見える子ちゃんと見えない夫くん   作:yu-ki.S

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──向日葵の花言葉──
光輝、憧れ、幸福、愛慕、あなたを見つめる。


もしかしたら、向日葵が咲き誇っているのかもしれない

「……んぅ、んんっ……あれ?何で私、此処に──」

 

「──え、えっ⁉︎ 洋太から貰った数珠が、無い!?なんで!??」

 

「ここにも、無いし……何処にあるの……? もしかして、洋太の家に……」

 

「あ、お母さん⁉︎ 私ちょっと洋太の家に……お母さん?どうしたの……?」

 

「…………………え、は? なに、それ………やだな、お母さん……エイプリルフールは、まだ先じゃん……」

 

「お邪魔します! あ、すみません太郎さん!洋太いますか!?」

 

「──なんで、いないの……なんで勝手に、何処か行っちゃうの……? 私のこと、絶対に守るって……言ったじゃん……」

 

「洋太の、ばか……っ!」

 

 

 卍 卍 卍

 

 

 私にとって見円洋太という男の子は、小学校入学前に隣の家へ引っ越して来た、まるで弟みたいな子である。

 話によると、洋太のお母さんは単身赴任の様でたまにしか帰れないらしく、お父さんの方も仕事の都合で基本的に帰りが遅いみたい。それでよく私の家に預けて来たりするため、彼と出会ってからは何時も一緒にいる事が殆どとなっている。

 

 さて、話は戻るが。何故私が同い年の男の子を、弟みたいな子と言ったかについてだけど。その理由はなんなのかというと──

 

「ようたー!どこにいるの!よう……はぁ、やっと見つけた……」

 

「あ、みこちゃん!なにしてるの?」

 

 バカでマイペースなコイツによく手を焼かせられているからである。

 今もこうしてどっか行ってた洋太を探していた私の気も知らずに、学校の花壇前でボケーっと突っ立っている彼へため息を吐いてしまう。

 

「あー、もう……ようたこそ、そこでなにしてるの?」

 

「うん!あのね、ヒマワリみてたんだ〜」

 

 ニコニコ笑いながら花壇を指差す彼の視線を追って、私も咲いてるひまわりへ目を向ける。

 空高く昇っている太陽へ顔を向けているそのひまわりは、まるで鳥が大空へ飛び立とうとしているかの様に高々と伸びていて、綺麗な黄色で塗られた花びらはキラキラと輝いている様に見えた。

 

「ふ〜ん。ようた、ひまわり好きなの?」

 

「うん! ヒマワリって、すごくおおきくて、すっごくきれいで、あったかいにおいがして、それでタネがおいしいからすきなんだ! だからね、ぼくもヒマワリみたいなおとなになりたなーっておもってるんだ〜!」

 

 楽しそうに語る彼の目は、まるで宝物を見つめるかの様にキラキラと輝いていて。

 それでいて、柔らかい笑顔をふにゃっとさせる様は、見ているこっちまでも思わず笑みを浮かべてしまう。それはそうとバカだし、迷惑かける事が多いから結構疲れるけど。

 

「あとね、サクラのはなもすきだよ! むかしおかーさんといっしょにみたサクラがすっごくキレイでね?それでサクラをみたり、においをかいでるときがいちばん、むねがホワホワ〜になって、すっごくえがおになれるんだ〜!」

 

 ひまわりの葉っぱを摘みながら、懐かしそうな声で桜について語る洋太。

 私は「へ〜、そうなんだ……」と何となく返したけれど、その時に浮かべた彼の顔は少し寂しそうでもあった。

 

「さくらが好きなのはわかったけど、そろそろ教室もどろう?」

 

「え? でもまだチャイムなってないじゃんね?」

 

「もうとっくの前になってるよ。ひまわり見るのにむちゅうになって、聞いてなかったでしょアンタ」

 

「………え、マジで?」

 

「マジで」

 

