優美、純潔、精神美、円熟した美人、ごまかし。
「はい洋太。とりあえず退院祝いに、これ渡しておくわ」
「あ、うん。ありが───は、えっ? あの、お母さん?この数珠のブレスレッド……」
「えぇ、あなたがみこちゃんに渡していた奴よ。彼女には黙って外して持って来たのは悪いけど、これは洋太が持っておくべきモノだからね」
「え、いや……でもみこちゃん、数珠欲しがってたみたいだし……あれ?もしかしてコレ、結構貴重なヤツだったの?」
「…………まあそんなところね。一応その数珠、装着者を護るのと同時に、貴方から出る余剰な力を吸収する効果もあるから、出来ればずっと着けて欲しいの。
確かに今貴方が付けてるオレンジのパワーストーンブレスレッドも良いけど、もう他の人にあげたりしないでね?」
「………うん、わかった」
「ふふっ、良い子ね(それにしても、まさか『式神を数珠を装着させた他者の元へ召喚させる』なんて術があって……しかも遠隔で出現させるのに、術師と装着者が遠ければ遠い程エネルギーを過剰消費するなんて……いくら昔の守護型術式とはいえ、コレは確かに廃れるのも納得だわ。ましてや悪行罰示神タイプを出してるんだから、そりゃあ唯でさえ悪い燃費も更に悪化する筈よ……)」
卍 卍 卍
「やっぱさ、オーズで一番のコンボはプトティラだと思うんだよ。
相手を凍らせて動きを制限したり、空を飛んで攻撃したり、近接と砲撃を兼ねた専用武器がある、唯一コアメダルを破壊出来る力を持っているってのもそうだけど。何よりイカしてるのは、メダルチェンジが出来ない特殊なフォームであり、最後まで完全制御を果たせなかった暴走フォームだって事だと思うんよ」
「うーん……確かにプトティラも、パープル色で恐竜の姿とパワーを持っているから滅茶苦茶カッコいい。でも僕的には、タジャドルがいっちゃんサイコーやと思うんよ。赤い不死鳥みたいな姿で飛び回ったり、必殺技のキックもモチロン良いけど。何より最終回で見せた、あの翼が六枚に広がるシーンがチョーイイネ、サイコー!ていうか徹気付いてた?変身する時に出て来たタカメダルのエフェクトが、タトバコンボのカラーリングになってた件について」
「お前も気がついたか……それとあのシーンについての意見だけど、俺も同感だ。特に映司とアンクが見せたやり取りは、変身前戦闘時ラスボス決着後共にマジエモい事この上なしだからな。でもそれで言ったら、取り込んでた大量のセルメダルをメダガブリューに飲み込ませてドクター真木へ必殺技を放つシーンも、自身の持つ全ての力を懸けた一撃って感じで最高だったろ?」
「ウヌ、あのジャリリリリリリッって感じでセルメダルが吸い込まれていくシーンは、一種の気持ち良さを感じるよね。でもMOVIE大戦COREの終盤でタジャドルコンボが、ダブルをサイクロンジョーカーゴールドエクストリームに進化させたシーンだって負けてないじゃんね?だってアレって、オーズが吹かせた風が、風都市民が吹かせた奇跡の風に匹敵するってコトを意味するもんねぇ?」
とある休み時間。教室の窓際で顔を合わせ、仮面ライダーオーズのコンボについて語り合あうのは赤茶髪の癖っ毛とボサボサな黒髪目隠れの男子達、見円洋太と影杉徹の陽陰凸凹コンビ。洋太はタジャドルコンボについて、徹はプトティラコンボについて、それぞれ自分の見解を熱く話し合いを交わしていた。
「洋太くん、徹くん、ちょっといいかな?」
「ッ?!……………ッゥス」
「あ、いいんちょー。どないしたん?」
そこへ三つ編みと眼鏡が特徴の女子である委員長、もとい蝶野舞が二人の座る席へ近づき話しかけて来る。
声を掛けられた徹は挙動不審になって冷や汗をダクダク垂らし、伸びた前髪で上半分隠れた顔をノートで更に隠し、搔き消えそうな声で会釈。洋太はいつも通りの態度で、片手を挙げて彼女を迎えた。
「実は先生に、次の授業で使う教材を持ってくるように言われてるのだけれど……私一人だけだと時間掛かるから、日直の二人にも手伝って貰いたくて。
行きたくないなら、無理強いはしないけれど……」
「僕は大丈夫だよー。徹はどう?」
「………………〜〜」ボソボソ
