見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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悪霊「そうじゃ、そうじゃ……‼︎ ワシの仲間も偶々やって来た馬鹿猿の魔の手に……‼︎」
怨霊「首領(ドン)も突然湧いて出た馬鹿猿に祓われた‼︎ 女子供10人ぼっち呪殺しただけで……血も涙もねぇ‼︎」
呪霊「救いは……オレらに救いはねぇのか!? オレら、このまま、死…死んで……ッ」
怪異「莫迦かてめえら!?死んでたまるか!!」


もしかしたら、永遠なる夢を見ることになるのかもしれない

 走る、走る、走る。ひたすら、がむしゃらに──

 この世界から、この暗闇から、この孤独から、逃れる為に──

 だけどいくら走っても、どれだけ走っても、何処にも辿り着かない。

 そうしている間にも体力だけが失われていき、息が切れて苦しくて辛いけど、それでも走り続ける。

 

 あぁ……このままずっと、永遠にひとりでいるのかな……

 

 そんな考えが頭を過り始めると、これ以上走れないと悲鳴を上げていた身体にまた力が入って、更にペースを上げて走り続ける。

 そうでもしないと、狂ってしまいそうだったから。

 

「──だれ、か──いな、い、の──!」

 

 人気の無い暗闇の中。僕は走り続ける。ただひたすらに、ひとりで。

 誰も居ないのは嫌だから。誰か居て欲しいから。

 

「──おねがい──だれか──へんじ、してよ──ッ!」

 

 いつの間にか真っ暗な空間に独りぼっちになっていた僕は、一体どれだけ時が経ったのかも分からないまま、ただただ孤独感に苛まされていた。

 

『するワケないだろ。お前の様な奴に、誰も興味関心を持たない』

 

 そんな時にようやく戻ってきた返事は、僕自身の声だった。

 

『お前の様な、どうしようもない役立たずが、誰かに振り向いて貰えると思ったか?』

 

 違う、僕は役立たずじゃない。

 そう反論しかったけど、何も言えなくて、声は更に僕へと畳み掛けてくる。

 

『だったら、なんでお婆ちゃんはいなくなった?』

 

 まるで僕の心を折る様に、鋭い言葉を突き刺してくる。

 

『お前が“死ね”と、そう望んだからじゃないか』

 

 その痛みに耐え切れず、耳を塞いでしゃがみ込む。

 

『真守の件もそうだ。お前が動いていれば、みこちゃんはお父さんと仲直り出来てた。お前が何もしなかったから、真守は死んだ』

 

 だけどその声は止まらなくて、ずっと頭の中に囁き続ける。

 

『お婆ちゃんが死んだのも……

真守が死んだのも……

みこが泣いたのも……

全部、お前の所為だ』

 

「──ごめん、なさい」

 

『お前は独りだ。誰にも必要とされていない』

『お前は罪人だ。誰からも嫌われている存在』

『だから──お前なんかに、誰も興味を持たない』

 

『全部、お前の罪だ』

 

「──ごめんなさい、ごめんなさい……」

 

 何度も何度も謝って。

 耳を塞いで頭を抱え込んで蹲って。

 でも声はずっと聞こえ続けてきて、許してくれなくて。

 ガクガクと体が震えて、眼からは涙が止まらなくて。

 ハッハッと息が乱れて、苦しくて。

 

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい……」

 

 ──僕は、最高に粋がっていて、イケメンでカッコよくて、誰かを笑顔に出来る。

 そんな道化師な(いまの)自分が大好きだ。

 

「………お婆ちゃん……真守さん………みこ、ちゃん……」

 

 ──だけど、いつも泣いてばかりで、滅茶苦茶ダサくてかっこ悪い、誰も笑顔に出来ない。

 

「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめん、なさい……っ、ごめんなさい……」

 

 そんな役立たずな(むかしの)自分が──今でも、嫌いだ。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 電気もロウソクの火もついていない、カーテンの隙間から覗く光だけに照らされ。ベッドの中で眠りについていた洋太は、心成しか頬が瘦せこけており。

 浅い呼吸を繰り返して時々隙間風みたいなうわ言を吹かせる姿は、見るからにすっかり弱り果てている事が分かる。

 

『──さぁて、四谷みこよ。何故私がこの小童の上に居座っているのか、その理由は気になって仕方ないのではないか?』

 