 案の定コイツは、私がここに来た理由がなんなのかは愚か、チャイムが鳴っていた事にすら気付いていなかったらしい。

 本当にマイペース過ぎて頭が痛くなって来たので、教室へ戻ろうと彼の手首を掴んでぐいっと引っ張った……その瞬間。逆に引っ張り返された私の顔が、洋太の横顔間近まで迫ってしまう。

 

「ヤバいじゃんそれ!?はやくもどらないと!!」

 

「え、ちょ、何やってんのようた!?」

 

「え?なにって、ぼくのほうがはやくはしれるから、こうしたほうがはやくきょうしつにつくかなーっておもって」

 

 そういうや否や、引っ張られた勢いで抱き付いてしまった私を「ぬんっ」と持ち上げて……いわゆる『お姫様抱っこ』を行うと、そのまま全力疾走し始めた。

 あまりにも突然過ぎる彼の行為に慌てて離れようとするも、掴んだ身体を離す気は無いのか彼に手はビクともせず、私はされるがままに運ばれて行く。

 

「えー……ここの問題はこうであるからにして……おや、お疲れ様ですみこさん。洋太くんは早く席についてください」

 

「ほいさ〜」

 

「…………」

 

 そうして、一分も経たないうちに私たちは教室へと辿り着いてしまった。

 教室の扉がガラガラっと開かれたのを聞いたクラスメイトの殆どが此方を一斉に振り向き、彼等の視線を意にも返さず先生へ返事した洋太は、お姫様抱っこをしたまま私を席まで運んで。降ろされた私の頭をポンッと優しく撫でると、そのまま自分の席へと戻っていった。

 

(………ゆだんしてた。まさか、あんな事されるなんて……)

 

 授業の再開しても尚、周囲の生暖かい目線から解放されないまま、幼馴染の突拍子もない行動によって驚きと羞恥が混ざり合った感情で頭がいっぱいになっていた。

 同時に、不思議とそこまで嫌じゃない自分がいる事に、疑問を抱かずにはいられなかった。

 

(なんか顔も熱くなってきたし……はぁ、またみんなにからかわれそう……)

 

 授業が終わった後の事を考えて、再びため息が出てしまう私。

 小学二年生の夏。まだまだ彼には、苦労をかけられそうな予感がした。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「見てよ恭介!カブトムシ捕まえた!」

 

「え、マジで⁉︎ あホントだスゲー!カッケー!!」

 

 小学生五回目の夏休み。晴天の暑い日差しが照らす、樹木に囲まれていくつものテントが張られた芝生の広場にて。

 お父さん達とお昼の片付けをしていると、男子同士で遊んでいる恭介と洋太の姿が目に入った。

 森の方から出て来た洋太の右肩にはカブトムシが停まっていて、虫取り網を持っていた恭介はそれをキラキラした目で眺めている。最近洋太への扱いが雑になりつつある弟だけど、やっぱりなんやかんだで仲は良いみたいで、ちょっと口元が緩みそうになる。

 

「あ、お母さん。お皿はココで大丈夫?」

 

「ええ、良いわよ。ありがとうねみこ」

 

 片付けを手伝いながらお母さんにそう聞くと、ニコニコしながらホットサンドメーカーとトマトシチューを作るのに使った片手鍋を持って水場へ歩いて行く。

 

「いや〜、娘さんホント良い子ですね〜真守さん」

 

「イヤイヤ。洋太くんの方も、恭介とあんな楽しそうに遊んでくれて、本当に助かってますよ〜」

 

 お父さんと太郎さんもお皿などの食器を持ってお母さんの後に付いて行く。

 私も手伝おうかと思ったけど、太郎さんに「洋太達と一緒にいてあげて」と止められてしまったので仕方なく恭介達の方を眺める事に。

 洋太は右肩にいるカブトムシが気になったのか、左手でそろっと手を伸ばしていく。するとそれに驚いたのか、カブトムシは空高く飛んで行ってしまった。

 ショックを受けた洋太は膝から崩れ落ちて地面に倒れ込み、そんな幼馴染の姿に呆れた様子の恭介はため息を吐いていると、こちらに気付いて駆け寄って来た。

 