「……うん、うん。大丈夫だってさ!」
「そ、そう……ありがとう二人とも」
少し申し訳なさそうにしながら、二人に歩み寄ってきた用件を述べ。承諾した洋太からどうかと問われた徹は、彼女から顔を隠したまま親友へ耳打ちで仲介させる。
返事を受け取った舞は苦笑しながらも、彼らへ感謝の言葉を告げて廊下へ出る。
「……ねぇ徹。前から思ってたけど、僕と話す時と同じカンジで女子と話せないん?」
「む、無理に決まってんじゃん⁉︎ムムムムムムムムムムムム」
「うん、ごめんて。だから一旦落ち着いて頂戴?首取れそうだよ二つの意味で」
同じく二人も廊下へ出て、自身の陰に隠れて委員長の後を付いて行こうとする徹に首をガックンガックンさせられながら。洋太はすごい勢いで首を横に振る彼を手慣れた様子で落ち着かせていた。
「あ、そうだ…………〜〜」ボソボソ
「うんうん……そういえば委員長?今日使う教材って、どんな奴なの?……と、我が親友は申しております」
「(それくらい、普通に聞いても良いのに……)えっと、確か……外国語で書かれた新聞のプリントと、液晶テレビにDVD機器、それと海外で実際に売られている──」
ふと何をもっていくのか気になった徹からそう聞くよう頼まれた洋太が通訳すると、舞は教えられた物を指折り数えながら挙げていく。
洋太も彼女の話をぽけーっと聞いていると、他クラスの引き戸が開いているのが見えて……
「それで小さい頃に頼んだ『スペシャルWベリージャンボサンデー』が昔より小さくなっていて、店長さんにその事言ったら『それはお嬢ちゃんが大きくなった証拠だよ』ってはぐらかされたんだよっ!」
「あー……そういえばこの間買ったキットカットも、昔食べた時より小さくなってたな……」
「うぅ……これも時代の流れなのかなぁ……?」
教室内部に居る複数名の生徒達の中で、両サイドにX字ヘアピンを着けた天真爛漫そうな女子の愚痴を聞く、黒髪を肩に当たるまで伸ばした女子……幼馴染である四谷みこが座っていて、とても楽しそうな雰囲気を漂わせていた。
「……おい……オイ洋太。どうしたんだよ」
「え?……あ、メンゴ。エターナル克己の事考えてた」
「……そうか。まあ克己ちゃんの事は置いといて、早く行こうぜ?でないと授業遅れるから」
「うい」
そんな時、徹から肘で小突かれて正気に戻った洋太は咄嗟に誤魔化しの言葉を捻り出し、親友から促される形で先に進む舞の後を追う。
「……」
「どうしたのみこ?廊下の方見て」
「……いや、なんでもない。それで、サンデーがなんだっけ?」
「そうだよっ!味の方はスゴく良かったんだけど、肝心の量が──」
──外と校舎内を隔てる窓には、花嵐と共に、桜吹雪が舞う佳景。
見円洋太は早歩きで駆けながら。ありふれた絶景を堪能しながら。
少しばかりの淋しさと安堵を含んだ笑みを浮かべて。
中学生活二年目を迎えた、ごく平凡な春を過ごしていた。
「………あの、委員長?これ持ってくの?なんか思ってた倍はあるんですけれど」
「うん……英語の先生が取り寄せた、アメリカのお菓子やキャラクターグッズもあるから……いや、ホントにゴメンね…?」
(……確かにコレは、委員長ひとりではムリだべな……)
『ビギィ……』
ちなみに案内された所へ到着した洋太達は、普通にデカいぬいぐるみや大量のお菓子といった、予想していた以上の運搬物に戦慄していた……が、ほぼほぼ洋太のお陰でなんとか間に合ったとかなんとか。
卍 卍 卍
旧暦、卯月。
今日は僕が通う小学校に、新しい新入生が入って来た日である……あれ?新しいって二回言ってる?まいっか。
兎も角。新四年生として、先輩として、学校の見本となるように立派に振る舞う決意を胸に秘めた僕・見円洋太は……学校の敷地内にある桜の木を眺めていた。
……え?立派に振る舞うんじゃないのかって?いやしかし待ってくれ、みんなの見本として頑張るのは明日からでも問題ない筈だ。
だけどこの凄く立派で、咲き誇る花弁がとても美しい桜は、明日になったら散っているかもしれないんだぜ?だったら今日ぐらいは、明日の事に気にせずに開花した桜を満喫したいと思うのが自然じゃない?