 私は両手を見えない縄で縛られながら、目の前に居るヤバい存在『夢魔法師』に名前を呼ばれて、青ざめた顔を更に青くさせていた。

 怖い、ヤバい、嫌だ、逃げたい! 怖すぎて涙がボロボロとこぼれ落ちて。そんな私の目の前に居る存在は、愉快そうにほくそ笑みながら、ゆっくりと口を開き始めた。

 

『まず前提として、この小童には“神の力”が秘められている。その忌まわしい力によって生み出される太陽の如き輝きのお陰で、我々は大変困っているのだ』

 

『そうだ そうだ!』

『コイツノヒカリ スゴクアツイ』

『ネェ コイツ ミエテルノォ?』

『見えてる 見えてる きっと見えてる!』

 

 夢魔法師の語りに同調するように、部屋の中に居るヤバい奴らが禍々しいオーラを部屋中に撒き散らしながら騒ぎ出す。中には私に対して殺意をあらわにし、今にも襲い掛かりそうな奴も居て、今すぐにでもこの場から逃げ出したくて仕方がなかった。

 声量の大きさに思わず耳を塞いでしまいそうになるけれど、両手を縛られているせいでそれすらも出来ず。

 この部屋から逃げたくても逃げられなくて、頭の中が恐怖と混乱で一杯になる。

 神の力ってなに? なんでこんな目に……? ぐるぐると回る疑問に頭が追いつかない中、夢魔法師は手を上げて周囲のヤバい奴らを静粛させた。

 

『幸いにも、小童は我々の姿を確認する事が出来ないようですが……それでも此奴の存在は大変煩わしい事には変わらず。将来的に考えても、我々の障害となる可能性が限りなく高い……でぇすぅのぉでぇ!』

 

 そこまで語った後、ゆっくりとした動きで目の前に顔を近づけ、急に声を張り上げてきた来た。

 

『小童には是非。この世からいなくなっていただこうと、この私が直々にこうしてやって来たわけですよぉ!』

 

 驚いて身体がビクリと震える。夢魔法師はそんな私の姿を見てニヤニヤと笑いながら、私の頬っぺたを人差し指の鋭く尖った爪でツンツンとつついてきた。

 そのツンツンとした感触が恐ろしくて、思わず小さな悲鳴を上げそうになって。その様子すら、ヤバい存在は不気味に笑って見つめていた。

 

『そこで私は考えました。小童をこの世から消す為にはまずその力を……つまり神の輝きを失くす必要があると。ですが通常の方法で此奴の力を削ぐというのは、至難の業でありました……

 そこで目を付けたのが……貴女というワケですよ、四谷みこ』

 

「………ぇ」

 

 夢魔法師の語りを聞いている中、私の名が呼ばれた事で思わず目を大きく見開き、せめてもの抵抗として噤んでいた口から声が漏れた。

 コイツは一体何を言っているんだ……? 洋太を消す為に目を付けたのが……私? 一体どういう事なの……?

 今まで以上に恐ろしい予感が頭の中に過ぎり、それが頭の中でグルグルと回り続け、身体の震えがより酷くなる。

 そんな私の様子に気分を良くしたのか、夢魔法師は嬉しそうにケタケタ笑って、私の手首に付けた紅い数珠へ視線を向ける。

 

『ククク……小童より賢明な貴女なら、もう既に御察ししている事でしょう?

 その数珠を所持し、尚且つ小童に宿る神の加護を頂いた貴女がいたからこそ……私の計画は完全なモノとなり、この通り小童を“こちら側”の手の内に掌握する事が出来たのですよ?』

 

 夢魔法師の語りを聞いた瞬間、私の顔からサーっと血の気が引いていくのを感じた。

 

『貴女が()()()数珠の力を使ってくれたお陰で、小童の力が底を突いて輝きを失い、こうして私の術が効くようになったのですから……ククク、フハハ!』

 

 己が犯した過ちを突き付けられ、身体がガクガクと震え始める。

 信じたくなかった事実が今、目の前に突き付けられ。後悔と自責の念が頭の中を駆け巡り、手首を縛り付ける見えない縄の痛みを忘れてしまうぐらいに呼吸が荒くなる。

 