「おーい!ねーちゃんもいっしょに虫とりいこーぜ!」

 

「はいはい、今いくよー」

 

「カブトムシ飛んでった……あ、みこちゃんも行くの?やった、いこいこ!」

 

「うん。でもその前に虫除けスプレー、軽くかけとくね」

 

 別に虫は好きってわけじゃないし、どっちかと言えば嫌いな方だ。

 けど折角のキャンプなので、恭介とそこで項垂れている洋太に付き合ってあげることにした私はテントの中に置いといた軽い荷物を持って、さっき使ったのと同じ虫除けスプレーを二人の腕や首元にもかけ、一緒に森の方へと入っていく。

 

「おほー!流石夏休み、他にも色んな人達が楽しそうにしてるな〜」

 

「そうだねー」

 

 木々が生い茂り日差しが差し込む森の中は、焚き火に使う木の枝を拾ったり、双眼鏡を持って鳥や小動物の観察などをしている他のキャンプ客が何人もいた。

 流石人気があるキャンプ場は人が多いなぁ、なんて思いながら森の中特有のやや涼しい風を肌で感じて暫く歩いていると、何かを見つけた恭介が網を構えて木の側へジリジリ近づいて……バサって幹に向け網が広がった。

 

「ねーちゃんみて!きれーなムシみつけた!」

 

「わー、すごいねー」

 

 網の中には緑を中心に虹色の光沢を放つ甲虫がいて、恭介に捕まえられたソレは必死に逃げ出そうともがいている。

 興奮したまま中の虫を手掴みして見せびらかす様にして喜ぶ弟の姿を微笑ましく思いながらも、わちゃわちゃと脚を蠢かせる虫にちょっと肩をビクッとさせてしまう。

 

「ホラ、ようたも見てみろ……アレ?どこいった?」

 

 恭介の言う様に後ろを振り向くと、さっきまでそこにいた筈の洋太の姿は何処にも見当たらなくて、私は思わず眉を顰ひそめる。

 こういう時は大方、先に虫を捕まえた恭介に対抗して何も考えず探しに向かったか、たまたま見つけたナニカに釣られて追いかけて行った……という、よくあるパターンだと悟った。

 

「(あ〜……また勝手にどっか行ったやつだコレ……)ごめん恭介。すぐに洋太連れてくるから、少しテントの近くで待ってて?」

 

「え〜……すぐもどって来てね?」

 

 不満そうにしながらも、渋々了承した恭介は捕まえたタマムシを虫カゴに入れて、一緒にテントの方へ歩いて引き返す事を選んでくれた事に感謝しながら。お父さん達が戻ってきたテント付近に弟を連れて置き、森の中へ戻って洋太が行きそうな場所を探して歩き回る。

 

 今日は快晴のキャンプ日和。木々で太陽光を遮る森の中でさえ、どこもかしこも日差しが眩しいくらいに差し込んでくる……にも関わらず、あちこち忙しなく動き回っている所為なのか、洋太のバカはなかなか見つからなかった。

 

「ハァ〜〜……!ほんっと、世話の焼ける奴……」

 

 額から流れる汗を袖で拭いながら周囲を探し回っていると、日差しが差し込む森の中で不自然なくらいに暗い所を発見。

 そこの周辺だけ日光が遮られていて、まるでそこだけ違う世界が切り取られている様にも思えた。

 

(……もしかして洋太のヤツ、此処にいたりして)

 

 此処まで来るとちょっと不気味に感じる場所だけれど、もしかしたらあそこに幼馴染がいるかもしれないと考え、恐る恐るそこへ近づいて行く。

 

(うーん……思ってたより暗いな。懐中電灯、持って来てたっけ……)

 

 暗い森の奥を照らすものはないかとバッグの中を漁っていた、そんな時……

 

『──コッチ コッチだよぉ……』

 

「……ん? なんだろう……何か、聞こえる気が……」

 