トリコも言ってたじゃん、「『思い立ったが吉日』なら、
「──やっぱりいた。洋太、また桜見てたの?」
そんな感じの事を考えながら桜を眺めていたら、ふと視界の端っこにランドセルを背負った女の子が駆け寄って来た姿が映り。その女の子……みこちゃんは僕の方へ歩み寄って来て、そう声を掛けながら隣へ立つ。
「何って、桜を見てただけなんやけど……みこちゃんこそ、なんで此処にいるのわかったの?」
「だってアンタ、この時期になると大抵桜の木の下にいるじゃない? 二年の時も三年の時もここに居たし、桜好きだって昔言ってたから……」
あー、そういや言ってたなそんなコト。いつだったかは忘れたケド。
なんて考えを浮かべ、昔を思い出そうとしたけどやっぱり思い出せなくて。頭を掻きながらみこちゃんと桜を眺め続けて、その場に静寂を訪れさせた……いや、僕とみこちゃんの呼吸音と温かな春風の音は聴こえるから、言うほど静かってワケじゃないんだけどね。
「……教室、離れちゃったね」
「……そうだね」
入学してからずっと同じクラスだった僕達が、今年のクラス替えで別々のクラスへ別れてしまった事を思い出して。そんな呟きに返事したみこちゃんの顔は、どこか哀愁染みた雰囲気を滲ませてるのを感じた。
「僕さ、みこちゃんとはずっと一緒にいられる〜って思ってたから。ちょっと……ううん、だいぶ寂しいんだよね。みこちゃんはどう?やっぱり、不安とかある?」
「まぁ、アンタが何やらかすかっていう不安は……あるかな」
え?何それ、僕そんな問題児扱いされてるの? ちょっと心外なんだけど。みこちゃんの中で僕はどんな存在なのさ? ……な〜んて野暮な考えは口に出さず、ただ苦笑して誤魔化す。
「んん〜……迷惑かけて来たのは、それなりに自覚してるけどさぁ。ちーっとくらいは、信頼してくれちゃってもいいんじゃないの?」
「そんな事言われても、昔からいっつも急にバカことやったりするから疲れるし、アンタを見てるといつも危なっかしくてハラハラするんだけど?今だって……」
不満げな言葉を聞いて、ジト目で反論するみこちゃんが僕の足へ視線を落とし、釣られて此方もしゃがみこんだ彼女の視線を追う。
「あーもう……こんなに泥ついてるし、血だって出てるじゃん……!」
そこにはさっき転んだ時に出来た膝の擦り傷があって、短パンの下から見えるジンジンする足に触れて痛々しそうな顔をするみこちゃん。
まー、確かに結構痛いけどさ?ほっといても直ぐに治るんだし、怪我すんのは何時もの事だって知ってるじゃんね?だから別に、そこまで心配しなくても良いのに……
「ホラ、歩ける洋太?」
「……え?うん。歩けるけど……どっか行くの?」
「……はぁ〜。まずは膝の泥を落とすから、あそこの水場に行くよ? それから保健室に行くから、それまで我慢してね」
僕の手を掴んで蛇口のある所へ連れて行こうとするみこちゃん。
……そういえば、まだ付き合いが浅かった頃に怪我した時も、こんな僕の為にすごく心配してくれてたなぁ。
こうしてまた怪我を負った今でも、強引ながらも足に負担をかけないようゆっくり目に手を引っ張ってくれて。文句はちゃんと言ってくるけど、こうして心配もしてくれている。
そう思うとなんだか無性に嬉しくなって……柄にも無く少し気恥ずかしくなって、思わず小さく笑みを零す。
「みこちゃん」
「ん?どうしたの洋太。もしかして足痛むの?」
「──いつも、ありがとうね」
「……ふふっ。どういたしまして」
──ホント、彼女に出会えて良かった。
そんな思いを胸に秘めながら、幼馴染と一緒に笑みを浮かべ合い、桜の木から少し離れた水場まで向かって行った。
卍 卍 卍
──空って、こんなに色褪せていたっけ。
僕に語彙力があったら、そんな言葉が出て来るであろう光景を、幾度も移り変わる景色を窓越しに、車の中からぼーっと眺めていた。
「洋太、もうすぐ新しいお家に着くからね。あ、お菓子食べるかい?」
「…………いる」
そんな時、運転席に座るお父さんから菓子を手渡される。パッケージに『POKI』と書かれた、チョコがコーティングされてるスティック菓子を受け取り。それを食べながらチャックの空いたリュックに手を突っ込み、中から裏に桃の絵が描かれた手鏡を取り出す。