『本当に、感謝しています。貴女のお陰で、見円洋太を永遠の眠りにつかせる所まで来れたのですから。だからこそ、心より御礼を申し上げましょう』

 

 夢魔法師はそう言って、私の頬をそっと撫でてきた。

 その感触が酷く恐ろしかったけど、やっぱり身体に力が入らなくて。ただただ弱々しく身体を震わせる事しか出来なかった。

 ククク…と笑い声を奏でる夢魔法師は、周囲でゲラゲラと笑っているヤバい奴らに囲まれ、大きく両手を広げながら天を仰ぐように顔を上げ、聴きたくない『その言葉』を高らかに張り上げた。

 

『私の為に、手を貸してくれて……本当に──ありがとう!』

『『『アリガトウ ゴザイマス!』』』

 

 化け物達の叫びが部屋中に響き渡った瞬間。全身に凄まじい衝撃が走り、目の前が真っ暗になって、心臓を握り潰された様な痛みを感じ。喉の奥から吐き気が込み上げて来て、身体中からは嫌な汗が噴き出した。

 それが凄く気持ち悪くて、辛くて、怖くて。大粒の涙を流しながら、嗚咽を漏らしていた。

 

(わ……わたっ、私の……せいで……よ、洋太が……)

 

 夢魔法師を名乗るヤバい奴とか、永遠の眠りだとか、神の力とか。何もかも意味が分からないかった。

 だけど、私の不注意のせいで洋太がこんな酷い目にあっている事だけは理解できてしまい。その事実が、よく研がれたナイフの様に心へ突き刺さる。

 死にたくなる程の後悔と自責の念で、心が埋め尽くされる。

 

(ごっ……めんな……さい……ごめん……なさい……!)

 

「…………ちゃん」

 

 心の中で何度も謝りながら、何回も涙をこぼし続けていると、私の耳に聞き慣れた声が……大切な幼馴染の声が微かに聞こえてきた。

 その声を聴いた瞬間、息が乱れて苦しくなっていた呼吸を何とか整えながら、ゆっくり顔を上げる。

 

「よ……よう、た?」

 

『チッ………まだ声が出せる程の余力があるか……しぶとい奴め……』

 

「みこ、ちゃん……」

 

 目の前の夢魔法師によって、深い眠りに落とされていたとされる洋太。

 彼は何かを求めているかの様に、私の方へ向けて手を伸ばしており。掠れた声で途切れ途切れに、私の名前を何度も呼び続けていた。

 洋太の声を聴いて大きく目を見開いた夢魔法師は、先程よりも不機嫌そうに顔を歪めながら舌打ちをし、酷く冷たい視線を向ける。

 そんな中でも洋太は小さな声で、それでいてハッキリと言葉を発してきた。

 

「お願い……泣か、ない……で……」

 

「……っ」

 

 彼の言葉を耳にした瞬間。こんな時でも、こんな状態でも、気遣ってくれる幼馴染に対し、胸が苦しくなって、息が出来ないぐらいに心が締め付けられ。

 そんな中で確かに感じるのは……私の心の中に灯った“暖かい何か”だった。

 

『……ククッ。何を言うかと思えば、その様な下らぬ事をほざくとは……本当に愚かな小童だ……なッ!』

 

 だが洋太が向けてくれた“暖かい何か”を、夢魔法師は酷く不快そうに洋太の伸ばされた手を踏み付けながら、酷く冷たく嘲笑った。

 その様子を見た瞬間、私の中で恐怖を上回る“ナニカ”が一気に膨れ上がって、身体が大きく震え始める。

 

『……さて、私は貴女に大きな恩義を感じています。そして可能であれば、危害を加えたくないとも考えています。

 なので、ここは一旦お帰りいただけないでしょうか?』

 

 ソイツはそんな事を言い放って指を鳴らすと、手首を縛っていた見えない縄の感覚が無くなり、一緒に後ろの扉が開かれた。

 

「………」

 

『おや、どうしたんですか?この私が「逃してあげる」と言ったのですよ?