 何処からか、誰かが私を呼んでいる声がする。

 微かな声の方向へと顔を向けるけど、そこには薄暗い空間があるだけで、人の姿や動物の姿などは見当たらない。

 

『コッチ コッチ来て……ミコチャン……』

 

 もしかしたら聞き間違えかもしれないと、再びバッグの中を漁り始めた時。今度はハッキリと声がした。

 

「……まさか、洋太?」

 

 でも洋太の声にしては小さすぎるし、弱々しすぎる気もする。

 流石に聞き間違いかもしれない──そう思ったが、もしこの声が仮に洋太のモノだとしたら、彼は此処で一体何をしているんだろう?

 それに……何故かさっきから妙に感じる、ねっとりとした視線と異様な気配は……

 

『もっとコッチ コッチダヨォォ……ほらほら 早くゥ……!』

 

「──よう、た……?」

 

 やはり気の所為でも、聞き間違えでもない。

 まるでまとわりつく様に感じる視線の主は、確実に私に語りかけている。

 先程よりもハッキリ聞こえ始めた声は、やはり洋太の声に似ていて……

 なぜかは分からないけど、そこへ行かなければいけない気がして……

 まるで焚き火に向かって飛んで行く虫の様に。

 チョウチンアンコウの誘引突起に向けて泳いでいく魚の様に。

 

「まっ、て……い、ま……イク、よ──」

 

『そうそう……コッチ コッチ……早く……はやくはやくはやくはやくはやくはやくはやく』

 

 その声は、甘い声で呼ぶ……

 まるで私を、吸い寄せる様に……

 私は頭の中をボヤけさせながら……

 誘われるがまま、そこへ向かって歩き……

 

「みこちゃん!!」

『ぎゃああああああ!! あ……あと もうスコシ ダッタノニぃぃぃぃぃ………ッ!』

 

 その途中で、私の足は止まった。

 

(──⁉︎ あ、アレ? 何してたんだっけ……)

 

 同時に我に返った私だけど、さっきまで何をしていたのか咄嗟に思い出せず、呆然とした様子で立ち尽くし。ふと足が止まった理由である掴まれた手を辿り、その先へ視線を向ける。そこには先程まで探していた洋太が立っていて、左手首を両手で掴んでいた。

 彼は何故か私の顔を見て、何故か目から涙をボロボロ流しながら鼻水を啜っていた。

 

「びえぇぇぇぇ……! み゛ごぢゃん、やっどみづげだぁぁぁ……っ!」

 

 そのまま私に抱きつき、大泣きしながらそう叫ぶ洋太。

 そんな彼の姿を見て、私は何故か、とても安心した気持ちになっていた。

 

「あー、ハイハイ。私はちゃんといるよ〜……そんなに怖かったの?」

 

「えぐっ……ゔん……もう、みこちゃんや……みんなと会えなくなると、思っで……」

 

 涙と鼻水で顔をくしゃくしゃにしながら、私にぎゅーっとしがみつく。そんな泣き虫な幼馴染の姿を見て呆れつつも、普段は能天気に笑う彼が見せた意外な一面に少し驚きながら、頭を優しく撫でて慰めてあげる。

 

「とりあえず戻ろう?太郎さん達には黙っててあげるから、ほら」

 

「うん……ありがとう、みこちゃん……」

 

 そうして洋太から離れた私はティッシュを手渡しつつ、彼の手を引いて恭介のいるテントまで戻るべく、来た道を引き返しながら歩き始める。

 

「もし、みこちゃんが迷子になったら……その時は、僕が助けてあげるね」

 

「だったら、また勝手にどっか行かない様にしてよね?」

 

「……ぜんりょします」

 

「はぁ。まったくもう……その時は、よろしくね」

 

 道中、涙を拭いながらそう言っていたのを聞いて。フツーに軽口を叩きながらも、またどっか勝手に行かない様に、繋いだ手を離さない様に、ギュッと強く握りしめるのだった。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「じゃあみこ!あたしコレちゃっちゃと持ってくから、先行ってて〜」