(………きょうは、いけるかな)
手鏡に映る自分の顔を見ながら、頬をグニグニってしてから口の端っこに人差し指を当てて、上の方へと引っ張って笑顔を作り出す。その状態をキープして顔から手を離し、鏡に映っているニコニコとした笑顔を……そこに映る自身の濁り燻んだ目を見て、より一層違和感のある笑顔へと変貌させる。
……やっぱり、違うなぁ。そう思った途端に上がっていた口角は下がり、口が一文字になる。またもや車の天井を仰いで、重々しいため息を吐いた。
(おばあちゃんがいたときは、もうすこしうまくできた……と、おもうんだけどなぁ)
手鏡をリュックへ仕舞って、再び変わり映えしない景色を見ながら。
かつてみんなと仲良くなる為に、お婆ちゃんと一緒に笑顔の練習をしていた日々を、ただ記憶の中に留めていた。
だけどそのお婆ちゃんは、僕の隣にはいない。
もう、どこにも、いない。
(ひとりでも、ちゃんとわらえるようにならないと……いけないのに……)
今まで、お婆ちゃんに色んな事を教えてもらった。
歯磨きの仕方。お風呂の入り方。お箸の使い方。
他にも、いっぱい教えてもらった事があるけど……一番は笑顔の作り方だった。
お婆ちゃんが言うには、笑顔になれば自然とハッピーになって、友達も増える様になるらしい。
だからこそ、お婆ちゃんがいなくなった今でも、頑張って笑顔の練習して、みんなと仲良くならなきゃいけない。
そう、頭ではわかっているのに……
(……なんで、できないんだろ)
みんなも幸せになるくらい、上手な笑顔が出来るようにならなきゃ。
そう思ってるけど、わかってるけど、どうしても上手に笑えなかった。
それでも、笑わないと。笑ってないとまた心配されるから。
そうしないと、また一人になってしまうから。
「ほら洋太、着いたよ」
そうこう考えている内に座席から伝わる振動が止まり、目的の場所へ到着したという事を、運転席からお父さんが此方へ呼び掛ける様にして教えてくれた。
声を受けて車の窓から外を見た僕は、立派な二階建ての一軒家に思わず息を飲んだ。
(……ここが、あたらしいおうち)
これからお父さんと一緒に暮らす事になる、新しい家。
お婆ちゃんとも住んでたアパートと比べて、大きくて、立派で、これから二人で暮らすには些か広すぎる様にも感じた。
新しい家で暮らす事への不安と期待を募らせていると、お父さんが既に車から降りている事に気付いて。それに続いてリュックを背負いながら、ドアを開けてコンクリートの地面へ着地する。
「この度、隣に引っ越して参りました見円太郎と申します。どうぞよろしくお願いいたします」
「ご丁寧にどうも〜。四谷真守です」
「家内の透子です。この子は長男の恭介、ほら挨拶して」
「どうもー」
ドアを閉めるとお父さんが紙袋を持って、隣の家に住んでる人へ挨拶を行なっている姿が確認できる。話をしていたその人達…メガネをかけた男性とちっちゃい男の子を抱えた女性に視線を移すと、僕もお父さんの隣に歩み寄って「こんにちわ…」と挨拶をした。
「あら、こんにちは。お父さんと来たの?」
すると女性は此方へと顔を向け、にこやかに挨拶を返して来たのでホッと胸を撫で下ろしながら頷き返していると……彼女はふと僕の顔を見ては、何やら考え込む様な素振りをする。
「ハハハ!可愛いでしょ?息子の洋太なんですけど、今度この近くの小学校に入るんですよ」
「おっ、奇遇ですね。実はうちの娘も小学生になるんですよ〜!」
「あら〜。だとしたら洋太くん、みこと同い年ってコトになるわね」
親同士の会話で盛り上がる中、僕はその会話に混ざれないまま。ただ黙ってお父さんと隣の家の人達が話す様子を眺めていると、会話の中で出て来た『みこ』と呼ばれる子がどんな子なのかが気になり、ちょっと聞いてみようとお父さん達の方へ顔を戻すと──
「──おかあさん、その子だれ?」
新しい自宅の隣家玄関から、優しい桜の香りが漂って来たのを感じとった。
香りの発生源は、今でもハッキリと瞳と脳に焼き付いている光景に映る、かつてお母さんと一緒に見た『シダレザクラ』みたいに綺麗で。周辺には桜木が生えてない事は車の中から確認していたはずなのに、目の前には薄い桃色の花弁がたくさん踊り飛び廻っている光景が広がっている。