 そのまま扉を潜って、お家へお帰りになる、そんな簡単な事も出来ぬとほざくおつもりで?いや、それとも……この私に挑んで、小童を助けたいと申すのですか??ハハッ、無駄死にするおつもりで?』

 

 見下す様な高笑いをしながら、その場から全く動かずじっとしている私を見つめている。

 

「……確かに私は、ただ“見えるだけ”で、何も出来ない」

 

『………あ?』

 

 そんな夢魔法師を他所に、グツグツと煮える“ナニカ”を心の内に秘めながら、ずっと閉ざしていた口を開いていた。

 

「洋太みたいに、霊を成仏させる力を持っているわけじゃないし。“そういう人達”みたいに、ちゃんと向き合っているわけでも無い」

 

 そして何より……怖い、超怖い。今だって、身体の震えも、涙も止まらない。

 もしお昼をたらふく食べてたら、恐怖と罪悪感のあまり嘔吐してただろうし。

 ハナと新作ラムラビ買いに行く途中でお手洗いへ行っていなければ、失禁だってしてただろう。

 なんなら、もしかしたら殺されちゃうのでは? という不安が頭の中を駆け巡って。本当は今すぐにでも、ここから逃げ出したい気持ちで一杯だった。

 

『お前、一体何を……』

 

「でも──っ!」

 

 ヤバい存在に睨み付けられて、周囲を囲む様に佇むヤバい奴らに凝視されて、額から汗を浮かべ始める。

 でも今この瞬間だけは、身体から溢れ出る程の力に従って、また口を開いていった。

 

「それでも私は……“洋太を見捨てる”つもりなんか、毛頭ないし。何より、赤の他人に幼馴染を馬鹿にされて怒らない程、お人好しじゃないッ!」

 

 身体中を駆け巡る“ナニカ”……“怒り”に任せて、目の前の化け物をキッと睨み付ける。

 そんな私の反応が予想外だったのか、夢魔法師は驚いた様に目を大きく見開いた。

 

『………この小童をこんな目に合わせた貴様が、何を申すかと思えば……

 自分がした事を、理解出来ぬと云うのか?』

 

 そう呟きながら、静かに私を睨み付けてくる。その視線には明らかな殺意が含まれていて、少しでも気を抜いたら気を失いそうになってしまう。

 

「洋太を、こんな目に……? 洋太が酷い目にあってるのは、確かに私の所為だけど……実際に傷付けてるのはっ、あなたでしょうがッッ!!」

 

 だけど私は怖気付く事無く睨み返し、反論の言霊を力一杯に叫んだ。

 するとさっきまでとは比べ物にならない禍々しいオーラを纏い、憤怒の表情を私に向けてくる。

 

「私は絶対に……っ!洋太を傷つける、貴方だけはッ!決して、許さない!!」

 

 殺意と怒り、狂気を孕んだその視線を、それでも私は一切逸らす事無く受け止め続けた。

 

『…………そう、か。今際の際に、何か言い残すことは?』

 

「やれるものなら、やってみろ……!もし私が死んだ後に、洋太も殺したら……例え地獄に堕ちてでも……絶対に化けて出てやる……ッ!」

 

 骨の浮き出た夢魔法師の手が血に染まった鍵爪へ変化して、私の首に突き付けられるが。負けじとジッと睨み付けてやり、最後まで目を逸らさず啖呵を切ってやった。

 

『……私に刃向かった御褒美として、最期に良いことを教えてやろう。

 滝夜町に封じられた怨霊供の封印を解いたのも、貴女のお友達がそこの日帰り旅行チケットを手に入れられたのも──全て私が仕組んだことだ』

 

「………そう。これで心置きなく、あなたを呪える」

 

『わかった。死ね』

 

 静かに淡々と言い放たれ、首に突き付けていた爪を勢いよく振り下ろそうとしてきたのを感じ取り、私はそれを覚悟して目を閉じる。

 

(──あーあ、もっと生きたかったなぁ……みんな、ごめんね)

 

 もっとお母さんの料理食べたり。ハナやユリアちゃん、徹君達と遊んだり。恭介とゲームやったりテレビ見たり。洋太と一緒に笑って過ごしたかった。

 でも、もう遅いよね……もう、私死ぬし……

 

(せめて最後に……洋太と手、繫ぎたかったな……)

 

 そう思いながら、最期の瞬間を静かに待ち続けるが。何時まで経っても首に痛みは走らず、何故か一瞬温かい熱が通り過ぎただけでなんともない事に違和感を抱き、ゆっくりと目を開く。

 

『ぐぎゃああああああああああああッッ!!??』

『あああああああああああ────ッ!?』

 

 そこには夢魔法師が炎に包まれて、断末魔の叫びを上げる姿があり。周囲のヤバい奴らも纏めて火達磨になって、見るも無惨な姿へと変貌していく。

 

(人体自然発火!? いやコイツら人間じゃないんだけど!)