 

「うん」

 

 LHRが終わって放課後。親友のハナが日直として、日誌と先生に頼まれた提出ノートを運ぶために、教室を出ようとしている私にそう伝えて来た。

 何冊もあるノートの上に日誌を乗せて持ち上げた彼女が廊下を駆けていくのを見送った私は、窓際からグラウンドを見下ろす。そこには打ち込み練習をする野球部員とボールを投げる別の野球部員の姿、打ち込まれたボールを拾ってはそれを投げ返す部員の姿があり。

 その中には、中学に入ってからはあまり会っていなかった幼馴染である洋太の姿もあった。

 

(洋太のヤツ、相変わらず元気だなぁ)

 

 彼等が練習をしている光景を暫く眺めていた私は、階段の方へと歩いていく。

 下駄箱で外靴に履き替えてグラウンド方面へ出ると、野球部員達がバンバン飛んで来るボールを投げ返している所まで近づいて、緑のネット越しに洋太の様子を見守る。

 

 ……前まではアイツを見てると何処か危なっかしくて、何となくほっとけなくて、なんだかんだでいつも一緒にいる事が多かった。

 だけどいつの間にか背が伸びて、相変わらず馬鹿で能天気だけど、ちょっとだけ…ホントに少しだけ男らしくなった洋太を見ると、胸の奥がモヤモヤする様になって。何度か私達の関係をからかわれたのを思い出して、次第にアイツと一緒にいるのが恥ずかしくなり。

 なんか会うのが気まずいというか……ちょっと照れ臭い気持ちになってしまって……どう接すれば良いのか、分からなくなってしまっていて。

 そんな心情の変化を察してか、それともただの偶然か。アイツが会いに来る事も少しずつ減っていき……中学に入る頃には、家でも会う事がなくなって。

 気付いたら、疎遠な感じになっていた。

 でも今になって、洋太のヤツがちゃんとやっていけているのか、少し不安に思い始めていていた。

 

「オイオイ洋太、マジでやるつもりか?」

 

「大マジ!やる気満々だよ!」

 

「マジか……おい武田、コイツが成功するか賭てみねーか?」

 

「ならオレは、失敗にスニッカーズ1ダース賭ける」

 

「じゃあ僕は大失敗に、ブラックサンダー1箱賭ける事にするよ」

 

「だったらこっちは、キットカット一袋で負ける方に賭けるぜ」

 

「ねぇ、誰か一人くらいは成功するに賭けてくれる人いないん?」

 

「じゃあ逆に聞くけど、なんか秘策とかあるんか?」

 

「うん、今日は趣向を変えてみようと思ってるんだ〜」

 

 だけど今の洋太はグローブを手に嵌めて、他の野球部員達とキャッチ&投球をしながら楽しそうにお喋りしているみたいで。何の話をしているのかは分からないけど、彼が誰かと仲良くしている光景を見ていると、少し安心する。

 それと同時に、久し振りに彼と話がしたいという気持ちが湧いてきて……思わず声をかけようと、一呼吸置いていた。

 

「よう───」

 

「みんな〜!今日も頑張ってる〜?」

 

 しかし私が話しかけるよりも先に、グラウンドに少し高めな声が響き渡り。その声の持ち主が手を振りながら、洋太を含めた野球部員達へ駆け寄って来た。

 その人物は隣クラスの女子で、名前は確か……矢代鳩瑚(やしろ きゅうこ)さんだったかな? いつも活発なハキハキとした感じの体育会系で、ハナが天真爛漫だとしたら、彼女は元気溌剌な子だったハズ。

 

「はーい!一旦そろそろ、水分補給タイムだよ〜!夏、ナメたらあかんぜよ〜」

 

『うーっす!』

 

 そんな彼女が肩から下ろしたクーラーボックスを置いて、中から取り出したスクイズボトルを集い始めたみんなに配っていき……最後に何処からともなく取り出したバナナを頬張る洋太の所までやって来た。あといつも思うけど、何処からバナナ取り出してるのアイツ?