同時に、さっきまで心の中を満たしていた黒っぽい“モヤモヤ”が、次第になくなって来ているのを実感して。顔にひっついていた謎の“違和感”が、どんどん剥がれ落ちて行くのを感じた。
そして気付いた時には、香りの正体……ひとりの黒い髪の女の子へと駆け寄っていた。
「──はじめまして!ぼく、みえんようた!きみのなまえは?」
鏡で見ていないにも関わらず、心から“そう”だと理解出来る。それ程までに、今まで生きて来た中で一番の笑顔となっていて。
いきなり声を掛けられて驚きの表情を浮かべた彼女へ手を差し伸べて、黄色い宝石みたいに輝く綺麗な瞳と目を合わせながら、心の底から感謝の気持ちを込めて笑い掛け、意気揚々と自己紹介をした。
「……みこ。よつや、みこ。よろしくね、ようた」
これが、僕とはじめて友達になってくれた小さな女の子…後に幼馴染となる『四谷みこ』と巡り会い、久し振りに心の底から笑顔に成れたと納得出来た、始まりの日だった。
卍 卍 卍
「──洋太様、御食事の用意が出来ました。一階の居間までいらしてください」
スマホをぼーっと見つめていたそんな時、襖越しに使用人の田所さんから声を掛けられて、今がお昼の時間だと知る。
画面を消灯させたスマホを置いて、のそのそと起き上がり。開けられた襖を潜って部屋を出たら、使用人さんに連れられて一階へ移動する。
階段を下りて居間へと向かうと、田所さんが用意してくれたお膳の上には、ほかほかのご飯や味噌汁、鳥の照り焼きや玉子焼き等々、美味しそうな料理がいっぱい並んでるのを見て思わずゴクリと喉を鳴らす。
「では、私はこれで……」
座布団の上に座るのを見計らって、田所さんがそう簡潔に伝えて立ち去って行くのを横目に。僕は窓側に置かれた座布団に正座して「いただきます」と手を合わせ、お箸を持って食べ始める。
大根と油揚げの味噌汁は勿論、照り焼きも味が濃いのにくどくなくて、とても良い味をしてる。
よく噛んで味わいながらご飯を頬張り、時にはほろほろと甘い玉子焼きや、甘じょっぱい漬け物を摘んでは咀嚼して飲み込む。
うん。やっぱり美味しい。ただ食事の感想を心の中で呟き、また一口。一品ずつ味わいながら箸を動かしていく内に、お膳の上が綺麗になっていき、やがて完食したので手を合わせてご馳走様と呟く。
……この料理は、凄く美味しかった。
舌鼓を打った料理に一息ついて、幸せな気分になる……その筈だったのに……
「ご飯って、こんな味気なかったっけ……」
お腹は満たされているというのに、心はずっと空腹のように締め付けて、満たされない。
中学の時はウチでひとり晩御飯を食べた時は、こんな気持ち感じた事無かったのに……なんで、だろう。そんな風に考えている内に、背後の庭へと目を向ける。
若干黄色付いた芝生の上には石畳が道を作っていたり、島が浮かんでいるかのように点々とある低木、流れる川の様に横断している白い砂利石。
そして今はオレンジと緑の葉っぱで彩られているが、一番のお気に入りで最も思い出に焼き付いている枝垂れ桜の木が、首を垂れるかの如く重力に従って枝をしならせて何本も生えている。
「みんな、どうしてるかな……」
その木を見てふと思い出したのは、あっちでみんなと過ごした日々。
お父さんと一緒に朝ご飯や晩ご飯食べたり、
透子さんから料理について教えて貰ったり、
恭介と仲良くテレビ見たりゲームしたり、
玲音くんや白沼くんといった他クラスメイトと駄弁ったり、
ユリア師匠にオカルト関係の話をしたり、
ハナちゃんと色々買い食いとかしたり、
徹と仮面ライダーとかについて語り合ったりした。
そんな、なんて事ない日常が、今じゃもう遥か昔の遠い過去の様に感じられる。
(……みこちゃん。霊が見えるようになってから、どんな気持ちで過ごしてたんかな)
次に思い浮かんだのは、お母さんから『見える子ちゃん』になったと聞かされ、これまで互いに笑顔で手を繋いだりした幼馴染の姿。
一体いつから“見える”ようになったのかは、僕の知る限りでは定かではない。