 

 一体何が起こったのかと困惑しながら、燃え盛るヤバい奴らを呆然と見詰めていた。

 そんな中でふと視線を感じ、そちらに目を向けてみると……赤い炎が洋太の髪の毛から燃え上がっていて。炎の塊はまるで一匹の鷹を形作り、私の方を静かに見守る様にして佇んでいた。

 

『………ピィエェェーーッ!!』

 

 その炎に見惚れていると、赤き炎の鷹は翼を広げて鳴き声を轟かせ、やがてその姿を雲散霧消させていき。それと同時に、眠りについていた洋太の髪の毛が、赤茶髪から黒っぽい茶髪へと変色していた。

 

(……白い狼と金色の猿の手に続いて、今度は……赤い鷹⁉︎ あと何匹いるの!?)

 

『がッ……ぐぎぁ……っ! お、おのれ小童がァ……!』

 

 混乱した頭を整理しようとしているのを余所に、全身炎上しながらベッドから転げ落ちた夢魔法師が呻き声を発しながら、ゆっくりと立ち上がる。

 身に付けてる狩衣装束と面紗はあちこちが焼け焦げており、頭部の馬骨には皹が走っていて、最早満身創痍ともいうべき姿であった。

 だが奴はそれでも執念深く、燃やされて浄化された他のヤバい奴らとは違って未だ健在だった。

 

『よ、よくも……この私を、コケにしたな……ッ!そんなに死に急ぎたいのならば、望み通り逝かせてやろう!!』

 

 夢魔法師は怒号を放ちながら鍵爪を構え直し、無防備な洋太へと突撃して行く。

 変色した茶髪を見ていた私は、ひょっとしたらもうさっきの様な奴は出てこないのではないかと危惧して。慌てて洋太の下へと駆け寄って身代わりになろうとした。

 

『もう、遊びは仕舞いだァ──ッ!!』

 

「ダメっ、洋太────!」

 

 それでも間一髪間に合わず、洋太の頸が断たれそうになり。これから訪れる最悪の事態を想像しかけた……その一瞬の内に、夢魔法師の両腕が鍵爪諸共削がれ、肩部分から黒い血飛沫を撒き散らす。

 

(………え?なんで?だって、もう──)

 

『──貴様らァ……コレは一体、どう云う事だ……!』

 

 私が目の前で起きた状況に呆然とし、夢魔法師が怒気を孕んだ声を響かせながら後ろを振り返る。

 

(“三回”はもう、終わった筈なのに……!?)

 

 視線の先には、私をヤバい奴らの手から()()守ってくれた存在……狐の神サマと一緒にいた着物の二人組が、両掌を夢魔法師へ向けて構えて立っていた。

 

『窓から観た“お前ら”とのやり取りから察するに、ソイツと交わした契約は「四谷みこを三回まで護る」という内容の筈……!小娘を守ると云うならば、取り立てを受けさせる為だと納得出来た……

 だが今貴様らが守ったのは、小娘ではないじゃないかァ!?一体全体、どういう事なんだァァァ!!』

 

 夢魔法師はそう叫びながら、怒りに燃える瞳を二人組に向けている。

 一方、狐の二人組の方はと云えば、夢魔法師から睨まれているにも拘らず。全く堪えた様子を見せぬまま、指を一本立てながら答えた。

 

『──いっかい』

 

 彼女が指した先には、洋太が今も眠りについていた。

 

 

 ──お願いしますどうかハナを憑いているヤバいのを何とかしてくださいお願いしますお願いします何でもしますどうかハナを呪いから救ってください……ついでに私も……

 ……いや、やっぱり()()()()()()()()()()()

 

 

(……あっ)

 

 突如、その言葉を聞いた私の脳裏に忘れかけていた記憶が蘇り。あの時神サマへ願った内容が鮮明に浮かび上がった事で、狐の存在が語った『いっかい』という言葉の意味を自然と理解した。

 