 

「はいどうぞ洋太くん!今日も頑張ってるね〜」

 

「まーねぇ。鳩瑚ちゃんも、いつも差し入れありがとね」

 

「うんにゃあ、コレがわたしの仕事だから」

 

 ボトルを受け取った洋太がお礼を言うと、彼女は嬉しそうに笑いながら手をパタパタと振る。そんな二人の様子を眺めていた私は、何故か胸の奥にチクリとした痛みを感じた。

 

「……鳩瑚ちゃんはさ、彼氏とかいんの?」

 

 すると矢代さんに対して、洋太が突然そんな質問を投げかけた。

 

「え?いないけど、なんで?」

 

「イヤ、どうなのかなぁ〜って思って。ほんでさ?もし彼氏作るとしたら、どんな人が良いと思う?」

 

 真剣な表情で彼女への質問を続ける幼馴染に、さっき部員仲間としていた会話を思い出した私は、まさかと思いながらこの後展開されるであろう光景を想像して。今度は胸の奥がムカムカしだした。

 

「うーん。わたし的には……運動神経が良くて、カッコよくて……あと優しい人が良いかなぁ?」

 

「ナルホドナルホド。だったらさ?僕と是非付き合ってくれませんかい?」

 

「あ、ごめん。それは普通にムリ」

 

「うあぁああああーー!なんでーーーー!?」

 

 キメ顔で告白する洋太に、矢代さんはノータイムでお断り。

 返答を受けた彼は膝から崩れ落ちて、グラウンドの地面に両手をついて絶叫した。

 

「ハイハイ予定調和乙」

「今回はどの位イケてたと思う?」

「2割くらいはいけてたんじゃね?知らんけど」

「はい練習再開すっぞー」

 

 結果を悟っていた野球部員達は、だろうなと苦笑いしながらタオルやボトルを戻して、それぞれ練習を再開し始め。

 矢代さんも「よーし!次は私が打ってくよー!」と、項垂れたままの洋太をスルーして持っていたグローブを嵌めながら張り切っていた。

 

「みこーっ、おまたせ! あれ、なにしてたの?」

 

「空見てた」

 

「……なんか機嫌悪そうな顔だったけど、大丈夫?」

 

「あ、ごめん。ちょっと嫌なこと思い出してたから……」

 

 日直の仕事を終えたハナが戻って来たので、私はさっきまで見ていたモノを悟られない様にそう誤魔化した。

 

「ふーん……あ、見て見てあの雲!でっかい綿飴みたいな雲がある!」

 

「殆どの雲そうじゃない……?」

 

 何時もの様にまた親友と帰路につきながら、チラッとグランドの方を再びネット越しに覗き見する。

 そこには既に復帰した洋太が、グローブを構えて“なんでフラれたんだろう?”とでも思ってそうな顔で、飛んで来るボールを待ち構えていた。

 

 

 卍 卍 卍

 

 

「──みこちゃん、大丈夫……?」

 

 ふと声をかけられた私はハッと我に帰って、声のした方へ顔を向ける。

 そこには心配そうな表情を浮かべたユリアちゃんが、おずおずとこちらの顔を覗き込んでいた。

 

「……え、へっ?あ、ごめんユリアちゃん。何か言ってた?」

 

「いや……なんかボーっとしてたから、ちょっと気になって……」

 

「あ、そう、なんだ……」

 

 そう言われて漸く、自分が想像以上に上の空となっていた事を自覚してしまった私は、苦笑いを浮かべて誤魔化しつつ頬をポリポリと掻きながら視線を泳がせる。

 心配、かけちゃったかな……?少し昔の事を、思い出してただけなのに……

 そんな事を考えていると、購買部の棚に陳列されている様々なパンをお腹を空かせて品定めしていたハナが「これください!」と、『伝説の超野菜サンドイッチZ』というトマトやレタスにアボカド、ブロッコリーアスパラガス千切り人参等々、色とりどりの野菜が挟まったサンドイッチを二つ購入していた。

