買いたいから」

 

「お土産、でありますか?」

 

「誰かに会うのですか?」

 

 私達は首を傾げて茜さんに尋ねると、彼女はまるで懐かしさに浸る様な笑みで、窓から見える景色を遠く見つめる。

 

「ちょっと相談に乗って欲しいって頼まれたの、引退した筈の同業者にね」

 

 引退した同業者……つまり霊能力者と会う。一体それが誰に該当するのか暫し熟考しながら、カーナビに近くのケーキ屋の位置情報を入力し始めた。

 

 

 

 ……あ、そうそう。言う必要はないと思うけれど、折角だし言っておくわ。

 私の名前は須藤梨子(すとう りこ)。この業界で活動する事になって早5年の月日を得た、しがない霊能力者の端くれよ。覚える必要は無いわ。




●見円茜
今回の話の中心人物。あと馬鹿猿のお母さん。
お母さんの無双シーンを見せたくて書いてみたは良いものの、書いてみたら「そうでも無いかも…?」と思い始めている今日この頃。でも書き直すのも面倒いので、このまま投稿しました。
階級は甲級。式神は雀をモチーフとしたもので、ヒロアカのホークスみたいに羽根を飛ばして操ったりするという応用技を駆使出来たりする。

●根本鈴華
茜のお付きの女性。緋袴の巫女装束を身に纏っている。
実は、かつては陸軍に所属していたらしく、言葉の節々にその名残が残っているらしい(本人談)。
階級は乙級。式神は『窮鼠』という群生型スタンド。ねずみ算をモチーフとした能力を持っているが、彼女が持つ生命オーラの関係で最大100匹までしか増えない。

●須藤梨子
茜の専属ドライバー。紺のスーツ姿がスタンダード。
プロフェッショナルパロやろうと思ったけど、このテンションのまま話を進めるの面倒くさいと思ったので……まぁ、やめました。
階級は丙級。式神は『縞栗鼠』と呼ばれるもので、視覚共有が可能。

●人間ぶっ殺しゾーン
今回の話は某呪怨をモチーフにしながら書いたので、それっぽい怪異を登場させてみた。
カナエちゃん(二級くらい)は髪を操り、DVお父さん(一級)は液体化、カナコ(準二級)はカッターを振り回して怪奇現象を引き起こしていた。ハイそこ、カナコだけショボいとか言わない。
最初の頃は邪気がそんなに高くなかったので『体調不良』だけに収まっていたが、年月が経つに連れて怨念が高まっていき、さっさと対処しなければ彼らの住む家に関わった者達を片っ端から呪い殺す存在になっていた。

●紅乃一族
その道の界隈において大きく名を馳せている名家。中部地方のとある田舎町にて、総本山である『紅乃神社』が存在している。
霊能力職員の階級は丙級、乙級、甲級に分けられている。
甲級と乙級は戦闘要員として現場に足を運び、特に甲級は精鋭として編成されている。
丙級は支援要員(鬼滅でいう『隠』ポジ)として、影ながらサポートを行ったりしている。
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