『………ククク、ハハハ。そうか、そういう事か……小童を助けたのは、そういう絡繰か……ハハハ──そんな展開、納得出来るかァ!? こんのっ、狗公供がああああッッ!!』

 

 すると夢魔法師は、何かを確信した様に呟いて。怒りに染まった目を狐達へと向けるや否や、無くなった両腕の代わりとして先っぽに刃物が付いた赤黒い触手を生やし、それをムチの様にしならせて二人に襲い掛からせる。

 狐の二人組は触手を躱し、合間を縫って夢魔法師へと接戦を繰り広げ始めた。

 

「……っ、洋太!」

 

 ヤバい奴らが戦闘に気を取られている間、我に帰った私は目を瞑ったままの幼馴染へ駆け寄って。戦いの余波に巻き込まれて傷付かない様に覆い被さり、頭を強く抱き付いた。

 

 今まで我慢していた恐怖で決壊しかけた心を、癒すかの様にも。

 

 

見円洋太──最初デ最後ノ『いっかい』。

只今、現在進行デ履行中。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 何にもない真っ暗闇な空間、何も聴こえない静寂の中、ただひたすらに蹲っていた。

 

(ごめんなさい………ごめん、なさい……)

 

 朧気な意識の中、此処にはいない人達へ向けて謝罪し続けていた。

 もう何に対して謝っているのかもわからない。ただただ頭の中で渦巻く罪悪感に、押し潰されそうになっていた。

 ふと、そんな暗闇の中で……一筋の光が差す様にして、僕に向かって声が聞こえてくる。

 

「(………この声、何処かで)……まさか、みこちゃん?」

 

 不意に浮かんだ疑問を抱えながら、その声の出処を確かめるべく。さっきまで行ってた謝罪タイムを一旦中断させた僕はゆっくりと身体を動かして、顔を濡らしていた涙を拭いつつ、遠くで光り輝く“それ”に向けて足を運び始める。

 

「みこちゃん──!」

 

 遠くから聞こえる“それ”の声は、なんだか泣いている様にも聞こえてきて。

 誰が泣いているのかはハッキリしないけれど、早く行ってあげなきゃと、そう思って更に足を速めて光の方へと急ぐ。

 

「お願い、泣かないで……!」

 

『──よう……た……!』

 

 その光に近づくに連れて、声は少しずつ聴こえる様になり。やがて闇の中でポツンと現れた“それ”の正体が明らかになった。

 

(あぁ……そうだ……やっぱり、みこちゃんだ)

 

 “それ”は我が幼馴染である四谷みこであり。ぼんやりとした光を放つ彼女は膝をついて、俯いたままセルフハグをしていた。

 

『ようた……ようたぁ……っ!』

 

 何故、みこちゃんがこんな場所にいるのだろうか?なんで僕を何回も呼んでるのだろうか?といった疑問が浮かび上がる。

 その顔は何処か靄がかかったかの様にぼやけて、ハッキリとした顔は捉える事は出来ない。

 それでも、彼女が涙を流している事に気付いた僕は、無意識に歩み寄っていた。

 

「──もう大丈夫……僕はちゃんと、ここに居るよ……」

 

 気付けばみこちゃんを抱きしめ、その涙を手で優しく拭っていた。

 背中に手を回して、赤子をあやす様に背中をポンポンと叩いていく。するとぼんやりとした顔をゆっくりと上げて、僕へと視線を向ける。

 

『ようた……ごめん……私のせいで……ごめんなさい……!』

 

 みこちゃんは、僕に対して何度も謝罪の言葉を述べる。

 なんで謝っているのかは全く理解出来ないけど、そんなみこちゃんを安心させる為に、優しく微笑んで言葉を返した。

 

「大丈夫、みこちゃんは悪くないよ……だから、安心して」

 

 本当はもっと気の利いた言葉を投げ掛けた方が良いのだろうが、生憎と頭が回らなくて、これぐらいの事しか思い付かなかった。

 それでも彼女を守りたいと思ってしまう、どこまでも欲張りで自己中な僕は、その衝動に従うまま、みこちゃんをより強く抱き寄せた。

 

「それと……ありがとう。頑張ってくれて、ありがとう」

 