お母さんの口振り的に、はじめて出会った時から見えていた訳ではなさそうではある。
だが、みこちゃんがその事について苦悩していたであろう事は。ここ最近見てきた彼女の顔……頻繁に僕の手を繋いできた事と、よく身体を寒そうに震えさせていた時や突然涙目になった時の姿を思い返せば、頭の足りない僕でも容易に想像できた。
思えばあの日、高校生となって久し振りに会った時も彼女は、涙を拭っていた気がするけど……もしかしたらみこちゃんは、あの時もずっと、未知の存在に絡まれたり取り憑かれたりしていて。それでも尚、恐怖を押し殺して耐えていたのかもしれない。
オバケを怖いと思った事が無い自分では想像出来ない程に、気が遠くなる程に果てしない畏れを抱き続けながらも。他人に心配を掛けさせない為、誰にも悟られる事なく。
それでいて、普通の女子高生みたいに楽しそうな顔で、友達へ優しく振舞って……ずっと孤独感と戦って来たのかもしれない。
「──なんでもっと早く、気付いてあげられなかったんだよ……!」
彼女の見えない涙に気付けなかった自分を、みこちゃんを孤独に追い込んだ運命の悪戯に対して怒りを抱きながら、苦々しく声を震わせて呟いた。血が滲み出る程に、唇を強く噛み締めた。
だけど自分には……他とは違うチカラを持つが故に、そのせいで誰かを巻き込んで傷付けてしまう己自身では、彼女を救えない。
根本的な話をすると、特別なチカラを持っている癖に、彼女が持っているというチカラをなんとか出来るワケでもない。
「言ったのに……ちゃんと、守るって……もう…悲しませたり、しないって……ッ!」
無力さと役立たずさで、嫌気がさした。
彼女を助ける事も、支える事も出来ない自分に。
それが堪らなく、すごく悔しかった。
「洋太〜ごめんね〜!今日もお昼一緒になれなくて……」
自分の無力さを嘆いていると、廊下を早歩きによりギシギシと鳴らして、廊下側の襖を開いたお母さんの声が聞こえて来た。
「……ううん、ダイジョーブだよ〜!お母さんも大変なんだし、寧ろ変に無茶したら心配だしね〜」
「あら、そう? ホントにゴメンね洋……あなた、唇から血出てるわよ?」
「え、コレ? あ〜……実は、ちょっとご飯食べてたら、うっかり唇噛んじゃって……」
すぐさま何時もの笑顔を浮かべて振り返り、お母さんに余計な心配をかけない様にとそう返したら、お母さんはどこか安心した様子で胸を撫で下ろす。
さっき噛んだせいで血を流す唇について言及されながらも、誤魔化す様にして苦笑いを浮かべた。
「まぁ唇については、後で薬塗っておくとして。ちょっと神社の方に行くけど、そっちは大丈夫?」
「うん、大丈夫。準備してくるね〜!」
ちゃっちゃかと居間から出て、すぐに顔をおさえながら部屋の方へと駆け上がって。さっきまで寝ていた部屋へと辿り着いた僕は襖を閉め、すぐさま布団の近くに置いてある映し鏡の前へと近付ける。
「………ちゃんと、笑顔になってたよな? はぁ……よかった」
鏡に写った自分の顔をジロジロと眺めながら、表情筋の動きを確認。特に不自然な様子は見受けられなかったので、ホッと安堵の溜息を吐く。
安堵して腕に着けてる紅と黄色の数珠ブレスレットへ手を置いていると、枕の横に置いといたスマホからバイブレーションが聞こえて来た。画面を見るとLINEの通知が届いていたので、直ぐに開いて内容を確認する。
「………あはは〜。連絡、まだくれるんだ」
そこには、みこちゃんや徹達から来たメッセージが表示されており、「何処にいるの」とか「既読スルーすんなコラ」と書かれてるのを見て、思わず笑みが溢れてしまった。
「──ありがとうね、みんな。それと、ゴメン」
スマホの電源を落として、いそいそと外出の準備を進めた。
もう会う事はないだろう、大切な人達への想いと罪悪感を胸に……
本日の天気──やや曇り。
今日の風模様──凪、時々北風。
数珠ブレスレッド──あり×2。
枝垂桜は──とっくの前に散っている。
●見円洋太
僕、見円洋太は……
況してや、
僕は、見える子ちゃん二次創作オリ主のお荷物です……ッ!〈ブヒィッ
みこちゃんを……護れない‼︎
●白毛の狼『
白い毛並みと赤い眼が特徴の狼神で、一番出番が多い。いよっ、ワンダフル!