 

「うんっ、たまにはヘルシー志向になって野菜たっぷり食べないとね!あ、それと追加で『軍鶏肉の破壊☆的テリマヨチキンパン』を三つ、『サウザンドマメパンDX』もひとつ下さい!」

 

「摂取カロリーが摂取したヘルシーを軽く上回ってるよ」

 

 ヘルシーとは正反対な追加注文を果たしたハナにツッコミをいれながら、私もそろそろ何か買わなきゃといちごオレを手に取ってパンの陳列棚を物色。

 定番のあんぱんやいちごジャムパンへ視線を動かし、どれを買おうかと考えて……ふと端っこの棚に置かれた、ヒマワリの種が練られている穀物パンの上にホワイトチョコで網目模様が描かれ、更に周りを花弁の形をしたバナナ味の黄色いパンで包んでいる『ヒマワリパン』が目に付いた。

 

(……ひまわり、か……アイツの小さい頃の夢も、ひまわりみたいな大人になる……だったなぁ)

 

「……みこ、買わないの?」

 

「えっ……あ、待ってて。今買うから」

 

 そのパンをジッと見つめながら、ふと昔の事を思い出して。それと一緒に、のほほんとした笑顔でバナナを食べる幼馴染の姿も脳裏に浮かんだ。

 少しばかり懐かしい気分に浸っていた私だったが、ハナから声をかけられて慌てる様にヒマワリパンを手に取った。

 

「それにしても、いい天気だな〜。今日は食欲マシマシ日和だね!ユリアちゃんもそう思うでしょ?」

 

「え、えぇ……そうね(こっちは見てるだけで胃もたれしそうだけど……)」

 

「ハナはいつだって食欲マシマシ日和でしょ」

 

 お昼ご飯を購入した私とハナは、お弁当を持参しているユリアちゃんと一緒に何時もの中庭を目指して歩いた。

 道中窓の外から覗ける晴々とした景色を眺め、親友につられて私も口角を上げて……

 

 ──シャラン……

 

(⁉︎ また、聴こえてきた……っ)

 

 あの出来事以降、何度も聴こえるようになった澄んだ鈴の音色が又もや響いて来て、その度にあの山の神サマとその仲間である二人組の姿が脳裏に浮かび上がる。

 私と洋太を助けてくれた存在に抱くのもおかしい話だけど、まるで圧をかけるかの様な鈴の音に少しばかり怯えの感情が出始めていた私は、思わず左手で右手首を掴んで……

 自身の体温しか感じない掌の感触に、ぼんやりとした温もりはおろか無機物な冷たさすら感じない手首に、僅かに唇を噛んで俯いた。

 

「──やっぱり……洋太くんのこと、気にしてるの?」

 

 この間の件もあるし、明日の土曜にでもお礼参りへ行った方が良いのかなぁ……なんて考えていたそんな折、沢山の惣菜パンを抱えているハナが、何処と無く陰を含んだ顔で此方を見つめていた。

 

「確か、家の都合で遠くに行っちゃったんだよね……? 今日も学校休んでるって、徹くん言ってたし……ホントに、無理してない?」

 

 ……確かにアイツの事を気にしているかと言われたら、否定はしない。

 何も言わずに居なくなったワケだし、今頃何処で何をしてるんだろうか気になるし……そもそも、何で急にいなくなったの?なんで、どうして……?

 そんな事を考えていると次第に暗い気持ちになっていき、モヤモヤした感情を誤魔化す様に頭を振り、眉を下げて此方を案じるハナを安心させる言葉を紡いだ。

 

「……ありがとねハナ、心配してくれて。でも、本当に大丈夫だよ。

 アイツとは中学の時みたいに、三年以上会っていなかった時期もあったし。何より死んだわけじゃないんだから、案外すぐに会える気がするんだ。

 だから、心配しないで?」

 

「………そっか、わかった!じゃあ早くあたし達のベストプレイスに急ごっ!昼休みは待ってくれないからね!」

 