 それと共に、暗闇でひとりぼっちだった僕の前に現れてくれた事に対してお礼を伝え。涙を流しながらも必死に声を上げてくれた彼女に、感謝の言葉を繰り返す。

 みこちゃんから伝わってくる温もりが、不安で押し潰されそうだった僕を優しく包み込んでくれていて……気付けばまたもや、目から涙が零れてしまった。

 

「後は、大丈夫……みこちゃんは僕が、絶対に守るから」

 

 ──この状況がいつまで続くのかは、まだ分からない。

 それでも君がいてくれれば、元気100倍になって、何でも出来る様な気がするんだ。

 今の自分がもっと好きになって、昔の自分をほんのチョットだけ赦せる気がするんだ。

 だから僕は、君がいてくれる限り……何回、何十回、何百回転んだとしても、何度でも立ち上がるよ。

 その分、例え何があったとしても、君の事を……みこちゃんの笑顔を、守ってみせるから。

 僕自身の為にも、約束を守る為にも……そして何より、君の為にも。




●四谷みこ
ムカついて来たッ!なんでくそったれの『悪霊』のおかげで、私がおびえたり後悔したりしなくちゃあならないの!?
ますます『ムカッ腹』が立って来た……何故こんな奴のために、私がビクビク後悔して『お願い神様助けて』って感じで逃げようとしくちゃあいけないの?『逆』じゃあない?
どうして、ここから無事で帰れるのなら『下痢腹抱えて公衆トイレ捜しているほうがズッと幸せ』って願わなくちゃあいけないの……?違うんじゃあないの?

●見円洋太
スイーツビュッフェを楽しんだ後、謎の気怠さと疲労感が溜まっている気がしたのでベッドへダイブしたは良いものの、そこを怪異に突かれて酷い目にあっている馬鹿猿。
ロムさんから貰ったチカラの石が、夢魔法師によってあっという間に粉々になるなんて……粉☆バナナ☆。
アンコ「独りぼっちは、寂しいもんな」

●赤い鷹
洋太の髪の毛に宿っていた、三体いる神の内のひとり。
仲間である白狼が怪異を祓うのに神気を使い過ぎた所為で宿り主のエネルギーが底を尽き、ついでに白狼が一回あの世へ帰省してしまったので、もう一人の仲間である金猿とエネルギーが再び溜まるまで待機しようとしてた所。この瞬間を狙っていた夢魔法師が襲撃して来たので、残ったエネルギーを節約しながら生命維持と宿り主の精神を守っていたらしい。
赤鷹「私としては暫く様子見するべきだと思っていたのですが、宿り主の幼馴染が殺されそうになったので流石に助けた方がいいと判断しました。ヒンメルならそうするのと同じ様に、見円洋太ならきっとそうした筈ですから」

●狐の巫女
怪異「ククク……未来ある小娘の絶望に塗れた顔は堪りませんねぇ……あ゛?なんだ急に逆らい出して……もういい、貴様は殺す……」
狐の巫女×2「……」
山の神「ステイッ、ステイッ。まだだっ、まだだっ」
怪異「こっ小童貴様ァーッ! よ……よくも!この私にっ、犬のションベンの様に汚らしい炎をぉぉーッ!そんなに死にたいのなら、貴様から始末してやろうぞぉぉーーッ!!」
山の神「今だ、いけっ!ゴーゴーゴー!」
狐の巫女×2「っ!」ワァッ!

●特級怪異『夢魔法師』
『悪夢の呪い』の擬人化でもある怪異。愉悦部。
数百年前、人々の夢の中に入り込んでは永遠の悪夢を見せ、衰弱死するその瞬間までじっくりと苦しむ顔を堪能し、弄んで遊び尽くしていた。
その所為で紅乃一族に目を付けられてしまい。それを察知した夢魔法師は何時もの感覚でその時代の当主に悪夢を見せようとしたが、どういう原理か不明だが何故か普通に突破され、夢現実共に圧倒的暴力を前に逃走。現代まで受けた傷を癒し続けていた。
元ネタは『仮面ライダーギーツ』のサボテンナイトジャマトと『侍戦隊シンケンジャー』の筋殻アクマロ。能力はナイトメアドーパントと魘夢をモチーフにしてる。
Q.で、結局負けたんスか?
A.負けてるなんて思っていませんよ。天才だって歳を取れば老衰してお陀仏です。戦い方一つだと思っています。
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