久し振りにあの世へ帰省し、温泉に入るなどしてがしゃどくろとの戦いで負った傷を癒していたら、仲間である赤い鷹までもがやって来たのを見て。どうしたのかと聞いたら宿主がスゲーヤバい状態になっている事を知らされ、慌てて持ち場へ戻った。
●金色の猿『
金色に輝く毛を持つ、未だ腕だけしか姿を見せていない猿神。いよっ、ムッキムキー!
白い狼と赤い鷹があの世へお帰りになってしまったので、ひとりで宿主の生命維持とか残り僅かなエネルギー管理、その他諸々やる羽目になった。ふざけんなクソが、帰ってきたらブチ殺してやるよ。
●赤翼の鷹『 』
赤い羽根を広げ天を舞う、下界に於いては未だ固有名無しの鷹神。いよっ、トリッキー!
ひょんな事から見円洋太の宿り神になってしまった彼ら三体。白い狼が渋々ながらも『此処で責任放棄したら、あの世での評判が下がるから』という理由で守護神を遂行し、金色の猿が『暇つぶし』の為に宿っているのに対して、赤い鷹は『本来得る筈だった霊視能力を、自分達が宿った事によって起きた容量不足で失わせてしまった負い目が多少なりともあるから』という理由の為、洋太の自然治癒力を強化する事にしたらしい。
●見円茜
みこちが着けてた数珠ブレスレッドを勝手に外し、冒頭で息子へ返却したお母さん。いよっ、鬼に金棒!
最愛の息子がコッチ側の案件に巻き込まれ、頭を抱えながら説明するか否か迷ってたが、友達経由で“この世に霊が存在する”コトと“特別な力を持っている”コトを把握していた事を知り。
霊が見える子がいるなら、その子からみこちゃんも見えている事を聞いているハズ+だったら多分みこちゃんから何かしらの相談は受けていたんじゃね?+息子もすっかり立派に成長した=ある程度ぶっちゃけても大丈夫だろう!ヨシ!(現場猫並感)
……という考えに至った。何を見てヨシと思ったんですか?どうして……
●余談という名の言い訳
Q.洋太のお婆ちゃん、なんかフツーに強いけど。なんかそういう家系生まれなん?
A.お父さんは嫁の実家について色々事情を知っているだけで、家系の方はごくフツーのパンピーだし、お婆ちゃんもまごう事なき一般人です。
強いて言えば、飛電或人社長や
Q.我射神社に居た怨霊武者達の処置について、何か御言葉はありますか?
A.戦国時代とかその辺の時代生まれの紅乃一族「いや、あの……当時の私の力では、倒すまでいくとかなり難しい状況だったし……ならばその土地に棲む神の力を借りて祓おうとしたのですが、渓流の神が慈悲を与えたいと申していたので、取り敢えず封じ込めるのみに留めていたのですが……何というか、その……いろいろすまんかった」
Q.これもしかして、数珠ブレスレッド着けさせない方が良かったのでは?
A.ミツエさんとの対話回でも言いましたけど、洋太から溢れる余分な神様光パワーを数珠に吸収させるという役目もあったワケですが……それ以外にも『私は紅乃一族だぞー!喧嘩売ったらどうなるか分かっとるんやろなゴラァ?』といった抑止効果もあったし。そもそも洋太の輝きを見て喧嘩売ろう何て奴は、余程の命知らずか大うつけ、或いはそれ相当の悪意や復讐心がある奴くらいなので、まぁ大丈夫だろうと思ったそうです。
要するに、クソみたいな驕りと慢心の所為です。まさか幼馴染にあげてるとは思ってなかったし、とっくの昔に廃れた術式を無自覚に行使してるなんて知らなかったもん……(本人談)