 先程までの心配そうな顔からパァッと花開いた様な笑顔になったハナは、やや駆け足気味に階段を降りて行く。

 

 ──あの鈴の音とか、洋太の事については、一旦置いておこう。今はその事で、気を病んでいる場合じゃないから。

 

 右手首を一瞥して気持ちを切り替えた私は、ユリアちゃんと一緒に彼女の後を追って、中庭へと足を急がせるのだった。

 

 

 

 

 紅の数珠ブレスレッド──なし。

 本日の天気──晴れ時々鈴の音。

 今日の風模様──北風やや強め。

 向日葵は──まだ咲いていない。




●四谷みこ
ヤバい奴との対峙して起きたら洋太から貰った筈の紅い数珠ブレスレッドが無くなっている事に気付いて滅茶苦茶焦った後、追加で母親から『洋太とはもう会えないかも』と伝言を告げられた可哀想な子。
昔の様子が分かる描写が、お泊り勉強会でのお父さんをシカトしてた時の回想とアルバム閲覧してる回、梨鉄とキングボンビー系ヤバい奴回とかでしか見当たらなかった為、みこちゃんの小学生時代と中学生時代の様子や口調エミュを妄想と推測で書く他なかった。それが俺氏(作者)です。
もし原作でみこちゃんの過去編が掲載されて、今回書いた話と言い訳不可能レベルで矛盾する内容が出てきたらどうしよう……という不安に駆られ、夜しか眠れない余……

●見円洋太
中学時代は野球部に入っていた馬鹿猿。
小5の頃に父親と四谷家で行ったキャンプでは、さっき逃げたカブトムシを発見して捕まえる為に追いかけに行って、気が付いたら誰もいない森の中で一人ポツンと立っていた。
実は何分か歩いている最中、次第に孤独感で過去にお婆ちゃんを失ったトラウマがぶり返して情緒不安定になっていたが、そこでみこを見つけた為に猛ダッシュで彼女を手を掴み取り。安心感で昔の泣き虫だった頃の自分が表に出て来ていた……らしい。

●キャンプ場の森の中にいたヤバい奴
まだ見える子ちゃんではなかったみこを誘い出して、神隠しを行おうとしていた一級呪霊。
あと一歩の所で馬鹿猿がやって来て、目論見がおじゃんになった。

●余談という名の言い訳タイム
Q.第1話で馬鹿猿が「小学生の頃は握り返してくれる事なんか、覚えてる限りは一度も無かったし。何なら彼女から握ってくる事も無かった……筈だ、多分」と独白してましたけど、コレは?
A.洋太がみこちの手を握る事は何度もあったのですが、みこちの場合は洋太の手首を掴むことが殆どだったので、馬鹿猿的には『手を握る』という判断から外れる事になっていました。あと馬鹿猿の記憶力の酷さを無礼るなよ?という話でもある。
ちなみに高校生となって再開した際には、近くさヤバい霊がいた時に洋太が手を握って来たのを握り返したのがキッカケで、隙あらば手を繋ぎ合う様になったそうですよ?
かーっ!見んねみちるちゃん!卑しか女ばい!

Q.“秘策”と“趣向を変える”とは、結局どう云う事だったワケ?
A.今までは好きな男性のタイプを聞かずに告っていたので、今回は念入り()に確認してから告白する様にした模様。尚結果。

Q.ロムさんと新作ラムラビ回にて、オカイコ様がみこちゃんに憑いていた妖魔を引っこ抜いたの、何故……?
A.だってみんな馬鹿猿の事覚えてなかったし……どう考えてもあのバチクソヤバい奴の所為だし……もしアイツに何かあったら、徹が悲しむじゃん……なので一番助けられる可能性が高そうな長髪の小娘を生nゲフンゲフン救出員に任命させました。
そして目論見通り、徹達は無事に馬鹿猿を思い出す事が出来たぞヤッター!と思ったら、あの日からずっと休学になってるから結局徹悲しんでんじゃんヤダー!
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